第46話
光臨!我らウルトラ8兄弟!
超合体怪獣 ファイブキング 登場!
「あちち、危ない危ない。危うく巻き込まれるところでしたよ。さすがハイパーゼットンの炎は熱いですねえ」
「おっとっと。バット星人グラシエの実況の時間です。とはいえ、これで最後になりますねえ、長らくご愛顧、ありがとうございました」
「速いものですねえ。私がミスター・チャリジャのお話を聞いて、このハルケギニアにやってきてからずいぶん経ちました」
「ハイパーゼットンを完成させるための実験のために、語るも涙の苦労の数々がありました。よく頑張りました、私」
「そのかいあってハイパーゼットンの研究は飛躍的に進みました。本当に感謝いたします」
「でも、今回はここまで。だいぶいいところまでゆきましたが、このハイパーゼットンも失敗作。もはやこれ以上の進化はならず、エネルギーを持て余した怪獣爆弾です」
「ああ嘆かわしい。もうすぐこの美しい星は宇宙の藻屑となってしまうのでしょうか? もはや、終わりなのでしょうか?」
『そんなわけないだろう!』
嫌らし気に煽るグラシエの言葉に強い怒りを込めて遮った男がいた。
そこは、近代科学の粋を尽くした不死鳥の砦【フェニックスネスト】のディレクションルーム。そこで、モニターに映るグラシエを睨み、CREW GUYS隊長アイハラ・リュウは言い放った。
「終わらせねえ。俺たちがいる限り、どこの星の人間だろうとお前の犠牲にはさせねえぞ」
「なら、どうぞご自由に。そろそろ準備もできているのでしょう?」
嫌味を返すグラシエに、オペレーター席に座るテッペイ隊員は苦々しく言った。
「白々しいですね。我々がちょうどこの頃に時空間の閉鎖を突破できるようになるのを見越していたでしょうに」
「いやいや、ちょっと強めに時空間の封印をしましたから、あなた方が間に合うかはやりすぎたかなと思ってました。地球人もあなどれませんねぇ。でも、待っている間に私が続けたハルケギニアの実況中継は楽しんでいただけたでしょう?」
グラシエは笑いながら自分を誇るように言った。
GUYSはハルケギニアへの再突入を失敗して以来、ずっと新しい突入口を模索していた。サハラのゲートにこちらの世界を特定するためのマーカーを送ったり、フェミゴンの霊体を利用してメッセージを送ったことがそれである。
しかし、直接ハルケギニアへつながるゲートを開くことを長い間できなかったのは、実はあのハルケギニアの人間たちの記憶が書き換えられた時から、グラシエが時空間を歪めて邪魔をしていたからだった。
しかも、しかもである。グラシエは地球にハルケギニアの映像を実況付きで流して、焦るGUYSを見て楽しむという悪趣味なことを続けていたのだ。
「バット星人グラシエのハルケギニアのゆく旅くる旅とでも題してNPTVに売り込みましょうかねえ? よければ第一回から視聴お願いしますよ。では、こちらでお待ちしております」
最後までふざけながら中継を切ったグラシエにモニターごしにでも殴りつけたいのを我慢しつつ、リュウ隊長はこの日のために用意してきたとっておきの作戦の始動を命じた。
「よし、作戦を開始する。フジサワ博士、用意はいいですか?」
〔オッケー、時空間固定装置ディメンショナルディゾルバーR(リバース)改、全システム異常なしよ。早く初めてちょうだい〕
「いくぞみんな、今度こそ二つの世界をつなぐ架け橋を作るんだ。作戦『ウルトラ・ハイパードライブ』開始だ!」
「G・I・G!」
GUYSの隊員たちの操作によって、空に浮かぶフェニックスネストの主砲フェニックスキャノンにエネルギーが充填される。そしてチャージされたエネルギーは、特定されたハルケギニアのある時空座標へつながるワームホールをこじ開けるために放たれた。
「ディメンショナルディゾルバーR・ファイヤー!」
フェニックスキャノンから放たれた時空間エネルギーが雲の上で炸裂し、巨大なワームホールを生み出した。
かつては時空間ゲートを開くことも安定させることも地球人の技術力では難しかった。だが、GUYSはずっと研究を重ね、より確実で安定したワームホール生成方法を模索し続けてきたのだ。
白い雲海の上に浮かぶ、黒々としたブラックホールのような異次元への扉。あの先にハルケギニアがあるはずだ。しかしワームホール自体はまだ不安定で、ガンフェニックスで突入するのは危険すぎる。下手すれば永遠に異次元の迷子になる危険性もあるが、そこに迷わず飛び込んでいった七つの光があった。
〔見えた。あの先にエースとヒカリ、セブンがいるぞ。みんな、私に続け〕
〔おう!〕
先頭をきった銀色の影に続いて、いくつもの銀や赤い影がワームホールに飛び込んでいく。
だが、一人だけまだ飛び込まずに残っている者がいた。フェニックスネストの傍らに浮かぶ、ウルトラ兄弟の長男ゾフィーである。
〔地球人たちよ、感謝する。そして、君たちの英知を心から賞賛したい。これで、我々は弟たちを救いに、あの闇の先で助けを求めている人々を救いにゆくことができる〕
「ゾフィー、俺たちはあんたたちにまだ返しきれないでっかい借りがある。それでも礼が言いたいって言うなら、あのコウモリ野郎をぶっ飛ばしてからにしてくれ。今、あんな数の怪獣やゼットンが暴れてるのを止められるのはあんたたちしかいない。この作戦は、そのためにあんたたちウルトラ兄弟を送り届けることにあるんだ」
〔約束しよう。必ず、君たちの期待に応えることを〕
「頼むぜ、ウルトラ兄弟!」
リュウ隊長とGUYSの隊員たちに見送られて、ゾフィーもワームホールへ飛び込んでいった。そしてその後姿を、サコミズ総監は総監室から一人で敬礼で見送っていた。
ウルトラ兄弟はワームホールの中をハルケギニアへと急いだ。激しい時空乱流が行く手を阻むが、向かう先には五人以上のウルトラマンの気配があるのだから見失う心配はない。これも、ガイアとアグルがハルケギニアにやってきた一助になったGUYSの功績である。
多くの人々の願いと努力がこの道を作り上げ、そしてウルトラ兄弟はハルケギニアにやってきた。
ハイパーゼットンの暗黒火球をM87光線で押し返し、一番にハルケギニアの大地を踏んだゾフィーは、ボロボロになっている才人たちを見下ろして力強く告げた。
〔よくこれまで頑張ってくれた。ここから先は、我々ウルトラの兄弟が引き受ける!〕
ゾフィーはハイパーゼットンを見上げた。あれを倒さない限り、この戦いは終わらず世界に平和は訪れない。
現在、ハイパーゼットンは暗黒火球を押し返されて弾かれたショックで首を降ってもがいている。隙だらけだが、まずはこちらからだ。
「ジョワッ!」
構えをとるゾフィーの前に、テレポートで青いゼットンが現れた。母体であるハイパーゼットンを守るかのように立ちはだかる青いゼットンに、ゾフィーは敢然と立ち向かう。
たちまち詰まる両者の距離。青いゼットンはパワーアップした膂力で叩き潰すように殴り付けてきたが、ゾフィーは両腕をクロスさせてガードすると、返す刀でゼットンの腹部に鋭い蹴りを打ち込んだ。
「ダアッ!」
轟音と火花が散り、青いゼットンは苦しそうに後退する。
その機を逃すゾフィーではない。ゼットンが隙を見せた一瞬に急接近し、ゼットンの角と頭を持って思い切り投げ飛ばした。
「デュゥワッ!」
背中から地面に叩きつけられて、ゼットンは痙攣したように悶絶した。それでもさすがのタフネスを発揮して起き上がってきたが、立て直す間もなくゾフィーの振り抜かれたパンチがゼットンの頭に炸裂して今度こそ吹き飛ばして地に這わせる。
「つ、強い……っ!」
あの青いゼットンを一方的に打ちのめすゾフィーの強さに、水精霊騎士隊や銃士隊の一行は目を見張った。才人も興奮し、ゾフィーの後ろ姿を目を輝かせて見つめる。あれがウルトラ兄弟No.1、宇宙警備隊隊長の実力だ。
ゾフィーはゼットンが沈黙すると、ウルトラマンヒカリの元へとジャンプした。激しく消耗して膝をついているヒカリの前に着地すると、手のひらをヒカリのカラータイマーにかざしてエネルギーを分け与える。
〔ヒカリ、待たせてすまない。我々が遅れたせいで、君たちには苦労をかけてしまった〕
〔たいしたことじゃないさ。よく来てくれた、ゾフィー。そうか……君はさっそくこの世界を気に入ったようだな〕
〔うむ、ここは我々が命を懸けて守るべき星だ。ヒカリ、もうしばらく君も力を貸してくれるか?〕
〔もちろんだ。だがその前に……ゾフィー、彼らを助けてやってくれ〕
〔わかった〕
ゾフィーの中に宿った者の存在を感じ取ったヒカリは、ゾフィーに何事かをうながした。そしてそれを受け取ったゾフィーは再びジャンプし、弱ってへたりこんでいるゴルバーの前へと着地した。
「な、なんなのね……?」
「も、もう動く力もねえぞ」
目の前に立ったゾフィーの意図を図りかねて、シルフィードとフレイムは戸惑った。しかし、手のひらを向けて送り込まれてきたエネルギーを通じて、シルフィードはゾフィーの中にいる愛しい人の存在を感じ取った。
「この、匂い……おねえさま? まさか、タバサおねえさまなのね!」
〔そう、シルフィード。わたしは今、このウルトラマンといっしょにいる〕
「お、おねえさまっ……生きてたのね、おねえさまっ!」
シルフィードはタバサが生きていたことを知り、メルバの頭から涙を流して喜んだ。
しかし、泣いてばかりはいられない。まだ戦いは終わってはいないのだ。
〔シルフィード、悪いけれども喜ぶのは後。わたしたちはまだやらなきゃいけないことがある。もう少し、あなたたちの力を貸してほしい〕
「もちろんなのね。おねえさまのためなら、まだ一肌だって二肌だって脱いであげるのね、きゅいきゅい」
〔シルフィード、わたしたちのために、そんな傷だらけの姿になって。ありがとう〕
「きゅいっ、弱気なんておねえさまらしくないのね。でも、この仕事が終わったらお魚とお肉を山盛りいただくのね。約束なのね」
シルフィードはもりもりファイトが湧いてくるのを感じた。今ならどんなことでもできそうな気がする。
けれどシルフィードは、自分のやる気の高さとは裏腹に体が重いのを感じ、それの理由を悟ってはっとした。
「そうなのね。赤いの、お前のご主人は……」
「……」
キュルケはみんなを救うためにハイパーゼットンの業火に飛び込み、壮絶な自爆を遂げたのだった。もっとも信頼する主人を失ったフレイムの気持ちは、さっきまで同じ思いだったシルフィードもよくわかる。
フレイムが消沈したままでは、ゴルバーはとても戦えない。しかし慰めようもなくシルフィードが何も言えないでいると、タバサは落ち着いた声で言った。
〔大丈夫、キュルケならそこに〕
「え……?」
はっとしてゴルバーが振り返った先。ハイパーゼットンが苦し紛れに触手を振り回そうとしていたそこへ、燃える街の業火を吹き飛ばしながら虹色の閃光がほとばしった。
『ストリウム光線!』
虹色の光線はハイパーゼットンの触手を次々と切り飛ばし、再び暗黒火球がばらまかれるのを防いだ。
大蛇のような触手は根こそぎ寸断されて地に落ち、炎を吹き消して地に立つはウルトラマンNo.6。その赤い勇姿に、才人は躍り上がるように叫んだ。
「ウルトラマンタロウ!」
ゾフィーに続いてタロウも! 才人は神戸の感動を思いだし、背負っているルイズに首を絞められるのも構わずにはしゃいだ。
タロウはゾフィーとゴルバーのほうに向きなおって、ゆっくりとうなづいて見せた。それはごく普通に自然に見せただけにしか見えないものだったが、フレイムは眼差しから伝わってくる生命の息吹を使い魔として感じて、歓喜の叫びをあげた。
「うおぉぉぉ! おれのご主人はやっぱり最高だぜ」
ゴルバーのゴルザの口から咆哮混じりの声が響くのを聞いて、タロウはもう一度うなづいた。
〔フレイム、いい子ね……〕
〔さあ、もう時間がない〕
〔わかってるわ。お願い、タロウ!〕
キュルケは自分の命を救ってくれたタロウに、命とともに希望を託した。
ウルトラマンの同化は単なる救命のためにあるのではない。ウルトラマンが守るのは単なる星ではなく、そこにいる命と未来である。ウルトラマンより強い怪獣や侵略者は大勢いるのに戦い、勝ってこれたのは守るべき人々の心が支えてくれたから。
タロウは、自らを犠牲にして仲間を救おうとしたキュルケの意思に、この星の持つ光を見た。二人の間にどんな交流があったのかは、時を改めて語られることだろう。
エースしかり、コスモスしかり。この世界にある命を抱き、その平和を望む心を受け取り、共に戦うことで力を受け取る。人の意志がウルトラマンの背を押すことに生まれた世界は関係ない。
ゾフィーとタロウは爆発の迫るハイパーゼットンを見上げてうなづきあった。
〔タロウ、あの怪獣のパワーを封じ込めるぞ〕
〔わかりましたゾフィー兄さん、あの方法ですね〕
飛び上がった二人はハイパーゼットンを挟むようにして滞空すると、両手を広げてハイパーゼットンを囲む光の輪を作り出した。
『ファイナル・クロスシールド!』
光はハイパーゼットンをカーテンのように囲んで、マグマのように溢れんばかりだったエネルギーが和らげられていく。
これは、かつてヤプールが究極超獣Uキラーザウルスとなって復活した際に、ヤプールを神戸沖に封印した技。しかしその時、この技を使用したウルトラ四兄弟は変身能力を失うほどにまでエネルギーを使いきってしまった禁断の技でもあるが、今回は違う。
〔ヤプールは膨大な怨念の力で抵抗してきた。しかし、意思のない獸などに我々は負けはしない〕
才人たちは、離れていても肌にびりびりくるようだった邪悪なエネルギーが消えていくのを感じて笑みを浮かべた。目の前にいるゾフィーとタロウは、ウルトラ兄弟でも最強の二人なのだ。
だが、喜んだのもつかの間、シールドに囲んだハイパーゼットンが暴れだし、シールドに亀裂が入り始めた。
〔むうっ!〕
〔まだ、これほどの力を!〕
ゾフィーとタロウの張った結界が破られ始めている。ハイパーゼットンが激しくもがくごとにシールドに亀裂が走り、エネルギーが漏れだそうとする。
このままじゃ! 才人たちは、シールドのパワーが不足しているのを見て悲鳴のように叫んだ。もちろんその光景はウルトラマンヒカリも見ており、ヒカリはすぐさま自分もファイナル・クロスシールドを張る輪に飛び込もうとしたが、そこへ街の外から無数の絶叫が響いてきて足を止めた。
「今の悲鳴は!」
「ちくしょう、外はもう持たないか」
イザベラはすぐに事態を察した。外で怪獣兵器を相手に防戦していたガリア軍がついに瓦解してしまったのだ。
このままでは蹂躙されて多くの犠牲者が出る。かといってシールドを破られてしまえばハイパーゼットンは再び暴れ始める。
二者択一、どちらも捨てるわけにはいかない。才人とルイズも、こんなときに戦えない自分への悔しさで歯を食い縛ったが、そのときミシェルが才人に背負われているルイズの耳元でささやいた。
「ミス・ヴァリエール、わたしの力をあなたに託す。行ってくれ」
「ミシェル? あなた、でも」
「この力は、きっとこの時のためにあったんだ。お前たちにしかできないことがあるんだろう? 今なら誰も見ていないから急げ」
「……借りだなんて思わないわよ。決着は、正々堂々つけるんだからね」
「なら、約束を果たせるようにさっさと行ってきてくれ。終わってからゆっくりサイトを貸してもらうからな」
「今度はキスはなしよ」
ミシェルは不敵に笑うとルイズの手を取った。才人が「えっ、キス? なんのことだよ」と、興味津々に首を回してくるが思い出すのも恥ずかしいので、ルイズはチョークスリーパーをかけて黙らせた。
そして、ミシェルの手からルイズの中に熱い力が流れ込んでくる。ミシェルの中に残っていたフェミゴンのエネルギーだ。エネルギーは枯渇していたルイズの精神力を回復させ、蘇ってくる力とミシェルの思いも受け止めて、二人は再変身を果たした。
「ウルトラタッチ!」
虹色の輝きが放たれ、光の洪水の中からウルトラマンエースが蘇る。
再変身を果たしたエースはすぐさまゾフィーとタロウの作った光の輪に飛び込み、自らのエネルギーを加えてシールドを安定させた。
〔ゾフィー兄さん、私も共に戦おう〕
〔エース、我々兄弟の力を合わせて、この星の危機を救うぞ〕
エースが加わったことでシールドが強まり、ハイパーゼットンのエネルギーをもう一度押し返し始める。
まだ油断は禁物だが、これで外のゼットンや怪獣兵器が強化されることはもうないはずだ。そして、後顧の憂いが無くなったことで、ヒカリはためらわず街の外へと飛んだ。
「セアッ!」
ひとっ飛びで無数の家屋や商店の天頂を渡ってヒカリは青い流星となった。
そのころ、郊外ではガリア軍が疲労を押して防戦を続けていたが、とうとう陣形を破られて総崩れの体を晒していた。
全身がボロボロになりながらも前進をやめないサドラの群れに、魔法を撃ち続けていたメイジの隊列が乱され、後方の弓隊や突撃兵も浮足立つ。魔法も矢も効かない、ましてや剣や槍しかない者たちに何ができようか。
このとき、イザベラについていき損ねていた元素の兄弟はガリア軍に混ざって身を守るのに専念していたが、彼らも肉体的なダメージはともかく疲労が限界に達していた。
「もうそろそろ、魔法で体をごまかすのも無理だよ」
「引き際だな。報酬は惜しいが、引くぞジャネット」
根を上げたドゥドゥーを見て、ジャックが憮然と告げた。イザベラからもらえるあての莫大な報奨金は惜しいが、命を失ってはなんにもならない。しかし、踵を返そうとしたジャックを目を輝かせたジャネットが止めた。
「待ってお兄様。わたしたちまだ、ツキが落ちてはいないみたいよ」
ジャネットの頭上を影を走らせて、青い巨影が飛び去ってゆく。そして人間たちを踏みつぶさないように絶妙な足さばきで着地したヒカリは、ナイトビームブレードの一閃で二匹のサドラをまとめて斬り倒した。
「セイッ!」
斬られたサドラが倒れて爆発する。ヒカリは人間たちを守って残る怪獣兵器たちの前に立ちふさがり、潰走に陥りかけていた人々は振り返って喜びの声を上げた。
「ウルトラマンだ!」
「おお、神よ」
人々の理性はすんでのところで恐怖に飲み込まれる谷間の手前でとどまった。
残る怪獣兵器はエレドータスやアリゲラなどが確認できる。ヒカリは、疲れ切ったガリア軍の有様を見て、彼らが戦うのはもう無理と判断した。果敢に怪獣兵器に挑みかかっていくヒカリの雄姿に、ジャネットはくすくすと微笑むのだった。
「やっぱり誰かと違って、日ごろの行いが良いと幸運もついてくるものだわ」
「ジャネット、その誰かって僕のことかよ?」
「やめろお前たち。確かにまだ運に見放されてはおらんようだ。まあ、それよりお前たち、まだだいぶ元気が余ってるようだな」
余計なことを言ってしまったとげっそりするドゥドゥーとジャネットを呆れたように見下ろした後、ジャックは戦うヒカリを見上げた。
神に祈ることはおろか、誰かに助けてもらうことなど思う余地もない傭兵稼業。しかし幼少期のない人間などいない。とうに忘れていた、荒唐無稽な英雄譚を一瞬だけ思い出したジャックは弟と妹を連れて、混沌の中へと戻っていった。
怪獣兵器に立ち向かうヒカリの視線の端で、リュティスで火柱が上がるのが見える。だがヒカリは戻ることはない。いかに厳しくても、あちらにも戦うことを決めた戦士たちがいるのだから。
「きゃああぁーっ」
「うあっちゃあーっ!」
シルフィードとフレイムの悲鳴が同時にあがる。ゴルバーの腹につけられた焦げ後……サラマンダーのフレイムですら熱いと感じるゼットンの火球の威力である。
二匹は力を振り絞って、この青いゼットンを食い止めようと試みていた。しかし、立ち直ったといっても怪獣としての実力差だけはいかんともしがたい。
それでも、引くわけにはいかない。自分たちが倒れれば、ゼットンはすぐさまシールドを張るウルトラ兄弟に攻撃を始めるだろう。それだけは、防がなければならない。
「負けないのね。シルフィは、おねえさまの役に立たなきゃいけないのね」
翼が焼けて痛む。ゼットンはこちらが大ダメージを受けたことを確認して、悠々と迫ってくる。それでもシルフィードはやせ我慢しようとしたが、そこにフレイムがふっと話しかけてきた。
「そうだな、おれたちは役に立たなきゃならねえ……だがよ青いの。お前はそれだけでいいのか?」
「こんなときになんなのね?」
追い詰められていて悠長におしゃべりしてる余裕なんか無いのにとシルフィードは憤る。しかしフレイムは落ち着いた様子で、シルフィードに言った。
「さっき、ご主人と少し話したんだ。おれたち使い魔はご主人の役に立つことが生き甲斐だ。だけど、いつまでも使い魔でいられるわけじゃない。寿命じゃ、どうしたっておれたちのほうが長生きする。いつか必ず来るそのとき、お前はどうする?」
「それは……」
「お前のご主人だって同じことを思ってるはずさ。思い当たる節、ちっとはあるだろ? なあ青いの、見せてみろよ。お優しい風韻竜じゃなくて、空の覇者たる風のドラゴンとしてのお前の姿をさ」
「は、しゃ……?」
「そうさ、お前は竜だ、ドラゴンだ! この世で一番強い生き物の血を引いて生まれてきたのがお前だ。余計なことを考えるな、お前の中にも必ずあるはずの、眠っている力を呼び起こしてみろ!」
「うう……グアァァーーッ!」
そんなことを言われてもシルフィードにはやり方がわからない。だが、自分よりも強いゼットンを目の前に追い詰められたシルフィードの中で、なにかがはじけた。
いつもの愛嬌のある声とはまったく違う太く凶暴な鳴き声がメルバの口から天に向かって轟く。その声の威圧感に、ゼットンは一瞬びくりと動きを止め、フレイムは確信した。
「青いの、お前やっぱりあれの……」
それはフレイムも一度だけしか聞いたことのない咆哮。火竜山脈に住んでいた頃、竜たちの抗争をただの一声吠えるだけで止めた古竜がいた。シルフィードの今の咆哮はそれと同じ。すなわちシルフィードには”王”になれる素質がある。
そして、王たる者が持つ特権とはただ一つ。それは。
「あっ、あれはなんだ?」
水精霊騎士隊の少年たちは空を見上げて叫んだ。空に開いた時空の穴から何かがやってくる。
歪んだ時空の混沌を通ってやってくるもの。それは魂、怪獣のエネルギー体だ。半透明の亡霊となってこの世にあらわれたそれらの姿は、巨大なハサミを持った甲殻類型の怪獣、鎌のような腕を持つ強固な外骨格を持つ怪獣、そして巨大な眼球を模した怪獣、ゾフィーの目を通して見たタバサは驚くようにつぶやいた。
「あの、怪獣たちは……!」
それら三体のうちの二体は、かつてガイアの世界にいたときに戦った超コッヴとガンQに間違いなかった。残る一体は、メビウスの世界に現れたレイキュバスである。それら三体の魂はゴルバーの前に降り立つと、なんと恭順を示すかのように揃って首を垂れたではないか。
「そうだ青いの! ”王”は、その威光で下々を従えさせるもんだ。今は借りもんの姿のおかげでも、何百年か先にはお前は本物になれる。その力で何ができるか、見せてくれよ未来の女王様!」
「グゥゥ、ギャオォェェーッ!!」
本能に身を任せた野生の咆哮が空気を震わす。その声に支配された怪獣の魂たちはゴルバーの中に吸い込まれるようにして一体化し、その最大の武器へと変化した。
「おおっ!」
右腕にレイキュバスの頭付きの巨大なハサミが現れ、左腕にはガンQの目玉がついた。胴体にも超コッヴの顔が現れてさらに屈強になり、ゴルザとメルバも合わせて五体の怪獣が合体した超合体怪獣へと変貌を遂げたのだ。
五つの力を統べる魔獣の王”ファイブキング”。その圧倒的なオーラと凶暴な咆哮は、シルフィードをよく知るジルをも「あ、あれがあの嬢ちゃんなのかい?」と、戦慄させるほどだった。しかし、その目をじっと見上げていたカトレアは静かに述べた。
「いえ、彼女はまだ自分を失ってはいませんわ」
その言葉の通り、狂気に染まっていたメルバの目が元に戻ってゆく。シルフィードは野生に取り込まれる寸前で、理性で本能を押さえつけたのであった。
「ハァ、ハァ……あ、赤いの、お前よくも無茶やらせてくれたものね」
「おお、お前よく戻ってきたな。おれはもう、野生に戻るしかあいつらに勝つ方法はないと思ったんだが」
「前に、そうなっておねえさまを傷つけてしまったときに誓ったのね。もう二度と、力に取り込まれたりしないって。でも、礼を言うのね……これだったら、あいつに勝てるのね!」
シルフィード、いやファイブキングは天を仰いで雄々しく遠吠えをあげた。
その強烈なオーラに当てられてか、青いゼットンは発光体を輝かせて一兆度の火球を放ってくる。だがあらゆるものを焼き尽くす火炎が眼前に迫る中で、シルフィードとフレイムは落ち着いていた。
「きゅいっ!」
ファイブキングが左手のガンQをかざすと、火球は目玉の中に吸い込まれるように溶けてしまった。
驚くゼットンの前で今度はフレイムが胴体の超コッヴの頭部に命令を送る。すると超コッヴが使うものと同じ破壊光弾が放たれてゼットンを揺るがす。
「どうだ虫野郎。おれたちの力はまだまだこんなもんじゃないぞ。おれたちは今、本物の”王”なんだからな。そうだろ?」
「王……そう、タバサおねえさまは、シルフィにとって王様なのね。なら、シルフィが目指すのは、王様を助ける王様なの! おねえさまが作る平和な世界を守る、あらゆる竜を統べる”女王”になってみせるのね! きゅいいいっ!」
大きな決意を胸にしたシルフィードの叫びとともに、ファイブキングの号砲がゼットンを揺さぶる。
だが、一時は気圧されたもののゼットンも体勢を立て直し、真っ向からファイブキングと対峙してくる。そのエネルギー量はファイブキングとほぼ互角。
ファイブキングは右腕の巨大なレイキュバスのハサミを振りかざし、全速でゼットンに突進していく。シルフィードが使い魔から一人立ちした偉大な種族の末裔としてふさわしい存在になるための戦いが、始まった。
一方、ガリアを離れた様々な地でも戦いは続いている。
その一つ、トリステインのトリスタニアでは街を破壊するゼットンに、ペダン星人ラピスの乗るキングジョーが奮戦を続けていたが、善戦虚しくついにその力も尽きようとしていた。
「ま、まだ、まだ……まだっスよ……」
ショートの火花が舞い散るボロボロのコクピット内で、血まみれの少女はそれでも操縦桿を握りしめ続けていた。
奇跡と呼ぶしかないほどしぶとく動き続けたキングジョーも完全に限界を迎え、金色だった装甲は黒々と焼けこげ、残骸も同然の有様となって瓦礫の中に横たわっている。
完全に勝負は決した。もう、何をやっても奇跡は起こらないという状況に、コクピットには円盤のジオルデから「逃げろ、脱出するんだラピス」という悲鳴にも近い声が響いているが、もう彼女にはコクピットから這い出す力も残ってはいなかった。
「せん、ぱい……ルビ、アナ、おじょ……」
息が切れる、目がかすむ。見えるのは、こちらにとどめを刺そうと近づいてくるゼットンの姿だけだ。
王宮のバルコニーから見守るアンリエッタも慟哭を抑えきれずに嗚咽をもらしていた。
「もうやめて、逃げてください……」
目の前で何の罪もない命が散ろうとしている。背中から伝令の騎士が「市民の避難はほぼ終わりました。あの者のおかげです」と報告してくるが、それで慰められるわけもない。
横たわって身動き一つできないキングジョーに、コクピットを踏みつぶしてとどめを刺そうとゼットンは足を持ち上げる。最後まで戦い続けた少女の瞳から涙が零れ落ち、無数の悲鳴がこだました。
「やめろーっ!」
だが、希望は潰えない。小さな命が摘み取られるのを許さぬと、天空に赤い光が輝いたと思った瞬間、真紅の流れ星がゼットンを吹き飛ばして降り立った。
あふれる光、爆発した光は燃える街の炎をも吹き消し、アンリエッタは、騎士たちやペダン星人たちは光が人の形をとっていくのを見た。
そしてラピスは、誰かが自分のキングジョーを優しく抱きかかえ、静かに地面に下ろしてくれたのを感じた。まぶたを開き、涙に濡れる幼くも澄んだ瞳に映ったのは、真紅に身を包んだ宇宙の勇者。彼はゼットンを見据えると背にまとったマントを脱ぎ捨て、戦に臨む獅子の咆哮を高らかに世界に鳴り響かせた。
「イヤアーッ!」
宇宙拳法の構えをとり、金色の瞳に闘志を燃やす。
アンリエッタたちトリステインの人間は初めて見るウルトラマンに唖然として声も出ない。だが、ペダン星人たちは知っていた。そして、起こるわけがなかった奇跡への感謝に胸を焦がしながら、彼の名前を噛み締めた。
「ウルトラマン……レオ」
続く