第88話
私の名
放電竜 エレキング 登場!
誰もが夢の一夜を楽しむはずであったエルムネイヤの舞踏会は今や、怪獣とウルトラマンの激闘を観戦する武闘会場へと変貌してしまっていた。
「一体どうしてこんなことに……あの怪獣はどこから……?」
舞踏会に招待されていたアルビオンのウェールズ王が短くつぶやいた。宮殿のど真ん中に、なんの前触れもなく現れた怪獣。ここに集った大勢の貴族たちにとっても、それは共通の疑問であった。
しかし、アンリエッタやルイズなど、以前のド・オルニエールの事件を知っている者たちにとっては、胸の中にぞっとするような不安が湧いてくる怪獣だった。
「あの怪獣はあのときの……もしや」
エレキングが突然現れるなら、その可能性がひとつだけある。だがそれは……。
アンリエッタは動けないが、アニエスらはすでに行動を始めているだろう。それにルイズも血相を変えて才人を探しに飛び出している。
そして、疑惑の渦中にあるルビアナは、暴れ狂うエレキングを見上げながらじっと押し黙っている。そのそばでは、ギーシュとモンモランシーが血色を失ってルビアナを見つめていた。
「ル、ルビアナ、あの怪獣は、君の……」
「ルビアナさん……?」
二人が呼びかけると、ルビアナはふっと振り返って悲し気な表情を見せた。
「ええ、わかっています。あの子になにかあってしまったようですね。私が目を離してしまったばかりに」
「い、いいや、ルビアナのせいなわけないさ! それよりぼくらも避難しよう。君もここにいると危ない」
「いいえ、わたくしはここであの子を見届けます。あの子は私にとって、あなた方メイジの使い魔のようなもの。あの子に万一のことがあったとき、わたくしが見届けてあげなくてはいけません。わたくしに構わず、ギーシュ様は女王陛下のために行ってくださいませ」
ルビアナは一歩も動こうとはしなかった。そして、その強い決意を感じ取ったギーシュは、きっと襟元を正すと金髪をかき上げながら宣言したのだ。
「わかりました! ですが女王陛下の賓客であり、我が友人でもあられるあなたを置いていくこともまた女王陛下への不敬。事態が落ち着くまで、不肖ギーシュ・ド・グラモンがあなたをお守りいたしましょう!」
その大げさにかっこうつけた宣言を見て、モンモランシーは「やっぱりこうなるのね」と予想通りすぎる展開に頭を抱えたが、むろん彼女もルビアナを置いて自分だけ避難する気にはならない。
ルビアナは、自分のわがままに付き合ってくれるという二人の友人に対して、ありがとうございます、と優雅に会釈した。その微笑みの美しさに、ギーシュは心臓をわしづかみにされたような動悸の高鳴りを感じ、自分自身にも言い聞かせるように再度宣言した。
「あ、安心してくれたまえ。ぼ、ぼくの命にかえても、ルビアナにもモンモランシーにも傷ひとつつけさせないさ!」
それは、これまで数多くの女子と付き合ってきたギーシュも感じたことのない感覚だった。以前、ラグドリアン湖の舞踏会の時に大けがをして、ルビアナとモンモランシーに手当てをしてもらったことが思い返されてくる。もうあんな無様は晒したくない! すると、そんなギーシュの焦りを悟ったように、モンモランシーがギーシュの手を握ってきた。
「なに一人で背負う気になってるのよ、このバカ。あの夜に誓ったでしょう? わたしたちは対等。あなたに守られるだけじゃなくて、わたしだってあなたやルビアナさんを守りたいの。ルイズやキュルケほどじゃないけど、女のわたしだって戦えるんだからね」
そう力強く諭してくれるモンモランシーに、ギーシュは情けなさもあったが、それよりも強い安心感と心強さを感じるのだった。
「ああ、モンモランシー、ぼくが間違ってたよ。みんなで無事に帰ろう。そうして、舞踏会の続きを楽しもうじゃないか!」
ルビアナはにこりと笑って戦いを見返した。
そんな彼らのところに、仮装を解いたキュルケやベアトリスたちが、控室に置いたままにしてあった杖を持ってきてくれた。彼女たちはもちろん避難をうながしたが、ギーシュは先に行ってくれとかっこうをつけて答えた。
「いやあ、どうしてもぼくって男はレディの困っている姿は見逃せなくてね。本当に危なくなったら二人を連れて逃げるからさ、少しだけルビアナに付き合わせてくれよ」
「仕方ないわね。ギーシュにかっこうつけるなって言うのは、息をするなって言ってるのと同じだものね。わたしはひとまずこの子たちを安全な場所まで連れて行くけど、あなたも言った以上はがんばりなさいよ」
キュルケはそう言って、ベアトリスたちを連れて去っていった。その背中に向かって、ギーシュはわがままを聞いてくれて感謝すると心の中で頭を下げた。
ただし、一瞬後には盛大に下心で胸中は塗り替えられている。いわく、モンモランシーとルビアナに同時にいいところを見せるチャンス! 今回は手柄を分割する仲間はいないし、うまくすれば二人いっぺんにデートに誘うことも夢じゃない!
“ぼくとモンモランシーとルビアナで、一日中愛の詩を語って過ごそう。ああ、なんて素晴らしいんだ! きっと二人も喜んでくれるに違いない”
都合のいい未来予想図を描き、それにためらいなく命を懸けられる男ギーシュ。そんな彼のうっとりした横顔を、モンモランシーは「またバカなこと考えてるわね」と、蔑んだ目で眺め、ルビアナはただじっとエレキングとウルトラマンの戦いを見守っているだけである。
だが、人間たちの思惑など関係なくエレキングの暴走は続き、ウルトラマンヒカリはそれを止めるために否応なく戦いに挑まされていく。
「ヘアッ!」
腰を落としたヒカリのストレートパンチがエレキングの腹に食い込んだ。さらにヒカリはエレキングがのけぞった隙を逃さずに、回転する角のある頭部へと回し蹴りを叩き込む。
「セイッ!」
強風に舞う木の葉のような、目にも止まらぬスピーディな戦い方がヒカリの持ち味だ。それでいて、その一撃は重く、怪獣に着実にダメージを与えていく。
さすがにスピードではタロウ、重さではレオにはかなわないものの、その中間ともいうべきファイトスタイルを駆使してヒカリはサラマンドラやベムスターといった強豪怪獣たちを撃破してきている。
だが、今回もヒカリはその熟達した動きでエレキングと渡り合っていたが、戦いが長引くほどエレキングの異常性に確信を高めていった。
〔こいつ、なにかに怯えて……いや、怒っているのか?〕
エレキングの暴れようは、まるで釣り上げられた魚のようにめちゃめちゃだった。手当たり次第に攻撃を繰り返し、こちらの攻撃が当たってもひるむ様子もない。
明らかに何か異常な暴走をしている。ヒカリはそれをいぶかしんだが、彼はそれを考えるより先に我夢に叫んだ。
〔急げ! 何かがおかしい。今のうちに早く〕
「は、はい、わかりました」
我夢ははっとして、目の前の機械を操作した。円盤を実体化させたら、後は逃がさないように妨害電波を流して足止めする。強大なテクノロジーを持っている相手にどこまで通用するかわからないが、ないよりはましだ。
「急いでくれよ、アスカ、藤宮……」
いつまで時間を稼げるかわからない。一刻も早く捕らえられた二人を救出して脱出してくれと、我夢は祈った。
しかして、我夢の危惧した通り、円盤の中ではすでに激戦が繰り広げられていたのである。
「侵入者だーっ! 捕まえろーっ」
通路に警報が鳴り響き、宇宙服のような装備を身につけた兵士が慌ただしく駆け巡っている。
内部に侵入したアスカと藤宮のことは早々に察知されていた。二人は二手に別れて、敵を撹乱しながら通路を進んでいく。
「とてつもないテクノロジーの船だ……」
藤宮博也は通路を走りながらつぶやいた。彼自身も天才集団アルケミースターズに籍を置いていた人間だが、この宇宙船に使われている技術は彼の理解を持ってしてもはるかな未来を行っていた。果たして地球人がこの規模の宇宙船を自力で作るとしたら、あと何百年、何千年かかるか想像もできない。
しかし、科学で作られているのだとすれば、理解はできなくとも、ある程度の方向性は想像できる。具体的に言えば、どこに動力炉を配置してどこに居住区を置けば都合が良いか。レイアウトの合理性は不変だからだ。
「幽閉されているとすれば、向こうか」
藤宮は今、アグルの姿をとってはいない。エネルギーを少しでも温存しなければならないし、藤宮は変身しなくてもアグルの力の一部を使って高速移動やバリアの発生などを駆使することで、雑兵程度は蹴散らせるのだ。
一方で、アスカはそんなに頭がいいことできるわけがないので陽動専門だ。
「ほらほら、こっちだ、こっちだぜ!」
「待てえーっ」
アスカを追って団体の警備兵が走ってくる。しかし、盗塁を狙うランナーのように、走ることは元球児のアスカの得意技だ。
ただ、本来であればいくらアスカと藤宮でも円盤に侵入したとたんに兵士に囲まれてしまっていただろう。しかし今は我夢の流している妨害電波のせいで兵士たちの通信機器がマヒしているために、彼らは組織的な動きができなくなっていた。
もっとも、それもいつまで持つかわからない。敵の混乱が回復する前に目的を達せられるか? まさに時間との勝負である。
警備兵たちは藤宮とアスカの位置を正確に把握できずに人海戦術で走り回っている。数人くらいであれば、藤宮とアスカは殴り倒して突破し、拡大する騒動はやがて幽閉されている才人たちの耳にも届いていった。
「なんだ? なんか騒がしいな」
「……案外早くここから出られるかもしれんな」
ミシェルがぽつりと呟くと、タバサも無言で杖を握り直した。才人はきょとんとしたが、騒ぎの元は次第に近づいてきているように彼にも感じられてきた。
地上と高空で、それぞれ混迷を深めていく状況。まだ始まってから数分も経っていないというのに、戦火は一気に燃え上がり、轟音と閃光は人目を引き付けてトリスタニアの人々にも飛び火してさらに燃え広がっていく。
「ねえ、今のすごい音はなんなの? あっ、王宮を見て!」
「怪獣がお城で暴れてるぞ。おうっ!? そ、空を見ろ!」
「な、なんだあ。でっかい鍋ぶたが街に被さってるべえ!!」
時が経つと姿を表した円盤も衆目に止まり、その隠しようもない巨体で騒ぎをさらに広げていく。
むろん、円盤を操る者たちも必死になってステルス機能の回復に努めようとしているが、我夢たちが叡智を結集して造った妨害電波がそれを妨げている。
円盤は隠れることも逃げることもできず、今はただトリスタニアの上に浮くことしかできない。ここまではなんとか我夢たちの作戦通りといってもいいだろう。
しかし、トリスタニアにまるごと被さるほどの巨大宇宙船の主が、この程度のことで手詰まりになってしまうようなうかつな者なのだろうか?
「ふぅ……メインブリッジ、聞こえていますか?」
「あっ、はい! すみません、今こちらは」
「わかっていますよ、コントロールを奪われているのでしょう? 彼らなら、それくらいのことはやれるでしょうけど、本当に困った人たちですね」
「本当にすみません、まったく油断していました。今、復旧に全力を注いでいますので」
「それには及びません。船のコントロールを、こちらに渡しなさい。それと、お客様たちには丁重に。決して傷つけてはいけませんよ」
「は、ははっ!」
思念波での短い交信の後、円盤の操縦者たちは言われた通りに円盤のコントロール権をそちらに移した。すると、円盤を動かしていたスーパーコンピュータからの膨大な情報がそのままその相手のほうに流れていく。
普通なら、こんな膨大な情報を渡されても処理しきれずに押し潰されてしまうだろう。しかし、そいつはまるで小冊子を読むように情報を紐解くと、指揮者がタクトを振るように一瞬にして膨大な内容の指令を円盤に返したのだ。
変化は即座に表れた。それまで機能不全に陥っていたはずの円盤の制御が急回復し、アスカと藤宮の進んでいた通路の先の隔壁が閉じだしたのだ。
「なにっ!?」
唐突な円盤の機能回復に、藤宮は閉じかけた隔壁の隙間をアグルの力で超加速してすり抜けた。しかし、隔壁は藤宮の前で次々に閉じていく。
一方、アスカのほうは閉じた隔壁にすでに閉じ込められていた。
「くっそお、ネオプラスチック爆弾がありゃあ」
生身ではとてもこの宇宙船の隔壁は突破できなかった。かくなる上は、エネルギーがもったいないがダイナに変身して強行突破しかない。だが、そう思った瞬間に通路の壁から白いガスが吹き出してきた。
「ゴホゴホっ! さ、催眠ガスか」
軽く嗅いだだけで頭がぼんやりとなり、リーフラッシャーを握る手が痺れてくる。息を止めてなんとか耐えるが、いくらアスカのど根性を持ってしてもどんどんと抵抗力が抜けていってしまう。
それは藤宮のほうも同じで、行く手を阻む隔壁と作動するトラップに足止めされていた。閉じ込められたらウルトラマンに変身するであろうことを見越した素早い対応には、彼も我夢の妨害工作が破られたことを察するだけで手一杯だったのだ。
タバサたちが捕らえられているであろう場所を間近にして、隔壁が無情に道を塞ぐ。才人たちは、助けが間近まで来ていることを察しながらもどうすることもできなかった。
さらに円盤の機能はそれだけではなく、地上の宮殿で戦っているヒカリとエレキングに対しても動き出した。円盤から強烈な磁力線が照射されて、両者の動きを封じにかかってきたのである。
「フワァッ!?」
ヒカリの体が突然鎖で縛られたように動けなくなり、同時にエレキングの動きも拘束される。むろん、エレキングもヒカリも脱出しようともがくが、電磁波の拘束はびくともしなかった。
〔なんという強力な拘束エネルギーだっ!〕
初代ウルトラマンの技にあるキャッチリングにも勝りそうな拘束力だ。ヒカリの全力でも振りほどけず、ヒカリは膝を付いて上空の円盤を見上げた。
〔もうエネルギーの乱れは感じられない。あの短時間で復旧したというのか?〕
円盤は完全に正常な機能を取り戻したようにしか見えなかった。一方で、妨害電波を送っていた我夢も、こんなに早く機能を回復するなんてあり得ないと驚愕していたが、円盤はそんな彼らをあざ笑うかのように、悠々と中と外で彼らを追い詰めていき、さらに円盤の姿がうっすらと消え始めた。ステルス機能も復活してきているのだ。しかも円盤はエレキングに半重力光線を照射して回収しようとしている。
このままでは全てが水の泡になる! 事情を知らないアンリエッタや貴族たちは、エレキングが消えていく様に怪訝な表情を浮かべている程度だが、実態は最悪だ。しかも、ウルトラマンが実質四人もいるというのに完全に上手をとられてしまっているのだ。
「怪獣を捕らえようとしている……ウェールズ様、あの空飛ぶ城は、敵ではないのでしょうか?」
「だが、ウルトラマンの動きも止めているではないか。アンリエッタ、油断してはいけない」
以前にヤプールに散々利用されたウェールズは警戒心を持っていた。けれど、彼も事態の裏に隠された重大さまでは察することはできず、消え行く巨大宇宙船をじっと睨み付けていることしかできなかった。
ただ、そうしているうちにもダンスホールからは大半の貴族たちは避難し、アンリエッタの懸念した各国の貴賓が巻き込まれるという最悪の事態だけは避けられそうであった。
残っているのはアンリエッタとウェールズ夫妻に、ギーシュたち数名のみ。その彼らも事態を見て困惑していたが……。
「ルビアナ、君の怪獣が!」
「……」
ギーシュが叫ぶのを、ルビアナはなぜかじっと聞いていた。その横顔は無表情に固まって、その胸中を推し測ることはできない。
藤宮とアスカは円盤の中で身動きが取れず、ヒカリは円盤の磁力線に捕らえられて動けない。残っているのは我夢だけだが、彼も変身した瞬間にヒカリ同様に磁力線に捕らえられるということはわかっていた。
まさに八方塞がり。我夢たちが叡知を尽くして用意してきた作戦も秘密兵器も、相手は軽々とそれを上回ってしまった。
人質を取り戻すことさえままならず、トリステインの人間たちにも悠々と正体を悟らせず、円盤は再びその姿を消そうとしている。
だが、円盤が完全に消えかけ、我夢ももうだめかと思った瞬間だった。円盤の内部から突然爆発が起こり、円盤の巨体がぐらりと揺れたのだ。
“何が!?”
我夢とヒカリ、それに円盤を操っていた者もそう思った。自分たちは何もしていない。ならばアスカか藤宮が何かしたのか? いや、あの二人にもそんな余力はないはず。
ならば何者が? そのときである。空に嘲るような笑い声と、闇夜に揺れるコウモリのような影が現れたのは。
「ハハハハ、まったくウルトラマンの方たちはどこの人でも真っ正直すぎて呆れてしまいますよ。そいつに、そんな真っ当な手段が通じるわけないでしょう。ですが、いい囮にはなってくれましたね。こういう破壊工作は星間戦争に馴れた我が一族の得意技です。ウルトラマンに手を貸すのは癪ですが、そいつへは私も恨みがありますからね。あとは頼みますよ」
なんと、あの宇宙人の仕業だった。まさに、敵の敵は味方の理屈。彼は自らの屈辱を晴らすために、我夢たちを利用するつもりだった。
だが、動機はどうあれ彼の横槍は大きかった。プライドを傷つけられた彼は、例え恨み重なるウルトラ戦士に味方することになったとしても構わないと、ライトンR30の製法を教えるに留まらず、ついに自ら実力行使に出たのだ。
宇宙船は、どこか重要な機関を破壊されたらしく、姿を消せなくなって空中で煙を吹き上げている。当然、機能にも損害が発生し、アスカと藤宮はトラップから解放された。
「ガスが消えた!」
「我夢か? いや」
トラップが止まればこちらのものだった。二人は捕縛に来た警備兵を蹴散らして、再び奥へと進んでいく。隔壁やトラップは完全にマヒし、しばらくは動き出す気配はない。
もちろん、自動修復機構は動いている。しかしいくら円盤の操り手が優れていても、こうも立て続けに想定外の打撃に晒されれば短期に復旧するのは不可能であり、遠隔操作の限界を悟ったそいつはゾッと刺すような殺気を放ちながら呟いた。
「まったく皆さんでよってたかってひどいですわね。特にあなたは、あのときにちゃんと始末しておくべきでした」
恨みや悪意とは違う、穏やかささえある純粋な殺意の波動。それは虚空を貫き、空のかなたのコウモリ姿の陰がぞくりと震えた。
そして、円盤が機能不全に陥ったことにより、ウルトラマンヒカリとエレキングもまた解放されていた。
〔体が動く! よし、いまだ〕
解放されたヒカリは、素早く構えをとるとエレキングに挑んでいった。エレキングも拘束から解放され、さらに怒り狂いながら電撃光線をヒカリに乱射してくる。
「ハッ!」
しかしヒカリは即座にナイトビームブレードを展開すると、電撃光線を切り払いながら突進していく。
消耗が続き、カラータイマーもすでに激しく点灯している。ヒカリは迎え撃ってくるエレキングの尻尾を回避すると、上段からエレキングの首を目掛けて光剣を降り下ろした。
「タアーッ!」
一閃! だがエレキングは寸前で首を引っ込めたため、ナイトビームブレードはエレキングの頭を掠めて外れ、角の一本を切り落とすだけにとどまった。
「仕損じたかっ」
ウェールズが悔しげにこぼす。しかし、角はエレキングの最大の弱点だ。レーダーの役割をするそれを破壊され、エレキングの動きが鈍っている。
今だ! この機を逃すまいと、ヒカリは右手のナイトブレスを空に掲げ、その手に青い稲妻がほとばしる。
が、しかし。エレキングは怒りと執念から凄まじいあがきを見せた。ナイトシュートのチャージが終わる前に、自分の周りを火の海にする勢いで電撃光線を乱射したのだ。
「フワッ!?」
自分が火に飲まれるのも構わないほどのエレキングの抵抗に、さしものヒカリも困惑した。
一体何が、このエレキングを自分の身も顧みないほどに暴れ狂わせているのだ? どんな凶暴な怪獣でも、最低限自分の体だけは守ろうとするものだ。それさえしないこのエレキングは、明らかに正気を失っている。
しかし、エレキングの最後のあがきによる炎の海は突如天高く舞い上がった竜巻によってすべて吸い上げられてしまった。そして、その竜巻を起こしたのは、城の尖塔の上でマンティコアにまたがる仮面の騎士。その勇壮な姿を目の当たりにした外国の貴族たちは、避難することも忘れて感嘆の声をあげた。
「おお、あれが噂に名高いトリステインの『烈風』か!」
今では生きる伝説として、トリステインの内外にその名が伝わっている正体不明の騎士の雄姿は、舞踏会がつぶれた貴族たちの悲嘆をも塗り返す威力があった。唯一、才人を探して駆け回っていたルイズひとりが、「げっ、お母様!」と青ざめているが、竜巻は同時にエレキングを空気の檻に閉じ込めて最後の身動きをも封じた。
「今だ、撃てウルトラマン!」
カリーヌがヒカリに叫ぶ。二人はトリステイン魔法学院で短い間だが同じ釜の飯を食った間柄、共にそのことを意識をせずとも、ヒカリは戦士としての共感から今度こそ必殺の光波熱線をエレキングに向けて放った。
『ナイトシュート!』
青く輝く光線がエレキングの巨体をうがち、その体表で爆発した。
エレキングは悲鳴のような遠吠えをあげると、ふらりとよろめいていく。
奴の最期だ……誰もがそう思った。だが、力尽きるかと思われたエレキングは、倒れずにそのまま小さく縮小し始めたのだ。
そう、巨大化できるならその逆で小さくもなれる。エレキングの巨体はヒカリや城の騎士たちが見ている前でスルスルと小さくなり、最後には身長二メートルほどにまでなって、ダンスホールに現れた。
「アンリエッタ、下がって!」
ダンスホールにはまだアンリエッタたちが残っている。ウェールズはとっさにアンリエッタをかばい、さらにダンスホール内におっとり刀でアニエスら銃士隊も駆けつけてきた。
「総員抜刀! 怪物を陛下に近づけるな」
アニエスは表情を強張らせ、額に脂汗を流しながら部下たちに命じた。
相手は二メートルほどに縮んだとはいえ、たった今までウルトラマンと渡り合っていた怪獣なのだ。銃士隊員たちもそれをしっかりと認識し、緊張しながらエレキングの回りに布陣していく。
そして、最後に残ったギーシュたちも、ギーシュがルビアナとモンモランシーをかばうために杖を振っていた。
「ワルキューレ、二人を守るんだ!」
彼の唯一無二の得意技と言える、戦乙女型の青銅ゴーレムが三体現れて壁となった。しかし、金属が電撃に対して壁にならないことはギーシュも承知していて、もし電撃光線が来た場合には自分の身を挺して二人を守ろうと覚悟していた。
けれど、エレキングはすでに死に体なのは誰から見ても明らかだった。
角は片方無くなり、ナイトシュートを受けた傷は黒焦げで致命傷にしか見えない。等身大になったおかげでウルトラマンヒカリは手を出せなくなっているが、銃士隊でもじゅうぶんにとどめを刺せそうだった。
にも関わらず、エレキングは何かに憑かれたかのように、のし……のし、と、よろめきながら歩き始めた。その幽鬼のような様には、戦闘経験豊かな銃士隊も無意識に後ずさり、胆の太いアンリエッタも背筋に虫を這わせた。
なにが、いったいなにがこいつをここまでさせているのだ? と、その場にいた者たちは思った。リムエレキングのような活発さはなく、ただ狂い暴れるゾンビのようなエレキングは、なぜ致命傷を受けても逃げようともせずにここにいる?
そのときだった。包囲陣を敷いていた銃士隊の一人が、圧迫感に耐えかねて飛び出してしまったのだ。
「うわあぁぁーっ!」
「ま、待て! まだ突撃命令は出していない」
アニエスが叫んだ時には遅かった。その銃士隊員の振り下ろした剣がエレキングの首筋に食い込んで血が流れ出す。
だが、エレキングはそれでもまだ死なずに、長い尻尾を触手のようにしならせてその隊員の体に巻きつけてきたのだ。
「な、なにこれ、はっ、かっ!」
「カンナ!」
「よせ、近寄るな!」
捕まってしまった仲間を助けようと、数人の銃士隊員が駆け寄った。しかし、異常に勘づいてアニエスが止めたのも間に合わず、その数人もエレキングのそばに近づいた瞬間、不気味なオーラに包まれたように見えたとたんに目の焦点を失って立ち尽くしてしまった。
対してエレキングは、残った片方の角を回転させながら、銃士隊員たちからオーラを吸い取り始めた。
「生気を吸収しているのか! アニエス隊長、早く助けないと」
「ダメだ、これでは近寄ることさえできん。銃でも、この間合いではっ」
銃士隊の装備であるマスケット銃は至近距離でしか命中が期待できない命中精度しかない。エレキングに意識を奪われない外から狙うとなると、エレキングに捕まっている仲間まで誤射する危険がある。むろんアニエスも隊員たちも銃の名手ではあるが、万一仲間に当たったらただでは済まない威力がマスケット銃にもある。
それに、ウルトラマンヒカリもこの状況は見ているが、銃士隊員たちがエレキングと密着して人質にされているような有り様では手が出せなかった。
と、そのときである。モンモランシーがはっとあることに気づいてギーシュに告げた。
「そうだ。ギーシュ、あなたのワルキューレなら」
「そ、そうか、ワルキューレならあいつに近づいても問題ない。よしワルキューレ! そいつからレディたちを助け出すんだ!」
ギーシュは杖を降り、ワルキューレをエレキングに差し向けた。ワルキューレはその手に槍や盾を持ち、ギーシュの成長を示すように俊敏な動きでエレキングに斬り込んでいく。
しかし、エレキングは銃士隊員たちから吸収したエネルギーで電撃光線を放ち、ワルキューレ三体を瞬く間に爆破してしまった。
「ああっ! ぼくのワルキューレ」
青銅の破片とともにギーシュの悔しげな叫びが飛び散る。やはり、小さくなっても相手は怪獣だ。
しかも、エレキングは電撃光線を撃った分のエネルギーをさらに銃士隊員たちから吸い上げている。
「このままでは彼女たちの命が吸い付くされてしまいます!」
隊員の一人が悲鳴のように叫んだ。しかし、近づけないのではアニエスには打つ手がない。アンリエッタやウェールズも、自分たちの魔法では人質まで巻き込んでしまうと、手が出せなかった。
そのときだった。硬直した空気の中に、規則正しい乾いた足音が響いたのは。
「皆さま、わたくしのきかん坊が迷惑をおかけして申し訳ありません」
なんと、ルビアナがしずしずとエレキングに歩み寄っているではないか。
そのあまりにも場違いで無謀な行動に誰もがあっけにとられ、ギーシュは血相を変えて叫んだ。
「危ない! そいつはもうあなたのペットじゃないんだ!」
「ええ、わかっていますわ」
ルビアナの歩みは止まらず、彼女はエレキングの正面に出た。エレキングは狂ったように叫ぶと、その口を鈍く輝かせてルビアナに向ける。
「いけない! 奴はルビアナさんを吹き飛ばすつもりですわ」
アンリエッタが叫ぶ。ワルキューレを粉砕したあの電撃光線を人間が受けたらひとたまりもない。
最悪の展開を誰もが想像し、エレキングはそれに背かずに電撃光線を放とうとした。だが、次の瞬間ルビアナがそっとエレキングの頭に手のひらをかざすと、エレキングはびくりとして動きを止めてしまったのである。
「と、止まった?」
「アニエスさま、今のうちにお仲間を」
「あ、ああ」
アニエスはわけがわからないながらも、部下に命じて捕まっていた隊員たちを救出させた。幸い、衰弱してはいるが命に別状はなさそうである。
だが、ルビアナはいったい何を? すると彼女は、いまだ愕然としている面々にゆっくりと答えた。
「この子は、他の生き物の脳波エネルギーを吸って支配します。ですが、より強い精神力の持ち主は支配できないのですよ」
つまりエレキングの精神汚染をはね除けて逆支配しているというのか? そんな真似が、人間にできるのか!
ギーシュの心に、「ルビアナ、君はいったい……」と、初めて疑念が生まれる。そして唖然とする面々。だが、エレキングは完全に掌握されたかに見えて、まだうなり声をあげて抵抗しようとしている。その様を見て、ルビアナは悲しげに呟いた。
「私は、この子に刷り込まれた凶暴な因子を押し消して、平和に生きていけるように教育してきました。けれど、この子は大きくなるにしたがって、凶暴な衝動のほうに身を任せるようになっていきました。それでもなんとか、おとなしくするようにしつけてきたのですが……あなたは、そんな私を憎んでいたのですね」
エレキングは、明確にルビアナに殺意を向けていた。保護者への愛情や感謝などは一欠けらもなく、一匹の怪獣として破壊衝動にのみ従って暴れ回りたいという本能的な欲求。それを押さえつけるルビアナは、このエレキングにとって最大の憎悪の対象でしかない。
つまり、エレキングがこれまで見せていた奇妙な行動や凶暴性は、ただルビアナへの殺意だったのだ。可愛がられて育てられた子犬が、成長して主人を食い殺すこともある。それが野生のどうしようもない定めであった。
悲し気な表情のルビアナに対して、今まさに電撃光線を放とうとするエレキング。その口が光り、ルビアナの華奢な体が悪意の輝きに照らし出される。
「危なぁーい!」
ギーシュの、モンモランシーの悲鳴が響き渡った。とっさに走り出そうとするが、もう間に合わない。
しかし、次の瞬間。ギーシュとモンモランシー、アンリエッタとウェールズ、そしてアニエスと銃士隊は信じられないものを見た。
電撃光線の輝きに照らし出されるルビアナが、まるで舞うようにしなやかにステップを踏んだ。ドレスのスカートが舞い上がり、ターンする肢体が湖上の白鳥のように優雅にきらめく。
それはまさに刹那で人々の心を魅了する天使の舞踏。焦燥に塗りつぶされていたギーシュたちの心は白く塗り替えられ、我を忘れて見惚れ入った。
だが、さらなる刹那にルビアナの手には天使が持つには不似合いすぎる”武器”が現れていた。
「銃!?」
それは木目と金細工の装飾が施されたマスケット銃。しかし、その銃身は子供の背丈ほどもある長銃身で、ルビアナはその銃口を、まるで畳んだ扇で差すようにエレキングにそっと向け……引き金を引いた。
「ごめんなさい」
銃声……いや、大砲の咆哮にも思える轟音が鳴り響き、世界は硬直した。
ギーシュとモンモランシーも、アンリエッタやアニエスも、目の前で起きたことが信じられなくて動けない。
そのとき、ダンスホールに複数の新しい足音が響いた。それを見て、アニエスや、ダンスホールに戻ってきていたルイズは叫ぶ。
「ミシェルじゃないか!」
「サ、サイト!」
そう、宇宙船から救出された才人やミシェルが、アスカや藤宮に伴われてダンスホールに現れたのである。さらに言えば、我夢とタバサの姿もある。
そして、ウルトラマンヒカリも、セリザワの姿に戻ってここに来ている。しかし、彼らも目の前で起きたことの衝撃に言葉をつむげずにいたが、ぐらりと揺れてうめき声をもらしたエレキングが、時の凍結を溶かした。
「ごめんなさい……もう、あなたを止めるには眠らせてあげるしかできなくて」
すまなそうにつぶやいたルビアナの視線の先では、胴体に大穴を開けられたエレキングの断末魔の姿がある。ナイトシュートも受け止めきったエレキングの体を、ルビアナの銃は貫通して致命傷を与えたのだ。
エレキングはゆっくりとルビアナに向かって崩れ落ち、ルビアナの体に触れる直前に光の粒子になって消えた。
「おやすみなさい」
エレキングの最期をみとったルビアナは、祈るようなしぐさを見せた後、いつもと変わらぬ穏やかな声色に戻って才人たちに語り掛けた。
「あなたたちは……あらあら、光の戦士の皆さんもおそろいですか。ふふ、そうですね。わたくしの見立てを上回る活躍、お見事でしたわ」
この面々の正体を知っているはずなのに、ルビアナの声色にはまるで追い詰められた風を感じさせない。そのため、「このやろう!」と、怒鳴りつけようとしていた才人は出鼻をくじかれて言いよどんでしまった。
代わりに、ミシェルが前に出てルビアナと対峙した。悠然としたルビアナに対して、ミシェルの目には決意が宿っている。
「ミス・ルビアナ……」
「ええ、よろしいですわよ。お好きになさってくださいませ」
まるで世間話でもするようなルビアナの口調が、ミシェルに最後のためらいをぬぐわせた。
ミシェルはアンリエッタに一礼すると、アニエスに敬礼して報告を始めた。
「隊長、申し訳ありません。任務の途中、敵に捕らわれて幽閉されていましたが、有士の手助けで帰還いたしました」
「そうか、結果を報告しろ、ミシェル」
アニエスも、すでに流れを察してミシェルをうながした。いや、もうルビアナがただの人間ではないということは誰の目にも明らかになっている。あとは、その事実を誰かが告げるだけだった。
「ミス・ルビアナ……その女は……宇宙人です」
その一言で、アンリエッタが、ルイズが凍りつく。
しかし、もっとも激しい反応を示したのはやはりギーシュだった。
「は、はは、なにを言っているんだい、君。ル、ルビアナが、う、ウチュウ人だなんて、そんなことあるわけないじゃないか! いいかげんなことを言うとぼくが許さないぞ。ルビアナ、君も間違いだって言ってやりたまえ」
猛烈に動揺し、舌をもつれさせながらギーシュは怒鳴った。彼の後ろではモンモランシーも顔色を失っている。
するとルビアナは、いつも通りの優しい笑顔を浮かべながらギーシュに向き直って一言。
「事実ですわ」
「え……」
「ミシェル様のおっしゃったことは紛れもない事実です。わたくしは、このハルケギニアの外で生を受けた人間です」
ギーシュのひざが崩れ、倒れかけた彼をモンモランシーが支えた。
「じゃ、じゃあ、ルビアナさん、あなたは何者なの? わたしたちを、騙してたの?」
「わたくしはわたくしです。私は姿を偽ってはいませんし、ルビアナという名前も本名です。わたくしはモンモランシーさんの見てきたルビアナそのもので、なにも間違いはありませんよ」
「なら、なんでいままで黙って!」
「聞かれなかったからです。もし誰かが私の素性を尋ねれば、わたくしは正直に答えましたわ。ただ、わたくしはルビアナ……私にとって、私はそれ以外の存在ではありませんわ」
嘘をついている風は微塵もなく、当たり前のように話すルビアナに、モンモランシーも絶句するしかなかった。
だがそのとき、話を聞いていたセリザワが、何かに気づいたように言った。
「ルビアナ? まてよ、どこかで聞いたことのある名だと思ったが、まさかあの古代宇宙伝説のルビアナか」
「あら、懐かしい思い出ですわね」
これもあっさり肯定するルビアナ。才人がなんのことかと尋ねると、セリザワはとても信じられないという様子で話し始めた。
「俺たちの宇宙に伝わる伝説の一つだ。いや、おとぎ話と言ったほうがいいだろう。俺が生まれるよりはるかに昔、ある星に天才的な科学者が現れた……」
セリザワの話を、才人たちや、アニエスたちもじっと聞いている。
そして空の上でも、あのコウモリ姿の影が同じことを愉快そうに呟いていた。
「その科学者の生み出す科学力はまさに脅威的で、その星はまたたくまに全宇宙を席巻する巨大な勢力に成り上がったそうですね……ですが、宇宙制覇まであと少しというときになって、その科学者はなぜか姿を消しました。以後、その星は暗黒の星と呼ばれるほどに落ちぶれ、宇宙にはその科学者について、「もしその力を手に入れることができれば宇宙を我が物にすることができる」という伝説だけが残りました。その科学者の名こそが……」
コウモリ姿の影は最後に、「まさか本当のことだとは思っていませんでしたがね」と自嘲し、セリザワも同じように締めた。
「だが、いずれにせよ大昔の話だ。伝説の真偽はともかく、そんな科学者が実在したとしても、とっくに死んでいると思っていたが……まさか存命していたとは驚きだ」
話のあまりのスケールの大きさに、才人やルイズばかりでなく、アンリエッタたちや我夢たちまでもが言葉を失っていた。
そしてルビアナは、そのすべてを肯定するように頷くと、全員に向かって優雅に会釈してから言った。
「懐かしいお話をありがとうございます。では、あらためて自己紹介させていただきましょう。ルビティア公爵家の娘というのは仮の身分……ですが、ルビアナという名前はわたくしの本名……わたくしの生まれた地は、あの星のかなた……」
そのとき、上空の円盤のハッチが開き、地上に向かって巨大な物体が投下された。それは空気を切り裂いて落下し、ダンスホールの傍らに着地して轟音と土煙を巻き上げた後に、エレキングとは比較にならない圧倒的な威圧感を持ってそこにそびえ立った。
それはまさに黒鉄の城塞。その人型の巨影の持つ特徴的なシルエットに、才人は思わず叫んだ。
「黒いキングジョー!?」
金色の城塞とも呼べるキングジョーと違い、そいつは全身が漆黒の装甲で覆われていた。さらに右腕には巨大な大砲が備え付けられている。
そしてルビアナは才人のその叫びを聞き、歌うように最後の句を紡いだ。
「ええ、私の同族が地球の方々にご迷惑をおかけしてしまったことがあるそうですね。そう、わたくしの故郷は今では暗黒の星と呼ばれているペダン星……わたくしのことはペダン星人ルビアナとお呼びください」
黒いキングジョーの落下の風圧でドレスをはためかせ、片手に持った銃をパラソルのように弄びながら、ルビアナは微笑を浮かべて告げた。
続く