第24話
地球へ!!
彗星怪獣 ガイガレード
超巨大天体生物 ディグローブ
大ダコ怪獣 タガール
ウルトラマンメビウス
ウルトラマンヒカリ 登場!
ゾフィーの命を受けて、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンヒカリの二人の戦士は、M78星雲を遠く超えて、懐かしい星地球のある太陽系へと、再びやってきていた。
「海王星軌道を通過した。ここまで来たら、もう地球はもうすぐだ」
太陽系内に入ったために速度を落とした二人のウルトラマンは、かつてゾフィーがタイラントと戦ったこともある青い惑星のそばをゆっくりと通過した。
まだ、このあたりには地球人はほとんど訪れたことはない。しかし、あと何十年、何百年か後には人類も自在にこの星の海を駆ける日が来るだろう。彼らはそう信じている。
やがて、天王星軌道も通過し、特徴的な巨大な輪を持つ惑星土星を過ぎ、太陽系最大惑星、木星のある空域に彼らはやってきた。
「ここから先は地球人の領域内だ。見つかって騒ぎになっても困る、地球につくまでは彼らの目は避けていこう」
ヒカリがメビウスにそう提案した。
「わかりました……おや、ヒカリ、あれはなんでしょう?」
メビウスの指した先には、木星のそばを、その衛星とは違うなにか巨大な物体、大きさは小惑星規模で、ガスの尾を引いていることから彗星のように見えるなにかが通り過ぎようとしている姿があった。
「あれは、恐らくオオシマ第四彗星だ。メビウス、お前もGUYSの資料で見たことはないか?」
「思い出しました。以前、ザムシャーの乗ってきたオオシマ彗星や、僕の破壊したオオシマ彗星B群の兄弟星と言われてる、新彗星の一つですね」
かつて地球でGUYS隊員、ヒビノ・ミライとして働いていたころの記憶から、メビウスはそれの正体を知った。また、ヒカリもかつて地球にいたころから、元GUYS隊長セリザワ・カズヤと同化して行動していたから、彼の持っていた知識もあって、メビウスには心強い限りである。
「そうだ。前の二つと違って木星軌道を通過した後、太陽系外へ去っていく軌道を取っていたから、防衛の観点からはあまりかえりみられてなかった星だ」
地球に影響が無いのであれば、GUYSが取り組む必要もなかったというわけだ。
思わぬ天体ショーを見物した後、二人は地球にもっとも近い惑星、今は基地建設が大々的に推し進められ、スペシウムをはじめとする各種鉱物の採掘もさかんになっている赤い星、火星へと向かった。
だが、飛び続けるうちに、彼らは異変に気がついた。
木星を飛び立って以降、はるか後方に置き去りにしてきたはずのオオシマ第四彗星が、軌道をはずれて後ろからぴったりとくっついてくるではないか。
「メビウス、気づいているな?」
「はい、あれはただの彗星ではないようです」
自然の彗星が勝手に軌道を変えるなどありえない。それに、ウルトラマンの速度についてこれるわけが無い。このまま、この軌道であの彗星が進んだとすれば、その先には地球がある。メビウスとヒカリは顔を見合わせると、速度を緩めて、彗星と平行になるように飛んだ。
間近で真横から見ると、オオシマ彗星はとてつもなく大きかった。なにせ小惑星規模であるから、ウルトラマンといえども象とアリのようなものだ。もしこれが万一地球に衝突でもしようものなら天文学的な被害が出るだろう。
そして、遠目では彗星を覆うガスによって分からなかったが、近くからガスを透かして見て信じられないことが分かった。その彗星の丸い胴体からは、下前方に向かって突き出た、地球の生物で例えるならアンモナイトやオウム貝のような巨大な頭がついており、後ろからは長大な尾が生えている、これは、彗星などというものではなかった。
"この彗星は生物だったのだ!!"
「そんな!? 彗星が超巨大な怪獣だったなんて」
メビウスは驚きを隠せなかった。宇宙怪獣は多々いるが、天体規模のものとなると、生きているブラックホールともいうべき暗黒怪獣バキューモンや、太陽を食べて無限に成長する風船怪獣バルンガなどがいるにはいるが、ごく少数でしかない。
しかし、現実に目の前にいる以上、疑う余地はない。目の前のこの彗星は、怪獣なのだ。
「落ち着けメビウス、こいつがなぜ進路を変えたのかはわからんが、どのみち地球に向かわせるわけにはいかん。この規模では、GUYSスペーシーのシルバーシャークGも、まず通用しないだろう。ここで食い止めるぞ!」
「はいっ、ですが、どうやって?」
普通の怪獣ならメビウスも躊躇しないが、相手はケタ違いに大きい。
彼らは知らないことだったが、こいつの名は【超巨大天体生物 ディグローブ】といい、宇宙空間を回遊する、文字通り星並の大きさを持つ怪獣である。攻撃能力こそ持たないが、その体は頑丈極まりなく、並の攻撃では傷さえつかない。
「倒せなくとも、進路を変えさせることはできる。メビウス、奴の頭を狙うぞ」
ヒカリは、怪獣を刺激して、その進路を変えさせようと考えた。メビウスも了解して、巨大怪獣の目の前へと飛んでいく。しかし、やはりでかい。クジラの前のプランクトンもこんな気持ちなのだろうか。
「奴の額に、攻撃を集中させよう」
「はい」
相手がこの大きさでは、ウルトラマンのパワーでも、殴ったりするくらいでは効果はないだろう。ならば、二人の光線技を集中させれば、虫眼鏡で日光を集めた程度は熱がらせられるかもしれない。メビウスとヒカリは、それぞれの必殺光線の構えに入った。
だが、二人はディグローブのあまりの巨体に気をとられすぎて、頭上から近づいてくるもう一つの存在に気がつくのが遅れた。その隙を突き、メビウスの視界に突如黒い影が覆いかぶさってくる。
「!?」
はっとして見上げたメビウスに向かって、何かが弾丸のように突っ込んできた!
「メビウス、危ない!!」
ヒカリがメビウスを突き飛ばした次の瞬間、メビウスのいた空間を猛烈な勢いで岩のような物体が通り過ぎていった。しかし、そいつはすぐに反転してくると、再びメビウスとヒカリに向けて突っ込んでくる。
「あれは、怪獣!?」
それは全身が岩石のように強固な外殻で覆われた、見たこともない怪獣だった。
「くっ!」
とっさにメビウスは右手を左腕のメビウスブレスに当て、滑らせるようにして突き出した右手の先から、怪獣に向かって矢尻型の光弾を放った。
『メビュームスラッシュ!!』
突進してくる怪獣の頭部へと、メビュームスラッシュは直撃して派手に火花を散らせた。
だが、爆炎の中からそいつは無傷で現れると、勢いそのままにメビウスへと激しくぶつかってきた!!
「うわぁっ!!」
直撃されたメビウスは、きりもみしながら彗星の上、すなわちディグローブの上へと落下していった。
「メビウス!!」
墜落していったメビウスを追って、ヒカリもディグローブの上、大体首のつけねあたりになろうかというあたりに着地した。続いて、怪獣もメビウスとヒカリの前へと降り立ってきた。
この怪獣は、まだメビウスたちのいた地球では確認されたことのない種類で、その名を【彗星怪獣 ガイガレード】という。全身が鉱石のように硬質な、宇宙空間を超高速で飛行可能な宇宙怪獣の一種だ。
着地したガイガレードは、手足を納めた飛行形態から、太い手足を持ち、地面の上で戦う通常形態へと変形して、二人へ向かって強烈な咆哮を放ってきた。
「大丈夫かメビウス?」
「大丈夫です。心配ありません!」
元気良く答えたメビウスは、すっくと立ち上がると、ガイガレードに向かって構えをとった。
「どうやら、こいつが番人のようだな」
ヒカリの言うとおり、ガイガレードはディグローブに攻撃を仕掛けようとしたとたんに襲い掛かってきた。こいつを倒さない限り、ディグローブの進路は変えられそうもない。
「やりましょう、ヒカリ!」
「よし、いくぞメビウス!!」
二人のウルトラマンは、凶暴なうなり声を上げるガイガレードへ向けて、果敢に挑んでいく。
一方、そのころ地球では……
東京湾上空を、人類の地球防衛の要、CREW GUYS JAPANの誇る戦闘機ガンウィンガーが、翼にまとった炎のシンボルを雄々しく閃かせて飛んでいた。
「こちらガンウィンガー、現在東京湾上空NN地点を飛行中、怪獣の動きはどうだ?」
ガンウィンガーのコクピットから、現CREW GUYS JAPAN隊長、アイハラ・リュウの声が響いた。
地球では、エンペラ星人の脅威が去った後、一応の平穏は戻っていた。だが、それまでいた怪獣がいきなりいなくなる訳もなく、その余波のようなものか、散発的ではあるがときたま怪獣が出現して、GUYSはその処理に当たっていた。
〔現在、怪獣はGUYSオーシャンの攻撃により浮上中、まもなく顔を出すはずです〕
やがて、それまで鏡のように滑らかだった東京湾の海面が泡立ち、タコ焼き屋ののれんにでも書いていそうな、真赤な体をしたタコの怪獣が海上に現れた。
「こちらガンウィンガー、怪獣を確認した。データを送ってくれ」
〔ドキュメントZATに記録を確認、大ダコ怪獣タガールです。記録では、過去に大ガニ怪獣ガンザと戦って敗退した後、行方をくらませています。足に生え変わった後と、右目付近に大きな傷跡が確認できますから、恐らく同一固体ではないかと思われます〕
CREW GUYS JAPANの基地、フェニックスネストからの新人オペレーターによる報告を受けて、リュウはコクピットで不敵に笑った。
「性懲りもなくまた出てきたってわけか、おもしれえ、焼きダコにしてやる!」
だが、そのときタガールの背後の海面から、地球の海を守るGUYSオーシャンの誇る、ガンウィンガーのGUYSオーシャン版機、シーウィンガーが波を蹴立てて、己が守護する大海と同じ色をした機影を現した。
「まてよリュウ、追い込み漁だけやらせて獲物を独り占めなんてさせねえぜ」
それは、GUYSオーシャン隊長、勇魚の操る機体であった。
彼とは、かつて宇宙有翼怪獣アリゲラが地球に襲来したときに共同戦線を組んだ仲であり、パイロットとしての腕前はGUYSメンバーにも勝るとも劣らない。
シーウィンガーは、タガールが吐き出してくる黒い墨攻撃をなんなくかわすと、リュウのガンウィンガーの近くに並んできた。
「久しぶりだな、勇魚隊長。じゃあ海らしく、魚突きといこうか」
「面白い、一番銛はゆずらねえぜ」
リュウと勇魚はコクピットの中で、共にニヤリと笑った。
そして。
「メテオール、解禁!!」
その瞬間、ガンウィンガーとシーウィンガーの機体がまばゆい金色に輝きはじめた。
これこそ、ガイズマシンの切り札、超絶科学メテオールを発揮する形態、マニューバモードだ!
「スペシウム弾頭弾、ファイアー!!」
「スペシウムトライデント!!」
ガンウィンガーから四発の大型ミサイルが、シーウィンガーから二発の金色に輝く三叉の矛がタガールの頭部へ向かって叩き込まれた。両方とも、火星の物質スペシウムを利用して作られた兵器で、理論上ウルトラマンの光線と同等の威力を持つ。そんなものを総計六発も叩き込まれては、鈍重な大ダコ怪獣に助かる道があろうはずもない。
連続した爆発がタガールを次々と襲い、弾力性に優れたタコの体とて、サンドバッグを突き破るヘヴィ級ボクサーのマシンガンパンチのような攻撃には耐えられない。頭部を黒焦げにしてズブズブと東京湾の底へと沈んでいった。
「怪獣殲滅完了、相変わらずいい腕だな勇魚」
「お前こそ、隊長に就任しても腕は鈍っていないみたいだな。あとの始末はGUYSオーシャンが引き受けた。ご苦労だったな」
「なんの、久々の共同作戦、悪くなかったぜ。じゃあ、また会おうぜ」
二人は機体を寄せて敬礼しあうと、それぞれの役割を果たす場所へと別れていった。
だが、疲れてフェニックスネストに戻ったリュウを待っていたのは、ねぎらいの言葉ではなく、慌てふためいたトリヤマ補佐官の叫びであった。
「あっ、リュウ隊長! たった今火星の観測ステーションからの報告で、木星軌道を通過中であったオオシマ第四彗星が進路を変えて地球に向かっているそうですぞ!」
この人は、旧GUYSの時代からリュウとやってきた仲だが、リュウがあのころからだいぶ成長したのに比べて、非常時になると慌てふためく癖は治っていないようだった。
「なんだと! だが、まず迎撃するのはGUYSスペーシーの管轄でしょうに?」
「いやそうなんだが……いやいや、とにかくこれを見てくれ!!」
作戦室のスクリーンに、観測ステーションが捉えたオオシマ第四彗星の映像が映し出され、やがてそれが拡大していくにつれて、その彗星自体が超巨大な怪獣であることが見えてきた。
そしてその怪獣の上で、メビウスとヒカリが怪獣と戦っている姿を見て、リュウは驚愕した。
「ミライ! セリザワ隊長!」
メビウスとヒカリは、ガイガレードの強固な外殻と、強力なパワーに苦戦していたが、チームワークを駆使して互角に渡り合っていた。
「テヤァ!!」
二人のダブルキックがガイガレードの顔面に炸裂する!!
「テヤッ!!」
さらに、振り下ろされてきた腕をかわして、その腹に正拳突きをお見舞いし、返す刀で二人でそれぞれ両腕をつかんで、息を合わせて思いっきり放り投げた!!
「セヤァッ!!」
ガイガレードはディグローブの上をゴロゴロと何度も転げまわった。過去に、地球でもボガールとの戦い以来、幾度も力を合わせて怪獣と戦ってきた二人は、それぞれの隙を補い合い、二人分以上の力を発揮していた。
ただし、ガイガレードもこのままでやられるつもりはないようだった。怒りの咆哮とともに起き上がってきたガイガレードの腹に当たる部分がパクリと開くと、ブラックホールのように揺らめく穴が現れて、そこから無数の岩石弾がメビウスとヒカリに向かって放たれた!
「ウワァッ!!」
ふいを打たれたヒカリは岩石弾を受けて吹き飛ばされた。この岩石は爆発性を持っているらしく、はずれたものも爆発して激しい火花を吹き上げてくる。
さらに、弾丸はメビウスにも襲い掛かってきたが、メビウスは両手を前にかざすと、メビウスの輪の形をした金色のバリヤーを目の前に作り出した。
『メビウスディフェンスサークル!!』
岩石弾はバリヤーに当たると、粉々に砕け散った。
そして、その間に体勢を立て直したヒカリはメビウスの頭上を飛び越え、ガイガレードにジャンプキックをお見舞いする!
「テヤァッ!!」
強烈な一撃に、ガイガレードはのけぞって、そのまま背中から倒れこんだ。
「メビウス、今だ!!」
「はい!」
ヒカリの声に応え、メビウスは倒れてもがいているガイガレードに駆け寄ると、その尻尾を掴んで、ジャイアントスイングの要領で思いっきり振り回して、一気に放り投げた!
「ダアッ!!」
ディグローブの上に勢い良く投げつけられたガイガレードは、運動エネルギーの法則に従い、その外殻でさえ耐え切れないほどの衝撃に全身を打ちのめされた。
しかし、それでも奴は強い生命力でしぶとく起き上がってくる。
メビウスとヒカリは一瞬目を合わせると、メビウスは左手のメビウスブレスに手を添え、ヒカリは右手のナイトブレスを天にかざした!!
メビウスブレスから金色の光がほとばしって、メビウスの頭上にメビウスの輪のマークが形作られ、ヒカリのナイトブレスに青い稲光のようなスパークが輝く。
そして二人は同時にその腕を十字に組み、必殺の光線を放った!!
『メビュームシュート!!』
『ナイトシュート!!』
金色と青色の光線が、吸い込まれるようにガイガレードの腹の穴へと撃ち込まれていく。
けれどガイガレードの腹はそれらを吸い込むと、扉が閉じるように元の外殻に戻った。
通じなかったのか!? 二人がそう思ったとき、突然ガイガレードの体が凍りついたように硬直した。
刹那。
ガイガレードは空気を入れすぎた風船のように内側から破裂し、紅蓮の爆炎とともに微塵の欠片となって飛び散った!!
「やった!」
「ああ、やったな、メビウス」
「はい、あなたのおかげです、ヒカリ」
勝利、その喜びを二人は等しく分かち合った。
二人とも見たこともない怪獣であっただけに、中々に手こずらされてしまった。もし一人だけであったら、負けないまでもさらに時間とエネルギーを浪費してしまっただろう。
「そうだ! こいつの進路を変えなくては」
ガイガレードに関わって随分時間を浪費してしまった。地球に影響が及ぶ範囲に入る前にこの巨大怪獣の進路を変えなくてはならない。二人がそううなずきあったとき、突如地面、いや、彼らの乗っている巨大怪獣の上が地震のように揺れ動き始めた。
「いかん、脱出しよう!」
危険と判断した二人はとっさにディグローブの上から飛び立った。
そして、距離をとって振り返ってみると、ディグローブはゆっくりとであるが地球を目指した進路から離れて、元来た方へとUターンを開始していた。
「これは、どういうことでしょうか?」
メビウスは怪獣の行動が理解できずにヒカリに尋ねた。
「……恐らく、あの怪獣が取り付いて進路を狂わせていたんだろう。渡り鳥が地磁気の異常で目的地を見失うようにな。それが無くなったから、元の軌道に戻ろうとしているんだ」
「では、あの怪獣はもう無害だということですか?」
「そうだな」
「よかった、本当によかった」
思わず声を大きくしてメビウスは喜んだ。たとえ怪獣とはいえ、命を奪わずにすむならそれに越したことはない。
「しかしメビウス、我々が地球へ向かっているこのタイミングでのこの出来事、どうも偶然とは思えん」
「! では、これはヤプールの復活の予兆だというんですか」
「証拠はない。だが、急いだほうがよさそうだな。それから、このことはゾフィーにも報告しておこう」
ヒカリから放たれたウルトラサインの光が、遠くウルトラの星へ向かって飛んでいく。
「シュワッチ!!」
二人は、地球から遠ざかりつつあるディグローブを見送りつつ、再び地球へ向かって飛び立った。
そのころ、地球ではリュウがフェニックスネストの外で、空を見上げながら、友へと思いをはせていた。
「メビウスとヒカリが、ミライとセリザワ隊長が来る……」
彼の胸中には、懐かしさとともに、あの二人が揃って地球にやってくるとはただ事ではないだろうと、新たなる地球の危機を予感して、戦いの覚悟が燃えていた。
ウルトラ兄弟と地球、CREW GUYS JAPANが次なる戦いに望む日は遠からずやってくるだろう。
しかし、彼らもまさかヤプールが異世界で復活を遂げようとしているなどとは、想像だにできなかった。
時空の壁を越えて、再び異世界ハルケギニア。
ある日、トリステインの北西に浮かぶ、巨大な浮遊大陸国家アルビオンの首都、ロンディニウムの郊外に、全長百メイルはあろうかという巨大な石柱が突如として出現した。
現在この国は、旧来の王政府と、有力貴族が結集して共和制国家樹立を目指す『レコン・キスタ』と自称する反乱軍の二派に別れて内乱の真っ最中である。
王軍は一時首都を追われたものの、大陸南端の城ニューカッスルに拠点を置き、現在は大陸中央の街サウスゴータを奪還せんと、虎視眈々と機会を狙っていた。
むろん、これに対する反乱軍も占領した首都ロンディニウムを拠点として、戦力をサウスゴータに集結しつつあって、いつ両軍合わせて十数万に渡るであろう決戦が始まってもおかしくない状態であった。
だが、そんな状況でありながら、この国には毎日のようにトリステイン、ガリアをはじめとする国々から、富裕層を中心とする人間が次々に流れ込んできていた。
通常は、戦時下の国からは人が出て行くものだが、この場合は特別な事情によるものがあった。すなわち、アルビオンはどういうわけか超獣、怪獣の出現がほとんどなかったのだ。
ヤプールが現れた初期こそ、様子見のように超獣らしき巨大生物が出現し、反乱軍、王軍が一時休戦して迎撃に向かうこともあったが、一週間もするとぷっつりと出現しなくなっていた。
そんなわけで、特に三度に渡って首都を破壊されているトリステインからは避難民が続々と集まりつつあった。怪獣より人間のほうがましというわけだ。
そんな中のこの出来事であったが、その石柱は、しばらくの間は物珍しがった人々の好奇の目に晒されていた。だがやがて、その周囲をレコン・キスタの兵士達が固めて、誰も近寄れないようになると、その存在の異様さにも関わらずに、人々はそれから急速に興味を失っていった。
しかし、一千近い兵士を動員して石柱の周りを固めさせたレコン・キスタではあったが、不思議なことに彼らからその石柱を調査、もしくは移動、破壊しようなどという、一切の動きは見られなかった。
もちろん、このあまりに不自然な石柱に興味を持ち、その調査を申し出た将や研究者は少なからずいた。けれども、その意見具申はすべて戦時下であることにより余裕無しという理由によって却下されたのだが、納得のいかない研究意欲旺盛な若い将校の一人が直接許可を得ようと、レコン・キスタ最高司令官、オリヴァー・クロムウェルの元を訪れていた。
「……そういうわけですから、調査費用などは全て私の個人資産から出しますので、軍には一切ご迷惑をかけません。あの石柱はどう考えても自然に湧いて出たものではありません。何者かの意思によるものです」
「だとしても、それが我々にとって脅威だとどうして断定できるのかね? 私には、あれが天から送られた我が軍の勝利を約束する神からの贈り物に見えるがね」
若い将校の訴えに眉一つ動かさずに、クロムウェルは小柄な体を指揮官用の椅子に深々と沈めて答えた。
彼は、元々はアルビオンの一介の司教であったのだが、腐敗した王政府を打倒し、新たに貴族達によってこの国を再建することが始祖の導きであると、貴族達を先導してレコン・キスタを組織した。そして政戦に渡って積極的にリーダーシップをとり、首都を占領して新たに共和政府を樹立した手腕は高く評価されている。
が、当然納得できない若い将校は、あきらめきれずになおも噛み付いていった。
「納得できません。危険がないのでしたら、なぜ一千もの兵で守らなければならないのですか! いいえ、この際言わせていただきますが、このところの閣下の命令は納得のいくものではありません。王軍がここまで盛り返す前に、いくらでも撃滅する機会はあったはずですのに、閣下は軍を再編成するとおっしゃって、その機会を逃してしまいました。それだけではありません、今でも我らは王軍より戦力的には優勢であるはずなのに、サウスゴータの守備を固める一方でいっこうに攻撃をかけられません。まるで故意に戦争を長引かせているようであります!」
彼は怒りに任せて、これまでたまっていた不満を、言わなくていいことまで含めて一気に吐き出した。
ことの始まりは、一月ほど前に半死状態であったはずの王政府軍をニューカッスル城に追い詰めたが、完全に包囲状態であったはずなのに、前線の指揮官達が次々と敵弾に倒れ、指揮系統を失った包囲軍はあっけなく壊走してしまった。そして勢いを取り戻した王政府軍は各地の残党や義勇兵を吸収し、いまや反撃に転ずるまでになってきていた。
この状況に、クロムウェルは消極的な策を場当たり的に打ち出すばかりで、初期の積極さはどこにいったのか、まるで別人になってしまったような指揮ぶりに、不満を抱いているのは彼だけではなかった。
「事態は、小さな戦術の次元を越えて大きく動いているのだよ。若い君に理解できないのは当然だから、心配しないで命令に従っていたまえ」
薄笑いさえ浮かべながらクロムウェルは言い放ったが、彼はもはや我慢の限界であった。
「いいえ、もはや納得することはできません! かくなる上は私個人の権限をかけて石柱の調査を実行いたします!」
「命令に背くというのかね? 始祖の代理人である私の命に背くことは異端とされても文句はいえないぞ」
「承知しています。元々私はこの戦いで家族を全て失い、身よりも守る家もありません。それに、あれが本当に神からの贈り物であるにせよ、危険な代物であるにせよ、それを確かめた功績はすべて閣下のものといたしますから、不利益もないはずです。私の身柄はその後いかようにでもなさるがよかろう。失礼いたします!」
彼はそう言い捨てると、部屋を足音荒く退室していった。
残されたクロムウェルは、彼が消えた後のドアをしばらく見つめていたが、やがてぽつりとつぶやいた。
「君はとても鋭いね。そして、正しく真実を見つめている。しかし、それが君のためになるとは限らないのだよ」
クロムウェルの目が、そのとき一瞬だけ鈍く紅く輝いた。
次の日、一人の青年将校が、首筋にダーツのような矢を突き立てられて殺害されているのが郊外で発見され、王軍の送り込んだ間諜の仕業として処理されたことが、軍の記録将校の日誌に短く載せられた。
だが、これこそがこの浮遊大陸国家アルビオンに、そしてハルケギニア全土に恐るべき災厄をもたらす悪魔の石であることに、この時点で気づいた者は誰も存在しなかった。
続く