【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
エゥーゴは非合理的な地上作戦はすっかり諦めたと思われたが、なんと再び地球降下を敢行したらしい。ただし、今回は敵地の占領はおろか攻撃でもなかった。衛星軌道上に集結したエゥーゴ&ジオン連合艦隊は大量のMS隊をバリュートで降下させる。彼らの降下先は地球連邦の首都であるダカールだ。ダカールは連邦中央議会が置かれ、ブレックス准将がティターンズ関連法案を糾弾するため赴いた地である。あわやティターンズの凶弾に斃れる危険を有する思い出深い土地だが、敵地ど真ん中であることを活かして発信することに適した。
ブレックス・フォーラ准将を代理したクワトロ・バジーナ大尉はダカール連邦議会で演説を行っている。演説の内容は先のサイド3電撃占領に伴うラコック少将の会見の内容を踏襲し、プラスアルファの香辛料を加えてピリリと辛く調整されてあった。クワトロ大尉はエゥーゴ創設の最初期から携わって来た人物のため相応のカリスマ性を有する。
全宇宙に対して発せられる演説は流石に尽きた。
「クワトロ大尉も役者だな。徹底的にティターンズの非道を訴える演説を地球連邦中央議会の場に立ち堂々と行える度胸を私は持っていなかった。それだけに終わらず、自らをシャア・アズナブルと明かすこともとは…脱帽する」
「妨害されなくてよかったです。ティターンズが黙らないわけがありません」
「赤い彗星シャア・アズナブル…」
澱みなく演説を綴るシャアの姿は全員の度肝を抜いている。ただでさえアンタッチャブルな話題を豪勢に放出し、自身を纏うクワトロ・バジーナを脱ぎ去って本来の姿を暴露することは常人には不可能だった。全宇宙に名を轟かせた赤い彗星シャアであり、且つダイクンの遺児であることをカミングアウトするとは良くも悪くも驚きを以て受け止められる。スペースノイドを代表する人物で英雄的な軍人が反スペースノイド・アースノイド至上を掲げた組織を叩きに叩いた。それは両勢力に関係のない一般市民ですら引き込まれ、一定の支持を与えるだけの威力を秘める。
ブレックス准将が自分の後釜はクワトロ大尉に決まっていると断言するだけはあった。
とは言え、魅力で敵軍が止まることは無かった。当然のようにティターンズは演説を阻止するため出撃し、ダカール周辺でエゥーゴ隊と熾烈なMS戦闘が繰り広げられている。エースも混じったが反スペースノイドに染まりかけていたことが災いし、議会へ直接攻撃を仕掛けようとする暴挙を犯そうとした。幸いにも同じ軍隊の中でも組織に懐疑的で良心的なアッシマー隊が阻む。彼らはアッシマーに誇りを持つだけに過ぎず、市民の弾圧や言論の封殺は正気の沙汰ではないと怒った。どれだけ粒ぞろいの精鋭でも生え抜きのベテランには及ばない。
「成長したな、カミーユ。昔だったら激怒してもおかしくない。修正は言論じゃなくて武力でとな」
「返す言葉もないんじゃない?」
「う、うん。でも成長したのは少、大佐のおかげなので」
「なに、別に私が指導したわけでもあるまいよ。成長するかしないかは当人次第なんだから、君は胸を張って成長したと宣言するべきだろう。むしろと言うべきか、よく私から吸収したものだよ。これは憚られることだが私は人に見倣われるような人間ではないさ」
カミーユのお目付け役を務めたシンは彼の成長を誰よりも実感していた。どうしようもなく仕方ないと断じるが17歳で多感な時期に大人たちの争いに巻き込まれ、理不尽に生活を奪われたかと思えば兵士の駒として戦う羽目になる。厳格な軍上がりの兵士はモラトリアムを詰った。しかし、シンは武人でも理解のある賢い武人であり、過酷な戦場を戦い抜いた歴戦の猛者のため随一の人格者である。指導する時はあっても基本的に彼を尊重し、戦闘では鬼神の如き格闘戦は一番の刺激になった。知らず知らずのうちにアムロ・レイの再来と称えられた少年が目指すべき背中になっている。
ただし、本人が語っている通りで成長はカミーユの志向が大きかった。あくまでも大人は見せて教えるだけである。後はお任せにならざるを得ない。どれだけ鍛えたい者でも必ずしも逞しくなるとは限らなかった。つまり、シン・マツナガと言う教材があったとしてもカミーユ・ビダンが強くなったことは全て彼の功績なのだ。これを否定することは一切許されないだろう。
「しかしだな、男としても強くなった。随分と凛々しくなったようだね」
「そうですか?」
納得できるものの実感は薄かった。名前が女性に聞こえることの反動から武道を極めようとするなどの傾向は確かにある。ただ、シンが言いたそうな事と合致しないことは容易に分かった。と言うのも、シン目線を借りて少年を見ると両脇を抱えられる格好でピットリである。
なんとも幸せな光景だった。
「男として、君が大人になったことを嬉しく思った。愛する者が傍にいる以上は一層に頑張らないといけないな。よく励めよ」
「だってさ。カミーユ」
「渡さないから」
黙って俯き薄っすらな赤面を隠すカミーユだがシンには全てお見通しだった。やけにガールフレンドが幸せそうにしていて、尚且つ有無を言わさない絶対防御の構えが示された。その上で脱出不可能に挟まれた少年が「男として逞しくなった」ことが窺える。
それから察せられることは唯一だろうに。
「まぁ、これでも人生の先輩を自称したい。何か相談事があったら遠慮なく」
「はい…そうします」
カミーユは最近になって満足な余裕が生まれた。今まではずっと戦闘に次ぐ戦闘で時間を消費しプライベートが存在しない。なんとか時間を確保して互いに想い合うガールフレンドを2人も貰って幸せを噛み締めた。彼女たちは例に漏れず戦争の被害者で謳歌したい青春を奪われている。本来であればハイスクール等で楽しむ生活は無慈悲にも消え去った。
しかし、奪われた青春は自分たちで作ってしまえばよい。悲嘆にくれる暇は一切無かった。ただし、現在は戦争真っただ中の宇宙にいるため観光用コロニーはおろか商業用コロニーですら寄ることは不可能である。したがって、彼女達が必然的に求めるは愛する人に絞られた。
まぁ、カミーユ君は両名から迫られ悠久の時を過ごしたと察しよう。
彼は一歩大人になった。
続く