ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第84話  隠された娘

 第84話

 隠された娘

 

 誘拐怪人 ケムール人

 殺戮宇宙人 ヒュプナス 登場!

 

 

「はい、どうも地球の皆さん、ご機嫌いかがですか? 最近どうにも苦労がたまっております私でございます」

 

「さて、これまでの顛末、ご覧になられましたか? ん? やることなすこと邪魔が入ってざまあみろ? おやひどい」

 

「でも、共通の敵がいるなら私はあなたたちに手を貸すこともやぶさかではないんですよ。そう、ハルケギニアで、暗躍する何者かの影を追って、奇しくも同時にゲルマニア帝国ルビティア領に潜入したミシェルさんとタバサさん。奇怪な人間消失を目撃し、それを追っていった二人の前に現れたのは、あなたたちの先輩方も戦ったというケムール人でしたね」

 

「ですが、手がかりにたどり着きながらもケムール人に囲まれ、絶体絶命の危機に陥った二人に、逆転のチャンスは訪れるのでしょうか? そして、そんなお二人に助っ人を差し向けてあげる私はなんて親切なんでしょう」

 

「……ただこの助っ人の人、おっちょこちょいぽいですけど大丈夫ですかねえ。ウルトラマンにもいろんな人がいるものです。さて、ここからは私も観客です。応援していますよ。世のため人のため、私のためにね」

 

 

 それぞれの思惑と利害が重なり、歯車は回り続ける。

 だが、誰がどんな陰謀を巡らせても、その帰結がどこに流れ着くかは終わってみなければわからない。なぜなら、どんな敗者も負けるまでは自分が勝者になるはずだと信じているに違いないのだから。

 果たして、このルビティアの地で求めるものを手に入れることができるのは誰なのだろう?

 ただし、ひとつだけ忘れてはいけない。たとえ望むものを手に入れることができたとしても、それが幸福をもたらすとは限らないということを。

 

 

 ルビティアの商人ギルドに突入し、ケムール人と対峙するミシェルとタバサ。二人は背中合わせに構えて、取り囲んで来るケムール人と睨み合っている。

 こちらが二人に対してケムール人は十人ほど。ケムール人自体はそんなに強力な星人ではなく、もしここに才人がいれば迷わず包囲網に突っ込んでいただろう。しかし、そんな前情報のない二人は警戒し、様子を伺っていた。

「こいつら、取り囲んでいる一方で仕掛けてこない……まさか、肉弾戦は弱いのか」

「それはありえると思う。戦闘に自信があるなら、わたしたち二人くらいとっくに倒すか捕えているはず。なにより、さっきの男がわたしたちから慌てて逃げる必要はない」

 それでも、さすが実戦経験の豊富な二人だけあって即座に冷静で的確な判断を下していた。実際、ケムール人は肉体的には人間よりは強いものの拳銃くらいでダメージを受ける防御力しか持っていない。まともにメイジと戦って魔法を食らうのはたまらないと、ケムール人たちも警戒していたのだ。

 このままミシェルとタバサが強行突破をはかればケムール人たちを蹴散らすことも十分可能だろう。ミシェルも当然そのつもりであったが、タバサが小声でささやいた。

「待って……を」

「正気か? ……いや、危険だが、それしかないか」

 ケムール人たちに聞こえないように、二人は小声で何かを話し合った。そして、二人はあえて構えに隙を作り、怯えているように演技をして見せた。

「フォフォフォ、命知らずの人間どもよ。軽はずみな行動を後悔するがいい。我らの秘密を知った以上、生かしては帰さない」

 ケムール人が不気味な動きで距離を詰めてくる。それは、確かに普通の人間ならば恐怖で発狂してもおかしくない光景ではあったが、ミシェルやタバサはまったく動じず、むしろ内心では隙だらけな動きに安心さえしていた。

 ここで逆襲に転じれば、ケムール人を全滅させることも容易いだろう。しかしそれでは手がかりの先を得ることができなくなってしまう。生かして捕らえて尋問する手もあるが、確実ではない。

 ではどうするか? 虎穴に入らずんば虎児を得ずのことわざに従うまでだ。

「ファファファ、恐怖するがいい。我らの崇高なる使命の邪魔をしようとした罪は重い。だが安心するがいい。お前たちはあのお方のために、死ぬまで働くことができるのだ」

「あのお方……?」

 そのとき、ケムール人の頭部の触角から、ゲル状の消去エネルギー源が二人に向かって吹き付けられた。

 避けることはできる。しかし、あえてそうせずに二人は消去エネルギー源を自らかぶった。

「ぐ……」

 視界が歪んでぼけていく。それと同時にケムール人たちからは二人の姿が発光して消滅していくように見えた。

「ファファファ……口ほどにもなかったな」

「どこの回し者か吐かせるのはあちらに任せよう。それにしても、これがあの方にバレていたらと思うとゾッとしますな」

「まったくだ。これからは仕事をするときはもっと慎重にならねば……ファふぁふぁ」

 ケムール人たちは再び人間の姿へと変身し、騒ぎになっている商工会議所の中を落ち着かせるために出ていった。

 

 しかし、ミシェルとタバサはどこへ行ってしまったのだろう?

 ケムール人の消去エネルギー源には触れた相手を転送させてしまう効果があり、かつてケムール人はこれを使って地球人をさらっていた。

 ならば、今回転送される先とは?

 

 ミシェルとタバサが気がついたのは、薄暗い洞窟然とした場所だった。

「ファファファ。ようこそ、生きる価値のないクズどもよ」

 声がした方を振り向くと、そこには大柄なケムール人が居丈高に立っていて、その左右には小銃のような武器を持った護衛のケムール人がこちらに銃口を向けている。

「ここはどこだ?」

「ファファファ、君たちの新しいふるさとさ。今日から君たちはここで世のため人のために働いてもらうことになるのだ。抵抗すればすぐに死んでもらうが、命が惜しいのならばついてきたまえ」

 おしゃべりなケムール人は、こちらの返事も待たずに左右の護衛兵を差し向けてきた。

 ミシェルとタバサは、目配せしあうと、黙って手をあげて降参の意を示した。そのまま杖と剣を差し出し、手を上げて完全に降参したと示すと、ボス格らしいケムール人は、愉快そうに頭を揺らした。

「ファファファ、今度の連中はなかなか聞き分けがいいな。いつもなら泣きわめくか、逆上して暴れるから少しお仕置きがいるんだが、お前たち向こうで何をした? まあいい、すぐに上から知らせがくるだろう。それまでここを案内してやろう」

 ケムール人は手慣れた様子で先導して歩き出した。ミシェルとタバサは、背中から護衛兵に銃を突きつけられながらついて歩いていく。

 しかし、二人は粛々と従う振りをしながらも内心は冷静そのものであった。理由は単純で、敵がわざわざこっちを懐に入れてくれたことであった。

「しかし、確かに敵を捕らえて尋問してから外から潜り込むよりは確実とはいえ、よくこんな大胆な手を思い付くな」

「時間がないから急いでるだけ」

 二人はあえて捕らえられることで、敵の核心まで一気に迫ろうと考えたのだった。リスクはこの上ないが、宇宙人という連中は人間を見下している傾向があるから、付け入る隙もある。タバサはそこに賭けたのだった。

 案の定、ケムール人は武器を取り上げた二人をまったく恐れる風もなく、フラフラしながらも揚々と歩いている。そして、惜しげもなく秘密を自ら明かしてきた。

「ファファ、見るがいい!」

 ケムール人が通路の窓を示すと、覗きこんだミシェルとタバサは息を飲んだ。

 なんと、岩天井の地下空間に、超巨大な近代工場が軒を連ねていた。しかもそれはタバサが見たフック星人の工場の何倍、いや何十倍もの規模を誇り、銀色の機械が何百何千台と無人で動き続けている。

 作られているものも、もはや複雑すぎて判別できない。だが、特に奥の方では金色のなにか巨大なものが組み立てられているのが見えた。

「これは……」

「ファファファ、この世の土産に見ておくがいい。これが、いずれこの世界を理想郷に導くという、あのお方の夢の花園だよ」

 妙に乙女じみた語りをするケムール人に言われるまでもなく、ミシェルとタバサは工場を凝視していた。その規模はもはや工場都市、いや工場要塞と言っても過言ではないだろう。 

 二人は即座に、この工場を自分たちだけで破壊するのは無理だと判断した。単に広さだけでもトリスタニアにも匹敵しそうで、とてもではないが手に負えない。

 だが、これほどの地下大空洞を一体どこに? 問題はその場所だ。

「ここで働けというの?」

 タバサは質問してみた。しかし、ケムール人は滑稽そうに笑った。

「フォフォ、まさか。この工場は完全に自動化されていて、人間の手など必要はない。お前たちにやってもらいたいことは、こっちにあるさ」

 ケムール人がそう言って案内した場所は、そこからエレベーターに乗ってさらに移動した階層だった。

 だがそこは、近代的な雰囲気とは様変わりした埃臭い坑道であった。

「フォファ、お前たちの仕事場はここだ。原始的に土を掘り続けるのに機械はもったいないからな。あの連中に混ざって今日から働くのだ」

 唖然としているミシェルとタバサに対して、ケムール人は働かされている人々を指差して告げた。

 坑道で働かされているのは、見る限り普通の人間で、ツルハシやスコップを使い、文字通り原始的な採掘作業に従事させられていた。しかも、彼らの回りにはドラム型のボディをしたロボットが徘徊して、休まずに働かせている。

「ひどいことを……」

「フォ? ひどい? いいや、これは罰であり、慈悲深き沙汰なのだ。なにせ、生きる価値のないクズ同然の連中を集めて役立たせてやっているのだからな」

 そう笑うケムール人の言葉に、タバサはミシェルに視線である方向を指し示した。

「あいつらは……」

 見覚えがあった。先ほど孤児院に放火しようとして消されたならず者どもだ。それに、昼間衛兵に引き渡した連中の顔触れも見える。

 いや、それだけではない。よく見ると、広域手配されている凶悪犯や逃亡犯の顔がそこここに見える。

 そういうことか……と、ミシェルとタバサは理解した。ルビティアで、衛兵が怠けるほど暇なのは、治安を乱す人間を根こそぎ消してしまっているからなのだ。

 そして、ルビティアで工夫を使って採掘されるものといえば。

「ルビーの原石を掘らせているんだな」

「フォーフォ、よくわかったな。クズどもでも、あのお方の理想実現のための資金源にはなれることを光栄に思うがいい。さて、では貴様らもさっそ、なんだ?」

 そのとき、別のケムール人がボスになにやらを報告した。するとボスは尊大な態度をあらためて、冷然と二人に言い放った。

「ファファ、お前たち、どうもいつもの罪人どもと違うと思っていたが、我らのことを探りに来た者たちだとはな。労働は後回しだ。どこの回し者だかを吐いてもらおうか」

「ならせっかくだ。お前たちの言う、あの方の正体も聞かせてもらいたいな。不公平だろ?」

「ファッ、あいにくだが、お前たちがどこかのスパイだとわかった以上は一切の質問には答えられん。すぐにトークマシンにかけてやるぞ」

 ミシェルが挑発してもボスは秘密を明かす様子はなかった。おしゃべりな割には指揮官としては無能ではないらしく、すでに護衛のケムール人が倍に増えてこちらに銃口を向けている。

 本当に、すぐにでも尋問を始めるつもりのようだ。わざと捕まって情報を引き出す作戦は、ここで完全に頓挫したと思っていいだろう。

 残った道は、なんとかしてここから脱出することだ。しかし、完全武装の兵士とロボットが固めた出口もわからない地下坑道からどうやって脱出すればよいのだろうか? 武器を取り上げられている状況で肉弾戦を挑んでもせいぜい数人を倒すのが関の山だろう。だが、抵抗できるのは今しかない。

 ミシェルは飛び出そうとした。しかし、それをタバサが制してささやいた。

「心配いらない。もう手は打ってある」

「なに……?」

 どういう意味だ? ミシェルも裏仕事では長くならしたベテランの自負を持っているが、そんな仕掛けをしていた風にはまったく見えなかった。タバサの眼鏡の奥の表情は微動だにしておらず、ハッタリかどうかすらわからないが、そんな二人に対してケムール人はいらだって「さっさと来い!」と、銃口を向けてくる。

 しかし、タバサは冷然と「断る」と返すと、愕然とするケムール人たちに向かって毅然と言い返した。

「悪いけど、こちらも同じ失敗を繰り返すつもりはない。ここは出て行かせてもらう」

 タバサがそう告げると、彼女の袖口からキラキラと光る粉のようなものが零れ落ちた。そして彼女がそれにフッと息を吹きかけて飛ばすと、粉は一粒ずつが大きな狼に変化して一斉に暴れ出したのだ。

「な、なんだぁ!」

「ど、どこから現れたんだ、このオオカミどもはぁ!」

 坑道の中が一気に大混乱に陥る。狼どもはケムール人といわずロボットといわず囚人といわずに襲い掛かり、しかもその数は十や二十を軽く超えている。

 もちろんケムール人たちもタバサとミシェルを連行するどころではなく、自分の身を守るだけで手いっぱいの有様だ。その隙を突き、タバサは自分の杖を奪ったケムール人に体当たりをして杖を奪取し、すぐさま魔法を使ってミシェルの剣と杖も奪還して彼女に投げ渡した。

「ありがたい、これなら戦える。しかしお前、こいつはマジックアイテムか?」

「『フェンリル』。ガーゴイルの一種で、隠し持てるのが売り。こんなこともあろうと、あの女から借りておいてよかった」

 タバサはフック星人に捕まった時の経験から、杖を失った時のための武器が必要だと考えて、シェフィールドから無断でフェンリルを拝借していたのだった。

 坑道の中は暴れ回るフェンリルのために阿鼻叫喚の巷となっており、タバサは逃げるなら今のうちだとミシェルをうながした。

「急いで。わたしはガーゴイルの扱いは慣れてない。無秩序に暴れさせるだけが限界で、向こうの混乱が収まったらすぐに制圧される」

「あ、ああ。しかし、肝心の出口だが、どちらに行けばいいのか」

「フェンリルの視界を通してここの坑道の構造はおおむね理解できた。出口の方向ならわかる。急いで」

 タバサはミシェルを案内して、坑道の出口へと急いだ。途中、何回かケムール人の警備兵や警備ロボットに阻まれたものの、散発的に襲ってくる程度ならば二人の敵ではない。

 ただし、捕らえられている人たちは遺憾ながら見捨てていくしかなかった。残念だが、とても助けている余裕はない。

 そして、いくつかのゲートを強行突破した末に二人が出たのは思った通り、ルビティア公爵家の所有するルビー鉱山の内部そのものであった。

「どけどけっ、邪魔だ!」

 入り口付近の普通の鉱山では、それこそ普通の工夫が普通に働いていた。二人が現れたのは、落盤で立ち入り禁止になっている閉鎖坑道の中からで、二人は驚いている工夫たちの間を縫って、とうとう地上に出ることに成功した。

「こんなに街の近くだったのか……」

 鉱山の入り口は、ルビティアの街から二リーグほどしか離れていない山の中腹にあり、二人は山からさっきまでいた街の景色を見下ろして驚いた。

 こんな人里のすぐそばに宇宙人の大基地があり、大勢の人間が捕らえられているなどとは誰も想像できないだろう。しかし、あれは夢でも幻でもなく、そしてここまで来た以上は、もうあの仮説を確信するしかなかった。

「主要鉱山にあんなものがあった以上、もうルビティア公爵家がこの件に関与していないといった線はなくなったな……」

 それはすなわち、あのルビアナにも何かがあるということで、ミシェルは気が重くなった。だが、まだ彼女が悪だと決まったわけではないと気を取り直すと、タバサに向かって問いかけた。

「さて、ところでお互いのことだが、ここまで来た以上は互いの情報を交換したほうがいいとは思わないか?」

「……わかった」

 タバサとしては、自分ひとりでもなんとかする覚悟はあったが、敵の規模を考えると戦力は多いほうがいいと考えた。

 それぞれ、トリステイン銃士隊とガリア花壇騎士の身分を明かし、それぞれがこの地に来た目的を明かした。もっとも、タバサのほうはある程度の情報はすでに知っていたが、それは隠しながらミシェルに最後にひとつの情報を明かした。

「わたしは、あなたより一日早くルビティアを調べていた。あなたも調べた通り、誰に聞いても領主とその娘の評判は最高であったけど、気になったことがあった。ここ一年ほど、娘はともかく領主の姿を見たという者は誰もいないらしい」

「なんだと? では、政はいったいどうなっているというんだ?」

「領主の娘がすべての命令を取り仕切っているらしい。おかしい話だけど、指示どおりにすればすべてがいい方向に動いたから誰も気にしていないらしい。実際、彼女の治世は成功してる。あらゆる方面で、完璧に」

「完璧だと?」

「そう、商業、農業、治安、福祉、どれをとっても非の付け所がない。人間技とは思えないほどに」

 タバサ自身も信じられないという風に説明した。はじめは何かトリックを使ってうまくいっているように見せかけてるのかと思ったが、調べたら本当に巧みな指揮と豊富な知識であらゆることを成功させたのだとわかった。

 希代の天才だという評判は聞いていた。しかし、その能力はもはや天才の域を超えている。同じく天才とうたわれたタバサの父のシャルル皇太子でさえ、ここまでのことはできないだろう。

 タバサは、まるで得体のしれない化け物のように不信感を語り、ミシェルも納得できることは多いとうなずいた。だがそれでも、直接会ったことのあるミシェルは信じたくないという思いがあった。

「わたしは以前、恩人だと信じていた人に裏切られたことがある。あの女も、そうだというのか」

「……わたしはその女に会ったことはないからなんとも言えない。けど、善人を装うのは悪人がよくやる手。それでも、真実を知りたいなら、道はひとつ」

 タバサが促すと、ミシェルは気を取り直して答えた。

「そうだな、確かめるしかない」

 いくら疑おうが信頼しようが、真実に迫ることはできない。真実を知るためには、覚悟を決めて自分の目で確認するしかない。

 しかし、とミシェルはタバサを見た。年齢的には大きく開きがありそうなのに、ミシェルがどこか幼げなところが抜けないのに比べ、まるであちらの方が年上に思える。

 実はよく似た人生を歩んでいる二人。だが、現実は二人にゆっくり話し合う時間も与えてはくれなかった。背後から急に強烈な殺気を感じ、二人は同時に魔法を放った。

『ウィンディ・アイシクル!』

『ブレット!』

 氷の矢と土の弾丸が背後の何者かに撃ち込まれ、その威力の前に、二人に襲いかかろうとしていた何者かは断末魔の悲鳴をあげて打ち倒された。

 その死体を検分する二人。だがミシェルは、絶命している怪物の姿を見て愕然とした。それはケムール人ではなく、ゴツゴツした頭部と鋭い爪を持つ怪人。以前にトルミーラとの戦いで見たヒュプナスそのものだったのだ。

「バカな、どうしてこいつがこんなところに」

 あのとき、あの地下基地は完全に破壊したはずだ。しかし、ミシェルはあのときにトルミーラが言い残した言葉を思い出した。そう、トルミーラも何者かの黒幕の存在を示唆していた。

 まさか、あの黒幕もここの黒幕と同じだというのか? だが、考えている余裕はなかった。殺気はこれだけにとどまらず、四方からさらに増えてくる。

「わたしたちを、確実に始末するつもりらしい」

 タバサが全方位を警戒しながら呟いた。考えてみれば当たり前だが、ケムール人たちをあれだけコケにしたわけだから、激怒させて当然だ。

 ミシェルも気合を入れ直して剣を構える。しかし、いくらなんでも何体いるかわからない数のヒュプナスを真っ向から迎え撃つのは無謀すぎる。今の一体は不意打ちで倒せたが、あいつは一体でも自分とサイトの二人がかりで手こずるような怪物なのだ。

 タバサとミシェルは短く目配せし合った。残った道は二つに一つ。今回は諦めて出直すか、それとも危険を承知で敵の心臓部に殴り込むか。ミシェルはすでに覚悟は決めていたが、タバサの答はさらに短かった。

「時間がない」

 そういうことだった。慎重にやっている余裕なんかはない。逃げて逃げ切れたとしても、次に来たときに同じ成果が得られるとは限らないのだ。

 ならば、目指す先はどこか? ケムール人のアジトの商工会議所か? 地下の大工場か? いいや、どちらも枝葉に過ぎない。事の真相にもっとも近いと見えるのは、街を見下ろす丘の上に建つ領主の屋敷、ルビティア公爵邸。

「飛ぶ」

「おう」

 タバサとミシェルは、ヒュプナスの包囲を突破するために、『フライ』の魔法を使って飛んだ。いくらヒュプナスが高い身体能力を持つモンスターでも、飛行能力までは持ち合わせていない。

 ヒュプナスの群れをやり過ごすと、二人はルビティア公爵邸へ真っ直ぐに向かった。

 むろん、大貴族の屋敷だから、その周辺にも厳しい警備が敷かれているが、二人もその道のプロである。番兵や番犬を騙す手口や、どこに罠が仕掛けられているかを見抜く眼力も十分に持ち合わせていた。

 そして、たどり着いたルビティア公爵邸は、周辺の警備の厳重さに反比例して異様に静まり返っていた。

 忍び込むならどこからか? 正面か、裏口か。いや、思案するまでもなく、正面玄関が開いて衛兵が飛び出してきたのだ。

「曲者だーっ! 出会えーっ!」

 まるで時代劇のワンシーンだが、実際そういうことを言っているわけだから仕方ない。

 しかし、ミシェルとタバサはうかつに迎え撃つことはできなかった。相手は衛兵。ケムール人が化けているのか、それとも普通の人間かがわからなくては下手な攻撃はできない。

 いや、タバサはともかく根っからの武闘派集団の銃士隊員のミシェルは決断が早かった。槍を持った衛兵の懐に瞬時に飛び込むと、あっという間に数人を殴り倒してしまったのだ。

「半殺しなら正体は関係あるまい」

「後で責任を問われたらどうするの?」

「後で考えるさ」

 この投げ槍ぶりであった。タバサは銃士隊のことはそんなに詳しくは知らないが、かの烈風と娘たちといい水精霊騎士隊といい、トリステイン人は面倒になったら力技で解決する伝統でもあるのだろうかと勘ぐってしまう。

 まあともかく、その判断は正しかったようだ。倒した衛兵は苦悶の声を漏らすとケムール人の姿に変わっていく。

「どうやら半殺しで済ませる必要もないらしい。ここの主はただものではなさそうだ」

「むしろ状況は悪くなったけれど」

 タバサは憂鬱に呟いた。ルビティア公爵邸の衛兵までが宇宙人だということは、もう黒幕はほとんど決まったと言っていいからだ。

 あとは、動かぬ証拠と敵の目的を突き止めるだけだ。二人は邸内に飛び込んで、一直線に公爵の部屋を目指して突き進んでいく。

「そら、お出迎えだ」

 四方の部屋や通路から、もう正体を隠す必要もなくなったケムール人たちが大挙して現れる。しかも手に持つ武器はレーザー銃などに変わっている。

「足を止めたら蜂の巣にされるぞ!」

「言われなくてもわかる」

 飛び道具ならこちらも魔法があるが、際限なく撃てるものではない。雑魚に関わっている余裕はない。

 しかし、敵の武器は銃火器だけではなかった。天井からの気配に気づいたタバサがミシェルに叫ぶ。

「上、避けて!」

 はっとしたミシェルが身を翻すと、天井からゲル状の消去エネルギー源が滴ってきて床を濡らした。

 危ないところだった。これに少しでも触れたら転送されてしまう。だがよく見れば天井のあちこちに消去エネルギー源がうごめいてこちらを待っている。これではまともに進むこともできない。

 が、足を止めさせたところを仕留めようというケムール人たちの企みはタバサの冷静な判断によって打ち砕かれた。タバサは杖を振るうと、氷の魔法を全開にして通路を丸ごと氷で覆いつくしてしまったのである。

「すごいな」

 これにはミシェルも感嘆した。決して狭くはない屋敷の通路を丸ごと凍らせてしまうとは、まさにスクウェアクラスの芸当に他ならない。

 けれど、これで進む上の問題はなくなった。消去エネルギー源はしょせん液体である以上、極低温にさらせば凍り付く。こうなればもう役には立たない。

「急ぐ」

「ああ、だがこれは寒いなあ」

 氷の扱いに慣れているタバサはともかく、軽装のミシェルは凍えるくらい寒かった。寒冷地で戦うなら、アルコール度の強い火酒を用意して体の中から温めるのが常道だが、今回はそんなものを用意してはいない。

 ただ、室温が一気に下がってまいったのはケムール人たちも同じだった。向こうも凍えて銃の照準が合わなくなったし、動きが鈍っている。なにより切り札の消去エネルギー源が使えなくなったショックが大きく、ケムール兵の一人がうろたえながら隊長格に言った。

「ファ、ファア。こ、これでは戦えません。このままでは、あの部屋にたどり着かれてしまいます」

「グァグァ。仕方ない、ヒュプナスどもを出せ。巻き添えを食わないように注意しろ」

 そのとたん、凶暴な唸り声がしたかと思うと、通路の先から数体のヒュプナスが飛び出てタバサとミシェルに向かってきた。

「やはりこちらでも出てきたか!」

 想定はしていたが、ケムール人とは比較にならないほど強力な敵の出現にミシェルの背が冷たくなる。ヒュプナスどもは人間を一撃で即死させられる爪を振り上げて、一直線に向かってくる。

 ただし、さきほどは広い屋外だったが今回は道の固定された屋内の戦闘。しかもヒュプナスは本能任せに暴れるだけで、知性を持ち合わせていないことをタバサは悟ると、突っ込んで来るヒュプナスの足元に向けて再び氷の魔法を放った。すると絨毯で覆われた床はスケートリンクも同然の状態になり、ヒュプナスはあっけなくすっころぷ。けれどこれではタバサたちも走れなくなるのではと思われたが、ミシェルが素早く土の魔法で砂をばらまいて、二人が走れるだけの道を氷の上に作り上げたのだ。

 そして、氷の上でもがいているヒュプナスに剣と杖を突き立てて素早くとどめを刺す。先のフック星人のときもそうだったが、肉弾戦を得意とするものにとって一番の弱点は足場なのである。

 ヒュプナスは確かに生まれついての狩人かもしれないが、タバサとミシェルは戦闘そのもののプロだった。

「やるな、お前」

「……」

 戦いの中で信頼を深めながら二人は走る。

 しかし、当然ながら敵の攻勢はこれで終わりではなかった。屋敷は広く、通路の先からは新手のケムール兵やヒュプナスが現れて襲い掛かってくる。

「ちっ、やはりこの屋敷は普通じゃないな。まさかトルミーラの件にこんなところで行きつくとは思わなかった。ところでお前、やっぱりどこかで会ったことがあったか?」

「気のせい。それより、お出迎えがまだ来る。あなたの言う通り、この館の主はただの人間ではないらしい。一気に突っ切るけど、助けている暇はないからそう思って」

 こういう屋敷の構図はだいたい決まっている。二人は公爵のいると思われる最奥の部屋を目指してひたすら突き進んだ。

 ルビティア公爵、その人となりや功績については二人ともあらかじめ調べてきてある。領地からのルビー鉱山の発見によって一挙に財を成したことは有名だが、現在の当主は統治者としては数年前まではかばかしくなく、名家としての名ばかりが残り緩やかな衰退にあると思われた。それが再び大きく世に出たのはほんの最近、あのルビアナが世に現れてからのことだ。

 しかし、ルビアナの経歴についてはいくら調べてもなにも分からなかった。公爵家の箱入り娘として、人目に触れずにこれまで育てられてきたというだけで、その幼少期については一切不明。公爵に娘がいたという記録だけははっきり残っているので実在はしているのだろうが、ほかの公的な記録がまったくないのである。

 いや、記録がないことについてはそこまでおかしくはない。タバサもミシェルも、公的には存在が抹消されている人間だ。貴族がなんらかの理由で記録を消すのは珍しいことではない。だが、疑念を晴らすにはその闇の部分を見なければならない。

 一心不乱に走る二人。それを阻もうと、ケムール人やヒュプナスが襲ってくる。

「邪魔だ! 手向かいするなら斬る!」

 手向かう者には二人とも容赦しない。ヒュプナスもかつて戦ったトルミーラほどの強さはなく、戦い慣れてきた二人にとってはいなすのはさほど難しくはなかった。

 それでも、ケムール人たちは次々に向かってくる。その戦いぶりは鬼気迫るものさえあり、斬っても魔法で吹き飛ばしてもなお攻めてくる様には、単なる危機感などとは違った使命感のようなものを感じられた。

「ヌォーッ! ひるむな、我らケムールの悲願を果たすためにはあの方の期待を裏切るわけにはいかんのだ」

 その防戦のすさまじさは、スクウェアとトライアングルクラスの手練れが揃っているというのに容易には前進できないほどだった。なにがケムール人たちをここまで駆り立てるというのか? 才人ならばなにか心当たりがあったかもしれないが、タバサやミシェルには察することはできず、ひたすらに突き進む。わかっているのは、これだけ激しく抵抗するということは、先に重要なものが待っているということだ。

 そして、妨害の数々を突破し、二人はついに屋敷の最奥の公爵の部屋へと踏み込んだ。

「ここだ!」

 ドアを蹴破るように飛び込み、二人は室内の様子を探った。

 室内はなかなか広く、左右に本棚がある品の良い作りになっていた。天井も高く、並べられた調度品も華美ではなく風情を持ったものばかりで、ここの主の趣味の良さを感じられる。

 けれど、よく清掃されて塵一つ落ちていないが、人が住んでいるという生活感に欠けていた。まるで大学の図書館のようだ。

「誰もいないのか……?」

 てっきり敵が待ち構えていると思っていたミシェルは拍子抜けした。

 いや、待ち伏せがないだけではなく、さっきまで激しく追いすがってきていたケムール人やヒュプナスも部屋に押し入ってくる様子はなかった。

 タバサは、この部屋の整えられた様子から、彼らにとってなんらかの聖域になっているのかと推測した。ディテクトマジックなどで調べてみたが、室内に罠が仕掛けられている様子はなく、危険な気配はなさそうだった。

 二人はうなづきあって、そのまま先に進むことにした。さっきのケムール人たちの必死さから感じると、彼らはこの中を荒らしたくはないらしい。なら、こちらも無茶をする必要はない。

 油断なく、二人は室内を進む。室内といっても、公爵の私室なのでいくつかに区切られており、高級ホテルをさらに大掛かりにしたものと思えばいいだろう。応接間、図書室、休憩室……いずれもきれいに整えられ、土足で進むのがはばかられるほどだった。

 と、そうして進んでいると、二人は壁に美術品とは違うおもむきの大きな絵が飾られているのが目についた。若い男性と女性が、にこやかに笑いながらひとりの少女と遊んでいる絵だった。

「公爵夫妻と、その娘の絵かな?」

 タバサは無言でうなづいた。まるで、自分の父がまだ健在だったころの自分の家族のような絵に、胸が締め付けられる。それにしても、この絵に描かれているのが若い頃のルビティア公爵と、ルビアナの幼い頃なのだろうか。

 だが、その絵の下に、我が妻マルガレート、享年24、没年……と寂しく書き足されており、公爵夫人が若くして亡くなったことが察せられた。

 お気の毒に……と、タバサもミシェルも思う。だが、それはそれだ。二人はさらに先へと進み、本当の最奥である、公爵の寝室へとやってきた。

「ルビティア公爵、失礼します」

 一応ドアをノックして、二人は礼に則りながら油断なくドアを開けて足を踏み入れた。

 寝室は裏庭へのテラスに面していて、思ったよりも広く、月明かりが差し込んで明るかった。

 しかし、やはり人の気配はしない。部屋の中で目立つのは二つのベッドだけで、タバサとミシェルはゆっくりと歩み寄ると、そこに横たわっているものを見て息を飲んだ。

「これは……」

 最悪の予想が当たっていたかと、二人とも目の前が暗くなる感覚を味わった。ルビティア公爵家はすでに……。そして、あの女はやはり。

 だがそのとき、テラスのほうからしわがれた老人の声が響いた。

「おや、これはこれは、お客様ですかな」

 はっとして二人が振り向くと、そこには深いしわを顔に刻んだ小柄な老人が、正装をまとって立っていた。

 二人はとっさに杖を抜こうとしたが、手をかけたところで自重した。殺気はない。それに、不意討ちをかけるならできたところで話しかけてきたということは敵意はないはずだと、ミシェルとタバサはそれぞれ貴族としての作法にのっとって礼を返した。

「不躾な参上をお詫びします。失礼ですが、貴方は?」

 すると老人は、テラスの掃除をしていたらしいホウキとちり取りを脇に置いて答えた。

「はい、わたくしめはルビティア公爵家に仕えております執事のバーモントと申します。今年で八十八になりました。ルビアナお嬢様のお友だちの方々ですかな?」

「はい、まあ……」

 バーモント老人には、先ほどの二人とケムール人たちとの戦いの騒動は聞こえていなかったらしい。二人が話を合わせると、バーモント老人は嬉しそうにしながら言った。

「おお、よろしくお願いいたします。あいにく、お嬢様はお留守ですが、精一杯もてなしをさせていただきます。といっても、もう公爵家に仕える人間の使用人は私一人になってしまいましたが」

「人間の……それはどういう?」

「ええ、ほかの方々は皆新しい仕事を見つけて出ていきました。わたくしはもう、この歳でよそでやっていくのは無理なので、掃除夫として残らせてもらっております。新しく入ってきたけむうるの方々も働き者ですが、やはり旦那様のお部屋の手入れはそれなりの作法がありますものでねえ。ほっほっほっ」

 楽しそうに語るバーモント老人。その恐れた様子もなく宇宙人を受け入れている姿に二人は唖然としたが、今度はタバサが尋ねた。

「人間じゃないものに囲まれてて、平気なの?」

「ほほ、この歳になりますと怖いものなど無くなりましてな。それに、あの方たちとはなぜか気が合いましてなあ」

「彼らがどうして人間に化けてここにいるか知ってる?」

「はあ、なんでもけむうるの方々は、お嬢様に叶えてほしいお願い事があるとかで働いているそうです。本当に仕事熱心な方々で、わたくしも大助かりですわ」

 あのケムール人たちの必死さはそういうことかと二人は理解した。だがそれにしても、宇宙人がそれほどまでに叶えたい願いを叶えられるルビアナとは何者なのか?

「あなたはルビアナを信頼しているようだけど、でも彼女は……」

「いいえ、あの方は正真正銘、このルビティアのお嬢様でございます。このバーモントが保証いたします」

 力強く語るバーモント老人の剣幕に、二人は気圧されるものを感じた。

 だがそれほどまでに愛され、尊敬される反面で、あの女は恐ろしい企みを次々におこなっている。単に悪事のカモフラージュにやっているにしては極端すぎる二面性に、タバサもミシェルもそれ以上の判断がつかなくなって困惑した。

 すると、バーモント老人はテーブルに二人を誘って言った。

「あなた方はお嬢様のお友だちではないようですな。ですが、悪い方というわけでもなさそうです。お座りください。わたくしどもと、お嬢様のなれそめをお話しいたしましょう」

「ご老人……ええ、我々はルビティアの秘密を探りに来た者です。それがわかっていながら、よいのですか?」

「ええ、お嬢様は常々、お友だちは多いほうがよいとおっしゃられていました。そのために疑われるなら、隠したいことはなにもないとも。ですから、お嬢様の名誉のために、わたくしは申し上げます」

「あなたは、あの方のことを信じているのですね」

「はい。確かに、お嬢様のやろうとしていることは、わたくしには理解しきれないこともあります。それでも、お嬢様はわたくしどもルビティアの民や、なにより旦那様には救い主であるのです。そして願わくば、お嬢様を助けてあげてくださいませ。お嬢様はきっと、自分を理解してくれる人を求めているのだと思うのです」

 バーモント老人は、そうしてゆっくりと語り始めた。

 

 

 そしてそれから数時間後、二人の姿はトリステインへ続く街道にあった。

「くそっ、もうなにがどうなっているのかわからん!」

 馬を急がせながらミシェルは吐き捨てた。その隣ではタバサが同じように馬を走らせている。

「あの老人の言葉を信じるの?」

「信じるも信じないもない。元々わたしは騙されやすいんだ。だが、こうなったらあの女に直接問いただすしかあるまい」

「なら、わたしも行く。そいつは今トリステインにいるのね?」

「ああ、今度王宮である舞踏会に招待されているはずだ。急ごう、馬の足ではギリギリ間に合うかどうかだ」

 二人は暗い道を馬を飛ばす。

 だが、無人の街道を急ぐ彼女たちを、月明かりとは明らかに違う輝きが照らし出した。

「なんだあれは!」

 空を見上げると、いつの間にか二人の頭上を巨大な四つの飛行物体が金色に輝きながら旋回していたのだ。

 あんなものは見たこともない。光沢から金属でできているのだろうが、四つのいずれも円盤や船とはまったく違った形で二人が戸惑っていると、飛行物体は二人の前方数百メイルで合体を始めた。

 まず、二股に分かれた機体が着地して足になると、その上に半球状になった機体がドッキングして腹と胸になり、最後の機体が最上部で頭と腕になって、ついには巨大な金色の人型ロボットへと合体を果たしたのである。

「くそっ、追っ手か!」

 巨大ロボットは完全に二人の行く手を遮るように立ちはだかっている。つまり、自分たちを帰す気はないということだ。そして巨大ロボットは、その太い脚を上げると重々しく歩きながら迫ってきた。タバサは、シルフィードがいないことを悔やんだが、かといってどうにもならない。

 しかし、二人が悲壮な決意を固めようとしたそのとき、西の空からもう一機の戦闘機が現れた。

 

「ダイナーッ!」 

 

 光芒が闇を裂き、大地に銀色の巨人ウルトラマンダイナが降り立った。

「なんとか間に合ったぜ。さあ、俺が相手だ。来やがれポンコツロボット!」

 ダイナは地上のタバサとミシェルをちらりと見下ろすと、眼前の巨大ロボットへと構えた。

 タバサとミシェルは、ウルトラマンの登場に、安堵と喜色を浮かべる。

 しかし、いかなダイナでもこの金色の殺戮兵器に勝てるだろうか? 冷たいボディの中に計り知れないパワーを秘めて、ロボットはうめくような機械音を響かせながら動き出す。

 東の空から太陽が登りだし、戦いのゴングのように、金と銀の巨影を照らした。

  

  

 続く


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