第29話
襲来!宇宙忍者
宇宙忍者 バルタン星人 ベーシカルバージョン
カオスウルトラマン
カオスウルトラマンカラミティ 登場!
「さあて皆さん、いろいろと賑やかになってきましたねえ。盛り上がっていますか?」
「私のプロデュースした一大ショーもいよいよ後半。そろそろ私が彼らにも名乗るときも近そうです。楽しみですねえ」
「この日のためにじっくり育てた私の自信作をリュティスの皆さんにまずご覧になっていただきましたが、さすが王宮より大きいだけに驚いてもらえてよかったです」
「ですが、まだ完成にはもうひとつ足りませんので、ウルトラマンの皆さんにはしばらく彼らの相手をしていていただきましょう」
「そう、あなた方も知っている事でしょう。遠路はるばるご招待いただきました、バルタン星人の皆さんをご紹介します!」
そう、バルタン星人。誰もが一度はその名を聞いたことがあることだろう。それはウルトラマンの歴史を紐解くには欠かすことのできない存在である。
栄光の初代ウルトラマンが初めて地球で戦った宇宙人であると同時に、ウルトラマンの滞在中に合計三回、ウルトラマンジャックの時期に一度、そしてウルトラマン80に二度に渡って挑戦してきたという、種族としての襲来回数では一番の多さを誇っている。
セミのような姿に似合わず、強力な破壊光弾バルタンファイアーや、光波バリヤーやスペルゲン反射鏡を開発する科学力も侮れない。
ただしそれはウルトラ兄弟のいるM78世界のことだ。しかし、様々なマルチバースに様々な地球があり、様々なウルトラマンたちがいるように、異なる世界にもバルタン星人が存在する。
そう、それはこの宇宙においても。
トリステインの三ヶ所に現れた三人のバルタン星人。彼らはそれぞれウルトラマンを抹殺せんと、攻撃を仕掛けてきた。
郊外の平野でアスカが、山岳部では我夢と藤宮が襲われ、トリステイン魔法学院にもバルタン星人が現れて破壊活動を始めている。
このままでは、リュティスに現れたという巨大怪獣を止めることはできない。この宇宙でも、バルタン星人は邪悪な侵略者の一派なのだろうか? それとも……。
バルタン星人がハサミから放った青色の光線が魔法学院の外壁を破壊する。
「デテコイ、ウルトラマンコスモス! ココニイルノハワカッテイルノダ」
トリステイン魔法学院を襲ったバルタン星人の声が、悲鳴の流れる学院に響き渡る。
その様子を、コスモスに体を貸しているティファニアはコスモプラックを通してコスモスと会話しながら見上げていた。
「コスモス……あの、ウチュウジンはあなたを狙ってやってきたの?」
〔そう、私はかつて、彼らの同族と戦ったことがある。バルタン星人……彼らに間違いはない。しかし、彼らが争いを起こす理由は、もうないはずだが〕
コスモスも、バルタン星人がここに現れたことは予想外だったようだ。だが、バルタン星人はコスモスの名を呼びながら学院を破壊し続けている。
分厚い外壁や、魔法を加えて練り上げられた頑丈な校舎も、バルタンの放つ破壊光線の前には無力で次々に風穴を開けられて炎上している。
「学院が! ルイズさんやみんなが帰ってくるための、大切なところなのに」
ティファニアが悲鳴のように叫んだ。学院は生徒たちにとって第二の家のようなものだ。どんなに外で辛いことがあっても、学院に戻ってくれば元の学舎の生活が帰ってくる。
その大事な場所を壊されたくない。彼女の純粋な思いを感じ取ったコスモスはティファニアに促した。ティファニアも、自分たちの大切なものを守るために、コスモプラックを空に掲げて彼の名を大きく唱える。
「みんなを守って、コスモース!」
虹色の輝きが花開き、ウルトラマンコスモスへとティファニアは変身した。
バルタン星人の光線が校舎の壁を砕く。破壊されて飛び散った瓦礫が、ドットのメイジくらいではどうにもできない弾丸となって生徒たちを襲った。そのとき。
「ショワッチッ!」
青い閃光が割り込み、瓦礫を払い飛ばした。その閃光が青と銀色の巨人を形作り、バルタン星人から学院を守るように立ち上がる。
「ウルトラマン、コスモス」
生徒たちは自分たちを助けてくれた彼の名を嬉しそうに呼んだ。
ルナモードで現れたコスモスは、バルタン星人の前までゆっくりと歩んでいく。そしてバルタン星人の前に立つと、毅然として問いかけた。
〔バルタン星人、なぜこの星にやって来た?〕
「知れたこと、かつてお前に敗れた同胞の屈辱を晴らすためよ」
バルタン星人は忌々しげに答えた。コスモスを通したおかげか、カタコトに聞こえていたバルタン星人の言葉もはっきり聞き取れるようになっている。
それにしても穏やかではない。ティファニアはコスモスの話にじっと耳を傾けた。
〔お前たちが争う理由は、もう無くなったはずだ。新たな母星に移り、流浪の旅を終えられた今、私と戦ってなんになるというのだ?〕
「そんなことはどうでもいい。我らバルタンの歴史に汚点をつけた、貴様コスモスへの恨みは、貴様への復讐を持ってしか鎮まりはせんのだ」
〔バルタン……〕
ハサミを向けて威嚇してくるバルタンの言葉には、はっきりとした憎悪が込められていた。いったいコスモスとバルタンの間に何が?
一方、時を同じくして、別の場所でバルタンの攻撃を受けていたアスカや我夢たちの元へ、再びあの通信が入っていた。
〔ああ、とうとう始まってしまった。この星の人たちに迷惑をかけてしまって、すみません〕
その声に、バルタンの攻撃をかわし続けていたアスカが反応した。
「おい、お前は誰だ! どこから話してる? あいつの仲間なのか?」
〔申し訳ありません。やっと周波数を安定させることができました。わたしたちは、あなたがたから見上げた先にいる宇宙船の中から話しています〕
「宇宙船? あの、月みたいなやつのことか?」
〔そうです。時間がないので手短に事情をお話しします。わたしたちバルタン星人は……〕
通信の声は、アスカや我夢たちに、自分たちになにが起こったのかを語った。
それは何年も前のこと。バルタン星人は本来の母星を失い、バルタン星の一部を切り出した宇宙船”廃月”を作り出し、新天地を求めた長い旅に出た。
その旅の先で、バルタン星人たちは見つけ出した地球を侵略しようとしたが、ウルトラマンコスモスに阻まれた。
しかし、バルタン星人たちも決して好き好んで争いを仕掛けていたわけではなく、次の世代に新天地を残そうと必死だっただけなのだった。
そして再び旅に出たバルタン星人たちは、ようやく新たな母星となる惑星を見つけて移り住むことができた。本来ならそれで、バルタン星人はもう戦うこともなく平和に過ごせるはずであった。
だが、バルタン星人の中には少数だが、コスモスに敗れたことのみに執着している過激派もいたのである。そんな彼らに、あのコウモリ姿の宇宙人が接触し、コスモスの居場所と自分たちの強化改造の手ほどきをしたのだ。
その結果、彼らバルタンの過激派は、すでに役目を終えていたはずのバルタンにとってのノアの方舟であった宇宙船廃月を強奪し、コスモスへの復讐のためにここにやってきたというのだ。
その話を、バルタンをジェクターガンで牽制しながら聞いていた我夢は半分納得したように言った。
「逆恨みじゃないか。でも、コスモスはともかく、どうして僕たち他のウルトラマンまで標的にされるんだい?」
〔彼らは、自分たちがウルトラマンに負けたということが我慢ならないんです。だからコスモスだけじゃなくて、ウルトラマンをみんなやっつけて、自分たちが優れているのを証明しようとしてるんです〕
あまりに身勝手な理由に、藤宮も眉をしかめた。
「子供のケンカか。我夢、どうやら話し合いでわかり会える相手じゃないようだぞ」
相手が知的生命体ならもしかしてと淡い期待をしていた我夢と藤宮も、そんな連中に和解を持ちかけても無駄だと決意した。
戦うしか、ここを突破する方法はない。我夢はエスプレンダーをいつでも握れるように構え、藤宮も合わせた。
〔お願いします。わたしたちのせいで、これ以上よその星に迷惑をかけたくないのです〕
「その前に、君は誰なんだい? 奴らの仲間じゃないのか」
「わたしたちは……」
相手が答えようとしたとき、また通信機に何かあったのか、急激にノイズが入ると通信は切れてしまった。
だがこれで、おおまかな事情はわかった。バルタン星人の過激派、そんな奴らにこの星で好き勝手されるわけにはいかない。我夢と藤宮は戦うことを決意し、エスプレンダーとアグレイターを起動させた。
「ガイアーッ!」
「アグルーッ!」
W変身。地球の光が輝き、ウルトラマンガイアとウルトラマンアグルが地響きを立ててトリステインの大地に降り立った。
二人の胸のライフゲージは青く輝き、たとえ星は違っていてもリナールの光を通じて地球の光は二人に力を貸してくれている。なぜなら、この星は時空をまたいだガイアたちの地球の双子星とも言える惑星だ。この星が滅びれば、恐らく時空を超えて繋がっている地球もただではすまないだろう。
そう、宇宙は広く狭く、繋がっていてまた隔たっている。その複雑さは、人間の叡知などでは計り知れるものではない。
ただし、自然の理に比すれば小さな人の理に照らしても、理不尽な暴力は決して許されない。ガイアとアグルはバルタン星人に対して、力強く構えをとった。
そして、コスモスもまたバルタン星人との戦いに否応無く巻き込まれていた。
〔バルタン星人、無益なことはやめて星へ帰れ〕
「ならば死ね、ウルトラマンコスモス! ウルトラマンを根絶やしにして、我々は軟弱者どもとは違う繁栄をこの星に築き上げるのだ」
バルタン星人のハサミから放たれる破壊光線、ドライクロー光線がコスモスを襲う。コスモスはとっさに青いカーテン状の光の膜を張って攻撃を受け止めた。
『ムーンライトバリア』
ドライクロー光線はバリアに阻まれてコスモスには届かない。しかし、コスモスは受け止めた光線から、かつて戦ったバルタン星人のそれ以上の圧迫感を感じた。
”以前よりパワーアップしている。だが”
コスモスは渾身の力でドライクロー光線を弾き返すと、さばいた光線が自身の周りで起こす爆発に照らされながら毅然と宣言した。
〔侵略を前提にした正義など、ありはしない。私は、この星を守る〕
「ほざけ!」
バルタン星人はハサミを刃物のように振り立ててコスモスを攻撃してきた。コスモスはそれを手刀や掌で防ぎ、掌底を当てて押し返していく。
「ヘヤッ、セイッ」
バルタンがハサミを突き出してくれば手刀を当てて横へ流し、振り下ろしてくれば手を添えて力に逆らわずに身をそらす。流れるようなコスモスの動きがバルタン星人の攻撃を受け流し、その姿はまるで達人の演舞を見ているかのようだ。
想像してみるとよい、刃物を持った暴漢が殺意むきだしで襲ってくるのを、素手で相手取れるものか? コスモスはそれをやっているのである。
それを見守る教師や生徒、使用人たちも息を呑んでいる。泰然としているのは、校長室で水煙草を吹かしているオスマン学院長くらいのものだ。
だが、コスモスに余裕があるわけではない。学院の近くで戦っては、生徒たちを巻き込むかもしれない。コスモスはバルタンの一瞬の隙を突いて、学院の外の草原へ向かって投げ飛ばした。
「シュゥワッ!」
バルタンの体が軽々と宙を舞う。しかしバルタンは背中の昆虫のような被膜を広げることで、難なく草原に着地を決めた。
もちろんコスモスも即座にジャンプして追う。
「シュワッチッ」
コスモスも草原に降り立ち、太極拳に似たルナモードの構えを再度とる。それに対して、バルタンは、ご挨拶はこれまでだと言うようにせせら笑った。
「コスモス、まだ我々をなめているのか? ならば今の我々の力がどれほどのものか、その身で味わうがいい」
バルタンは両腕のハサミを下げて開いた。すると、ハサミの中から眩しくきらめく光の粒子が吐き出されてくる。それを見て、コスモスは肩を震わせた。
〔あれは……〕
「フフフ、見覚えがあるだろうコスモス。我々は、貴様の戦いをずっと観察し続けていたのだ。そして、我々の科学力はついにカオスヘッダーの疑似的な複製に成功したのだ。見るがいい!」
光の粒子が集まって形を成していく。そして光は人の姿を成し、ついに二体の黒い巨人となって実体化した。
一体はコスモス・コロナモードに酷似しているが、全身が黒く染まった巨人。もう一体は、誰も見たことはないけれど、やはりコスモスに似た雰囲気を持つ漆黒の巨人。その二体を見て、学院の生徒たちは口々にうめくようにつぶやいた。
「黒い、ウルトラマン?」
「ウルトラマンの、偽物?」
まさしくその通りであった。それは、かつてコスモスが地球で戦っていた時にカオスヘッダーがコスモスをコピーして生み出したカオスウルトラマンと、その強化体のカオスウルトラマンカラミティそのものであったのだ。
何度も苦しめられた強敵の再来に、コスモスも焦燥感に震える。するとバルタンはコスモスの苦悩をあざ笑うかのように告げた。
「驚いたか。カオスヘッダーの持つコピー能力のみを再現したのだ。カオスヘッダーも今や我々の忠実な操り人形のようなもの。さあ、自分自身によって、苦しみあえぎながら死ぬがいい!」
バルタンの命令で、二体のカオスウルトラマンはコスモスに向かってきた。
これの相手はルナモードでは無理だ。カオスウルトラマンの強さを誰よりも知るコスモスは、解放した赤いエネルギーの炎に包まれて戦いの姿へとチェンジした。
『ウルトラマンコスモス・コロナモード』
変身したコスモスは、まずカオスウルトラマンと相対した。カオスウルトラマンはコロナモードのコスモスをコピーした姿であるため、拳を前に突きだしたコロナモードと同じ構えをとり、コスモスと同じ技を繰り出してくる。
「ハアッ!」
「ジュウワッ!」
コスモスのパンチに対してカオスウルトラマンはハイキックを放ってきて、コスモスがキックを放てばカオスウルトラマンはコスモスと同じガードで受け止めてしまう。
スピードもパワーもカオスウルトラマンはコスモスと互角以上。しかも、コスモスの相手はカオスウルトラマンだけではない。カオスウルトラマンに対峙するコスモスの隙を突いて、カオスウルトラマンカラミティが掬いばらいをかけてきたのだ。
「オワァッ!」
足を払われて倒れ込んだコスモスに、カラミティは頭を踏み潰そうとストンピングをかけてきた。コスモスは寸前でそれをかわし、なんとか立ち上がる。
だが、カラミティはコスモスが体勢を整える間もなく、宙に浮き上がっての連続キックを加えてきた。コスモスはなんとかそれも捌こうとするものの、連続キックでガードをこじ開けられ、胸に強烈な一撃を受けてしまった。
「ウオォッ!」
コスモスがよろめいたことで、カラミティは腰を落とし、コスモスのサンメラリーパンチに酷似した追撃のダブルパンチを繰り出してくる。コスモスもそれに合わせて、カウンターのパンチで迎え撃つ。
激突するパンチとパンチ。しかし、カウンターで繰り出したはずなのに、打ち負けたのはコスモスのほうであった。
「ウワァッ!」
弾き飛ばされたコスモスが背中から地面に叩きつけられる。それを見た生徒たちは「本物が打ち負けた!?」と愕然としているが、それも道理である。カラミティはコスモスが変身することのできた更なる強化系をコピーしたカオスウルトラマンの完全なるパワーアップ版、コロナモードでは分が悪すぎる相手なのだ。
さらに、カラミティにやられたコスモスへカオスウルトラマンも襲いかかってきた。倒れたコスモスを無理矢理引きずり起こすと、頭部へチョップを加え、カラミティへ向かって突き飛ばす。
「ムワアッ!」
濁った掛け声をあげて、カラミティのキックがコスモスを再度吹き飛ばした。
倒れるコスモス。カオスウルトラマンとカラミティは、余裕綽々とばかりにゆっくりとコスモスに歩み寄っていく。
”強い……”
コスモスは、この二体の強さがバルタンのハッタリではないことを確信した。カオスヘッダーの自我がないとはいえ、パワーやスピード、戦闘スキルは本物に匹敵する。しかも、一体でも手強いというのに、二体もいる。
倒されながらも、膝を突いて立ち上がろうとするコスモス。だが、コスモスの後ろからバルタン星人のドライクロー光線が襲いかかった。
「グアアッ!」
背中に光線を受けて爆発が起こり、倒れるコスモス。それを見てバルタンは楽しそうに笑うのだった。
「馬鹿め、私が黙って見ているだけなわけがあるまいに」
不意を打っただけのくせをして、勝ち誇るバルタン。それでもコスモスのダメージは甚大で、すぐに立ち上がれないでいるコスモスに、カラミティは手から破壊光弾を放ってきた。
【ブレイキングスマッシュ】
赤色の光弾はコスモスをさらに打ちのめし、苦しむコスモスを見下ろしてバルタンは嘲笑い続ける。
「どうしたコスモス? さきほどまでの威勢はどこへいった」
「グウゥ……」
コスモスは膝を突き、苦しそうに呻いた。
これはもはやまともな戦いではない。一体ずつならまだしも、いくらコスモスが強くても分が悪いにも程がある。戦いを見守ってきた生徒たちも、憤りのあまり大きく叫んでいた。
「三対一なんて卑怯だぞ。正々堂々と戦え!」
「ウルトラマン、がんばって!」
バルタンには野次が、コスモスには応援の声が届けられる。
その声を、バルタンは嘲笑い、コスモスは感謝を込めて受け取っていた。
”ありがとう。私はまだ、戦える”
コスモスは膝を突きながらも立ち上がり、バルタンとカオスウルトラマンたちに向かって力強く構えをとった。
「シュワッ!」
コスモスの勇姿に、生徒たちから歓声が上がった。がんばれ、がんばれウルトラマン。
コスモスの闘志は折れない。それは同時に、ティファニアのみんなの大事な学院を守りたいという強い意思でもある。
”ルイズさんたちは、森の中では知れなかった、多くのことをわたしに教えてくれたわ。ルイズさんたちの大事な学院を、壊させたりしない”
コスモスは渾身の力を込めて、エネルギーを集め始めた。体の前で円を描く手から炎のようなエネルギーがほとばしっていく。
だが、バルタンは少しも慌てる様子はなく嘲ってきた。
「愚かな。なら力の差をはっきり思い知らせてやろう」
バルタンのハサミがコスモスに向かって開かれる。それと同時にカオスウルトラマン二体もそれぞれ構えをとってエネルギーを放出し始め、黒色のエネルギーがコスモスを模した構えから吹き上がってくる。
そしてコスモス、バルタンとカオスウルトラマンたちは同時に必殺の光線を撃ち放った。
『ネイバスター光線!』
【ドライクロー光線】
【ダーキングショット】
【カラミュームショット】
激突する正義と悪の光線。だが、拮抗したと思えたのはほんの一瞬に過ぎなかった。あまりにも、残酷に、エネルギーの絶対量が違いすぎる。
あっという間にコスモスの光線は押し切られてしまい、三倍の黒い光の束となった悪の光線はコスモスを直撃した。
「ウワアアッ!」
コスモスの周囲でエネルギーの余波による爆発が連鎖し、コスモスは激しく背中から叩きつけられた。大きなダメージを受け、地に伏すコスモスのカラータイマーはついに点滅を始めた。
もはやエネルギーさえコスモスにはろくに残っていない。いくら力を振り絞っても、あまりにも、あまりにも戦力に違いがありすぎた。
とどめを刺そうと、バルタンのハサミが再びコスモスを向く。コスモスはそんな中でも生徒たちからのがんばれという声援を聞き、立ち上がろうと必死に手を突き、戦おうとしている。
がんばれ、立つんだ。ウルトラマン!
バルタンはコスモスのカラータイマーに狙いを定め、冷たく宣告した。
「さらばだコスモス、我らバルタンの繁栄の礎になるがいい」
逃げ場はない。仮にバルタンの攻撃をしのげたとしても、すぐにカオスウルトラマンたちの攻撃がコスモスを襲うだろう。
見守る生徒たちも、自分達の無力を痛感するしかできないでいる。どうすれば……だが、バルタンが攻撃を放とうとした瞬間、彼らのもとへ空気を伝わって未知の振動が伝わってきた。
「なんだ?」
何か、強い気配が近づいてくる。自分たちやコスモスの仲間ではない。もっとシンプルで原始的なものだ。
その得たいのしれなさに、バルタンは攻撃を中断してそちらの方向に視線をやり、生徒たちも釣られてそちらを見た。
視線の先には、学院の郊外に広がる広大な森林が広がっている。一見、何もないように見える。だが、見続けていると、森の向こうから木々を蹴散らしながらなにかが近づいてくる。
「今度はいったいなんなんだよ? って、か、怪獣だ!」
生徒たちは悲鳴をあげた。森の向こうから、エリンギのような頭をした奇妙な怪獣が、のしのしと一直線にこちらに向かってくるではないか。
ただでさえ状況が最悪なのに、さらに怪獣まで出てくるなんてどうなってしまうんだ! 生徒たちは絶望感に、とうとう腰を抜かしてしまう者も現れた。
しかも、である。
「ん? おい、怪獣の頭に誰か人が掴まってるぞ!」
「マジか。って、ありゃおいレイナールたちじゃないか」
「水精霊騎士隊の奴ら、こんなときになに遊んでやがるんだ!」
思いもよらない乱入者。レイナールたちは、いったい今までどこでなにをしていたのだろうか? そして、なぜ怪獣といっしょにいるのだろうか?
怪獣は、なにかに引き寄せられるかのように、ひたすらにまっすぐに近づいてくる。一方バルタンは、相手の正体が怪獣だとわかると、わずらわしそうに視線を逸らした。
「大事の前に、野良怪獣などに構っている暇などない。片付けろ」
バルタンの命令で、カオスウルトラマンが怪獣の前に立ちふさがった。怪獣は進路を変えずにそのまま向かってくる。
コスモスと同等以上の能力を持つカオスウルトラマンに対して、並の怪獣ではとても太刀打ちできない。だが怪獣は、敵意をむき出しにするカオスウルトラマンにまるで臆することなく近づいていく。
いったい、怪獣はなにを目的にやってきたのだろうか? 突然の乱入者によって、魔法学院前の戦いは混迷の度を深めていく。
そして、世界に混乱の種がばらまかれた中、混乱の中心地であるガリアのリュティスでは、なかば廃墟と化した町の一角で才人とルイズが水精霊騎士隊の仲間たちとようやく合流していた。
「おうい、みんな無事だったか」
「サイト、ルイズ。お前らどこ行ってたんだよ。はぐれて焦ってたんだぞ」
「悪かったわ。ちょっとサイトが落ちてたパンを拾い食いしてお腹壊しちゃってて、ね?」
「い? おま、そ、そうなんだよ」
ルイズにとんでもない言い訳でごまかされても、ジロリと睨み付けられては才人に反論の余地は無かった。水精霊騎士隊の「えぇ……」という冷たい視線が痛い。
”ちくしょう、覚えてろよルイズ。今度洗濯したときパンツのゴム切っといてやる”
どう考えてもその後のさらなる復讐のほうが恐ろしくなるであろう報復を心に決めつつ、才人は無理矢理話題を変えることにした。
「けど、みんな無事でよかったぜ。そういや、お前たちにあず……ウルトラマンが預けたように見えたおじさんはどうしたんだ?」
「その人なら、街の様子を見に来たガリア軍の人に預けたよ。お前たちも、なんか疲れてるみたいだけど、休んでから行くか?」
「い、いや、大丈夫だって」
疲労を指摘されて、才人は慌てて取り繕った。あまり無理はしなかったつもりだけれど、さっきの戦いの疲れが顔に出ていたらしい。
ルイズもカトレアに、顔色が悪いですよと指摘されてごまかしている。いつもならそんなでもないはずだけれど、最近無理をしてきたのがたたったのか。
すると、ジルが二人の顔色を交互に見回して、黒い丸薬を二人に手渡してきた。
「休むのが嫌だというなら、それを飲んでおきな」
「なによこれ? なんかちょっと臭いし」
「ただの気付け薬だ。そんな不景気な顔は見ていたくないから、黙って飲め」
そう言われると、二人とも有無は無かった。疲労が溜まってるのは事実だし、ちょっとでも回復できるならありがたい。
才人とルイズは、丸薬を口に含んで一気に飲み込む。しかし。
「うえっ!」
「に、苦っ! 渋っ、辛い!」
丸薬は、二人が涙目になるほどとんでもなく不味かった。それはもう、口の中が痛いほどで、水精霊騎士隊のみんなが心配そうに見ているくらいだ。
ルイズは涙目で咳き込みながら、何が入ってるのよと尋ねたが、ジルはニヤニヤ笑いながら「聞きたいのか?」と問い返すので、ルイズは青ざめて聞くのはやめておいた。
恐ろしいことだが、元々キメラ専門の狩人であるジルの携帯薬なのだから、絶対にろくなものは入っていない。ジルは、まだ顔をしかめている二人を楽しそうに見ながら言った。
「貴族ともあろうものが情けないな。シャルロットは我慢してちゃんと飲んでいたぞ」
「誰よシャルロットって?」
「誰って……誰って……」
ジルの顔から笑顔が消えた。なんだ、今自分は誰のことを思い出していた?
そういえばまただ。ときたま起こる、知らないはずの誰かの顔や名前が浮かぶこと。それも今回は、かなりはっきりと思い浮かんだ。なんだ? あと少しで思い出せそうなのに、自分はなにを忘れてるというんだ?
苦悩するジルに、ルイズたちはかける言葉がない。すると、シルフィードがじれたように一行に怒鳴った。
「もう、お前たち、いつまでそこでぐずぐずしてるのね。早くお城に乗り込んでお姉さまを助けにいくのね!」
「あっ、そ、そうだった」
うっかりしていた。時間はもう切迫している。一行は、このリュティスに来た目的を果たす時が来たことを悟った。
「急ごう。あの怪獣が現れたおかげで、王宮の守りはがら空きだ。今なら一直線でジョゼフ王のところまでたどり着ける」
それであの怪獣も止めさせて、すべての馬鹿騒ぎを終わらせるのだ。
成すべき時は、今だ。才人たちは最後の戦いを決意してヴェルサルテイル宮殿へと足を向けた。
だが、走りだそうとしたその瞬間、彼らの耳に聞きなれない不気味な声が響いた。
「お城に行っても、もう誰もいませんよ」
その声に、「誰だ!」と一同は緊張した。
反射的に円陣を組み、才人はデルフリンガーを抜き、あとの一同は杖を構えて周囲を警戒する。
しかし、声の主はそんな緊張する彼らをからかうようにあっさりと姿を現した。少し離れた空中から彼らに影をかぶせつつ、あのコウモリ姿の宇宙人が現れたのである。
「久しぶりですね。いいえ、今のあなた方にとってははじめましてでしたね。いやあ、よくぞここまでやってきてくれました。さすが、何度もこの世界を救ってきた人たちだけはあります。よくぞいらしてくれました、歓迎いたしましょう!」
楽しそうに告げる宇宙人を、才人たちは当然ながら大いに怪しんで見上げていた。
なんだこいつは、突然現れて馴れ馴れしく……いったいどういうつもりだ?
宇宙人の目的がわからず、かといってこちらから攻撃を仕掛けるのもはばかられて困惑していると、宇宙人は警戒を解いてと言う風に手を広げて続けた。
「まあまあそう固くならないでください。私はあなたたちと争うつもりはありません。あなたたちが無駄足を踏まないように、ちょっとご忠告に来ただけですよ」
「無駄足って、王宮に王様がいないってことか。どういうことだよ!」
「どういうもこういうも、お城が崩れたときに王様は別のところに避難されました。だからあそこに行っても誰もいません。それに、あれに下手に近づいたらあなたたちも取り込まれてしまいますよ」
「あれって、あのでかいのはお前が作ったのか!」
才人が王宮の半分を押しつぶしている巨大怪獣を指して叫んだ。
「ええ、私は王様に協力する代わりに、王宮の地下であれを育てさせていただいていたんです。おかげさまで、ずいぶん栄養を集めることができましたよ」
「それで、育てたあれを使ってハルケギニアを侵略するつもりだってことかよ」
「侵略? いえいえ、私はこんな星なんか少しも欲しくはありません。あなた方は宇宙人と見れば、すぐに侵略者と思い込む。それはとてもいけないことですよ。私はただ、善意で行動しているだけだというのに悲しいことです」
慇懃無礼に追及をかわす宇宙人の口ぶりは、心底癇に障る物であった。ルイズなどは、今にも爆発してエクスプロージョンをぶちこみたい気持ちでいっぱいになっている。
しかし、宇宙人の後ろで視界を埋め尽くすほどにうごめいている巨大怪獣の威圧感が、軽率な行動に出ることを許さなかった。
下手に刺激して、あれを暴れさせられたら大変なことになる。だが同時にルイズたちは、一つの確信を得ていた。この余裕ある立ち振舞い、こいつはこれまでに見てきた陰謀の手足となって動いている下っぱ宇宙人とは違う。黒幕、少なくとも黒幕に限りなく近い奴に違いない。
ルイズは、この中で一番権威ある家名の者として、小さな体から精一杯の威厳を発して問いかけた。
「名乗りなさい。貴族に失礼を問うのなら、まずは自分が誠意を見せるのが礼儀というものよ」
「おや、これは失敬しました。あなたがたは、今は私のことを知らないのをうっかりしていましたよ。まあ、その効果もあと少しですが、いいでしょう、名前くらい何度でも名乗ってあげましょう」
大仰に手振りを加えながら、コウモリ姿の宇宙人は答え、才人たちは息を飲んだ。
ついに、ジョゼフを操っていた黒幕との対面だ。しかし、これまでしでかしてきたことから、ただものではないのは確実だが、才人も見たことのない姿をしている。
”こんな宇宙人、GUYSのデータベースでも見たことねえぞ。だけど、仮面をつけた騎士みたいな姿はスマートでちょっとかっこいいし、きっと名のある宇宙人に違いねえ”
才人はつばを呑み込みつつ、少しだけワクワクした。この状況では不謹慎だが、未知の強豪宇宙人の名前を初めて聞くという新鮮な喜びは何にも変えがたいものだ。
そして、宇宙人は大きく手を広げて高らかに名乗りをあげた。
「我が名は、バット星人グラシエ!」
続く