【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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久し振りに穏やかです。


一時の平和

月を制圧したティターンズを追いやったジオン軍は「棚からぼたもち」と言わんばかりに月面の防衛成功を宣言した。エゥーゴが防衛に失敗して、ティターンズが制圧して、ジオン軍が奪還するという三段階を正確に理解できた者はほんのわずかである。必要最低限は月が守られたことであり、これを理解しておけば一先ず問題なかった。フォン・ブラウン市防衛戦に介入したジオン残党軍は自身を『金の盾』と称し、彼らは月の商会連合の要請に基づき軍事作戦を発動させたと述べる。そして、本来の主たるエゥーゴにフォン・ブラウン市を無償で譲渡する用意があると表明した。最終的にはエゥーゴの失態をジオン残党軍が拭う結果になるが、月の商会連合を介して両勢力は予め相互協力関係を構築していたため茶番と言える。

 

それはともかくとして、地球脱出から月で残留を余儀なくされたエゥーゴ兵は母艦合流の準備を進めた。ジオンからエゥーゴへの移管作業が進められる厳戒態勢の中でフォン・ブラウン市の民間港に一隻の貨物船が降下する。月は各コロニーと地球を結ぶ物流の中継拠点のため、戦時中でも多種多様な利害が絡む民間船は活発に動き回った。傍から見ている限りでは普通の貨物船であり、敢えて目くじらを立てる必要は無い。ただし、視点を艦内に変えると正体を見破ることが出来た。

 

「世話になる。ジンネマン船長」

 

「ミネバ様のご命令とあらば遂行するのみ。本艦はエゥーゴの強襲上陸艦アーガマへ『民間船』として補給作業を担っており、同時にシン・マツナガ少佐とカミーユ大尉を無事に送り届けることになった」

 

民間の貨物船にはコンテナで包まれたZガンダムとガンダムMK-Ⅲが搬入されている。表向きはアナハイム社製品の出荷であるが、本当はエゥーゴの主戦力として活躍する強襲上陸艦アーガマへの補給作業及び運搬の任務を担った。民間の貨物船が重大な任務を担うとはとても考えられない。いや、まさしくその通りであって、本艦は民間船に偽装した軍艦だった。民間の運送会社『ルーマン』が保有する事業用船舶に登録されているが、真の姿はアクシズ自由ジオン軍が持つ仮装巡洋艦『メリーランド』である。連邦軍に捕捉されても正式に船舶登録を行っているため検問をパスできた。

 

メリーランドの船長を務めるジオン兵ジンネマンは様々な偽装を駆使して連邦軍を欺き、地球圏を動き回っては諜報及び工作の秘密活動から重要な人員輸送まで幅広く活躍している。今回もジオン軍の命令を受けてエゥーゴ支援に動いた。

 

「船長、短い時間だがアーガマまで頼むよ」

 

「任せてもらう」

 

貨客の積載を完了したメリーランドは直ちにフォン・ブラウン市を発した。ティターンズから逃れるため月から遠くまで逃げたアーガマとの合流ポイントに到着するまでは数日を要する見込みである。合流してからはエゥーゴ支援の一環で補給作業を行うつもりだった。

 

~合流ポイント~

 

メリーランドは無事にアーガマとの合流ポイントに到着した。純粋な戦闘艦であるアーガマの方が高速のため先に到着してメリーランドを待っている。待たせてしまったメリーランドは到着後速やかに補給作業を始めた。一応でも貨物船に扮した以上は補給用設備も整っている。連絡機を使わなくてもボーディング・ブリッジで移動が可能とされた。ブリッジを渡ってアーガマにサカイ少尉とカミーユ大尉(戦時特例により階位を付与された)はアーガマに帰還を果たす。なお、カラバとの共闘を見限ったことについては不問とされて問題視されなかった。非合理的な地上作戦を無理に行わされた不満があり、彼らに対する同情の念が強かったからだ。

 

さて、拍手で迎えられた両名は暫くの休養が与えられた。慣れない環境の地球で懸命に戦ったことが大きく評価されている。地球は連邦軍の本拠地のため友軍から支援を受けられず、現地ゲリラや反連邦組織の援助は微々たる程度であったことは否めなかった。疲労の様子は見られなくても、ここは念の為で休ませる。

 

しかし、事件は起こった。

 

「カミーユ!その子…」

 

「少尉」

 

「そうだな。私が時折捕捉するから彼女に0から100まで漏れなく事実を伝えなさい。言い逃れは恥だぞ」

 

「はい。これは事情があって」

 

強襲上陸艦アーガマには一定数の民間人上がりの志願兵が乗り込んでいる。中には若い少女もいることからエゥーゴの人材難が窺えるが、彼女はなんとカミーユ君の幼馴染にして事実上のガールフレンドだった。平和な時は生活力に欠ける彼の面倒を見ていた彼女が戦いに身を投じていることを受け入れたくない。ただし、問題は彼女の参戦ではなかった。

 

カミーユが連れて来たフォウ・ムラサメがファ・ユイリィに伸し掛かった。カミーユとフォウは惹かれあっていることはサカイ少尉公認のため外部は何も言えないが、これをファは是としないでカミーユに詰問しようとする。事態を見ていた少尉は積み重ねた事実を淡々と話すよう指示した。一切の誇張や曲げを許さないとしてである。カミーユはそれを忠実に守って事実のみを伝え、私的な感情は挟まなかった。

 

「そう…フォウさんは戦争の被害者なのね。でも、なんか」

 

「…」

 

沈黙しか選べないカミーユは極めて気まずかった。なかなかに鈍感な彼だが皮肉なことに戦いを通じて感覚を研ぎ澄ましている。ファはカミーユの話を聞いて責められなくなり、むしろフォウを保護しなければならないことを理解した。自分よりも辛く悲しい過去を経ていることから2人を「許すor許さない」の選択肢は立ち消える。とは言え、昔から彼を想っていたことも事実であって、やむを得ない事情があることが災いして悶々とせざるを得なかった。

 

ところが、ここで公認を付与したサカイ少尉が突拍子もない事を告げる。

 

「何を気にすることがある。ファ・ユイリィとフォウ・ムラサメの2人でカミーユを支えればいい話だと思うがな。固定概念に囚われていたら生きていけないさ」

 

「「え?」」

 

「名案です」

 

カミーユとファは素っ頓狂な声を上げ、静観を貫いたフォウは賛同を示した。サカイの提案を簡単にするとカミーユを主とした「一夫多妻制」である。常識的に認められない制度であることは言うまでもないが、意外なことに当事者たちは前向きに捉える反応が見られた。

 

カミーユが稀代のニュータイプに数えられることは確定的だろう。しかし、代償として精神面の負担が凄まじかった。戦場にて発せられる憎悪や悪意、悲哀などを異常に感じ取ってしまい、今すぐにでも潰れてしまいかねない。彼の高いニュータイプ能力は精神の消耗を払って発揮されていたのだ。

 

そこで幼馴染のファと相思相愛フォウの両名が協力して彼を支えることが考えられる。立場が逆ではないのかと思われるが気にしないでおこう。カミーユが安定して戦うことが可能になること自体は紛れもなくエゥーゴにとって明確な利益だった。ただでさえ荒んだ戦場で舞う彼が落ち着くことが可能になる要素があるだけで十分なメリットである。そして、一夫多妻制はさして周囲に害を為すものでもなかった。

 

「私が認めれば周りは何も言えまい。存分に若さを謳歌するといい…」

 

「少尉…」

 

カミーユは驚きから立ち直れなかったのに対し、ファとフォウは相互に確認を取る。

 

「フォウさん。その」

 

「私は受け入れる。カミーユと一緒に居れたら、それでいい。これからよろしくね」

 

「えぇ、よろしく」

 

奪われた青春は作ってしまえば良いのである。

 

頑張れカミーユ君。

 

続く

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