【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
なんと言えば分からないザクとジオの戦いが幕を開けた。ザクはザクだが本体は外部か内部かを問わずに総とっかえしているためザクⅡとはかけ離れている。ガンダムMK-Ⅲを研究して取得したムーバブル・フレームのおかげで人体の動きを再現する機動を可能にしたことも大きかった。その姿を表現することは難しいが絞り出してザクⅢをスリム化したと言うのが精一杯であろう。
対して、ジオは大柄だが大量の補助スラスターのおかげで図体に反比例する高機動を見せつけた。あのハマーンでさえファンネルで捕捉し切れないのである。モビルスーツは人間が追い付けない速さで進化を続けているが古兵は食らいついて離さなかった。
「古い思想に取り残された愚民が歯向かうか!」
「私のルーツがある東洋には温故知新と言う格言があってな。古きを温めて新しきを知らなければ学は修まらんよ」
ジオを操るシロッコは白い機体を瞬時には判別できない。しかし、肩に刻まれた白狼のマークやハマーンとは異なる機動からソロモンの白狼と理解した。一年戦争にてアムロ・レイと互角に渡り合って戦い抜いた大ベテランであり、決して侮れないがシロッコは新時代の自負を有する。正直言って旧き古兵は覚醒した己には遠く及ばない存在だと断罪した。
とは言え、両者の間には隔絶した差がある。それは絶対的な経験であろう。シロッコは長らく木星星団を率いていたため実戦経験は希薄だが白狼は常に最前線に身を置いていた。単に無双することもあればニュータイプの始祖と鍔迫り合うなど計り知れない。積み重ねられた経験と確かな技術によって成熟された格闘戦はシロッコが嘲る余裕をなくした。
「実弾を舐めるなよ。特にニュータイプさんには嫌だろうに」
「煩わしい!」
時代が高火力に突き進んでいるためモビルスーツはビーム兵器が標準仕様となる。昔はビーム兵器は贅沢品であって量産機には廉価版が与えられたが知らず知らずのうちに皆が高威力の正規品を扱っていた。ジオもEパック式の標準的なビームライフルを使用するがザクは実弾兵装が占める。客観的には火力の差で著しい違いが見られても戦術がひっくり返してしまった。
改良型MMPマシンガンの連射は馬鹿にできない。旧来の実弾兵装は威力に限ればビーム兵器に劣るが扱い易さや安定性は遥かに勝った。特にマシンガンは連射が利くため敵機の機動を制限できる。また、ジオは一応でも大型機のため粒々の砲弾は厄介と思われた。掠るだけならば問題なくても被弾すること自体が嫌となる。若干ながら完璧主義者のシロッコはパーフェクトゲームを求めていたのだ。
「アマチュアが」
忽ち距離を詰めるとロングヒートソードを振り抜く。実弾と同様に従来の格闘兵装でも出力を増し溶断機能が強化され並みの機体は掠るだけで融解した。まともに斬撃を貰った場合は一刀両断である。すかさずジオは隠し腕を展開した上で4本のビームサーベルで受け止めた。たった1本の格闘に対して4本を用いるとは驚きだが機体のパワーが物を言う。木星帰りの男の反応は素晴らしく上手かったが後手に回されていることから劣勢と窺えた。程よく射撃と格闘を織り交ぜたニュータイプらしいハマーンと違って生粋のオールドタイプで格闘戦一辺倒のシンである。愚直だと断じれるかもしれなくてもシロッコは気圧された。
「理想を語るがよし!だが、若さゆえの甘さが否めんな」
「天才に何を説教を!」
「天才か…」
奴は天才が世を創っては牽引するべきと持論を展開する。確かに天才が世を創り動かしてきたことは否定できなかった。とは言え、何でもかんでも天才が担うと思っては大間違いだろうに。たとえ凡人だろうと己がやるべきことをコツコツと続けた影なる者がいるから機能してくれた。ピラミッドは頂点だけでは成立しない。
「なら、教えてもらいたいなぁ。その天才の戦いぶりをなぁ!」
激しさを増した格闘戦にシロッコは珍しく動揺を隠せなかった。先までの楽勝から一転直下して苦戦を強いられる。まさかニュータイプにも満たない古兵に追い詰められるとは予想できなかった。しかし、見方によっては必然と言えてしまうのは皮肉だろうか。ニュータイプ同士であれば両雄が立つフィールドこと土俵は同じとなった。土俵が同じなら力と技量の公正な勝負となるが相手は生粋のオールドタイプと断定している。何てことは無い一般兵ならば身分の差を叩きつけたが最強クラスが相手では適用は不可能だ。当然ながらフィールドである土俵は異なり公正を期せない。
事実、シロッコは白いザクの動きに翻弄される一方だった。自機の機動力があればあっという間に撃墜できると高を括ったツケを払わされたようである。無理もないと哀れんだ。木星帰りで覚醒したとしても所詮は芽吹いただけに過ぎず、一年戦争から局地的な戦いまで各地を転々として磨かれた末の椰子の木とは高さが違う。
ニュータイプは天性の素質があろうと熟したオールドタイプとは良くて互角だ。
(カミーユ達は…)
僅かだが彼我の距離が開いた隙にカミーユ達を確認する。どうやらティターンズの新型機を固めた小隊と戦闘していた。拡大して見るとエイを思わせる可変機であり脳内で『ハンブラビ』と識別を完了する。ティターンズが誇る超高性能可変モビルスーツだがカミーユも3機小隊を組んでおり数の差はなかった。個々の技量と連携力があれば負けはしないと思われる。もちろん、救援には入れないため頑張ってもらいたかった。
(大丈夫そうだな)
チラ見程度だが彼らのことを全面的に信頼している。大人は子供たちを信じることも必要だ。そんな冷静さと余裕さを纏う優雅な白狼と違ってジオは上手く行かないことの焦りを募らせる。例外があることを前提にして原則的にニュータイプは多少精神的な弱さがあった。シロッコは完璧主義と天才の自負が苦戦を許さない。相手が同じ立場の者であれば真っ向勝負で正当性を主張できるが昔ながらの兵士では冗談で済まされなかった。彼の尊大な自尊心が大いに焦りを生んでいる。
その点では自分の技量を正しく認識して常に最善手を打つことを心掛けたシンは堅実なのだ。保守的と批判されても構わない。どうせ勝てば誰も文句をつけられないのだから。
「調子に乗るな時代遅れ風情がぁ!」
「なんとも、いい圧力だな」
流石と言うべきかプレッシャーは尋常じゃなかった。普通の兵士では卒倒を余儀なくされ、ハマーンでさえ冷や汗を浮かべるほどである。ただし、シン・マツナガというパイロットは免れた。歴戦の猛者でアムロ・レイを刃を重ねた経験や良くも悪くも鈍感な性が働いてくれる。戦場特有のヒリヒリする空気が強まったことを受けプレッシャーを感じ取るが笑って受け流した。真剣に受け止めろと怒られそうだが余裕を保持しなければ優勢に戦えない。戦場においては張り詰めた空気が漂うが優雅さを纏う者が勝ちやすかった。余裕がなければ焦りを累乗して判断ミスを招いてしまう。
「歯ごたえがあっていいもんだ、ニュータイプってのは」
「何を言うかぁ!」
木星帰りの天才にとって旧くとも輝かしくある男を許容できなかった。旧めかしい者が輝いてはならない。先も述べた通りで天才が世を牽引するべきであって旧き者は退場を強制されるべきと信じている。なんとも自分勝手な理想論だが本人は真剣で未だに揺らぐことはなかった。物事は時に合わせて柔軟に変容するべきと思われる。
木星とソロモンの戦いは終わりを感じさせなかった。
続く