第89話
ドレスを着た神
策略宇宙人 ペダン星人
宇宙ロボット キングジョーブラック 登場!
かつて、宇宙では大きな戦いが幾度もあった。
光の国とエンペラ星人軍団が激突したウルティメイトウォーズ、ウルトラキーの創成に関わる星間連合との激闘。いずれも歴史に残る大事件として知らぬ者はない。
だがそんな中で一つ、正史に語られないおぼろげな争乱の伝説が存在する。
それは、ウルトラ兄弟が生を受けるよりもはるかな昔。ペダン星という惑星で一人の天才少女が生まれたことから始まる。
その少女は科学者となり、次々に常識を覆す発明を生み出して、ペダン星の文明は大いに発展。ペダン星は複数の星系にまたがる大勢力へと成長したという。
しかし、発達した科学力を得たペダン星人たちは野心を抱き、優れた科学力を強大な軍事力を変えて全宇宙の制覇に乗り出した。
何万というペダン星艦隊が銀河に散らばり、星々に侵略の魔の手を伸ばしていく。むろん、攻撃を受けた星々も必死に迎え撃ったが、戦いの流れはペダン星人軍の圧倒的優勢で進んでいったと伝えられている。
なぜなら、女科学者はペダン星人たちの期待に応えて次々と想像を絶する超科学兵器を作り上げ、いかなる星の戦闘用宇宙船も、怪獣兵器もこれには歯が立たなかったのだ。
特にペダン星軍の強さを支えたのは、彼女が新発見した超合金で作られたロボット兵器軍団で、並の攻撃では傷一つつかないそいつらを止められる術は当時の宇宙には存在しなかった。
かくしてペダン星軍は破竹の勢いを持って星々を支配していき、全宇宙がペダン星人に征服されるのも時間の問題だと思われた。
だが……ペダン星人たちは疑念を抱いた。女科学者の作り出す兵器は際限なく破壊力と残虐性を増していき、もしこれが自分たちに向けられた時にはどうなるかと、疑念は恐怖に変わっていった。
そして、ペダン星人たちは恐怖のあまり、ついに女科学者の拘束と抹殺を謀ったのである。
昨日までの功労者に対する裏切り。しかしペダン星人たちは、いずれ女科学者が裏切って自分たちをその強大な科学力で支配するだろうという恐怖に耐えきれなかったのだ。
ただし……それはあまりにも無謀な試みであった。
同胞たちの裏切りに気づいた女科学者は、腹心の部下たちとともに宇宙船で脱出し、それを追ってペダン星人軍は総攻撃をかけた。
しかし、圧倒的戦力で女科学者の宇宙船を狙ったペダン星人軍は、自分たちが扱うものよりもはるかに強力な超兵器による逆襲を受けて完敗……。
これによって完全に恐慌状態に陥ったペダン星人軍は、宇宙に散っていた全軍を集結させて女科学者の宇宙船を攻撃させたが、結果は数万のペダン星人宇宙艦隊がたった一隻の宇宙船に全滅させられ、ペダン星そのものも壊滅状態になるという大敗北に終わってしまったのだった。
こうして、ペダン星人はその勢力を一気に失い、全宇宙は解放された。さらにペダン星そのものも『暗黒の星』と呼ばれるほどに弱体化し、その後はバッファロー星に侵略の手を伸ばすなど勢力の再拡大を図ることもあったが、その頃には宇宙警備隊も活動を開始しており、近代になって地球防衛軍がペダン星に観測ロケットを打ち込むまでその存在はほとんど表舞台には出てきていない。
一方で、女科学者の乗った宇宙船は宇宙のかなたへと飛び去り、その後にどうなったのかは完全に謎となった。
この争乱の詳細については、その後に起こったウルティメイトウォーズの影響で記録が宇宙から霧散し、わずかな口伝だけが残っている。
それは一言、宇宙のどこかに消えた女科学者を見つけて手中に収めることができれば、全宇宙を支配できる力を得ることができるだろう……と。
そして、その女科学者の名は……ルビアナといった。
それが、今ではおとぎ話と同義とさえされている太古の物語。しかし、おとぎ話の人物が今この現実に存在している。
「本当に懐かしいお話ですわね。私が故郷を追われてから、もう随分長い時間が経ちましたわ」
ペダン星人ルビアナ、それが彼女の正体である。そして、ウルトラの歴史をかじったことのある者ならペダン星人の名を知らないものはなく、苦虫を噛み潰したような顔をしている才人にルイズが尋ねた。
「サイト、そのペダンセイジンって、どんな奴なのよ?」
「強豪だよ。ちくしょう、こんなとんでもない奴と何ヵ月もいっしょにヘラヘラしながら過ごしてたなんて、おれはなんてマヌケだよ。しかも、あのデカブツは……」
才人は、ダンスホールの外に現れた巨大ロボットを震えながら見上げた。宇宙ロボット、キングジョー……そのボディを漆黒に彩った同型機体。右腕が大砲に変わっているなど細部に違いはあるが、その巨体には不気味にランプが点滅し、あの特徴的な駆動音が規則正しく鳴り響いている。
怪獣やドラゴンとは違う無機質な威圧感。さらに感情や慈悲を一切持たない圧迫感を感じて、才人はこいつがウルトラセブンを徹底的に痛めつけた記録を思い出した。
はたしておれで勝てるのか? 強いプレッシャーが才人の心を蝕む。
そしてそれは才人だけでなく、黒いキングジョーはアンリエッタたちや我夢たちも含め、この場の全員を巨体で威圧している。しかし、ルビアナはそんな黒いキングジョーを見上げて困ったように呟いた。
「あらあら、出撃の命令は出していないというのに、うちの方たちは本当に心配性なんですから」
そうしてルビアナが軽く手を振ると、キングジョーは電池が切れたようにランプが消え、立ったまま機能を停止してしまった。
「では、これで落ち着いてお話ができますわね」
唖然としている面々を見渡して、ルビアナはあくまで笑顔で告げた。
その場にいる全員の視線がルビアナに集まる。ただ、常と変わらず微笑を浮かべ続けるだけのルビアナに誰も話しかけることができずにいたが、アンリエッタが意を決してルビアナの前に出た。
「ミス・ルビアナ……いえ、もうどう呼べばいいのか」
「ルビアナで大丈夫ですわ。わたくしは、本名で呼ばれることが一番好きです」
その声は明るく快活で、アンリエッタの知っているルビアナそのものであった。アンリエッタは、ルビアナが宇宙人であることを知って騙されたと感じた一人だったが、まるで悪意を感じないルビアナの態度に、もう一度話し合ってみようと感じていた。
「では、ミス・ルビアナ。この場を代表して、わたくしがお話をお聞きします。よろしいですね?」
「ええ、なんなりと」
アンリエッタの青く澄んだ瞳がルビアナを正面から見据える。彼女のその大胆な行動に、ウェールズやアニエスらが押し止めようとするが、アンリエッタは毅然として言った。
「向こうが武器を納めてまず話し合いをしたいと言うのであれば、こちらも杖を抜く前に一度は応じるのが礼儀です。大丈夫です、情に流されて甘言に惑わされたりはしませんわ」
その女王としての威厳を込めた言葉に、ウェールズは無言でうなづき、アニエスはうやうやしく頭を垂れた。いくら本性はおてんば娘でも、アンリエッタはもう頭上の王冠に相応しい意思の強さを持ち合わせていたのだ。
対して、ルビアナはアンリエッタが話し合いに応じる姿勢を示すと、まだ呆然としているギーシュとモンモランシーに。
「少しだけお待ちしていてくださいね」
と、断りを入れ、我夢やタバサたちに対しては。
「あなた方とは先にお話しましたわね。少し、お時間をいただきますわ」
この場にはウルトラマンが五人もいるというのに、まるで追い詰められた風を感じさせない態度。この落ち着きぶりには直情家なアスカや沈着な藤宮も一種の異様さを感じたが、ここはアンリエッタに話をしてもらうことが一番話を進めやすいと押し黙った。
一方で、才人やルイズは何かを言いたげにしていたがタバサが押し止めた。
「今は黙っていて」
「なによあんた! 関係ないのは黙ってて」
「関係なくない。とにかく、今ルイズに騒がれると迷惑」
有無を言わさず杖をかざすタバサに、なぜかルイズもそれ以上押し通すことができなくなってしまった。
そして、場が落ち着いたことを確認したアンリエッタは、おもむろにルビアナに向かって切り出した。
「ミス・ルビアナ、あなたとこういう形でお話することになるとは、残念です」
「驚かせてしまったことはお詫びしますわ。けれど、わたくしが女王陛下に対して抱いている友情は、嘘偽りありませんことよ」
「わたくしも、貴女との友情を嘘にはしたくありませんわ。ですから、わたくしの質問に嘘偽りなく答えていただけますか?」
「ええ、わたくしに答えられることならなんなりと」
すんなりと了承するルビアナに、アンリエッタがどう問いかけるのか全員の注目が集まる。するとアンリエッタはおもむろに、その胸中に湧いた疑問をぶつけた。
「では単刀直入にお尋ねします。ミス・ルビアナ、貴女がハルケギニアにやってきた理由、このハルケギニアで行おうとしている最終目的を教えていただけますか?」
その言葉に全員が息を呑んだ。直球……言い逃れのできない直球の問いかけ。
これに対して、ルビアナは生徒が満点を出した教師のように嬉しそうに微笑んだ。
「素晴らしいですわ。前置きを無視して、一気に核心を突く判断力。やはり女王陛下はとても聡明なお方です」
「先に答えのほうを、いただきたく存じます」
「失礼。目的と申すならば、私共はハルケギニアの皆様のお役に立ちたい、それだけが望みなのです」
「からかっているのですか?」
アンリエッタの目付きが、おてんば娘でも恋する乙女でもない鋭さを宿してルビアナを睨む。しかし、ルビアナは一切顔色を変えずに答えた。
「からかってなどおりませんわ。先ほど、あちらの方々がおっしゃったとおり、私共は故郷を追われた流浪の民です。安住の地を求めて、このハルケギニアにやってまいりましたが、ただ住まわせてもらうだけではあまりにも忘恩はなはだしいので、少しでもハルケギニアの方々が幸せに過ごせるように、少しばかりの力を使っているだけです」
「では、あなたの行動はすべてが善意からだと、そうおっしゃるのですか?」
「ええ」
それは何の邪気も混ざっていない、素直そのものの返答だった。
アンリエッタはちらりとアニエスの顔をうかがったが、アニエスも嘘を言っている気配はまったく見られないと首を振るだけだった。
銃士隊は単なる近衛隊ではなく、治安維持や諜報のための尋問や拷問のエキスパートでもある。特にミシェルが内通者だったことが判明した後は防諜にさらに力が入れられ、今では様々な兆候からあらゆる嘘を見抜けるように訓練されている。
その彼女たちをしても、嘘の兆候を読み取れないとは、ルビアナは本気で善意のみで行動しているというのか? とても信じられないと愕然としているアンリエッタに、ルビアナはゆっくりと言った。
「信じられないのも無理はありませんわ。では、順を追ってお話いたしましょう。新しい故郷を求めて当てもない旅を続けていた私たちにハルケギニアのことを教えてくださったのは、あなた方もよく知っている侵略者のヤプールさんでした」
「ヤプール……!」
忌まわしい悪魔の名前を聞き、アンリエッタと一同の表情が曇る。しかし、ルビアナは構わずにそのまま続けた。
「とはいえ、私共は亜空間ゲートを通ってこちらに導かれただけですけどね。ヤプールは、来るべき復活の日に備えて少しでもハルケギニアに混乱の種を蒔いておこうと思ったようですが、わたくしにそんなことに付き合う義理はありません。ハルケギニアの皆さんの迷惑にならないようにと、空からじっと人々を見守っていました。けれどそんな折に、どうしても見捨てて行くことのできない方を見かけたことから、わたくしの考えは決まりました」
「それが、ルビティア公爵か?」
ミシェルが聞くと、ルビアナはそのとおりとうなづいた。
「わたくしはお義父さまの遺言を守り、ルビティアの復興に尽力しました。そのかいあって、ルビティアは今ではとても住みよい土地になったと、大勢の方からおっしゃっていただきましたわ」
それは間違いない。手段はともかく、ルビティアは繁栄を取り戻した。だが、ルビアナの話はまだ終わっていない。
「そうして、様々な方々と触れ合ううちに、私はルビティアの人々、ひいてはハルケギニアの人間のことがとても好きになってゆきました……笑い、泣き、他者のために喜び苦しみ、花を愛で、愛を分かち合うことのできる、とても感情豊かで可能性に溢れた人たち。私が旅してきた中でも、これほど豊かな心を持った人間たちはそうおりませんでしたわ」
「それで、あなたは」
「はい。ルビティアだけでなく、ハルケギニアの方たちみんなが幸せを分かち合えるようになればいい。ハルケギニアの人々の自由と幸福を守るために、それを脅かすあらゆるものと戦いたい。それが私の抱いた思いです」
晴れやかな笑顔でそう答えたルビアナ。その純粋さに皆があっけに取られる中で、才人は妙な既視感を感じていた。
”この感じ、どっかで……”
しかし才人が答を思い付く前に、いち早く立ち直ったアンリエッタが切り出した。
「大変ご立派なお考えですわ。ですが、あなたは聞く話によれば故郷を追われたのは戦争に加担していたからとのこと。それがどういう心境の変化なのですか?」
「ふふ、あの頃の私は子供でした。ただ純粋に、私がなにかを作れば誰かが喜んでくれる。それだけを思って取り組んでいましたけれど、私を裏切って命を狙いに来た同胞を宇宙の塵にして、ようやく私には特別な力があると気づいたのです。そして、私を信じて共に来てくれたわずかな仲間を見て思いました。私の力は、人を幸せにするために使わなければいけないと」
そのとき、上空の円盤から完全武装で十数人のペダン星人兵士が降りてきた。
「お嬢様ーっ!」
たちまち、銃士隊が間に入って迎え撃とうとする。しかし、ルビアナは仲間のペダン星人兵士たちを手で制すと、武器を下ろすように命じた。
「大丈夫、私は心配ありませんから」
「お嬢様、は、はいっス!」
規則正しく整列する兵士たちの中に一人だけ動きのテンポの悪い奴が混ざっているが、才人やミシェルにはマスクをつけていてもそれが誰かすぐにわかった。
しかし、ルビアナの言う「特別な力」。アンリエッタらからすればセリザワの語った話は想像も及ばないおとぎ話のレベルだが、彼女は並外れた力をすでに様々な分野で見せている。宙に浮かぶ巨大円盤や、傍らにそびえるキングジョーを含め、ルビアナがその気になればハルケギニアを好きなようにできるだけの力を持っているのは間違いない。
その力を、彼女は仲間を守り、良いことのために使いたいと言った。しかし、彼女のやってきたことはきれいごとだけでは済まない血なまぐさいものだ。
その矛盾点を指摘しようと、ミシェルが口を開いた。
「あなたのやっていることは確かに素晴らしいかもしれないが、その裏で多くの血も流している。それをどう説明する?」
「あら? あなたはわたくしのことを色々調べ回っていたのでしたわね。よろしいですから、まだご存じない女王陛下方にも説明してあげてくださってもよろしいですわよ」
その言葉通り、ミシェルはこれまでの調査で調べあげたことや、ルビティアで見聞きしたことをその場の全員にぶちまけた。
ルビティアでの強制労働、兵器工場、ヒュプナスの人体改造工場。タバサの見たフック星人の地下工場も含めて、多数の宇宙人をも支配下に置いたその所業の数々は、アンリエッタや銃士隊の肝を持ってしても寒気を覚えるには十分だった。
ルイズも、自分たちの知らないところでそんな陰謀が動いていたのかと冷や汗を流し、特にルビアナを信じたいと願い続けていたギーシュとモンモランシーは蒼白となっていた。
「……これらのことは、すべてあなたの手引きと見て間違いありませんか?」
「ええ、すべてわたくしの仕込みですわ。それらをすべて暴き出すとは、さすが銃士隊は優秀ですわね」
「言い逃れの一つもしないとはあなたも豪胆ですね。しかし、これほどの血を流しておいて、それでも自由と幸福のためと言うのか?」
「もちろん。わたくしの望みはハルケギニアの方々の自由と幸福を守ること。そのためにまず、ルビティアに潜伏していたケムールの方々を説得して、あの地に巣くっていた害虫を一掃しました」
「なんという無茶な」
「無茶? あのときルビティアでは大勢の善良な人が苦しめられていました。彼らを救うために、私は最短の方法をとっただけです」
誇らしげに語るルビアナ。確かにそれは乱暴だが正論だ。時間をかけて、救えなかった命が出たときにはどう責任をとるべきかと問われてはっきり答えられる者はいるまい。
「では、あの兵器工場はどう説明する? しかも、罪人たちだけでなく他の宇宙人まで使って複数箇所で大量に生産していた。女王陛下もド・オルニエールでご覧になったはずです。あのすさまじい武器の威力を」
「ええ、わたくしも覚えています。その後の報告によれば、あれと同じような武器をトリステインのあちこちに販売していたとか。ミス・ルビアナ、なんの目的でこんなことを?」
「あなた方、ハルケギニアの人々を守るためです」
「な?」
ころりと言ったルビアナの言葉の意味がわからずにミシェルが困惑すると、ルビアナはゆっくりと続けた。
「やがて遠くない将来に、ヤプールは復活します。そのとき、襲い来る超獣の群れに対して、人々に戦う力を持っていてもらえればより犠牲を減らせると思いませんか?」
その言い方に、ミシェルよりも先にアンリエッタが反応した。
「あなたは、無顧の民を矢面に立たせようと言うのですか!?」
「ではヤプールが場所を選んで襲ってくれるというのですか? そして軍隊が到着したとしても、あなた方の貧弱な武器では毎回少なからぬ犠牲を出しています。一人の民、一人の兵士にもそれぞれ人生や家族がいることをわかっていますか?」
そう言われてはアンリエッタも反論に窮した。しかし、女王としてここは丸め込まれるわけにはいかない。
「それでもわたくしは民を矢面に立たせるのは反対です。国を命を懸けて守るのは我々王族と貴族の使命です。それに……う、ウルトラマンさんたちの助けもあります」
「ウルトラマンさんたちですか……では、ある方々が常に言っている言葉をお贈りしましょう」
そう言って、ルビアナはちらりと才人たちのほうを見た。そして、次に彼女が発した言葉はセリザワや、才人とルイズに一体化している北斗の心胆を寒むからしめた。
「その星の平和は、その星に住む人間自身が守ってこそ意味がある。違いますか?」
それはまさしく、M78星雲のウルトラマンたちが地球を守る際に重要な心得としている言葉だった。
ルビアナはさらに言う。
「どうしようもなく苦しい時に誰かを頼ることは罪ではありません。しかし、本来は自分の大切なものは自分で守るものです。ただ、人はそんなすぐに強くはなれませんから、強い武器をあつらえて差し上げることで手助けにしようと考えたのです」
そのルビアナの物言いに、はっとしたのはルイズだった。
「強い武器をハルケギニアの人間に与えるって、まさかあのメカゴモラもミス・ルビアナが?」
「ええ、搭乗および自律稼働が可能な機動兵器の試作品ですわ。あの子には、あなたがたを守るようにとのプログラムをしていましたが、もしものときはミス・ヴァリエールたちなら乗りこなしてもらえると思いまして。ただ、人間を守ることを最優先させたあまりに、あのときのウルトラマンさんには悪いことをしてしまいましたわ」
「なにが悪いことよ。こっちは死ぬ寸前だったんだからね!」
「でも、いつもと違った充実感を得られたでしょう?」
「うっ」
言われてみれば、確かにあのときは死ぬ瀬戸際だったが、ウルトラマンAに変身するときとは違った充実感があった。
そう、自分の力で何かを成し遂げる興奮。無我夢中でメカゴモラを操って戦った時の気分は、決して悪いものではなかった。
それに……と、アンリエッタやウェールズは思った。自分の弱さを補うために武器を揃えるのはむしろ当然なことで、アルビオン軍やトリステイン軍にもゲルマニア製の武器が多数使われているし、地球でも他国の兵器を輸入することは普通なことだ。
けれど、武器は軍隊が持ってこそ秩序を保てるものだ。それを一般にばらまけば、それこそチブル星人のアンドロイド0指令にも似た惨事が起きかねない。
「ミス・ルビアナ、確かにヤプールに備えるのは大切なことですわ。けれど、身に余る強力な武器を手に入れてしまった人たちが良からぬことを企んだとしたら、あなたはどうするのですか?」
そう、それが才人もずっと懸念している最悪の事態だった。しかし、ルビアナはなんでもないことのように答えた。
「それなら問題ありませんわ。悪いことを考えないような人にだけ販売しておりますから」
「何の根拠があってですか!」
さすがにアンリエッタも語気を荒げた。悪い人間とそうでない人間を完全に判別するなど、できるわけがない。
だが、ルビアナはあっさりと首を振った。
「マイナスエネルギー、女王陛下もご存じでしょう?」
「えっ……はっ!」
アンリエッタは思い出した。ヤプールも口にしていたことがある、人間の憎悪や欲望といった負の感情から発生するエネルギー。つまり。
「察しがつかれたようですね。一定以上のマイナスエネルギーを発生させている人間を避ければ、おのずとトラブルは避けられます。強烈なマイナスエネルギーを発生させている者がいれば、消えていただくだけですわ」
これには才人も驚いた。これまで忌むべきものだとしか思っていなかったマイナスエネルギーにそんな使い方があるとは。
それで……と、ミシェルとタバサも合点した。ルビティアで、孤児院に放火しようとした野盗たちの前にタイミングよくケムール人が現れたのは、放火をしようという悪意のマイナスエネルギーを感知したからだったのだ。
ルビアナは、これで納得していただけましたか? と言う風に微笑んでいる。すべて計算され、計画づけられている。一方的な、ということを除けばハルケギニアにとっては得しかない話だ。
と、そこで呆然としていたギーシュとモンモランシーがようやく立ち直ってルビアナに寄ってきた。
「る、ルビアナ、ぼくは正直まだ気持ちの整理がついていない。しかし、君の話を聞いて、君がハルケギニアのために熱心に働いてくれていたのだということはわかった。ぼ、ぼくは君を信じるよ! 女王陛下、たとえハルケギニアの外から来た人間だとしても、我らの友だということには変わらないではありませんか」
ギーシュの訴えの真剣さは、アンリエッタも無下にできなかった。ルビアナのやり方は強引だが、確かにルビティアを救っている。それは紛れもない事実だ。
ルビアナが異界の者だということも、問題にはならない。ハルケギニアはウルトラマンらをはじめ、ハルケギニアの外からやってきた者たちにさんざん助けられているのだから。
さらにギーシュはルビアナに向き合い、いつもの浮わついた様子はなく真剣に聞いた。
「ねえそうだろうルビアナ。君は悪い人間ではないはずだ。ぼくやモンモランシーと過ごしてきた日々の想い出は、嘘ではないはずだ」
「ええ、もちろん。わたくしはギーシュさまやモンモランシーさんに、偽りを申したことは一度もありません。お二人も、女王陛下もわたくしにとって大切なお友だちです」
「ああルビアナ、君がどこの誰であったとしても、ぼくは君を貴族の誇りにかけて守るよ。ぼくは、君から多くのことを学んだ。きっと君はぼくなんかじゃ思いもよらないほどの大きなことを考えているんだろう。これからはぼくにも協力させてくれ」
にこやかに笑い、手を取り合う三人。モンモランシーは、ギーシュがこんなに真剣な顔をしているのを見たことないわ、と思った。かっこつけた態度は少しもなく、ただ一心にルビアナを擁護しようとしている。
そしてモンモランシーはそんなギーシュを見て、やっぱりルビアナさんがうらやましいなと、少し嫉妬を覚えもした。自分もルビアナからは様々なことを教わったし、世話にもなった。ましてや好意を寄せられていたギーシュは、実の姉のようにルビアナを慕っていたのはモンモランシーからもわかりすぎるくらいわかっていた。
だが、必死でルビアナを信じたいと望むギーシュに対して、ミシェルは毅然としてさらに問いかけた。
「では、これも答えていただきましょう。しばらく前に、トリスタニアの牢獄から重罪犯トルミーラの一味が脱獄し、奴らは何者かにその肉体を怪物に改造され、さらにルビティアのあなたの屋敷で迎撃に現れたものたちの中にもその怪物の姿が見られました。これもあなたの手引きなのだとおっしゃいましたね? なぜ人々の自由と幸福を求めるのに、人間を改造するような恐ろしい計画が必要なのですか!」
「最終処分ですわ」
「最終処分?」
思わず問い返したミシェルに、ルビアナはゆっくりと語り聞かせるように話した。
「鎖に繋いでもなお反省せず、改心の兆しが見えない者は、もう人ならざるものです。ならば、その姿形も心と同じ姿の番犬にしてあげたほうがいいとは思いませんか?」
ミシェルやアンリエッタ、いや、その場にいた者たちは皆ゾッとした。盗賊を拉致して強制労働までならわかるが、これは。
「咎人には生きる権利も認めないというのですか? 罪人でも、同じ人間なのですよ」
さすがにアンリエッタも声を荒げて抗議した。しかし、ルビアナは平然と答える。
「女王陛下はお優しい方。たとえ罪を犯した者でも、愛を持って接するべきだとおっしゃるのですね。ですが、世の中にはどんなに愛を注いでも変わらない者もいるのですよ」
「それでも、それは人に対するにはあんまりです」
「そうですわね。罪人であっても、最後まで人として扱う女王陛下のお心はとても尊いと思います。しかし、わたくしはこう思うのです。罪人に対して注ぐ愛があるなら、どうしてそれを罪人によって傷つけられ苦しめられている人々や、日々を懸命に生きている善良な人たちに与えられないのかと?」
「そ、それは……」
アンリエッタは答えられなかった。しかし、愛する妻の窮地にウェールズも黙ってはいない。
「人は罪を犯したくて犯すばかりではない。仕方なく罪に手を染めたり、気づかないうちに罪を犯していることもある。私もかつて、重い罪を犯した。そのような人たちの更正の機会を奪ってよいのか?」
「もちろん、そういう可哀想な方々のこともわかっていますわ。ですから私が最終処分を下すのは、一定以上のマイナスエネルギーを発生させている者に限っています。労働を強いている者たちも、本気で改心したなら開放してあげますわ。過去の罪を償う気持ちのある人を、わたくしは見捨てたりいたしません」
ウェールズの問いかけにも、ルビアナは少しも言い澱むことはなかった。けれどそこで、我慢の限界に来ていた才人が割り込んできた。
「待てよ、あの怪物のときにはおれもいたんだ。おれは見たんだぜ、あの悪党どもが子供たちをさらって怪物に改造しようとしていたのをよ。ええ!」
「あら、そうでしたわね。あれは本当に悪いことをしましたわ。お詫びいたします」
「なにが詫びだよ。それにそいつらの親玉は、怪物に改造した子供たちをばらまいて殺戮をおこなわせるって恐ろしい計画も白状したぜ。なにが平和だ、ふざけるなよ」
「いいえ、なにも矛盾してはおりません。私はあの者たちに、盗みを働くような悪童を捕らえよと命じておりました。悪党ならば浮浪児の行動にも精通していますからね。ですがあれらは指示を破って孤児院などを狙う始末。本来なら、改造した悪童をその元締めのところに送り返して全滅させるはずでしたのに、あれは完全にわたくしの見込み違いでしたわ。すみません」
なにも悪びれずに答えるルビアナに、才人より先にアンリエッタが血相を変えた。
「なんという恐ろしい計画を。いたいけな子供にそのような所業は、悪魔の考えですわ」
「いたいけな子供、ですか。わかりました、では、あまり好きな言葉ではありませんが、ヤプールがこんな言葉を残していることをお教えしましょう」
そう告げるとルビアナは一呼吸を置き、次に彼女が放った言葉はアンリエッタらの背筋を凍りつかせた。
「子供が純真だと思っているのは、人間だけだ」
アンリエッタだけでなく、才人やルイズもその言葉に心臓を鷲掴みにされたように冷や汗が流れ出て止まらない。するとさらにルビアナは言った。
「女王陛下、それにミス・ヴァリエールにモンモランシーさん。貴族の世界に生きているあなた方ならわかるでしょう。幼少の頃から傲慢に染まり、平民に杖を向けて恥じない貴族の少年が大勢いることを」
アンリエッタもルイズも返す言葉もない。
「ミス・アニエス、それにミス・ミシェル、あなたたちも知っているでしょう。街の暗がりに隠れる哀れな子供たちの中にも、盗み、騙し、傷つけることでしか生きていけない歪み切った者たちがいることを」
アニエスもミシェルも否定はできない。幼少の頃に人格が歪んでしまった者の中には、その後どうしても真っ当な道には戻れない者も大勢いる。
子供のうちに邪悪な魂を宿してしまった者は、容赦なく切り捨てるべき。一同は、ルビアナが人間に明確な線引きをしていることを理解した。すなわち、善人と悪人とに。
そしてミシェルは、あらためてルビアナに向き合って言った。
「ミス・ルビアナ、わたしたちがあの黒い鉄巨人に捕らわれた日、あなたはわたしたちの前に現れて話してくれましたね。あなたの話のほとんどはわたしには理解できないものでしたが、あなたが目指しているというものだけは覚えています。あなたはあのとき、「ハルケギニアに理想郷を築きたい」と言いました。その手段がこれだと言うのですか?」
「そうです。ではここで皆さんに、わたくしの考えている将来のビジョンをお伝えしましょう。わたくしはルビティア公爵家の力を使って、ハルケギニアの国々を商業的に支援し、さらに罪なき人々に害を及ぼす悪を全世界から排除することで、飢える者や虐げられる者がいなくなる豊かな世界を築いてゆきたいと思います。ただ、政治的な介入はいたしませんので、それぞれの国をどう運営するかはウェールズ陛下やアンリエッタ女王陛下にお任せします。そうして、このハルケギニアをより素晴らしい世界にしていくために力を合わせてゆきたいと、そう思っているのですわ」
それはまるで温厚な女教師がこんこんと幼い教え子に道徳を教え聞かすような、そんな慈愛に満ちた言葉だった。
けれどそれは実質的にルビアナが裏からハルケギニアを支配すると言っているのにも近い。アンリエッタらからすれば、受け入れられるものではなかった。
「それではハルケギニアの国々は、あなたに喉元を抑えられているも同然です。それも一種の侵略ではありませんか」
「そういう見方もできますわね。しかし、国と国の関係とは多かれ少なかれそういうものではありませんか? ただ、わたくしはこのやり方でこれまでうまくやってまいりました。あなた方からすれば大変なことかもしれませんが、私のやっていることはすべて、経験から来る計算で成り立っているのですよ」
「それは、あなたはハルケギニアに来る前に、別の場所でも同じことをしていたというわけですか?」
「はい、わたくしは故郷を追放されてより、様々な星を渡り歩いて、その星の方々に進歩と繁栄をもたらしてきました。そしてこのハルケギニアにもまた、平和と繁栄をもたらしてあげたいと願っているのです」
「……それはもはや神の所業です。あなたに、わたしたちハルケギニアの民の運命を自由にしていいという法がありますか!」
アンリエッタははっきりとルビアナに伝えた。いくら大きな力があるとて、ハルケギニアを勝手に作り変えてよいわけがなく、アニエスやミシェル、ルイズもそのとおりだとうなづいている。
しかし、ルビアナは微笑を浮かべたままで、驚くべきことを口にした。
「神……ですか。そうですわね、あなた方から見れば、わたくしは限りなくそれに近い存在と言えるかもしれませんね」
「っ! なんの根拠があって?」
自らを神と同等と言う。その傲慢とも言える口ぶりにアンリエッタが激高すると、ルビアナはほおに手を当てながら笑った。
「そうですわね。女王陛下、あなたは今おいくつでしたかしら?」
「は……18歳ですけれども」
「では、私はあなたの3129万と32倍を生きてきたと言えば納得していただけるでしょうか?」
そのあまりにも突拍子もない数字に、アンリエッタは思わずぽかんとなってしまった。
才人は両手の指を折って計算しようとしているが、自分の手のひらを見つめた時点で思考が停止してしまっている。そんな才人を見かねて、ルイズがほおをひきつらせながらぽつりと告げた。
「5億6322万580よ」
「あ、ああ、サンキュルイズ。五億六千三百……って、5億6322万580歳だってぇーっ!?」
才人は絶叫した。無理もない、それほど馬鹿げている数字なのだ。
アンリエッタらはもちろん、セリザワや我夢らウルトラマンたちも驚いている。
「馬鹿な、ペダン星人はそんな長命の種族ではないはず。まさか、貴様」
するとルビアナは愉快そうにしながら告げた。
「あら、乙女の年齢の秘密を探ろうなんていけない方。様々なマルチバースを渡り、様々な星の文明の生死を見てまいりました。そうして数百数千の星々を渡り歩いているうちに、それだけの時が経ってしまいました。ふふ、信じるかは皆さんの自由ですけれどもね」
からかうような口ぶりだが、それを冗談とも真実とも断言できる者はひとりもいなかった。
だが、それほどの歳月を生きてきたのだとすれば、恐るべき科学力も、すべてを思い通りにいかせるような叡智を持っていることも説明がつく。
呆然とする顔ぶれを前にして、ルビアナは言った。
「わたくしは様々な文明、様々な人々と触れ合ってきて、どうすれば人々がもっとも幸福になれるのかと考え続けてきました。その結果、人々が不幸になるのは、悪意あるものが力を持ってしまうことにあると考えるようになったのです。大きな力を持つものは、それを自分以外の幸福のために使うべきもの。そして、怒りと憎しみに囚われ、人々に害をなす悪は排除するべきなのです」
非情とも言える揺るぎない信念の発露と、それに相反する慈愛に満ちた寛容さがルビアナの言葉にはあった。
善なるものには無限の愛を、悪なるものへは地獄の鉄槌を。アンリエッタは、駆け出しながらも統治者のはしくれとして、圧倒されるものを感じて身震いした。この人は人々を幸せにするという一念において自らの手を汚すこともいとわない決意を持っている。悔しいが、国民の利益のために障害を排除するのに情を挟んではならないというのは政の基本中の基本だ。まるで自分が聞き分けの悪い子供になって母親に諭されているような錯覚さえ覚えた。
すると、ルビアナの言葉に対してそれまで静観を守っていたセリザワが口を開いた。
「悪は徹底的に断罪する……やはり、数か月前にトリステインの港湾都市で暴れたロボットもお前の仕業だな。あのロボットの改造部品にはペダニウム合金が使われていた」
「ええ、そうですわ。あの町で、ひときわ強いマイナスエネルギーの波動を放つ人を感じたので、回収修復した機動兵器の生体パーツになってもらおうと思いまして。そうそう、ついでに申し上げますけれど、女王陛下、ギーシュ様、あなた方と最初に出会ったあの舞踏会の夜に暴れた改造怪獣もわたくしの仕込みですわよ」
「なんだって!」
「なんですって! なぜ、そんなことを」
ギーシュもアンリエッタも愕然とした。あのときに暴れた改造ブラックキングのせいでギーシュは重傷を負わされたのだ。しかし、ルビアナの言葉に悪意はなかった。
「あそこには貴族たちの膨大なマイナスエネルギーが充満していましたので、少し数減らしをしようかと思いまして。それに女王陛下、今だから申しますが、あのときの貴族たちの中にはかつてのリッシュモン派の残党が混ざって、あなたの暗殺をもくろんでいましたのよ。踏みつぶさせておきましたけれどね」
衝撃の事実だった。まさかあの舞踏会の裏でそんなことが企まれていたとは。
けれどルビアナはすまなそうな表情で、深々と頭を下げた。
「ただ、ギーシュさまがわたくしたちのために大きな傷を負ってしまったことは本当に申し訳ありませんでした。ですが、わたくしの想像を超えたギーシュさまの勇敢さには、本当に胸が熱くなりましたわ」
ギーシュはルビアナに微笑まれ、あのときのことを思い出して赤面した。そこにモンモランシーのひじてつを食らい、「こんなときになにデレデレしてんのよ」と、ツッコミが入ったことで少しだけ場が和んだ。
もっとも、そうした時間はわずかで、ルビアナがすでに怪獣までも使ってハルケギニアで暗躍していたことが改めて明らかになると、アンリエッタは最後の決断をするためにルビアナと再度向き合った。
「ミス・ルビアナ、最後にはっきり教えてください。あなたはわたくしたちの敵なのですか? それとも味方なのですか?」
「味方ですわ。そして、あなたがたの友でありたいと切に願っています。皆様にないしょでいろいろとしてしまったことはお詫びいたしますが、それもすべてハルケギニアの人々の幸福のためとご理解ください」
きっとそれに嘘はないのだろうとアンリエッタは思った。ルビアナは話の中で一度も言葉を濁したりすることはなかった。きっと、何億という悠久の時を生きているというのも……。
一言でいうなら、超越者だ。人の身でありながら神に限りなく近づいた存在。今まで出会ってきた誰とも違う……この人が敵でなくてよかったと思うが、だが。
「もしも、わたしがあなたを受け入れたとしたら、あなたはこれからトリステインを……ハルケギニアをどうしたいと思うのか、もう一度教えてください」
「そうですわね。わたくしは裏方に徹しながら、ハルケギニアに巣食う悪を排除し、ハルケギニアの進歩を助けてゆきたいと思っています。そしていずれは、このハルケギニアを、幸福と平和に満ち、誰も悪に怯えることのない理想郷にしていきたいですわね」
「悪の存在しない、完全無欠な理想郷ですか……歴史上存在したことのない、夢のような世界ですわね」
アンリエッタは皮肉気につぶやいた。子供が夢想する中にしか存在しないような、天国そのものな世界。
そんなもの、作れるわけがないと、アニエスやミシェル、それにルイズや才人も顔をしかめていた。また、人間の業に挑戦してくる侵略者と戦い続けてきたアスカや我夢、藤宮も、そんな世界の実現は不可能だと思っていた。
しかし……。
「存在なら、ちゃんとしていますよ」
「え?」
「ですから、女王陛下の言う、完全無欠な理想郷はこの世にちゃんと存在しているのですよ。正確には、こことは違った宇宙に、ですけどね」
そう言うと、ルビアナは指揮者のようにさっと手を振った。するとなんと、彼らのいるダンスホールの風景がぐにゃぐにゃと歪み始めたではないか。
「きゃあ! なにっ!?」
「落ち着け、立体映像……幻だ」
うろたえるルイズたちをセリザワが制した。ルビアナは、どうやらこちらになにかを見せようとしているらしい。
やがて映像の揺らぎが収まり、なにかの街のような姿を形作り始めた。それを見て、この場の全員が息を呑み、そしてルビアナはしみじみとしながら語った。
「私は長年宇宙をさすらいながら、真の平和や繁栄は実現できるのかとずっと考え続けて来ました。そしてついにあるとき見つけたのです。そこに住む者の誰一人として悪意を持たず、繁栄を謳歌しながらも、その力で宇宙の平和のために尽力している人々のいる星を。わたくしは感動し、そして決意しました。どれほどの月日を重ねても、必ずこの理想郷と同じ世界を作り上げてみせると」
ルビアナの見せる映像はダンスホールいっぱいにプラネタリウムのように広がり、一同は銃士隊の隊員ひとりにいたるまでそれに目を奪われた。
眼前に広がるのはエメラルドグリーンのクリスタルでできた超巨大な都市。空は神々しく力強い光に満ち、トリステインの王宮をはるかに超えるであろう超巨大な建物がいくつも立ち並び、空中には幾何学的な巨大建造物が浮いている。
この世のものとも思えないほどの超科学文明都市。これに比べれば東京の摩天楼や以前見たエルフの首都など積み木模型のようなものだ。
そして、その都市を行き来する数多くの銀色の巨人たち。誰もがその光景に圧倒される中で、セリザワと、才人とルイズの中にいる北斗星司はわかっていた。いや、わからないわけはない。なぜならそこは、彼らの故郷の。
「M78星雲、ウルトラの国……」
続く