【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
いざ地球圏突入を目前としたアクシズは大艦隊を金作戦のため集結させたが、一部はエゥーゴ・自由ジオン共同作戦の名目で離散している。例えば『ミネバ・ザビの白刃』ことシン・マツナガ大佐率いる仮装巡洋艦シャ・ルルド・ゴールと機動巡洋艦ケルゲレンがグリプスを含めたサイド2偵察のため出撃していった。大艦隊と言うには数が少ないと思われる。ただし、MSの数では圧倒的なため天秤は釣り合っていた。
アクシズの主力量産機であるガザDは作業機の最初期型ガザA&Bを受け継いだブロック構造のおかげで高い生産性を有する。しかし、元が作業機のため前身のガザCはMSとしては散々だった。機動性は劣悪で航続距離は短い。武装は扱い辛く性能を発揮出来ない。その他にも多数の致命的な問題が露呈した。速やかに改修を施さなければならない機体で可哀想である。
そして、次のガザDはブロック構造を継承しながら利点を伸ばした。機体を構成するブロックをCから挿げ替えることで大幅に期間を短縮しながら、生まれた余裕をジェネレーター強化に回したことで機動性と武装の問題を改善している。機体出力が向上すれば機動性の改善につながることは言うまでもなく、武装はビーム兵器の抜本的な改良に繋がった。主兵装ナックルバスターは改良されてハイパー・ナックルバスターになる。ジェネレーター半直結方式が採られて代わり映えしなかったが、威力は増加し射程距離も長くなり決して馬鹿に出来ない。少なくとも一般的なビームライフルを上回る性能を発揮した。
結果的にガザDは欠陥機Cの汚名を雪ぐ戦果を挙げる。
そんな主力機をベースにして対艦及び対地戦闘に特化した機体が誕生した。
「機動性は良好。ビームを使わない分を推進力に回したから、特段の機動性低下は見られないと」
補給艦から発せられた機体の試験飛行を真剣な眼差しで見つめるは技術中尉オリヴァー・マイだった。彼は先の戦争を最後まで生き抜いた技術系の軍人である。彼の特筆すべきことはア・バオア・クー防衛戦で試作超弩級MAビグ・ラングを操り、実戦経験が無いにもかかわらず戦艦1隻・巡洋艦3隻とMS多数を撃破する大戦果を残したことだ。また、彼の記録は後の兵器開発で大いに役立ったことから英雄視されている。しかし、激しい戦いで己の道を切り開いたマイ中尉は我関せずを貫いた。
「ガザDの空間砲兵隊機は問題ないと判断していいかな。操作性に若干の難があれどベテランなら十分に扱えそう。新兵ばかりだったアクシズも見間違える程に変わったなぁ」
目の前を飛ぶは前述のガザDに違いない。ただし、同じDでも兵装を大幅に変更された空間砲兵隊仕様機だった。砲兵隊の文字通りで支援用火器を搭載した機体であるが、中距離支援用ではなく対艦及び対地戦闘用に開発される。変形を前提とした戦闘爆撃機(ヤーボ)のため、武装は対MSを意識することが排除された。
武装はバックパック部150mm榴弾砲、バインダー内多連装ミサイルポッド、脚部110mm速射砲(×2)、ビームサーベル、スモークディスチャージャーと豪勢なラインナップと言えよう。しかし、殆どが実弾兵装でビームは格闘のみと時代にそぐわないように思われる。いいや、必ずしも時代遅れではないことに注意されたい。
実弾は歴史を辿ると遥かに古くてアナログと言える。しかし、それは確立された技術を背景にするため極めて堅実で信頼性に足りた。現代のMSでも適用することが可能である。ビームはとても強力だがコロニー内などデリケートな場では著しく不適応となり、調節がし易い実弾のマシンガンが用いられることは戦争の常識だった。戦闘以外にも後方の整備の場では特殊で面倒な設備を要するビームは手間もコストも積み重なるが、実弾は少ないキャパシティでも満足に扱える。
したがって、この現代において実弾兵装を満載したMSは何ら不思議でなかった。
話を戻して、本機は豊富な実弾兵装を用いて対艦戦闘を主する。MSの登場初期は大量の機体で敵艦隊を殲滅できたが、手痛い経験から対MS戦闘を学んで研鑽を積んだ。敵艦隊の防空網を簡単に突破できないことは容易に理解できる。後にMAが登場するが総じて小回りが利かないことが足を引っ張り、MSをどうにかして対艦向けに出来ないか苦心した。
「可変機の機動力を活かした集団戦闘で敵艦隊を殲滅する。戦争は物量が決めた…」
ブレイクスルーは簡易可変機構である。可変機は推進力を後部に集中させるため速力は既存機を上回り、且つ機体前面に武装を集中させ火力を大幅に引き上げた。MAの強みをそっくりそのままMSに移転させられる点に目を付け、戦闘機としてのガザDを一旦作ってから爆撃機の本機を生み出す。ガザ特有物量戦術が加わる集団戦法の火力で敵艦隊を殲滅する手筈が組まれ、時には敵要塞の防御を崩壊させるだろう。なお、可変を持たない火力支援機が開発されているが新規開発のため間に合わなかった。
(間に合わせの機体にしては合格点だな。本命はビーム兵器を満載した機体でもアクシズの工業力では限界がある)
手元の端末にデータを撃ち込み総合評価を与えながら噴出する疑問に答えた。別にビームだらけでも良くないかと言われる。まさしくその通りだがアクシズの実情から不可能と断じた。所詮アクシズは残党軍のかき集めのため、本国並みの開発と生産は難しいのである。技術者達が三人寄れば文殊の知恵で計画を立てても実現には至らないことが多かった。
「新兵器の調子はどう?」
「可もなく不可もなし。特に新しい機体じゃないし武器も在庫品だから平凡だね」
「そう。仕方ないとはいえ、何か面白くない」
「まぁまぁ、モニクの言いたいことは分かるけど」
彼に声をかけたのは戦友モニク・キャディラック大尉である。ヨーツンヘイムからの長い付き合いであり、逃げ延びたアクシズでも変わらずだ。しかし、旧ドズル派が占める関係で彼女は監視役を解かれて純粋な軍人となり、優れた技量を買われて新兵を叩き上げる教官に抜擢される。彼女を始めとする腕利きのパイロットは基本的に教官に転職し、アクシズ生まれで育った「ヒヨッコ」を「いっぱし」にまで引き上げた。
「今度の戦いは…」
「おそらくだけど、ア・バオア・クーと同じぐらいの戦いになる。矢面に立つのはエゥーゴだからジオンは美味しい汁を啜るはずだ。それでも、ある程度の損害が出ることは覚悟しないといけない。若い兵士だけを送って自分が戦えないことは歯がゆいよ」
「技術屋が前線に出たら終わりでしょ。マイを出させないことが私の仕事でもあるから」
「そうだね。僕が前に出ないことを切に願いたい」
技術屋の戦争は終わらない。
続く