【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
※また、本話は個人の嗜好が大いに反映されており、読むには相当の注意が必要です。
宇宙の戦局は終わりが見えようとしていた。地球連邦内だけと思われたエゥーゴとティターンズの紛争はいつの間にかジオンを巻き込んだ壮大な戦いと化している。ただ、ジオンは「偶然」にもアクシズが地球圏帰還を果たそうとしたタイミングで介入した。
まぁ、これを厳格に表現するなら「巻き込まれ」は不適応だろう。
それは置いておき、ジオンは奪われた土地を返してもらうため温めた秘匿兵器を解禁する。数年間を地球圏から遠く離れたアクシズは各地から兵器が集結しており、それぞれ厳正な選抜を受けてから技術者によって大改造を加えられた。これはアクシズ内部の資源に限りがあったため新造は控えたことよる。既存を流用する苦肉の策だが技術者は復讐のため奮起した。
しかし、各アステロイド帯に送られていた探査艦隊が大小さまざまな小惑星を連れて帰還する。小惑星から得た鉱物資源を贅沢に注ぎ込んだことで次第に改造は開発にシフトしてMSから戦艦まで戦力を整えた。驚くべきは地球圏突入の前に整えたことである。現在はアクシズ&諸々小惑星にソロモン・月・サイド3が加わった。したがって、ジオンは本格的な介入が始まった数か月の短期間に圧倒的な軍事力を整備する。地球連邦が背後に立つティターンズには及ばないが、エゥーゴを一個部隊にしてしまう程にジオン軍は大きかった。
誰かが言うだろう。
ジオンは小さな巨人であると。
「我ながら凄まじい艦が完成した。これぞジオンの怒りを体現した艦であるよ」
ハマーンはア・バオア・クー(ゼダンの門)奪還作戦を発動し、ティターンズの意識が月に向いている虚を突こうと試みた。しかし、相手は法案に物言わせて地球連邦のバックアップを受けて次々と新型機を送り出している。それどころか秘密研究所の反省を活かして改良された超大型機動兵器を宇宙に投入しようと画策したではないか。
そうとくれば、怪物には怪物をぶつけるしかなかった。
「ツイン・ハンニバルとヴァルキリーだけで要塞に等しい戦力を投入できます。地球連邦の艦を丸々使うことは気が引けますがやむを得ません。かと言って、独自のドロンはベースが惑星間輸送船だったドロス級を全て見直し改めて建造し直した超大型空母ですが変わらず機動力に欠けてしまい移動要塞が妥当です。様々な反省から我が国の造船技術者とMS技術者が手を組んだからこそヴァルキリーは…」
「もういい。お前の長い答弁には飽きる」
「し、失礼いたしました」
技術系の士官が捲し立てる前に制した。気持ちが入ると弁舌を垂れ流すため程よく切る。ただし、当人の能力は高く全く申し分なかった。その証拠が前に浮かぶ超大型と大型の宇宙空母である。ジオンが生み出したMSは戦争を一変させたが、宇宙においてMSの大量運用が要求され艦艇の刷新が求められた。基本的には一部例外を除いて巡洋艦以上の艦にMSを標準搭載することとされ、主力艦ムサイⅢ(通称エンドラ級)とチベⅢ(通称トリトン)では円滑な運用が可能である。もちろん、少数生産に留まる大型戦艦でも運用した。
「少し確認したい。私の質問に必要最低限の手短で答えろ。ヴァルキリーは双胴多層式空母と聞いたがガザをどれ程使用できる?」
「D型で最大150機ですが、余裕を持たせて120機ちょうどになります」
「よろしい。その内訳はどうなっている?」
「通常時になりますが、基本タイプが80機で爆撃機タイプが40機です」
「そうか。やはり単騎だとゼダンの門には出せん」
異形艦に囲まれる中で一際大きな艦はヴァルキリー級宇宙空母である。本艦はアクシズが建造したMS空母であり最新の切り札と称えられた。ただ、ジオン艦にしては見た目が連邦艦に寄って無骨であることは鹵獲した連邦艦から学びを得たからに尽きる。実際に鹵獲品のコロンブス級補給艦は連邦軍が急造の空母にして使用し、一定の戦果を納めたことから無骨な形状は意外と馬鹿にできなかった。しかも、改修を受けて未だに強襲上陸艦や補助空母と化して活躍を続ける。
独特の形状が自慢のジオンは徹底的にこれを研究して新型空母を計画し、当時研究が進められたガザシリーズの大量運用に適うよう軌道修正を入れた。ガザシリーズは簡易可変機構により、MA形態時は頭頂高10m弱と大幅なコンパクト化を実現し搭載量増加を実現する。空母自体もガザが集団戦法を大前提とする以上は一回に大量投入を可能とするべく設計は研ぎ澄まされた。かくして考案されたのがヴァルキリー級が誇る双胴多層式空母とされる。下から上まで「長め・少し短め・短め」で構成される三段式のカタパルト付き甲板が双胴で組まれ、それぞれ6枚が同時にガザDを発艦させることを実現してしまった。
「ツイン・ハンニバルで守れば問題ありません。ツイン・ハンニバルはガザ以外にリック・ディアスとネモを運用できますので」
何というテクノロジーなのかと思われるが、多層式空母は中世の頃の海軍で実際に建造されている。考えることは宇宙世紀に移っても変わらなかったが可変機の考案で満足な実用化に成功した。先も述べたが機体のコンパクト化が素晴らしいブレイクスルーである。もちろん、可変機の進化を見込みドロス並みの巨体で余裕を設けてあったため、次世代機であるガザE(仮称)やバウも扱えた。ただでさえロマンが詰まった多層式は双胴で組まれるが、これは既に双胴艦のパプアやパゾクで培った経験が活かされる。
「そうだろうが、機体を除いた戦闘力は無いに等しい。あまり持ち上げすぎるな」
馬鹿げた空母には当然ながら致命的なデメリットが存在した。まずMSの運用に特化し過ぎた反動で対艦戦闘は碌に行えず、対空戦闘も本艦は空母にもかかわらず搭載機頼りの不甲斐なさが露呈する。敵艦はおろか敵機に近づかれた時点で終了だった。見た目通りの鈍重さも足を引っ張って元々惑星間輸送船のドロス級よりかはマシだが「団栗の背比べ」であり酷くて堪らない。更には計画から数えると実戦投入まで数年を要したこと事実から効率は全ての空母よりも遥かに劣った。
「ご尤もです。ツイン・ハンニバルも同様ですし、今後一層に気を引き締めます」
「あぁ、そうしろ」
両目はヴァルキリーに奪われがちだが、ツイン・ハンニバルも相当に奇形だった。こちらは理解しやすい優しさが込められる。ツインの名前通りハンニバル級空母を横並びにして大型の連絡橋で連結した双胴艦だ。ハンニバル級は目ぼしい特徴がない面白味に欠けた艦だが空母として使うには機数が30機前後のため不足が指摘されており、新造ではなく既存の改造で最大の効果を発揮するために驚異の連結が採用された。一見して馬鹿げた連結は意外と悪くなく機数は60機以上の倍となり、双方が交代交代で出撃&補給を繰り返す波状攻撃を可能にする。元が優れた補給艦のため改造は比較的に容易とされ、当初の計画に従った短期間の建造が果たされた。
そして、ツイン・ハンニバルは通常の空母設計が採られたため、ガザに限らず多種多様なMSを扱える。これよりヴァルキリー級の直掩機を務めるリック・ディアス並びにネモを搭載した。これらエゥーゴ機はアナハイム社の協力を受けて多数が譲渡され、且つソロモンやサイド3で大量生産が行われて現地まで輸送されている。
ティターンズに対抗できる圧巻の空母艦隊だが、ハマーンは少しばかり寂しげだった。
「後はドズル閣下を冠した高速戦艦だけか…」
まだまだジオンの艦艇は終わらないのである。
続く