第45話
暴走する邪神
ハイパーゼットン・ギガント 登場
「さあて広いハルケギニアを東奔西走。働き者のバット星人グラシエの光の戦士vsゼットン軍団の中継、楽しんでいただけていますか?」
「ハイパーゼットンの進化には失敗しましたが、そのエネルギーでゼットン軍団が強化されるとは嬉しい誤算でした」
「素晴らしいですねえ。ゼットンはまさに可能性の塊です。対してウルトラマンの方々はもうエネルギーも残りわずかなはず。フフフ」
「果たして……おや、忙しくて見ている暇がない人もいるようですね。まあ、”そろそろ”ですものね」
「王様と姫様がなにかしら頑張られたようですが、それも徒労に終わったようで。おや? ハイパーゼットンに……これはまだまだ楽しめそうですねえ」
ほくそ笑むグラシエの思惑通りに、ハルケギニアの惨状は悪化の一途をたどっていく。
パワーアップしてゆくゼットン軍団に対して、ウルトラマンたちも人間たちも消耗していく一方である。勇気や使命感で持ちこたえているものの、それももう長くは続かない。
そして、唯一の望みであったハイパーゼットンからシャルルを奪還するという試みも失敗に終わった今、これ以上の打開策などあるのだろうか。
シャルルの救出に失敗したジョゼフとタバサ。ハイパーゼットンの体内から弾き出された二人は、うっそうとした木々が立ち込める森の中で目を覚ましていた。
「ぬぅ、どこだここは?」
軽く気絶していたらしく、気づいたジョゼフは回りを見回した。森の中というところからリュティスから離れた場所に飛ばされたのかと思ったが、ハイパーゼットンの巨体はすぐ近くにそびえ立っていることから場所を察した。
「グラン・トロワの庭園花壇の森林地区か。木と落ち葉のおかげで命拾いしたというわけらしい。シャルロット、しっかりしろ」
ジョゼフは木の葉に埋もれていたタバサを助け起こした。そして落ち着いた二人は、これまであったことを思い出した。
そう、シャルルを助けられなかったということを。
「おとうさま……どうして、どうして……どうしてぇ!」
「……」
タバサは耐えられなくなって嗚咽を交えながら慟哭していた。
無理もない。何年も耐えて耐えて、やっと叶う目前まできた念願が無惨な失敗に終わったのだ。誰よりも強い戦士になったとはいえ、タバサはまだ十八にもなっていない少女でしかない。父のあんな姿は、タバサにはあまりにも……残酷すぎた。
ジョゼフはタバサの慟哭を耳にしながらハイパーゼットンを見上げた。崩れ、腐り行こうとしているハイパーゼットンだが、あの中にはまだシャルルがいる。もう助け出す手段はない……。
「シャルル……」
目をつむって数秒瞑目し、ジョゼフは森の中を見渡した。王宮の花壇はもう全滅しているだろうが、ここは木々が壁となったおかげで常と変わらない姿を保っている。普段は宮殿の貴族たちが余暇に馬で散策するような場所だが、今は閑散としていて薄暗い。
森か、森は嫌いだ。ジョゼフは思った。四年前、狩猟会でジョゼフは自らの手でシャルルを毒矢で謀殺した。その瞬間のことは、よく覚えている。あれが俺の長い悪夢の始まりだった。それがやっと終わったと思ったのに。
「いや、そうか。まだ俺の贖罪は終わっていないということか。この手で」
拳を握りしめ、ジョゼフは自分にできる最後の仕事を理解した。そして、消沈しているタバサに決然として呼びかけた。
「シャルロット、立て。我々にはまだ、やらねばならんことがある」
「まだ? これからまだどうやってお父さまを助け出せる方法があるというの?」
タバサも考えられる限りの可能性をすでに考えた。その結果、どうやってももはやシャルルを救い出すことは不可能という結論しか導き出せなかったのに、ジョゼフにはまだ考えがあるというのか? しかし、ジョゼフはタバサの希望を否定するように告げた。
「そうではない。シャルルを助け出すのは、もはや不可能だ。だが、シャルルを取り込んだ化け物はまだそこにいる。シャルルのために、俺たちがしてやれることはもうひとつだけであろう」
「っ! 怪獣を、おとうさまごと殺そうと? それでも、それでもあなたは兄?」
ジョゼフの考えを察したタバサは思わず声を荒げた。改心したものかと思っていたが、やはりそういう男だったのか?
けれども、怒りのこもった目で見上げてくるタバサに対して、ジョゼフは断固とした意思を込めた声で言った。
「兄だからこそだ。あんな姿で生き続けることを、シャルルは決して望むまい。シャルルをこのまま苦しめ続けるつもりか?」
「だれのせいだと」
「そうだ、全部俺のせいだ。もはや地獄に落ちても償えるものではないが、それでも地獄に落ちる前に、あいつを解放してやる義務が俺にはある。なにより、あの化け物を放っておいたらリュティスは、ガリアはどうなる? シャルルにガリアを滅ぼさせてもいいのか?」
「行かせない、おとうさまを二度も殺させない」
タバサは杖をジョゼフに向け、絶対に阻止すると、射殺すような視線を向ける。だが、ジョゼフはタバサの眼光をさらに上回る怒声でもって打ち払った、
「甘ったれるなシャルロット!」
「っ!」
「お前も王族であろう。王族であれば、国に害をなすものはたとえ身内であっても除かねばならない。そうではないのか」
「う……」
「俺は無能王だ、ああ最低の王だ。だが、シャルルを差し置いて王になってしまった以上、最後にひとつくらいは王の仕事をせねばならん。お前はどうだシャルロット? 奇跡を始祖に祈って待つか?」
「わたしは、最後までおとうさまを救う方法を探す」
「もう手遅れなのはお前もわかっているはずだ。シャルロットよ、お前はかつてシャルルの復讐のために俺の首を狙い、数多の強敵を倒してきたな。だがな、どんなに強い敵であろうと他人を倒すことは簡単なのだ。俺もそうだ。シャルルを失った胸の穴を埋めようと、いくら他人を苦しめても無駄だった。お前は、自分と親しい誰かを自らの手にかけたことがあるか?」
「……」
強いて言えば、かけかけたことはある。そのときの苦悩と罪悪感は忘れない。
「お前にもわかろう。だが、俺たちはそれをあえてしなければならん存在なのだ。今にして思えば、なぜ親父殿がシャルルではなく俺を王に選んだのかの理由もそれかもしれん。お前は家族や友人が敵となったときに打ち倒すことができるか? 俺は遅まきながら王たるものが戦わなければならない宿命に気づいたが、シャルロットよ、俺が亡き後のガリアを背負っていくべきお前は、もしもお前の血を受け継いだ子供がガリアの敵となったときに討てるのか!」
ジョゼフの言うことはすべて正論だった。タバサは表情には表さなかったものの、言い返すことができず、杖を握りしめたまま身を凍らせてしまっている。
王になることの責任と重圧。タバサはまだ自分が王族であることを甘く見ていたことに気づいた。そんなタバサから目を反らし、ジョゼフはハイパーゼットンを再び見上げた。
「シャルルを殺した罪は、シャルルを殺すことで償えか。運命というやつの残酷さにはさすがの俺も恐れ入る。だがシャルルよ、俺の命と引き換えに今楽にしてやろうぞ」
命と引き換えに最大出力でエクスプロージョンを至近で放てば、腐りかけのハイパーゼットンになら恐らく通用するだろう。ジョゼフは杖を握って歩みだした。だが、ジョゼフの前にタバサが杖を構えて立ちふさがった。
「行かせない」
「どけ、シャルロット。覚悟のできないお前ではシャルルを苦しめ続けるだけだ」
「覚悟ができないのは認める。けど、けど最後まで希望を捨てないのがわたしだから」
「……お前も変わったものだ。前のお前ならば合理的に判断しただろうに」
対峙する二人。しかし、業を煮やしたジョゼフが杖を抜こうとしたときだった。沈黙して崩壊しかけていたと思われたハイパーゼットンが、突如大きく咆哮すると触手を振り上げながら暴れ始めたのだ。
「なんだとっ!」
「まだ動けるというの?」
ジョゼフとタバサは目を見張った。てっきり、もう腐敗して弱りゆくものとばかり思っていたのに、あの腐食した体でまだ動けるとは?
いや、まともに動いているという状態ではない。ハイパーゼットン・ギガントの甲殻のような体は腐食したまま再生する様子はなく、巨大な鎌のようになっている前足でかきむしるように体を叩いている。
「不完全な肉体で、苦しんでいるのか」
進化に失敗したために、その全身には耐えられないほどの激痛が走っているのだろう。ジョゼフとタバサは、そして安全圏から見下ろしているグラシエは察した。シャルルの抱いていた虚無の感情、それは強いエネルギーを発してはいたものの不安定で、ハイパーゼットンの体を完全に組み上げることはできなかったのだ。
だが、のんびりと見ている場合では無かった。ハイパーゼットンの進化は失敗したとはいえ、その体内にはガリア中から集めに集めた膨大なエネルギーが渦を巻いているのだ。それが制御を失えばどうなるのか? ギガントの頭部から突然血を吐くようにして巨大な火球が放たれた。
「なっ!?」
ジョゼフとタバサは目を見張った。火球は王宮から少し離れた場所に建っていた新聞社の建物を飲み込むと、一瞬にしてクリームのように溶かしさってしまったのだ。
「ぐあっ、なんという熱量だ!」
「さっきまでより、ずっと強くなっている?」
建物からはかなり離れていたというのにすさまじい威力だ。ギガントの中に溜め込まれていたエネルギーが肉体という枷が弱くなったことで漏れ出し始めているのか? これは危険だとタバサとジョゼフは直感した。あんなものをさらに無秩序に吐き散らかされでもしたら。
けれど事態はそんな簡単なものではすまなかった。コクーンのときに使われていた長大な触手はギガントにも残されており、その触手を無秩序に振り回しながら先端から周辺に火球をばらまき始めたのである。
「ぐぅ、今度は無差別爆撃か。おのれ化け物め、これ以上シャルルを使って勝手なことはさせぬぞ」
周辺に火球が落ち、リュティスは魔女の窯のようになってゆく。ジョゼフは憤り、杖を抜こうと懐に手をやった。だが、その瞬間。
「ジョゼフ!」
タバサの叫びがジョゼフを正気に返らせた。視界に入った赤い光が急激に近づいてくる。
杖を抜いて『加速』の呪文で回避を。だめだ、杖を抜くのが間に合わない。
一瞬とはいえ我を失ってしまった後悔と焦りでジョゼフの顔が歪む。シャルルを助けることもできずにこんなところで……赤黒い光が破滅と共に目の前に迫る。だがジョゼフが目をつぶろうとした刹那、青い雪風が視線を覆った。
「シャルロット!? 馬鹿者ぉーっ!」
ハイパーゼットンの火球は火山弾のようにリュティス全域に降り注ぎ続ける。
落ちた場所は爆砕され、火の海が広がる。それは怪獣兵器にも当たり、一体の再生スコーピスが粉々になった。
むろん無差別な攻撃はウルトラマンヒカリとゴルバーにも及び、どこに落ちてくるのかわからないそれを回避するのだけで精一杯になっていた。
〔このままでは街が全滅してしまうぞ!〕
「ひえええ、おねえさま助けてなのねーっ!」
ハイパーゼットンのエネルギーが膨大すぎるためか、火球の雨が止む気配はない。あとは元凶となっているハイパーゼットンの触手を切り落とすしかないが、消耗してとてもそんな余力はない。
唯一、青いゼットンだけは光波バリアーを張ることで悠然と立ったままでいる。戦いは中断されたようなものだが、状況はさらに悪化している。
そして、この状況は、身を守りようなどない人間にとってまさに悪夢だった。リュティスに残った最後の人間。すなわち才人たち一行は、巨大な火球の降る中を必死になって逃げ惑っていた。
「くっそおお! これじゃガラダマの雨だぜ」
才人はルイズを背負って走りながら、父親が幼い頃に東京に降った無数のガラダマを見たと思い出話を聞かされたことを思い出していた。巨大な火球と一口に言っても小さいものでも直径二十メートルはあるような、まさにガラダマの雨だ。
ルイズはまだ気絶したままで、才人の背で荒い息をつき続けている。降ってくる瓦礫などはジルに背負われたカトレアが魔法でしのいでくれているが、火球に直撃されたらひとたまりもない。
ともかく、少しでもハイパーゼットンから離れるために、才人たちと水精霊騎士隊は必死で走り続けた。走って走って走り続けた。
しかし、人間の足では限界がある。どんなにがんばっても短時間ではたいした距離は稼げず、一発の火球が運悪く彼らへの直撃コースへと迫ってきてしまった。
「やべえ、ルイズ起きろ! 無理か」
才人は避けられないと知りつつ必死で走った。少しでも遠くへ離れれば、少しでも助かる可能性が増える。そんな可能性は微塵もあり得ないことを知りつつそれでも。
火炎がすぐそこまで来ているのが首の裏の熱気からでもわかる。もうだめかと才人たちがあきらめかけた、その瞬間だった。
「イヤーッ!」
勇ましい掛け声とともに、才人たちの傍らを青い閃光が突き抜けた。
思わず振り向いた才人たちの見たものは、馬に乗って駆ける青い髪をなびかせた少女。その左手には一振の剣が握られ、彼女はあっけにとられている才人たちの見ている前で、迫る火球に剣を縦一文字に振り抜いた。
「ハァッ!」
剣を降る彼女の左手が煌めいたように見えたのは錯覚か? だが考える間もなく次の瞬間、巨大な火球はナイフを入れられたリンゴのように真っ二つに切り裂かれていた。
「おおっ!?」
剣であのゼットンの火球を斬った? 信じられない光景に才人たちは呆然となるが、切り裂かれて勢いが弱まったとはいえガラダマ並みの大きさのある火球である。炎の塊がゆっくりと彼らを包み込むようにして落ちてき始める。
「やっぱりダメだ!」
誰かが悲鳴をあげた。だが、落ちてくる炎を迎えるように、別の炎の奔流が後方から吹き上がってきたではないか。
「弾けろ!」
聞き覚えのある声とともに、炎の奔流はゼットンの炎を持ち上げていく。そしてふたつの炎は相殺するようにして、無数の火の粉に弾けて消滅したのだった。
「た、助かった」
「で、でも今のって……?」
火の粉が風に乗って消えていくのを腰を抜かして見上げながら、水精霊騎士隊の少年たちはなにが起こったのか理解できずに目を白黒させていた。
もちろん才人どころかカトレアやジルにも何が起こったのかわからない。すると、先ほど火球を切り裂いた少女が馬上からあきれたように見下ろしてきた。
「なんだ、まだリュティスに残ってるバカがいるのかと思ったらチンドン屋の集まりか。見事に間抜け面を並べやがって」
「な、なんだって!」
「なんて失礼な! ぼくらは女王陛下の」
露骨に見下されて、水精霊騎士隊の少年たちはカッカと怒った。
才人も、間抜け面扱いされるのはもう慣れているとはいえムッとしたが、ルイズを背負っているという責任感が爆発するのを抑えさせた。
「どっかで見たことあるような……?」
初めて見る相手のはずだが、どこかデジャブがある。髪の色や顔立ちはタバサに似ているような気がするが、雰囲気はまるで正反対だ。タバサの親戚にしたって貴族が剣を持つなんて……剣? そういえば左手のあの輝きって。
才人がそこまで思い至って叫ぼうとしたときだった。彼らの後ろから、懐かしい声が馬のひづめの音と共に聞こえてきたのだ。
「サイト! やっぱりサイトたちじゃないか」
「ミシェルさん!?」
なんと、別ルートでガリアを調査しているはずのミシェルと銃士隊のよく知った面々が現れたのだ。
まさかの嬉しい顔ぶれの集まりに、才人の顔も明るくなる。だけどどうしてこんなところに?
「サイト、無事だったか、よかった。ん? ミス・ヴァリエールはどうしたんだ?」
「こいつ、無理して倒れちゃって。幸い、気絶してるだけみたいなんですけど」
「そうか、彼女らしい。しかしお前たちも無事で本当によかった」
「はい、けどあの、ミシェルさんのその格好って、シスターさんですか」
「あ、ああうむ。任務のためにな……似合わないだろ」
「いいえ、グッジョブ! 清楚なシスターとワイルドな魅力のコラボレーション! いいもの見せてもらいました」
「そ、そうか。よくわからんが、お前がいいなら良かった」
照れるミシェルに、才人はぐっと親指を立てて最高の笑顔を見せた。まだ気絶してるはずのルイズが後ろから首を絞めてくる気がするが、たぶん気のせいだ。今はそんなことを気にしている時間はない。
なおゴルゴン星人の一団は後ろの騎馬列で誤解を招かないように別の人間に変身させられて乗せられている。逃げ出す懸念もなくはないが、逃げたところでハルケギニアが滅びれば結末は同じ。半端な人数ではサラマンドラへ合体する細胞量も足りないため、彼らが生き残るためには協力するほかに道はなかった。
ともかく今はハイパーゼットンの火球がまた降ってこないうちに避難を……才人がそう言いかけたとき、例の青髪の少女が水精霊騎士隊を見回してつまらなさそうに言った。
「なんだ、お前たちの知り合いかい。そんな見るからに弱そうな奴らまで送り込んでくるとは、トリステインの新女王はよほど変な人材を集めるのが趣味らしいね」
「なっ、なにを! 我々はまだしも女王陛下を侮辱するとはなんたる無礼な」
少年たちは激怒し、杖を向ける者まで現れた。才人は、まぁ変な奴ばっかりというところは間違っちゃいないと思いつつ、もしここにギーシュがいたらさらに馬鹿にされてたろうなと、不謹慎なことを考えた。
貴族は誇り高く、侮辱する者を許さない。まだ少年の水精霊騎士隊とて例外ではなく、謝罪しないなら無礼打ちにという剣幕で馬上の少女を睨み上げていたが、少女は微塵も臆することなく冷たい眼差しといっしょに罵りの言葉を返した。
「はっ、この国でわたしが誰をどう言おうとわたしの勝手だよ。お前らこそ、田舎者だから許されるのも限度があるよ」
「ぐぅ、もう許しておけない。そこから引きずり下ろしてやる」
「控えろ! 下郎が」
少女の一喝が、爆発しかけていた水精霊騎士隊を凍り付かせた。血気にはやった少年たちを、ただの一声で黙らせたこの威厳はただの貴族のものではない……? 少年たちが動揺しながらそう思った時、ミシェルが皆に紹介した。
「みんな、この方はガリアの次期女王たるイザベラ王女様だ」
「ええっ!?」
「ガ、ガリアの王女様?」
まさかのジョゼフに続いて王族が目の前に現れたことに一行は目を見張った。
とにかく彼らにとって王女といえばアンリエッタの印象が絶大なので、その正反対なイザベラを王女とはとても連想できなかった。
イザベラ自身にもそれはわかっているのだろう。演説をぶろうとせずに、左手の甲をかざしてそのルーンを見せた。
「どうだ、これがわたしが始祖ブリミルの血を受け継ぐ選ばれたものの証だ」
ガンダールヴのルーンは輝き、見る者を圧倒した。だがそれで黙ってるわけにはいかないのが才人だ。
「それ、俺の!」
再契約していないので才人の手には今は無いが、それは間違いなく才人の見慣れたガンダールヴのルーンであった。
「なんでお前が、返せ!」
「はぁ? 誰だお前は。返せもなにも、これはわたしがもらったものだ」
イザベラからすれば意味がわからないことだが、才人にとっては他人がガンダールヴのルーンを持っているのは気持ちいいものではない。しかし、ルイズを背負っていてデルフを抜くこともできない才人にはどうしようもない。イザベラに露骨に馬鹿にした一瞥を向けられて才人はぎりぎりと歯ぎしりをするしかなかった。
だが、遊んでいる時間はない。進むにしても戻るにしても、ここはもう地獄だ。少し離れた場所にまた火球が落下し、舞い上げられた破片と炎熱が襲ってくる。
ここにはとどまるだけで危険だと、イザベラは馬の腹を蹴った。
「ぐずぐずしてはいられないね。行くよ」
「ま、待てよ。行くってどこへだ?」
「決まってるだろ。あの怪物のところへ行って、ケリをつけるんだよ」
イザベラのその言葉を聞いて、才人たちは愕然とした。
「正気かよ。今の暴走したハイパーゼットンに近づくなんて、死ににいくようなもんだぞ」
「関係ないね。死ぬ思いならもう何度もしてる。それより、あそこには必ずシャルロットもいる。これ以上、わたしの人生をあいつのために振り回されてたまるもんか」
かつてイザベラは北花壇騎士団長としてタバサの生殺与奪を自由にしてきたと思ってきたが、本当に人生を操られていたのは自分のほうだった。そう気づいたときの屈辱、あんな思いは二度とごめんだ。
地獄と化した市街中心部へと向かおうとするイザベラ。宮殿の方向はすでに火の海で、行けば確実に命はないが止めようもないと思われたときだった。
「ご心配なく。焦らなくても危険を冒す必要はないですよ」
忌々しいこの声。バット星人グラシエがそこに浮かんで見下ろしていた。
なにしに来た! そう叫ぶ声を無視して、グラシエは言った。
「無謀はよくないですよ。主演がそう簡単に減られたら、せっかくいいところまで来たショーが台無しです。ですから、ほら特別サービスですよ」
グラシエが手をかざすと空間が歪み、中からジョゼフが現れた。ジョゼフの手にはタバサが抱かれており、それを見た才人たちは慌てて駆け寄った。
「タバサ! タバサ! おいなんだ、黒焦げじゃないか。いったい何があったんだよ」
タバサは体中が焼け焦げてぐったりと目を閉じており、少年たちの呼び掛けに応じようともしない。それにしてもタバサとジョゼフはハイパーゼットンの中へと向かったはず、どうしてこんなことになったのか、まさか?
問いかける才人たちに、ジョゼフは苦しげに答えた。
「シャルルを取り戻すことは、失敗した。シャルロットは、俺をかばって怪物の炎を浴びよった」
まさかの答えに、才人たちは絶句した。タバサの姿を見て、イザベラも血相を変えて駆けてきてタバサの顔を覗き込んだ。
「シャルロット、シャルロット! お前、はは、どうしたのよ、わたしがなにを押しつけても、絶対死ななかったお前が、こんなときに限って……っ!」
イザベラはジョゼフの顔を睨み上げた。ジョゼフは激しい怒りの視線を向けてくるイザベラに「ああ、イザベラか」と、ぼつりと答えたが、イザベラは掴みかからん勢いでまくし立てた。
「ち、父上、父上父上! あ、あなたはあなたは! あなたのやってきたことはシャルロットから聞いた。でもそれでもそれでも、それなのに! あなたはシャルロット一人も守ってやることができなかったというのですか!」
「笑うがいい」
自嘲げにジョゼフがつぶやくと乾いた音が鳴った。涙目のイザベラが手のひらを震わせて立ち尽くしている。
それでもタバサは動かない。それを見てキュルケも飛んできて肩を揺さぶっても反応しないことに、蒼白になって言った。
「うそ、息してない……」
騒然となった一同は、回復の魔法を使えるカトレアを呼び寄せた。
カトレアはすぐ杖を持ってタバサの胸に手を当てて診断したが、目を閉じて首を降った。
「そんな、カトレアさん」
「まだもしかしてってこともあります。回復魔法をお願いします!」
「無理です。彼女の体内の水の流れはすでに……」
悲しげに首を降ったカトレアの言葉に、一同から慟哭が漏れ聞こえた。
イザベラはタバサをジョゼフから奪い取って必死に呼び掛け、キュルケも叫んだ。
「シャルロット! シャルロット! お前、わたしに全部押しつけて勝手に行くつもりか。起きろ、起きていつもみたいにわたしを見下してみろ! 女王の命令だぞ」
「タバサ! タバサ! こんな……わたしはあなたにまだ借りを返してないのに。世界を救っても、あなたが不幸なままじゃ意味ないじゃないのよ」
二人がいくら涙を流しても、タバサが答えることはない。
ジルはがっくりと肩を落として悔しげに地面を殴り付け、シルフィードも使い魔としてタバサの命の火が消えていくのを感じ、落ちてくる炎にゴルバーの背を焼かれながら嘆き嗚咽していた。
「おねえさま、おねえさま。そんなのってないのね、うわーん、シルフィを置いていかないでほしいのねーっ!」
「おい青いの! まだ戦いは、くそっ、おれがなんとかするしかないかよ」
翼の力を失ったゴルバーはフレイムの操縦で、なんとか火の雨をよたよたとくぐっていく。
タバサの遺体を囲み、涙にくれるイザベラやキュルケたち。しかし彼女たちに悲しむ時間さえもったいないとでも言う風に、宙に浮くグラシエは一行を見下ろしながら言った。
「人間という生き物はもろいですねえ。なんでしたら私が生き返らせてさしあげましょうか?」
くっ! と、キュルケたちはグラシエを睨み上げた。
人間の命は宇宙人から見れば紙のように軽いのだろう。確かにグラシエならばそれも可能であろうが、タバサを生かすも殺すもグラシエの意のままになってしまう。それだけはできない。
タバサはガリアのために命をかけた。こうなることも覚悟の上であった。なら、タバサの意思を無駄にしないためにはハイパーゼットンを倒し、ガリアを救うしかない。
「見ててタバサ、必ず仇はとってあげるからね」
キュルケは涙をぬぐって顔を上げた。そのまま炎の魔法を頭上のグラシエに向けて放つが、グラシエは余裕で避けて手を叩いた。
「いやいや、まだまだやる気が溢れているようでけっこうけっこう。それでこそ、私も苦労して舞台を整えたかいがあったというものです」
「ふざけるんじゃないわよ! あなたにどんな御大層な目標があったとしても、こんなにひどいことをしなくてもいいじゃない」
キュルケだけでなく、才人もみんなもグラシエに本気で怒っていた。ハイパーゼットンの研究のために、莫大なパワーがいるにしても、こんなにまで罪ない人間を苦しめていいはずがない。
だがグラシエは心外だと言う風に肩をすくめ、やれやれと腕を広げながら語った。
「ずいぶんな言われようですねえ。私はこれでもバット星人の中では穏健派よりですよ。ハイパーゼットンの研究の第一人者である”彼”なら、もっと残酷に容赦なくやったでしょうから感謝してもらいたいくらいです。もっとも、派手にやったほうが”奴ら”への復讐計画もついでに果たせますから、力を入れたのは確かですけどね」
「復讐、だって」
「おっと、誤解しないでください。ここの誰に対してでもありませんよ。人間やウルトラマンの方々にはゼットンで堂々とお相手しますからね」
この期に及んで謎めいたことを言い出すグラシエに才人は眉をひそめたが、何のことだかわからないことに気を使っている時間はない。しかし、グラシエは才人たちの焦燥をさらに煽るかのように笑うのだった。
「まあ、もうあなた方がどうしようとどうにもなりませんけどね」
「どういうことだ!」
「ハイパーゼットンを見てごらんなさい。先ほどより少し大きくなったように見えるでしょう?」
「へっ? ……そういえば」
確かに遠目でもギガントの巨体が大きくなったように感じられる。するとグラシエは愉快そうに、恐ろしい解説を始めた。
「ハイパーゼットンが進化に使うはずだった莫大なエネルギーが、外に吐き出しきれずに蓄積されてしまっているようですね。あのままだと、ハイパーゼットンはエネルギーが溜まり続けて、膨らみすぎた水風船。すると、どうなると思います?」
「どうなるっていうんだよ!」
「決まってるじゃないですか。パーンと弾けて終わりです。ただ、エネルギー量から考えますと、そうですね……最低でもガリア、いえハルケギニア全体が吹き飛ぶほどの爆発が起こるでしょうね」
「なっ!? ハルケギニアが」
吹き飛ぶ! そんな馬鹿なと口からこぼれるが、もはや嘘とは思えない。
「爆発まで……どう長く見積もっても一時間といったところですか。クライマックスが近づいてきましたねぇ」
楽しそうに笑うグラシエにキュルケがファイヤーボールを撃つがやはり当たらない。
こうなったら残された道はひとつ。才人は激昂したいのを必死にこらえてみんなに言った。
「もう逃げてなんていられない。ハイパーゼットンまでたどり着いて、あいつを倒すっきゃない」
みんなは震えながらもうなづいた。さすが、貴族の子弟たちだ。しかしグラシエは少年たちのそんな決死の勇気をさえもあざ笑うように告げるのだった。
「やめておきなさい。今のハイパーゼットンは膨らんだ風船と言ったでしょう。攻撃なんて加えようものならその瞬間に爆発しますよ。ハイパーゼットンのエネルギー元になっているシャルルさんももう分離するのは不可能ですし、あなた方の力ではどうにもならないと言ったでしょう」
「なん、だとぉ」
攻撃そのものができない……それでは本当にどうしようもない。いや、それでもと才人は自分を奮い立たせた。
「まだだ。まだ、この世界にはお前の好きにならない力があるんだ。最後までわからないぜ」
「ああ、他のウルトラマンさんたちのことですか? あまり期待しない方がよいと思いますが、見てみますか?」
グラシエが指を鳴らすと、中空にスクリーンが浮かび上がった。
それは、各地で続いているゼットン軍団と光の戦士たちの戦いの光景。だが、その全てが劣勢に立たされていた。
ウルトラマンガイアとアグルは、EXゼットンとまだ五分に渡り合えているが、ライフゲージは点滅し、スタミナの差で押され始めている。
トリスタニアで孤軍奮闘していたキングジョーはもはや破壊寸前で、ゼットンはまるで人形を壊すかのように全身を解体しようとしている。
カプセル怪獣たちは疲れはて、巨大なゼットンが逃げ遅れている人が大勢残っている街へ近づくのをもう止められそうもない。
そして、トリステイン魔法学院で続いているコスモス、ジャスティス、ダイナとゼットンバルタン星人の戦い。三人のウルトラマンの力を持ってしてもゼットンバルタン星人は圧倒的なパワーでジャスティスを弾き飛ばし、そのサイキック能力はダイナとコスモスを合わせたそれさえ押し返して、光線と火炎が二人を焼いて地に這わせていた。
対ウルトラマン用に生み出されて強化され続けてきた宇宙恐竜ゼットンの進化体たちの力はウルトラマンたちが力を合わせてもなお、その脅威を少しも薄めさせることなくそびえ立っていた。
「そんな、ウルトラマンがあんなにいてもダメだなんて」
ウルトラマンの存在に希望を託していたのは才人だけではない。ウルトラマンたちが皆ピンチに陥っているのを見せつけられて、絶望感が彼らの中を支配していく。
もういったい、どうすればいいんだ……? 打開策などもう何一つ浮かばず、気を張っていた才人の心も暗雲に閉ざされていく。だがそのとき、才人の背から弱弱しくもはっきりとした声が流れた。
「なに、弱気になってるのよ……サイト」
「ルイズお前、気がついたのか」
「こんなに早く……勝負を捨てるんじゃないわよ。わたしたちがやらなきゃ、ハルケギニアは……女王陛下のいるトリステインはどうなるの? わたしをあの怪物のところまで連れて行きなさい。あんなの、わたしの魔法で塵も残さず吹き飛ばしてやるんだから」
まだ魔力切れでしゃべるのもつらいはずなのに、ルイズの目には戦う意思があふれていた。
ルイズの闘志にあてられて、才人や水精霊騎士隊の目にも光が戻ってくる。
「ああ、俺たちはここにいる、俺たちがやらなきゃいけないんだな」
「そうよ、敵に背を向けないものを貴族と、呼ぶんだから」
破れかぶれでもいい。座して死ぬくらいなら最後まであらがってやる。顔を上げろ、光は上を見ないと見えやしないんだから。
「バット星人グラシエ! 絶対にお前の思うとおりにはさせねえぞ」
「けっこうけっこう。ですが、戦うべきは私ではないことを忘れなく。ほら、また来ましたよ」
「あっ!?」
グラシエに意識を向けた隙に、ハイパーゼットンの触手がこちらを向いたことに気づくのが遅れてしまった。
さっきのものよりも巨大な暗黒火球が触手から放たれて道路に落ち、道を埋め尽くすほどの炎の津波が襲いかかってくる。逃げ場はない、イザベラが剣に手を伸ばすが。
「だめだ。火炎が大きすぎて、これじゃ切っても飲み込まれる」
さっきと同じ手は使えない。ならばジョゼフのエクスプロージョン、ミシェルのフェミゴンの炎、だめだどちらも押しきられる。ルイズは弱々しく顔を上げて杖を持とうとしたが、もうそんな精神力は残されていない。
それでも、まだ終われない。終わるわけにはいかないんだと、才人は片手にデルフを持ち、少年たちは杖を握って蟷螂の斧になろうと立ち上がる。しかしそのとき、ルイズの肩が優しく叩かれた。
「ルイズ、ひとつ貸しだからね」
「キュルケ?」
キュルケはルイズに微笑むと、フライの魔法で飛び出していった。その先は、迫り来る炎の壁。
「キュルケ! だめよ、キュルケーっ!」
ルイズはキュルケがなにをやろうとしているのか悟って叫ぶが、キュルケはもう振り返らない。
そして、炎の壁に飲み込まれる瞬間、キュルケはすべての力を込めて呪文を唱えた。
「タバサ、あなたでもこうするわよね。これで、貸し借りなしよ……」
その瞬間、エクスプロージョンをもはるかに超える爆発が巻き起こった。
それは、爆炎を超えた轟炎。ハイパーゼットンの暗黒火炎をダムのように押し止め、左右へと押し流してルイズたちを守ったが、その意味を知るルイズたちは爆風に身を焦がしながらも絶叫した。
「キュルケーっ!」
「ま、まさか、自爆!? そんな、キュルケーっ!」
「キュルケ、あんた、最後までわたしをコケにしていって……こんな借り、どう返せっていうのよ!」
滝のように涙を流しながら、ルイズたちはキュルケの消えた爆発の跡を見つめ続けた。
そこへ、またもグラシエが拍手しながら賞賛の言葉をかけてくる。才人はもう激情を抑えることができず、涙と鼻水を流しながら叫び返した。
「ちくしょう、タバサに続いてキュルケまで……許さねえ! 絶対に許さねえぞ!」
「素晴らしいですね、その怒りと絶望のエネルギー。やはり人間の感情は素晴らしいです。ん? 絶望……これはもしかしたら次の実験に生かせるかもしれないですね」
「なにごちゃごちゃ言ってるんだ! 下りてこい、おれと勝負しろ!」
「若いですねえ。平賀才人くん、君の名前を覚えておきましょう。でも、シナリオはもう決まっているのです。見なさい、新しい幕を開ける大きな花火が上がりますよ」
グラシエが指した方向、それを見て才人たちは言葉を失った。ハイパーゼットンが、その巨大な頭部をこちらに向けている。そして、触手からのものとは比べ物にならないほど巨大な暗黒火球がチャージされて放たれた光景は、すべての希望を砕くのに十分だった。
「ち、ちくしょぉーっ!」
「タバサ、キュルケ……ごめん、ね」
才人は絶叫し、ルイズは嗚咽混じりに詫びた。あれはもう、自分たちがウルトラマンAに変身できたとしても食い止められる大きさではない。
水精霊騎士隊の少年たちは膝をつき、国に残してきた家族や恋人に別れの言葉を呟いている。カトレアやジルはそっと目を閉じ、ジョゼフは「つまらん人生だったな」と苦笑いをした。
そして、イザベラはタバサの亡骸に寄り添いながらつぶやいた。
「おわり、かよ。これでおわりなのかよ。あたしたち、まだなんにもおわらせられてないじゃないか。なあシャルロット、おまえならこんなときにどうするんだ? おしえてくれないと、化けて出てやるからな」
絶対に避けようのない死が目の前に迫り、霊魂までも焼き尽くされそうな炎がやってくる。
すべてが燃える。ハルケギニアが消えてなくなる。みんな、やれること以上の力を尽くしたのに、こんな終わり方はあんまりじゃないか。
皆が自分の無力さに目をつむる中、ミシェルは一人で空を見上げていた。
「まだわたしにも、ウルトラの星は見えるかな……?」
才人が教えてくれた、決してあきらめない者にだけ見える星。奇跡を起こしてくれる星。
ミシェルの目に、空に輝く星が映る。暗い空に輝く星が……え? 今は昼間のはず。なぜこんなに暗い? 違和感に気づいたミシェルは、その根元を見た。
「あれは、太陽が!」
その言葉に釣られて、皆は空を見上げた。火球が着弾するまであと2、3秒だが、好奇心が上まった。そして皆が見たもの、それは暗く染まった太陽の姿、すなわち。
「日食?」
「まさか! そんな時期じゃないはず」
あり得ない光景。しかし決して幻ではなく神秘的な輝きを放つ太陽から、彼らの心に奮い立たせるような力強い声が響いた。
「くじけるな!」
その声は! 心臓をわしづかみにされて目を見開く才人たちの前で、黒い穴のような日食の中から八つの光が飛び出した。
光は方々へと、流星のように飛び去って行く。しかし、光の中の一つがこちらに向かってくるのを彼らは見た。炎よりも赤い真紅の光の球が一直線に落ちてくる。
「うわぁぁぁぁぁ!」
そして、暗黒火球の着弾と同時に、赤い球は彼らを包み込むようにして着地した。
赤い光がすべてを包む。そこは時間と空間を超越した場所。
そこには六十分の一秒の時間しか進まない。才人もルイズもそこでは止まったように見える。
その中で、死んだはずのタバサは一人の男と対峙していた。
「あなたは……?」
自分は死んだはずではなかったのか? ここは一体? 疑問は尽きないが、タバサの目は彼女の正面に立つ男に釘付けになっていた。
男は黒髪の筋骨たくましい青年だった。傷だらけのマントを背にした長身の姿は孤高の旅人のようにも見えるが、その眼には強くも優しい心安らぐような不思議な光が宿っている。彼はタバサを見つめ、ゆっくりと語り始めた。
「私は君の勇敢な姿を見ていた。自分以外のために自らをさえ投げ出す姿を見て、私の弟たちがそうであったように、君を死なせたくないと思った。君が望むのならば、君にもう一度自由と平和のために戦える力を貸そう」
「わたし、わたしは……」
まっすぐに眼を見つめてくる青年に、タバサは胸を高鳴らせながら答えようとした。答えなんか、最初から決まっている。
「わたしは、戦いたい! もう一度、ガリアの、いいえみんなのために平和な日々を取り戻したいから」
力強く答えたタバサに、青年は満足そうにうなづいた。
そして、タバサの右手に輝く鉱石が埋め込まれたブレスレットが現れる。
「これは……?」
「君が望めば、私は力を貸そう。君の願いを込めてその鉱石に呼びかけろ。私の名は……」
赤い球体が炸裂し、周囲に光芒があふれかえる。
ハイパーゼットンの暗黒火球はなおも止まらず、その光ごと飲み込もうと巨大な力で前進を図る。だが、なんということだろうか、暗黒の炎は光を飲み込むことはできず、逆に少しずつ押し返され始めた。
才人やルイズたちに炎は届かず、白い清浄な光に包まれて守られている。その中でルイズたちは目を開けて、邪悪な炎から自分たちを守っている、大きな背中を見た。
「あ、れは……」
「ウル、トラマン? いいや、あの人は!」
迫りくる暗黒火球の巨大な炎は、そのウルトラマンが伸ばした右手から放たれる白い光線に防がれていた。
いや、いいや、防ぐどころではない。暗黒火炎はぐんぐんと見る間に押し返されている。そのウルトラマンの光線のとてつもない威力に、才人たちは目を見張った。
そして、こんな超絶的な威力を発揮できる光線は全宇宙広しといえどもたった一つしかない。宇宙警備隊隊長の代名詞にして宇宙最強と呼ばれる奇跡の光線、その名は。
『M87光線!!』
暗黒火球はついにハイパーゼットンの顔面にまで押し返され、弾けて火花を散らした。威力だけでなく、ハイパーゼットンを誘爆させない神業的なコントロール。才人は自分の中の絶望に希望の光が煌々と差してくるのを感じて涙を流した。こんなことのできるのは、一人しかいない。
「ゾフィー……!」
その銀色の背中は、かつて40年の長きに渡って地球を守り続けてくれていた、宇宙最強の光の戦士。
滅亡へのカウントダウンを待つだけだったハルケギニアに今、あの兄弟たちがやってきた。
続く