ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第47話  激闘レオ兄弟!トリスタニアを救え

 第47話

 激闘レオ兄弟!トリスタニアを救え

 

 宇宙恐竜 ゼットン 登場!

 

 

 滅亡が眼前に迫ったハルケギニアに、ついにやってきたウルトラ兄弟。

 ガリアにゾフィー、エース、タロウ、ヒカリを任せて、残りの兄弟は各地に散った。

 そしてここ、トリスタニアではルビアナの忘れ形見のペダン星人たちが奮闘していたが、その力も尽きようとしていた時に赤い獅子は降り立った。

 ウルトラ兄弟№7。ウルトラセブンの教え子にして宇宙拳法の達人、その名はウルトラマンレオ!

 

「イヤーッ!」

 右拳を引き、左の手の掌を敵に向かって突き出した構えをとってレオは吠えた。

 その声はトリスタニアに轟き、秘められた闘志を耳にした人々は息を呑んだ。

 アンリエッタを始め、人々は初めて見る目の前の巨人がウルトラマンらしいということ以外は何もわからず、ただ目を剥くしかできない。だが、それでいい。ウルトラマンが存在を示すのは言葉ではなく、いつだって守るために戦うこと、一つのみ。

 対峙するレオとゼットン、しかしそれは一瞬の均衡でしかなかった。レオが地を蹴り、そしてゼットンが腕を伸ばした次の瞬間、両者は激しく激突を始めたのだ。

「ヤアッ!」

 レオの拳とゼットンのチョップが空中で激突し、両者ともに弾かれたと見えた瞬間にはレオはすでに動いていた。

 弾かれた勢いを利用して体を回転させてゼットンの懐に飛び込み、胸にチョップを叩き込む。

 ぐらりと揺れるゼットン。しかしその程度ではこたえず、レオを捕まえようと手を伸ばしてくるが、レオは両手を振り上げながらゼットンの手を弾き、さらに振り上げた手を手刀にしてゼットンの首筋に向けて振り下ろした。

「イヤッ!」

 今度こそたまらずによろめくゼットン。どんなに強力であろうと、人形をしている以上は急所も人間に近いところにある。

 隙ができた。だがゼットンはその隙を強引に埋めようと、顔から白色光弾を乱射してレオの接近を阻もうとしてきた。

 白色光弾が乱れ落ちて爆発が広がる。しかしその中にレオの姿はない。ゼットンの動きをさらに先読みして、白色光弾が放たれる瞬間に空に跳び上がっていたのだ。そしてレオは空中で回転し、落下の勢いもプラスした強烈なチョップをゼットンの脳天に叩き込んだ。

『ハンドスライサー!』

 並の怪獣ならば真っ二つにする威力の赤熱化したチョップがゼットンの二本の角の間にクリーンヒットする。さすがゼットンだけあってそれで切り裂かれることは無く耐えきったものの、大きなダメージは避けられない。

 ぐらりと腰を折り、そのままゼットンは仰向けに倒れこんだ。レオに、苦し紛れの攻撃など通用しない。

「エイヤァ!」

 着地したレオは再び隙なく構えをとった。その雄々しい姿を見て、ゼットンの猛威に希望を失いかけていた人々の目にも光が戻ってくる。

 アンリエッタやマザリーニは、祈りながら始祖に感謝の言葉を呟いた。さらに燃え盛っていた街から市民を逃がそうと必死に走り回っていた騎士たちや銃士隊は、あのゼットンをあっという間に地に沈めたレオの強さに驚嘆の眼差しを向けていた。

「あの鉄のゴーレムでも歯が立たなかった怪物を、素手で!」

 魔法や剣が戦いの主軸のハルケギニアでは、拳法というものへの意識は希薄だ。しかし鍛え上げた肉体は自分への信頼と勇気に変わり、邪悪な力が振るう武器を打ち砕く。

 それにしてもあの巨人は何者? 名も知らぬ巨人の戦いに目を奪われつつも、人々がその疑問を浮かべたその時だった。大破していたペダン星人の円盤から、壊れかけたスピーカーでトリスタニア全域に放送が飛んだのは。

「皆さん! もう恐れる必要はありません。彼はウルトラマンレオ! 宇宙一の勇者で、あのウルトラマンエースの弟です」

 音割れの混じった声が響き渡り、それに半瞬遅れて歓呼の叫びが町中に響き渡った。

 万歳に交じり、レオを応援する声も昇り始める。だがレオが一番に目にし、耳にしたのは、安堵と疲労のあまり腰をついたり倒れて気を失った兵士や衛士の姿や声だった。

〔よく、ここまで耐えてくれた。君たちの仕事は、俺が引き継ぐ〕

 彼らは怪獣の恐怖や命の危険に耐え、街を守り、民を逃がすという仕事を果たした。レオの脳裏に、かつて生身で星人と戦い、その尊い命を散らしていったMACの仲間たちの顔が蘇る。彼らの頑張りを無駄にしてはならない。

「ヤアッ!」

 レオの声が再び空気を震わせる。けれどレオは決してゼットンをなめてはいない。なぜゼットンが倒れたときにレオは追撃をかけなかったのか? その理由は、倒れたゼットンの姿が消えてレオの背後に現れたことだ。

「危ない! 後ろだ」

 テレポートでダウン状態から一瞬で背後をとってきた。悲鳴が流れ、ゼットンの手がレオの首を狙ってくる。だが、悲鳴がレオに届くよりもさらに速くレオは腰を落としてゼットンの手をかわし、逆に虚を突いてゼットンのわき腹に肘打ちを命中させた。

「イヤッ!」

 雷が落ちたような轟音が鳴り、ゼットンはよろよろと後退した。

 むろん、その隙を見逃すレオではない。瞬時にゼットンの間合いに飛び込み、ハイキック、ミドルキックを連続して叩き込む。その連打に、ゼットンは自分の重心を安定させることもままならない。

 重心を保てないというのは、無重力の状態に置かれているも同然だ。当然、体勢を立て直す暇などは与えない。レオはゼットンの腕を掴んで空高く投げあげた……と、思った瞬間、宙に浮き上がったゼットンの足を掴んで地面に叩き落としたのだ。

「エイャッ!」

 まさかの二段投げ。体の正面から地面に叩きつけられたゼットンは地響きのあとに体をよじらせてもだえた。奇襲が成功すると確信していたゼットンの裏をかいて逆奇襲に成功したレオの戦略の勝利である。

 だがどうしてレオはゼットンがテレポートで不意打ちをかけてくるとわかったのだろうか?

〔やはり。兄さんたちの言っていたとおりだ〕

 そう、レオたちウルトラ兄弟はハルケギニアにやってくる前から相手がゼットン軍団だと知っていた。そこで、ゼットンとの戦闘経験のないレオたちにはウルトラマンやジャックから事前にゼットンについてのレクチャーがあったのだ。

 まさに、敵を知り己を知れば百戦危うからずの言葉どおり。戦いは技や力だけではない、それに知が加わってより引き上げるのだ。

 ただし、ゼットンも侮れない。レオの強さに圧倒されて少なからぬダメージを受けたものの、宇宙恐竜の異名は伊達ではない。感情なく無機質に起き上がって電子音を鳴らす。

 ゼットンに心は無い。しかし、ウルトラマンを倒すために調整された冷徹な機械のような頭脳がある。

 今、ゼットンはレオが強敵であることを認めた。そしてハイパーゼットンから送られたエネルギーで自らを強化するのと合わせて、そのエネルギーを分けることでこのトリスタニアの地に眠る凶悪な怨霊に再び肉体を与えて甦らせた。

「うわっ、地震か!」

 突然強烈な地響きが起こり、街全体が揺れ動く。

 この邪悪な気配は……レオが身構える中、街の一角から吹き出す一本の、いや二本の土煙。その中から姿を現した赤と青の二体の怪獣を見て、トリスタニアの人間達は忌まわしい記憶を甦らせた。

「あの怪獣どもは、あのときの」

「赤い悪魔バニラ、青い悪魔アボラス……」

 アンリエッタらは一年前のトリスタニアでの激闘を思い出して呻くように言った。かつてトリスタニアで猛威を振るい、エースとの激闘の末に倒された二大怪獣が怪獣兵器となって蘇ったのだ。

 しかもこのアボラスとバニラの二大怪獣はゼットンから直々にエネルギーを与えられて蘇生したため、ただのゾンビ状態の怪獣兵器たちとは違い、白目を剥いてはいるものの肉体はほぼ完全に再生し、生前の狂暴さが乗り移ったかのように叫び声をあげている。

「大変だわ!」

「いけませんぞ。いくらあのレオというウルトラマンが強くても三対一では」

 アンリエッタとマザリーニが悲鳴のように叫ぶ。二人とも、あの二体の怪獣がいかに強いかはよく覚えている。あれを倒すためにウルトラマンエースがどれだけ苦戦したか。

 アボラスとバニラは雄叫びをあげながら前進を始めた。不倶戴天の敵同士である二匹だが、生前の自分達を殺したウルトラマンへの憎しみが勝るのか、一直線にレオへ向かって行く。

 しかしレオはアボラスとバニラが背後から迫っているというのに、視線をゼットンに向けたまま動かない。

 なぜ? そのとき、レオと二大怪獣の間に赤く輝く玉が爆発とともに降り立ち、その中からレオと同じ姿を持つもう一人のウルトラマンが現れた。

「そっくりだ!」

「あれはレオの弟か」

 驚く人々。そう、彼こそレオの双子の弟、アストラである。

〔レオ兄さん〕

〔アストラ……いくぞ!〕

 背中合わせに立ったレオとアストラは短く言葉をかわすと刹那に地を蹴った。

 レオがゼットンに立ち向かい、アストラはアボラスとバニラへと挑みかかる。

 だが、アボラスとバニラという強力な怪獣二体を一人で相手にしようというのか? 否、そんな心配は瞬時に砕け散った。

「セイッ!」

 豹のような瞬発力でアボラスとの間合いを詰めたアストラは、アボラスが反応するよりも早くアボラスの大きな頭を狙ってキックを繰り出した。キックは炎をまとい、アボラスの頭にクリーンヒットして巨体を難なく吹き飛ばした。

 速い! 俊足を誇るグリフォン隊やヒポグリフ隊の隊員たちが驚く前で、アストラは今度はバニラへと向きなおった。

「ハッ!」

 バニラはアボラスが一撃で吹っ飛ばされたことを見て、アボラスが巻き込まれることも構わずに赤色高熱火炎を吐いてくる。迫る炎、しかしアストラはジャンプして炎ごと切り裂くチョップをバニラにお見舞いした。

『ハンドスライサー!』

 あの技はレオが使ったのと同じ! そう、レオと同じく宇宙拳法を修めたアストラはレオと同じ必殺技を繰り出すことができるのだ。

 肩口を切り裂かれたバニラは怒りの叫びをあげる。ゾンビになってもさすがの生命力だが、アストラは構わずにバニラの懐に飛び込むと肘打ちを腹にぶつけて姿勢を崩し、バニラの長い首を掴んで投げ飛ばした。

「ヤアァッ!」

 転がるバニラ。その後ろからはアボラスが迫ってくる。

 しかしアストラは二対一などまったく臆することなく立ちむかってゆく。アボラスの突進を正面から迎え撃ち、アストラの鉄拳がアボラスの腹にめり込んだ。

 

 むろんレオも負けてはいない。エネルギーを全開にしたゼットンに対して、さらに電光石火の攻めを繰り出してゆく。

「イヤッ!」

 レオのキックもパンチも炎を帯びてゼットンの体を削り取ってゆく。宇宙拳法秘伝の切れ味は怪獣の肉を切り裂き、骨を砕く。ゼットンもその例外ではありえない。

 体勢を崩したゼットンにレオのミドルキックが連続で決まる。腰を連打されて反撃もままならないゼットンに、レオは最後に腹にキックを加えて間合いをとった。

 距離の離れたゼットンに、レオはその手にエネルギーを込め、赤色のエネルギー弾にして投げつけた。

『エネルギー光球!』

 真紅の弾丸がゼットンを狙う。しかしゼットンは命中直前に体の周りに光波バリアーを張り巡らせて防いでしまった。レオの猛攻をしのぎきれなくても、スタミナで持ちこたえたのだ。

 このタフネスもまたゼットンの強みのひとつ。心がないということは、疲れて心が折れるということもない。ゼットンはお返しとばかりに顔から白色破壊光弾を連射してレオを攻め立ててくる。

 機関銃のように発射される白色破壊光弾。レオはその弾幕をバック転しながらかわしてゆく。かつて、ノースサタンの含み針攻撃をすべてかわすために特訓した身のこなしだ。

 レオに光弾をすべてかわされて息切れしたゼットンは一瞬レオを見失った。そしてレオはその一瞬に反撃のチャンスを見て空へ跳び、ゼットンの頭へ向かって合わせた手の先から必中の光弾を放っていた。

『ウルトラショット!』

 光弾はゼットンの頭に命中して爆発。さらに大きなダメージを与えた。

「イヤァッ!」

 着地して再度構えるレオ。その勇ましい姿を、大破したキングジョーから助け出されたラピスは傷の手当てをされながら眩しげに見つめていた。

「先輩、ウルトラマン……レオ、かっこいいッスね。あたし、ぜんぜん役に立てなかったッス」

「バカ、なにを言う。お前ががんばっていなければ、レオが来る前に街は壊滅していたろうよ。自信を持て、お前は英雄だ」

「う、うへへへ……これで、お嬢様も少しは褒めてくれるッスかね。がんばったかいがあったッス」

 半泣きになりながら笑うラピスの頭をなでながら、ジオルデは自分も緊張の糸が切れたようにほっとしながら遠くで戦うレオ兄弟を見た。

「ああ、後はウルトラマンにまかせよう」

 これで本当に自分たちはすべてが終わったと彼は思った。キングジョーは大破し、ペダン円盤ももう復旧不能。ここから先、自分たちペダン星人は完全にハルケギニアに帰化して生きていくほかはない。

 後はせめて、自分たちの安住の地を残してくれた亡きルビアナに恥ずかしくないよう生きていこう。

 大破したキングジョー、そしてペダン星人の円盤……だがその深奥で、誰も知らない秘密のプログラムが起動したのを、まだ誰も知らない。

 

 レオ兄弟とゼットン・アボラス・バニラとの戦いはさらに激しさを増してゆく。ゼットンはレオの猛攻に機械的に反応していたが、生命の危機に瀕して本能が警報を発し、なりふり構わずに反撃に転じてきた。

 暴走気味に振り下ろされてきたゼットンの手をレオは腕をクロスさせて受け止める。そして腕でゼットンの手をクラッチしてそのまま投げ飛ばした。

「ヤァッ!」

 転がされるゼットン。レオはさらにゼットンの上に飛びかかり、マウントからチョップの連打をお見舞いする。

 一方のアストラもアボラスとバニラを相手に互角以上の戦いを続けていた。

 アボラスの白色溶解泡が巨大な口から放たれてアストラを襲う。その威力は、優れた肉体を持つ初代ウルトラマンが瞬時にカラータイマー点灯に追い込まれてしまったほどの強力なものだ。アストラの体が泡に包まれて、アボラスは勝ったとニヤリと口元を歪ませたが、アストラは泡に体が侵食される前に体を縦に高速回転させた。

『ボディスピン!』

 たちまち遠心力で泡はアストラの体を溶かすことなく吹き飛ばされていく。これはレオが円盤生物ブラックドームのペプシン泡を食らったときに脱出した戦法だ。アストラは、レオの戦いをいつも見守っていた。

 必殺の溶解泡を無傷で脱出されて慌てるアボラスのボディを、アストラの必殺の鉄拳アストラアイアンパンチが鳴り響かせる。だがその背を狙ってくるバニラ。チームワークなど皆無の二大怪獣だが、逆に相手を巻き込むことを一切躊躇しないことが強みにもなっている。

 が、しかし。拳法に多人数との組手などは当たり前だ。振り返ることすらなくバックステップから放たれたひじ打ちがバニラの腹に食い込み、のけぞったバニラの首に逆立ちから足を絡ませて逆フランケンシュタイナーで放り投げる。

「ヤッ!」

 血反吐を吐くような日々の中で鍛錬してきた宇宙拳法。レオとアストラの放つその威力に砕けぬ悪など存在しない。

 レオの蹴りはゼットンの体を削り、アストラのパンチはアボラスの巨体を苦も無く押し返す。

 絶望に染まっていたトリスタニアに笑顔が戻っていく。猛攻に追い詰められるゼットンの頭の中には、生物的に生命の危機を感じる焦燥と、機械的に状況を打開しようという計算が混じりあって存在していた。

 ゼットンの計算では、敗北の確率は99%。これを回避するには? この戦況をひっくり返すには? ゼットンは再計算を繰り返し、レオが接近してきた瞬間にフラッシュ閃光を放った。

「ムッ!」

 目がくらまされ、レオの動きが一瞬止まる。むろん、止まったからとて隙を見せてはいないが、 ゼットンの狙いはほんの少しでもレオを足止めすることだった。レオが止まったその数秒にも満たない後に、悲鳴が響き渡った。

「ウワァ!」

〔しまった。アストラ!〕

 ゼットンはレオが視界を失った一瞬の間にアストラの背後にテレポートして、至近から火球を放ったのだった。常なら不意打ちにも対応できたかもしれないが、いくらアストラでも怪獣二匹を相手にしつつテレポートでの奇襲にまで対応するのは難しい。

 ダメージを受けたアストラに、アボラスとバニラも溶解泡と火炎を吹いて追い打ちをかける。

〔レオ兄さん!〕

〔アストラ!〕

 アストラの窮地にレオはすぐに駆け付けようとした。しかしゼットンはレオが近づいてくるのを察知すると、すぐにアボラスとバニラともどもレオに向かってきた。

「ムゥッ!」

 レオはすぐに迎撃するが、さすがに三匹が一度に相手では先ほどまでのように優位には戦えない。

 二匹を相手にしているうちに三匹目に攻め込まれたら無防備を晒してしまう。レオはゼットンの攻撃をガードしつつ、背後からのバニラの攻撃に回し蹴りで対処したが、そこへアボラスに巨体で突貫されたら防御が間に合わずに吹っ飛ばされてしまう。

「レオ!」

 人々の悲鳴が連鎖する。これがゼットンの頭脳が導き出した逆転策だった。二対一でも敵わないのならば、三対一で戦えるようにすればいい。レオとアストラを分断し、常に三対一で戦い続けるのだ。アボラスとバニラはゼットンからの念波でコントロールされ、ゼットンの手足となって狂いなくレオにさらなる攻撃を加えようとする。

 対抗するにはレオ兄弟も力を合わせなければならないが、レオ兄弟を分断したまま、三対一を保ってヒットアンドウェイを続けるのがゼットンの作戦だった。レオ兄弟の合流を阻止できれば持久戦で勝てるという、汚いが合理的なやり口だ。

 だが、ゼットンの計算にはミスがあった。三対一の状況を保てればレオ兄弟にも有利に立てる。確かにそうだが、それはレオ兄弟を助けるものがいないという前提にあるからだ。

「ウルトラマンを援護しろ!」 

 トリスタニアに残っていた騎士や兵士たちは最後の力を振り絞った。それは誰に命令されたからでもない、誰からともなく一斉に始まって一気に伝染した。

「女王陛下の国を守るのは我々の使命だ!」

「うおぉぉ!」

 騎士たちは残った精神力で魔法を放ち、兵士たちは大声で叫んで怪獣たちの気を引こうとする。否、それだけではない。わずか数発だが、どこからともなく大砲の弾が飛んできて怪獣たちの周りに炸裂したのだ。

「アンリエッターッ!」

「あれはアルビオンの、ウェールズ様の船!」

 いつの間にかトリスタニアの上空に、ほんの数隻だけだが軍船が浮かんでいた。

 トリステインの危機を救おうとアルビオンで兵を集めようとしていたウェールズの元にもオルレアン公の話は届いていた。だがかつて陰謀にはめられた経験のあるウェールズは嫌な予感に矢も楯もたまらず、小兵ながらもトリステインに舞い戻ってきたのだった。

 だがろくな準備もなく出港してきた軍船の砲撃はすぐに止まった。それは怪獣たちにかすり傷すらも与えられるものではなかったが、一瞬、ほんの一瞬だけ怪獣たちの気をそらすことはできた。

 そして、レオ兄弟にとっては、その一瞬の隙だけで十分だった。

〔飛べ! アストラ〕

「トアッ!」

 レオとアストラはゼットンの気が逸れた一瞬に高くジャンプした。そのまま落下の勢いを込めて大気摩擦で燃える赤い流星と化し、アボラスとバニラへと急降下していく。

『レオ・キック!』

『アストラ・キック!』

 超高速のダブルキックがアボラスとバニラをぶっ飛ばした。

 レオとアストラは着地し、一瞬の構えの後からゼットンへと打って出る。

「イヤッ!」

 短く跳んだレオの空中回し蹴りがゼットンの頭をはじき、続いてアストラの足払いがゼットンを転ばせる。

 倒れたゼットンにすかさず二人同時に真上からひじ打ちを加えて弱らせ、さらに両側から腕をとってひきずり起こしたまま放り投げた。

「ヤアアッ!」

 転がり、家々を押しつぶしながら泥にまみれるゼットン。その頭脳の計算機構は完全に混乱していた。なぜ、どうして計算が狂ったのだ? ウルトラマンと戦うことのみを目的として作られたゼットンは、人間をあまりにも計算に入れてなかったのだ。

 それでも心無きゼットンはあきらめることも逃げることもない。超獣と同じく、それが戦うことのみを目的として作られた怪獣の性である。

 ならば、眠らせてやることがせめてもの慈悲となるであろう。なおも起き上がってくるゼットン、さらにアボラスとバニラ。アボラスとバニラはゾンビでなければもう死んでいるほどの傷を受けていながらもなお憎悪をたぎらせている。

 その憎悪の炎、我々が消し去ろう。レオとアストラは最後の攻勢に打って出た。

〔ゆくぞアストラ!〕

〔はい、レオ兄さん!〕

 レオのパンチがアボラスを打ち、間髪入れずに放った手刀がアボラスの自慢の角を切り落とす。

 アストラはバニラに足払いをかけて転ばせ、特徴的な尻尾を掴んで豪快に振り回して投げ飛ばした。

 ゼットンにはもう二匹を指揮する余裕はない。そのゼットンに、二匹を退けてきたレオとアストラが前転からのダブルキックをお見舞いした。

「トアーッ!」

 なぎ倒されるゼットン。しかし、その背後からは死に体のアボラスがかつて悪魔と呼ばれた姿のように執念で溶解泡を吐きつけてくる。けれども、もう見切っているレオはバック転でかわし、アストラもジャンプする。

 むなしく瓦礫を溶かすだけで終わる溶解泡。だが、アストラがジャンプしてかわしたその先にはバニラが火炎を吐いて待ち構えているが、そうはさせじとレオが放った閃光がバニラを包む。

『スパーク光線!』

 銀色の閃光がバニラの全身を貫き、今度こそ完全に打ちのめした。

 さらにアストラも、もはや執念だけで動くアボラスの頭上へ向けて投げつけるように赤色の光弾を放った。

『レッド手裏剣ビーム!』

 光弾はアボラスの脳天で炸裂し、しぶとく動き続けたアボラスもついに断末魔をあげて崩れ落ちた。

 街からあがる歓声。しかし、街の人々はゼットンの顔面で太陽のように燃え滾る巨大な火球が形成されているのを見て愕然とした。

「な、なんだあれは!」

「あっ、あっちい! 皆、物陰に隠れろ。ものすごい熱だ」

 かなり離れているはずの騎士や兵士たちの肌を焼いたほどの熱。あれこそゼットンの最大の武器である一兆度の火球だ。ゼットンは残ったエネルギーのすべてをこれに込めてレオとアストラを焼き尽くすつもりなのだ。

 あんなものを食らえばウルトラマンといえどもひとたまりもない。避けるのは簡単だろうが、避けたらその先の街が危ない。ゼットンはお構いなしに火球を放つ。しかしレオは逃げることなく左腕にはめた金色の腕輪を手に取り、瞬時にマントの形に変えた。これこそ、レオの持つ万能アイテム・ウルトラマントだ。そしてレオはマントを振り回して念を込め、傘の形に変化させて一兆度の火球を受け止めた。

『レオブレラ』

 火球はレオブレラにはじかれて粉々に砕け散った。飛び散った火の玉が街中に降り注ごうとしたが、レオがブレラをマントに戻して投げると火の粉はすべてマントに掻き消されていった。

 マントの不可思議な力に人々は唖然となり、ゼットンは残った力をすべて使いきって膝をついた。

 さあ、いよいよ終わりの時だ。レオとアストラは瀕死のアボラスとバニラを頭上高く持ち上げると、ゼットンに向かって思いきり放り投げた。

「エイヤァッ!」

「ドァッ!」

 二体の巨体が宙を舞い、ゼットンを押しつぶす。

 レオとアストラは視線をかわすと、レオがアストラの前に片膝をついてしゃがみ、両手を頭上に上げた。そしてアストラがレオの手に自分の手を重ねると、極太の赤い稲妻が二人の手から放たれた。

『ウルトラダブルフラッシャー!!』

 光線はゼットン、アボラス、バニラの三怪獣を一瞬で包み込んだ。二人の力を合わせた超エネルギーは怪獣細胞の抵抗をものともせずに突き破り、そのひとかけらも残さずについに爆発の炎の中に消し去ったのである。

「やった! よおっし!」

 人々は舞い散る火の粉も風の中に消えていく光景を見上げながら、歓喜に満ちた声を上げた。この時ばかりは貴族も平民も関係ない。一時は完全にトリスタニアも終わりかと思ったのが救われた喜びを味わうのに、いちいち身分を気にしていられようか。

 このゼットンはトリステイン貴族の『妬み』のマイナスエネルギーから作られた。貴族社会の中で蓄積した、その負の想念の重さは確かに強力なものであったが、互いに思い合い、切磋琢磨を続けてきた本当の強さの前には及ぶべくもない。

 悪魔の起こした戦火は去り、トリスタニアには平和が蘇った。まだ消えぬ日食の淡い光が街と、街を守り抜いた人々を穏やかに照らしている。

 レオとアストラは喜びに沸き立つ人々を見回すと、満足そうにうなづきあって飛び立った。

「ダアッ!」

 レオ兄弟の姿が空のかなたへ消えていく光景を、人間たちやペダン星人たちは手を振りながら見送り続けていた。

 王宮でも、アンリエッタが胸をなでおろしながら表情をほころばせている。

「どうやら命を拾ったようですわね、枢機卿」

「もうこの老いぼれには縮む寿命もありませぬが、ひとまずは生きていることに感謝いたしましょう。『烈風』どの、あなたはついに最後まで手を出しませんでしたが、こうなることを予期していたのですかな?」

「まさか、私ももういい歳なのですよ。若者たちにはがんばって奇跡でもなんでも起こしていただきませんと。私が直接指導するよりは優しいのでまだ時間はかかるでしょうが」

 アンリエッタとマザリーニは顔を見合わせて乾いた笑いをこぼした。

 するとそこへ、上空の軍船から急いで降りてきたと思われるウェールズが、扉を破るように開けて駆け込んできた。

「ああアンリエッタ! 無事だったのかい良かった」

「ウェールズ様、よくぞ戻ってきてくださいました」

 熱い抱擁をかわす若者二人を横目で見てから、年長者二人は壊滅を免れたトリスタニアの街を見下ろした。

 これで少なくとも、トリスタニアを襲っていた脅威は消えた。街の復興は、避難していた人々が戻れば急速に進むだろう。しかし、恐らくは脅威の源泉はまだ消えていないはず。ここの他にどれほどで脅威にさらされているかはわからないが、トリスタニアでさえこうだったのだから、まだ予断を許さないはずだ。

 テレビも電話もないハルケギニアでは、世界の出来事を容易に知ることはできない。だが、老獪な洞察力を持つ二人は、これまでにない強さの怪獣の出現から新しいウルトラマンの登場までの流れを鑑みて、まだ終わっていないと直感していた。

 だが今さら自分達にできることはもう無い。あとは、それぞれの場所で戦っているであろう者たちの勝利を信じるだけだ。

 カリーヌは、カトレアやルイズたち、いずれ自分に代わってトリステインを守るべき若者たちの健闘に想いを馳せ、始祖に彼らに武運あらんことをと祈った。

 

 

 そして、カリーヌやマザリーニの想像したとおり、世界の命運をかけた戦いはまだまだ続いていた。

 各地で暴れるゼットンはあと三体。そのうちの一体である、ひときわ巨大なゼットンとの戦いはラグドリアン湖の近くで、モロボシ・ダンが率いるカプセル怪獣たちとおこなわれている。

 だが、町に近づこうとするゼットンを食い止めようと奮闘するカプセル怪獣たちは巨大ゼットンの要塞のような頑強さとパワーに打ちのめされ、三体ともボロボロになっていた。

「ウインダム、ミクラス、アギラ……」

 ダンは満身創痍のカプセル怪獣たちを見て悔しそうにつぶやいた。

 本来なら、とっくにカプセルに回収してしかるべきダメージ量だ。それでも彼らは限界を超えて奮闘してくれたが、これ以上戦わせては本当に死んでしまう。

 こうなれば、命を削る覚悟でウルトラ念力を使用する他にない。だがダンがそう決意しかけた時、空から超高速で回転する巨大なボールがラグドリアン湖に飛んできた。そしてラグドリアン湖周辺で暴れ回っていた再生ブラックキングを始めとする怪獣兵器に次々に衝突して粉砕していくと、最後にゼットンに正面からぶち当たった。

『ダイナマイトボール!』

 さしもの巨大なゼットンも、その勢いと威力に押されてよろよろと大きく後退した。

 そしてボールは変形を解くと、ダンの傍らに柔和な表情を持つ銀色の巨人となって降り立ったのだ。

〔遅くなりました、セブン兄さん〕

「おお、エイティ!」

 指先を敵に向ける独特の構えを見せ、ウルトラマンNo.9ことウルトラマン80がハルケギニアにやってきた。

 しかしゼットンはエイティの渾身の体当たりを受けながらも、後退しただけでダメージらしいものは何も見えない。それを見たエイティはダンの持つウルトラアイにカラータイマーからエネルギーを照射した。

〔セブン兄さん、一度分ですがエネルギーを補充できます〕

「十分だ。よし、ウインダム、ミクラス、アギラ、よくやった。戻れ!」

 ダンが手をかざすと、カプセル怪獣たちは光になって縮小し、小さなカプセルに返ってダンの手に収まった。GUYSからのマケット怪獣のデータで強化されたとはいえ、ここまで粘ったのは彼らの折れない意思があってのことだ。

 そして今度は、彼らの意思にこちらが答える番だ。ダンはウルトラアイを構えると、決意を込めて装着した。

「デュワッ」

 火花が舞い散り、テンガロンハットの風来坊が赤い巨人・ウルトラセブンの姿となってエイティの横に並び立つ。

 セブンとエイティ、対して二大ウルトラマンを前にしても巨大ゼットンは微塵も動じることなく、ゆっくりと前進を再開した。ゼットン軍団との次なるバトルの幕が、今上がる。

 

 そんな戦いの様子を、グラシエは安全圏から俯瞰しつつ、高笑いしていた。

「コングラッチェレーション! いやあ素晴らしい、ウルトラマンがこんなに続々と。これでゼットンの戦闘データはさらに充実するでしょう。それに……見ていますか”ヤプール”さん。あなたが必死にこちらの世界にやってくるのを邪魔したかったウルトラ兄弟の姿を。かつて、我々バット星人がウルトラの星を攻撃した時に、我々に宇宙警備隊を引きつけさせた隙に地球侵略を始めましたよね……我々をかませに使ってくれた屈辱、この世界にウルトラ兄弟を招くことで晴らさせてもらいますよ。ハハハハ!」

 グラシエの計画とは、単にゼットンの育成のデータ集めというだけではなかったのだった。地球からハルケギニアに移動しようとするウルトラ兄弟の介入してくるタイミングを操り、かつ地球側にハルケギニアの情報を流し続けておくことで、長年の恨みのあるヤプールに最悪の置き土産を残していくことが隠れた目的であった。

 どの道ハルケギニアへの侵略の意思などはない自分はウルトラマンが大勢来ようと問題は何も無い。まさしく一石二鳥、二つの世界の行き来を確実なものにしてしまうという点ではウルトラマンたちを手助けすることになるけれども、それを差し引いても嫌いな相手への嫌がらせというのは楽しいからいいのだ。

「フフフ、本当に自分の知略に惚れ惚れします。とはいえ、目を離すにはまだ惜しいですね。ウルトラ兄弟の皆さん、いくらあなた方でも残ったゼットン軍団とハイパーゼットンを止めてこの世界を守ることができますか? もっと、もっと魅せてくださいよ!」

 そう、ウルトラ兄弟が来ただけでは解決にはならない。この世界を襲う強大な悪を打倒するためには、奇跡をも超えた知恵と勇気を発揮し続けるしかないのだ。

 次なる敵は身長99.9メートルにも及ぶ巨大ゼットン。その姿は、別世界でバルタン星人が操っていた最終兵器に酷似しているが、ハイパーゼットンからのエネルギー付与を受けているので、その底力はまだ計り知れない。

 

 

 続く

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