【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける   作:5の名のつくもの

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ゴタゴタは終わらない

私はソロモンから本国に戻って面白くないコロニー勤務を過ごした。ミネバ様の軍事顧問という後見人だが、一時の平穏を得ている現在は政治が大半を占める。よって、私が出る幕は皆無で摂政ハマーンを主とした政治系が活躍した。私がやる仕事はミネバ親衛隊への指導やMS開発の口添え、旧ドズル派の引き締め、ソロモンとの定例会議と管理職のようである。

 

思わず、ため息が漏れかけた。

 

しかし、気を抜けない事態が生じている。常時移り行く状況を観察しなければならなかった。

 

「ぺズンが核爆発によって消滅し、連邦軍の討伐隊が大損害を受け、反乱軍は月面都市へ向かった。グラナダまで至らないと良いが、我々が介入するわけにもいかない」

 

「白狼様が独断専行してみては?」

 

「冗談はよしてくれ。私はミネバ様の軍事顧問である以上、軍事的及び政治的な視点からして、極めて危険な手は打ちたくないんだ。命令が下れば動くがハマーンも不介入を貫く方針である」

 

「ハマーン様がそうなら、大人しく従います」

 

秘書官と共に多方面から送られる最新情報を吟味した。ジオン自体は平穏に包まれて軍事もゆっくりと拡大を続ける。国内外はスペースノイド代理人の立ち位置を確立して、地球連邦はともかくスペースノイドからは革新を経たジオンと認識される。そんな中で小惑星帯ぺズンにて地球連邦内部で大規模な反乱が発生した。反乱は現在も月面都市に場を移して継続されて情報収集に努める。

 

どうやら、地球連邦の旧ティターンズが反旗を翻したらしい。ジオンに譲歩したことが至上主義者の癪に障った。地球連邦の変わらない上層部や自身の極端な至上主義を以て行動に移る。彼らは「ニューディサイズ」と自称して反乱に至った。当初の反乱軍は一部隊に過ぎなかったが教導隊の精鋭で侮れない。地球連邦は傷が癒え切っておらず討伐隊も少数で迅速な収拾を望んだ。

 

その結果、反乱軍が一歩勝って討伐隊に大損害を与える。そして、ぺズンを核爆弾で自爆させて月面都市に移動した。ここはアースノイドの色が濃い『エアーズ』のため、市長は独断でニューディサイズを受け入れ支援する。こうなると地球連邦も戦力を小出しに出来なくなり、思い切って艦隊を派遣したが裏切られてどうにもならなかった。

 

「内部のゴタゴタは勝手にやってもらいたい。グラナダに火の粉がかかる場合は考えるが、グラナダには秘密裏に運び込んだ部隊がいる。高度な自治権を盾に個別的自衛権で対抗できるだろう。仮に厳しい場合は支援要請を発するかもしれないが、どちらにせよ、今は静観を貫くのが正解なんだ」

 

「是非とも見させてもらいたいものです。白狼様の戦いぶりを」

 

秘書官にしては高飛車でも、れっきとした士官だった。秘書官はハマーン親衛隊の一員で絶大な信頼を得ている。正直言って、秘書官とは名ばかりの本音はハマーンが寄越した体の良い監視役だった。監視役と言うとマイナスなイメージを持たれるが、ハマーンが私の心身を心配して常に最前線で戦えるよう派遣している。

 

「訓練で勘弁してもらおう。イリア・パゾム君は若いが狡猾な技術を有した。相手が一般兵なら十分に圧倒できる。まぁ、私には及ばないのは目を瞑ろうか」

 

「次こそは勝ちます」

 

「頑張りなさい」

 

秘書官は若輩のイリア・パゾム中尉である。まだ16歳の若者だが将来の有望株と見られニュータイプの素質を持つ。それでいて、熟練者のような狡猾な手に秀でた。よって、小さき戦略家という指揮官を務めても悪くなかった。しかし、年齢に伴う経験不足の問題がある。ジオン最強のエースパイロットの白狼こと、シン・マツナガ大佐の秘書官と傍に置かせて学び吸収させた。

 

イリア・パゾムはハマーン親衛隊に身を置いたことから分かる。彼女はハマーン・カーンに心酔した。ハマーンの冷酷な姿勢を賛美し絶対の忠誠を誓っている。ただし、そのハマーンは少女時代に憧れを抱いた白狼に迫って譲らなかった。ハマーンの定める白狼がどんな人物なのか品定めを怠らない。

 

見事な観察眼でシンの秘密を目ざとく見つけた。

 

「初日から思っていたのですが、そのノートは何ですか?」

 

「あぁ、これは私が個人的にしたためている日記だよ。日記というが中身は日々の戦闘や訓練、学びで得たことを纏めているだけに過ぎない」

 

「データに落とし込むのが楽では?」

 

「その通り。楽という観点ではデータに落とし込むのが最もだ。ただ、私はオールドタイプらしく戦いたい。だから、手書きのノートに書き込むのが性に合っている上に持論がある」

 

「持論ですか」

 

シンは日記と称して昔ながらの紙のノートに日々の記録をつけた。戦闘と訓練で得た事はデータとして蓄積され機体にも反映される。にもかかわらず、敢えて手書きで纏めるのはシン・マツナガの拘りが光った。

 

「私は指に第二の脳があると考えた。モビルスーツの操縦で頻繁に使う指は逐一記憶する。その記憶を改めて文字に起こすと、同じことを指にもう一度記憶させられる。これが続くと自然に指が覚えて経験したことのある状況では考えるよりも早く指が動き対応した。未経験のことでも指の記憶と頭の思考が直結し、暫くの間を凌ぐ余裕が生まれて普通に考えるよりも早くなった」

 

「はぁ…そうなんですか」

 

よくわからない理論を打ち出されて困惑を隠せない。しかし、彼の理論はあながち間違いではなかった。文字に起こすことで頭の中の情報が整理されて理解が進む利点は確認されている。デジタル化が当たり前でも紙に記録することは馬鹿にならなかった。

 

「別に理解してもらおうとは思わない。人は人なんだから、君も自分の道を開拓するとよい」

 

シンは32歳でイリアは16歳と年齢差が顕著だ。秘書官と雖も若者扱いされて当然である。本人は自身の成り上がり方から不服だが、実力を試す模擬戦闘では何度も突っ撥ね返され認めざるを得なかった。射撃戦では上回るが直撃させなければ意味が無い。懐に入り込まれた瞬間に敗北を招き入れる。彼女がニュータイプの素質があって高い技量を誇っても全体的に若さが見受けられた。

 

32歳で一年戦争から10年に迫る期間を最前線に置き続けたエースに敵うはずが無かろう。

 

(噂に聞いていた姿とはまるで別人。プロパガンダが誇張で塗り固められているのを差し引いても、ここまで違うとは予想していなかった。いや、ハマーン様が憧れるのもわからなくもない。確固たる実力と地位を有しながら一切偉ぶらなかった。そして、常時反省を忘れることなく研鑽に励み続ける)

 

彼女が聞いた前評判とはえらく異なった。秘書官として傍に立って学ぶことは多くある。質実剛健でミネバ様への忠誠心の高さはプロパガンダそのままだが意外と温厚で驚いた。もちろん、軍内の規律や常識など遵守すべき事項には厳格に変わりない。逆にしっかりと守っていれば、普通に過ごしていれば、理不尽や冷酷な上官とはかけ離れて優しかった。

 

ただ、一度戦闘に身を投じると鬼神の如き戦いぶりで周囲を圧倒する。

 

「少し失礼する」

 

イリアが感心している前でシンの専用回線が鳴った。あまりにも出世したためか連絡用の回線も幾つか分けられる。重要度の低い一般的な回線では彼女が代理することもある。しかし、今回はハマーンら最上層級からの直接回線がけたたましく鳴った。

 

「シン・マツナガです。あぁ、ハマーンか」

 

(ハマーン様を気安く呼べてしまうのは仕方あるまい。ニュータイプを凌駕するオールドタイプなんだ)

 

「トト家のグレミーを私に寄越したいと。私の下でイリア共々叩き上げてもらいたい…」

 

(グレミー・トトか。確かに優秀な士官だが私以上に甘さがある)

 

「わかった。前線仕込みで仕上げよう」

 

会話が終わると秘書官の立場で確認した。

 

「追加の人員ですか?」

 

「あぁ、グレミー・トトが送られるようだ。どうも、ハマーンは私に護衛をつけたいのだな」

 

続く

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