【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
サイド2のコロニーの一画はティターンズが無理やり分捕った秘密研究所がある。本来は地球上で研究を進めるが、ティターンズが強権を振り回して支部を置かせた。しかし、数分前に送られた報告により軍人から研究者まで皆が一様に震える。
「だから言ったんだ!監視も何も無く遊ばせておくことは危険だと!」
「行方はつかめないのか?」
「それが、完全に行方をくらましました。敵艦アーガマの入港は一切見られないどころか、むしろ衛星軌道上にあります。どう考えても当初の予定を前倒ししたとは考えられません」
秘密研究所はティターンズの命令で研究対象の強化人間を巻き餌にした。格好の目標であるサイド2にエゥーゴの主戦力アーガマが寄ると予想し、最も恐れるべきニュータイプのカミーユ・ビダンを貶める方策を打つ。憎きアーガマに忠実な手駒である強化人間を送り込むことを画策し、サイド2の観光コロニーに放っていたが突如として姿を消してしまった。研究所としては安定性に欠ける者を監視の人員を付けないで自然に放すことは危険と主張する。しかし、ティターンズ側はあくまでも自然を装いたいと却下した。どちらの主張も理解できるが結果的に行方不明となったことより研究所側が正しいと思われた。
「どこに消えたロザミア・バダムよ」
「怪しい船は来ていないか?」
「それが…直近で入ったのは民間の貨物船ばかりです。特段怪しいものはありませんでした。虱潰しに探すと言っても下手を犯せば商会を完全に敵に回すことになります。そうなれば自軍の動きは筒抜けになって…」
アーガマに潜り込ませることが目的のため、早くに敵艦に回収されたら棚から牡丹餅である。しかし、各コロニーに潜んだハイザック隊は特徴的なアーガマの姿を見ていなかった。白を基調とした強襲上陸艦は広大な宇宙で極めて目立ち、反ティターンズのプロパガンダもあって目立つことは変えられていない。目を上手く欺いたとしても内部通報で知れるはずだが通報は無かった。
サイド2にエゥーゴ艦すら見られない。入港したのは資材運搬のために集まる民間の貨物船ばっかりだった。なお、一般市民を運ぶ連絡船は殆どが運休している。貨物船は全て正式な船舶登録を行ってあり、臨時検査を行おうにも強烈な反発を呼び不利益を伴った。既に月の商会連合が敵と化した状況で追加で民間に離反されては堪らない。民間企業に諜報活動を行われて自軍の動きが丸裸にされることは避けたかった。それ以前として、停泊する貨物船は大型のため1隻丸ごと虱潰しに調べるだけで長時間を要する。それを全ての船を対象にしたら少なからず軍事作戦に支障をきたしかねなかった。
つまり、打つ手なしということを伝えたい。
「コロニーレーザーが動き出しただけマシだと思うべきか…」
最悪の事態に精神の避難を行ったが、呟いたことは強烈な出来事だった。
モルガンテンから引き上げたシャ・ルルド・ゴールは別コロニーへの運送を建前としてゆっくり移動した。目的は変わらずサイド7から移動して来たグリプス2の偵察である。グリプス2は本来サイド7にあるはずだが、ティターンズが計画したエゥーゴ殲滅作戦の発動に伴って移動していた。コロニーレーザーに転用された際に核パルスエンジン増設で自走能力が付与されている証拠になるだろう。
「奴らの狙いは…」
「サイド2にあるコロニーをカーテンにしてコロニーレーザーを隠し準備を進め、攻撃準備が完了次第にカーテンを捨てつつ月のグラナダを焦がすつもりだ。サイド7だと月の動きによるが距離が遠く精密射撃は難しい。ただ、サイド2ならラグランジュポイントL4で月を狙い撃ちすることが比較的に楽だった。更に見せしめでコロニーごと滅却するとちょうど良い恐喝になる」
「そこまで非道を犯すつもりなんですか」
「わからない。私には常軌を逸した者を測ることが出来なかった」
ファは苦々しい表情を浮かべるシンに問いたが無駄だった。良心的で質実剛健な武人に聞いても常道を外れた狂人のことは分からない。
ティターンズの狙いはグラナダの完全な破壊だった。何度も攻撃が行われるだけの重要な拠点であることはご理解いただけると思う。通常の戦力(艦隊とMS)で制圧することは可能だが想定外のジオン出現や商会連合が完全に離反したため、再度同じ方法で攻撃することは意味を為さなかった。また、仮に占領してもゲリラに悩まされることは必然である。したがって、手に入れることは諦めて完膚なきまで破壊することに移った。対地攻撃にも絶大な威力を発揮するコロニーレーザーをグラナダに向けて発射し、工場から街まで都市を見境なく焼き払ってしまおう。派手な裁きの光線が生む損害は宇宙全体に衝撃を与え、人民に対して「ティターンズに歯向かえばグラナダの二の舞を演じるぞ」と脅迫に等しい忠告と共に恭順を求めた。
コロニーレーザーで目の上のたん瘤を排除してサイド7(ルナツー・ゼダンの門含め)に残した戦力を呼び寄せジオンにぶつける。グリプス2はサイド2に置き止めて中継拠点の任を担わせ、各地のティターンズ及び連邦軍を集めては振り分ける配送センターにした。なお、本拠地の機能は片割れのグリプス1やゼダンの門に移譲を済ませてあり、攻撃の成功後に改めて引っ越し作業を行う。
「どうにかして防げませんか?」
「発射を阻止することしか手段を選べない。防御が通用しない以上は根本を断つのみだ」
「動力源をピンポイントに撃ち抜くと?」
「そうなるんだが、あれだけのコロニーなら補助電源や太陽電池がふんだんに設置されているだろう。単に動力源を撃ち抜くと考えたら相当の兵器が必要になる。戦艦の艦砲射撃でも不十分だ」
初期のコロニーレーザーは総じて不安定だったが技術革新が進んだ。安定性に代表される弱点は克服されつつある。初期のコロニーレーザーであるソーラレイで露呈したエネルギー問題は新技術が解決し、発射に要するチャージ時間を大幅に短縮する効果を発揮した。また、膨大な内部電源と外部電源の太陽電池の物量により50%の出力でも数個艦隊を焼尽させられる。不可逆的に発射を阻止するためには動力源を正確に撃ち抜かなければならず、その上で艦砲射撃以上の破壊力を与えなければならなかった。
「まぁ希望はある。コロニーレーザーの長距離狙撃には長い演算と面倒な微調整が重なった。対策を講じる時間は与えられているから万事休すとは思わない」
コロニーレーザーは大掛かりであるため射撃の計算と照準の微調整が必須である。外れた場合のリカバリーが効かないため一発必中を心がけた。それに今回はサイド2のコロニーと言うカーテンを貫いてグラナダを焼く都合上シミュレーションは欠かせない。まさか勘の当てずっぽうで撃つような真似はしないだろう。
「何とかしなくちゃ…」
彼女は分かりやすく焦ったがシンは一転して冷静だった。まるで動力源を完全に破壊する方策をジオンが用意しているようである。一頻り思考を巡らせて決着をつけると思い出した風を装って逆に質問してみた。傍から聞いている限りでは至って普通の問いが送られる。
「君は射撃に自信はあるか?」
「射撃…ですか?自信はありませんが、その覚悟は出来ています」
ティターンズに何もかも奪われたファ・ユイリィの覚悟は尋常ではなかった。エゥーゴの一般兵を遥かに上回る彼女の強い気持ちを受け取ったシンは便宜を図ることを決める。便宜と言うが実際は重大な役を任せたかった。
「君にグリプス2のレーザー発射阻止の役者を任せる」
続く