【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
実は年末年始は単純に忙しかっただけなのですが、三が日明けから食中毒(ドクター曰く黄色ブドウ球菌?)になってました。コロナで病床一杯なため薬だけ貰って自宅療養でしたがパソコンには向かえず、キッツイ抗生剤をぶち込んで直しています。未だに病み上がりですので投稿頻度は下がりますのでご了承ください。
ゼダンの門をめぐる戦いは激しさを増した。メガ粒子砲の艦砲射撃にアステロイド・ミサイルを織り交ぜた攻撃はゼダンの門のゲートを破壊することに成功するが近づかせまいと迎撃が阻む。ジオンは大量のガザDによる飽和攻撃を以てティターンズ艦隊叩いたが弾は無限ではなかった。撃ち尽くした後は激烈な白兵戦に移らずを得ない。第二次攻撃隊として各艦から出撃したネモとハイザックが到着し混迷を極めた。
そんな戦場の中で本来は前線に出るべきでないハマーンは持ち前のニュータイプ能力を活かし片っ端から敵機を撃墜していく。戦場に行き渡らせたファンネルは寸分狂わずに一撃必殺のビームを放っては敵機を破壊した。ジオンの技術力の粋を集めたニュータイプ専用機キュベレイは伊達ではないのである。
しかし、彼女は凄まじいプレッシャーを感じ取った。
「噂の木星船団か。邪魔が入る」
ティターンズに木星船団が加わったことは周知の事実だが問題は首領の男が実権を握ったことに尽きた。ただでさえ危険な組織に危険な人物がトップに立てば予想外が起こり得ることは言うまでもない。こちらに益をもたらすなら言うことは無いかったが害しかもたらさないと知れば話は変わった。
互いに危険を確認し合ったのか彼我の距離は急速に縮まる。
「面倒な男は嫌われる。我が前に散れ!」
撤収させたファンネルを差し向ける。技術の向上は恐ろしく小型の遠隔兵器は生き物のように動き回り目標に絡みついた。普通のパイロットでは振り払うどころの騒ぎに至らずあっという間にデブリと化しただろう。しかし、敵機は並み桁外れた機動を見せつけていとも簡単に回避するとは驚きだ。それどころか通りすがりに小型ファンネルをビームライフルで叩き落とす技を披露せしめる。流石のハマーンも苦しさを隠せなかった。自分の力に自信を持っているが相手は手練れのニュータイプだと理解する。
「あの図体で機敏に動く。常人なら追いつけんが私を舐めるな!」
そう敵機は随分と丸っこい格好で笑えたがお相撲さんのような見た目に反して機敏であり、ファンネルの包囲を易々と突破されてしまった。彼女の優れた動体視力は捕捉し続けるが冷や汗を浮かべざるを得ない。
「このパプテマス・シロッコに追従するとは…何者だ」
「お前に名を名乗るまでも無いが、生憎我が師は礼儀に厳しくてな。我はハマーン・カーン」
「やはりジオンの化け物が食らい付いた。世の中はお前のような怪物ではなく清廉潔白にして優れた天才が率いなければならんのだ」
「自惚れた男は話にならんな」
ハマーンは切り捨てたがパプテマス・シロッコと名乗る男は凄まじい力を誇った。ニュータイプ特有の超常的な力は所謂オーラとして可視化されるのだが両者は互角である。ただし、再開された戦闘を切り取るとファンネルを使った同時連携攻撃をライフルとサーベルだけで捌き切るシロッコは己が発した言葉通りの化け物だった。
それにしても、この男の目的は何なのか理解に苦しむ。ティターンズに加わったかと思えばトップを謀殺して権力を掌握した。そして己の力をひけらかすように戦争に加担している。客観的には権力を得て良くも悪くも好き勝手に戦うことが好きなのかと思われるが、戦闘中であるにもかかわらず政治的な理想も語ってハマーンを抱き込もうとした。相手がジオンの摂政で実質的な国家元首であることを鑑みて更に権力を欲したのかそれとも口説こうとしたのか分からない。
なお、ハマーンは全て一蹴していた。彼女は意外とリアリストであり理想は吐き捨てる。夢を追いかけることは否定せずとも現実に即して行動することが第一だ。ただ、最終的には『宇宙人民の理想』を掲げる。スペースノイドが確固たる自治を以て絶え間なく進化し続け堕落を招く重力に打ち勝つことが彼女なりの夢であるのだった。
そして、願わくば師に認められたく秘める。
(いつまで戦っているのだ、ハマーン。お前は前線に出るとしても他にやるべきことがあるだろう。ここで油を売っている暇はないが延々と戦ってもな)
待望にして聞き覚えがある声が入った。ファンネルを数機失い出口の見えない戦いを続けていることを叱咤されたが悪く思わない。ほぼ自分の思惑通りに事が進んでいるから。
「この場を任せても良いと」
(あぁ、ニュータイプ同士だから長引くのだろうよ。なに、オッサンの職業軍人に任せるんだな)
「はい。では、引き継ぎましょう」
彼女の目には白いザクが写っている。
「私のザクが乗っているとは予想だにしていなかった。ま、やはりガンダムよりザクが馴染むね」
何故か男はガンダムから随分とグレードダウンしたザクに乗り換えていた。常識的に考えてガンダムの方が遥かに性能が高くビーム兵器を使用できる。ただ、諸々の都合が積み重なって故郷に帰っていた。諸々の都合と言うが実際はガンダムMK-Ⅲをファに譲り渡しただけである。
彼女のエウノミアーは核運用を前提とした禁忌の機体であるため基本的に使ってはならなかった。余程の事態でなければ使わない原則が適用され暫く封印される。したがって、彼女の機体が無くなるわけだがシンが究極的な汎用機であるMK-Ⅲを譲渡した。生半可な量産機のカスタムではZや量産キュベレイに追従できないからであり、シン向けのチューンをそぎ落とすデチューンを施したうえである。性能の引き上げは難しいが引き下げなら容易なのだ。足し算よりも引き算の方が意外と簡単と言えよう。
しかし、それではシンが乗る機体が無くなった。それこそ彼に中途半端な機体は与えられないが秘密でジェイ以下の長い付き合いがある整備担当の兵士がコソコソ隠していた機体を提供される。別に彼の高機動型ザクは戦闘で失われたわけではなく、ゲルググJに乗り換えるに伴い予備機へと押し込まれただけだ。その後は激動の時代に呑み込まれて忘れ去られていたが普通に考えてスクラップである。残党軍には失礼を申し上げるがザクでは最新鋭に太刀打ち出来るはずが無かった。
だが、こうして数年越しの再会を遂げたことは彼の記憶に新しい。
(回想)
「馬鹿な…私のザクが残っていたとは」
「実は書類をチョロまかして隠しておいて。更に僕を主とした有志を集めて徹底的に改修を加えています。見た目はザクで収めていますが外側も中身も全部を総とっかえの大工事でしたよ。なので、正直少佐が乗っていた頃のザクとは言えませんが、特別なチューンで操縦性だけ当時のままを再現していますのでご安心ください」
「古い革袋に新しいワインですらなかった。何と言うことだい」
確かに言われてみればザクⅡR1A型とは言い難かった。頭部は新型30mmバルカン砲となり通信アンテナが強化されている。胸部装甲は厚みを増して搭乗者の保護が図られ、各所で見られた剥きだしの動力パイプは格納された。脚部には出力を増した小型スラスターが4基ずつが左右2セットとなり推進力が爆増する。見た目の大まかはザクだが厳密にはザクのそっくりさんだった。それは内部でも共通しフレームからジェネレーターまで全部を換装されている。ジェイが語った通りであり改装と言うより完全な新造と言った方が適していた。
ただ、武装は据え置きである。爆発的に強化された機体出力だが殆どを機体本体に回し機動性特化カスタマイズを保持していた。したがって、主流のビーム兵器を扱うことはあり得ない。既存の実弾兵装として新型バズーカや新型マシンガンを携えて射撃戦に備えた。そして、何よりも最も得意とする近接戦に対しては腰に控えたロングヒートサーベルと大型ヒートホークで敵を切り裂く。
「まったく、本来ならば稲妻が落とされるところだが。まぁ、適当に私で書類を変えておくとしよう」
「お願いします」
「あぁ、これなら奴とも戦えるぞ」
時には旧きが新しきに勝る。
今こそ旧きを温めることの重要性を知らしめる時なり。
続く