【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
アクシズ自由ジオン軍地球方面特殊部隊の援助を受け地球連邦議会から脱出したブレックス・フォーラ准将は無事にクワトロ・バジーナ大尉と合流した。両名は連邦議会出席のため一旦地球に降りていたが、ティターンズの陰謀を突きつけられて直ちに宇宙へ帰還する。帰還に際して移動手段の連絡シャトルはアナハイム社が自社保有を提供し、回収はエゥーゴ主戦力アーガマ&ラーディッシュの2隻が担った。
シャトル機内で発射を待つ2人はVIP待遇を受けたが、聞き取れない距離を確保した上で護衛の人間が非常時に備えて待機する。それを確認したブレックス准将は改めてクワトロ大尉に問いた。彼の問いには嫌味や怒気は込められておらず、むしろ「してやられたよ」と笑みが含まれているではないか。
「やはり君が赤い彗星シャア・アズナブルであったと。そして、裏で手を引いていたのも大尉なのだね。そうならば早くに言ってくれればいいものを」
「私は確かにジオンのシャア・アズナブルだが、今はエゥーゴのクワトロ・バジーナとして生きている。そうである以上は誰にも語れなかったのだ。大変虫の良い話だが、どうか許していただきたい」
「いや、許すも何も常に最善手を打つ君のことだ。過去に過ぎたことはとっくに過ぎた。これから先のことを共に考えたい」
常人以上の温和な性格がよく知れる一幕だった。これにはクワトロ大尉も笑って感謝する。
「それより、彼らから話は聞いている。アナハイム社の仲介を受けてエゥーゴとジオンは対ティターンズの共同戦線を作ると。ジオンは幾らでも調整の余地があるから好きに返答してくれても構わないらしいが、イニシアティブはジオンの彼女達に握られている格好である。まぁ、決して悪い提案ではないから受けいれる」
ブレックス准将は苦笑いをしながらも提案の受け入れを示した。ティターンズ=エゥーゴ紛争における彼我の戦力差は埋められない程に大きい。あくまでも反ティターンズ組織に過ぎないエゥーゴは鉱物資源から人的資源まで全てが不足気味であり、各地の協力者から支援を受けなければ満足に戦えなかった。
したがって、嘗ての敵国だったジオンが味方になろうとも拒絶は許されない。ジオンは共和国になり連邦の勢力下にあった。しかし、旧ソロモン派が突如として出現したかと思えば連邦軍の宇宙要塞コンペイトウをクーデターで奪還したことに始まり急速に復活を進めていた。そして、最終段階はドズル・ザビ中将の御息女ミネバ・ラオ・ザビを首領としたアクシズ自由ジオンが本当のジオンの名を掲げて帰還する。ジオンの完全復活はもう間もなくだった。
なお、エゥーゴはジオン残党軍『金の盾』と秘密協定を結んでいる。これよりジオンと新しく手を組むのではなく、既存の協力をより一層に拡大・発展させると表現したほうが限りなく正確だった。宇宙は恐ろしく複雑難解な情勢となるが気にしている余裕は無い。
きっと、誰かが「宇宙情勢は複雑怪奇なり」と言葉を残すだろう。
「ただ、一言だけ言わせてもらうなら。スペースノイドを率いるべきは私じゃない。クワトロ・バジーナ又はシャア・アズナブルだと断言しようか」
「私には時期尚早が過ぎると思われます。30代にもなっていない若輩に任せられては…」
「なら、君は誰を推挙する?」
一呼吸を置いてクワトロ・バジーナは静かに答えた。
「ドズル・ザビ中将が常に傍に置き続け、御息女を預けるまでの漢はいかがでしょう」
アナハイム社が所有する自走宇宙ドック『ラビアンローズ』ではエゥーゴが誇る精鋭アーガマが入港した。外には貧弱なラビアンローズを護衛するためにラーディッシュが遊弋している。その他、緑色に塗装された軍艦も浮かんでおり厳戒態勢が構築された。敵軍の襲撃を想定する警戒で万全を期したラビアンローズではエゥーゴ代表ブレックス・フォーラ准将とアクシズ自由ジオン軍代理が対面する。アクシズ自由ジオン軍のトップ級はソロモン方面軍司令ラコック少将やアクシズ本軍総司令ハマーン・カーンなどいるが、残念ながら1日だけでも暇な者はいなかった。やむなく代理人が書簡を持参してラビアンローズに送り込まれる。
形だけの共同戦線締結式典が終わると両勢力で非公開の会談が始まった。その間の兵士たちはアナハイム社により強化が施された機体を受け取る。特にアーガマは初期から精鋭と知られる部隊だ。従来の百式、リックディアス、ガンダムMK-Ⅱの3機に対して個別に強化が施されたが、百式とリックディアスについては小規模な改修で収まる。どちらも小幅な修正が加えられ、機体の扱い易さ改善が図られた。残りのガンダムMK-Ⅱはと言うと、これが最も特筆すべき強化が与えられて見間違える程に変貌する。
「FAガンダムMK-Ⅱ?」
「そう、旧式化したMK-Ⅱの攻撃力と防御力を大幅に引き上げた。長く見てきたから分かるけど、MK-Ⅱはティターンズの新鋭機には通じない。可変機が主流になったこの際に思い切った強化で対抗しないとね」
カミーユがZ計画の申し子であるZガンダムに乗り換えたため、余剰となった旧時代のMK-Ⅱはエマ・シーン中尉の機体になった。彼女は元ティターンズのパイロットのためMK-Ⅱには慣れており異論は出ていない。しかし、MK-Ⅱはムーバブル・フレームで目を見張る点があっても総合的には旧式化は免れなかった。このまま汎用機として戦い続けることは現実的と思わない。よって、同機を隅々まで研究したアナハイム社はMK-Ⅱに追加装備を与えることで大幅な火力及び防御力の向上で繋ごうと試みた。最初は様々な案が提示されたが最終的にFXA-03と呼ばれる固定武装付き増加装甲の装着で決まった。
「ただ、機動力が低下してしまう点は今ある物を活かすには仕方ないと割り切るわ」
「ZならWRで運搬できるのでカバーします」
この増加装甲はバーニアを増設してあるが機体の重量増加に対応しきれず、機動性低下を少しだけ緩和するに留まった。主となるMK-Ⅱは決して高機動機ではないため機動性低下は痛いデメリットである。しかし、そのデメリットを上回るメリットが得られた。
メリット一つ目の防御力向上は文字通りの増加装甲による。これは本体を作る「チタン合金セラミック複合材」ではなく安心と信頼の「ガンダリウム合金」が採用された。ただでさえ堅牢な装甲に最新の対ビーム塗料を追加すればビームに対して高い防御力を発揮する。もちろん、実弾兵装でも同様の硬さを誇った。マシンガンなら完全に無効化してしまい、バズーカも(種類によるが)受け止められる。おまけの付属シールドを併用すると複数機からの射撃に耐えられる防御力を入手した。
メリット二つ目の攻撃力向上は追加の固定兵装による。増加装甲自体に固定された追加武器は強力な上下連装ビームライフル&グレネード・ランチャー(1門)と左腕部グレネード・ランチャー(2門)だった。前者は長砲身から高威力なビームを2発同時発射できるため、対MSはおろか対艦でも凄まじい威力を誇る。計3門のグレネードは射程距離が短い代わりに使い勝手に優れ痒い所に手が届いてくれた。まさに、ちょうど良い武器である。とは言え、人によって火力向上にしては数が少ないと思われたかもしれないが、これを考案したアナハイム社はロマンを求めるよりも実用性を重視する堅実を選択した。ゴテゴテした多量の武装及び装甲の追加は非合理的であると述べた上である。
本強化プランはパイロットであるエマ中尉は納得且つ理解した。機動性低下の問題はカミーユのZガンダムを使えば実質的に消せてしまう。創意工夫で意外とどうにかなるものだった。
「その時は頼むわね。サカイ少尉も」
「はい?あ、ホットコーヒー要りますか?」
ティターンズとの決戦に備えてアーガマ隊は力を増した。
望まない悲劇を生まぬために。
続く