第51話
闇をまといて光を走れ
超合体怪獣 ファイブキング
新宇宙伝説魔獣 メツオロチ 登場!
長く続いたゼットン軍団との戦いも、ついにリュティスでの青いゼットンとの戦いを最後に迎えた。
シルフィードとフレイムは偶然にも身につけてしまったファイブキングの力に戸惑いながらもそれを使いこなし、青いゼットンを追い詰める。
だが、青いゼットンを生み出した怪獣たちの怨念はゼットンを取り込み、さらに強大な存在を作り出そうと蠢く。そこから発せられる狂暴で邪悪なオーラはまるで魔王。
幸い、その進化の先に目指した存在にはエネルギーが足りず、進化は途中で止まってしまったが、魔王に届かない魔獣であってもオーラはなお強大。
悪意に満ちた遠吠えをあげ、暴れ始める魔獣の名はメツオロチ。星々を食らう生きた災厄として恐れられる伝説の怪獣だ。
そのパワーはファイブキングと互角かそれ以上。それでも、シルフィードとフレイムは戦えるのは自分たちしかいないと果敢に吠え返す。
このリュティスの戦いに勝利できれば、ガリアを翻弄し続けてきたバット星人グラシエの陰謀も潰え去る。だが、当のグラシエは涼しい様子で上空から成り行きを見守っていた。
「フフフ、素晴らしく順調です。やはりウルトラ兄弟とゼットンをぶつければ最高の戦闘データがとれるという私の読みは間違っていませんでした。これでハイパーゼットンの完成に、一歩も二歩も近づきます。思いもよらないアクシデントも起きていますが、それも楽しみましょう。そして……」
グラシエはファイブキングとメツオロチから目を離すと、封印エネルギーに呑まれつつあるハイパーゼットンを見下ろした。
「我がバット星の文明の粋を集めたハイパーゼットン。失敗作とはいえ、なめてもらっては困りますよ。フフフ……まあ、その前にこちらが収まればの話ですが」
不穏な言葉を口にして、グラシエは眼下の戦いに視線を向けた。だが腐り果てて行くハイパーゼットンに、これ以上なにがあるというのか?
いや、そんな心配をしている贅沢などない。まずは目の前の脅威、メツオロチを倒さなくてはその時点で終わる。そしてメツオロチと戦えるものはシルフィードとフレイムの二匹しかいないのだ。
「さあて、これが最後の一仕事だ。気合い入れろよ青いの」
「そうなのね。シルフィはもう今日だけで百年分は働いたのね。終わったらおねえさまに山ほどのお肉を食べさせてもらうのね。決めたのね、ツケは許さないのね。だからさっさと勝つのね!」
二匹とも、もう心身ともにヘトヘトだ。戦えるのはこれが最後……残った力を全てここに賭ける。
二匹の闘志を反映してファイブキングは雄々しく吠える。対してメツオロチも人間の悲鳴に似たおぞましい声で吠えてくる。それを最終ラウンドのゴングにして、二大怪獣は引き合うように互いに地を蹴った。
「赤いの、どうするのね?」
「今さらグダグダ考えてどうもなるか! 突っ込んで、ぶっ潰す!」
ファイブキングはレイキュバスのハサミを振り上げ、大質量のシザーハンマーとしてメツオロチの頭に叩きつけた。
激突。巨大なハサミが当たってメツオロチが苦しそうな呻き声をあげてよろめくのを見て、フレイムとシルフィードは確信した。攻撃が効かない相手じゃない。当たりさえできれば、倒せる!
しかしメツオロチもただで殴らせたわけではない。大振りをして隙を見せたファイブキングに向けて目を光らせると、手を伸ばしてレイキュバスの腕のひじの部分を掴んで動きを封じ、引き込む反動を利用してファイブキングのゴルザの顔面に足を叩きつけてきた。
「ぐぁっ!」
鼻面を打たれて悲鳴をあげるフレイム。さらにそれだけではなく、鋭い爪がメルバの頭もわしづかみにして締め上げてくる。
「うあぁっ、は、離すのね!」
ファイブキングは翼を広げてもがき、なんとかメツオロチを振り払った。しかし、先手を打ったのに受けたダメージはこちらのほうが多かったことに、フレイムとシルフィードはメツオロチが単に強いだけの怪獣ではないことを理解した。
「野郎、最初はわざと殴らせやがったな」
「それって、あいつに罠にはめられちゃったってこと?」
「ああ、ヤロウは悪知恵も働くようだぜ。最後のケンカの相手にゃふさわしいなあ」
「ちょ、お前、その体に引っ張られてないかなのね?」
元々サラマンダーなので好戦的な本能が蘇り始めたフレイムにシルフィードは少し引いたが、野生解放は悪いことではない。野生の世界は過去から未来への永劫に終わることのない生存戦争そのものである。獣同士の生きるか死ぬかの勝負に、紳士の心など必要ない。
がっぷりと四つにファイブキングとメツオロチは再度衝突した。互いに相手の攻撃が自分に致命打を与え得ると知っているだけに最初から全力だ。メツオロチが角を振り立てて体当たりしてこようとするのをファイブキングはレイキュバスのハサミで受け止めて、逆にヘッドバットを喰らわせる。
悲鳴を上げてのけぞるメツオロチ。さらなる追い打ちをと、ファイブキングは体をひねらせて長大な尻尾を鞭のように叩きつけようとする。が、メツオロチも同じように体をひねって尻尾を振りかざし、空中で二匹の尻尾がぶつかって強烈な衝撃波を生んだ。
「ぬぅ」
「きゃっ!」
猛烈な風圧が吹きつけ、見守っていたジョゼフは短くうめき、イザベラは悲鳴をあげた。
もちろん二匹にも風圧は押し掛け、ファイブキングとメツオロチは押し返されて数百メイルの間合いが開いた。
「にゃろう、殴り合いは同じくらいか」
「だったら今度は、飛び道具で勝負なのね!」
ゴルザの額とメルバの目が光り、合体光線ゴルメルバキャノンが放たれる。
これを受けて無事でいられるわけがない。だがメツオロチは体の回りにドーム型のバリアを張り巡らせてゴルメルバキャノンを受け止めてしまった。
驚愕するフレイムとシルフィード。さらにバリアはメツオロチの頭上で収束すると、そこから赤色の光線がファイブキングに向かって放たれた。
「きゅいい!」
「わかってる! 畜生」
ファイブキングはとっさに左手のガンQをかざして光線を吸収し、危うく難を逃れた。しかし、メツオロチは嘲笑うように喉を鳴らし、シルフィードとフレイムは歯ぎしりをした。
「今のって、シルフィたちの撃った力だったわ」
「ああ、やっこさんも光線を打ち返す力を持ってるってわけだ。ったく、めんどくせえ」
パワーは五分、互いに飛び道具を打ち消す力も持っている。どこまでもやりづらい相手だった。パワーで圧倒できただけ、青いゼットンの時のほうがやりやすかった。
しかし、お行儀のよいスポーツや貴族の決闘だったら反則だから出直せと言えるかもしれないが、ルール無用の獣の闘争に待ったはない。フレイムはサラマンダーの本能を、シルフィードは伝説の風韻竜ではなく狂暴なドラゴンの意識を蘇らせて吠える。
「ヴオォォォ!」
「きゅ、ギュイイイイ!」
ファイブキングが目を光らせて吠え、メツオロチも目を赤く輝かせて吠え返す。
二匹とも、次にやることはわかっていた。互いに飛び道具を無効化できるなら、ドンパチ撃ち合っても無意味。なら、相手を叩き潰すのにはどうするか? そう、肉弾戦しかない。
巨大な足を踏み鳴らし、二大怪獣が再び激突する。もうどちらも引く気はない。雄鹿が角を合わせた時のように、どちらかが死ぬまで戦い続けるだけだ。
ファイブキングの右腕が大きく振りかぶられ、レイキュバスのハサミがメツオロチの頭を狙う。並の怪獣なら頭ごと持っていくようなシザーハンマーが振り下ろされるが、メツオロチはなんとシザーハンマーを口で噛みついて止めてしまった。
「えっ!」
「青いの! そっちに来るぞ」
驚くシルフィードにフレイムは叫んだ。右腕を止められて動けなくなったファイブキングに、メツオロチの長い尻尾が槍のように伸びて突き刺しに来る。
危ない避けろ! シルフィードは串刺しにされまいと、半身を必死によじらせてかわしたが、メツオロチの尻尾の先端はファイブキングの翼の皮膜を貫いて裂いていってしまった。
「いった……くないのね!」
メルバニックレイがメツオロチの頭に撃たれて噛みつきが緩むと、ファイブキングの足がメツオロチの首を蹴り上げる。
噛みつきが外れた。フレイムは即座にファイブキングの腹にある超コッヴの頭からコッヴフラッシュの零距離射撃を食らわせてメツオロチを爆発に包むが、コッヴフラッシュを受けながらも前進してきたメツオロチの爪が超コッヴの頭を切り裂く。
「ぐぅっ! この野郎」
「赤いの!」
「ひるむな青いの。なんてこたねえ」
ファイブキングは大きな両腕を持つ分、完全に懐に飛び込まれてしまったら不利だ。メツオロチは歓喜と悲鳴が混ざったような声をあげながら、ファイブキングの体を鋭い爪で切り裂き、返り血がメツオロチを染めていく。
「お前、このままじゃ!」
「ひるむなって言っただろ! 引いたら負けだ、俺に構わず突っ込め!」
フレイムの血を吐くような叫びにシルフィードは意を決した。傷ついた翼を広げ、痛みに耐えてファイブキングはメツオロチに真っ向から体当たりをかけた。
「だりゃあぁーなのねーっ!」
ファイブキング五万五千トン、メツオロチ六万六千トンの重量が正面衝突して、衝撃波だけで周囲の家屋が倒壊させられた。
重さではファイブキングが一万一千トン負けているが、シルフィードが決死の思いで勢いをつけてぶつかったファイブキングは気合いが違う、覚悟が違う、根性が違う。ファイブキングの体当たりにメツオロチは当たり負けて仰向けに吹っ飛ばされて砂塵が舞い上がる。
「今だ!」
ファイブキングはジャンプしてメツオロチに飛びかかった。メツオロチの腹の上にのしかかり、ゼロ距離からのゴルメルバキャノンの接射でとどめを刺そうと目論むも、その狙いはメツオロチも読んでいた。
メツオロチの背中の翼についている無数のトゲから破壊光線が一斉に放たれ、数十の光の矢がファイブキングを貫く。
「ぐっ、があぁっ!」
至近距離からの光線の集中砲火を受けてはファイブキングもただではすまない。大きく爆発に呑まれ、絶叫するファイブキングに、タロウと同化して見守っているキュルケも胸をえぐられるような痛みを感じていた。
しかしフレイムはキュルケを失望させることだけはさせないと、痛みをおしてふみとどまりながら、起き上がってくるメツオロチにレイキュバスのハサミを伸ばして掴まえた。
「くたばれ」
メツオロチの首根っこを掴まえたレイキュバスのハサミで起こる爆発。メツオロチを掴んだまま、レイキュバスの火炎弾を発射したのだ。密着状態からの直撃に、首に焼け焦げた穴を開けられて苦しむメツオロチ。しかし、接射は発射したほうにも反動でダメージがいく。指を折られたような痛みに耐えるフレイムに、シルフィードは目を閉じて呪文を唱えた。
「我を包む風よ、赤の流れを我に向けよ」
「ん? あん? なんだ、急に痛みが引いて……?」
痛みに耐えていたフレイムは、急に腕の痛みが消えて戸惑った。しかし。
「ぐっ、うあぁぁっ!」
「おっ、おいどうした青いの?」
突然、シルフィードが苦しみだし、フレイムは慌てた。だがシルフィードは息を整えながら毅然と答えた。
「だ、大丈夫なのね。お前の痛みを、シルフィが引き受けるだけなのね」
「なっ、バカ野郎! こんな痛みを自分から受けるなんて、ガキが無茶するんじゃねえ」
「シルフィは、今できる精一杯のことをしてるだけなのね。覚悟って言うのよね? お前といっしょに最後まで戦う、この気持ちを受け取ってほしいのね!」
「この、女にそこまで言われて……雄の俺がかっこつけないわけにはいかないじゃねえか!」
情緒がぐちゃぐちゃになる思いを抱きながらフレイムは地を駆けた。
メツオロチに突進し、力ずくの頭突きを叩き込む。もちろんシルフィードにダメージが行くが、もう止まらない。
「うあぁっ、ま、まだいけるのね」
「上等だ。二人で最後まで、いこうぜぇ!」
至近距離から超音波光線と超コッヴの破壊光線を叩き込み、メツオロチの胸を焼く。怒るメツオロチの爪がファイブキングの首や胸を切り裂くが、止まらない、止まらない。
左手のガンQの頭をそのまま鈍器のように叩きつけ、メツオロチの腹に足を振り上げる。負けない、パワー勝負でも武器はたくさんあるのだから。
ダメージを無視するように攻め立てていくファイブキングは、少しずつメツオロチを押しつつあった。だが、メツオロチはファイブキングの捨て身の攻撃に「チッ」と舌打ちするかのように口元を歪めると、その口内に赤黒いエネルギーをチャージし始めた。
あれは? さらにメツオロチに重なるようにグエバッサー、スーパーグランドキング、マジャッパ、青いゼットンの亡霊が浮き上がり、メツオロチの口から赤黒い稲妻のような光線がファイブキングに向けて放たれた。
「吸収を、間に合わな!」
「きゃあああーっ!」
破壊光線の直撃を浴びて、ファイブキングはシルフィードの悲鳴とともに吹き飛ばされた。
その光景を見て、ゾフィーは驚愕した。メツオロチは本来、口から破壊光線を吐く能力を持たないはずだ。本来使わない能力を使ったということは、あのメツオロチは通常とは違う異常な進化を果たしつつある個体だということだ。
大きなダメージを受けて悶えるファイブキングに、「力を合わせられるのはお前だけじゃないんだぜ」とでも言うように、メツオロチはさらに口からの破壊光線『マガ迅雷』をチャージする。そして亡霊怪獣たちのシルエットとともに角を赤く光らせて放った一撃はさらにファイブキングを痛めつけた。
「く、くそお!」
苦し紛れに超音波光線を放つも、メツオロチの赤いバリアーに受け止められて、増幅して跳ね返される。ガンQの能力で防御しようにもダメージの蓄積で思うようにいかない。
このままでは……フレイムとシルフィードは焦った。自分たちがやられそうになれば、ウルトラマンたちは助けに来てくれるだろう。だがそれでは、自分たちが命をかけて戦った意味が無くなってしまう。
「ま、まだやれるよな、青いの」
「も、もちろんなのね」
「その意気だぜ……だが、もう持たねえ。なにか、奴に弱点はねえのか?」
フレイムもシルフィードももう限界だ。対してメツオロチはダメージを受けながらもまだ健在でいる。ここから逆転するのは簡単なことではない。
すると、シルフィードが息を切らせながらフレイムに言った。
「弱点……ならあるのね。シルフィ、見たのね。さっきあいつが稲妻を吐くとき、頭の角が赤く光ったの。きっとあの角が、あいつの……」
「なに? そ、そうか」
確かによく見ると、最初は白色だったメツオロチの角が赤い結晶のような色に変わってきている。あの角にエネルギーを集めているとしたら、あの角さえなんとかできれば。
「だが、折らせてくれと言って折らせてくれやしないだろ。どうする?」
「……あいつに無くて、わたしたちにある武器が、ひとつあるのね」
「ふん、上等だ。決める前に死ぬんじゃねえぞ!」
「お前こそ、決めそこなったらシルフィが食べてやるのね。きゅいいい! ああぁぁぁぁ!」
シルフィードは体の痛みをねじ伏せるように叫びながらファイブキングの巨大な翼を広げた。そのまま、空へ、空へと上昇してゆく。
この飛翔能力こそがファイブキングに残された最後の武器だ。そして、空を飛ぶことは風韻竜たるシルフィードの決して譲れない誇りでもある。空へ、空へ、もっと高く。
だが、メツオロチも逃がしてなるかと背部のトゲから無数の破壊光線を撃ってくる。フレイムはガンQの能力を使って光線を吸収して防ぐが、機関銃のように連射されてくるすべてを防ぎきれず、取りこぼした光線がファイブキングの体や翼に当たって、シルフィードを痛めつける。
「まだか、まだなのか?」
「まだ、あと少し……ようっし、いくのね!」
地上をはるか数千メイル。火竜山脈よりも高く、地上からはファイブキングが豆粒のようにしか見えなくなるまでシルフィードは上昇した。準備は完了、これからすべきことはただ一つ!
上昇する力を解除したファイブキングは、真っ逆さまに重力に導かれるままに降下を始めた。たちまち全身を風が切りつけ、重力が逆転した世界にフレイムは眩暈を覚えたが、この世界こそシルフィードのホームグラウンドだ。水を得た魚ならぬ、はるか上空から海中の一匹の魚を狙うカワセミのごとくメツオロチめがけて寸分の狂いなく飛び込んでいく。
「きゅあぁぁぁーっ!」
空気抵抗による乱流などものともせず、弾丸のように降下していくファイブキング。メツオロチも自分をめがけて突っ込んでくるファイブキングの殺気を感じ、破壊光線の雨あられを撃ち上げてくるが今度はこっちのものだ。
メルバの目を通して、シルフィードは自分に向かってくる数十の光紐を見た。地上にいるときはなす術なく食らうしか無かったが、この空では違う。メルバの翼の一片をも余さず神経を張り巡らせ、『空を切り裂く怪獣』と呼ばれたメルバの力にシルフィードの魂が宿って、その能力を開花させた。
「見える、見えるのね」
自分に向かってくる無数の光線がまるでスローモーションのようにはっきり見える。そして隙間無いように見えたその間隙を抜けるためのルートもはっきりと。
風よ、私を導いて……シルフィードは風の精霊と語らい、翼を動かした。すると、なんとファイブキングの巨体が光線の弾幕を踊るようにすり抜けていくではないか。
「なっ、す、すげえ」
エースの目を通して見守っていた才人も、今のファイブキングの軌道に目を丸くした。自分がゼロ戦を操ってもあんな動きはとても無理だ。
ファイブキングはひとひらの木の葉のように、無数に打ち上げられる光線の隙間を縫って飛び続ける。空一面を埋め尽くすような弾幕が、鈍重なはずのファイブキングを捉えることができない。
あのファイブキングがあんなに機敏に飛べるなんて。誰もがその光景を見て驚く中で、タバサだけはわかっていた。
「それが、あなたの本当の力」
この大空の中で、誰よりも速く、誰よりも自由なのが風韻竜だ。シルフィードは今、空の王者となったのだ。
ファイブキングから見える世界では、メツオロチから放たれる光線の雨あられがまるで自分を避けているようにそれていく。その痛快な光景にフレイムは子供のように叫んでいた。
「すげえ、すげえぜ。こりゃ最高の気分だ」
「風が導いてくれてる……ううん、シルフィが風と一つになってる。これが、これが本当に飛ぶってことなのね!」
何者でも捉えられない空の支配者。僻地に隠れ潜んだ一族が忘れてしまった風韻竜の本当の飛行を、シルフィードは思い出しつつあった。
弾幕を悠々と越え、みるみるうちにメツオロチが近づいてくる。だが誰もがその美しい飛翔に見とれる中でシルフィードの目は、その狙うべき目標を確実に見据えていた。狙うはメツオロチの頭部の角、チャンスは一度、刹那のタイミングにシルフィードとフレイムは心を合わせる。
「いっくのねえ赤いのぉーっ!」
「うおぉりゃぁーっ!」
ファイブキングとメツオロチのシルエットが交差した瞬間、ファイブキングは右腕のレイキュバスのハサミを振り下ろした。
着地し、勢いのままに土煙を上げながら滑降するファイブキング。手応えは……あり。そして半瞬遅れて乾いた音が耳に飛び込んできたとき、二匹は勝利を確信した。
「やった、ぜ……」
目元を一瞬影がよぎり、傍らのレンガの建物に折れた角が突き刺さる。振り返ったファイブキングの四つの目の先には、見事に角をへし折られたメツオロチの姿があった。
だが安心はできない。角を折られ、エネルギーの制御ができなくなったメツオロチは、悲鳴のように叫びながらところ構わず光線を撃ちまくり始めたのだ。
「うわっ、あの野郎暴走し始めやがった!」
たちまち周囲が火の海になっていく。怪獣四体分以上もの強大なパワーが行き場を失ったらどうなるのか? どう考えてもろくな結果にならない以上、やることはひとつ。フレイムとシルフィードの目が光る。
「青いの、もうひとがんばりいけるな?」
「きゅい、最後に派手なのいっちゃおうなのね!」
こちらももう限界、残ったエネルギーを全てくれてやる。
翼を羽ばたかせて数十メイル飛翔し、ファイブキングは暴走して四体の怪獣の亡霊を浮き上がらせながら暴れるメツオロチを見下ろした。
これが最後だ。メツオロチの口から放たれたマガ迅雷の極太の束が迫ってくる。だがもはやそんなものは恐れるに足りないと、ゴルザの額、メルバの目、超コッヴの頭、レイキュバスのハサミの付け根の口、ガンQの目が輝く。そしてファイブキングはすべての怪獣の必殺光線を同時にメツオロチ目掛けて発射した。
『超音波光線!』
『メルバニックレイ!』
『フラッシュコッヴショット!』
『グリップビーム!』
『ガンQビーム!』
それらがひとつに重なり合い、すべてを破壊しつくす崩壊の奔流と変わる。
『カタストロフィスパーク!』
ファイブキング最大の超必殺技が放たれ、マガ迅雷を軽々と押し返してメツオロチを包み込む。怪獣五匹分の破壊力を相乗させた破壊光線はメツオロチの体を突き抜けて焼き尽くした。
そして、メツオロチはゆっくりと倒れこみ、赤黒い爆炎を空高く上げて爆発四散したのである。
「おっ、しゃあぁーっ!」
「やったのねーっ!」
ファイブキングは空を仰いで両腕を高々と上げながら、勝利の雄叫びを天高く轟かせた。
最強の称号は、ファイブキングに……いや、フレイムとシルフィードが手に入れたと言っていいだろう。二匹の絆と闘志が困難を超えて、宇宙の災厄と呼ばれる魔獣を倒したのだ。
タバサとキュルケは喜ぶファイブキングの中の二匹を感じて、よくやった、あなたはわたしの誇りよ、と自分のことのように喜んでいる。それは見守っていた水精霊騎士隊やジルやカトレアも同じで、特にジルは、あのちんちくりんが本当に立派になったもんだと心からの笑みを浮かべていた。
だが砕け散ったメツオロチの爆炎の中から、グエバッサー、スーパーグランドキング、マジャッパ、そして青いゼットンの霊体が抜け出して空に消えていく。実体は失ったがまだ消えないその怨念を見送りながらゾフィーは、”あの邪悪な思念がまた何かのエネルギーと一体になれば今より恐ろしい怪獣になるかもしれない。今のメツオロチは何かが足りなかったのか進化が不完全で終わってしまったが、もし今後その何かを埋めるものを得て完全体になったとしたら……”と危惧して、もしあれがまた災厄をもたらす存在になったとしたら必ず封印しようと決意した。
そして、水の精霊のくれたハニーゼリオンの効果も切れる。ファイブキングの巨体がしぼんでゴルザやメルバのエネルギー体が抜けてゆき、どんどん小さくなって最後は瓦礫の山の中にシルフィードとフレイムが折り重なって倒れていた。
「はひー……よかった、元の姿に戻れたのね」
「さっすがに疲れたぜ。けどまあ、やってみたらなんとかなるもんだな。ご苦労様、青いの」
「もう、すっごく痛かったんだからね。死ぬかと思ったのね! でも、最後は思い切り飛べたからよかったのね。お前のおかげなのね、赤いの……ううん、フレイム」
「おっ、おいなんだ? 気高い韻竜様が下賤なサラマンダーの名前を呼ぶなんてよ」
フレイムが戸惑って聞くと、シルフィードは首を自分の背中で横たわっているフレイムに向け、頭を下げながら言った。
「今の戦い、シルフィだけじゃ、あの怪獣の力を引き出せなくて負けてたのね。お前が、フレイムがいてくれたから戦えた。フレイムが折れそうなシルフィを励ましてくれたからシルフィも頑張れたのね。ありがとうなのね」
「よせよ、照れるじゃねえか。おめえこそ、さすがに風韻竜ってやつは……いや、ちげえな。青いの、いや……シルフィードってやつはたいしたもんだぜ」
「きゅいきゅい、当然なのね。でも、あーあ、残念なのね。フレイムが風竜だったら最高だったのに」
「うっ、おめ……なあさ。今度、お前に教えてほしい魔法があるんだけど、いいか?」
「なんなのね? シルフィに教わりたいってことは精霊の力? まあサラマンダーには向いてないと思うけど、がんばればひとつくらいはできるんじゃないかね? それでそれで?」
シルフィードが好奇心を浮かばせて首を伸ばすと、フレイムはなぜか下を向いてぼそぼそと言った。
「……ごにょごにょ」
「聞こえないのね」
「……に、人間の姿になる魔法だよ! 俺が人間になって、シルフィードも変化すれば、ちょっとだけでもそれは、その……」
「えっ、おま、お前ももしかし……きゅ……わ、わかったのね。シルフィが……教えてやるのね」
顔を赤くしてそっぽを向いた二匹。この話を互いの主人が知ったらどんな顔をすることだろうか? だがまだ、二匹の秘密を知る者は誰もいない。
疲れきったフレイムとシルフィードは、折り重なったまましばらく休み続けた。ただその間、二匹は一言もしゃぺろうとはしなかったという。
しかしこれで、ハルケギニアに散ったゼットンたちはすべて倒された。
まだ蘇った怪獣兵器が少数各地に残ってはいるが、エネルギーの中継点となるゼットンたちが全滅した以上はもう増えることもパワーアップすることもなく、レオ兄弟たちなどによって間もなく鎮圧されることだろう。
残ったのは、ハイパーゼットン一体のみ。外部に放出したゼットンという端末が無くなった今がチャンス! その邪悪なエネルギーを封印しようとしているゾフィー、エース、タロウはファイナルクロスシールドに最後の勢いを加えた。
「シュワァッ!」
「ムウン!」
「トアァァ!」
ウルトラ戦士三人だけだが、今度はかつてとは違ってウルトラ兄弟最強のゾフィーとタロウが参加している。山のように巨体をそびえさせていたハイパーゼットンが地中に吸い込まれるように沈んでいく。
いけ、あと少しだ! 水精霊騎士隊の少年たちからの声援が後押しする。
そして、ハイパーゼットンはついに地中にその姿を完全に消し去ったのである。
「やったぜぇぇぇ!」
歓声が上がり、みんなに笑顔が戻った。
ハイパーゼットンは消え去り、ガリアに平穏な青空が戻った。そこに浮かぶ三人のウルトラマンを見上げ、イザベラもほっとしたような顔で手を振っている。
これで終わった……だが、本当にそうだろうか? 皆が歓喜に湧く中で、ジョゼフは一人だけいぶかしむ様子を崩していなかった。
「こんなもので終わりか?」
あのグラシエがあれだけ丹精込めて作ったハイパーゼットンが、いくら不完全体の失敗作とはいえこんなあっさり沈むものか? グラシエやチャリジャといった食えない連中をそばに置いてきたジョゼフはまだ勝利を信じられなかった。なによりも、シャルルが消えたというのにこの胸には何も感じないではないか。
するとそのときだった。地中から足元に微妙な振動が伝わってきたかと思うと、次の瞬間に街全体を揺るがすほどの地響きが鳴り始めた。
「なっ、なんだ!?」
「地震? いや、これはただの地震じゃないぞ」
その通りだった。地震というより、まるで巨大な生き物が地の底で暴れているような振動。
しかもこの揺れはリュティスだけではない。ガリアを中心に、ハルケギニア全体に及んでいた。
トリステインでもトリスタニアで始まった地震に、アンリエッタがウェールズやカリーヌたちとともに不安げに街を見下ろしている。ド・オルニエールやラグドリアン湖でも同じような鳴動が水面や森を揺らし、クルデンホルフ領でもベアトリスがエーコやティアたちと手を取り合って不安げな表情を浮かべている。
ゲルマニアやロマリアも同様だ。ガリアのリュティスを中心にして、不気味な地鳴りの範囲は広がり続け、止まる気配を見せない。
一体何が起こっているんだ? 人間たちもウルトラマンたちも、誰にもわからない。わかっているのは、なにかとてつもなく悪いことが起ころうとしているという確信に近い予感だけだ。
どうしてだ? ハイパーゼットンは完全に封印できたんじゃなかったのか! 皆の困惑をあざ笑うかのように、グラシエの心底愉快そうな笑い声が響いた。
「ハハハハ! 皆さん、期待をはるかに上回る見事な戦いぶりでした。よくぞ、あれだけのゼットン軍団とハイパーゼットンを打ち破りましたねえ。残念ながら、このハイパーゼットンはこれでおしまいです。ですがあなた方は一つ、大事なことを忘れていたようですね」
続く