ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第53話  新人女王様たちの憂鬱

 第53話

 新人女王様たちの憂鬱

 

 悪質宇宙人 メフィラス星人

 幻覚宇宙人 メトロン星人

 宇宙恐竜 ゼットン 登場

 

 

 ガリア王国。この大国の影で続いてきた陰謀と流血の長い長い歴史は、ジョゼフとシャルルの生命を引き換えにして、ようやくその幕を閉じた。

 しかし、劇とは違い、現実は続く。疲れた体を休ませる間もなく、傷ついたガリアを立て直す建設の時代は、すぐそこまでやってきていた。

 

 戦いが終わって数時間後。夕日が山の向こうに消えゆこうとしている時間、ガリアの郊外には多数の風石帆船が着陸している。タバサたちの姿は、その船団の中央に着陸している両用艦隊先代旗艦『アキーラ・ジキスムント五世号』の船内にあった。

「ルイズ、みんな。ガリアのために力を貸してくれてありがとう。ガリアを代表して、心から感謝を捧げます」

 ルイズたち一行を前に、タバサは深々と頭を下げて言った。

 タバサとイザベラの即位宣言からしばらくして、当面の問題はガリア軍とリュティスを焼け出された大勢の市民の生活をどうするかであった。市街は半壊し、とても市民を戻すことはできない。

 そこで苦肉の策として、ガリアから軍船や商船をかき集めて、民草の即席の避難場所とすることになった。ヴェルサルテイル宮殿も焼失しているので、この古びた軍艦が当面の王政府の庁舎となる。

 可能な限りの手配を行い、短い間隙の時間を使ってタバサはルイズたちと会っていた。しかし旧交を温める暇はなく、ルイズもすすけた顔を拭くこともなくタバサに尋ねた。

「タバサ……いえ、シャルロット陛下。これから、どうされるのですか?」

 友達としてきた相手に敬語を使う心地悪さを感じながらも、ルイズはまずそれを聞かないわけにはいかなかった。目の前にいるのは級友のタバサではなく、ガリアの女王の一人なのだ。タバサの采配ひとつでガリアだけでなくトリステインの命運も大きく左右される。

 無いとは思うが、タバサが危険な選択をするなら全力で止めなくてはならない。ルイズはトリステイン貴族としての顔でタバサに対し、タバサは小さくうなづいて答えた。

「やることは数えきれない。けどまずは、戦火に傷ついた人たちに住む場所と食べるものを与えなきゃいけない。それがわたしたちの王国の最初の仕事」

 タバサがそこまで言うと、傍らで腕組みをしていたイザベラが話を引き継いだ。

「わたしの顔でガリア中から支援物資をかき集める。けどそれだけじゃ間に合わない。だから、シャルロットのダチでトリステインの女王陛下にも顔のきくお前たちに頼む。トリステインと、できればアルビオンからも食糧支援を引っ張ってきてほしい」

「わたしたちに? イザベラ陛下、確かに、アンリエッタ女王陛下にお願いすることはできます。ですがこんなことを言ってはなんですが、戦乱の元凶であるガリアに支援をということを、女王陛下はともかくトリステインの人間が納得できるでしょうか?」

 ルイズの疑問ももっともであった。さんざんひどい目に会わされたトリステインの民たちは、ガリアが復興することを望まず、そのまま衰退するか滅べと思う者も多いだろう。しかしタバサは首を振って言った。

「今だからこそ、友好の可能性がある。わたしたち二人が国書を書くけど、ガリアはもう大国でいられる力はない。ゲルマニアなどが、ガリアの領土をいずれ狙ってくる。そうなればトリステインやアルビオンにとっても愉快な話ではないはず」

 タバサの話はこうであった。

 ガリア王国での内戦が終わり、ジョゼフ王の死去と新女王二人の即位が決まった報は即日ハルケギニアの全土へと伝えられた。

 当然、様々な混乱が起こり、今後のことを狙った権謀術数の種が各国のハイエナのような連中によって蒔かれるだろう。ゲルマニアだけでなく、トリステインやアルビオンの貴族の中にも、弱体化したガリアから資産を掠め取ろうとする輩が現れるかもしれない。そうなれば最悪だと内乱や紛争が始まる。

 だからこそ先手を打って悪い芽を潰す。今現在、ガリアの多くの人々の関心は、これからガリアは具体的にどう変わっていくのか、その上で自分の生活はどうなるのかで占められている。

 当然、食糧は家や財産を失った人にとって最大の関心ごとだ。そこまで言って、ルイズはタバサたちの意図を察した。

「そうか、トリステインが援助することで、トリステインの人間にはガリアに貸しを作ってやったと優越感を持たせ、ガリアの民にはトリステインが助けてくれたという感謝を持たせる。これを大いに広めて同盟に繋げようというのね」

「古典的な方法だけど、人々の心が大きく波打っている今なら強い効果が期待できる。もちろんガリアが復興した日には、惜しみ無く礼をすることは約束する」

 トリステインとアルビオンがガリアと親密な仲になれば、トリステインの不平分子も表だって文句は言えなくなるし、ゲルマニアもうかつにガリアに手を出すことはできなくなる。もちろんゲルマニアも表向きは友好を示してくるだろうが、小国や自治都市の連邦国であるあの国は皇帝の目を盗んで誰がどんな方法で野盗行為を働いてくるかわからないので信用できない。

 ともかく、短期間にガリアを安定させるには、トリステインとできればアルビオンが友好的に後ろ楯になっているという安心感をガリアの民に持たせなければならず、それができるのは今しかない。

「ルイズ、疲れているところ申し訳ないけれど、用意ができたらすぐにトリステインに飛んでほしい」

「わかったわ。ヴァリエールの名に懸けて、女王陛下を説得してみせる。けど、知っての通りトリステインも今は決して楽な有り様じゃないわ。多くは期待できないかもしれないわよ」

「承知している。それからはこちらでなんとかする」

 その眼差しの強さに、ルイズたちはタバサが本気でガリアを背負って立つ気だということを確信した。

「陛下……いいえ、あえてタバサと呼ばせてもらうわ。悪いことを聞くとは思うけど、魔法学院はどうするの?」

「中退するしかない。みんなと別れるのは残念だけど、ガリア王国を守っていくのがお父さまと約束した、わたしの仕事だから」

「そう、わたしも残念だけど、それがあなたの選んだ道なら仕方ないわね。あなたと机を並べられたことは決して忘れないから」

 じっと名残惜しげに見つめ合うタバサとルイズ。だがそこへ、キュルケが笑顔で二人の手を取った。

「なにを辛気臭い顔をしてるのよ二人とも。もう二度と会えないってわけじゃないんだし、もっと明るくいきましょうよ」

「キ、キュルケ?」

「今は大変でも、壁を乗り越えていけば落ち着ける日はきっとやってくるわ。そうしたらまたみんなで会えばいいじゃないの。学院だって、昔には王族がお忍びで通ったことがあるみたいだし、休学ということにしておけばいいわ。なーに、みんなでがんばればすぐよ、すぐ」

 キュルケに諭され、二人は心が少し軽くなる気がした。そしてキュルケはタバサの肩を持ち、ルイズに言った。

「わたしはここに残るわ。タバサには一人でも助けがいるでしょうし、ツェルプストーの名前が武器になることもあるでしょうから」

「キュルケ……わかったわ。タバサをお願いね」

 考えてみたらガリア女王の側近にゲルマニア有数の貴族の人間がいれば、他のゲルマニアの人間も手が出しずらくなるかもしれない。トリステインとゲルマニアの両方に顔のきく人間というのも、今のガリアが喉から手が出るほど欲しい人材に違いないことだ。

 ただ、それでもせっかくタバサのことを思い出せたのに、また当分お別れになるのは変わり無い。

「なによみんな、わたしはタバサを助ける気はあってもガリアに骨を埋める気はないわ。こんな国、あっという間に立て直してあげるから見てなさい。ルイズこそ、わたしがいなくなるからって授業をサボっちゃダメよ」

「だ、誰が! サボりの常習犯に言われたくないわ! ……二人とも、早く戻ってきなさいよ」

 キュルケは返事の代わりにニカリとした笑みで答えた。

 タバサも緊張がほぐれ、安心した表情を見せている。そんなタバサたちの様子を見ていたイザベラは「いい友達がいるな、シャルロットは」と、小さく呟いたが、それを聞き逃さなかったキュルケはがばっとイザベラを抱きしめた。

「なによ水くさいわね。タバサのお姉さんなら、もうわたしたちとも友達よ。仲良くしましょうねイザベラ」

「あっ、あわわわ! ぶ、無礼者! ガリア女王をなんと心得るか」

 いきなり自分のものの何倍もある胸で抱きしめられたイザベラは、あたふたしながらキュルケを振りほどいたが、キュルケは気にする様子もなく笑った。

「女王陛下、肩書きなんてものは見せびらかす相手にだけ見せるものよ。殿方の前でもないのにドレスを着っぱなしのレディなんていないでしょ? 正装するときと、私服でいるときは分けるべきだわ。あなた、気負いすぎてお風呂にまでドレスで入ろうとしてるように見えるわよ」

 うっ、とイザベラが口ごもると、キュルケはイザベラの肩を抱いて諭していく。

「もちろんタバサのためだけじゃないわ。あなた、すごくいい子みたいだから苦しむのは見たくないの。部下にはなれないけど、お友達として助けてあげたくなっちゃったわ。わたしじゃ、嫌?」

「い、いや……けどな」

「いいじゃないの、きっかけなんてそれくらいで。あなたたちのやろうとしてることは、あなたたちのお父様たちでもできなかったことよ。味方は多いに越したことはないでしょ? ちょうどここには、友達のためならなんでもできるお人好しが揃ってるんだからね」

 そう言ってキュルケはイザベラをルイズたちの前に押し出した。

「あっ……」

「……」

 何を言えばいいのかわからないイザベラ。初対面ではないとはいえ、タバサとは違って他国の女王を相手にうかつなことを言えないルイズたちが無言で見つめ合う。しかし、そんな陰鬱な空気を破ったのは、身分に執着のない無神経な馬鹿の言葉だった。

「タバサの従姉妹なんだっけ。おれは平賀才人、よろくしな」

「ちょ、ちょっとサイト!」

「なんだよ。キュルケが友達になるきっかけなんて大したことなくていいって言ったろ? おれはイザベラさんのことはよく知らないけど、タバサと仲いいなら悪い奴じゃねえだろ」

「あんたねえ、わたしたちみたいな貴族ならまだしも、その方は恐れ多くもガリアの女王陛下なのよ」

「トリステインの女王陛下と友達なのは誰だよ? 心配しなくても、おれだって人前じゃわきまえるからさ。てかガリアの女王陛下と友達になれたら、それってすげえアンリエッタ女王への貢献になるんじゃねえか?」

「サイト、あんたわきまえるって言葉を辞書でひいてみなさいよ。ああもうっ!」 

 才人の言い分に頭にきたルイズは、あっけにとられているイザベラを向いて言った。

「女王陛下、わたしもあなたと友人になりたいという気持ちはありますわ。ですが、わたしたちと友人になるということは、このバカたちともつきあわなきゃいけないってことになるますが、覚悟はおよろしいですか?」

「はぁ? バカって……確かにバカっぽい顔してるな」

 才人や水精霊騎士隊の顔を見渡したイザベラは正直に言った。これでも一番のバカ面はいないのだが、その率直すぎる感想にキュルケは吹き出して、才人たちは「誰がバカ面だ」と怒り出す。

 そのむきになる様をタバサは無言で見守っており、イザベラは呆れながら「お前はこんな奴らとつき合ってたのか?」と、本気で尋ねた。タバサは人形のように無機質にうなずき、イザベラは大きくため息をついた。

「かなわないわけだ」

 以前の自分は北花壇騎士団の優秀な人材を何人も抱えていたが、損得抜きで助けてくれる奴はいなかった。確かにこんな奴らが何の役に立つんだって間抜け面揃いだが、こいつらはそこいらの騎士なんか顔負けの成果を上げている。認めたくないが、こういう連中を味方につけられた何かが、自分との決定的な差だったのかもしれない。

 いや……と、イザベラは才人たちのアホ面に、しばらく会えていないデブのオリヴァンの顔を重ねて思い出した。あいつの家はうまく戦火を逃れられただろうか? メイドのアネットも……思えば、自分が大きく変われたきっかけはあいつらだった。

 あいつらのためにも、もっと強くならなければ……。

「フフフ……ハハハ! おもしろい。わたしについてくるならこれくらい無神経な奴らのほうがちょうどいいわ。だけどヒラガって言ったか? わたしと友達になったって遊んだりできるわけじゃないんだぞ。お前はどうするつもりだよ?」

「え? いや、友達ならいっしょに遊ぶもんだろ」

 あっけらかんと言った才人に、イザベラはあっけにとられてしまった。

「いいじゃん、別に王様でも女王様でも、いっしょにメシ食ったりゲームしたりすれば。そんなこともできないなら、なんのための女王様だよ」

「なんのためって……はぁ、やめた。まじめに話すのがアホらしくなってきた。お前、相当なバカだな」

「バカじゃねえよ! まあ、頭のいい奴はルイズとかタバサとかいるし、おれがお利口したって勝てるわけないからな。今度さ、人生ゲームとかウノとか作ってもらってくるからいっしょに遊ぼうぜ」

「……なんのことだかよくわからんけど、約束だぞ。ダチ公を裏切ったら死刑だからな」

「おう、今度はおれよりもっとバカな奴も連れてくるから楽しみにしてろよ」

 イザベラと才人は握り拳を軽く突き合わせて約束を交わした。その男友達みたいなあいさつに、腰が引けていた水精霊騎士隊の少年たちもイザベラに話しかけ始める。イザベラも、まるで少年のように軽口を叩きながら少年たちと小突き合い、その様子を見てタバサは目を細めていた。

 そして後ろから見守っていたミシェルも、イザベラとじゃれあう才人をじっと見守りながら頬をほんのり染めている。そう、その誰であろうと差別しない無神経さと紙一重の優しさに自分も救われて、そしてお前を好きになったのだから。

「お前の”好き”が、わたしだけのものだったらいいのに」

 それが無理なのは理解しつつ、ルイズへの嫉妬を覚えながらミシェルは小さくつぶやいた。

 けど、まだあきらめたわけじゃない。ちらりとこちらを見たルイズとウィンクを交わしあい、あの日の約束を続けていこうと、ミシェルは消えてしまったフェミゴンの炎の代わりに燃え続ける胸の中の炎に誓った。

 また、ルイズたちの成長を見て微笑むカトレア、タバサの成長を見てほんのり寂しさを感じるジル。その二人も、自分たちが彼女たちのためにできることはもう多くは無いことを知りつつ、まだ危うい若者たちを見守っていこうと誓っていた。

 

 そして短い休息と交流の時間を終えると、タバサとイザベラには政務が待っていた。

 なにせ、ジョゼフもシャルルもいなくなってしまった今、ガリアの臣民にとって頼れるのは新女王二人しかいない。ガリア軍には武官の貴族ばかりで、文官の貴族たちは散り散りになってしまっていて集めるのに時間がかかる。

 しかし、未来に不安を持つ民衆を待たせることはできない。早々に王権を安定させることを民衆に確約せねば、下手をすればまた内戦となる。

 この問題に、イザベラとタバサは、生き残った貴族を中心に王政府を再建すること。ガリア軍を解体して徴兵された人々を故郷に返すこと。そのためにトリステインやアルビオンに援助を求め、ゆくゆくは同盟に発展させていくことなどを基本方針とすることなどを発表した。

 速報はガリア軍とリュティスの市民たちにまず、続いて貴族の使い魔などを通してガリアの各部へと伝達された。大きな街では今日にも新聞社が号外を発行し、明日には文盲の平民しかいない小村にも伝令の役人たちが走るはずだ。

 とはいえ課題はまだまだ山ほどある。オルレアン公派とジョゼフ派を差別せず登用することは公開済みだが、激しく争っていた派閥の者同士がそうやすやすとわだかまりを捨てて一つ屋根の下で働けるものではない。もちろんこれは氷山の一角で、あらゆる方面に大なり小なり問題が山積みで数えきれないほどだ。

 それら政治、経済の課題を詳細に語っていたら辞書ができよう。それでも、それがタバサとイザベラの選んだ道だった。

「頼りにしてるよシャルロット。わたしは政なんてさっぱりなんだから」

「その代わりに貴族たちをまとめるのは任せる。わたしには王の威光というものは出せないから」

 玉座の前で、二人の半人前の女王は誓い合った。食堂の古椅子にカーテンの布を巻いただけの粗末な二つの椅子だが、これが今後のガリアの玉座となる。これまで一つであった玉座と王冠を、二人の代で二つに割る。しかし次の世代ではこれを一つに戻すのが、二人の女王の使命だ。

 夜遅くになるまで、二人の新女王は政策を巡らせ、命令を出し続けた。スケジュールなどというものはなく、とにかく後から後から湧いてくる問題を片付け続けるしかない政務。けれどタバサが考えて、イザベラが整理し決断して叱咤する。キュルケが手伝ってくれてはいるが、目が回るとはこのことだった。

 だがその懸命な姿に、まだ子供だろうと侮っていた大人の軍人や貴族たちの中からも、忠誠心を刺激される者が少しずつ現れ始めた。深夜に差し掛かる頃には、いつの間にか自主的に政務を手伝う貴族たちの姿が少数だが増えていたことを付け加えておこう。

 そして夜も更け、さすがに続きは明日にしようというところになってようやく今日の政務は終わった。軍の食料だった黒パンと乾燥野菜をワインで胃に無理矢理流し込み、イザベラとタバサは倒れるようにベッドに横になる。長かった一日がようやく終わり、星空の下で人間たちはいくばくかの疲れを癒す時間を得た。

 二人のいる船の中の船員たちも眠りにつき、ルイズたちも明日の出発に備えてすでに床に就いている。

 物音ひとつしない船内……だが、日付が変わってしばらくした深夜、船の甲板に足音を響かせる人影があった。

「……眠れない」

 呟きながら甲板に現れたタバサは、青い髪を風になびかせながら甲板の端から外を見下ろした。

 陸上に着陸している風石軍艦の甲板からは、リュティス郊外をほぼ見渡すことができた。シルフィードに乗っているときほどではさすがにないが、付近に停泊しているほかの風石船も灯りを落とし、草原を埋めるように並んでいるテントも最低限のかがり火を残して静まり返っている。

 それを見て、タバサは皆が疲れ切っているのだなと胸を痛めた。今回の戦いでは、家や財産を失ってしまった者が数えきれないほどいる。その責任はすべて自分たち王族にあり、その後始末をするのだと決めたはずだとタバサは自分に言い聞かせた。

 だが、はたしてできるのだろうか? 夜のとばりに包まれて眠る何万もの人々に、元の暮らしを取り戻させることが自分たちに。それを思うと自分も疲れきっているはずなのに睡魔を追い払ってしまう。

 不安はそれだけではない。今を乗りきれたとしても、ガリアという広大な大国を運営していくには、もっと大変な仕事が山ほどある。思えば、ジョゼフはなんと大きなものを動かしていたのだろう。無能王などとんでもない……まさに天才の所業だったのだと今ならわかる。

 大きい……あまりにも大きい”国”という存在。それでもガリアをタバサとイザベラの二人で支えていかなければならない。明日早くにはルイズたちはトリステインへ竜籠で旅立ち、みんなとの別れがやってくる。キュルケやジルはいてくれるものの、これまで背負ったことのない重荷にタバサの胸にも心細さがよぎる。

 ぐっと不安を押し殺すように杖を握りしめるタバサ。そこに、後ろから声がかけられた。

「よい子様に夜更かしは似合わないぜ」

「イザベラ……まだ寝ていなかったの?」

「人を幼児か年寄りみたいに言うな。お前といっしょだよ」

 イザベラは寝返りを何度も打って寝癖がついた髪をかきむしりながらタバサの隣に立った。

「眠って目が覚めたら、なにもかも夢だったってことになるかもと思った。けど、何度目を開いても、見えるのはきったないボロ船の天井だけだ。こんなことになるなんて、一年前は考えもしなかったよ」

「それはわたしも……ジョゼフに復讐を果たすはずが、ジョゼフに命を救われることになるなんて。でも、過去に囚われている場合じゃない。わたしたちは未来を作らないと」

「シャルロット、その顔は過去に囚われてないって顔じゃないぞ」

 イザベラはタバサの鼻の頭をつんとつついて言った。タバサは、イザベラの不意打ちに反応できなかったことで、よほど自分が不安を顔に貼り付けていたのだなと感じて、うつむくしかなかった。

 そうしてイザベラは船縁に腕を乗せ、さっきのタバサと同じように景色を眺めながらつぶやく。

「まあ、今のわたしにもわかるよ。エレーヌ……わたしたちにガリアを託してくれたお父様たちのためにも、逃げるわけにはいかない。でも、ガリアのために犠牲になってきた多くの人間たちは、本当にわたしたちを許してくれるんだろうか……?」

「……すべてを救うなんて、誰にもできない。わたしたちは、今できることをするしかない。努力が免罪符にならないとしても、そうしないと救える人も救えない。犠牲になった人たちにも、顔向けできない」

「なら、なんでそんな悩んだ顔してる?」

「……それは」

 タバサは口ごもった。正直、どうしてこんなに心が乱れるのか、自分でもうまく説明できなかった。

 するとイザベラは船縁に寄りかかり、満天の星空を見上げながら言った。

「わたしたちは、天に昇っていくお父様たちの魂を見た。少なくともお父様たちは、満足してあっちの世界に行ったのは間違いない。でもエレーヌは優しいから、ほかにガリアのために犠牲になった魂も、これで満足してくれるのか心配なんだろう」

「……そうかもしれない」

 タバサも空を見上げて答えた。

 ガリアのために犠牲になった人々は、大小数えきれない。そのうち生きている人たちにはなんとか償いをすることもできるが、死んでいった人たちははたして許してくれるのか。

 取り潰しになったオルレアン家の周りだけでも、解雇された使用人が大勢いる。オルレアン派の貴族たちの中には取りつぶしに会ったり、罪人として囚われた者もいる。そうして勤め先を失った使用人、仕える家を失った騎士などの数に目をやるとさらに膨大な数になる。しかも、路頭に迷うならまだ救いようがあるが、獄死したり野垂れ死にしたり、犯罪に手を染めた者たちは深い恨みをジョゼフ派と自分たちに抱いているはずだ。

 それなのに、ジョゼフ派を許して手を結ぼうという自分たちを彼らは許してくれるのだろうか? 死者の感情を政に配慮するなど、愚かでしかないのはわかっているが、踏み台にされた人々を割り切るには、あまりにも多くのものを見すぎてしまった。

「死んだ人間から許可をとるなんてできないんだ。慣れていくしかないさ。女王は生きている人間のために働くもんだろ」

「……わかってる」

 タバサはそう言ったものの、イザベラにはタバサがそう簡単に割り切れていないことは察せられていた。死んでいったものに縛られるというのは、人間だけが持つ感傷だろう。しかし、その感傷を捨ててしまえば、己の利益だけを追及するガリアの負の歴史の再現になる。

 どうすればいいんだろう、なあ父上?

 イザベラは心の中でジョゼフに尋ねた。もっとも、ジョゼフもシャルルもそれがわからなかったからこその前の世代の過ちであろうから、酷な質問であろうが。

 人はいつか必ず死ぬ。ならどうしてこの世でがんばる必要があるんだろう? 生死について考えるうちに、そんなことまで頭をよぎるようになってきた。

「父上、あんたはずるいよ。勝手に満足して空の向こうに行っちまって。死んでいった連中にまで報いたいなんて言う、このわがまま娘をどうしろっていうんだ?」

 すがるようにつぶやくイザベラの独り言に応える声はない。

 夜のとばりはまだ長く世界を包み、無音の世界をイザベラとタバサは無言で見つめ続けた。

 船べりから見えるたくさんのテント。停泊している風石船。遠くには荒れ果てたリュティスの街。

 そしてまた離れた場所には、ウルトラマンヒカリによって倒された怪獣兵器の死骸も片付けようがなく転がっている。

「あれも今はどうしようもないが、腐敗してくるようだったら早めになんとかしないといけないだろうな」

 イザベラは北花壇騎士団長だった頃の習慣で、何かしら問題があると解決案を考えてしまう自分に苦笑いした。

 だが、そうして怪獣兵器の死骸を眺めていると、イザベラの目に妙なものが映った。

「ん……? おいシャルロット! あれって」

「え?」

 タバサも言われて目を凝らした。すると、崩れ落ちている怪獣兵器サドラの体の上に立っている人影が見えたのだ。

「女の子?」

 遠くてはっきりとはわからないが、確かに人間であるようだった。サドラの死骸の上に、確かに長い髪をなびかせた少女らしき人影が立っている。

 しかしこんな夜中にいったい何を? すると、少女が手をかざし、サドラの死骸から小さな光の球が浮かび上がって少女の手の中に納まった。

 タバサとイザベラは目を見張る。今のは? 怪獣になにをしたのか? だが二人が動揺する前で、少女の姿は忽然と消滅してしまった。

「消えた!?」

「……イザベラ、あっち!」

 タバサが差した方向を見ると、少女は別の怪獣兵器の死骸の上に立っていた。

 その距離は数百メイルはゆうに離れている。人間技じゃない、まさか新しい侵略者のウチュウジンか?

 困惑する二人が見ている前で、少女は同じように怪獣兵器の死骸から光の球を抜き出すと、また別の怪獣兵器の死骸の上に瞬時に移動した。

「いったいどうやって移動しているの? ルイズのテレポートのようなもの?」

「馬鹿、似たようなものならなんだっていいだろう。けど、あいつはほんとに何をしてるんだ? くそっ、下手に騒ぎにしたら取り返しがつかないことになるし」

 応援を呼ぶこともできず、タバサとイザベラが手をこまねいていると、次々と怪獣兵器の上を移動していった少女は最後の怪獣兵器の死骸からも光の球を取り出した。そしてそれらを大事そうに抱えると、またフッと消えてしまったのだった。

「消えた……」

 あれは夢か幻だったのかと呆然とするイザベラ。まさか怪獣兵器たちがまた生き返るのではと冷や汗を流していたが、怪獣兵器たちは死骸のままでピクリとも動かない。

 タバサも、考えていた最悪の事態にはならなくて、ほっと構えていた杖から力を抜いていた。だが、背中からぞっとするほどの気配を感じて反射的に振り返った。

「後ろっ!」

「な、えっ!」

 なんと、あの少女はタバサたちのすぐそばの甲板に立っていた。

「い、いつの間に?」

 驚くイザベラ。タバサは油断なく杖を少女に向ける。

 対して少女は立ったままでじっと鋭い視線をタバサに向け返している。

「あなたは、誰?」

「……」

 少女は無言のまま答えない。タバサは杖を構えたまま、少女を観察した。

 遠くから見ているときはよくわからなかったが、少女は妙な格好をしていた。長い水色の髪に鋭い眼つきの顔立ちは美少女と呼んで差し支えないが、その頭からは二対の湾曲した角が生えている。体は裸体に近いくらいへそや肩甲骨周りの肌がむき出しだが、胸元や腰回りは黒い装甲のようなものに覆われていて、肩や腕にも黒い装甲をまとっている。そして首飾りから胸元へと黄色く輝くする縦長の結晶が吊られている。

 異国の衣装……? タバサやイザベラは一瞬そう考えたが、それにしても奇抜すぎる。だけどこの容姿はなぜか既視感がある……と、そこでタバサははっとした。二本の角に黒い装甲に黄色い結晶、まるでついさっき戦ったばかりの宇宙恐竜ゼットンと同じ特徴なのだ。

 じゃあ彼女はやっぱり人間じゃない? と、タバサがそう思って少女に問いかけようとした時だった。少女はくるっと振り返ると、そのままスタスタと歩いて行ってしまったのだ。

「え、えっ?」

「ちょ、ちょっと待てよお前!」

 タバサとイザベラは訳が分からないまま、とにかく少女を追いかけた。

 少女は遠慮なくスタスタと歩いて船の中に入ってしまい、二人は船内の廊下を駆け回った。

「なんだあいつ、こっちは走ってるのに追いつけない!?」

 相手は普通に歩いているだけにしか見えないというのに、どうしても追いつけなかった。タバサが魔法を使おうにも、こんな狭い船の中では余計な騒ぎになりかねない。

 そしていくらか走った末に、少女はあるドアの前に止まった。

「や、やっと追いついた。あ、あれ? こんなところに……あんなドアがあったか?」

「でも、追い詰めた」

 息を切らしながら二人はドアの前に立つ少女にじりじりと近づいていった。

 しかしなんということか。タバサとイザベラが手を伸ばす前に、少女はドアノブに手をかけることすらなく、ドアの向こうへとすり抜けるように消えてしまったのだ。

「消えた……やっぱりあいつは。ど、どうするよ?」

 動揺するイザベラが尋ねると、タバサは杖を握ってきっぱりと「行く」と答えた。

「行くって、わたしたちだけでか? 騎士団を起こしてからでも」

「時間を置いたら逃げられるかもしれない。わたしが様子を見てくるから、あなたはここで待ってて」

「待っててって、お前はもう花壇騎士じゃないんだぞ。ああもう、わかったわたしも行くよ!」

 こうなったタバサを説得しても無駄なことを知っているイザベラは、立てかけてあった掃除用のモップを手に取ってタバサに並んだ。こんなものでガンダールヴの力が発揮できる保証はないが、素手よりはマシだと思って恐る恐るドアノブに手を伸ばした。

「……カギはかかってない。行くか?」

 タバサはうなづき、イザベラは深呼吸して覚悟を決めた。

 こうなったら鬼が出るか蛇が出るか。ふたりはすぐに戦える姿勢でドアの向こうへと飛び込んだ。

 

 すると……。

 

「おや、お客さんかな」

 なんとそこでは、ひなびた和室になっていて、畳の上に置かれたちゃぶ台を挟んで二人の少女がお茶を飲んでいた。

「は?」

「え?」

 予想もしていなかったのどかな光景に……いや、タバサはともかくイザベラは和室を知らないのだが、昭和のアパートの一室のような牧歌的な光景に二人が毒気を抜かれて立ち尽くしていると、ちゃぶ台に座っていた二人の少女の内のひとりが立ち上がってタバサとイザベラに歩み寄ってきた。

「ようこそウルトラセブン、我々は君が来るのを待っていたのだ」

「は?」

「歓迎するぞ、なんならアンヌ隊員も呼んだらどうだ?」

「いや誰だよ! てかお前ら誰だよ」

 いきなり訳の分からないことを言ってくる少女に思わずイザベラは突っ込んだ。

 よく見るとこの少女も奇抜な格好をしている。赤いレオタードのような服に、頭には大きな赤いとんがり帽子をかぶっている。タバサもどう反応していいかわからずに目を白黒させていると、ちゃぶ台に座っていたもう一人の少女が呆れたように言ってきた。

「お前な、誰にでもそのパターンに持ち込もうとするな。見るからに困ってるじゃないか」

「そうだろうねぇ」

「このっ!」

 なぜかもう一人の少女は怒ったような反応をした。こちらの少女は黒いスーツのような服を着ていてそこまで奇抜ではないが、頭に青い大きなサングラスのようなものをつけている。

 しかし赤いとんがり帽子の少女は意に介した様子もなく、タバサとイザベラをちゃぶ台に誘うと、二人の前に缶飲料を置いた。

「なんにもないところだけどゆっくりしていってね。はい、眼兎龍茶」

「これはご丁寧にありがとう」

「って! そうじゃないだろ。お前らなんなんだ。明らかにこの船の乗組員じゃないだろ」

 イザベラがじれて怒鳴ると、黒スーツの少女がピンときたようにタバサとイザベラを指差して言った。

「お前たち、あっちの人間かよ。まったくあいつめ、”扉”を閉めるのを忘れたな」

「扉? 扉って。ここはジキスムント号の中じゃないの?」

 呆れた様子で頭を抱える黒スーツの少女に、タバサとイザベラは忘れかけていた危機感を思い出した。

 やはり彼女たちはただ者ではない。しかしタバサが問いただそうとする前に、部屋の中にまたあの黒い装甲をまとった少女が突然現れた。

「わっ!」

「忘れたわけじゃ、ない……招待しろと、言われた」

 びっくりするイザベラのすぐそばで、黒い装甲の少女は無表情のままたどたどしく言った。

 目を白黒させるイザベラ。タバサは杖を握ったまま神経を研ぎ澄ませているが、ここは相手のフィールドな上に、相手が敵か味方かもわからないままでは攻撃できずにいると、黒スーツの少女がちゃぶ台に面杖をついてため息交じりに言ってきた。

「はぁ……メトロン、お前たちまた私に秘密で何か企んだな」

「へへ、隠すつもりはなかったんだけど、急に決まったことだったのでね。校長先生の意向で、そこのお二人をね」

 なにやらわいのわいのと話し始めたとんがり帽子の少女と黒スーツの少女。どうやら敵意は無いようだが、狙って自分たちをここに呼び寄せたようだ。

 とにかく相手の意図がまったくわからない。問いかけようか迷っていると、黒スーツの少女が立ち上がって手を差し伸べてきた。

「校長の考えはよくわからないが、とにかくお前たちは客人としてここに招かれたらしい。案内役を私が頼まれたからついてこい」

「ちょっと待って。その前に、あなたたちは誰なの? それに校長と言っていたけど、ここはどこなの?」

「あー、そこからか。校長め、急にメトロンに呼びつけられたと思ったら手間なことは丸投げしてくれやがって。ここはウルトラゾーンにある『怪獣墓場学園』で、私たちはその生徒の『擬人化怪獣』だ」

「ギジンカカイジュー? 怪獣墓場学園?」

 聞きなれない名前にタバサとイザベラが困惑していると、黒スーツの少女は胸に片手を当てて誇らしげに二人に笑いかけた。

「まあなんにせよ。お前たちはここに来た初めての”生きたままの人間”だ。丁重に扱うから安心しろ。私はメフィラス、あのウルトラマンと引き分けた有名なメフィラス星人だぞ」

 ドヤ顔で自己紹介したメフィラスに続いて、とんがり帽子の少女も二人の前に立ってあいさつした。

「急に呼びつけちゃってごめんね。私はメトロン、『狙われた街』のメトロン星人だよ。そっちの口下手な子はゼットンちゃん、ちょっとムスッとしてるけどとてもいい子だから仲よくしてね」

「い、いやいや待てって。ちょ、ちょっと情報量が多すぎる」

「あなたたちは人間の姿をしてるけど、怪獣なの? ここでいったい、何をしているの?」

 イザベラもタバサも混乱の極みだ。それでもなんとか平常を保とうとしているタバサが問い返すと、それぞれ怪獣の名前を名乗った三人は顔を見合わせてうなづきあった。

「何をしているかって言われたら」

 そして三人は、口を揃えてこう答えた。

『ウルトラ怪獣擬人化計画』

 

 

 続く

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