ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン
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第75話  嵐を呼ぶ怪獣エレキング

 第75話

 嵐を呼ぶ怪獣エレキング

 

 宇宙怪獣 エレキング 登場!

 

 

 ド・オルニエールで温泉を楽しむ少年少女たち。

 しかし、突然温泉が沸騰し、ド・オルニエールの水という水が熱湯に変わるという異変が起こった。

 異変の元凶は、湖の中に潜んでいた宇宙怪獣エレキング。

 しかし、通常のエレキングとは違って、こいつは信じられないほどの高熱を体から放つ特殊個体だった。

「あの怪獣、一匹だけじゃなかったのか!」

「どうするんだいギーシュ隊長? 命令をくれよ」

「決まってるさ。一度倒した相手に臆したとあっては騎士の恥、水精霊騎士隊全員、杖取れーっ!」

 ギーシュの掛け声で、水精霊騎士隊は表情を引き締めて、今まさに自分たちに向かって湖面を進んで来る怪獣を睨みつけた。

 エレキングを放っておけば、ド・オルニエールは水源をすべて熱湯に変えられて滅んでしまう。なんとしてもエレキングを倒さなければならない。

 前と多少違おうとも、一度倒した相手に負けるものか。だが、これから始まる戦いに思いもよらない魔物が潜んでいることを、まだ誰も知らなかった。

 

 

 湖岸で待ち受ける水精霊騎士隊。彼らの眼前で、エレキングはその体から放つ高熱で湖水を煮えたぎらせつつ、一週間前に彼らが見たものよりもさらに激しく身をよじりながら迫ってくる。それは、常人であれば腰を抜かして正気を失うような恐ろしい光景であったが、ギーシュたちには恐れはない。

 それは蛮勇? いや、地球の歴代防衛チームの隊員たちも、時には光線銃一丁の生身で巨大怪獣に挑んでいった。そうした勇敢な人々の活躍は今さら列挙するまでもあるまい。水精霊騎士隊のその目には、先ほどまでの覗きがバレてなよなよした軟弱な色はなく、貴族の誇りを自分たちなりの正義感と使命感に昇華させた、半人前ながらも戦士としての誇りが宿っていた。

 むろん、子供たちが闘志を燃やしているのに大人たちが怖気ずくわけもない。銃士隊は、怪獣の出現に対して、魔法の使えない自分たちでは何ができるかを判断して即座に実行した。

「走れ! ド・オルニエールの住民を避難させろ。奴が人里に近づく前に急ぐんだ」

 ミシェルが叫んだ。若年者に戦わせて自分たちが離れることに対して屈辱ではあるが、怪獣との遭遇など想定しておらずに装備不足の自分たちでは戦えない。だが、女王陛下の臣民の命を救うことはできる。ならば迷うべきではない。

 一方で、判断に迷っていたのがベアトリスの率いている水妖精騎士団である。水精霊騎士隊への対抗心で結成され、そのための訓練も積んできた彼女たちではあるけれど、まだ実戦経験はまったくなく、眼前に迫る怪獣の威圧感に完全に腰が引けてしまっていた。

「ひ、姫殿下、に、逃げましょう」

 少女のひとりがうろたえながらベアトリスに言った。臆病ではない、これが普通の反応なのだ。

 ベアトリスも、実際に暴れ狂う怪獣を前にして、未熟な自分たちがこれに立ち向かおうとする無謀さをひしひしと感じていた。

 かなう相手じゃない。アンテナを回転させるエレキングの無機質な顔を見上げると、これと戦ったら死ぬと心の底から思い知らされた。逃げても恥にならない相手はいる。逃げても誰も責めたりはしないだろう。

 しかし、ベアトリスが逃げようと命令しかけたときだった。よせばいいのに、ギムリが腰が引けているベアトリスたちに得意げに言ったのだ。

「怖いならぼくらの後ろに隠れてな。ぼくがかっこいいとこ、見せてやるぜ」

 その挑発的な言葉に、女子全員がカチンときた。ギムリとしては、軽い気持ちでギーシュあたりを真似てかっこつけたつもりだったのだろうが、女子たちからすれば覗き魔がいけしゃあしゃあと何をほざいているんだということにしか見えない。

 ベアトリスの瞳に、以前の冷酷な輝きが戻ってきた。それに、水妖精騎士団の少女たちも、元々は水精霊騎士隊に大きな顔をされているのが腹立たしくて結成されたメンバーだけあってプライドが高い。たちまちのうちに、恐怖心は怒りにとってかわられた。

「水妖精騎士団全員、わたしに恥をかかせたら承知しないわよ!」

「はい、クルデンホルフ姫殿下様!」

 あんな破廉恥隊に後れをとったとあっては末代までの恥。ベアトリスを守るようにエーコたちが円陣を組み、腕自慢の女生徒たちが持つ杖に魔法力が集中していく。

 どんなに訓練を積んだところでいつかは初陣を迎えなければならないのだ。女は度胸! あんな破廉恥隊にできることが、このわたしたちにできないはずがない。

 水精霊騎士隊と水妖精騎士団。それぞれ男子と女子からなる異色の騎士隊がライバル心むき出しで並び立つ。

 

 けれど、いくら闘志を燃やしても未熟なメイジだけでエレキングを倒しえるものだろうか? あまりにも危険だが、水精霊騎士隊の闘志が水妖精騎士団の闘志を呼んだように、危険を承知で戦う者は仲間を呼ぶ。ギーシュたちが燃えているのにじっとしてられるかと、才人はルイズに変身をうながした。

「あいつら、まーたかっこつけやがって。よしルイズ、おれたちも行こうぜ。エレキングに、何度来たって同じだってこと、教えてやろうぜ!」

 才人もギーシュたちに負けずに、向こう見ずなくらいに叫ぶ。覗きの汚名返上のいい機会だし、内心ではこのあいだウルトラリングを盗まれかけたときのことがまだくすぶっている。

 しかし、いつもなら即座に同意するか先に命令してくるはずのルイズの様子がどうもおかしかった。見ると、そわそわした様子で服やスカートのポケットを探りまくっている。そして、ルイズの顔が急激に青ざめていくのを見て、才人は最悪のケースを察してしまった。

「ルイズ? おい、まさか」

「……リング、脱衣場に忘れてきちゃったみたい」

「な、なんだってえーっ!?」

 思わず才人も間抜けに叫んでしまった。冗談じゃない、ウルトラリングは二つ揃わなければ役に立たないのだ。

「ルイズ、なにやってんだよ! お前までおれみたいなヘマしてどうすんだ!」

「しょ、しょうがないでしょ、急いで着替えしたんだから! お風呂に指輪つけて入るのはマナー違反じゃないの!」

 ルイズは顔を真っ赤にして怒鳴り返す。だが、そりゃ確かにマナーは大切だけれども、それでこうなっては元も子もないではないか。

 才人の背中のデルフリンガーが、娘っこの几帳面さが悪いほうに働いちまったな、と、他人事のように言う。けれど才人はそうのんきに構えてはいられない。リングがないとどうにもならないし、もし誰かが持って行ってしまったら。

「くっそお、引き返すしかないじゃねえか!」

 才人はルイズといっしょに温泉に引き返すために走り始めた。すると、才人やルイズの背にギーシュやキュルケの声が響いてきた。

「サイトぉ! この大事な時にどこへ行くつもりだい!」

「悪りぃ! すぐ戻るからちょっとだけ待っててくれ」

「ルイズ? あなたこんなときにお花を積みにでも行く気なの!」

「そんなわけないでしょ! ああもう! こんなことになったのもあんたたちが覗きなんかするからよ! このバカバカ! サイトのバカ!」

 ルイズは才人をポカポカと殴りながら走った。才人はもちろん痛がるけれど、原因の半分は自分にあるので強く言い返すこともできずに走るしかない。

 しかし、湖から温泉まではたっぷり数リーグある。いくら急いでも、果たして間に合うのだろうか。

 

 だが当然、エレキングがそんな事情を汲んでくれるわけがない。津波のように湖水を蹴り上げながら、ついに湖岸への上陸を果たすエレキング。その巨体を見上げて、水精霊騎士隊と水妖精騎士団は左右に別れた。ギーシュは杖を握り締め、作戦指示をレイナールに求め、彼は全員に通るように大声で答えた。

「その怪獣は前に雷みたいなブレスを吐いていた。だから、電撃以外の魔法で攻撃しよう!」

 単純だが明解で説得力のある指示が飛び、少年少女たちは一斉に魔法を放った。

 ファイヤーボールやエアハンマーなどの魔法が唸り、エレキングの巨体に吸い込まれていく。キュルケ以外はラインクラスが限界で、威力はさほど高くはないと言っても、百人近いメイジの同時攻撃を受けてエレキングは苦しそうに叫びながら身をよじった。

「いける! ぼくたちでもやれるぞ!」

 怪獣に目に見えたダメージを与えられたことで、少年少女たちから歓声があがった。

 しかし、痛い目に会わされてエレキングも黙っているわけがない。怒りのままに鞭のような長大な尻尾を叩きつけてきたのだ!

「みんな、伏せて!」

 人間以上の動体視力を持つティアが叫んだ。その声に、皆が訓練でくりかえした通りに反射した瞬間、彼らの頭上を巨木のようなエレキングの尻尾が轟音をあげて通過していった。

「あ、あっぶねえ……」

 ギムリが緑褐色の髪についたほこりを払いながらつぶやいた。今の声で皆が反応していなかったら、数人は首から上を持っていかれていたかもしれない。

 やはり油断は禁物。相手は怪獣なのだ、少し体を動かすだけでも人間にとっては大きな脅威になる。命拾いして息をついている水精霊騎士隊に、水妖精騎士団の少女たちからヤジが飛んだ。

「ふふん、どう? うちの子のほうがあんたたちなんかより出来がいいのよ」

「くっ! ぐぬぬぬ」

 プライドを傷つけられた水精霊騎士隊から悔し気な声が漏れる。特にエーコ、ビーコ、シーコは思いっきり勝ち誇って憎たらしい顔を作って見せたので、男たちの屈辱感は大きかった。

 が、そんなのんきな行為を続けさせてくれるほどエレキングはお人よしではなかった。間近に迫られるだけで、超高温を発する体からの熱波が少年少女たちの肌を焼く。まるで燃え盛る窯の前にいるようだ。

「あっ、ちちち! 後退! 後退だ! こいつのそばにいると照り焼きにされてしまうよ!」

 上陸してきたエレキングを見上げながらギーシュが叫んだ。一週間前にエースが倒した奴とは姿は同じでも明らかに違う、火竜でもここまで高熱を発しはしないだろう。

 エレキングが上陸しただけで、周辺の木々があまりの高熱にあてられて立ち枯れていく。そればかりか、エレキングはフライの魔法で後退していく少年少女たちに向かって、指先から白色のガスを吹き付けてきた。

「なっ、なんなの?」

「なんだかわからないけど吸っちゃダメだ!」

 今度はレイナールが動揺する少女たちに叫んだ。なんであろうと、怪獣が出してくるものがろくなものであったためしがない。

 とっさに口を押さえてガスの届かないところまで飛びのく少年と少女たち。振り向くと、ガスを浴びせられた木々が枯れ果ててしまっている。

 毒ガス? もしうっかり吸い込んでしまっていたら今ごろは……冷や汗がギーシュたちやベアトリスたちの背筋を走る。

 それにしても、植物を一瞬で枯らすこの威力。そして常に発し続けている高熱から考えて、ティラはパラダイ星の学者の卵として、ひとつの仮説を導き出した。

「まさか、高濃度の二酸化炭素? もしかして、惑星の温暖化を促進して生態系を破壊する怪獣兵器!?」

 エレキングが兵器として量産されている怪獣なら、攻撃する対象別のバリエーションがあっても不思議はない。怪獣一匹の噴き出す二酸化炭素の量などたかが知れていると思われるかもしれないが、宇宙大怪獣ムルロアのアトミックフォッグはわずか数時間で地球全土を覆いつくしてしまったほどの威力があった。もしこのエレキングがその勢いで二酸化炭素を噴出したらハルケギニアの気候は壊滅的な被害を受けるであろう。

「これ、温泉につかりに来ただけのつもりが世界存亡の危機じゃないの。いつかピット星人に文句つけてやるわ!」

 とんでもない置き土産を残していったくれたものだ。兵器として完成できたのは一体だけというがとんでもない、こんな悪意の塊のような奴が育ちきっているではないか。

 アンテナを回転させ、長すぎる尾で木々を蹴散らしながら前進してくるエレキングに対して、現在のところ有効な手立てはなかった。水から上がったせいで奴の体温がさらに上昇し、威力の弱い魔法が通じなくなってしまったのだ。

 エレキングの体表の高熱で、炎の魔法は言うに及ばず、風は気流に散らされ、土は砂に変えられ、水は蒸発させられた。特に、この中で唯一トライアングルクラス以上のキュルケの炎が封じられたのは痛かった。

「スクウェアクラスの氷の魔法で冷やせれば、別の魔法も効くようになるんでしょうけど、あの子がいれば……誰?」

 不可思議な感覚に戸惑うキュルケだったけれど、彼女は迫り来るエレキングの足音で我を取り戻した。温泉につかりすぎてぼんやりしてしまったのか? 今、そんなことを気にしている場合じゃない。

 エレキングの前進は止まらず、水精霊騎士隊も水妖精騎士団もバラバラになってしまってまともな迎撃などできない状態だ。ギーシュもベアトリスも進撃の速さに動揺して指揮が追いつけていない。

 キュルケは混乱している両者に向けて思わず叫んだ。

「なにやってるの! 連携がとれないならいったん引いて態勢を立て直すのよ。あの子ならそうするわ」

 あの子? わたしは何を言っているの? キュルケはとっさに口から出た言葉に動揺したが、キュルケが怒鳴ったおかげで混乱していた一同に明確な目的が生まれた。

「み、みんな! 森の外までいったん退却だ!」

 ギーシュがやっとのことで命令を飛ばし、一同はやっと退却に全力を尽くし始めた。

 エレキングは森の木々を蹴散らしながら追ってくる。その通り過ぎた後の森はことごとく枯れ果て、まるで干ばつに会ったかのようだ。

 こんな奴を野放しにしては、ましてや人里に入れたら大変なことになる。しかし今は、態勢を立て直す余裕ができるまで逃げるしかなかった。

 

 一方で、ド・オルニエールの里では一足先に戻った銃士隊によって怪獣が現れたという報がすでに駆け巡っていた。

「早く! 逃げて、逃げてください!」

 湖の方角から姿を見せ始めたエレキングを見て、住人たちは一目に逃げ出し、逃げ遅れている人々を銃士隊は救助していった。

 もちろん、アンリエッタらにも報告はすでに届いており、高台から指揮をとっていた。

「女王陛下、怪獣が近づいてきております。お下がりください」

「なりません。民の危機に、女王が真っ先に背を向けてなんとなりますか。民が安全なところまで避難できるまで、わたくしはここを離れません」

 烈風に鍛えられた根性で、ド・オルニエールを見渡してアンリエッタは言った。

 今日で、ド・オルニエールはだめになるかもしれない。けれど、民が残ればゼロからでもやりなおすことができる。

 そんな女王の気高い姿を見て、賓客のルビアナはすまなそうに頭を下げた。

「申し訳ありませんアンリエッタ様。本当なら私もここで見届けたたいのですけれど」

「いいえ、はるばるゲルマニアから来ていただいた貴女にもしものことがあってはわたくしの恥です。安心してください、怪獣と戦うことに関しては我が国は一日の長があります」

「ご無理はなさらずに……お先に失礼いたします」

 優雅な一礼をして、ルビアナも共の者に連れられて退去していった。

 魅惑の妖精亭の子たちも急いで避難し、ティファニアも孤児院の子たちを連れて行っている。そのため、コスモスが出られないのが痛いけれど、先日アイを誘拐されたときの恐怖が残る子供たちにはまだティファニアがついていてあげなくてはならなかった。

 けれど、住民のなかには踏みとどまって果敢に戦おうとする者たちもいた。

「わしらは、生まれたときからこのド・オルニエールで生きてきました。今さらよそでは暮らせはしませんのじゃ。残らせてくださいまし」

 老人たちのその健気な姿に、無理強いすることはできなかった。

 また、彼らの家族の中にも、雑他な武器を持って集まってくる者もいる。普段はなんと言おうと、そうして守りたくなるのが故郷というものなのだ。

「ここはわしらの土地じゃあ、バケモンめ、来るならこんきに」

 ついに田園地帯に入ってきたエレキングに老人がしわがれた声で叫んだ。

 そして、水精霊騎士隊と水妖精騎士団も、平民がこれだけの覚悟をしているのに貴族がこれ以上無様を見せられないと、今度こそ死守の構えで陣形を組む。

「いいか諸君、女王陛下がご覧になっておられる。ここより先、ぼくらの下がる道はないと思いたまえ!」

 ギーシュが薔薇の杖を掲げて仲間たちに命令する。本職の騎士のような強力な魔法はまだなくても、踏んだ場数の多さが彼らをいっぱしの騎士に見せていた。

 そしてベアトリスたち女子も同じように立つ。経験のなさを思い知らされても、彼女たちにも譲れない女の意地がある。

 

 けれど一方で、いまいち締まらないことになっている者たちもいた。

 言うまでもない、才人とルイズである……ふたりは誰もいなくなった温泉に戻って、脱衣場でルイズが置き忘れたリングを必死になって探していた。

「くっそぉ、ないないないないない! ルイズ、ほんとにここに置き忘れたのかよ?」

「ほかに思いつかないわよ! もう、こう散らかってちゃどれがわたしの使った籠だったかわからないわ」

 ルイズも半泣きになっていた。女子全員が大急ぎで着替えていったせいで、着替えを入れておく籠がタオルなどといっしょに散乱していて誰が使ったものかさっぱりわからなくなっていた。

 籠をひっくり返し、棚の隅を探し回っても見つからない。外からはすでにエレキングの鳴き声が聞こえてくるので、一刻も早く変身しなければいけないのに、自分たちはこんなところでタオルをかき回したりして何をしてるんだろうか?

「くっそお、こんなマヌケな理由で変身できなくなったのっておれたちだけだろうなあ」

 変身アイテムを奪われたならまだわかるが、なくすみたいなドジを踏んだのは自分たちくらいだろうと、才人とルイズは心底情けなく思った。

 実は唯一ではなく、同じようなヘマをやらかした先輩は存在するのだが、彼の人の名誉のためにここでは割愛する。

 しかし、必死の捜索のかいあって、ついにルイズの指先がタオルの下に隠れたリングを探り当てた。

「あった! あったわぁーっ!!」

 高々と上げられたルイズの指先には、確かに銀色に輝くウルトラリングが掲げられていた。

 ルイズの緋色の眼から、感動のあまり涙がこぼれ落ちる。

 もし見つからなかったらどうしようかと思った。それこそ、世界中の人たちに腹を切ってお詫びしなくちゃいけないくらいだった。いや、ルイズはトリステイン人だから切腹なんかしないけれども。

 しかし、感動に浸っている場合ではない。エレキングは、もうすぐ近くまで迫ってきている。この平和なド・オルニエールを荒らさせるわけにはいかない! ルイズはリングを指にしっかりとはめ、才人の手のひらとリングを重ね合わせた。

 

「ウルトラ・ターッチッ!」

 

 閃光が走り、きらめく光の渦の中からウルトラマンAの勇姿が現れる。

〔ちょっと今回はヒヤッとしたぞ〕

 意識を通じてウルトラマンAの声が二人の心に響いてくる。エースにとっても、今回の事は肝を冷やしたに違いない。

〔ご、ごめんなさい。北斗さん〕

〔わたしたち、最近油断しすぎてたかも。反省してるわ……〕

〔いや、わかっているならいいんだ。人間、一度こっぴどく失敗したら同じ失敗はそうそうしないもんだ。気にするな!〕

 うなだれている二人をエースは肩を叩くようにはげました。北斗も、ウルトラリングを盗まれたことはなくとも、ヤプールの策略にはまって変身不能にされてしまったことはある。あまり思い出したくない思い出でも、だからこそ糧となる。

 そして、失敗を取り戻す方法はいつもひとつ。黒に白を混ぜていったらいつか消えるように、失敗を押しつぶせるだけの何かで埋め合わせればいい。

 今、この場でそれをする方法はひとつ。この怪獣を倒すことだ!

「ヘヤアッ!」

 変身からの空間跳躍。空高く跳び上がり、舞い降りてきたエースの急降下キックが先制の一撃としてエレキングに突き刺さった。

 エレキングの細長い巨体が揺らぎ、エースはそのたもとへ着地する。そしてエレキングは、自らの進行を妨げた新たな敵に対して、金切り声をあげて向かっていった。

〔こいっ! エレキング〕

 エースは突進してくるエレキングを正面から受け止め、その首をがっちりと捕まえた。当然、振りほどこうと暴れるエレキングとエースの間で壮絶な力比べが生じる。

 押し合い引き合い、そんな攻防の様子を見て、悲壮な防衛戦を覚悟していたギーシュたちは新たな高揚感を覚えていた。

「よおーっし! そこだーっ、エース頑張れーっ!」

 少年たちから声援が飛ぶ。これから戦おうとしていたときに、獲物を横取りされた感がないかといえば嘘になるが、エースには何度も助けられ、このハルケギニアを守る仲間だという想いがそれより強くあった。

 一度やっつけた怪獣なんか一捻りだと、少年たちの声援に続き、少女たちも精悍なエースの勇姿にかっこいいとエールを贈り始める。ド・オルニエールの民たちは、神よどうかこの地をお守りくださいと、必死の祈りを捧げた。

 そう、ヒーローの姿は人々に希望と勇気を与えてくれる。しかし、このエレキングは前回のエレキングとはやはり大きく違っていた。エースと組み合ったエレキングの体から蒸気が沸きだしたかと思うと、エレキングはエースが触っていることもできないほど熱くなっていったのだ。

「ヌワアッ!?」

 エレキングを掴んでいたエースの手から、熱したフライパンに水を垂らしたような音がして、エースは思わず手を離してしまった。

 なんだいったい!? 一同がエレキングを見ると、エレキングの周囲で陽炎が起こり、周辺の木々は枯れるどころか干からびて崩れていく。その様子は遠く離れて見るアンリエッタからもはっきりと伺え、その様にアンリエッタは戦慄したように呟いた。

「まるで、生きた火の山のようですわ……」

 エレキングの体温が異常に上昇してきているのは誰から見ても明らかだった。才人は、これじゃエレキングじゃなくてザンボラーじゃねえかと呟いた。熱波はどんどん広がり、やや離れていたはずのギーシュたちの体からも滝のような汗が吹き出してくる。

「あ、頭が……」

「いけない! みんな離れるんだ。熱射病でやられてしまうよ!」 

 レイナールが叫んで、一同は慌てて距離をとった。熱にある程度強いはずの火の系統のキュルケでも目眩のしてくる信じられない熱さだ。とても人間の近づける温度ではない。

 エースは、火炎超獣ファイヤーモンスと戦った熱さを思い出した。いや、この熱気はファイヤーモンスの炎の剣以上だ。

 

 そればかりではない。余りの熱気は上昇気流となって大気を乱して黒雲を呼び、ド・オルニエール全体に激しい雷と嵐を巻き起こしていったのだ。

「きゃああぁっ! お姉ちゃん、怖いよお」

「みんなっ、体を低くして、物影に隠れるのよ」

 嵐に襲われ、ティファニアや子供たちはもう一歩も進めなくなっていた。近くにいたはずの魅惑の妖精亭の子たちもどこへいってしまったかわからない。ティファニアはコスモスの力を借りることもできず、目の前の子供たちを守るだけで精一杯だった。

 雷は辺り構わず降り注ぎ、子供たちはあまりの恐怖で泣き叫んでいる。しかも悪いことに、雷が彼女らの近くの木に落ち、へし折れた木が一人の子の上に倒れ込んできたのだ。

「お姉ちゃん、助けてーっ!」

「アナーっ!」

 ティファニアは必死に手を伸ばしたが届きそうもなかった。

 間に合わない。誰か、誰かあの子を助けて。ティファニアが必死に祈ったその時、誰かが飛び込んできて、木に潰されそうになっていた子を間一髪で助け出してくれた。

「ああ、あ、ありがとうございます。あなたは、女王陛下のお友だちの」

「ルビアナと申します。私もこの嵐で供の者とはぐれてしまいまして。けど、おかげで危ないところに間に合えてよかったですわ」

 ルビアナはにっこりと微笑んだ。そのドレスは嵐と泥で見る影もなく汚れているが、彼女は気にする素振りもない。その温和な様子に、助けられた子はルビアナのドレスにしがみつきながらお礼を言った。

「うぅ、お姉ちゃん……あ、ありがとう」

「あらあら、かわいいお顔が台無しよ。さあ、あなたはあなたのところへ帰りなさい」

 優しくルビアナに促され、その子はティファニアのもとに戻り、ティファニアはルビアナに心からの感謝を返した。

「本当にありがとうございますルビアナさん。なんてお礼を言えばいいのか」

「いいえ、当然のことをしただけですわ。それより、ここは無理に動かずに嵐が去るのを待ったほうがよろしいでしょうね。不躾ながら、私もしばらくご一緒いたします」

「はい。けれど、ひどい嵐です。いったい、いつ止んでくれるのかしら」

「きっとすぐやみますわ。だって、ギーシュ様が戦ってくれているのですもの」

 ルビアナは信頼を込めた笑みを浮かべ、子供たちに「だから心配しなくて大丈夫よ」と、優しく話しかけた。すると、ルビアナのその温和な雰囲気に、怯えていた子供たちも恐怖心を解かれてルビアナにすがりついていった。

「まあ、みんな甘えん坊さんね」

「きっと、子供たちにはあなたが優しい人だってわかるんですよ。みんな、ルビアナさんにご迷惑かけてはダメよ。さあ、こっちにも来なさい」

 ティファニアのもとに子供たちの半分が戻ってくる。みんな体は大きくなっても中身はまだまだ子供のようで、ティファニアとルビアナにすがってやっと落ち着きを取りもどしてくれた。

 まだ嵐は弱まる気配を見せない。動けないのなら、嵐が収まる時までこの小さな命を守らなければならないと、しっかりと小さな体を抱きしめ続けた。

 

 いまや、エレキングの振りまく被害はただの怪獣一匹の次元を超えつつあった。

 熱波を振り撒きながらエレキングが突進してくる。エースは組み合うのを避け、キックやチョップでエレキングを押し返そうと試みるが、間合いを詰められないのではエースの技も威力が半減してしまった。

「ムゥ……!」

 肉薄しなければダメージが通らない。対して、エレキングはその手から放つ二酸化炭素ガスでエースを追い立ててくる。

「ムッ、グゥゥッ!」

 さしものエースも 高熱と二酸化炭素の同時攻撃にはまいった。まるでエレキングの周囲だけ疑似的に金星の環境になったようなものだ、いくらウルトラ戦士の体でもこれではただではすまない。

 エースを助けるんだと、水の系統のメイジたちが氷の魔法を放つが、エレキングに届く前に蒸発してしまって通じなかった。彼らの好意はうれしいけれど、焼け石に水とはまさにこのことだ。

 ゾフィー兄さんのウルトラフロストくらいの威力がなければ、とエースは思った。エースの技は多彩だが、残念ながら冷凍系の技は持っていない。そもそもM78星雲のウルトラマンは寒さに弱く、冷凍系の技を持っていてもせいぜい一人に一つくらいで極めて少ないのだ。ウルトラの歴史の中では氷を操る戦士がいたこともあったけれど、彼のことも今では遠い思い出となっている。

 が、感傷に浸っている暇はない。今は、このエレキングを止めなければ、際限なくどこまで熱量を上げていくかわからない。しかし接近もままならないのでは、あっという間にエースの活動限界が来てしまう。ルイズはいら立って才人に問いかけた。

〔ちょっと、こういうときこそあんたのからっぽの頭でも役に立てるときでしょ! あの怪獣の弱点とかほかにないの?〕

〔そうはいっても、こんなに暑いと気が散って……そうだ、角だ! エレキングの弱点はあの角だ〕

 ぼんやりしてても、将来志望がGUYSの才人はさすがに思い出すのが早かった。

 エレキングの弱点は目の役割をする回転するレーダー角。それを破壊してしまえばエレキングは行動不能になる。それを聞いたエースは、すかさずエレキングの角を目がけて額のウルトラスターから青色の破壊光線を発射した。

『パンチレーザー!』

 矢のように鋭い輝きを放ち、パンチレーザーの光がエレキングの角を目がけて飛ぶ。しかし、なんということであろうか。パンチレーザーはエレキングの至近でぐにゃりと軌道を曲げると、角に当たらずに明後日の方角に飛び去ってしまったのだ。

「ヘアッ!?」

 確実に当たるはずだった攻撃をかわされ、エースも思わず動揺の声を漏らした。バリアか? いや、エレキングにそんな能力はないはず。となると、エレキングの周りで熱せられた空気が光を歪め、レーザーの軌道をずらしてしまったとしか考えられない。

 信じられない高熱だ。しかもこの熱はまだ上がり続けている。ならば、曲げきれないほどの威力で一気に叩き潰すのみ! 一撃必殺、エースは体をひねり、L字に組んだ腕からもっとも得意とする光波熱線を発射した。

 

『メタリウム光線!』

 

 光芒がエレキングの頭部に叩き込まれて大爆発を起こす。空気の対流くらいで逸らされるほど、ウルトラマンAの必殺技は半端な威力ではないのだ。

「やったか?」

 爆炎でエレキングの姿は隠れ、倒したかどうかはまだわからない。しかし、あれほどの威力を撃ち込まれて無事ですんだわけがないと、水精霊騎士隊も水妖精騎士団もじっと煙の晴れるのを待った。

 だが、力を抜けるその一瞬の隙に爆煙の中から蛇のようにエレキングの尻尾が伸びてきてエースの体に絡みついてしまったのだ。

〔しまった!〕

 気づいたときにはエレキングの尻尾は完全にエースに巻き付いてしまっていた。

 振りほどかなくては! だが巻き付いたエレキングの尻尾はビクともしない。そして、煙の中からエレキングが再び姿を現した。

〔角が片本残っている。くそっ、当たり所が悪かったか〕

 エレキングの頭部の片側は黒焦げになり、片方の角は吹き飛んでいるが、もう片方の角はかろうじて残っている。それでこちらの位置をサーチできたのだ。

 まずい、エレキングの最大の武器は尻尾にある。振りほどかなければ! だがエレキングはエースの抵抗をあざ笑うかのように、尻尾を通じて強力な電流をエースに流し込んできたのだ。

「ヌッ、グアァァァーッ!」

 何万何十万ボルトという電撃がエースに流し込まれ、溢れ出したエネルギーがスパークとなってエースを包み込む。

 すさまじい衝撃と激痛がエースの全身を貫き、エースは身動きできないまま電撃の洗礼を浴びせかけられ続けた。

「グッ、ウオォォォーッ!」

 電撃のパワーはエースの全力でも対抗しきれず、一気にカラータイマーが点滅を始めた。エレキングは奪われた角の恨みとばかりに、腕を震わせ全身から巨大都市何十個分という電気エネルギーを絞り出してエースに送り込んでいく。

 このままではエースが黒焦げにされてしまう! エースの危機に、水精霊騎士隊や水妖精騎士団はなんとかエースを助けようと動き出したが、エレキングの熱気の壁はメタリウム光線で弱められたとはいえまだ健在で、半端な魔法は通用しなかった。

「ワルキューレ! だめか、ぼくらの魔法じゃあいつには効かないのか」

 ギーシュのワルキューレすべての体当たりでもエレキングには通用しなかった。ほかの面々の魔法でも同様で、ベアトリスも魔法の撃ち過ぎで疲労困憊した体をエーコとビーコに支えられながら、悔しそうにつぶやいた。

「わたしにももっと力があれば……彼には大きな借りがあるっていうのに」

 エースのおかげで、エーコたちをユニタングの呪縛から解き放つことができたときのことは忘れない。その恩義はすべての誇りをかけてでも返さねばならないのに、今の自分にはその力はない。

「なにか、なにか強力な武器があれば、あの怪獣の角をもう一本折るだけでいいのに」

 エースがエレキングの角を狙って攻撃したのを彼女たちも見ていた。なら、角さえ折れれば怪獣は弱体化するに違いない。けれど、それをするための力がみんなの魔法にはないのだ。

 すると、そのときだった。戦いを見守っていたド・オルニエールの民たちが、一抱えほどもある大きな銀色の銃のようなものを持ってやってきたのだ。

「だ、旦那様方。よければこれを使ってくだせえまし」

「これは、こんな銃見たことないが、いったいこれはなんだね?」

「わしらも、もしも、この地に何か異変が起きたときのために有り金を寄せ合って武器を買っていたのでございます。使ったことはまだありませんが、とても強力な武器だという触れ込みでしたので……」

 土地の老人は貴族に対して恐る恐るながらも、その銃のような武器を差し出してきた。

 もちろんギーシュたちは疑いの目でそれを見た。もとより銃はハルケギニアでは平民用の武器で、ふいを打たれたりしなければ魔法には及ばない程度の代物なのだ。とても怪獣に通用するとは思えない。

 しかし、ギーシュたちはもとよりベアトリスたちも、その銃のような武器の持つ怪しい気配をなんとなく肌で察した。これまでに何度も宇宙人と接したことがあるだけに、その銃のような武器がハルケギニアのものとは異質な気配を持っているのを感じたのだ。

 もしかしたら? ベアトリスは商才を働かせて考えた。この怪しげな取引に乗るべきかそるべきか? いや、乗らなかった場合の結果は全員の死でしかない。

「わかったわ、その武器を使わせてもらうわね」

「クルデンホルフ姫殿下?」

「ミスタ・グラモン、迷ってる時間はないみたいよ。あなたたちの中で、銃の扱いができる人はいる?」

「え? じ、銃ならオストラントの機銃を扱ったことはあるけど」

「だったらあなたが撃ちなさい! ほら、ぐずぐずしないのよ!」

 小柄な体で思いっきり足を振りかぶってベアトリスはギーシュの尻を蹴っ飛ばした。

 こういうとき、男より女のほうが踏ん切りが早い。ギーシュは言われるままに、銃のような武器を受け取って照準をエレキングの角に定めた。幸い、見た目に反してけっこう軽い。

 エースは絶え間なく流され続けている電撃で今にも死にそうだ。ギーシュは、引き金に触れる指先にエースの生死がかかっていることに一筋の汗を流し、皆の見守っている中でゆっくり引き金を引いた。

「始祖ブリミルよ、そしてこの世のすべてのレディたち、ぼくに力をお貸しください」

 相変わらず余計な一言を付け加えながら引き金が引かれたその瞬間、銃口からピンク色のレーザーが放たれてエレキングの角に突き刺さり、なんと大爆発を起こしてへし折ってしまった。

「や、やった!」

 ギーシュは自分のやったことが信じられないというふうにつぶやいた。見守っていた他の面々も一様に、あまりの銃の威力に、喜ぶよりむしろ愕然としてしまっている。

 だが、エレキングの角を折ったという戦果は大きかった。外界の状況を探るためのレーダーである角をふたつとも破壊されてしまったエレキングは完全にパニックに陥り、エースを拘束していた尻尾の力を緩めてしまったのだ。

〔いまだ!〕

 エースは残った全力でエレキングの尻尾を振りほどいて抜け出した。

「シュワッ!」

 拘束から脱出し、エースは片膝をついて立ち上がれないながらも、なんとか自分が助かったことを確かめた。エースが無事だったことで、ギーシュたちも我に返って喜びの声をあげる。

 ともかくすごい電撃だった。あと少し食らい続けていたら、本当に焼き殺されていたかもしれない。才人とルイズも、「死ぬかと思った」と、今回ばかりは無事助かったことを手放しで喜んでいた。

 だが、本当に喜ぶのはまだ早すぎたようだ。角を破壊されて行動力を失ったと思われたエレキングが、再びすさまじい熱波を放ち始めたのだ。

〔なんだっ? まるで溶鉱炉の中にいるようだっ!〕

 さっきよりもさらに強い熱量がエレキングから放たれていた。それと同時に、エレキングの白色の表皮も赤く染まり出して、明らかに尋常な状態ではない。

 まさか奴め、死期を悟って周りを道連れに自壊するつもりか! こんな熱量の物体を放置すれば、ド・オルニエールが焼け野原と化してしまう。

〔い、今のうちにエレキングを倒さないと〕

〔でも、あんな爆弾みたいになった奴に光線を当てたら、それこそどうなるかわからないわよ!〕

 才人とルイズも焦るが、そもそも今のエースにまともに光線を撃つ力は残っていない。

 どうすればいいんだ! このままエレキングが地上の太陽になっていくのを見守っているしかないのか。エレキングの口から、勝利の雄たけびとも断末魔とも聞こえる叫びが轟く。

 しかし、もうエースに戦う力が残っていないことを見た水精霊騎士隊は、こんなときのために考えていた最後の作戦に打って出た。水妖精騎士団にも協力をあおぎ、田園地帯を流れる用水路に集まったのだ。

「ようし、水の使い手は用水路を凍らせるんだ。残りの半数は『固定化』、もう半数は『念力』の準備だ。急いでくれ!」

 少年少女たちは、熱波に肌を焼かれながら最後の精神力を振り絞った。

 用水路の水を凍らせて成形し、それをさらに固めた上でエースに向けて投げ渡した。

「ウルトラマンA、それを使ってくれーっ!」

 エースの手に、少年少女たちが作った最後の武器が手渡された。それは、用水路の水を使った青白く輝く美しい一刀。

〔氷の剣!? ようし、これなら!〕

 これならエレキングを誘爆させずに倒すことができる。

 エースは氷の剣を構え、エレキングを見据えて渾身の力で振り下ろした。

〔俺の残ったすべての光をこの剣に込める!〕

 一閃! 青い輝きがエレキングを貫通し、次の瞬間エレキングは頭から股先まで真っ二つになって斬り倒されていた。

「やった……」

 両断されたエレキングは左右に崩れ落ち、最後は自らの熱量によってドロドロに溶けて消滅していった。

 エレキングの死とともに熱波も消え、空を覆っていた暗雲も切れ、嵐も収まっていった。空には再び青空が戻り、季節通りの風が吹き始めた。

 ド・オルニエールに平和が戻ったのだ。そして穏やかな自然の風景を肌で感じ、皆の中から大きな歓声があがった。

「勝っ、たぁーっ!」

 会心の、しかし紙一重の勝利だった。

 このエレキングは強敵だった。しかし、ピット星人の言葉通りなら、もう戦闘可能な個体はいないはずなのにどうして現れたのだろうか? ピット星人の言葉が嘘であったとは思えない。でなければ前回の戦いのときに使っていたはずだ。

 なにか、ピット星人以外の外的要因があったのだろうか? そういえば、再生エレキングにしても一説には復活に何者かの手が加えられたという話がある。

 しかし、エースの耳に喜びに沸く少年少女たちや、ド・オルニエールの人々の声が響いてくると、心にひっかかっていたしこりも取れていった。

 エースが見下ろすと、ギーシュやベアトリスたちが手を振っている。ともに全力で戦ったことで、彼らにも戦友に近い感情が生まれたようだ。これで、覗きの罪が許されるまではなくとも、多少なり情状酌量の余地が生まれてくれればよいのだが。

 だが、手を振り返そうかと思ったそのとき、ギーシュが持っている”あの武器”にエースの視線は吸い込まれた。

〔あの武器は! どうしてあれがここに〕

〔北斗さん? どうしたんですか〕

〔いや、後で話そう。今は、もうエネルギーが危ない〕

 実際、もうしゃべっている余力もほとんどなかった。エースはカラータイマーを鳴らせながら飛び立ち、晴れ間の空の白雲のかなたへと消えていった。

 

 

 怪獣エレキングの打倒はすぐさまアンリエッタのもとへも報告され、水精霊騎士隊と水妖精騎士団は揃ってアンリエッタ直々にお褒めの言葉をいただいた。

「我が忠勇なトリステインの若き戦士の皆さん、ご苦労様でした。非公式の立場ですので恩賞を渡すことはできませんが、あなた方の戦功はわたくしの胸に永久にとどめることを約束いたします」

 ギーシュとベアトリスは、そのお言葉だけで億の恩賞に勝る誉れですと答え、少年少女たちは感動して静かに涙した。

 だが、アンリエッタは最後に一言付け加えることを忘れなかった。

「ただ、水精霊騎士隊の皆さん、そして水妖精騎士団の皆さん。話を聞くところ、今度の敵はあなた方のどちらかだけではとても力が足りなかったようですね。互いに切磋琢磨するのは当然ですが、このトリステインを守る者同士、あなた方は仲間だと言うことを忘れないでくださいね」

 肝に銘じます、とギーシュとベアトリスは答え、女王陛下の前で固く握手をかわした。

「勘違いしないでね、ミスタ・グラモン。覗きのことは許したわけじゃないんだから。でも、戦うあなたたちは少し、かっこよかったわ」

「いや、君たちこそ、あれほどのことができるとは思っていなかったよ。覗きのことは、その、あらためてお詫びする。二度としないから許してくれ」

「仕方ないわね。今度だけですわよ」

 ベアトリスが視線を向けると、女子たちもうなづいてくれた。

 その様子に、アンリエッタも雨降って地固まるとはこのことですわね、と微笑んだ。

 そして、そうしているうちに避難していた人たちも戻ってきたようだ。

「ああ、皆さんご無事だったんですね」

 一番にティファニアが喜びの声をあげた。次いで、ルビアナや魅惑の妖精亭の子たちもやってくる。心配されていたド・オルニエールの人たちも、銃士隊の適切な避難指示のおかげで犠牲者を出さずに済んだようだ。

 賑わう中で、さりげなく才人とルイズも戻ってきている。しかし、才人とルイズは、エースが気にしていた何かを確かめることに気が急いていた。

”いったい北斗さんは、なににあんなに驚いていたんだ?”

 そうしているうちに、今回の戦いに参加した住民たちにも女王陛下のお声がかけられ、彼らが戻ってくると、才人は急いで彼らの持っている銀色の銃を確かめに走った。

「ちょ、ちょっとすみません。少しでいいので、その武器を見せてもらえませんか?」

「へえ? 構わないでございますよ。どうぞ、ご覧になってくださいませ」

 頼むと、特に抵抗なく持っていた人は才人にそれを渡してくれた。

 才人は受け取り、それをまじまじと見つめる。すると、エースが驚いたわけが才人にもわかった。それは銀色の金属で作られた、明らかにハルケギニアのものではない兵器だったからだ。

「レーザー銃?」

 才人にはそれくらいしかわからなかったが、明らかなオーバーテクノロジー兵器であることは見ただけで確かだった。

 ルイズにはよくわからないようだが、それは仕方ない。これまで宇宙人の兵器をさんざん見てきてはいるけれど、ハイテク兵器という概念そのものがないのだから。

 しかし、北斗が驚いた理由はそれだけではないようだった。普段は滅多に語り掛けてくることはないのに、その武器を目の当たりにしたときに、才人とルイズの脳裏に話しかけてきたのだ。

〔間違いない。その武器はウルトラレーザーだ〕

〔ウルトラレーザー?〕

〔俺がTACにいた頃、ヤプールの手下のアンチラ星人が持っていた武器だ。どうしてこんなところに〕

 エース・北斗は信じられないというふうに語った。すると、才人もウルトラレーザーを見下ろしながら考え込んで答えた。

〔すると、トリステインにアンチラ星人が来てるってことですか?〕

〔いや、そうとは限らないかもしれない〕

 北斗は単純に答えを出そうとはしなかった。なぜかというと、ウルトラレーザーは元々アンチラ星人が元MAT隊員郷秀樹に化けてTACに潜入するための手土産として用意したもので、そのため『地球人の技術で作れて怪しまれない』程度のテクノロジーしか詰まっていない。実際、その後TACは恐らくは複製したと思われるウルトラレーザーを使用している。つまり、やろうと思えばどんな宇宙人でも作れてしまう程度の武器なのだ。

 が、それでもこんなところに軽々しくあっていいような武器ではない。才人は持ち主の人に、これをどうやって手に入れたのかを訪ねると、すぐに答えてくれた。

「はあ、何か月か前でございましたか。こちらを訪れたゲルマニアの行商人の方が売ってくれたのでございます。もしも、この土地にオークやコボルドが出たときにはそれなりの武器がないといけないと言われまして、このマジックアイテムを薦められました。その方が試しに使うと、大木を一発でへし折ってしまったので、みんなで話し合って購入しましたのです」

 どうやら住人たちはこれをマジックアイテムと思っているらしい。この世界の常識からして、そうとしか思えないのは当然のことだが、問題は彼らにこれを売りつけたというゲルマニアの商人だ。

「それで、その行商人さんはどこへ?」

「さあ、あれ以来見かけませんで、どこか遠くへ行かれたと思います。ですが、これ以外にもいろんな珍しいアイテムを持っていらしたようなので、今でもどこかで商売なさっていると思いますです」

 才人とルイズは顔を見合わせた。つまり、ウルトラレーザーと同じかそれ以上の兵器を、平民が買える程度の値段で誰かが売りさばいているということだ。今はまだ平民たちは、これがどれほどとんでもない代物なのか気づいていないようだが、もしもその気になって争いごとに使い始めでもしたら。

 深刻に考え込む才人とルイズ。すると、この中で唯一暗い雰囲気を放っているのに気付いたのか、ギーシュがはげますように近づいてきた。

「どうしたんだい二人とも? ははあ、さては今回のことで出番がなかったのを気に病んでいるんだろう? 心配することはないよ。ぼくらの誰も、君たちが逃げ出したなんて思ってはいないからね」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。まあいいか……ところでギーシュ、この武器のこと、どう思う?」

「ん? そういえば忘れてたけど、すごいマジックアイテムだったね。今回はこれがなかったら危なかったかもしれない。見たこともない形だけど、いったいどこの魔法機関が作ったんだろうね」

「ゲルマニアから来た商人が売ってたんだってさ」

 才人が経緯を説明すると、ギーシュはふーんとうなづいた後に言った。

「それはまた、金銭主義のゲルマニア人らしいことだな。ゲルマニア人にもルビアナのような虫も殺せないような美しい人がいるっていうのに、大違いだよ」

「まあ、ギーシュ様ったらお上手ですこと」

 わざとルビアナに聞こえるように言ったのがバレバレであるが、ルビアナは照れたようにうなづいた。

 ルビアナは穏やかな笑みを絶やさず、その腕の中では小さなエレキングがぬいぐるみのように抱かれている。ギーシュはそんなルビアナにさらにきざな台詞を贈って、さらにそれをモンモランシーに聞きつけられて怒られている。もう早くもこっちのことは視界に入っていないようだった。

 ルイズはそんな彼らの様子を見て、お気楽なものね、と、いつものように呆れてみせた。しかし、本当の意味ではルイズも事の重大さを理解できていない。

 エースは二人の心の奥に消える前に、才人に「今度の敵はいつもとは違うかもしれないぞ」と言い残していった。

 一体誰が、なんの目的でハルケギニアに武器をバラまいているんだ? ヤプールが裏で糸を引いているのか、それとも……。

 才人は考えた。しかし、すぐに考えに行き詰ってボリボリと頭をかいた。

「ダメだなあ、おれの頭じゃさっぱりわからねえや」

 読書感想文でシャーロック・ホームズを読んでも十ページで居眠りをしてしまうような脳みそで推理をしようとすること自体が間違っていると才人は気が付いた。

 面倒くさいので、犯人がここにいれば直接聞いてみたいとさえ思う。ともかく、情報が少なすぎた。

 こういうときに頼りになるのは……と、そのときキュルケが一同によく響く声で告げた。

「さあ、雨を浴びて汚れちゃったし、みんなで温泉に入り直しましょう。今度こそ、ゆっくりとね」

 そういえば、もう全身ドロドロであちこちがかゆい。皆は疲れたのもあって、温泉の温かなお湯がたまらなく恋しくなってきた。

 そうとなると話は早い。だが、ふと気にかかった。この土地の温泉が、あのエレキングが地下水を沸かしてできたものだとすれば、エレキングを倒してしまったら温泉も枯れてしまうのでは?

 だが、その心配は杞憂だったようだ。土地の人が、また温泉にいい塩梅の湯が湧いてきたと知らせに来てくれたのである。

「よかった。ここの温泉は元から本物だったのね。あーあ、安心したら体がかゆくなってきちゃった。サイト、着替えとタオルを用意しなさい」

「って、おいルイズ。せっかく難しい問題を考えてるってときに」

「どーせあんたの頭じゃ何も浮かばないんでしょ? なら悩むだけ時間の無駄よ。それより、今度は目隠しなしでわたしとお風呂入りたくない?」

「了解しました、ご主人様!」

 これぞ、即断即決の見本であった。才人は顔から火が出るほど元気いっぱいになって着替えを取りに走り出し、ルイズは横目でミシェルを見て「こ、これがわたしの実力なんだから」と、少し赤面しながらも勝ち誇って見せた。

 さて、そうなると収まりがつかないのがミシェルと銃士隊である。対抗意識を燃やして、才人が戻ってくるのを待ち構えた。

 そして、ルイズの挑発で火が付いたのはそれだけではなかった。ルイズでさえ、あれだけのアピールをしているというのに黙っていていいのかと、モンモランシーたちが同じようにギーシュたちを誘い始めたのだ。

「モ、モンモランシー、これは夢じゃないんだろうね。ほ、本当に君が僕と、は、裸の付き合いを!?」

「か、勘違いしないでよね。裸じゃなくてタオルごしなんだから。それに、ほかの子に目移りしたら許さないんだから!」

 たとえタオルごしでも、それは夢のようなお誘いに他ならなかった。それにギーシュはおろか、これまでガールフレンドのいなかったギムリやレイナールにも女の子から誘いが来ているではないか。

 これは本当に夢か? 覗き魔として処刑される運命にあった自分たちが、まるで正反対の立場にいるではないか。夢なら、夢なら覚めないでくれ。

 つまり、彼らはわかっていなかった。彼らが今日果たした役割の大きさと、なすべきことへの一所懸命さが女の子たちのハートを掴んだことを。男は百の言葉よりも、まずは背中で語れというわけだ。

 こうして、水精霊騎士隊は覗きなどという卑劣なことをせずとも、夢にまで見た混浴を我がものとすることができた。

 もちろんこの後でも、男女いっしょの入浴ということで様々な悲喜劇が起きたのは言うまでもない。しかしそれでも、彼らは今日という日を永遠に忘れることはないだろう。

 世界に不気味な影が迫っている。しかし、平和な日常はなにものにも代えがたい。

 せめて、この日はこれ以上なにもないことを祈ろう。明日からは、またなにがやってくるかわからないのだから。

 

 ちなみに、この数日後。ド・オルニエールから続く川の河口付近で、一人の貴族の少年が簀巻きにされた状態で漁師の網に引っかかっていたことを付け加えておこう。

 

 

 続く






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