【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
※ちょっとだけ短いです
コロニーレーザー発射のためティターンズはドゴスギアを筆頭にした艦隊をサイド2に集めた。忌々しきグラナダを焼き去った後にあわよくば月に強襲上陸して制圧しようと試みたのである。今すぐにでも発射に移りたかったが絶妙な連携が求められてまだまだ時期尚早とされた。コロニーレーザーは改良されたとはいえ大規模であることに変わりなく、調整は難航し速やかに強襲に移るためには軍内の連絡が欠かせない。誰も思いつかない強硬策を得意とするティターンズだが準備を疎かにする愚は犯さなかった。
そんな大艦隊は数ではなく質でも圧倒する。
「少佐、上はなんと…」
「前と変わらない。ムラサメ研究所からオークランド研究所配属に戻ったが、アレのお守りをしろと言われた。ただでさえ不安定な兵器を不安定な人間に渡したからマトモな我々に監視をさせると」
「馬鹿なことを言いますね。俺達はこんな碌でもない作戦のために戦うなんて」
「軍にいれば常々不条理を与えられるものだ」
ティターンズが胸を張って「最強」と言い張る艦はドゴスギア以外にも存在した。旗艦役は譲ったが未だに強力なアレキサンドリア級重巡洋艦である。デラーズ紛争後に就役した本艦は砲戦とMS戦を最初から両立させ、サラミス改のような一先ずの間に合わせ品ではなかった。しかし、皮肉なことにMS運用は伝説のペガサス級強襲上陸艦からノウハウを受け、設計はジオンのムサイ級軽巡洋艦の構造を参考にしているらしい。
ともかく、本格的なMS運用能力を有する艦を揃えて殲滅戦に投入した。その内の一隻には地球から宇宙に上がった精鋭部隊がいる。ブラン少佐が率いるアッシマー隊だった。
「何やら遠隔操作みたいな技術で強化人間を制御するってわけですか。俺達の苦労を汲んでくれたのか分かりませんがね」
「まったくですよ。負担の軽減って言っておきながら増すなんて」
「あのサイコガンダムMK-Ⅱを後方の試作モビルスーツで監視と遠隔サポートを行っても安定しないことに変わりない。アッシマーの装甲でも大量のビームは受け止め切れない。いや、それ以前に避け切れなかったな」
「少佐は冷静でして」
ブラン少佐のアッシマー隊は地上の対カラバ戦で健闘したが敵を取り逃がしてしまった。しかし、不甲斐ない生粋のティターンズと違って生え抜きの彼らはアッシマーを活かした戦闘術により被害を抑え込み、精鋭を失った上層は宇宙まで引っこ抜き主戦力に無理やり組み入れる。アッシマーは最小限の換装で宇宙戦にも対応できたが、基本的に大気圏内の戦闘を得意とするため必ずしも適応しなかった。
また、当の本人たちは渋々を極めた感情であり士気は低い。ブラン少佐は冷静を保っているが内心では怒りに満ちた。アッシマーを用いた正攻法で戦うことは歓迎するが数々の毒ガス攻撃やコロニーレーザーの使用に始まり、兵士としては不安定でギャンブルな強化人間を大々的に採用することが嫌いである。アッシマーの騎士を自称する彼らは面従腹背を貫き続けた。
「誤射に気を付けろよ。場合によっては逆に誤射しても構わんが」
ブラン少佐は燃えていた。
例の大型戦艦を眺める。
大型宇宙戦艦ドゴスギアは単にMS隊を持つだけに終わらない。専属の強化人間部隊を内包した。一応は部隊と称するが究極的な少数精鋭であり戦闘要員は5人にも満たない。ただし、マッドな研究員が多数存在するため部隊と称した。
「博士、ロザミアは…」
「ふん、別に捨て置け。フォウと言いロザミアと言い失敗作が多すぎる」
「分かりました。ゼロのサイコガンダムMK-2とゲーツのバウンド・ドックの組み合わせでよろしいですか?」
「よろしいも何も軍人連中がそう言うならそうしろ」
「はい」
ドゴスギア内部で最も機密性が高い区画は専属の強化人間隊が独占した。中で何が行われているかは指揮官クラスでしか知らないが、一般兵でも外に出てくる物と者から察せている。試験運転を行った超大型MAと大型MSのセットは異様過ぎて肝を冷やされた。
その試験運転を成功させた黒幕は若干イラついていた。サイド2に送り込んだ強化人間は突如として行方不明となり、4人目の強化人間も調整が足りず敵兵に取り込まれる失態を演じたからである。自慢の超大型機動兵器は未完成であったことも加わり、イライラを強化人間の再調整とサイコミュ制御システムの強化にぶつけて成功を目指した。
ただし、本人は悪い方に完璧主義者である。
(まったく、ナカモトも無駄が多すぎる。バスクに忠実なことは気にせんが何かと面倒だ。それにサイコガンダムもサイコミュ制御が不十分だからバウンド・ドッグで遠隔操作しなくちゃいけないなんて無駄過ぎるわ)
ホンコンシティを焼き払ったサイコガンダムは運用上の問題が多数出たため、後継機となるMK-2は大幅な変更が行われて実戦投入を待っている。素の方は試作的な色が濃くMK-2が完成版と思われたが非道が磨き上げられており喜べなかった。パイロットを制御装置にする思想は受け継がれ離反を抑えるため、サイコミュ制御装置は数段階強められる。もはやパイロットが機体が動かすのではなく、機体がパイロットを動かすことになった。
しかし、それでも安定性を欠くことは言うまでもない。したがって、暴走を防ぎ指揮監督を行う安全装置として試作大型MSが付けられた。それがバウンド・ドッグである。本機は強化人間向けの機体だが改良型サイコミュは負担を減じ、要求されるパイロットの素質をさほど求めなかった。もちろん、素質のある者が操った場合は圧倒的な威力を発揮するが、今回はサイコガンダムMK-2の監視役を担わされた都合で最大限の発揮はお預けとされる。
漏れ出たイライラをぶつけられたナカモトと呼ばれる研究員は全く違うことを考えた。ティターンズに所属して研究に従事しているが心のモヤモヤを振り払うことが出来ずにいる。運の悪いことに研究員の中では上官から忠実な駒として気に入られてしまった。どうも自身の研究に納得がいかないことが多く、必然的に身の振り方を考えることが多くなる。
「ゼロとゲーツの調整は良好だけど何か上手くいかない…こんな研究を進めても意味がない」
誰にも聞こえないようなボソボソ声で呟いた。周りと違って純粋に研究を進めたい彼はティターンズに所属することが効率的なのかを疑問に思う。長らく地球連邦の研究所にいてティターンズ結成に伴いヘッドハンティングされた彼は勝ち負けよりも研究を第一に考えた。その点では直上の上官と乖離して知らず知らずのうちに軋轢を生じている。
(ジオンが迫っていると聞いたが…手土産を提げて下るのも考えておこう。強化人間やニュータイプについてはジオンが先に開始した。つまり、向こうはパイオニアってわけだから受け入れてくれるだろう)
彼は優れた頭脳を勝手な降伏の仕方に費やした。貴重な研究員は高く算定されるだろうが一押しのため手土産を提げる。
(オーガスタ基地の新型ガンダムが適当かもしれない。手配しておこう)
続く