【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
「まぁ、合格でしょう」
「合格か」
「私が言うことではありませんが、今回は相手が悪かったのです」
模擬戦闘の結果は大方の予想を裏切ることなく、シンのザクが圧勝を収めてT3部隊をボコボコにした。ガンダムTRシリーズを3名で揃えた超が付く精鋭部隊は為す術なく敗北を味わっている。今回は実戦ではなく模擬戦闘のため、総じて演習仕様で組まれた。実戦より緊張感に欠けるのは仕方ない。それにしても、ジオンの白狼の前に完膚なきまで叩きのめされた。ゴテゴテした火力特化の機体や高機動型で近接格闘戦に秀でた機体もあるのにである。
彼らにとってこの敗北は想定外だった。
「T3部隊はテスト部隊だから原則として実戦には出さない。専らジオンとエゥーゴの試作機を評価してもらおう」
「それが一番だと思います。ただ、あのガンダムTR6という機体は解せません」
「解せないか」
「はい、あれは手を出してはいけません」
相手が白狼なだけでT3部隊の技量は極めて高かった。シンから見てもTRシリーズを操るT3部隊を高く見積もる。圧勝の実際はT3部隊の技量を最大限に引き出す動きに徹した。そして、技量を熟練兵の視点から測って合格の判断を下すに至る。
しかし、搭乗機であるTRシリーズだけは解せないと警告した。
「単純な性能は既存機を圧倒し、少数精鋭のエース部隊には最適でしょう。しかし、その実は恐ろしきシステムに無限の拡張性や汎用性を備えている。仮に制御が外れた際は核に匹敵する破壊兵器と成り得ます」
「そこまで見抜いているのか」
「いえ、あくまで私の主観です。それに経験から導き出した感触なので確実性には」
「いやいや、常に最前線で身を置き続けた君だ。伝説のシン・マツナガを全面的に信頼する。ソロモンの秘密工場へ回して誰も手を出せないよう封印する」
「それがよろしいかと」
特にTR6は持ち前の性能を遺憾なく発揮した。究極の汎用機らしく全ての展開に食らいつく。それはシンを驚かせた程の対応能力で最善手を打ち続けた。優秀なパイロットなのは言うまでもないが、同時にTR6本体も学習しては急速に成長する。
「ただ、見習うべき点もあります。本体へ様々な拡張パーツを追加・増設して。ありとあらゆる環境と戦場に適応する。その汎用機思想は連邦軍らしい合理性を誇り、飽和状態にあるジオンに丁度良いと思いました」
「その通りだ。アクシズ製と本国(ソロモン含め)製、エゥーゴ製と豊富が過ぎている。現在は機体種別を絞り一本化する計画を進めた。これにTR6を倣い修正を加えるべきか」
TR6の無限の拡張性・汎用性は見倣うべきと指摘した。現在のジオンはガザDを主力機に置いたが、エゥーゴのリック・ディアスやネモ、その他(鹵獲等)から構成される。バリエーションが豊富なことは強みだろう。しかし、現場も後方も生産性と整備性で負担が大きかった。生産する工場によって多少の差異が生じることもあり、平穏がもたらされた今のうちに統合を進めたい。
そこで、TR6の様々な拡張パーツを追加増設し、如何なる状況に対応できる能力は好ましかった。
「とりあえず、すまなかったな。親衛隊の大規模演習も君の出る予定はない。古巣であるソロモンでゆっくり休んでいくといい」
「はい、お言葉に甘えさせていただきます」
「それと、ハマーンから言伝を預かった」
シン自体はソロモンへの顔見せであり、大規模演習も艦隊とMS隊がわざとらしく行う。彼が自ら出る幕は無く面接への出席も暇つぶしを兼ねた。それでもラコックは労って休養を命じてくれる。
「言伝とは?」
「シン・マツナガ大佐に身辺警護及び執務の補佐を行う秘書官を与える。君は多忙が過ぎて身体を壊しかねない。メカニックへの要請や我々への上申などを代理してくれる。今は本国で教育を受けているようだが」
「承知いたしました。後でハマーンには感謝を伝えておきます」
ラコックと分かれて自室へ向かう。自室と言っても簡素な部屋で基地司令官の部屋とは程遠かった。一般兵よりかはプライベートが確保され、快適空間が提供されるも最小限で収まっている。ただ、嗜好品だけは手を抜かなかった。
特に酒類は正規購入するか贈答を受ける。前者はともかく後者はミネバの後見人である、シン・マツナガに擦り寄ろうとする者が多かった。私が質実剛健とは裏腹に酒好きと知るや否や贈答が雪崩れ込む。私に届くまでに予めに毒物が入れ込まれていないか検査が行われる。仮に毒物の反応が得られた場合は秘密警察が動いて排除した。
久し振りに一人で飲むとしよう。
「標準兵装?」
「えぇ、全ての機体が携行可能な兵装を予定します。一般的な汎用機であれば、その機種を問いません。具体的にはビームライフル、バズーカ、マシンガンを策定ました。ミサイルは機体によって発射機が変わりますが弾自体は共通化しました」
「現地の補給を第一に考えて、全て共通化することで融通を利かせる」
「おっしゃる通りです」
ソロモンの工場に見学に寄ると担当者から「次世代機について意見を欲しい」と案内された。基本的に個々の説明を受けるが、時偶に現場の兵士を代表した意見を求められる。エースパイロットの意見は「役に立たない」と辞退した。しかし、「何でもいいから」と押し切られた。とにかく、影響力のある人物を絡ませることで説得力を増したい。料理や家電でも「〇〇監修」とあるのと同じことだ。
「ベタな質問だが、アクシズはガザDを主力に据えているんじゃないのか?」
「間違いありません。ガザDの数を揃える力は馬鹿になりません。しかし、戦闘は可変が前提となるため人型形態の戦闘力は既存機に劣る。これを逐一改良するのは面倒です。よって、ガザDに依存せず従来通りの機体を開発することが決まりました。少しでも現場の負担を減じるため、武装だけでも共通化させるのです」
「なるほどな。ガザDは集団戦法しか出来ないと言われてきた」
アクシズは限られた資源と若いパイロットという縛りから、ガザシリーズの可変機構と集団戦法で対抗する。そのガザDは可変と集団に限り威力を発揮して単騎の戦闘力は劣った。ジオンは本国に帰還を果たしてソロモンや月面都市を抱き込んだ。アクシズ単体から爆発的に工業力を増しており、従来型の汎用機を開発しても悪くなかった。ただし、増大する現場の負担を考えて武装だけは共通化させる。
「現在候補に挙がっているのは、リック・ドムⅡとリック・ディアスを纏めた重突撃型MS、ザクの汎用性と扱いやすさを取り戻した汎用型MS、ガンダムをデチューンして量産型に直した汎用型MS、多種多様な武装パックを追加して火力支援を担う支援型MSです。この他にも旧式機の手直し及び改造を施した、間に合わせの機体もあります」
「随分と多いな」
「ジオンがカバーする宙域が多すぎます。更に、エゥーゴに提供することもあります。欲せられる機体が余りにも多いため、とてもですが、一つの機体で賄い切れません」
全て一つの機体で揃えて環境や任務など、それぞれ適応した改良型で間に合わせたい。しかし、ジオンが展開するのは宇宙全体だった。普通の無重力空間から危険の多い暗礁宙域、月面都市、デリケートなコロニーと数え切れない。これに任務の特性が加われば、当然ながら補い切れるわけがなかった。
「今申したのは一般兵向けの大量量産機です。精鋭部隊に向けて高性能な少数生産機、エースのワンオフ機もあります。大佐のご心配には及びませんよ」
「別にまだ何も言っていないがな。そこら辺は頼んだよ。あぁ、そういえば」
「なんでしょう」
「シャアはどうしたのだね。彼なら専用機を受け取りに来ても…」
そう、彼は何をしているのか。
「それなら、クワトロ・バジーナとシャア・アズナブルを両立させ、惑星間貨物船に偽装した巡洋艦で各地を動き回っています。散り散りになったジオン残党軍を収穫し、反連邦組織やゲリラを吸収して」
「そういうことか。彼の英名とカリスマ性なら仲間を集められる」
表向きは納得したが、心の中では重大な懸念を抱かざるを得ない。
(ネオ・ジオンを画策していないか、調べさせないとな)
続く