ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第49話  ド・オルニエールの三人の勇者

 第49話

 ド・オルニエールの三人の勇者

 

 宇宙恐竜 EXゼットン 登場!

 

 

 トリステイン王国の山あいにド・オルニエールという地方がある。

 そこは領主不在で近年まで荒廃と過疎化を続けていたが、今は様々な要因が重なったことで農業と温泉を中心に地方起こしを成功させ、繁栄とまではいかないにせよ活気のある土地へと戻っていた。

 今現在では戦火を逃れようとする人々が集まり、一時的な避難場所となっている。

 しかし、人が集まる場所はその渦巻く感情によって怪獣を呼び寄せる。

 土地の住民と避難民が身を寄せ合うこの地を襲ったのは、EXゼットン。ゼットンの強化体であるその強固なボディから放たれる百兆度の火球はあっという間にド・オルニエールを灰燼に帰してしまうだろう。

 立ち向かったウルトラマンガイアとアグルのコンビの力を持ってしても、EXゼットンの驚異的な力の前には勝機を見いだせないままでいた。

 だが、そこに別次元から駆け付けたのはウルトラ兄弟の10番目ウルトラマンメビウス。時空を超えて結成された若きウルトラマンたちのチームがEXゼットンに対峙する。この対戦カード、相手にとって不足なし。

 

 三人のウルトラマンはそれぞれの構えをとってEXゼットンの前に立つ。対して、EXゼットンは横綱のようにどっしりした姿勢で、三人にも怯むことなく迎え撃とうとしている。

〔ゼットン……〕

 メビウスは威圧感を呑み込むようにつぶやいた。

 コンピュータデータ上ではあるが、メビウスはゼットンと戦ったことがある。強力なバリアーやテレポートに苦戦させられた、しかもこいつは一目で普通のゼットンより強く見える。

 通常のゼットンは無機質なイメージが強いが、顔の発光体が目や口のような形に大きく広がっていて強烈な殺意をぶつけてくる。肩にはスパイクがつき、体は装甲のようになり、まるで鎧をまとっているようだ。この無機質でありながら生物感が強く、生物兵器としての純粋な敵意を向けてくる存在感はかつて戦った円盤生物ロベルガーに似ていながらも大きく上回る。

〔気をつけてミライくん、こいつにはどこにも弱点らしいものが見当たらない。僕ら二人でも互角がいいところだった。悪いけど、君が加わっても勝てる確信はできない〕

〔わかっています。こいつ、どこにも隙がない。それに、すごいエネルギーだ〕

〔ほお、話通りちゃんとできる奴のようだな。こいつは、お前たちの世界のゼットンとかいう怪獣をさらに強化した上位個体、さしずめEXゼットンとでもいう存在らしい。来るぞ!〕

 三人に相談する暇など与えないと、先にEXゼットンが動いた。顔から一兆度の火球を発射してきて、とっさにかわしたメビウスたちのいた場所で爆発が起こる。

 散開し、攻撃体勢に入る三人のウルトラマン。ガイアとアグルに続いて構えをとるメビウスは、EXゼットンという名前を深く心に刻み込んだ。ウルトラ一族との宿敵ゼットンとの戦いがいつの日か再び訪れるであろう日のために。

 3方向に分かれたウルトラマンたちは、EXゼットンを囲んだ陣形から一斉に光線を放った。

『クァンタムストリーム!』

『リキデイター!』

『メビュームシュート!』

 二本の光線と一発の光弾が三方向からEXゼットンを襲う。回避する方向はない、身を守るためにはバリアを張るかテレポートで逃げるしかないと思われた。だが、EXゼットンはなんと腕を大きく振るうだけで光線と光弾を涼風や木の葉のように払い飛ばしてしまったのである。

〔そんな、素手で光線を!?〕

〔そうさ。こいつの体は僕らの常識を超えた強度でできてる。弱い攻撃はそもそも効かない〕

 メビウスはなぜガイアとアグルの二人でも苦戦しているかを明確に理解した。これは本当に、三対一でも油断できる相手ではない。

 だが驚く間もなく、EXゼットンはその太みの体躯から想像もできないほど素早くメビウスに突進してきた。

「ウワッ!」

 メビウスはとっさにガードしようとしたが、EXゼットンはメビウスのガードの隙間を一瞬で見抜いて手刀をメビウスの肩口に打ち込んでくる。

 のけぞるメビウス。EXゼットンはさらにキックを浴びせてメビウスを蹴倒してストンピングを続けようと足をふりあげてきたが、そこへ間一髪ガイアがタックルをぶつけて姿勢を崩し、アグルの鋭い手刀がEXゼットンの胸に火花を散らして押し返した。

〔大丈夫か?〕

〔大丈夫です!〕

 メビウスは元気よく答えた。助けに来たものが助けられていてはかっこがつかない。メビウスは素早く体を起こすと、今のアグルの手刀の一撃を参考にして、メビウスブレスから引き出したエネルギーを手刀に込めてEXゼットンに切りかかった。

『ライトニングスラッシャー!』

 赤熱色のエネルギー手刀の連打がEXゼットンの体を叩き続けると、EXゼットンからくぐもったようなうめき声が漏れた。

 よし、効いている。確かにすさまじい防御力の持ち主だが、決して無敵ではないとメビウスは確信した。やりようによってはダメージを与えられる、ダメージを与えられるのなら勝てる!

 メビウスの猛攻に負けていられないと、ガイアとアグルも再度突撃を開始する。

  

 そんな三大ウルトラマンの戦いを、ド・オルニエールの人々や各地からの避難民は固唾を飲んで見守っていた。元からそんなに広くないド・オルニエールには避難民を受け入れられる場所も少なく、多くが領地の中央にある湖の周囲でキャンプを張っていたが、そこからでも人々は戦いを見上げて騒然となっていた。

「ウルトラマン、がんばってくれ」

「うう、神は我々貴族にこの世を正しく統べる為に魔法をお与えくださったのではないのか? なぜ貴族の私がこんな目にばかり」

「あのウルトラマン、アルビオンで見たことがあるぞ。帰ってきてくれたのか」

「すごい戦いだ。これを本にすれば世紀の大作ができるぞ」

 思いは人それぞれである。良きも悪しきも無責任も、だがそういういろいろなものが混ざっているのが人の世なのだ。人は清い水にあこがれるが、水が清すぎれば魚も住まず作物も育たないのはなぜか? 多くの正義感に溢れた者がそこで間違える。

 一方で、ド・オルニエールに元々住む農民の老人たちは畑から離れずに泰然自若としていた。

「じいさま、なんで逃げねえだ? 命あっての物種だろ」

「馬鹿言え。こん歳で畑さ失ってなんのやり直しができるかよ。わしらが捨てずに育ててやっとここまできた農園じゃ。命さ惜しむは若けえのだけでええ」

「そんだ。荒れて死にかけてたここを、学者の先生たちや若え連中が生き返らせてくれた。わしらは余生でそれを守るのよ。わしらは貴族じゃねえが、死に場所くらい選ばせてくれや」

 踏みつぶされようと何の悔いも無いという風に農作業をしたりキセルを吹かしたりする老人たちは、後継ぎたちを逃がして常と変わらないようにふるまっていた。農民と言えど、ハルケギニアで老いを得るまで生きてきた者たちは肝が据わり、なにより後を託せる者がいる人間に恐れはない。

 人間は強い。地球でもハルケギニアでも、何度も人間は大変な危機に直面しながらもしぶとく生き延びてきた。しかし、それでも出ていい犠牲などというものはない。三人のウルトラマンはEXゼットンの隙を伺いながら、避難民や畑を背にするように構えて戦っている。

 EXゼットンを人間のいないこの狭いフィールドに押し込めたまま勝つ。それは難しいが、最初から他に選択肢はない。

「セヤアッ!」

 メビウスのキックが延髄切りとなってEXゼットンに叩き込まれるが、EXゼットンはビクともせずにメビウスの足を掴んで地面に叩きつけた。

「ウアァッ!」

〔ミライくん! でやあっ!〕

 メビウスを救おうと、ガイアはEXゼットンに突進した。しかしEXゼットンは単調な攻撃を読んで振り向きざまのチョップでガイアを弾き飛ばしてしまう。

「グアッ!」

〔我夢、無暗に突っ込むな。コンビネーションで攻めるぞ〕

〔藤宮、ああ!〕

 アグルの言葉に喜色を浮かべつつ、ガイアは答えた。

 横綱のようにどっしりとした構えで迎え撃とうとするEXゼットン。だが構わずに突っ込んだアグルの下からのキックがEXゼットンを空高く蹴りあげる。そして打ち上げられたEXゼットンを追って跳んだアグルはさらに下から蹴り上げて空高く打ち上げ、高度が極限まで達したところで逆に下に向かって蹴り下ろした。

「トゥア!」

 蹴り落とされたEXゼットンが地面に真っ逆さまに落ちていく先には、ガイアが待ち構えている。ガイアは体をスクリューのように回転させてEXゼットンに突っ込んだ。

『ガイア突撃戦法!』

 自らを巨大なドリルに変えての突撃は、アグルのパワーによる打ち下ろしも加えてEXゼットンの腹に深々と突き刺さった。エネルギーがスパークして舞い散り、なおも回転しながら突進を続けるガイアに、メビウスは「すごい……」と見いった。

 だがなんということか。EXゼットンはゼットン族の「ゼットン!」という鳴き声で太く吠えると、太い両手で回転するガイアを強引に握りしめて回転を止めてしまったのだ。

〔そんな!〕

 あの突撃を力業だけで止めてしまうとは! メビウスが愕然とする前で、EXゼットンはニヤリと笑うように頭部の発光体を明滅させると、ガイアを掴んだまま振り回し、アグルに向けて投げつけたのだ。

「ウアッ!」

「ウォアッ!」

 攻撃直後で姿勢が崩れていたアグルは避けられずにもろに食らってしまった。空中で折り重なって身動きができないガイアとアグルに、パワーを上げた10兆度の火球を放ってくる。ガイアとアグルは避けられない。だがそこへ、二人を守らんとメビウスが割って入った。

「タアアッ!」

〔ミライくん!〕

 メビウスの体を真っ赤に燃え盛る火炎が包み込んだ。

 太陽をもはるかに超える超高温の炎がメビウスを焼き尽くさんとごうごうと鳴動し、ガイアの悲鳴が響き渡る。しかしメビウスは炎の中で我が身を庇うことなく泰然と立ち、勇敢な声で答えた、

〔大丈夫です。こんな炎、僕の中の絆の炎のほうがもっと熱いです!〕

 メビウスは赤黒の炎を吹き飛ばし、その身に友情のファイヤーシンボルを刻んだ新たな姿を現した。

『ウルトラマンメビウス・バーニングブレイブ』

 燃える勇者の姿となったメビウスはEXゼットンを見据えて空中で構える。その雄々しい姿に、地上の人々だけでなく、ガイアとアグルも感嘆の声をあげた。

〔ミライくん、すごいよ!〕

〔あいつもヴァージョンアップ能力があったのか〕

 我夢も知らなかったメビウスの姿。邪悪を焼き尽くす正義の不死鳥。

 だがEXゼットンはメビウスがパワーアップしたのを見ると、落下の途中で背中についた巨大なカブトムシのような羽根を広げて、一転してメビウスに向かってきた。

「ヘヤッ!」

 空中でマッハで交差する両者。どちらにも有効打にならなかったものの、振り向いたメビウスは太陽を背にして羽根を広げるEXゼットンを見上げて息を呑んだ。

 それはまさに巨大な死の甲虫。アリジゴク怪獣アントラーのある種のものには羽根を広げて空中を飛べるものもいるらしいが、EXゼットンはその比ではないくらい大きな羽根と威圧感を持っている。なにより、ゼットンに自由に空を飛べる能力まで持ったらそれは……。

〔完全無欠……〕

 テッペイならそう言うだろうと思ってメビウスはつぶやいた。

 だが、臆することはできない。メビウスは恐れを振り払ってEXゼットンに飛び込んでいった。

「テヤアッ!」

 空中でダッシュをかけ、勢いをつけたメビウスパンチをEXゼットンの顔面へ向けて打ち込もうとする。だがEXゼットンはメビウスのパンチを受け止めて軽々と放り投げてしまった。

「ウァッ! ……シュアッ!」

 しかしメビウスも負けてはいない。放り投げられてもすぐに体勢を立て直し、反動をつけたメビウスキックをEXゼットンに叩き込む。

 これならどうだ。メビウス渾身のキックを受けて空中で後退するEXゼットン。しかし羽根を羽ばたかせてすぐに持ち直し、顔から無数の火球を連続発射してきた。

〔こいつは一兆度の火球の連射までできるのか!〕

 事前にゼットンの講習を初代ウルトラマンやテッペイから受けてきたメビウスも驚いた。数ある怪獣の能力の中でも最高峰に近い威力とされる一兆度の火球の連射。それだけでも冗談でない光景だが、ひるんでいる暇はない。メビウスは弾幕のように飛んでくる火球を必死で避けながら、避けきれないものはメビウスブレスから光刃を飛ばして迎撃していった。

『メビュームスラッシュ!』

 矢じり型の光刃が一兆度の火球を相殺はできなくとも自爆させていく。メビウスは回避と迎撃を駆使してEXゼットンの火球の弾幕を縦横に耐えしのいでいっていたが、空を埋め尽くすほどの火球の乱舞の前についに一瞬の隙が生じて火球の正面に身を晒してしまった。

〔しまっ……〕

 対処しきれない。メビウスが直撃を覚悟した瞬間だった。アグルがメビウスの前に割り込んで、火球をその身で受け止めた。

『ボディバリアー!』

 我が身そのものをバリアーとする大技が一兆度の火球さえも跳ね返す。しかしさすがに完全には無効化しきれずにアグルがよろめき、追撃をEXゼットンがかけようとした瞬間、ガイアが拳を突き出してマッハ20で突っ込んできた。

『ガイアV2パンチ!』

 ガイアの渾身の一撃が火花を散らし、ボディを揺るがされたEXゼットンは打たれた腹を押さえながらよろよろと後退していく。

 だがこれでもまだ致命傷にはほど遠い。ガイアはメビウスとアグルに向けて言った。

〔空中戦なら僕たちも望むところだ。三人で力を合わせて戦おう!〕

 ガイアも胸のライフゲージにエネルギーを集中させ、大地と海の力を全開で発揮する最強の姿へとチェンジする。

『ウルトラマンガイア、スプリーム・ヴァージョン!』

 たくましく筋肉の鎧をまとった雄々しい姿。メビウスは感嘆し、アグルは我夢の決意を悟った。

 スプリーム・ヴァージョンは圧倒的な力を発揮できるが、エネルギー消費が激しいので変身していられるのは一分足らずの諸刃の剣でもある。つまり、ガイア、我夢は一気にケリをつける覚悟だということだ。

〔はい、戦いましょう。あの時のように〕

〔まあいい。空で戦うほうが被害を気にしないですむ。奴を二度と地上に下ろすな!〕

 散開し、ガイア、アグル、メビウスは多方向からEXゼットンへの攻撃体勢に入る。すでに三人のカラータイマーとライフゲージは赤く点滅し、残り時間はわずか、この空中戦で決着をつける!

 白い雲がまだらに浮かぶ青い空。空気を切り裂き、雲を吹き飛ばしながら三人のウルトラマンと羽根を広げたEXゼットンが乱れ飛ぶ。

 飛行速度はガイアSVがマッハ25、アグルV2がマッハ23、メビウスがマッハ10。いずれも地球の超音速戦闘機を軽く上回る。

 対してEXゼットンはまるで空飛ぶ戦艦だ。速度や機動力では劣っても全身にまとった甲殻に死角はなく、防御力と火力にまかせて三大ウルトラマンに襲いかかってくる。

〔固まるな! 狙い撃ちにされるぞ〕

 アグルが火球の雨を回避しながら叫んだ。EXゼットンは速度は敵わなくても、一発でも当たればアウトな火球を乱射して攻撃してくるのだ。

 まるで流星雨かアステロイドベルトの中を進む小型宇宙船のようだ。一瞬の舵のミスが即・死に繋がる。三次元で目まぐるしく移り変わる上下の中で、メビウス、ガイア、アグルは隙を伺い続けた。狙うは、空中戦において必勝の位置である、敵の背後。

 メビウスがメビュームスラッシュで気を引いた隙にガイアがEXゼットンの背後に回ろうとするが、EXゼットンはメビュームスラッシュを真正面から受けながら突っ込んでくる。まるで豆鉄砲を意にも介さない重装甲爆撃機、火球の雨に追い詰められるメビウスをアグルのリキデイターの連射が火球を相殺して救い、そこに最高速で回り込んだガイアが巨大な光の刃をEXゼットンの背中に向けて放った。

『シャイニングブレード!』

 巨大な光のブーメランが狙いすまして突き進む。しかしEXゼットンはレーダー角で背後からの攻撃を正確にサーチして、全身を包む「シャッターバリアー」を展開してはじき返してしまった。

「なんてすごい空中戦なんだ……」

 もしこれを才人が見ていたらそうつぶやいていただろう。

 才人もゼロ戦を駆って空中を我が物にした空の勇者だが、三人のウルトラマンの飛翔はさらにさらに上を行く天翔ける流星そのものである。

 地上の人々も陽光に身を輝かせながら目にも留まらぬ速さで雲上、雲下を移り変わらせてゆく光の戦士と黒い魔獣の戦いを見上げ続けている。こんなすごい空中戦は、もう二度と拝めないに違いない。ド・オルニエールの片隅で、そんな張り詰めた空気とは裏腹なのんびりとした湯気を空にたなびかせる温泉でも、以前水精霊騎士隊の破廉恥騒動以来ここの管理人を任されている老人が、手のひらで日差しを避けながら空を見つめていた。

「若旦那様がた、平和になったらまた遊びに来てくだせえよ」

 ド・オルニエールに戦火は似合わない。貴族でありながら愉快だったあの若者たちと、またあの平和でにぎやかな日々を送りたい。始祖に願いながら、老人は避難民に解放するための湯舟を磨き続けた。

 平和が戻れば、またド・オルニエールには笑顔が溢れる。それを取り戻すのがウルトラマンの使命だ。

 だが攻めても攻めてもEXゼットンはこたえない。まだ足りないか。EXゼットンはお返しとばかりにガイアとアグルに向けてまたも火球を乱射してきた。必死にかわすガイアとアグルだが、火球の何発かが流れ弾となって地上の人々に落ち始めたのを見て背筋を凍らせた。

〔い、いけない!〕

 我夢は叫んだが、助けに向かえば自分たちが火球の直撃を食らう。ド・オルニエールの村や湖の人々の上に火球が落ちかけた、そのときだった。

『メビウスディフェンサークル!』

 メビウスが地上と火球の間に割り込み、∞の紋様を模したバリアーで火球を受け止めた。

「デヤッ!」

 火球を受け止めたメビウスは間髪入れずにすぐに別の火球の前へ飛んでバリアーで受け止め、さらに次の火球へ、さらに次の火球へと縦横に飛び回った。メビウスの脳裏には、かつて暗黒四天王のひとり策謀宇宙人デスレムと戦ったとき、デスレムの無数の火球からフェニックスネストを守ったウルトラマンジャックの姿がある。今の僕ならあれができると自信を持つメビウスの活躍で流れ弾の火球はことごとく弾かれ、地上の人々の間からは、自分たちを守ってくれているウルトラマンの勇姿に大きな歓声があがった。

 二人では手に余ることでも三人ならできる。メビウスの活躍で後顧の憂いがなくなったガイアとアグルは反撃に出た。二人は手から青白く輝く光の剣を引き出してEXゼットンへと斬りかかってゆく。

『アグルブレード!』

『アグルセイバー!』

 光剣を振りかざし、襲い来る火球をガイアはブレードを高速回転させて盾にし、アグルは斬りはらって進んでいく。そして二人はEXゼットンに同時に斬りかかった。

「デアッ!」

 ガイアの渾身の気合の入った一閃とアグルの無言の闘志のこもった一閃が走る。しかしEXゼットンは太い腕を盾にして防ぎ、わずかな切り傷を与えただけにとどまった。

 まだ浅い! ガイアとアグルの反撃でできた隙を使い、メビウスも左手のメビウスブレスから光剣を生み出して続く。

『メビュームブレード!』

 メビウスはブレードでEXゼットンの体を驟雨のように斬りつけた。無敵のEXゼットンだって全身の百パーセントが装甲であるわけがない。必ずどこかに弱点があるはずだと、跳ね返されても跳ね返されてもあきらめずに斬りつけ続ける。

 だがEXゼットンは高い知能と俊敏な動きでメビウスの斬撃を装甲の厚い部分だけで受け続け、致命傷になり得る箇所への命中を許してくれない。逆にメビウスのカラータイマーは点滅がどんどん限界に近づく一方だ。かといって攻撃の手を緩めればその瞬間に反撃に出たEXゼットンの一撃がメビウスを直撃するジレンマに陥りかけた時、二発の光弾がEXゼットンの背中を直撃した。

『『リキデイター!』』

 ガイアとアグルの放った二発がEXゼットンをわずかに揺るがせた瞬間、メビウスは全速でEXゼットンにすれ違いざまの一刀を振るった。

「テヤアアッ!」

 その一閃はEXゼットンの体を切り裂くことはできなかったが、羽根の一部を切り落としてEXゼツトンはぐらりと揺れた。

 そのおかげで追撃を免れて、メビウスは空中でガイアとアグルに合流した。

〔ありがとうございます。助かりました〕

〔僕らのほうこそ。それに、これで奴はもう自由に飛べない。大きな成果だよ〕

〔だが、限界なのは俺たちもだ。次のチャンスを作る余裕はないぞ〕

 アグルが息を切らした声で言った。メビウスもガイアもアグルもエネルギーが尽きかけたギリギリの状態で、もうメビュームバーストやフォトンストリームを撃つ余力すらない。見るべき成果と言えばEXゼットンの飛行能力を落としたくらいで、本体はまったく健在だ。これでどんな勝ち筋が残っているのだと? だがメビウスはガイアとアグルをまっすぐに見つめて言った。

〔方法はあります。僕たち三人の力を一点に集めるんです〕

〔そんなことはすでにやっているだろう……正気か、そんなことをすればお前の体が砕けるぞ!〕

〔僕を信じてください。僕もあなた方を信じています。いきますよ!〕

 メビウスは言い残すと、EXゼットンへ向けて一直線に飛んでいった。

 まっすぐに突っ込んでくるメビウスに、EXゼットンは当然火球を放って迎え撃ってくる。だがそれでいい! メビウスはくるりと方向転換すると、飛び蹴りの姿勢のままでコマのように急速回転を始めながら火球へと突っ込んでいった。

「タアアアアッッッ!」

 火焔がメビウスを包み込む。それを見たEXゼットンは全エネルギーを集中させ、これまでの火球よりはるかに巨大な、黒い太陽を思わせる超火球を発射した。これがEXゼットン最大の必殺技トリリオンメテオ・百兆度の火球だ。

〔ミライくん!〕

〔メビウス!〕

「ウルトラマン!」

 ガイア、アグル、眼下の人々の叫びがこだまし、百兆度の火球はメビウスを呑み込んで燃え盛る。しかし、メビウスの胸に燃える炎は千兆度よりも熱い。百兆度の炎さえも己が纏う翼に変え、メビウスは業火から甦る不死鳥のように炎の矢となって飛び出した。

『バーニング・メビウスピンキック!』

 超高速で回転するメビウスの生み出す遠心力が炎を取り込んで己の鎧としたのだ。だが、なんて無茶な賭けをするのだとガイアとアグルは愕然とした。下手をすればそのまま灰も残さず焼きつくされていたはずだ。

 それでも、完璧なゼットンに隙があるとすればここだけだというメビウスの賭けは成功した。EXゼットンは羽根を傷つけられて避けられず、メビウスは超速回転のまま真正面から突っ込んだ。

「やったか!」

 メビウスは確かにEXゼットンを貫いた……ように見えた。だがなんと、EXゼットンは先ほどと同じように回転するメビウスを素手で力ずくで受け止めようとしている。

 炎をまとったまま回転し、前進しようとするメビウスと、受け止めて押し返そうとするEXゼットンの間で炎と火花が無数に舞い散る。このままでは、どちらが勝つ? いや、カラータイマーが限界に来ているメビウスにもう力比べを続ける余力はない。ガイアはメビウスの言った言葉の意味を理解し、アグルを促した。

〔いこう、藤宮〕

〔正気か! そんなことをすればあいつもただではすまないぞ〕

〔彼はそうならないと自分を信じ、僕たちを信じてくれた。最大の力を同時にぶつけた一瞬で決めればダメージは最小限ですむ。僕らなら、それができる〕

〔……角度を間違えるなよ。それがすべてだ。いくぞ!〕

 意を決したガイアとアグルは空中で飛び蹴りの体勢をとった。そのまま足に大気摩擦で炎をまとうくらいの超高速で急降下していく。

『スプリームキック!』

『アグルV2キック!』

 急降下したガイアとアグルはそのまま回転するメビウスへ向けて、くさびへ打ち込むハンマーのように突っ込んだ。

「いけえええぇぇぇ!」

 三人のウルトラマンのパワーが一つになって、真っ赤に燃える超巨大なドリルとなって突撃してゆく。

 それでも押し返そうとするEXゼットン。だが、ガイア、アグル、メビウスの全開のパワーを、一点に、ただ一点に集中しきった破壊力は百倍にも億倍にも届く。そして大岩に穴を穿つ水滴のように、ついに三人の突撃はEXゼットンの鉄壁の防御を打ち破って貫通した。

 地上に降り立つ三人のウルトラマンの背中で、太陽に重なって胴体に巨大な風穴を開けられたシルエットを浮かばせるEXゼットン。そしてEXゼットンは、その身に蓄えた膨大なエネルギーに我が身を焼かれ、大爆発を起こして砕け散ったのである。

「やったぁ!」

「おおおーっ!」

 ド・オルニエールの人々から天を突くような喚声が上がった。

 EXゼットンは空の塵となって消滅し、三人のウルトラマンは疲れ切った体で、恐ろしい怪獣だったと息をついた。最後の一撃も、一歩間違えれば粉々になっていたのはこちらのほうだった。EXゼットン……その名と姿は、三人の胸に強く刻み込まれたのだった。

 ともかくもうエネルギーはからっぽだ。それでも、人々の喜ぶ顔と声が疲れを忘れさせてくれる。メビウス、ガイア、アグルは人々に向かってサムズアップを見せると、悪魔の消えた空へと飛び立った。

「テュワッ!」

「シュワッ!」

「トゥアッ!」

 ド・オルニエールに平和が戻った。いずれトリステインに平和が戻れば、作物が作られ、工房が動き、温泉に外からも人が集まってくるにぎやかさが帰ってくることだろう。

 だが、完全な平和を取り戻すにはまだ足りない。

 

 感情のエネルギーから作られ、ハルケギニアに散った三体のゼットンは倒された。

 ハイパーゼットンを除いて、いまだに暴れ続けているゼットンはリュティスでシルフィードとフレイムが戦っている青いゼットンが最後。いや、正確にはゼットンにされてしまったものがもう一体いた。

「ゼットン……ッ」

 トリステイン魔法学院。バルタン星人にゼットン細胞が投与され、ゼットンバルタン星人となったバルタンは、完全に破壊本能に取り込まれてしまっていた。うわごとのようにゼットンの鳴き声を繰り返すしかなくなっているが、あらゆる能力がゼットンとバルタン星人を掛け合わせて倍増したその力は、連戦に次ぐ連戦で消耗しきったコスモス、ジャスティス、そしてダイナの三人のウルトラマンを瀕死に追いやっていた。

〔ちくしょう、敵だけ何度も元気になるっていうのはズルいよな〕

 アスカでさえ弱音を吐きたくなるほど、ダイナたちの状況は最悪だった。カオスウルトラマンからの連戦はコスモスとジャスティスのスタミナを削りつくし、途中から参加したダイナもすでにボロボロだ。

〔ジャスティス……〕

〔戦いが、長引きすぎたか〕

 コスモスとジャスティスも膝をついて肩で息をしている。

 カラータイマーは三人とも激しく点灯し、三人のそれぞれの信念に支えられて闘う意思こそ揺らいではいないものの、体はもう限界だ。

 ゼットンバルタン星人は強力なパワーだけではなく、ただでさえ武器が豊富なゼットンとバルタン星人が合体しただけあって、攻めればバリアやデレポートで身を守り、こちらが攻めあぐねれば火球や光線で攻撃してくる。そこにまったく隙は無い。

 戦いを見守っている魔法学院の生徒や関係者たちも、濃くなる敗色に焦燥を深めていた。怯える栗色の髪の少女、男子生徒たちは杖を握ってはいるがその手は震え、食堂を死守するシエスタやメイド仲間たちも手に手におたまやフライパンを持っているが、すがるように祈りの言葉を唱え続けている。

 三人のウルトラマンに抵抗する力が残っていないことを悟ったゼットンバルタン星人は、学院ごと吹き飛ばそうと、特大の火球をチャージして両腕のハサミにも光線のエネルギーを溜め始めた。

 あれが放たれたらこのあたり一帯が丸ごと消滅する。ダイナたちはせめて学院だけでも守ろうと手を広げて受けとめようと構えるが、その時突然ゼットンバルタン星人は火球と光線のチャージを止めて空を見上げた。そして、なんだと思った瞬間に空から二つの赤い球がゼットンバルタン星人とダイナたちの間に降りてきて、まばゆい光を放ったのだ。

「うわぁぁっ!」

「こ、今度はなんだよお!?」

 光が周囲を隙間なく照らし出し、誰にも何もわからない。

 だが、しだいに薄れている光の中に見えてきた二つの巨影。筋骨隆々とした銀色の巨人と、彼とそっくりな姿だがスマートな体躯を持つ銀色の巨人。

「ショワッチ!」

「シュワッ!」

 あれは……また新しいウルトラマン! 生徒たちやメイドたちの間に驚きと歓喜の声があがった。

 そう、新しいウルトラマン……それは正解だが違うとも言える。

 初めて地球に降り立ち、最初に『ウルトラマン』と呼ばれた始まりのヒーロー、栄光の初代ウルトラマン。

 もう一人は、かつて新ウルトラマンと呼ばれたこともあり帰ってきたウルトラマンとも呼ばれた、銀色の流星ウルトラマンジャック。

 ゼットンバルタン星人はこの二人を本能的に強敵だと認識して構えを取り、対してウルトラマンとジャックも流れるように戦いの構えに入る。

 長きに渡ったトリステイン魔法学院の戦い。その最終ラウンドの幕が上がる。

 

 

 続く

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