【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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憎しみの中で抗い

重々しい空気の中で白衣姿の中年男性と壮年の男性が向き合った。

 

「やはり強化人間か。それもフォウ君より遥かに強化されたと」

 

「はい。記憶の消去及び改ざんの痕跡が至る所に見られました。そして、何よりも戦場に漂う邪気を強く感じ取るように施されています。おそらくですが、狂ったように戦闘を求める人間になる」

 

「わかった。ありがとう、ドクター」

 

自分の部屋で旧ソロモンから付き合いの長いドクターから報告を受けるがシンは苦渋を滲ませる。サイド2の観光コロニーであるモルガンテンに寄った際に拾った者は強化人間と判明したからだった。保護した当初からおかしな点が幾つか見られたこと、ティターンズの紋章が刻まれた物を携帯していたこと等々から精密検査を受けさせる。その結果は見事なまでに陽性反応を検出した。同じ強化人間だったフォウ・ムラサメの協力を得て追加で調べると驚愕の事実が露呈する。彼女はフォウを上回る遥かに強い処置が施され、肉体は常人では扱えない超兵器に耐えることができた。また、記憶の消去と改編も随所で行われ真なる己を失ってしまい、精神は戦場に漂う邪気(怒りや憎しみなど)を強く感じ取るよう調整されている。それが何を意味するかと言うと、彼女は狂ったように闘争を求めるバーサーカーだった。

 

「このまま戦場の中にいれば間違いなく狂うはずです。ティターンズの調整が甘く明確な目的を持たないままなので何もわからず戦いを求め、敵味方の区別すらつかずにひたすら攻撃を行う」

 

「僅かでも抑制できないか?」

 

「本格的に行うならばアクシズ内部の病院に入院するしかありません。ここで出来ることは限られます」

 

「ふ~む…」

 

強化人間は地球連邦軍が代表的だがジオンが先駆者である。先んじて始めたことだった。その基を辿って行けばフラナガン機関がヒットするがキシリア軍直轄のためドズル軍には全く関係ない。旧ジオン軍は派閥の区切りが強すぎるため互いに互いを知らなかった。しかし、ジオン敗北に伴いアクシズに多数の研究者が逃れたことで一変する。既に全権力を掌握していた旧ドズル派(現ミネバ派)が「No」を封じて半ば強制的に吸収した。

 

「それでは…道の分岐を切り替えることは出来るか?」

 

「と言いますと?」

 

「敵味方の区別がつかないのはいただけない。せめて我々を味方と思って意図的な誤射を防ぐことは必須事項だ。彼女が秘める底なしの敵意や戦意をお返ししたくないかな」

 

「そうは言いましても…」

 

ドクターはシンの言うことを理解したが難しいと判断する。彼が言いたいことは「調整が甘いなら付け入る隙は残っており、反ティターンズを盛り込んだ治療行為を以てして手駒を増やそうと試みたい」だった。一般兵以上ニュータイプ以下の兵士を加えれば心強いことこの上ない。ただ、上書きの具体的な策が無かった。どうやって反ティターンズの餌を用意するのだろうか疑問である。

 

「ロザミア・バダムはカミーユの妹と固定されている。それを使わずしてどうする」

 

「言い方が悪いですが、例の彼を出汁に使うというわけですな」

 

「ご名答だよ」

 

シンの策はティターンズの調整を流用することが前提とされる。カミーユの妹と言う記憶を確実に固定させ、彼に仇なす存在を敵と認識させ徹底的に殲滅するよう加えるつもりだった。飽くなき闘争心はカミーユを想う気持ちで抑えつつ、同時にティターンズと言う明確な対象を与えることで威力を発揮させる。家族を持たせることで精神の安定を保ち、敵意の矛先を変更させることで最前線で可能な応急処置にした。

 

ドクターはあくまでも医者である。確かに軍に身を置いているが気は晴れなかった。今までは仕えるシン・マツナガ大佐の管理を担ったが、この期に及んで禁忌に手を出してしまうとは思わない。真っ当な医者としては苦しい限りであるが拒めないことはよく分かっていた。

 

「ドクター、あなたは素晴らしい医者だよ。そうして苦しめるだけ真っ当な人間なんだ。なに、私を見てみるが良いさ。この両手は血に塗れていて勝つためなら手段を選ばない冷酷が混じった。とても、あなたには救えないだろう。だが、私以外なら救いようがある」

 

「このことを断腸の思いと言うのでしょうね。よく承知しました。大佐、よろしくお願いいたします」

 

「すまん…」

 

「それより、私個人としては大佐の方が心配ですがね。いくら英雄と言えども医者の目は誤魔化せませんよ」

 

同じ頃

 

艦内の医務室で横になっていたロザミアはカミーユと共にいた。諸々の都合から彼に看病が任され、面会等も彼を含めた極々限られた人だけである。彼女にはモルガンテンの療養を継続すると説明し納得してもらったが、カミーユらには真実を伝達済みだった。戦いの中で成長した彼らは怒りを覚えたが反動を表に出すことは慎んでいる。

 

しかし、ロザミアはそうもいかなかった。

 

「お兄ちゃん」

 

「なんだい?」

 

「まだ出れないの?」

 

「そうだね。ロザミィは体が弱っているから、しっかりと元気にならないといけないんだ」

 

年齢の割に幼い気がするが甘い調整故にである。精神の均衡を保つため家族を与えたらしいが、秘めたる狂気は甘える気持ちの裏返しだった。幸いなことに現在はカミーユによく懐いているため狂気が出てくることは見られていない。無論だが、ひょんなことから暴走することが考えられ、彼女が不満に思った入院生活は長引くことが決定された。歯科矯正のようにゆっくりと治していく予定が組まれている。

 

(ロザミィが戦場に出るとしても狂戦士に蝕まれないことの対策が必要だ。現状だと抑えが利く物がないのが…)

 

彼はパイロットだがメカニックの職を有した。Zガンダムの開発は彼のアドバイスがあって成し遂げたと言わしめる程のため、現在の状況下で彼女を抑えられる機体が存在しないことは重々承知して且つ理解もしている。リミッターを外され自身で制御できない以上は外側が拘束するしかなかった。しかし、本艦シャ・ルルド・ゴールも護衛艦ケルゲレンも予備機は通常のMSしか用意されていない。もう少し早くに彼女と出会ってアクシズに帰投出来ていればと考えると、きっとフォウ同様の専用機であるキュベレイを頂戴できた。

 

悔やんでも仕方ない。

 

ないものねだりは止めてあるものを活かすべきだ。

 

いや、特別な予備機があるじゃないか。パプア級から補給を受けた際に予備機が交代したことを思い出す。ワンオフ機で替えが効かないZガンダムの最悪の場合に備え、アナハイム社がジオンと提携して開発した可変機が運び込まれた。あくまでもスーパーサブとして送られたため、シャ・ルルド・ゴールが誇る圧倒的な積載量に埋もれている。

 

(あれはバイオセンサーが搭載されていない。でも、たしか簡易的なロック機能があったはずだから、ロザミィの抑制なら発揮できる)

 

何かを閃いた。

 

すかさず室内の固定電話から別区画へ電話をかける。

 

「ジェイさんですか。お願いがあるのですが…」

 

渦中の本人は不思議に思って見ていたが電話中の人を邪魔することはしなかった。大きな物音を立てずに待っている姿は健気である。数分の短い電話が終わり戻ってきたところで「どうしたの?」と聞いてみた。すると彼は笑ってこう答える。

 

「ロザミィと少しでも長く一緒にいるためにモビルスーツを手配してもらったんだ」

 

彼が手配したという機体とは何なのだろうか。

 

続く

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