第41話
高度一万フィートの魔法使い(後編)
宇宙戦闘獣 コッヴ
奇獣 ガンQ 登場!
タバサが地球に流れ着き、我夢に保護されてエリアルベースで一時預かりになってしばらくが過ぎた日。大きな事件が起こった。
突如カナダに現れた宇宙戦闘獣コッヴ。これに対して、XIGはチーム・ライトニングとファルコンを派遣した。
しかしとどめを刺そうとした瞬間、コッヴは煙のように消えてしまった。
それに続いてエリアルベースで起こる異変。コンピューターが支配され、基地の機能が完全に奪い取られてしまう。
そして高笑いとともに現れた事件の黒幕。それはなんと、かつてガイアに倒されたはずの男、魔頭鬼十郎だったのだ。
「魔頭だと?」
「いかにも。我は魔頭鬼十郎、この世で最高の呪術を極めし男よ」
コマンダーのいぶかしげな問いに、魔頭は尊大な態度で答えた。
魔頭鬼十郎。戦国時代の呪術者で、その呪術を使って戦国武将たちを操り、天下を支配しようとした男である。
だが野望を看破され、魔頭は討伐されて果てた。しかし魔頭は死の直前に自らに呪術をかけてこの世ならざる存在へと転身し、現代へと蘇ってきた。
予知能力も持っていた魔頭は、この時代に根源的破滅招来体が現れることも予期しており、それに便乗して現代で自らの野望を果たそうと画策した。
けれども、邪悪な野望は我夢とガイアによって阻止され、魔頭は死んだ。いや、すでに死んでいた魔頭は消滅したはずなのに、なぜ再び現れた?
幽霊のように宙に浮かぶ魔頭は、お前は死んだはずだと糾弾する我夢に憎々しげに答えた。
「わしは不滅じゃ。小僧、貴様のせいで潰えた我が野望を再びこの手に掴むために地獄から舞い戻った。じゃが、その前に我が野望を遮る貴様らを始末しに参ったのよ」
「魔頭、もう天下を巡って争うような時代じゃないんだ。無謀な野望は捨てて成仏しろ」
「世がいくら移り変わろうが、愚民が地を埋め尽くす世相は変わらぬ。今こそ天下がわしを必要としておるのよ。この城は我が呪術により完全に支配した。もう何をやっても無駄じゃ」
魔頭はジェクターガンを向けてくる我夢たちを見下ろして言い放った。事実、コマンドルームの機械はすべて操作を受け付けなくなっており、この様子ではメインコンピュータを含めてエリアルベースの全機械が同じことになっているだろう。
だが、XIGを全滅させたいならばリパルサーリフトを止めてエリアルベースを墜落させれば簡単なのに、それをしないということは別の目的があるということだ。
「いったい、エリアルベースを奪って何をする気だ?」
「フフフ、先の件では我が五百年の野望をよくぞ打ち砕いてくれた。あのとき小僧、貴様さえ余計なことをしなければ我が大望は成就していたものを。だが同じ過ちは二度とせん。先んじて邪魔者をまとめて始末してくれようぞ。わからぬか? もう始まっているのだぞ」
魔頭の言葉に我夢ははっとした。そのとき、敦子が悲鳴のように叫んだ。
「大変です。エリアルベースが動いています!」
確かに、外を見るとエリアルベースの位置する雲上の景色がすごい速さで後方へ流れていく。普段は静止している赤道上空から移動を始めているのだ。するとさらに、モニターに予想航路が自動で映し出された。このまま進めば、日本……そして、そこにあるものを察したコマンダーが言った。
「ジオベース……エリアルベースをジオベースにぶつける気か」
「その通り! 貴様らの拠点が二つあるのは知っておる。だが城をまとめて二つ失えば、もはや貴様らも何もできまい。残りの時間、たっぷりと恐怖を味わうがよい。それが我が復讐よ」
「哀れな奴め、それほどの力を人のために使えば、まさしく英雄になれただろうに」
「ふはは、蒙昧な民の喜ぶ顔など反吐が出るわ。力とは、己のためにのみあるべし。そして己のために力を振るう最大の意義こそ、己の国を作ることにあるのだ」
その傲岸な言葉で、コマンダーや我夢は魔頭の説得が不可能であること、戦国時代の人間の魔頭と現代人の自分たちとの価値観の断絶を感じた。
「お前たちはここで指を咥えているがいい。わしがいる限り、この城でお前たちの自由になるものは何もないのだ。ふっははは!」
「待て! 魔頭」
呼べど空しく、魔頭の姿はすっと空気に溶けるように消えてしまった。
まるで悪夢を見ていたような体験だった。しかし、夢ではない。機械類は相変わらず操作を受け付けないし、エリアルベースは進み続けている。このままでは魔頭の目論みどおりにジオベースと激突させられ、XIGは全滅だ。
なんとかしなければならない。しかし、堤チーフを始め、実働部隊の半分は出動した状態でいる。ジョジーが悔しげな様子で言った。
「よりによって、ライトニングもファルコンもいないこんなときに」
「いや、そうではあるまい。あのコッヴも最初から魔頭の差し金だったんだ。怪獣でXIGの戦力を分断し、我々が気を取られている隙にエリアルベースを乗っ取る。見事にはめられてしまったというわけだ」
コマンダーの推測に我夢もうなづいた。破滅招来体の攻撃は警戒していたが、まさか魔頭鬼十郎が甦ってくるとは誰も想定していなかった。呪術が相手なら、エリアルベースのセキュリティも役に立たないわけだ。
だがそれでもあきらめるには早いと、千葉参謀は我夢たちを励ました。
「しかしまだこちらにも人材はいる。日本にたどり着くまで時間も充分に残っている。エリアルベースを取り戻すことは可能なはずだ。違うかね?」
「はい、まだ可能性はあります。梶尾さんたちも、こちらと連絡が途絶したことで引き返してきてるはずです。魔頭の思うとおりにはさせません」
我夢の言葉に、敦子とジョジーもうなづいた。皆のやる気が衰えてないことを見て、コマンダーは言った。
「ともかくメインコンピュータを取り戻すことが先決だ。ここからの操作ができないのなら直接メインコンピュータのところまで行くしかない。敦子、ジョジー、また行けるか?」
「えーっ、あそこは行くだけで大変なんですよ」
「そう言わない敦子、私も行くから」
二人は以前、アグルによってエリアルベースの機能がダウンした際にメインコンピュータに直接アクセスして回復させたことがある。ただしメインコンピュータは安全のため、巨大な中空のスペースに吊り下げられるように配置されているので、はしごを降りて行くだけでも高所恐怖症お断りな場所なのだ。
それでも敦子は行くことを決意した。メインコンピュータを奪い返さなくてはエリアルベースのすべての機能は使えない。後のことは行ってから考えればいい。
しかし、反撃ののろしを上げようとしたのもつかの間、魔頭の呪術はそんなに甘くないことを突き付けられることになった。
「っ、ドアが開きません!」
「オートロックもダウンさせられているんだ。止むを得ん、敦子、どけ」
コマンダーは非常事態ゆえの措置と、自動ドアの電子ロックパネルにジェクターガンを向けた。
破壊すればドアは開くはず。しかしコマンダーが引き金を引いてもジェクターガンはカチカチと鳴るばかりで、ビームが発射される気配がなかった。
「馬鹿な、こんなときに故障か?」
「違います。魔頭の呪術が基地の計器だけじゃなくて、携帯機器の機能まで止めてしまっているんです。僕のジェクターガンやナビも動きません」
我夢の言った通り、我夢のXIG-NAVIの液晶画面は真っ暗で何も映っていない。確認すると、全員の手持ち機器もそうなっていた。魔頭の自信は、単にメインコンビュータを支配したというだけでは無かったのだ。
火器が使えなくてはロックされたドアを開けられない。かといって雲上にあるエリアルベースの窓は開かないし頑丈な特殊ガラスだ。つまり、完全に閉じ込められたということになる。
もはやこうなった以上、残った手段は一つしかない。我夢はエスプレンダーを取り出し、コマンダーに許可をとる。ウルトラマンガイアに変身して強行突破するしか方法がない。
「我夢、頼む」
コマンダーも、安易にガイアの力に頼ることになるのは不本意なようだが、他に方法がない。敦子たちや千葉参謀は、こんな近くで我夢の変身を見るのは初めてなので息を呑んでいた。
エスプレンダーを構え、我夢はガイアの光を解放するためのスイッチを入れる。
「ガイアーッ!」
……だが、輝くはずのガイアの光はいっこうに解放されない。これにはさすがの我夢も慌ててエスプレンダーを確認した。
「そんなまさか、エスプレンダーの機能まで止められてしまってるなんて」
動揺する我夢の声に、愕然とする空気がコマンドルームに流れた。
ウルトラマンガイアに変身できない。つまりコマンドルームの外に出ることは完全に不可能であるということだった。
「魔頭の自信の源は、これだったのか」
エリアルベースごとXIGとウルトラマンガイアを無力化してまとめて葬り去る。相手が呪術ではXIGの科学兵器は役に立たず、ガイアの力も封じられてしまった以上、もう本当に打つ手が無くなってしまった。
我夢も打開策が浮かばずに冷や汗を流しながら考えこんでいる。敦子とジョジーは不安そうに我夢を見守るしかできず、コマンダーも深刻そうに宙を睨んで押し黙っている。そんな押し潰されそうな空気の中で、千葉参謀が望みを託すようにつぶやいた。
「こうなったら、堤くんたちが一刻も早く戻ってきてくれることを祈るしかないか」
出動しているライトニングとファルコンだけが自由に動けるXIGの唯一の戦力だ。彼らが戻って来ることだけが、わずかな希望だった。
しかし、その頃ファイターチームもまたのっぴきならない状況に追い込まれていたのだった。
「エリアルベース、応答せよ。エリアルベース……だめか」
ピースキャリーから必死に連絡をとろうとしていた堤チーフは、無念そうに通信を切るしかなかった。
エリアルベースとの連絡が突然切れたことは、当然こちらでもすぐに気づいていた。なんとか連絡を回復しようと試みてみたが、あらゆる可能性を加味してみても故障はあり得ない。そうなれば、エリアルベースに何かがあったとしか考えられず、堤チーフは全機に帰投を命じた。
「ライトニング、ファルコン、ただちにエリアルベースへ帰還せよ」
「チーフ、エリアルベースになにが……?」
「わからん。我夢もいるからめったなことがあるはずがないが、ともかく急いでくれ」
「了解、急行します」
梶尾リーダーはいぶかしみつつも、とにかく機首を巡らせた。米田リーダーのファルコンもライトニングに続く。
だが、帰還を急ぐ途中にジオベースからの緊急連絡が入ってきたのだ。
「エリアルベース、エリアルベース、応答されたし! こちらジオベース、現在コッヴの襲撃を受けて応戦中」
ジオベースからのSOSを受信し、驚いた堤チーフはすぐに回線を開いた。
「ジオベース、こちらピースキャリー。現在太平洋上空を飛行中、こちらもエリアルベースと連絡がとれない。状況を説明してくれ」
「おお、堤チーフ。こちらも混乱しているところだが、とにかく突然コッヴが出現して暴れはじめたんだ。防衛兵器で応戦しているが、砲台だけでは手に負えない。救援を乞う」
「了解した。だがエリアルベースとの連絡がとれないのも気がかりだ。そちらで何かつかんでいないか?」
「……エリアルベースは現在、すべての応答が途絶したままで太平洋上から移動を始めている。このままでは、約一時間後にこのジオベースに衝突するコースだ」
「なんだって!」
何がどうなっているんだと堤チーフは苦悩した。エリアルベースに何かが起きた、ジオベースの状況から考えても、恐らくは敵対意思のある何者かの攻撃だ。
しかしエリアルベースがそんな簡単に陥落するものか? 防衛軍きっての戦術家と呼ばれた堤チーフも急には事態を整理しきれなかった。だがチーフの迷いを断ち切るように、ファルコンの米田リーダーの声が響いた。
「ジオベースのコッヴは我々とライトニングで何とかします。堤チーフは急いでエリアルベースに戻られてください」
「米田リーダー……了解した。ジオベースのほうはお任せします、エリアルベースの状況がわかり次第、すぐに連絡する」
「了解。いいですか梶尾リーダー?」
「わかってますよ米田リーダー。ライトニング、これより全速でジオベースに急行します」
こうして太平洋上でピースキャリーとファイターチームは別れ、ファイターチームはジオベースへと急行した。
ジオベースにも敵襲を受けた時のための防衛設備は用意されているが、砲台やミサイルランチャー程度の火力では足止めがせいぜいだ。それに、ジオベースの武装はエリアルベースの再建が優先されて一時的に手薄になってしまっていた。
ジオベースが落ちれば破滅招来体に関する研究データや貴重なサンプルが台無しになってしまう。防衛砲台がのきなみ破壊され、ジオベースの真上へコッヴが到達しようとしたとき、ギリギリでファイターチームが駆けつけた。
「全機一斉攻撃、これ以上進ませるな」
ファイターからのレーザーバルカンが炸裂してコッヴを押し返した。しかしコッヴは攻撃して後方へ回ったファイターへ向けて振り返ると、頭部からの黄色破壊光弾で応戦してきた。
「なんでだ、あんまり効いてない」
「大河原、よく見ろ! あいつはさっきまでのコッヴじゃないぞ」
「なんてこった。超コッヴになってるじゃないか」
そう、そこにいたのはただのコッヴではなかった。コッヴより頭部が鋭角になり、体格も一回り大きくなったコッヴの強化体である超(スーパー)コッヴへとパワーアップしていたのだ。
超コッヴはファイター各機の攻撃にもひるまずに光弾で反撃をかけてくる。このパワーアップも魔頭の呪術のなせる技か。ライトニングとファルコンは自分たちも早くエリアルベースの救援に向かいたいがジオベースを見捨てるわけにもいかず、焦る気持ちを抑えながら超コッヴへと向かっていった。
そうしている間にも時間は無情に過ぎ、エリアルベースがジオベースと衝突するまであと一時間を切った。エリアルベースでも、なんとかしようと必死に努力が続けられていたが、機械類が完全に止められた状態では我夢でも両手を縛られてるも同然のありさまでしかなかった。
「高山くん、なんとか、扉のロックは開けられないかね?」
「急いでます、この奥の配線にたどり着ければ……」
千葉参謀が見守る前で、我夢は扉の電子ロックを外すために、操作パネルを分解しようと四苦八苦していた。しかし急なのでドライバーなどの工具もほとんどなく、普通ならあっという間の作業も思うにまかせない。
敦子やジョージも心配そうに我夢の作業を見守っている。
「我夢、がんばってね」
「わかってるよ。ジョジー、ヘアピンを一本貸してくれないかな」
我夢はありあわせの道具でも諦めずに電子ロックの解体を急いでいる。
だが、我夢は額に汗を浮かばせて、手を止めずに作業を続けながらも根本的な問題に気づいていた。時間をかければコマンドルームの扉は開けられても、エリアルベースの扉はあちこちに無数にあるということを。
”この様子じゃ、エリアルベースの扉は全部ロックされてるはず。残りせいぜい一時間足らずで、メインコンピュータまでの扉を一つ一つ開けていって間に合うわけがない”
絶望的だった。どう計算しても、メインコンピュータまでのどんなルートを想定しても絶対に間に合わない。あきらめないという気持ちが手を動かしてはいるが、時は刻々と破滅へ近づきつつあった。
だが、そのときだった。固く閉ざされていた扉の向こうからガンガンと鉄を叩きつけるようなけたたましい音が響いてきたと思うと、扉の隙間からバールのようなものが付き出してきた。そして驚いている我夢たちの見ている前で、頑丈な扉がミキミキと鈍い音をあげながらこじ開けられ始めたのである。
「えっ、えっ、なに、なんなの?」
「敦子落ち着いて。我夢、これってもしかして……」
「うん、こんなことできるのはあの人たちしかいないよ」
後ずさった我夢たちの見ている前で、ついに扉がこじ開けられてヒゲ面の屈強な男が顔を見せた。
「よう、助けに来たぜチューインガム」
「志摩さん! それに、吉田リーダーに桑原さん。扉を無理矢理こじ開けるなんてもしかしてと思ったら」
「そうよ。俺たち、チーム・ハーキュリーズ!」
三人の強靭な筋肉を持つ男たちが、マッスルなポーズを決めた。
彼らこそ、XIGの陸戦部隊であるチーム・ハーキュリーズ。伝説の英雄ヘラクレスの名をチーム名に冠する彼らは、矢尽き刀折れても怪獣に生身で立ち向かう、そのたくましさにおいて右に出るものはいない猛者たちだ。
我夢も彼らにはいろいろもんでもらった思い出がある。しかし、こんな窮地にハーキュリーズほど頼りになる男たちはいない。
「助かりました。でも、どうしてここへ?」
「俺たちも待機所で閉じ込められたんだ。そこで困ってたらチーム・クロウとこの嬢ちゃんが来てな」
すると、通路の奥からクロウの面々に続いて杖を持ってタバサがやってきた。
「タバサちゃん」
「異変が起きてから、風の魔法で音を集めて様子を探ってた。本当は『アンロック』の魔法でここまで来るつもりだったけど、ここの扉には通じないみたいだから、この人たちに協力してもらった」
「そうだったのか。ありがとう、これで間に合うかもしれないよ」
我夢は希望が見えてきたことで、笑みを浮かべてタバサに礼を言った。そして、我夢や敦子たちに、バールを掲げてチーム・ハーキュリーズの面々が頼もしく告げた。
「さあ、ぐずぐずしてられないぞ!」
「メインコンピュータに行くんだろ? 邪魔な扉は俺たちが開けてやる」
「早く行こうぜ。俺たちに任せな」
「はい、ありがとうございます吉田リーダー! コマンダー、では行ってきます」
「ああ、任せたぞ」
コマンダーと千葉参謀に見送られて、我夢たちはコマンドルームを飛び出して行った。
後は我夢たちに任せる他はない。コマンダーは我夢たちを見送ると、静かになったコマンドルームでそっと息を吐いた。
そのとき、窓からエリアルベースの周囲を旋回するピースキャリーの姿が見えた。着艦口が開かずに様子を見ているようだったが、窓から合図を送るとこちらに気づいたようで、モールス信号で呼びかけてきた。
コマンダーもモールスで返し、互いに外と中の状況を知った。事態は容易ならざり、残り時間は少ない……コマンダーは最悪の事態を避けるため、ピースキャリーの堤チーフに命令した。
「どうしてもエリアルベースの軌道を変えられなかった場合は、ジオベースに落ちる前にエリアルベースを撃墜しろ」
「コマンダー! しかし、それでは」
「最悪の場合になればやむを得ない。だが、我夢たちが今復旧に急いでいる、彼らなら……」
どんな絶望的な状況でも、XIGはそれを乗り越えてきた。今度もきっと……自分たちは責任をとることだけを考えて、待っていればいい。
そう、こんなピンチはこれまで何度もあった。閉ざされたエリアルベースの扉をチーム・ハーキュリーズの協力でこじあけながら進む我夢たち。我夢は先を急ぎながら、心強い仲間が駆けつけてきてくれたのを感じていた。
ジオベースで、強化された超コッヴに苦戦するファイターチーム。レーザーとミサイルで超コッヴに猛攻を加えるも倒すにはいたらず、ついにジオベースに超コッヴの攻撃がかかろうとした時、閃光が閃いて超コッヴを吹き飛ばした。
『フォトンクラッシャー!』
青い光線に貫かれて、悲鳴をあげて倒れる超コッヴ。そして戦塵の中から現れて悠然と立つ青い巨人に、梶尾リーダーは驚きの声をあげた。
「アグル……」
まさかアグル……藤宮博也が助けに来てくれるとは思わなかった。だがどうしてアグルが? 我夢もアグルが現れた気配は感じて不思議に思っていたが、藤宮に言わせれば簡単なことだった。
〔あれだけ大騒ぎしていれば誰だって気がつく〕
情報が命なのはXIGもだが、単独で動いている藤宮はなおさらだ。ネットワークを駆使して何度もXIGを出し抜いてやったことのある藤宮には、今のXIGの状況を知るなどたやすいものだ。
相手が破滅招来体ではなくとも、地球に害をなすのならば是非もない。アグルは呪いで暴れる超コッヴへ敢然と立ち向かって行く。
「ハアッ!」
ジャンプしたアグルの爪先が超コッヴの頭を蹴りあげ、よろめいた超コッヴの腹に着地したアグルの肘打ちが食い込む。
後退する超コッヴ。しかしまだ致命的なダメージは受けていない。アグルも、フォトンクラッシャーに一度は耐えたことからも宇宙怪獣のしぶとさは重々承知の上だ。
超コッヴは鎌を振り上げて激しく威嚇してくる。しかしアグルは落ち着いて悠然と立ったままで、手のひらをクイッと振って挑発し返した。
さっさと来い、と余裕を見せるアグルに激昂する超コッヴ。呪いの力で暴走する巨体を恐れずに、アグルは正面から立ち向かう。
「ハアァッ!」
突っ込んでくる超コッヴに、アグルは前転からのキックで応戦した。助走のついた高速の蹴りが超コッヴの体を揺るがし、その隙を逃さずに垂直ジャンプしたアグルは直上からのかかと落としを叩きつける!
「フアッ!」
頭部へ強烈な一撃をもらった超コッヴは前のめりに倒れ込んだ。
地響きがジオベースの内部にも響き渡る。スピード、パワー、今のアグルはその両方で確実に超コッヴを上回っている。
それでもしぶとく起き上がる超コッヴ。魔頭の狙いからすれば、アグルがエリアルベースを助けに行けないように引き留める囮の役割も担っているのだろう。
だがそんなことは問題はない。藤宮は、恐らくは我夢がエリアルベースで手こずっているのは予測できているが、我夢なら解決できると疑っていない。
〔苦戦しているのか、我夢。だが、思い出せ。いつでも解決のための切り札は気づきにくいだけで俺たちの手札の中にあったはずだ。お前なら気づけるはずだぞ〕
我夢が、あの俺の生き方を変えさせたほどのあいつがこんなくらいのことで負けるわけがない。
アグルに焦りは微塵もなく、破壊されて燃える防衛砲台を背に、着実に超コッヴにダメージを積み重ねていく。
そしてその頃、我夢はチーム・ハーキュリーズのおかげでメインコンピュータまであと扉ひとつというところまでやってきていた。
「よっしっ! ここで最後だな。いくぞ、せえのおっ」
「「「どおりゃああ!!!」」」
三人の屈強な筋肉がうなり、扉に差し込まれた鉄棒がミキミキと音を立ててロックを破壊していく。その光景は我夢の知識とはまた違った形の人間の底力で、本当に頼もしいことこの上なかった。
やがて、バキンといって扉が開いた。後はこの先を降りたところがメインコンピュータの端末で、ハーキュリーズの吉田リーダーは汗に濡れた額をぬぐいながら我夢たちに言った。
「俺たちにできるのはここまでだ。あとは頼むぞ、幽霊野郎に目にもの見せてやれ」
「はい、ありがとうございます」
ハーキュリーズは力自慢のチームだが脳筋ではない。自分たちの仕事を最大限にこなし、終わったなら信頼を込めて後に託す。その心意気を受け取った我夢は、敦子たちとともにメインコンピュータへの梯子を降りていった。
しかし、我夢にはまだ懸念していることがあった。魔頭の怨霊は間違いなくメインコンピュータに寄生しているだろうが……。
やがて、広大な円筒形の空間の中に吊り下げられた巨大なメインコンピュータの前に一行はやってきた。
「敦子、お願い」
「うん、やってみる」
ジョジーにサポートされながら、敦子はメインコンピュータの回路を直接繋ぎ変えて操作を始めた。直接コンピュータを操作する手腕に関しては敦子は我夢以上で、我夢も固唾を呑みながら見守る。
そして、メインコンピュータの機能をサブに移す命令を出すよう回路を繋ぎ変えた。しかし。
「だめ、なにも反応しないわ」
敦子の落胆する声が響いた。やはり、メインコンピュータを直接操作しても魔頭の呪術にはかなわなかったかと、我夢も苦虫を噛み潰したかのように唇を歪める。
そのとき、勝ち誇るかのように魔頭の声が響いた。
「はははは、無駄なことよ。お前たちがいくらあがいたところで、我が呪術の前では塵芥も同然。もはやこの城が落ちるまであとわずか。歯ぎしりして最期を待つがよい」
「魔頭……」
近代科学の粋を極めたエリアルベースを乗っ取り、我夢たちの抵抗を嘲笑う魔頭の野望の成就は目前に迫っていた。
だがまだ我夢はあきらめてはいない。魔頭は間違いなく目の前にいる。科学兵器は使えず、ガイアの光も封じられているが、まだ何か方法があるはずだ。
何か、もっと別の力……そのとき、メインコンピュータの空洞にクロウの稲城リーダーの声が響いた。
「我夢! なにしてるの。こんなときこそ、この子の魔法を使うときじゃない」
空洞上部の入り口から、タバサが顔を出して覗き込んでいる。客員であるため勝手に動けないが、杖を握って待ちわびている。
「そうか! タバサちゃん、メインコンピュータに、そこの大きな柱に雷を浴びせてくれ」
「わかった」
タバサは短く答えて上部の入り口から飛び降りた。同時に『フライ』の魔法を唱えて体を浮かせると、続いてあの呪文を唱えて、杖の先をメインコンピュータへと突き付けた。
『ライトニング・クラウド』
強烈な電光が巨大なメインコンピュータを包み込む。猛烈なスパークの嵐。タバサの放った電撃魔法はメインコンピュータの耐電能力をも超えて内部にまで浸透し、各所でショートの火花が吹き上がった。
本来ならコンピュータにこんなことをするのはとんでもないことだ。だが、今回に限っては違う。ショートして異音を上げるメインコンピュータから苦しげな絶叫が響き渡った。
「ぐあぁぁーっ! ま、まさか、この時代にも妖しの術を使う者がいるとは。お、おのれえ! あと少しのところで」
メインコンピュータが妖しく光り、人魂のような形になって外へと飛び出していった。魔頭が耐えきれずに逃げていったのだ。
それと同時に基地ががくんと揺れ、停止していた各所の機能も回復していく。しかしメインコンピュータが破損したため基地を浮かせているリパルサーリフトも機能に異常をきたし、エリアルベースが落ち始める。
「エリアルベースが!」
このままでは海に墜落する。我夢はとっさに復旧作業に当たろうとしたが、敦子とジョジーに止められた。
「我夢、メインコンピュータは私たちでなんとかするわ。あなたはガイアとして、やるべきことをやって」
「そうよ。あのゴーストを逃がしたら、またどんな悪巧みをするかわからないわ。ハリー! 我夢」
「敦子、ジョジー……わかった。行ってくるよ」
二人の言葉に意を決した我夢は、エスプレンダーを取り出して構えた。ガイアの光が解放され、我夢を光の巨人へと変えてゆく。
「ガイアーっ!」
ウルトラマンガイアへと変身した我夢は、逃げる魔頭の人魂を追って飛びたった。
「シュワッ!」
これだけのことをした魔頭をもう許してはおけないとガイアは追う。魔頭はタバサの魔法で受けた衝撃がよほど堪えたのか、姿を消すことも忘れてひたすら逃げていく。ケリをつけるなら今しかない。
一方、エリアルベースはメインコンピュータがダウンしたために、解放された各種機能に異常が生じ始めていた。敦子とジョジーが回路を閉じて応急修理を始めているが、とても間に合うものではない。
だがメインがだめになるのはエリアルベースの設計の際から想定に入っている。基地の機能が回復した時、コマンドルームに駆け付けてきた非常勤オペレーターの鵜飼彩香がすぐさま操作していた。
「メインダウン。サブコンピュータに基地機能を移行します」
「よし、リパルサーリフト再起動。すぐにエリアルベースを元の軌道に戻せ」
「了解」
切り替え作業がおこなわれ、エリアルベースはサブコンピュータの制御下で完全に機能を取り戻した。
艦首が反転し、ジオベースに向いていた進路が元の赤道上へと帰ってゆく。同時に通信も回復し、外のピースキャリーから堤チーフの心配した声が響いてきた。
「こちらピースキャリー。エリアルベース、大丈夫ですか?」
「こちらはもう心配ない。我夢たちがよくやってくれた。堤、だが魔頭をこのまま逃がすわけにはいかん。ガイアが追っている、お前も後を追ってくれ」
「了解」
ピースキャリーが反転し、ガイアを追って飛んでいく。そしてそれと同時に、コマンドルームにチーム・クロウの三人が駆け込んできた。
「コマンダー、私たちにも行かせてください。このままやられっぱなしですませたら気が済みません」
「いいだろう。チーム・クロウ、出動」
「了解!」
勇躍し、エリアルベースからクロウの三機のファイターも出撃していく。
逃げる魔頭を追うガイア、ピースキャリー、チーム・クロウ。
その行く先は? いや、もう魔頭にあてなどひとつしか残っていない。
ジオ・ベースで戦うアグルと超コッヴの傍らに魔頭の人魂は墜落した。猛烈な砂煙が吹き上がり、その中から巨大な目玉に手足が生えたような不気味な怪獣が出現した。それを見て、追いついてきたピースキャリーの堤チーフがうめく。
「出たな、ガンQ」
笑い声のような鳴き声をあげながら歩き出す巨大な目玉。魔頭鬼十郎の怨霊が実体を得た奇獣ガンQだ。
ガンQは超コッヴへ向けて進みだした。大きなダメージを受けた魔頭は超コッヴに与えた分の呪力を吸収して再起をはかろうとしているのだ。しかし、そんなことは許さない。ガンQの行く手を防ぐように、ガイアが巨大な土煙をあげて着地する。
「デアッ!」
迎え撃つガイアの姿にガンQがひるんで後ずさる。今のガイアは様子見なしで、最初からスプリーム・ヴァージョンだ。
真正面から突っ込んできたガイアの鉄拳がガンQを吹っ飛ばした。かつて我夢はガンQの不条理さに恐怖を抱いたこともあったが、今の我夢に恐れは一片もない。
〔やっと来たな、我夢〕
〔待たせてごめん。さあ、いこう!〕
アグルの茶化すような軽口に力強く答え、二人のウルトラマンは並んで構え、勇躍して戦いに望む。
対して、もう小細工はしても無駄だということを思い知らされた魔頭=ガンQも超コッヴを率いて攻撃を開始した。
ガンQの目から放たれる怪光線と、超コッヴの頭部から放たれる光弾が無数の弾幕となって襲い来る。しかし、ガイアとアグルは臆することなくその真正面から突撃し、爆炎の上がる中を突っ切った二人は同時にガンQと超コッヴを殴り飛ばした。
「デュワアッ!」
「ジュアッ!」
ガイアの鉄拳がガンQを吹っ飛ばし、転倒したガンQの上に飛び乗ってマウントから巨大な目玉を何発も殴りつける。
アグルの鉄拳は超コッヴの巨体を揺るがし、反撃しようと超コッヴが鎌を振り上げたのを気にも止めずに超コッヴの体を階段のように駆け上がり、無防備の頭に強烈なかかと落としを叩きつけた。
むろんそれで終わるわけがない。ガイアはガンQを抱え上げて反対側へ叩きつけ、アグルは超コッヴとすれ違いざまに首筋に手刀を加えてよろめかせ、戦う相手を交代した。
フラフラと起き上がろうとしたガンQをアグルが容赦なく蹴り飛ばす。超コッヴの鎌に対して、ガイアはかつてアグルの力を受け継いだときに使用可能になったアグルブレードを右手から引き出し、青い光の剣で鎌も装甲もものともせずに超コッヴの全身を切り刻んだ。
ガンQは起き上がりながら、体についている小型の目玉を飛ばしてアグルに向けてきた。小型の目玉は空中を自在に飛びながらアグルを包囲しようとしてくる。これはかつてガイアも苦しめられた、小型目玉円盤による全方位攻撃だ。
しかし、それを知っているガイアは腕を伸ばしてアグルの頭上へと冷凍光線を発射した。
『ガイアブリザード!』
極低温のエネルギーを浴びて目玉円盤の動きが鈍り、アグルはそれを見逃さずに撃ち落とす。
『アグルスラッシュ!』
青い小型光弾がアグルの指先から放たれ、回避もできない目玉円盤は全機撃墜された。
奥の手をコンビネーションで簡単に破られ、ガンQは明らかに尻込みしたように後ずさる。あるいは、魔頭にとってここが逃げだす最後の好機であったかもしれない。しかしアグルの見下すようにさえ見える悠然とした姿勢が魔頭のプライドを刺激し、ガンQはその巨大な目から切り札の体内吸収光線をアグルに向けて放った。
赤色の光線は一度捕まったが最後、かつてガイアもガンQの体内にある魔空間に囚われて苦しめられたガンQ必殺の攻撃だ。だが、波動生命体を始め、根源的破滅招来体の卑劣極まる精神攻撃を受けてきたアグルは臆することなく、右手から輝く光の剣を引き出して斜めに一閃させた。
『アグルセイバー!』
光剣から放たれた光の衝撃波は三日月型の刃となってガンQの体内吸収光線を切り裂き、そのまま直進してガンQに袈裟懸けの斬撃を叩きつけた。
苦しみもがくガンQ。アグルの冷静沈着な戦いぶりの前に、恐怖を煽るガンQの存在はこけおどしにさえなっておらず、アグルの勇姿にエリアルベースでも安堵の空気が流れていた。
「さすがだな、藤宮博也」
コマンダーが危なげないアグルの戦いに感心したように呟いた。前回のガグゾムとの戦いからアグルにも多少のブランクが発生してもおかしくないのに、まるで昨日まで戦い続けていたかのような戦闘巧者ぶりは、彼が鍛練を欠かしていない証だった。
コマンドルームのモニターから見るアグルはガンQに対して圧倒的優位に立っている。だがそこへタバサが戻ってきて、モニターのアグルを見つめながらコマンダーに問いかけた。
「あの青いウルトラマンの彼は、かつて人間を裏切ってあなたたちの敵だったと聞いた。なぜ今は信じられるの?」
「……彼には、ウルトラマンという大きな力を授かってしまったがゆえの、誰にも頼ることのできない責任感と苦悩があっただろう。もちろんそれが免罪符になりはしない。だが、彼は間違いに気づき、やり直そうとしてきた。そんな彼に助けられた人間は大勢いる、我々もその内だ」
タバサは幼い日に、偶然ハルケギニアと地球がつながってしまったときにアグルに助けられたことがある。その時のことを覚えていたタバサは、この世界でアグルがしてきたことを知って驚いた。
もちろんタバサがアグルに対して抱いているのは感謝だけだ。しかしタバサは、アグルによってこの世界が受けた被害のことを知ると、この世界の人々がアグルに対してどう考えているのかを尋ねずにはいられなかった。
「でも、その前に彼のために傷を負った人は消えない。それでも?」
「確かに、過ちはいくら償っても消せないかもしれない。傷つけられた者は彼を許さないかもしれない。それでも、そこで歩みを止めてしまったら何も変えられない。人は誰しも過ちを犯す可能性を持っているが、君は過ちを犯したら、一生罰を受け続けるだけで償うかね?」
「それは……」
コマンダーのその問いにタバサが返せないでいると、千葉参謀が後に続けた。
「人の心とはそんなに簡単ではないさ。だけれど、たとえ敵対してしまった相手でも、その人間を理解することで、憎しみとは違う何かを思えるのが人間というものではないかな」
「理解……?」
諭すように千葉参謀は話した。
「君が元の世界で何を体験し、元の世界に戻って何をしようとしているか、詳しいことは私は知らない。だが、君が戦うことになる相手を少しでも理解しようとする気持ちは忘れないでほしい。理解して、それでも戦うべきならば仕方がない。けれども、理解することで別の方法を見つけられることもある」
「……」
「我々はかつて、アグルのために苦渋を受けたことが少なからずあった。しかし我々はアグルに助けられたことも数多くある。今では、アグルはガイアと同じ、地球を守る仲間だと思っている」
「償うなら、相手を許すことも必要だと?」
タバサの中に煮えたぎる憎しみをこの世界の人たちは知らない。けれど千葉参謀の言葉は染み入るようにタバサの中に入ってきた。
「少なくとも私は、償わない人間より償う人間を信用したいと思っている。償うということは、人間としての羞恥心や良心を持ち続けているということだ。人間でい続けているということだ。戦う前に一歩足を止めてその相手を見極め、許すべきか許さないべきかを決めてほしい。それはたぶん、これからの君の人生で何度も起こることだろう。あとで、堤くんにも聞いてみるといい。ここには、君にとっていい話をしてくれる者がまだまだ大勢いるからな」
本当は堤チーフは子供が苦手でさぞ困るであろうが、ちょっとした茶目っ気というやつだ。コマンダーも軽く苦笑している。
タバサは無言でうなづいた。自分にとってのこれまでの人生の意味は復讐……あのジョゼフが償いなどするとは到底思えない。しかし、ジョゼフを倒した後も自分の人生は続いていく。千葉参謀の言うとおり、まだまだこの世界で学ぶべきことはたくさんあるとタバサは思った。
その後、ハルケギニアに戻った後でタバサは自分とジョゼフの関係が想像もしていなかった方向へ進んでいくことをまだ知らない。
そして、戦いはいよいよクライマックスへ入ろうとしている。
「そろそろ決めよう! アグル」
「ああ、ガイア」
ガイアとアグルが超コッヴとガンQに突進する。
地響きと土煙の二重奏を奏でながら突き進むガイアとアグルを止める術はもう二匹にはない。そしてガイアの光をまとった鉄拳ガイアパンチが超コッヴに爆裂し、アグルの下から突き上げる鋭い蹴りアグルキックがガンQを空中高く吹き飛ばし、追ってジャンプして追い越したアグルは上からのキックで真っ逆さまにガンQを地面に大激突させた。
もちろんそれで終わりではない。ガイアとアグルは倒れてもがいている二匹に駆け寄ると、ガイアがガンQの、アグルが超コッヴの足を持ってジャイアントスイングのように振り回す。
「ダアッッ!」
「ジュォォッ!」
二体の怪獣の巨体が軽々と空を切り、猛烈な風圧が砂塵を巻き上げる。
目を回して目玉が渦巻きになるガンQ、すでにグロッキーの超コッヴ。ガイアとアグルは二体を同時に放り投げ、二匹は折り重なるようにして地面にまたも叩きつけられた。
息も絶え絶えの二匹。いや、ガンQは元々死んでいるけれども、魔頭はこのままでは二人のウルトラマンにどうやっても勝てないと思い知らされた。
「おのれ、か、かくなるうえは」
もはや勝機なしと悟った魔頭は、起き上がると超コッヴをガイアとアグルに向けて突き飛ばした。そしてガンQはくるりと踵を返して逃げ出していく。超コッヴがやられている隙にとんずらするつもりなのだ。
だが、そんな姑息な真似はXIGが許さない。ガンQの逃亡を見て、上空のピースキャリーから電光のように堤チーフの命令が全ファイターチームに飛んだ。
「全機ガンQへ総攻撃! 魔頭を逃がすな」
「「「了解!」」」
その命令を待っていたとばかりに九機のファイターは翼を翻した。
先頭を切るチーム・ライトニング。梶尾リーダーがレーザーバルカンのトリガーを押しながら吠える。
「さんざんコケにしてくれた借りを返させてもらうぜ!」
続くチーム・ファルコンも米田リーダーの指揮の元でガンQの退路を塞ぎにかかる。
「我々XIGは呪いなどに負けはしない。いくぞ」
さらにチーム・クロウの放つミサイルも次々とガンQに炸裂し、稲城リーダーの元で踊るようにガンQをきりきりまいさせる。
「私たちを甘く見るとこうなるのよ。たっぷり反省させてあげる」
縦横無尽に飛び回る三つのファイターチームの放つレーザーとミサイルの十字砲火。ガンQの周囲は爆発と煙に包まれ、絶え間なく浴びせられる打撃でガンQは混乱して姿を消して逃げるどころではない。
そして、XIGの作ったこの好機を逃すようなガイアとアグルではない。ガイアの手のひらに赤い光が集まり、アグルの腕に青い輝きが集中していく。
発狂して突進してくる超コッヴ、そしてガンQが我に返った時にはガイアとアグルはそれぞれの最強光線を放っていた。
『フォトンストリーム!』
『アグルストリーム!』
真紅と群青に輝く必殺光線は超コッヴをガラスのように貫通すると、同時にガンQに突き刺さった。
地球の大地の光と海の青い光。大いなる母なる星の力の前では呪いの力など陽炎に等しい。魔頭の怨霊は邪悪なエネルギーを焼き尽くされ、超コッヴもろともガンQは魔頭の野望と断末魔とともに粉みじんに吹き飛んだ。
「やった!」
ファイターチーム、エリアルベースで歓声があがる。
二匹の怪獣は赤黒い炎をあげなから粉々になって飛び散り、煙となって天に消え去っていく。それを見て、コマンダーは満足げにつぶやいた。
「これでもう、魔頭も二度と蘇ることはできないでしょう」
その言葉に、千葉参謀も笑みを浮かべながらうなづく。
エリアルベースは救われ、ジオベースも救われた。勝利の余韻でたたずむガイアとアグルの頭上をファイターチームは祝福するように旋回し、二人のウルトラマンは共に青空を目指して飛び立った。
「ショワッ!」
「ショオワッ!」
戦いが終わった空をウルトラマンが帰ってゆく。ここに、戦国時代から続いた邪悪な呪術師魔頭鬼十郎の野望は完全に敗れ去ったのだった。
エリアルベースにピースキャリーとファイターチームも帰還し、コマンドルームにも平穏が戻った。
「堤、被害状況は?」
「メインコンピューターの損傷率は40%、しばらくサブコンピュータに頼るしかありませんが、現状基地機能に問題はありません。乗員たちはチーム・シーガルが救助に回り、閉じ込められて軽い熱中症にかかった数名が医務室で治療を受けています」
「そうか、今回は皆がよくやってくれた。さすがは、我々G.U.A.R.Dの精鋭たちだ」
魔頭の怨霊という想定外も極まる脅威に、それぞれのチームが全力を出して立ち向かっていなければ、今頃エリアルベースはジオベースもろとも全滅していたに違いない。損害を受けたエリアルベースの復旧にはまだしばらくかかるだろうが、犠牲者を出さずに解決できたのは彼らの力が魔頭の想像を上回っていたからに他ならない。
そしてもう一人……コマンドルームに我夢に連れられてタバサがやってくると、コマンダーはタバサを自分の前に呼んだ。
「今回の事件の解決には、君の功績が大きかった。XIGコマンダーとして、あらためて礼を言いたい」
「……わたしは少し手伝いをしただけ、誰もが全力を尽くしていたあの時に、功績の大小なんて関係ない」
「そのとおりだ。だが、君は本来なら部外者であるところを、率先して我々に協力してくれた。そこははっきりさせておきたい。そして、君がよければだが、XIGの臨時隊員として正式に迎え入れたいと考えているが、どうだね?」
コマンダーのその要請に、タバサは息を飲んだ。
「いいの? わたしはこの世界の人間ではないのに」
「君が我々に友好的だということは、今回の件ではっきりした。むろん、君が元の世界に帰るまでの間で構わないが、明日や明後日に実現する話ではない以上、君も我々とともにいたほうが手がかりを見つけやすいだろう。もちろん、正式な隊員となる以上は客員扱いではなく、こちらの指揮下に入ってもらうことになる」
「わかった。けど、ハルケギニアへ戻るための方法はまだ見当もついていない。ガム……」
正式な身分が手に入るのはありがたいが、なし崩し的にここに居座るわけにはいかない。タバサは我夢に、残り期限の少ない時空移動の研究が滞っていることを尋ねたが、我夢はにこりと笑ってひとつのデータをスクリーンに映し出した。
「先ほど、藤宮から僕宛てにこのデータが送られてきました。地球上で、ワームホールを開きやすい時空のひずみのある地点をまとめた地図情報です。単独での時空移動は困難でも、これと組み合わせれば可能性は大きく広がります」
そこには有名なバミューダ海域を始め、地球各地の時空が不安定な場所のデータがそれぞれ詳細に記されており、もしこれを発表すれば世界中の学会がひっくり返るだろう。
そして、これほどのデータは他でもない藤宮が集めてくれたとしか考えられない。タバサの世話を我夢に丸投げしたように見えて、実は我夢がもっとも必要になるであろうデータをなにも言わずに集めてくれていたことに胸を熱くした。遠いあの日、ファンガスの森で自分たちを助けてくれたウルトラマンアグルの頼もしい背中が思い出される。
我夢はコマンダーとタバサに言う。
「確かに明日や明後日に実現できるものではありません。ですが近い将来に必ず時空移動の具体的な方策は完成させられる目途は完全に立ちました。そして、彼女を元の世界に帰すだけでなく、彼女の世界を根城にしている破滅招来体の尖兵に攻撃を加えることも可能になります」
コマンダーはうなずき、タバサの目に光がともった。
ハルケギニアに帰れる。しかしタバサの明晰な頭脳は、それはつまり、この世界にいられる時間もまた有限になったということを理解した。
この世界にいられる時間はそう長くはない。この世界で学ぶべきことはまだ多く、なによりも、こうして自分のために手を尽くしてくれる我夢や藤宮やXIGの人たちに恩返しをしないままでは貴族の誇りが傷つく。タバサは決意した。
「わたしで役に立てることがあるなら、ぜひ」
「歓迎しよう。今後、破滅招来体や、今日の魔頭のような妨害があるかもしれん。そのときは君の力にも頼らせてもらう」
「わかっ……了解」
こうしてタバサのXIG隊員としての日々が始まった。
XIGの制服に身を包み、来たるべき戦いへの研鑽と訓練、そして前触れなく襲ってくる脅威に共に立ち向かっていく。それはタバサにとって、間違いなく得難い経験になっていった。だがそれだけではなく、時に休日には街に繰り出してチョコレートパフェに舌鼓を打ったりと、楽しい思い出も重ねた。
本当に、夢のような毎日だった。あの世界の思い出の数々は、ハルケギニアに戻って来てからも一日たりとも忘れたことは無い。
しかし、ハルケギニアに戻ってからもタバサはシャルルを生き返らせられるという誘惑に抗しきれずに過ちを犯した。それでも我夢や藤宮はタバサを責めはせずに見守り続けてくれた。その恩には今度こそ報いねばならない。
そして現在……。
タバサはジョゼフに思い出の一節を語り終えると、目の前に現れたシャルルの記憶を見た。すでにタバサの記憶もジョゼフの記憶も振り返り尽くした先にあったのは、予想どおりシャルルが秘密にし続けてきたシャルル自身の記憶の光景だった。
「どうかこれで、次期国王には兄ではなく私を父に推薦していただきたい」
そこにはシャルルが王国の貴族と密かに会い、金銭や美術品を渡して支持を約束してもらっている光景があった。
それはとても高潔で謳われたシャルルの姿とは似ても似つかない俗物臭に満ちた小物の有様で、昔のタバサが見たら目を背けて受け入れるのを拒否していただろう。
しかし、今のタバサはじっとその光景を見つめている。その上で、自分の知らなかった父の姿を受け入れていた。
「おとうさま、わたしにこの姿を見せなかったのはわたしが子供だったせい……? だったらなぜ、子供に見せたらいけないものだとわかっていることをやり続けたの? お父さまも、他人に自分の何がわかるなんて言葉で自分をごまかしてたの?」
タバサの言葉は辛辣で、隣にいるジョゼフのほうが顔をしかめるくらいだった。
「耳が痛いな。聞いているかシャルルよ。俺に比べればだいぶんマシだが、子供というものはあっという間に親を超えていくものらしい。その点、俺たちは親父殿にはいまだに追いつけんダメ兄弟だなあ」
「わたしは、わたしだけの力でここまで来たんじゃない」
「そうだな。今のお前の話だけでも、お前が異世界で出会ったシグとかいう組織の連中から多くを吸収したのがわかる。俺たちの数十年のうわべだけの学問は、お前の数か月の冒険に遠く及ばないつまらないものだったというわけだ。かわいい子には旅をさせろ、か……は、は、は。もし俺が優しい叔父だったらどうなっていたかなあ?」
「それは違う。お父さまがどうだろうと、あなたがどうだろうと、今のわたしはわたしが歩んできた中で選択してきた道。不幸も幸福も、失敗も成功も、全部わたしの欠かせない一部。誰のせいでもない。あなたはまだ、自分たちの不幸を誰かのせいにするの?」
「ああ、まったくだ。俺は贖罪のためにここにいる。誰もが認める大悪党な俺だが、せめて心臓が動いているうちは罪滅ぼしをしよう。どうだシャルロット、俺は少しは人間に戻れたかね?」
「わたしは、あなたの死に逃げを許さないだけ。でも、あえて言うなら、わたしの目の前には、とても無様に、かっこう悪く……不器用に意地を張り合ってる、ただの”兄弟”が見えるだけ」
「そうか……シャルロットよ、すまんな。俺たちの意地に付き合わせて、本当にすまん」
ジョゼフは、シャルロットが復讐をすら乗り越えて本当に大きくなったものだと感じた。自分たちのようなバカ兄弟の茶番に、これ以上付き合わせるわけにはいかない、いかないよなぁ。
「さあてシャルルよ。これ以上どんな茶番を見せてもシャルロットの心は折れはしないぞ。なにせシャルロットは俺たち二人を合わせたよりはるかに価値のある記憶が心を支えているのだ。そろそろ顔を見せろ、いやだと言ってもこちらから行くがな」
ジョゼフとタバサはずんずんとハイパーゼットンの深部にあるシャルルへと迫っていく。
しかし、そうしている間にも外での激戦は続き、強力なゼットン軍団の猛攻は一瞬も衰えることはない。
滅亡への谷底へ足を踏み出しかけているハルケギニア。空では、真ん丸な太陽だけがいつもと変わりなく輝き続けていた。
続く