【復刻】ソロモンの白狼になって宙を駆ける 作:5の名のつくもの
「マシュマー、合流して直ぐに悪いんだけどさ。あたしたちの偵察は実力行使が認められたよ」
「なんだと、一体どうしたという…」
サイド1から離れた地点で補給を受けキャラ隊と合流したが、マシュマーは開口一番に衝撃を受けてしまう。コロニーが中立を宣言しているのを盾に情報収集に努めるが、突如として本国から「実力行使を認め手段の如何を問わない」と通達を受け取った。
サイド共栄圏の確立を目指すと雖も急展開が過ぎて理解が追いつかない。合流したキャラが落ち着き払っている様子から事情を知っているようだ。取り乱したのを詫びた上で説明を受ける。
「実はソロモンへ向かっていたシン・マツナガ大佐が乗る戦艦が狙撃された。確かにジオンの勢力圏だからと油断した隙を衝かれ、今現在において本人の状態は全くの不明とされる。下手人はどう考えても地球連邦軍と断定して怒り狂ったミネバ様及びハマーン様が報復を命じたってことさ」
「まさか、地球連邦軍がそのような真似をするはずがない。ティターンズを解体しエゥーゴやカラバなどが主幹に変わったはず」
「あたしもそう思う。だから、今回の事件は別の第三者が起こした。でも、ハマーン様はサイド共栄圏を固めるため、丁度良い機会と捉えて地球連邦との勝負を選んでいる」
(まさか…奴らが仕組んだのか?)
事件の詳細は本国で陣頭指揮を執るハマーンが誰よりも理解した。
「シン・マツナガ大佐は無事なのだな」
「間違いありません。幸運なことに当時は格納庫で整備作業の監督をしており、狙撃のビームが掠った艦橋にはいませんでした。本人に怪我は無くて損害は艦橋だけとも」
「では、下手人は誰なんだ。地球連邦軍がこのような真似をするか?」
「絶対にあり得ません。まだ傷が癒え切っていないにもかかわらず、このような暴挙に出るとは正気の沙汰ではなく。これは間違いなく第三勢力がジオンと地球連邦を衝突させるために仕組んだことでしょう」
「南洋同盟だな…早期に潰しておくべきだったか」
ハマーンらは本事件の真犯人をぼんやりと予想している。しかし、確固たる証拠と言う証拠が存在しなかった。とりあえず、地球連邦軍がシン・マツナガの暗殺を試みるのは正気の沙汰ではない。ミネバ・ザビの後見人である彼を排除したら、ジオンの烈火の如き怒りを買、地球は再びコロニーを落とされかねなかった。ティターンズも解体されている。穏健派の旧エゥーゴやカラバが大勢に変わり、彼らが強硬策を採るのは非常識だ。
したがって、第三勢力によるテロリズムに定まる。宇宙で活動してシン・マツナガをピンポイントに狙えるような組織は一つしか浮上しなかった。敢えて言わずもがな、南洋同盟であり地球連邦にも自由ジオンにも敵対する。なりふり構わない組織は宇宙を揺るがす事件を起こしたが、おそらく一切気に留めないで笑うに違いなかった。
「しかし、報復措置を命じて事実上の戦争状態に突入するのは…」
「サイド共栄圏を構築するには丁度良い機会である。それに、ここで手を引くと我々は軟弱者とみなされた。それでは中立サイドからの支持を得られん。売られた喧嘩は買うという姿勢を見せねば侮られるのだ。常に強者であるためには見え見えの罠を臆することなく、遠慮なく踏みしめて不利になろうと勝たねばならない」
「始まった以上は貫徹する。それがハマーン様の苦渋の決断だ」
今のところ、南洋同盟が自分達に適した環境を作り出すべく、ジオンと地球連邦を衝突させた策略と予想する。ほぼ正解と言うべき読みだが退くわけにはいかない。祖国の英雄を撃たれた事件を静観し、報復しない姿勢は軟弱と評された。強硬姿勢を見せねば付け込まれる。
そう考えると南洋同盟の狡猾な手口と言えた。
「映像分析は済んでいるのか」
「ソロモンの監視衛星の映像から、狙撃であることは確定しています。しかし、この対艦狙撃は、地球連邦軍の装備に確認されていません。バストライナーというモビルスーツを使った対艦砲台があります。ですが、地球連邦軍は合理的で知られて、大掛かりな対艦兵器はとっくに捨てたはず。既存のモビルスーツに携行可能な火器で対艦戦闘を担わせ、スナイパータイプの機体を照合するまでもありません」
一応は地球連邦軍の仕業なのか分析すると、すぐに「ありえない」が返された。地球連邦軍は対艦用の大型兵器を開発しても投入した記録は少ない。また、合理性を追求して、大掛かりで面倒な対艦兵器は放棄している。MSの範囲内で対艦戦闘を担わせることに注力し、狙撃に特化したスナイパータイプの機体が登場した。
いいや、今回は監視衛星が姿を捕捉できない程に、射程が長い上に精度も良い。艦橋を掠ったのは狙撃手の腕が良い故に可能な芸当だろう。このような対艦狙撃を行える兵器や狙撃手を突き詰める。
「ビームの性質から旧ジオン軍のビッグ・ガンと予想されます。そして、ビッグ・ガンを効果的に運用できた部隊は、あのリビング・デッド師団しかなく」
「つまり?」
「南洋同盟の仕業と断定しました。リビング・デッド師団にはダリル・ローレンツというエースが身を寄せ、これほどまでの正確無比な狙撃は奴しかできません」
ソロモン周辺には微細な小惑星に偽装した、監視用の人工衛星が散りばめられた。MSに索敵や哨戒を行わせるのが一般的でも、無人で偽装が利く人工衛星は現役を務める。ソロモン監視人工衛星の複数機が異常を探知して映像を撮影していた。
映像解析の結果として、ビームは地球連邦軍ではなく、ジオン軍のビック・ガンと推察される。ビック・ガンはビーム兵器黎明期に開発した砲台だった。まだ小型化に成功していなかったため、独立したジェネレーターや冷却装置があり、辛うじて長射程と高威力を実現する。しかし、決定的に機動性を欠いて大量生産は見送られた。大柄で運搬も簡単でないことから運用も殆どされず、例外的にサンダーボルト宙域のリビング・デッド師団に配備された。優れた技量を持つ狙撃兵のおかげで輝かしい戦果を挙げている。
更に旧式を極めたビッグ・ガンを満足に扱える人物は一人だけだ。その名はダリル・ローレンツである。彼はリビング・デッド師団の中でも『千里眼』や『ニュータイプ』と恐れられた。ムーア同胞団と死闘を繰り広げた末に南洋同盟へ鞍替えしたことが確認される。
前述の分析と相まって、下手人が南洋同盟であることは確定された。
「南洋同盟にとって好ましい環境を作るのであればだ。地球の東洋では『毒を食らわば皿まで』と言う。我々はサイド共栄圏を実現する。アナハイム社は中立だが月は我々に味方してくれた。各拠点を起点にしてサイドへの電撃戦を仕掛けろ」
「承知いたしました。直ちに全軍に対しサイド攻撃命令を発します」
地球連邦との正面衝突自体は予てから想定している。サイド共栄圏の建設以前からコロニーへの奇襲作戦が立案され、ハマーンがミネバ・ザビの名で命令さえ出してしまえば後は現場が速やかに実行した。皮肉にも一年戦争での経験から得た反省が活かされている。
「戦略兵器は使用するな。ティターンズと同じ馬鹿は許さん」
「もちろんです。ジオン軍は宙域戦闘のプロフェッショナルです。核や毒ガスなどと言う弱者の手段は採りません」
コロニーを制圧する際に戦略兵器の使用は厳禁とする。ティターンズと同じ轍を踏む真似は慎まなければならない。アースノイドによる圧政から解き放つ希望である以上は正攻法が絶対だ。
中立コロニーに対しては、武力行使は二の次どころか五の次で、対話による交渉を原則に固めている。対話でも恫喝や威嚇は許さないで相互に利益のあるWin-Winな関係を追求させた。
「あとはシン・マツナガ大佐の動きか…」
そうして最後に難題が残っている。
続く