ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第9話  ガリア軍動く、戦塵を呼ぶロマリアの影

 第9話

 ガリア軍動く、戦塵を呼ぶロマリアの影

 

 再生怪獣 サラマンドラ 登場!

 

 

「すべての生命を等しく守ろうなどとおこがましいと思わんかね?」

「まっ、待て、待ちやがれ……ちくしょ……ちくしょおぉぉぉっ!」

 

 ぐるぐる、ぐるぐると、同じ瞬間が目の前に何度も流れては、その度に自分の絶叫が響いて、最初からまた繰り返される。

 キリエロイドのせせら笑う声と、その凶行を目の前で止められなかった自分の無力さへの悲嘆。それらが逃れられない無限ループとなって、悪夢の世界で才人を責めさいなんでいる。

 

 そう、才人は今、悪夢の世界にいた。

 ロマリアで体験した、人間の醜いところをかき集めた光景から受けたショック。そして、絶望しきった人々を連れ去っていったキリエルになにもできず、誰一人救うこともできず、初めて何一つとして成し遂げることのできなかった挫折。まだ若い才人の心は千々に乱れ、後悔と無力感の円弧の中で幻想に苦しめられていたのだ。

 無限に思える繰り返し。しかし、悪夢のループは外から割り込んできた、親友の案ずる声によって破られた。

 

「サイト、おいサイト。起きろ、目を覚ませって」

「うっ……はっ! こ、ここは……ギーシュに、ルイズ?」

「サイト! サイト目を覚ましたのね。よかった」

 

 闇から突然光の中へ引きずりあげられた才人は、焦点の定まらない目で辺りを見回した。

 小さな部屋に質素な調度品、自分は小さなベッドの上に寝かされている。

 そして、自分を見下ろす十数人の眼。目をこすって確かめると、それは水精霊騎士隊の親友たちとルイズの心配げな顔であった。

「みんな? おれは、どうしたんだ?」

「まだ頭がはっきりしてないのかい? 君、ルイズといっしょに街の広場に倒れていたんだぞ。朝になったら君たちがいないから、ぼくたちがどんだけ心配したことか」

「ああ、ギーシュ……すまねえ」

「いったいふたりで夜中に宿を抜け出してなにをしてたんだね? 逢引かと言いたいところだが、君に限ってそんな甲斐性があるわけないもんな。ルイズは、サイトはサイトはとうろたえてばかりで話にならないし、君は死ぬほどうなされてるし、いったい何があったんだね? 隊長として、問いたださざるを得ないよ」

 ギーシュの言葉は、仲間を思いやる親しみに満ちていたが、同時に責任者として断固たる答えを求めるものでもあった。

 対して、才人に取りうる返答は沈黙だった。もとより、とっさにうまい嘘をついて場を逃れることができるほどに口がうまくはない。悪い意味で正直者といってしまえばいいが、結局才人ができたのは話を引き伸ばすことくらいだった。

「迷惑をかけちまったみたいだな……ルイズは、もういいのか?」

「あんたほどじゃないからね。わたしにとっては、サイトのほうが心配だから」

「すまねえ。ねえさ……ミシェルさんはいないのか?」

「副長どのは、情報収集に出て行ったよ。サイトには、わたしよりもお前たちのほうがついていて安心するだろうからってさ。本当は自分がついていたいだろうに、ルイズといいあの人といい、女性ってのは強いな」

 まったくなと、才人は心の中で同意した。と同時に、みんなに心配をかけていたことの後ろめたさとみじめさがあらためて湧いてくる。

 情けない……キリエルの誘いに乗ってのこのこ出て行って、あの無様さ。自分はどこかで、エースの力を過信しすぎていた。自分の力でもないのに沈着さを欠き、キリエルがその気であったら確実にやられていただろう。それはエースのせいではない。戦場を最悪のパターンで始めた、自分たちがうかつだったのだ。

 才人は、積み上げてきた自信をいっぺんに崩されたような心理的空白を胸中に感じた。抽象的に表現すれば、鼻っ柱をへし折られたとでもいうのだろう。自意識を急激に上昇させていく若者にはよくあることだが、才人は知らず知らずのうちに増長していたところへ、まさしくその洗礼を受けたのだった。

 ほんと、おれって奴はバカだ。自己嫌悪の海の中で、才人は自分を責めた。気を失って倒れているとき、もしも早期に見つけてもらえなかったら、このロマリアの貧民窟の中でどうなっていたことか。

「けど、よくおれたちを見つけられたな。この宿からあの広場まではけっこう離れてるのに、いい勘してるよ」

 するとギーシュは首を横に振った。

「いいや、君たちを見つけたのはぼくらじゃないよ。たまたま、親切な人が通りかかってくれてね。ちょうどいいから、先にお礼を述べておきたまえ」

 すると、ギーシュは仲間のひとりを部屋の外にやり、人をひとり呼んでこさせた。

 そいつは、才人たちと同じくらいの年頃の少年で、驚くほど整った顔立ちをした金髪の美少年であった。

「やあ、気がついたようだね。元気なようで、なによりだよ」

「あ、ああ……お前。いや、君がおれたちを助けてくれたのか?」

「そうだよ。広場で怪しい集会がおこなわれていると聞いて、行ってみたら広場はもぬけの殻で、君たちふたりが倒れていたんだ。そのままにしておくわけにもいかないから、どこかの寺院に運ぼうとしていたら、君たちを探していたここの人たちと出会ってね」

 才人は、ベッドのそばにやってきたそいつの顔をじっと見上げた。なんというか、目鼻立ちが整いきって逆に非現実的な雰囲気を感じる。水精霊騎士隊のギーシュやギムリもそれなりの美男子といえるだけの容姿をしているけれども、彼とは比べるだけ虚しく感じてしまう。人間の容姿を超越の存在が決めているとしたら、製作者のえこひいきを疑わざるを得ない、少女漫画のキャラクターを現実に持ってきたような奴だなと思った。

「ありがとう。あんたがいてくれなかったら、おれたちはどうなっていたか」

 とりあえず礼を言い、才人は握手の手を差し出した。その際にも相手の顔を観察するが、なにをおいてもとにかく美形なところが目に付いてしまう。いや別に、美形をひがんでいるというわけではないのだけれど、よく見ると相手の瞳の色が左右で異なっていた。

”カラーコンタクトか?”

 月目というものを知らない才人は場違いな感想を抱いた。もちろん、この世界にそんなしゃれた物があるはずがないだろうとすぐに思い至ったが、それをおいても自分とほぼ同じくらいの年齢のくせに妙に落ち着いた雰囲気を貼り付けていて、感情豊かな水精霊騎士隊と長く付き合ってきた才人には面白からざるものがあった。

「どうやら、体のほうもなんともないようだね。ふむ、なかなかいい手をしているね、君」

「はぁ? なんだ気持ち悪い!」

「おっとごめん。ぼくにもそういう趣味はないから安心してくれ。巡礼者だと聞いていたけど、タコだらけで立派な手のひらだね。まるで長い間剣を振るっていたような手だ」

 その瞬間、場に緊張が走った。

「お前、何者だ?」

 すると彼は、両手を広げて敵意のないことを示すと、人を食った笑みを浮かべて言った。

「これは失敬。最初にきちんと名乗っておかなかったぼくの落ち度だね。ではあらためて、ぼくはロマリア宗教庁つきで神官をやらせてもらっている。といってもメイジではないので、扱うのは平民と同じく剣なのさ。だから、同じ剣士の特徴はすぐわかる。これで安心してもらえたかな? 色男くん」

「誰が色男だ。お前みたいな奴に言われると嫌味にしか聞こえねえよ。おれには平賀才人って名前があらぁな」

「これはこれは、こんな愛らしいお嬢さんに慕われている男性には最高の賛辞だと思ったのだけけどね。ぼくの名前はジュリオ・チェザーレ、君とはけっこう仲良くやっていける気がするよ」

 正体を明かした神官の美少年は、人懐っこい笑顔で才人に親交を申し込んだ。

 しかし才人は、内心で「この野郎」と思わざるを得なかった。このジュリオという少年、すでに才人たちを助けたことと物腰やわらかな態度でギーシュたち相手には信頼感を築き始めているようであるが、才人にはその立ち振る舞いが作り物じみて見えてしょうがなかった。

 もちろん、助けられたことへの感謝はあるし、このような考えが恩知らずだということもわかっている。けれども、相手が美形であるということを差し引いても、どこか気に入らないところがあった。

 芝居じみた言動と道化のようなしぐさの裏に、なにか気持ちのよくないものを隠しているのではないか。今のところはそれは根拠のないただの言いがかりに過ぎないことだが、才人は胸の奥でチリチリと燃えている不審の炎の熱さを感じずにはいられなかった。

 

 

 ここで時系列はややさかのぼり、才人たちがロマリアに到着した日の未明に、場所をガリアに移して進行する。

 世界が滅亡へと突き進んでいるとしても、永遠に不動であることを外見上だけは誇示しているかのように堂々とそびえるヴェルサルテイル宮殿。その主は、傍らに黒髪の側近をひかえさせて、ひとりの客を前に唇に暗い笑みを浮かべていた。

「で、お前たちが余にしてもらいたいことというのはつまり、背教者になれということだな? いやいや、余もガリアの王座についてすでに三年、たいていの無茶な要請にも丸投げに応えてきたつもりであったが、これは始祖より王権をいただいた敬虔なブリミル教徒として通してきた余としては戦慄せざるをえないなあ」

「ご冗談を。あなたの御心に信仰心など欠片もないことは、すでに我らは見抜いております。むしろ、胸中を支配するのは不公平で無能な神への怒りと、同じくいつまで経っても破滅をもたらさない無能な悪魔への憎悪のみ。お戯れはおよしくださいませ」

 ジョゼフの乾いたユーモアに、王に対するものとしては非礼極まりない言葉を返したのはロマリアの神官服を着たひとりの若い男であった。

 人払いをし、護衛の兵もいない謁見の間には、その男を含めても三人しかいない。そこで、無能王と民にあざけられる王は、その程度の蔑称など紙くずほどの重さもないような不貞な企てに心を躍らせていた。

「ははは、俺の心を読んだつもりか。まあ別に隠しているつもりはないし、なんと呼ばれようともどうでもいいことだがな。しかし、遊んでやるのは大歓迎ではあるが、他人に遊ばれるのは気に入らん。お前たちの要請は面白いが、それにどういう意味があるのかな? これまで、水面下で動いてきた貴様らが我がガリア軍の力を借りたいとはな」

「それは、これまでどおりにふたを開けてのお楽しみということでいけませんか?」

 もしも、この会話を盗み聞きしている者がいたとしたら、彼らの会話の節々からでも危険な香りを嫌でも感じることになっていただろう。それにしても、ガリア軍を動かすとは尋常な物騒さではない。戦争を引き起こそうというのだろうか? いいや、そんな単純なことを連想するのは、ジョゼフという男を知らない者のいうことだ。

 だがその前に、ジョゼフは自分の問いに不明瞭な返答をした相手をあざけるように告げた。

「ふっはっはは、余を子ども扱いするのはやめてもらおう。確かにガリア軍は余の一存でどうとでも動かせる。そういう阿呆を総司令官に据えつけているからな。だが、それで余はどうなる? 余に反抗する者どもにとっては反乱を起こす絶好の機会だ。あくびの出るくだらん連中の世話を見なければいかんのは面倒極まる。それに、王の座に未練などないが、お前たちの道具として果てるのはごめんだ」

「……」

 試すようにジョゼフは眼前の男を見た。ジョゼフは内面を一見すると、捨て鉢な破滅主義者のように見えるが、行動には冷静に計算され尽くした思慮深さが覗いており、また、彼なりの美学を組み込んでいることがわかる。

 男子にとって、自らの美学に反する行動を強いられるのは大変な不快であるということについてはジョゼフも例外ではない。自身が主導権を握って他人を駒にして遊ぶのは大いにけっこうなことだが、人の作った舞台で踊るのは退屈の極みである。せめて陰謀の共同制作者くらいでなくては妥協してやれないだろう。

「お前たちの企みに乗って、我がガリアの艦隊が出動したら、それはおもしろい光景が見れるだろうな。しかし、どうせならばおもしろい見世物は最後まで見たいものだ。大団円を見る前に劇場から追い出されては未練が残るだろう? 劇の小道具として、ガリア軍ことごとく死に絶えさせることは別にいい。しかし、余のおもちゃでお前たちだけが楽しむのなら、いくら人のいい余でも不愉快は禁じえんものだ」

 ジョゼフは紛れもない悪人ではあるが、決して単純でもなければおだてに乗るような愚鈍な思考の持ち主でもない。陰謀の共同実行者を名乗るならば、自分を納得させられるだけの壮大さと緻密さを見せてみろ。そう言外に要求してくるジョゼフに対し、相手は慌てた様子もなく答えた。

「では、陛下に我々の最終目的を語ることにいたしましょう……ですがその前に……そうですね、陛下は例えば、花壇に雑草がはびこったときにどのような気持ちになられますか?」

「んん? 問答のつもりか。まあ、余も父上から受け継いだ宮殿の花壇の管理が義務ではあるが、さすがにこれだけ広いと面倒なこともしばしばだな。どこそこで雑草が増えた、虫が出たなどとうざったいことこの上ない」

「さようでございましょう。けれども、手入れをしなければ花壇は荒れ果てて滅んでしまいます。始祖ブリミルの使徒たる我々は、世界という名の花壇を管理してまいりました。この世界はまことに美しいものであります。その世界の花々を守るために、これまでは、花についた雑草や虫を丁寧に取り除いてきました。けれども今はどうでしょう? 人々の心は荒れ、始祖の血統たる王権も信仰を持たない者によって辱められています」

 相手の言葉に、ジョゼフは愉快そうに笑った。確かにそのとおり、直接名を出されてはいないものの、始祖ブリミルの末裔である王家の自分に、その祖先を敬う気など欠片もないことは何度確認しても間違いないことだ。

「我々は、数千年の努力の甲斐もなく、始祖の加護を忘れてしまった世人を嘆いております。世界を花壇に例えるならば、今は伸びすぎた雑草が完全に花を覆い尽くしてしまっているようなものです。我々は、もはや花壇とは呼べなくなった荒地を、始祖の愛した花畑に戻すために、ある決断をいたしました」

「ほう、決断とな? なるほど読めてきたぞ。しかしおかしいな、お前たちロマリアの目的は聖地の奪還なのではなかったか?」

「もちろんです。けれども、聖地を信仰心のない者に預けては、何度でも同じあやまちが繰り返されることでしょう。雑草がはびこった花壇は、一度火を放って汚いものを焼き尽くす必要があるのです。これは、その火種とお心得ください」

「はっはっは、なるほどなあ。そして、その火で焼かれるものには当然ながら不信心者の鏡である余も含まれるだろう。どうなんだ?」

「正直に申せばそのとおりです。しかし、わたくしどもは陛下にゲームを提供すると言ったはずです。その途中で脱落するも最後まで勝ち残るも陛下の立ち回り次第ではないですか?」

 今度こそジョゼフは腹の底から声を出し、呵呵大笑を広間に響かせた。

「ふっはははは! 確かにそのとおり。お前たちは協力者であると同時に対戦者なのであったな。これは余としたことがうかつなことであったわ。よかろう、お前たちの企みに乗ってやろうではないか!」

 するとジョゼフは控えていたシェフィールドに命じ、ガリアの誇る両用艦隊の、その総司令官に魔法通話をつながせた。

 

「余だ。いますぐ可能な限りの艦隊を使ってロマリアへ攻め込め。目標は、なんでもかまわん、人でも街でも目についたものは残らず吹き飛ばせ。ん? これはどうした意義のある戦争なのですかだと? あーああ、そうだなあ。高度な政治的意義があることなのだ。詳しいことは追って沙汰するから、とにかく飛ばせ……んん? お前はただ言われたとおりにしておればよいのだ。ああ、ああ、わかったわかった。それなら、成功したらロマリアをお前にくれてやる。領主にでもなんでも自由にしてやろう。よろしい、吉報を待っているぞ」

 

 時間にしたら、おおよそ一分になるかならないかというところだろう。ジョゼフは、まるで近所に子供を使いにやらせるかのような気軽さで、戦争の開始を命じたのであった。

 これでよいのだろう? と、得意げに笑いかけるジョゼフに、満足そうに笑い返すロマリアの男。けれどもジョゼフは、勘違いするなよと言うふうに、意地の悪い笑みに口元を変えて告げた。

「さあて、これでお望みどおりに火種は投げられたぞ。あとは、お前たちのほうで出迎えてもらうことになろうが、退屈だけはさせてくれるなよ? 余は気まぐれで気分屋だからなあ、ゲームなのだから、機会があれば好きなように遊ばせてもらうぞ。当然、異存はあるまいな?」

「もちろんです。我らも、すべてを円滑に運べるなどと甘いことを考えてはおりません。こうして私がここにいるのも、陛下を効率よく利用できるようにするためです。当にお気づきでありましょう?」

 ふてぶてしく言う相手の態度は、逆にジョゼフの対抗意識をかきたてた。

「むろんだ。ロマリアの人間の言葉ほどあてにならないものはない。教皇と神官のために尽くせば天国に行けるなどという大ウソを堂々と吹きまわっているような連中の同類だからな。が、だからこそ背中を預けるのがおもしろい」

「それでこそ、稀代の無能王にふさわしいお方。どうぞ、戦火をさらに広げるなり、我らをロマリアごと焼き払うなりご自由になさいませ。ただし、我らの計画が成就し、聖地を手に入れた暁には、陛下を含めて、この地上にはびこる人類という雑草を根絶やしにさせてもらいます。では、少しでも長いお付き合いを期待しております……」

 それを最後に、ロマリアの使者は部屋の暗がりに溶け込むようにして姿を消した。

 

 

 歪みと、陰鬱さと、狂気に満ちた会談は、参加者たちの一応の満足を得て終わった。

 

 

 謁見の間には、玉座の肘掛に面杖をつくジョゼフと、無言で話し合いを聞き続けていたシェフィールドのみが残った。

「よろしいのですかジョゼフ様。あの男、まだ本音を隠しているように見えましたが?」

「かまわんさ、相手の手札が見えているゲームほどつまらないものはない。まあ、余には別に隠し立てするようなものはなにもないのは嘘ではないのだがな。あの色男、余のすべてを見抜いているつもりでさぞ気分がよかろう。いまごろは、教皇陛下に計画通りにジョゼフを動かせたと報告しているのではないか?」

 生まれが違えばざくろの実ほどの数の女性を虜にしたやもしれない美丈夫の笑みと、今現在それを独占しているひとりの女の間に一般的な男女の色事の気配はない。しかしこの二人は、陰謀や謀略の相談を恋歌としているかのように楽しげな様子で話した。

「ジョゼフ様を手玉にとろうとは、自惚れるにも程がありますわね、ロマリアの連中は」

「仕方あるまい。やつらは、自分たちを神と始祖の次に偉いものと信じ込んでいる。王家とて、奴らから見ればしもべのしもべ、足元にひれ伏させる子羊に過ぎんのだ。かといって、この世に居もしない神や始祖を恐れる必要はないから、実際ロマリアの神官どもはこの世で一番偉いことになる。いわば生き神様さ、人間を見下すのは当然だろうよ」

「わたくしは東方の神官の出ですが、あの連中を見ていると、下品を承知で申し上げますが反吐が出ますね。私はジョゼフ様とともになら地獄へでも参りますが、あんな連中より先に死ぬのは、正直不愉快ですわ」

 普段は常に人をせせら笑う魔女のような態度をしているシェフィールドにしては、感情をあらわにした言葉だった。ジョゼフはシェフィールドの、そんならしからぬ様子をおもしろそうに眺めていたが、特にとがめるでもなく笑い声をあげた。

「ふっふっふっふ、お前が声を荒げるのは初めて見たかもしれんな。付き合いも長いと、意外な顔を見つけることができるものだ」

「も、申し訳ありませんジョゼフ様。私としたことが、はしたないところを……」

「かまわん、お前と余にいまさらなにをはばかるようなものがある。王の中には、臣下の礼の角度をいちいち計るものもおるそうだが、余は美しい礼儀作法などに興味はない。そんなことより、どうだ? このままロマリアの思うとおりにさせておいてよいと思うか?」

「私の心は、常にジョゼフ様のそれと同じく存じます。が、ジョゼフ様を下に見るものを私は許したくありません!」

 これもまた、沈着を常としているシェフィールドには珍しい強硬な態度であった。それだけ、あのロマリアの男が口外にジョゼフを侮辱していたのを感じ取っていたのであろう。むろん、ジョゼフも他人の手のひらで踊るのをよしとするような性格ではない。

「よかろう、余の意もまさにそのとおりだ。ゆくがいい、連中の計画なぞどうなってもかまわん。そしてお前の思うとおりの地獄を作り出してみせよ」

「はっ、おおせのままに。ついては、ヨルムンガントの使用も許可いただけるでしょうか?」

「ぬ? なるほど、あれもようやく完成したのだな」

「はい、技術協力をいただいておりましたビダーシャル卿の離脱で遅れておりましたが、先日に完成し、定数の量産と配備も完了しております。内偵して手に入れましたトリステイン魔法アカデミーの、異世界の技術で補いましたので、エルフの先住を使った本来のものと比較しても見劣りはしないかと」

 シェフィールドはうやうやしく礼をした。どうやらジョゼフには、チャリジャの残したものの他にもまだ切り札があるらしい。楽しむタネはまだまだ豊富にあると、そう聞かされたジョゼフはうれしそうにうなづいた。

「よいよい、なんでもお前の好きにしろ。余のミューズよ、お前が余のために働こうとするのに、なぜ余にしぶる理由があろうか」

「これ以上ないお言葉……必ずやジョゼフ様のご期待に添える光景をご覧に入れましょう」

 願いを聞き届けられたとばかりに、誇らしげに頭を下げたシェフィールドにジョゼフも満足そうに言った。

「楽しみにしているぞ。チャリジャの奴が残していった置き土産も、まだいくらかは残っていよう、好きに使うがいい。両用艦隊の司令はお前に従うよう命じてあるから、必要ならば使ってやれ」

「ありがとうございます。誓って、ジョゼフ様に勝利の報告をいたします。ごゆっくり、ご観覧くださいませ」

 これはジョゼフの使える駒のほとんどをシェフィールドに与えたに等しい。それだけの権限を惜しげもなく与えるジョゼフもたいしたものであるが、それは逆に彼がガリアという国に少しの未練も残っていないという証明でもあった。

 シェフィールドが鋭い瞳に決意を込めて立ち去っていき、ジョゼフは謁見の間にひとり残った。そのまま彼はしばらくじっと無言で考え込んでいたようであったが、ふと顔を上げると天井をあおいでつぶやいた。

「さて、これからが本当の勝負だな。あの連中、余に匹敵する異能の力を持っているとしても、しょせん狂信者の成れの果てに過ぎないのであれば余の敵ではない。が、もしも余が横槍を入れに乗り出すのも計算に入れていたとしたら……くくく、それはそれでおもしろい」

 手のひらの上で踊らされているのはどちらか? 知らずに道化のダンスを踊っているのはどちらなのか? 確かなのは、どちらもが我こそは術者だと信じていることだが、最後に笑うのはどちらか……いや、少なくとも勝とうが負けようが自分が笑うことはないだろうなとジョゼフは思った。

 

「シャルル、俺の弟よ。お前が生きているあいだ、俺は俺がほしいと思っているものをすべて持っているお前のために肩身が狭い想いをしてきた。しかし、お前がいなくなって、俺はこの世のあらゆるもので遊んできたが満たされることはなかった。お前がいない世界はつまらないのだ……そして、唯一、俺の心を満たしてくれるかと思ったシャルロットももういない。ならば俺はどうすればいい? お前が愛したこの世界を燃やし尽くせば、俺は後悔と絶望に打ちひしがれるかなあ……ふふふ、天国とやらで最後まで見ていてくれ。お前の兄は、世界のすべてをもてあそび、世界で最後に死んだ人間となってみせようぞ」

 

 相手が神でも悪魔でも、もはやジョゼフにはこの世界への未練はなかった。彼の本心は、彼を父の仇と狙っていたタバサでさえも知ることはなく、ただひたすらに失ってはいけないものを失った穴が虚無の風を冷たく鳴らしている。今さら他人に悪魔だろうとなんだろうと、どう呼ばれても関係ない。ジョゼフが、自分の存在を認めさせてやりたかった唯一の相手は、すでにこの世にいないのだから。

 

 

 ガリア軍動くの報は、一日の間を空けた明日の正午にロマリアとの国境線にて発せられた。

 国境警備の兵が目の当たりにしたものは、その姿を隠す術などないほどの圧倒的な数を誇る大艦隊。大型戦艦を中心にして中型戦艦が前後に布陣し、その周りを多数の小型艦が周りを固め、上空を守る竜騎士の数は数え切れない。このような威容を誇る艦隊は、ハルケギニア最強とうたわれるガリア両用艦隊をおいてほかにはありえなかった。

「接近中のガリア艦隊に告ぐ! これより先はロマリア連合皇国の領空である。ただちに停止して指示に従え!」

 緊急発進したロマリア艦隊とのあいだで、虚実交えた舌戦が繰り広げられた。

 ガリア側は、我々はガリア王家に反旗を翻した反乱軍であるから亡命を求めると言い、ロマリア領内への侵入を試みた。むろん、ロマリア側も、はいそうですかとすんなり入れてくれるはずがなく、本国に問い合わせてみると、予想通りの回答が返ってきた。

 もし、このまま時間が経過すれば、両軍ともに千日手のようになっていたかもしれない。なぜなら、ガリア艦隊はジョゼフの息のかかった首脳部はともかく、大半の将兵はジョゼフを快く思っておらず、突然命じられたこの出撃も、命令だから仕方なく従ってはいるが戦意など欠片もない。いざ戦闘を命じられた場合には、戦う理由すらないロマリアへの攻撃など承服しかねるという空気が満ち満ちていた。

 だが、ガリア艦隊の将兵たちのサボタージュの構えは実行されることはなかった。

「左舷に被弾、火災発生! ロ、ロマリア艦隊の砲撃です!」

 突如、なんの警告もなくロマリア艦隊から放たれた艦砲の一斉射撃がすべての迷いを吹き飛ばした。ロマリア艦から放たれる砲弾がガリア艦隊を切り裂き、着弾の黒煙と赤炎がほとばしる。そして、艦内には悲鳴と怒号が響き渡った。

 どういうことだ! なんでロマリアが撃ってくるんだ! 数のうえでは半分にも満たないロマリア艦隊がなぜ!

 将兵たちは混乱し、答えを求めて叫び続けた。が、その間にもロマリア艦の砲撃は続いて、ガリア艦の中では被弾の爆音と激震が轟き、パニックが増大していく。しかし、そこへ飛び込んできたひとつの命令が、彼らの思考を一方向へと決定付けた。

「左舷砲撃戦、目標ロマリア艦隊! 全砲門で応戦せよ!」

 その瞬間、将兵たちははじかれたように持ち場に戻って、まるで一個の機械と化したかのようにロマリア艦への反撃の態勢を整えていった。

 そうだ、敵は撃ってくる。撃ってくるなら撃ち返さないといけない。撃ち返さなかったら殺される。殺されたくはない!

 なによりも単純で強い生への欲求に支配されて、ガリア艦隊はロマリア艦隊に全力で牙をむいた。砲弾が空中で交差する激烈な砲撃戦、もはや戦うことにためらいを感じている人間はガリア艦隊にひとりたりとていなかった。

 

 その様子を、シェフィールドは戦闘空域から離れたところに浮いている船で眺めていた。

「なるほどね、こうすれば戦意に乏しい両用艦隊も本気で戦わざるを得ない。そして、一度踏み切ってしまった彼らはもはや後に引くわけにはいかなくなると……さすがロマリア、ここまで計算してお膳立てを整えていたのか。しかし、両用艦隊を相手にロマリア艦隊はほぼ全滅必至。それだけを捨て駒にするとは、連中はほんとうに狂っているようね」

 人類を絶滅させると言った、あの言葉はあながち嘘でもないらしい。恐らく、ロマリア艦隊の将兵たちには、ガリア軍を名乗る異端者たちの越境を命に代えても阻止せよとでも命ぜられているに違いない。自分たちが両用艦隊を捨て駒に考えているように、ロマリアの支配者も艦隊の将兵数千名の命を捨て駒にしようとしているのだ。

「悪辣なものね……」

 薄紫色の口紅をひいた唇を歪めてシェフィールドは毒づいた。これで、ガリアとロマリアの戦争が始まる。大義名分もなく、攻め込んで得たいものもなにもない、そんな無意味極まりない戦争でも、始まったからには戦い続けなくてはならないのだ。シェフィールドは、かつて自分たちもアルビオンで似たようなことをおこなったが、同族嫌悪とでもいうのだろうか、他人がやるのを見るのは不愉快極まりないと思っていた。

「まあ良いわ。元より、ジョゼフ様以外の人間などはどうなっても構わない。ロマリアの狂信者ども、そんなに聖地に行きたくば、そんなに世界を滅ぼしたいのなら、まずはお前たちからこの世から消してあげるわよ。幽霊になれば、世界のどこでも好きに飛んでいけるだろう」

 世界をゲーム盤にして遊ぶ権利を持つものは、我が主をおいて他に必要はない。ロマリアへの敵意も新たに、シェフィールドは自らの乗っている船、両用艦隊の弾薬補給艦に偽装させてある特別輸送船を降下させていった。

 着陸目標点は、崩壊した火竜山脈から続く、虎街道と呼ばれていた峡谷のあった場所。普通なら船の降りられるような場所ではないが、船は最初から使い捨てるつもりのシェフィールドは強引に地上に軟着陸させた。むろん、その強引な着地によって船は木片を撒き散らして大破した。だが、残骸の中から十体の巨大な人影が立ち上がってくるではないか。

 全高はざっと二十メートル、全身に鉄の鎧を着込んだ騎士のかっこうをしている。その洗練されたスタイルは、ハルケギニアのゴーレムの基準からしても極端に大きいということはないこの騎士人形に、不気味な威圧感を与えていた。

「ハルケギニアの魔法技術に、先住の力、それに異世界から来たという不可思議な技術を加えて作られた魔法人形。ジョゼフ様の大望を叶えるために生まれた、我らの忠実なるしもべ『ヨルムンガント』。ロマリア軍の馬鹿どもめ、お前たちはそこで両用艦隊相手に遊んでいるがいいわ。そのあいだに、こんな偽善に満ちた国は残らず焼き尽くしてやる」

 一体のヨルムンガントの肩に乗り、シェフィールドは鋼鉄の軍団に進撃を命じた。シェフィールドは、最初から両用艦隊をロマリア軍の主力から遠ざけるための囮として考えていたのである。

 目指す場所は言うまでもなく、ロマリアの首都。しかし、その途中にある街も村もシェフィールドは容赦するつもりは一切ない。家一軒、猫一匹にいたるまでも、このヨルムンガントで踏み潰し、焼き尽くしてやるつもりであった。

 進撃するヨルムンガントの巨人軍団。しかし、ロマリア軍も完全に無防備というわけではなかった。

「防衛線をひいてるね。砲亀兵の大隊が三つに、砲兵、砲撃魔法部隊、狙撃兵も潜ませているか……これはやはり、あの連中は我々が注文以上に動き出すことを予期していたということに他ならないか……どこまでも気に食わない連中ね」

 ここに来てシェフィールドも、ロマリアの連中が口だけではないことへの確信を強めた。不愉快だが、自分は奴らの挑発に乗せられてしまったようだ。これでは、いくら十体のヨルムンガントとはいえ、途中で戦力を消耗してロマリアまで持たないだろう。

「ロマリアめ、なんという屈辱……だが、いったい何を考えている? 奴らめ、このままガリアと全面戦争になってもいいというのか? いや、狂信者どもの考えなど、まともに読めるはずもないな。しかし、ことゲームであるというのであれば、ジョゼフさまを敗者にするわけにはゆかぬ。ならば、この機会を利用して奴らの手札を可能な限り引き出してくれる」

 シェフィールドはこのとき、ロマリアを明確に敵と見なした。奴らは将来必ずジョゼフさまを脅かす害虫となる、一匹たりとて生かしておくわけにはいかない。

 だが、奴らは得体のしれない力や、自分たちと同じく怪獣を操れることを以前に示している。手の内を知らないままに、力攻めに転じれば悪辣な奴らの思う壺にはまることになりかねない。いや、自分のことはどうでもいいが、ジョゼフさまに恥をかかせられない。

 敵の切り札を切らせるためには、こちらも相応のカードを切る必要がある。ヨルムンガントだけでなく、ロマリアが手の内をさらけ出さざるを得なくなるような強力なカードをとなれば、ひとつ。

「ジョゼフさまのお許しどおりに、チャリジャの置き土産を使わせてもらおう。さあ、とっておきの大怪獣よ、今解放してやるわ」

 シェフィールドの合図で、一体のヨルムンガントが奇妙な円盤状の装置を地面に置く。それはかつて、地球侵略を狙ったドクロ怪人ゴルゴン星人が攻撃用怪獣を細胞単位に分解して持ち運んでいた物と同じ形態の装置。それを時空を股にかける怪獣商人チャリジャが手に入れ、ジョゼフに渡した。

 そして、その中に封じ込められているものも当然。瞬時に細胞が形成され、装置の中からヨルムンガントをも見下ろす身長六十メートルの巨体。土色の肌を持ち、太く強靭な手足にはそれぞれ大きく鋭い爪が生えている。さらに頭部には人間でいうドレッドヘアに似たとさかが七本後ろに向かって伸び、逆に鼻先に向かって細くなっていく顔はスマートだ。

 再生怪獣サラマンドラ。ウルトラマン80とウルトラマンメビウス、ウルトラマンヒカリとも戦い、UGMやCREW GUYSを大いに苦しめた凶暴な奴だ。

「ロマリアめ、お前たちの真意をこちらも試させてもらうわ。我らの行動を読んでいるというのなら、当然これも想定しているはず。さあどう迎え撃つか? 今度はお前たちがカードを切る番よ。ロマリア軍ごときではこの怪獣は止められない。お前たちの手の内を見せるか、そうでなければロマリアを破壊しつくしてくれる。ゆけ、サラマンドラ! 好きなように暴れて、虫けらどもを思う様にふみつぶすのだ」

 遠吠えをあげ、サラマンドラは街道をふさぐように待ち構えているロマリア軍へと歩みだし始めた。

 アスファルトで舗装された道路でも軽くえぐりとる巨大な足が振り下ろされるたびに、激震が生じて地面が水面のように波打った。その無視しようもないほどの揺れは大地を通じて、地に足をついている者すべてに震源の存在を知らしめた。

「ド、ドラゴンの化け物?」

 怪獣の存在にまだなじみの薄いロマリアの兵に、サラマンドラがドラゴンに見えたのもいたしかたない。しかし、相手を大きいドラゴンと認識するか、本能的にでも恐怖を抱いて逃げ出すかで兵たちの運命は決まった。

 サラマンドラに立ちはだかった兵士たちはことごとくなぎ倒された。彼らの持つ大砲などは、いくら撃ったところでかすり傷もつけることはできずに、地球でもかつて何度も繰り返されては火の海に変わった戦車隊の突撃を再現するだけであった。

 防衛線は一匹の怪獣でズタズタに切り裂かれ、崩壊した戦線にヨルムンガントが突入することでとどめが刺された。

 甲冑をきた巨大ゴーレム、ヨルムンガントの持つ大砲で吹き飛ばされ、鉄塔のような剣が振られる度に隠れ潜んだ場所ごと宙に舞い上げられた。

「他愛もない」

 それはもはや、戦争と呼べる代物ですらなかった。サラマンドラを露払いに、ヨルムンガントは十分に戦力を温存した状態で悠然と行進していく。その行く先には、多くの人が暮らす街や村が無数に存在していた。

 

【挿絵表示】

 

 歩む先にある木々を蹴散らし、邪魔な岩を蹴り飛ばして進むヨルムンガントの軍団。シェフィールドは、さらに露払いのようにロマリア軍を粉砕していく土色の怪獣の様を見て、自分が世界の支配者になったような高揚感を覚えた。それは恐らく、地球を襲った多くの侵略宇宙人にも共通する心理であったろう。

 最初はためらっていたガリア艦隊の将兵も、一度戦いが始まれば、戦うことの高揚感に包まれている。

「くそぉ、俺たちは戦う気なんてないんだぞ。無能王に言われて嫌々やってきただけだ。白旗だって揚げてるのに、なんで撃って来るんだロマリア艦隊! お前たちが悪いんだからなあ」

「おのれ、ロマリアのくそ坊主どもめ。撃て撃て、撃ちかえせ! やらなきゃこっちがやられるぞ」

 空ではガリア軍両用艦隊とロマリア艦隊が激烈な砲戦を繰り広げ、一瞬ごとに船が炎に包まれていく。

 地上でも、ヨルムンガントの集団がロマリア軍の砲撃をはじき返し、鋼鉄の軍靴で兵隊を魔神のように文字通り蹴散らして進んでいる。

「なんなんだあのゴーレムは? 大砲の弾が効かないし、まるで人間みたいに素早く動くなんて!」

「逃げるんだあ、勝てるわけがないよ」

 シェフィールドがガリアの魔法技術を中心に、ありとあらゆる知識と技術を組み込んで作ったヨルムンガントは、それまでの戦闘用ゴーレムとは次元を異にする性能を見せていた。スピード、腕力、敏捷性、例えるならば才人が幼い頃に夢中になって見ていた巨大ロボットアニメの存在とでもいうべきか、身長二十五メートルにも及ぶそんな化け物が十体も暴れるのだからたまったものではない。

 そして、ヨルムンガント以上に猛威を振るっている存在……いや、一方的な破壊を欲しいままにしている怪獣。

「焼け! 私とジョゼフ様の前に立ちはだかるものはすべて焼いて踏み潰せ。ふふふ、異世界では怪獣兵器として使われているという、このサラマンドラ。お前たちごときで、止められるものなら止めてごらんなさい」

 シェフィールドの、快進撃というのも余るくらいに驀進するサラマンドラの後姿を眺めての笑いは止らない。

 怪獣商人チャリジャの置き土産の一体。鼻から吹きだす千三百度の火炎は長射程で、空飛ぶものから地に伏せるものまで余さず焼き尽くす。その猛威の前に、ロマリア軍の壊滅はすでに時間の問題と見えた。

「さあロマリアめ、どんな手でも打てるものなら打ってくるがいい。なにをしてこようが、こんな国は草一本にいたるまで根絶やしにしてあげるわ」

 シェフィールドは、自分とジョゼフをコケにしたロマリアへの憎しみを増し、逃げ去る者へも容赦なく破壊の手を差し伸べ続けた。

 

 向かうところ敵なしと、驀進を続けるシェフィールドの軍団。その見上げた空ではロマリアとガリア艦隊との砲戦もいよいよ佳境に入り、両国の全面戦争はもはや避けようもないように見えた。

 しかし、一連の状況を、ロマリアのまさに中心で冷ややかに見守っている目があった。

「おやおや、ジョゼフ殿はずいぶんと張り切っておられるようで。このままでは、国境防備の部隊は全滅ですね」

 薄笑いを浮かべる男の顔には慌てた様子は微塵もない。線の細い、恐ろしいくらいに美しい美貌を持つ若い男だった。

 誰もいない聖堂の一室、そこでゆったりと腰掛ける彼の前にある鏡には、国境でおこなわれている戦いの始終が精密に映し出されている。彼はその様子を、まるで戦争映画でも鑑賞するように眺めていたが、ふと頭の中の声に答えるようにつぶやいた。

「あなたですか。どうですか、そちらのほうは? うまく彼と仲間たちに取り入れられましたか? ふむ、それはよかった。こちらも順調に進んでおりますよ。ジョゼフ殿はさすが、我々の見込んだ方です。ですが、ガリア軍の進撃が少々早いですね。我がほうの軍が弱すぎるようで、なんとも情けのない人たちです。すみませんが、そちらで彼らを焚きつけてくれますか?」

 彼は返事を待つように、しばらくときおりうなづきながら黙っていたが、やがて満足したように大きくうなづいた。

「いいでしょう。あとはあなたの判断におまかせします。さて、これで我がロマリアが世界の平和のために大々的に動き出すための大義名分の、その一歩目はできましたね。そして、こちらの世界でも人類の味方をしている光の巨人、ずっと様子を見続けていましたが、彼らが我々に有害なのか、それとも少しは利用価値があるのか、そろそろ見極めることにいたしましょう」

 

 

 続く

 

 

 

 

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