ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第5話  王者の情

 第5話

 王者の情

 

 超古代怪獣 ゴルザ

 どくろ怪獣 レッドキング 登場!

 

 

 ギジェラとの戦い以降、タバサと離れ離れになってしまったキュルケとシルフィードは、タバサの母と共にジョゼフに捕らえられていた。

 幽閉されること数ヶ月。しかし外の世界の異変を察知した彼女たちは、キュルケの機転でなんとかシルフィードだけは脱出に成功させた。

 シルフィードは、いまだ囚われの身であるキュルケとタバサの母を救うために、タバサの恩師であるジルに助力を求めに向かう。

 だが、ジョゼフはシルフィードのわずかな希望の芽も摘み取らんと怪獣ゴルザを差し向ける。

 追い詰められるジルとシルフィード。しかし、ジルはゴルザを山に誘い込み、切り札を発動させた。

 爆薬で崩れ落ちる山、その中から現れる巨大な影。ジルの切り札とは、山に眠っていた怪獣を蘇らせることだったのだ!

 

「あわわわ! ままま、また怪獣が出てきたのね。ジル! あなた、いったいどうしてくれちゃうのねーっ!」

「落ち着きなよ。あいつの目に、あたしたちなんか映っちゃいないさ。使えるものはなんでも利用するのが、狩人の勝利するための秘訣なんだよ。それが、たとえ怪獣でもね!」

 

 岩を砕き、山を崩して現れた怪獣は、ゴルザを見据えて巨大な叫び声をあげた。

 大きく鋭い牙が並んだ口を広げ、太い腕で胸をドラミングのように叩いて威嚇する。

 それはまさしく臨戦態勢のポーズ。白銀の巨体には、これからお前を倒してやるぞというパワーと闘争本能がみなぎっている。

 

「す、すごい声。シルフィ、あんな凶暴そうな生き物を見るの、初めてかもなのね」

 

 シルフィードが、新しい怪獣の雄たけびに背筋を震わせながら言った。知能を持っても消しようのない野生の本能が、恐怖となって体に訴えかけてくる。怖い、正直に言って怖い、あいつに比べたら、火竜山脈のドラゴンたちでさえ子猫のようにおとなしく感じられるかもしれない。

 突然の敵の出現に、驚いたゴルザが叫び返しても、銀色の怪獣の雄たけびの大きさがかき消してしまうほどだ。

 パワーにあふれた巨躯、ガイコツのようにゴツゴツと角ばった頭部はそれ自体が武器のようだ。混じりっけなく、全身から『強そう』というオーラがあふれているその怪獣は、形容するなら『怪獣の王様』とでも呼んでもいいだろう。

 この怪獣の異世界での名は、どくろ怪獣レッドキング。怪獣無法地帯多々良島の王者として君臨し、数多くの怪獣を血祭りにあげた悪名を轟かせる、危険極まる大怪獣だ。

 

「さあて、冬眠を邪魔された熊は相手をズタズタにするまで暴れるもんだけど、お手並み拝見といこうか。銀色の怪獣、あんたの眠りを覚ましたのはそいつだよ。さあ、思う存分暴れるがいいさ!」

 

 ジルの声がゴングとなったかのように、レッドキングはゴルザに挑みかかっていった。

 猛烈な突進、ゴルザも標的が違うとはいえ襲ってくるなら迎え撃つ以外にはない。

 二匹の怪獣が真っ向から激突し、よっつに組んでのパワーとパワーの勝負となった。

「うわっ!」

 激突の衝撃波だけでシルフィードは吹っ飛ばされた。ファンガスの森の木々も二大怪獣の激突のあおりを食って、まるで雑草のようにたやすくへし折れ、千切れ飛んでいく。

 そして、第一ラウンドの正面対決はまず、レッドキングの勝利となった。組み合いからのレッドキングの力任せの投げ技が炸裂し、パワー負けしたゴルザは背中から地面に叩きつけられた。

「うわぁお! 地震なのねーえ!」

 シルフィードが宙に浮き上がるほどの激震が、森と山を文字通りに震わせる。

 人知を超えた、超重量級の怪獣のパワー。しかし、これはまだ序の口に過ぎない。起き上がりざまに尻尾を鞭のように振り回すゴルザに対し、レッドキングも尻尾を振って対抗し、二匹の尻尾が空中で激突して双方ともはじけとんだ。

「ふん、今度は互角か」

「あわ、あわわわわ」

 二匹同時に吹っ飛んだことで、轟音とともに森の木々が数百本は同時に吹っ飛んだだろう。土煙が舞い上がり、巨木や岩が紙くずのように飛んでいく光景には、ジルも平静を装いながらも手足が細かく震え、シルフィードはジルにしがみついたまま腰を抜かしている。

 ファンガスの森の動物たちも同じだ。熊や狼も慌てふためいて逃げていき、鳥たちもいっせいに飛び立って空が一瞬黒く染まった。

 もちろん、二匹にとってはこんなものはウォーミングアップにもならないのは当然だ。ゴルザ、レッドキングともに相手を全力を出して倒すに値する相手だと認め、それぞれ雄たけびをあげてぶつかっていく。

 ゴルザの爪がレッドキングの蛇腹状の胴体を切り裂き、レッドキングのパンチがゴルザの黒々としたボディに深々と食い込む。交差する拳と爪、はたきこみ、アッパーカット、純粋な野生のパワー同士の激突は情け無用で激しさを増していった。

「ひええええ! ジジジ、ジルジルジル! はは、はやく逃げよう! 逃げようなのね。わたしたちまで死んじゃうのね!」

 シルフィードは目に涙を浮かべながらジルの肩を揺すった。タバサとともに怪獣と何度も戦って、ウルトラマンと怪獣との戦いも幾度も近くで目撃したことはあるが、いつも強い誰かに守られているという安心感があった。しかし、ジルはシルフィードをむしろ突き放すように扱う。

「悪いが逃げ道は連中が暴れてるど真ん中さ。決着がつくまでは、どこにも行けそうにないよ」

「そ、そそそ、そんな。決着がつくまでこんなところにいたら、戦いの巻き添えを食うか、勝ったほうに食べられちゃうのねえ!」

「うるさいよ。どのみちこれしか手段はなかったんだ。あんたも、シャルロットのパートナーなら腹を決めな。あの子は、戦いの中で窮地に陥ったとき、あんたみたいにぎゃあぎゃあ泣き言を言っていたかい?」

「う……」

 シルフィードは返事に窮した。確かに、タバサはどんな戦いや任務のときでも、取り乱したりはしなかった。常に冷静で、自分にできることとやるべきことのみを考えて、確実に実行していたからこそ不可能ごとと思われた数々の難題を乗り越えてこられたのだ。

”やっぱり、この人はおねえさまのお師匠なんだ”

 ジルの背中に、シルフィードはタバサと同じ揺るがない強さのようなものを感じ取った。

 なら、いいかげんわたしも覚悟を決めることにしようとシルフィードは考えた。これからジョゼフに、タバサ抜きで真っ向勝負を挑もうというのに、このくらいで狼狽していては何もなしとげることはできないだろう。

 誰かの背中に隠れて、『お手伝い』をしているだけの子供のままではいられない。タバサを取り戻すためにも、もう二度と失わないようにするためにも、ここで立派な使い魔として、パートナーとしての強さを身につけなければとシルフィードは怖がる自分の心に言い聞かせた。

「が、がんばる、のね」

「ほう、なかなかの根性だ。だが、これからが本番だよ。最後まで、気をしっかり持っていな!」

 ジルも本音を言えば怖かった。しかし、勝負事は弱気になったときに勝利の女神に見放されることを彼女は知っていた。キメラはいなくなっても厳しい森の中での生活を続けてきたジルが、今日まで生きてこられたのは恐怖との付き合い方をうまく知っていたからにほかならない。

 この戦いの行方がどうなるにしても、その次に備えて気力だけは保っておく。戦いは、これからだ。

 

 

 レッドキングとゴルザの激突は、双方が傷つくにつれてさらに激しさを増していった。

 猛進していくゴルザに対して、レッドキングは両腕を広げて「さあ来い!」とばかりに迎え撃つ。

 ゴルザの鋭い爪での攻撃、しかしレッドキングは太い腕を広げて、ゴルザの喉元にラリアットをお見舞いした。

 のけぞるゴルザ。レッドキングはすかさず追撃に両拳を合わせてゴルザの脳天にハンマーパンチを食らわせ、さらに腹蹴りからタックルへと組み合わせて一気に追い込んでいく。その強烈な連打には、さしものゴルザも口から苦悶の声を吐き出して後退を余儀なくされた。

 単純だが圧倒的なパワー。この怪力が、レッドキングの最大の持ち味だ。レッドキングは、光線や超能力といった類の武器は一切持っていないが、代わりに怪獣界でもトップクラスの超怪力を持っているのだ。

「バカ力も極めれば最強ってことか」

 ジルの皮肉もある意味では正しい。レッドキングのプロレス技に似たファイティングスタイルから繰り出される攻撃の数々は強烈の一言につき、日本アルプスに出現した個体は、それだけで自分より多彩な武器を持つ彗星怪獣ドラコや冷凍怪獣ギガスに勝利しているのだ。

 自分の優勢を喜ぶように、喉を鳴らすレッドキング。体をかきむしるようにするしぐさは、まるで「お前の攻撃など効かないぞ」と言っているかのように余裕綽々で、人間臭いポーズにはジルとシルフィードも思わず苦笑してしまった。

 が、ゴルザも力自慢の怪獣の一匹とはいえ、レッドキングと違ってパワーだけの怪獣というわけではない。

 最初は正面対決を挑んできたレッドキングにプライドから真っ向勝負を受けてたったが、相手がパワーでは自分を上回るとわかると戦法を変えてきた。胸部から頭部にかけて赤い光が走り、超音波光線が額から放たれて、油断していたレッドキングに直撃した。

「バカーッ! 調子に乗るからなのね」

 まったくそのとおりだった。超音波光線の威力は絶大で、無防備で直撃を食ってしまったレッドキングはもんどりうってゴロゴロと転がされるはめになってしまった。

 それでも、硬い皮膚のおかげで致命傷だけは避けたレッドキングは怒りの声とともに起き上がってくる。前傾姿勢をとり、重心を前にしての突進攻撃だ。山津波で大岩が流されてくるにも似た猛烈な進撃の破壊力は、すさまじいというレベルではすまないだろう。

 が、どんなすごいパワーも当たらなければ無意味だ。ゴルザは、レッドキングのパワーを十分に学習していたので、これを受け止めるのは無理だと即座に判断、受け止めると見せかけて、体をひねって突進をやり過ごしてしまった。

 空振りして、勢い余って盛大にすっ転ぶレッドキング。

「あれは、顔面打ったな」

「いたそーなのね」

 あまりにも見事な転びっぷりに、ついジルとシルフィードは戦いの緊張感を忘れてつぶやいてしまった。

 土に頭をめり込ませてもがくレッドキングは、やっと頭を引き抜いて泥を振り払うために頭を振った。だが、さらにその隙にゴルザの超音波光線が、今度はレッドキングの臀部に命中して、レッドキングは文字通り尻に火がついた状態で転げまわった。

「マヌケ」

「ぷふっ」

 悲鳴をあげて七転八倒するレッドキングの無様な姿に、ふたりともため息をついて呆れて、ちょっと笑ってしまった。

 あれじゃまるでガキのケンカだ。死闘のはずなのに、どうにもリアクションが人間臭くて笑えてしまう。こっちも命を賭けて観戦しているのだから、もう少しまじめにやってほしい。もっとも、こんな願いごとをしている時点ですでにバカみたいなのだが。

 尻の火をやっと消したレッドキングは、今度こそ怒ったぞと言うふうに威嚇のポーズをとるが、すでにゴルザは少しも恐れた様子はなかった。すでに威厳も貫禄もボロボロである。

 かえって、お前なんぞ怖くはないと言わんばかりにゴルザは喉を鳴らして笑うような声を出した。

 これに逆上したのがレッドキングである。単純にも、挑発にコロリと乗って、山が崩れて転がっていた数十メートルの大岩を持ち上げて、ゴルザにぶっつけようと顔の前まで抱え上げた。

 だがしかし、そんなこれ見よがしな攻撃アクションをゴルザも見逃すわけはなかった。レッドキングの持ち上げた岩に向かって超音波光線が放たれて爆発する。その音と衝撃に驚いて、つい手を放してしまったレッドキングの足に大岩が落下して、ひどいことになった。

 哀れになるくらいの悲鳴が響く。

「あいつ、もしかして頭が悪いのか」

「もしかしなくてもバカなのね」

 シルフィードにまで言われてしまってはおしまいだった。が、それこそがレッドキングの本質を、見事なまでに言い当てているといえる。

 そう、レッドキングはパワーこそすさまじいの一言であるが、大男総身に知恵が回りかねを地でいっており、非常に頭が悪い。戦法は力任せに相手に向かっていくの一点張りで、引くことを知らず、ましてや作戦を立てて戦うなどといった高等なことはまったくと断言してしまっていいほどできない。

 これが、自分よりも格が下の相手ならばそれでもいい。しかし、このゴルザのように実力が伯仲した相手だと猪突猛進は欠点にしかならない。事実、レッドキングはパワーではウルトラマンにも勝るに関わらず、初代ウルトラマンと戦った二体の個体はそれぞれウルトラマンの素早い動きと頭脳プレーに翻弄されて負けている。

 例外としてはウルトラマン80と戦った三代目は芸達者で80を苦戦させたが、これは魔法の力で作られたイミテーションなので厳密にはレッドキングのニセモノである。

「これは、勝負あったか」

 ジルがいまいましげに吐き捨てた。狩人として生きてきた彼女には、野生での戦いで知力がどれだけ大切なものか嫌というほど思い知っていた。武器を持ったとしても、獣よりはるかに肉体的に劣る人間である自分が勝ち残ってこれたのは、獣の弱点を突き、罠を仕掛ける知力があったからにほかならない。

 しかし、まだ戦いは終わっていない。レッドキングが敗北するということは、そのままゴルザがふたりに襲い掛かってくるということで、そうなったら万に一つも生き残れる可能性はない。理不尽だが、どうあってもレッドキングには勝ってもらわなくてはならないのだ。

 運命を預けたジルとシルフィードの見守る前で、勝手に運命を預けられたレッドキングは痛みに完全に頭にきた様子でゴルザに突進していった。

 やはり、奴は引くことを知らない。闘争本能の塊のような怪獣だ。

 パンチを繰り出そうとするレッドキング。怒りのパワーが加わっているので、その破壊力は相当なものになるだろう。

 が、やはり直線的すぎる。見切るのも子供でもできるほどで、ゴルザがちょっと体をひねって尻尾で足払いをかけただけで、あっさりと転倒させられてしまい、もがいているところで尻尾を踏んづけられてしまった。

 起き上がれなくなったレッドキングをゴルザは足蹴にし、腹を蹴り上げて転がした。抵抗できないところへの一方的な攻撃を受けて、さしものタフなレッドキングもダメージが蓄積してよろめいてくる。だがさらに、やっと起き上がろうとしたところへゴルザは超音波光線を放ち、容赦なく追撃をかけてきたのだ。

 超音波光線の命中、レッドキングの胸で爆発が起こり、巨体が大きく揺さぶられた。

 あれは、並のダメージではない。ジルは、これで大勢は決したと、自嘲じみた笑みで認めざるを得なかった。

「ジ、ジル……」

「慌てるな。あたしたちはあいつに運命を託したんだ。なら、せめて最後まで見届けるのが筋ってもんだろう」

 どっちみち逃げ場はない。ならば、けじめだけはつけようとジルは覚悟した。

 だがそれでも、レッドキングはその後も予想外の善戦は見せた。ダメージを受けた体ながら、パンチやキックを繰り出してゴルザを攻めまくる姿は、悲壮感さえ感じさせられてふたりの胸を打った。

 ただし、善戦では勝利にはつながらない。すでに体力差が大きく開いている上に、やはり飛び道具を持つゴルザが優勢に違いなかった。レッドキングはボロボロにされ、ついに倒れこんでしまった。

「あ、ああ……」

 勝敗は決した。レッドキングはまだ戦おうと荒い息をついているが、もう立ち上がる力すらろくに残っていまい。いや、ゴルザがそうはさせてくれないだろう。

 レッドキングは蹴り飛ばされ、超音波光線を容赦なく浴びせかけられる。その凄惨な光景には、目を覆わんばかりだった。

「い、いくらなんでも、これはあんまりなのね!」

 もちろん、そんなことを言っても通じるわけはない。生きるか死ぬかの野性の勝負は、とにかく勝ったものがすべてなのだ。

 息の根を止めてやるとばかりに猛攻を続けるゴルザ。レッドキングは抵抗する術を失い、悲鳴のような叫び声をあげるしかない。

 だが、その悲痛な叫びが山を揺るがしたとき、信じられない異変が起こった。

 

「うわっ! わわわわ! また地震なのね」

「前のよりでかい! これは……な、なんだとぉ!」

 

 レッドキングの現れた山が崩れて、中から大岩の海を泳ぐように巨大な影がせり上がってくる。

 大気を揺るがす聞きなれた声、飛び出てくるドクロのような頭はまさか!

 そして、無数の大岩をまるで火山弾のように打ち上げて地上に姿を現したのは、なんともう一頭のレッドキングだったのだ。

「お、同じ怪獣! もう一匹いたのか」

「けど、今度は真っ赤なやつなのね。あっ! ジル、危ない!」

 出現した二頭目のレッドキング。それは、最初に現れた銀白色のレッドキングと姿かたちは同じだが、背丈が一回り大きく、何よりも全身がその名に示されるとおりに真紅に染まった、正真正銘のレッドキングであった。

 猛烈なパワーで山を吹き飛ばして現れたレッドキングの撒き散らした岩が、周辺に雨のように降り注ぐ。抱えるほどの大きさの岩くれも無数に混じっており、当たれば人間なんかひとたまりもない。シルフィードは、竜の姿に戻って翼を広げ、ジルと馬を覆いかぶさるようにして守った。

「お、お前!」

「シルフィ、これでもドラゴンだから、このくらいはへっちゃらなのねっ! うっ、いっ! だ、だいじょうっ」

 シルフィードの背中に岩が次々と当たる。我慢してはいるが、相当な痛みを味わっているのは、涙目になった彼女の目つきを見ればわかった。しかしこうしなければ、ジルは岩の雨の中で即死だったのは間違いない。

「バカやろう、ガキのくせに無茶なんかして」

「こ、こういうところはおねえさま譲りだと思うのね。そ、それよりも、怪獣がっ! あうっ!」

 そうだ、戦いはまだ終わったわけではなかった。

 視線を向けるジルとシルフィードの前で、新たに現れた赤いレッドキングは一直線にゴルザに挑みかかっていった。

 突進。いや、猛撃、猛進、激震! そう呼んでいい進撃を前にして、ゴルザも超音波光線で迎え撃つが、赤いレッドキングは超音波光線の直撃をまともに受けながらも、それを無視してゴルザに頭から体当たりを食らわせてぶっとばした。

「ぬうわぁっ!?」

 衝突の衝撃波だけでジルは吹き飛ばされそうになった。だが、その衝撃のおかげで周辺の瓦礫も吹っ飛び、ジルは傷だらけになったシルフィードを助け起こした。

「おいお前! くっ、はやく人間になれ。その図体のままじゃ手当てできん」

「わ、我を包む風よ、わ、我の姿を変えよ……へへっ、シルフィも少しは役立てたかのね?」

「こいつ、無茶するところはシャルロットに似やがって。心配するこっちの身にもなれ!」

「ジ、ジルこそ、そういう優しいところはおねえさまと似てるのね。ほら、見て、あの怪獣たちも……」

 見ると、あの赤いレッドキングが、ゴルザにやられていたレッドキングを助け起こしていた。倒れた仲間のたもとに寄り添い、顔を近づけて、身を案じるように穏やかで優しげな声を出している。その声に応えて、死に掛けであった最初のレッドキングもよろよろとながら起き上がって、赤いレッドキングに頭を摺り寄せた。

「あの赤いの、銀色のやつを助けに来たのね」

「ああ、親子か夫婦か……まさか、こんなことがな……」

 恐ろしいキメラや怪物・化け物と戦って生きてきたジルは、目の前で、まさか怪獣たちがこんな光景を見せてくれるとは信じられない思いで見ていた。

 二匹のレッドキングは、互いに再会を喜び合うかのようにしばらく顔をすり合わせて話のようなものをしていたようだったが、やがてゴルザが起き上がってくると、二匹揃って臨戦態勢に移った。

 レッドキングの特徴的な雄たけびが二重になって響き渡り、スタートした最終ラウンドに二匹のレッドキングとゴルザが激突する。

 最初に口火を切ったのはゴルザであった。これまで余裕を保っていられたのだが、さすがに相手が二匹になると話が違う。先制攻撃とばかりに、エネルギーを振り絞った超音波光線を放って、傷ついたほうのレッドキングに先にとどめを刺そうと狙ってくる。いくら二匹に増えても所詮バカはバカ、一体を片付けてしまえばそれで元通りと考えたのだろう。

 だが、レッドキングのタッグは狡猾なゴルザに単純な本能から出た行為で立ち向かった。赤いレッドキングが銀色の前に出て超音波光線の盾になり、銀色がその隙をついてゴルザを殴り飛ばしたのだ。

「かばった!」

 やっぱり、あの二匹は単なる仲間というわけではなく、我が身を挺して互いを守ろうという絆があるようだ。

 レッドキングの渾身の一撃を受けて、さしものゴルザも大きなショックを受けて吹っ飛ばされた。傷ついているのに、いや傷ついているからこそ、怒りのパワーが追加されて威力が増加され、さらに仲間がついているという支えが生まれて倍増しているのだろう。

 ゴルザはあまりのショックに、頭をふらつかせながらも間合いをとろうと後退しはじめた。超音波光線による遠距離攻撃で形勢を立て直そうという考えなのだろう。が、二匹のレッドキングは、本能的にそうはさせじと猛烈に突進してゴルザに無理矢理肉弾戦を挑んでいった。

 銀色のレッドキングの頭突きに、赤いレッドキングのショルダータックルが続いて炸裂する。

 よろけるゴルザ。だが攻撃はやまずに、二匹はさらなる攻撃へと移っていった。

 赤いレッドキングのストレートパンチが炸裂し、吹っ飛んだところへ銀色のレッドキングの尻尾殴打が決まる。

 パワー×パワー、レッドキングの怪力は怪獣界でもトップクラスなのに、二匹ともなれば自乗して四倍ともなるだろう。小細工も、これだけ増大したパワーの前では役に立たずに、ゴルザの爪もレッドキングの皮膚をわずかに切るだけに過ぎない。

 それでも、超音波光線のゼロ距離攻撃が決まり、赤いレッドキングが吹き飛ばされた。

 やられたのか? だがその瞬間、銀色のレッドキングがゴルザを羽交い絞めにし、喉元に鋭い牙で噛み付いた。

「うわっ!」

 あれはと、シルフィードは背筋が凍る思いがした。

 噛みつきとは、多くの肉食動物が必殺の武器として使用するように非常に威力が高い攻撃だ。いやそれ以上に、肉に牙が深く食い込むために、非常に痛いのが何よりの恐ろしさで、人間でも子供が噛み付いた程度で大人が悲鳴をあげるくらいのものが、レッドキングの怪力と牙でされたらもはや想像を絶する。

 ゴルザもその例外ではなく、これまでにはないくらいの悲鳴をあげて苦しんでいた。

 そして、その間に蘇ってきた赤いレッドキングが腕を鳴らしながら力を溜め、羽交い絞めにされたゴルザに全力のラリアットを食らわせた。首筋への直撃に、ゴルザの瞳から焦点が失われ、口元から泡が漏れた。

「決まったか……」

「ひえ、ひぇぇぇ」

 恐ろしいまでに情け無用の攻撃に、元来平和主義者のシルフィードは心底震えていた。

 もし、この場に才人がいたら「まるで悪役レスラーの試合だ」とでも評したかもしれない傍若無人なファイトスタイルこそ、レッドキングの本来の姿であった。

 そう、悪逆非道、天下無双、怪獣一の暴れん坊。血を見るのを何よりも好み、友好珍獣ピグモンをさえ容赦なく殺害したレッドキングは最強の大悪党、泣く子も黙る怪獣の王様なのである。

 

 二対一の戦いもちっとも卑怯ではなく、文句があるならかかってこいとばかりに雄たけびをあげるレッドキング。

 しかし、ゴルザも弱りきっているが、銀色のレッドキングもまた死に体であった。戦いに復帰したものの、全身の傷から赤い血が流れ、息も苦しそうにぜいぜいと乱れている。

 これ以上戦いが長引いては、銀色のレッドキングも持たないだろう。すると、赤いレッドキングは銀色のレッドキングの傷をいたわるように体をすりよせ、なにかを告げるように喉を鳴らした。

「終わるな」

 ジルは、数々の経験から獣が集団で狩りをするときの習性を身に染み込ませていた。

 あれは、追い込んだ獲物の息の根を止める合図だ。やつらは、次の一撃でとどめを刺すつもりなのに違いない。

 突進する二匹のレッドキング。ゴルザは虚ろな意識で危機を察知し、本能的に超音波光線を放とうとしたが、狙いさえつかない状態では当たるはずがない。

 外れた光線で巻き上がる爆発。そして次の瞬間、二匹のレッドキングは左右から挟みこむようにして、ダブルラリアットをお見舞いした!

 

 大気を揺さぶる激震。さらに、ゴルザの短い断末魔の声が流れたとき、戦いの勝敗は決した。

 ゆっくりと、ひざを突いて倒れこむゴルザ。その尻尾がわずかに痙攣し、瞳から光が失われた。

 

 絶命……その瞬間、レッドキングの勝利の雄たけびが森と山々にこだました。

 鋭い牙の生えた口を広げ、万歳をするように雄たけびをあげるレッドキング。それはまさに、「この土地の支配者は俺たちだ、邪魔する奴は皆殺しにしてやるぞ」とでも、生きとし生ける者たちに宣言しているかのようだった。

 まさしく、大悪党、王者の貫禄。大王や暴君は他にいるので、そちらの呼称は使えないが、それでも十分に風格のある偉容であった。

「次はあたしたちか……」

 とんでもない奴らを目覚めさせてしまったと、ジルは観念した。ゴルザは首尾よく倒してくれたものの、逃げ隠れする場もないこんなところにいる自分たちは、絶交の餌食にされてしまうに違いない。

 携行した武器だけでは、一匹なら目くらましもできるが二匹ではどうしようもない。多くの命を狩って生きてきた手前、こういう最期を迎えることはずっと昔から覚悟しているつもりであったが、どうも心残りが多いのが情けない。

「悪いな、お前くらいはなんとか逃がしてやるつもりだったんだが」

「い、いいのね。シルフィだって、誇り高い風韻竜の眷属なのね。な、仲間を置いて、じ、自分だけ逃げるなんてするくらいなら、しん、死んだほうがましなのよよよよよね」

「やせ我慢するな。わたしが食われてる隙に、なんとかドラゴンになって逃げろ。片翼でも、わたしよりは助かる可能性がある。お前には、やることがあるだろう?」

 自分は本来、四年前に死んでいるはずの人間だとジルは自嘲げに言った。キメラドラゴンと刺し違えるはずが、シャルロットに拾われて繋ぎ止めた命、あの子に返すことになるだけだと言い、ジルはシルフィードに告げた。

「ほら、連中こっちに気がついたよ。チャンスは一瞬だ、全力で飛びな。決して後ろを振り向くんじゃないよ」

「で、でも!」

「ぐずぐず言うな! どっちみち、あたしを乗せてあんたは飛べないんだ。なら、これしかないだろう」

 これ以上文句を言うならあんたを先に撃ち殺すと、ジルはシルフィードに矢の先を向けた。

 レッドキングは、その黒々とした瞳の先をジルとシルフィードに向けていた。彼らは、ジルが封印を解いた張本人だと、もちろん知っているはずはないが、手を伸ばせばすぐに届く獲物とは映っているだろう。

 来るか? ジルはシルフィードをかばいつつ、逃げる合図をしようと身構えた。

 

 だが、今にも襲ってくるかと思われたレッドキングたちは動かなかった。いや、赤いレッドキングはジルたちを見つけはしたが、一瞥すると、その後は見向きもせずに、銀色の傷ついたレッドキングに寄り添った。

 荒い息をついている銀色のレッドキングは苦しそうで、勝ちはしたものの重傷なのが見るからに痛々しかった。

 すると、赤いレッドキングはゴルザとの戦いのときの凶暴さとはまるで違う、穏やかな声と、優しい動きで手を差し伸べて助け起こしたのだ。

「あ、あいつ……」

 赤いレッドキングに肩を貸されて、銀色のレッドキングはよろよろと歩いていった。

 銀色が苦しそうな様子を見せれば赤いほうはゆっくりになり、また苦しそうな様子を見せれば、顔を寄せてはげますようにうなっている。

 唖然として見守るジルとシルフィードの見守る前で、赤いレッドキングと銀色のレッドキングはふたりに一瞥もせずに通り過ぎていく。

 そして、赤いレッドキングは自分たちが出てきた山腹の穴の中に銀色のレッドキングを横たえると、自分もそばによって穴に入った。後は、手足と尻尾を使って周囲の岩を崩すと、二匹の体は岩にうずもれてまったく見えなくなってしまった。

 再び眠りについたのだ。傷を癒し、もう互いに二度と離れないために……その、あまりに戦っているときとは印象の違うレッドキングたちの姿に、ジルとシルフィードも毒気を抜かれてやれやれと体の力を抜いた。

「やれやれ……まさかあんなものを奴らが見せてくれるとはな」

「仲のいい夫婦だったのね。きゅいっ」

「ああ……奴らには、悪いことをしちまったな」

 本気で、ジルはそう思った。

 最初は、道具として利用してやるだけのつもりだった。怪獣には、昔からひどいめに会わされてきた。自然の中で生きる上で、情けは無用だと自分に徹底的に教え込んできた。

 なのに、まるで人間みたいに相手を思いやることを、まさか怪獣たちが見せてくれるとは。

 大切なものを守りたいと思う気持ちに、人間も怪獣も変わりはない。ただ、それだけのことだったか……ジルは、そう思うと自分の心の中が不思議と穏やかになっていくのを感じた気がした。そして、なにかを吹っ切ったような晴れ晴れした表情をシルフィードに向けると言った。

「さて、それじゃあたしたちも行くとするか」

「へっ? 行くって、どこへ?」

「あん? シャルロットの友達を助けに行くんだろ。時間がないんじゃないのかい」

 その言葉を聞いて、シルフィードの顔に満面の笑みが浮かんだ。

「ジル、そ、それじゃ! シルフィの力になってくれるのね? いっしょに来てくれるのね!」

「ああ、家もぶっ壊れちまったし、あたしもそろそろ山奥に引きこもってるのも潮時のようだ。あれから三年、そろそろ出てってもあたしの家族も許してくれるだろ」

 ジルの見上げた先には、荒れ果てて原型を失ったファンガスの森の、その先にある世界が浮かんでいた。

 家族が死んだ森、キメラとの苦しい戦いの日々がジルの脳裏に蘇る。だが、死者の魂を慰める日々も、もう終わらせていいはずだ。

 死者への別れを、ジルは心の中ですませた。すると、遠い目をしているジルにシルフィードが尋ねた。

「ジル、けど、あれだけしぶってたジルが、なんで、どうして?」

 そうすると、ジルは鼻の頭を軽くかき、照れくさそうに言った。

「へっ、あたしとしたことが、少し昔を思い出しちまったのさ。父さんや母さんがいる幸せだった頃を……あたしには、もう遠い思い出だけのことだけど、シャルロットにはまだ帰れるところがある。それを守ってやらないとな」

「でも、ジルはそれはおねえさま自身の問題だって」

「そうさ。けど、あの二匹を見てて思ったんだ。本当に苦しいときこそ、仲間の助けが必要なんだって……シャルロットは、立派にお母さんを助けだすために戦い抜いた。なら、力尽きて倒れたときに手を差し伸べてやるのは、あたしの役目だ」

「ジル、ありがとう。ありがとなのね」

 シルフィードは、ジルの胸に顔をうずめて思いっきり泣いた。長い間の緊張が切れて、やっと安心できるからか、涙が後から後から湧いてきて、ジルの皮と木綿の服を濡らした。

「やれやれ、あたしの何倍も生きてるくせに、まだガキだな」

 そんな子供が、シャルロットのためだけにあれだけの冒険を潜り抜けてきたのだ。考えてみれば、シャルロットとてまだ子供のうちに入る。今回の一件は、明らかにシャルロットひとりの身には余る。なら、大人が助けてやらねばなるまい。

「おいおい、そろそろ泣き止め。まだなんにも終わっちゃいないんだ。ガリアの王様は、あたしたちに当に感ずいてる。のこのこと出て行ったところを捕まって、まとめて首を切られる可能性のほうが高いんだよ」

「ぐすっ、大丈夫なの。最後まであきらめずに打ち込めば、きっと大いなる意志は正しい者に味方してくれるの。それに、おねえさまは数え切れないくらい不可能を可能にしてきたの。やる前からあきらめちゃダメってことは、おねえさまが教えてくれたの!」

「まったく、使い魔は主人に似るか。しかしま、あたしも一度決めたことだ。いまさらガタガタ言ったりしやしないよ。さて、今度こそ行こうか。ぐずぐずしてたらシャルロットが帰ってきちまう」

「うんなのね!」

 

 ジルとシルフィードは、馬の背に揺られながら旅立った。目指すはリュティス、ジョゼフの待ち受けるグラン・トロワ。

 

 三年間住み、隅々まで知り尽くした森の風景がジルの眼に入っては通り過ぎていく。

 ファンガスの森、ここで自分とシャルロットのすべてが始まり、また自分はここから始めようとしている。

 父と母と妹を奪ったキメラドラゴンとの戦い、戦士として覚醒し、仇を討ってくれたシャルロット。そして、自分たちを救ってくれた不思議な青い巨人。すべて、みな、懐かしい。

「あばよ、ファンガスの森。さようなら、みんな……あたしはここから出て行く。もう二度と戻ってくることはないだろう。でも、心配しないでくれ。あたしは、これからいろいろ苦労することになると思うけど、前だけを向いて生きていくからさ」

 ジルは振り返らない。過去しかないこの森を離れ、未来に新しく生きるために、過去を捨てて身軽になって歩みだす。

 頼りない竜の子のお守りでも、重苦しさは少しもない。

 行く先に、ジョゼフがどんな罠を張っていようとも、孤独でない者は強いのだから。

 

 

 続く

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