【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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シンの昇進は後にしようと思っていましたが、今上げても良い気がしたので上げますね。


グリプスの火

貴重な戦力をごっそりと失ったアーガマであるが、ジオンも鬼ではなくバーター取引として損害の補填を行った。具体的にはムサイⅢ級で構成された一個小艦隊を彼らの配下として指揮権ごと譲渡し、不足したMSはジオン製リックディアス改を提供した。この改は誤認されないために言うと次世代機の試作ではなく、素のリックディアスで露呈した弱点のやや難しい操縦難易度の改善を図った改良機である。武装や装甲には変化無くバインダー等の改修で扱いやすくするだけだった。前の機体は優秀だが一部パイロットには不評が呈されており、火力は大きく劣るが素直で万人受けしたネモが使用される。

 

MSの補充に小艦隊まで貰った以上は拒絶のしようがなく、悶々とした思いを抱きながらアーガマは離脱していった。なお、クワトロ・バジーナ大尉だけはやけに落ち着いていて大人の余裕を見せていたらしい。いや、最初から知っていたのかもしれないが真相は不明だった。

 

色々とあってアーガマを見送ったアクシズ大艦隊は行動を開始した。彼らの目的はエウーゴ=ティターンズ紛争に介入して漁夫の利を得ることに尽きる。しかし、ティターンズが生半可な敵ではないことは言うまでもなかった。したがって、奇策を以てして戦わなければ勝ち目はない。奇策を講じるためには情報が必須であり、かの孫子も「彼を知り己を知れば百戦殆からず」と格言を残した。アクシズは全宇宙に張り巡らされた諜報の網をフル稼働して掻き集める。

 

そして、貴重な情報を基にして戦略を練るため、総旗艦グワダンの会議室に2人が集められる。机の片方に摂政に並びに軍の総司令官を兼任するハマーン・カーンが付き、反対側には白い特注の軍服に身を包んだ男性が座った。

 

「して、あなたはどのように考える」

 

「私はエゥーゴに潜入し情勢を窺っていたことは確かだ。しかし、そうは言っても単なるモビルスーツのパイロットに過ぎない。たかが一介のパイロット少佐に聞くことは避けるべきだと思うが」

 

「いえ、たった今シン・マツナガは少佐から大佐に昇進しました」

 

「うん?」

 

「大佐昇進です」

 

ハマーンから自然と告げられたことは本人にとって極めて重大だった。ジオンは昔から功績を上げると急激に昇進する傾向があったが、佐官に入ればそう簡単に昇っては不都合が生じかねない。しかしながら、軍のトップが2階級昇進を告げた以上、疑問を抱いても受け入れざるを得なかった。もちろん、人によるとはいうが誰もが昇進を喜ぶだろう。

 

「なるほどした。私が不在の間に策略を練って嵌めたわけだ」

 

「はい。シン・マツナガは嘗て猛将軍ドズル・ザビ中将の最側近でした。そして、御息女ミネバ様を預けられた英傑であることを一切否定できません。よって、相応の階位を持たなければ釣り合わず、それこそ不都合が生じます」

 

あのドズル・ザビ中将の御息女ミネバ様を預けられた漢であるシン・マツナガが少佐止まりではバランスが悪かった。決して少佐は下ではないものの国家元首の(摂政以上とされる)最側近と考えると不釣り合い甚だしい。したがって、本人が特命で長く留守にしている間に入念に根回しを行い、無用な反逆徒を生まない徹底を経て確実に地盤を固めた。そして、帰って来た時にサプライズで昇進を押し付ける。

 

「承知した。ミネバ様の命であれば喜んでお受けしよう」

 

「それでは、大佐はどのように考えます?」

 

「ティターンズの本拠点はグリプス2だが、サイド7はゼダンの門とルナツーが近く硬く守られている。それにグリプス2は一旦連結を解除したと聞いた。個人の勝手な予想だが超大型戦略兵器の建造を始めたと見る」

 

「コロニー級の戦略兵器は主に2種類ありますが、ティターンズは地球連邦の一端であることを踏まえれば必然的に絞られる」

 

「そうだ。コロニーレーザーしかない」

 

ティターンズの本拠点サイド7にはグリプスコロニーがあった。グリプスは2個のコロニーを連結させているが、直近の報告で連結が解除されて2個に戻ったと知らされる。戦時中にコロニーの分解を行うことは怪しい以外に思えなかった。更に追加で戦略兵器の転用を図っていると聞き疑惑は確信に変わる。主な選択肢はコロニー爆弾とコロニーレーザーの2種だったが、前者は通称コロニー落としでありティターンズは地球連邦軍の一部のためあり得なかった。まさか自分達の星に爆弾を落とす愚行極まりない行為は採らないだろう。

 

つまり、どう考えても後者の選択が採られるはずだ。

 

コロニーレーザーはコロニー丸ごとを大砲に改造して作られる。一撃の破壊力は兵器の中でも最高クラスを誇り数個艦隊を消滅させる威力を秘めた。コロニー本体の砲身を移動させることも可能なため対艦隊に限らず、小惑星要塞や月などの対地攻撃にも使用できる。真正ロマン砲に恥じないが代償は無視できなかった。コロニー丸ごとを使うため転用の場合は中の施設や人間は疎開を余儀なくされる。そして、一射ごとに莫大な電力を消費し且つフルチャージには長時間を要した。使い勝手は最悪を超越しており、必ずしも手放しに褒められない。

 

しかし、超射程と超威力を両立させた一撃は宇宙において明確な脅威だった。完全なアウトレンジから滅びの一撃を与えられる利点は脅しの手段になり得る。ジオンはともかく非武装のコロニー群にとって恐怖の対象と化した。コロニーレーザーの脅しが交渉の場で出されれば、力を持たない者は恐ろしく不利な内容でも首を縦に振ってしまう。

 

「この戦いで破壊するか奪い取らなければ勝ちは薄くなります」

 

「とは言っても、グリプス2がある宙域は先に言った通りゼダンの門とルナツーが近い。ゼダンの門は元こそア・バオア・クーだから奪還することは確定事項で小惑星アクシズを用いる。ルナツーは距離があるから奪取は非合理的でも敵軍を押さえつけたい。まぁ、それはエゥーゴに任せればいいか」

 

「アクシズを使うことですが、敢えて使う必要性は無くなりました。アステロイド帯を回っていた艦隊が手ごろな大きさの小惑星を回収し、これらをミサイルに改造した上で対要塞兵器に用います。ゲートなど柔らかい箇所に高速で衝突させればMSが突入できる大きさの突破口を作れるでしょう」

 

「惑星ミサイルを大型化した感じか」

 

ゼダンの門ことア・バオア・クー奪還は正攻法で行われる。しかし、小惑星をベースにした要塞は堅牢であり本体の防御力は相応に高かった。当初はアクシズをぶつけて一部を破壊し、MSによる白兵戦に移行する計画が組まれたが変更されている。アクシズを使うことは賭けに等しく怖いため、別の手段を探した結果として大型惑星ミサイル攻撃が立案された。アステロイドベルトにあった手ごろな小惑星を回収し、簡易的な推進機関と誘導装置を取り付けるだけのミサイルである。威力は運動と質量に依存するが小型弾頭でも一発でマゼラン級戦艦を破壊できた。大型化に伴って威力は数倍に膨れ上がり、対要塞でも存分に発揮してくれるだろう。ただし、狙い目は側の岩盤ではなくて出入りする金属製のゲートと設定された。ゲートを破壊し侵入口を作ってから白兵戦に入ることへ計画は修正が施される。

 

「その他、空間砲兵隊などいますが追々詰めていきましょう。まずはティターンズの新戦力を警戒することが先です」

 

「確かにその通りだ。木星船団がティターンズに加わったらしいな。木星育ちは特異な環境下に長期間置かれるせいか才能を昇華させると聞いたことがある。信じたくはないがティターンズには生粋のニュータイプがいるとね…」

 

木星帰りの男再び。

 

続く

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