第54話
怪獣墓場学園への招待
悪質宇宙人 メフィラス星人
幻覚宇宙人 メトロン星人
宇宙恐竜 ゼットン
宇宙怪獣 エレキング
極悪宇宙人 テンペラー星人
再生怪獣 サラマンドラ
雪女怪獣 スノーゴン
どくろ怪獣 レッドキング
宇宙忍者 バルタン星人
反重力宇宙人 ゴドラ星人 登場!
「ウルトラ怪獣……」
「擬人化、計画?」
バット星人グラシエの陰謀を破り、一応の平和を取り戻したガリア王国。
そして前代未聞の二大女王に即位したタバサとイザベラだったが、あまりにも大きな『国』という遺産を託された二人の内心にはまだ不安が取り憑いていた。
そんなある夜。不思議な少女を追いかけた二人は、突然ガリア王国から昭和のアパート風の不思議な和室。もといメトロン部屋にやってきてしまった。
「よく来たなウルトラセブン。我々は君が来るのを待っていたのだ」
そこで待っていたのは、自分たちを『擬人化怪獣』と名乗る不可思議な少女たち。そしてタバサとイザベラは彼女たちから謎の計画の名前を聞かされる。
『ウルトラ怪獣擬人化計画』。驚きを静める間もなく二人は、目の前に現れたメフィラス、メトロン、ゼットンと名乗った三人の少女たちによって、『怪獣墓場学園』というところに招かれる。
果たして何が二人を待っているのか? そして二人を招いたという校長の思惑とは何か? ガリアの新女王となった二人に、思いもかけない大冒険の幕が上がったのである。
「わぁ……」
「うっそだろ……」
メトロン部屋から外に出たタバサとイザベラの前に広がった光景に、二人はそろって目を見張った。
広い校庭にコンクリートのきれいな校舎。ガイアの世界に行ったことのあるタバサは既視感と懐かしさに、ハルケギニアから出たことのないイザベラには馴染みがないが新鮮な驚きという形で、それはまさしく『日本の学校』そのものだった。
「ようこそ、怪獣墓場学園へ」
案内役を任されたというメフィラスと名乗った少女は、唖然としている二人を前に得意気に言った。空は晴れ、小春日和の暖かい空気の中に学園の校舎が高々と建っている。深夜のガリアから来た二人には、それだけでここが異世界なのだと感じられた。
だが、驚くのは早かった。学校のあちこちからわいわいと騒ぐ声が聞こえてきて目を凝らすと、そこにはこの学園の生徒たちがいた。それはメフィラスやメトロンのように怪獣を模した衣装を着た女の子たちがほとんどだったが、中には真っ黒いシルエットをした本物の怪獣も歩いてたからである。
「えっ! か、怪獣が歩いてる!?」
ムルチやドラゴリーが等身大で仲良さそうに歩いていく。目を丸くする二人にメフィラスはうっかりしていたと説明した。
「おっと、先に話しておけばよかったな。あれは校則違反して、罰として一時的に擬人化を解除されてる生徒だ。ああされるとメシがすごくマズくなるらしい」
「へー、そりゃ大変だな……って、そんなことじゃない! そもそも擬人化怪獣って、お前たちは何者なんだ」
「ほーう、デコなお前はレッドキングぽいと思ったけどなかなかクールだな。その知略の匂い、気に入った。この怪獣墓場学園では、ウルトラマンに負けた怪獣たちが女子高生になって生活してるんだ。私は負けてないけどな」
「じょし、はぁ?」
意味が分からな過ぎて頭が混乱する。しかし、見る限りでは本当としか思えない。タバサはイザベラに代わってメフィラスに尋ねた。
「ウルトラマンに負けた怪獣が人間になるということも信じがたいけど、怪獣墓場学園というならあなたたちは幽霊なの? ここは天国なの?」
「似たようなものだけど正確にはどうかな? なにせ怪獣だからな。ま、それも含めてお前たちにここを見てほしいということなんじゃないか? あ、それからここは多少メタなことを言っても許されるバラエティ空間でもあるから注意しろ」
「バラエティ空間ってなんだよ!」
ツッコミが冴え渡るイザベラであった。
とにかくマズい。わからないことだらけだが、うっかりすれば偉い人に怒られて大変なことになる気がする。いや偉い人って誰だよ? 仮にもわたしたち女王なのですが?
イザベラとタバサは目配せし合った。ここはもう、触らぬ神に祟りなし。面倒なことになる前に退散するに限る。
「招待はありがたく受け取る。でも、わたしたちには時間がないの」
「心配するな。お前たちに合わせて時間の流れをいじったそうだから、ここでの一時間はあっちでの一分だ」
「そ、そうなの?」
これにはタバサも面食らうしかなかった。そういうことなら、こちらで三日過ごしてもあちらでは一時間ほどしか経たないということになる。にわかには信じがたい話だが、そういう常識の通用しない相手をこれまでさんざん見せられてきたのが自分たちだ。
けれど、招待すると言われても、こんな得体の知れないところに飛び込むのはやはり不安感が勝る。イザベラはタバサの耳元でひそひそとささやいた。
「おいシャルロット、お前は異世界とやらに行ったことあるんだろ? 何かわからないのか?」
「わからない。わたしのいた世界と似てはいるけど違うみたいだし、わたしにも何も」
タバサも判断がつきかねていた。危険は恐れるところではないが、とにかく何もかも意味不明すぎる。
どうすればいい? 目を白黒させ続けるタバサとイザベラにメフィラスも面倒そうな顔をしていると、突然がばっとタバサとイザベラは後ろから抱きしめられた。
「わーい、あなたたちがお客さんだね。いらっしゃーい!」
「わっわっ! 誰だお前!?」
抱きついてきた小柄で白い女の子に、イザベラはびっくりして叫んだ。すると、少女は可愛らしい仕草と声で二人に答えた。
「わたし? エレキングだよ」
「はっ?」
「エレ、キングというと、あの怪獣の?」
「そうだよ。はじめまして、よろしくね」
きゃるんとハートマークが出てそうなキュートな仕草で名乗った少女の名前にタバサは驚いた。以前にド・オルニエールでウルトラマンエースと戦ったピット星人の宇宙怪獣だ。
確かによく見ると、エレキングと名乗った少女の着ている衣装はエレキングの白地に稲妻模様だし、エレキングと同じ長い尻尾がお尻から生えている。それに頭の上でくるくる回っている三日月型の二つの角はまさしくエレキングの象徴だった。
擬人化って、あの無表情な宇宙怪獣が、こんなあどけない女の子に? ド・オルニエールの戦いをグラシエ経由で間接的に知っていたタバサは本気で驚いた。
「……本当にエレキングなの?」
「ほんとだよ。放電しよっか?」
見るといつの間にかイザベラがエレキングの尻尾でグルグル巻きにされている。パチパチとスパークまでしているので、慌ててタバサが止めると、エレキングはイザベラを放してぺこりと謝罪してきた。
「ごめんね。怪獣だったときのクセでつい」
謝る仕草も可愛らしいが、メフィラスからエレキングはその気になったら星一つ焼き払えるくらいの電撃を出せるぞと聞かされてイザベラは背筋が震えた。
「小さくても怪獣なんだな……」
「うん、半分はね」
「半分?」
「そんなことより、せっかくのお客さんでしょ。あちこち案内するから行こ行こ」
エレキングに手を取られ、タバサとイザベラは彼女の明るい笑顔にどきりと見惚れた。メフィラスが、そいつらの案内役は私だぞと言うが、エレキングは気にせずに笑う。
「じゃあまずはどこに行くの?」
「どこって、あ、考えてなかった」
「うふふ、それじゃあね……まずはあそこ!」
エレキングに手を取られ、タバサとイザベラは怪獣墓場学園へ連れられていった。
二人の目に入ってくるのは使われ古びた玄関の靴箱や、ところどころタイルの欠けた校舎の床。そこには大勢の子供がいるという生活臭があり、タバサとイザベラの警戒心をどこか緩める懐かしさがあった。
そうしていくつかの角を曲がって案内された先は……。
「ようこそ、怪獣カフェへ」
「いやカフェってか、ただの食堂じゃねーか!」
イザベラのツッコミが食堂に響き渡った。王宮の育ちのイザベラでも庶民の食堂とカフェの違いくらいわかる。それでも一応席についた二人の前に、食堂のおばちゃんのモチロンさんがお茶と茶菓子を持ってきてくれたが、さすがに先にメフィラスがツッコんだ。
「エリ……エレキング、さすがに客に番茶ときな粉餅を出すカフェはないと思うぞ」
「えー、おいしいんだしいいじゃない。新しいお友達も、きっと気に入ってくれるよ」
エレキングの笑顔に、メフィラスは顔をほころばせた。まるで小動物のような、すべてを許したくなる愛らしい笑顔の輝きに、タバサとイザベラも自然とほっこりとなる。さすがセブン最優秀怪獣。
だがそのままほんわかとお茶の時間になりそうなところで、隣の席から可愛らしく苛立った声が響いた。
「そんなことどうだっていいだわさ。せっかく異世界からの招待客なんて珍しいものが来てるんだから、調査して今後の侵略計画に役立てるんだわ」
ふと見ると、そこにはいつの間にかエレキングよりも小柄な青色の鎧をまとった少女が、手についたハサミをぶんぶん振り回していた。
「あの、あなたは?」
「ふふん、よくぞ聞いただわ。聞いて驚け、何を隠そう私はあのテンペラー星人だわよ!」
ふんぞり返った少女はそう名乗ったが、その名前を知らないタバサとイザベラはきょとんとするしかなかった。
「な、なにを変な顔してるのよ。まさか私を知らないことはないだわ? ウルトラ六兄弟と真っ向から対決したテンペラー星人を知らないなんて、あんたたちモグリだわさ」
そう言われても知らないものは知らない。するとメフィラスが横から「あっちの世界ではまだテンペラー星人は現れたことがないそうだ」と言うと、テンペラーはカッカと怒り出した。
「なんだわさ! もう何百体も怪獣が襲ってる星だって聞いてたのに、我がテンペラーの同胞が手をつけてないなんてありえないだわさ」
「まあまあ、しょせんテンペラー星人はコミカル路線の怪獣だ。シリアス時空の世界にはお呼びではないんだよ」
「ふざけるなだわ。テンペラーだってシリアス路線の話に登場したことはあるのだわさ。そう言うメフィラスも……ははあ、わかっただわ」
「な、なにがだ?」
「すぐにメフィラスを自慢したがるあんたが黙ってるってことは、”はるけぎにあ”にメフィラス星人が現れても、それはにだ」
「わーわーっ! あいつのことは言うな!」
「わはははは! 図星だわさ。どうだわさ、異世界人に二代目のたるんだ腹を見られた気分は?」
「うるさーい! 急遽脚本変更で無理矢理メフィラス星人をねじ込んだんだから着ぐるみが間に合わなくて仕方ないだろ!」
ドダバタとメフィラスとテンペラーが取っ組み合いを始めてしまったのをタバサとイザベラはまたもやぽかんとしながら見ていたが、そこでイザベラがタバサの耳元でささやいた。
「おいシャルロット、大丈夫なのか? なんか今、侵略とか聞き逃せない言葉が聞こえたが」
「……」
タバサもまだ判断はつけかねていた。確かにあからさまに怪しいが、それにしてはタバサと一体化しているゾフィーが何も警告を出してくる様子がない。タバサは迷いながらもイザベラに答えた。
「もう少し様子を見よう。なにか企んでるにしてはあからさますぎるし、しばらくはあなたも話を合わせて」
「……わかった」
そうこうしているうちに、メフィラスが「よそう」と言って「そろそろそれが出るころだと思ってわよ」とテンペラーが答えてケンカが終わっていた。
それにしても幼児のように見えるテンペラーはともかく、一見クールそうに見えるメフィラスもムキになって暴れるとは意外だった。この二人はケンカ友達というか、似た者同士なのかもしれない。
「さあ尋問を続けるだわよ。将来の侵略活動のために、情報は大事なのだわ。あんたたちの世界のことをキリキリ吐くのだわさ」
「侵略するって言われて誰が教えるんだよバーカ」
「ムカッ、このデコ娘なまいきなのだわさ。心配しなくても、あくまで侵略予定なのだから安心するのだわさ。私の目的はウルトラ兄弟を倒すことで、侵略は手段に過ぎないのだわ。それとも、お前たちの”がりあ”とかいう国は侵略する価値もないような国ってことかしら?」
「なにをこのちびすけめ! わたしならまだしも、ガリアをバカにすると許さないぞ」
「ふふん、怪しいのだわ。どうせ、この番茶とモチより美味いものもないド田舎なのだわさ」
そう言って番茶をすするテンペラーに、イザベラもカッカと怒り出した。タバサは煽られているのだから落ち着いてとイザベラをなだめるが、イザベラはこうなると引かない。
「ああいいさ、ガリアがどれだけ都会だかたっぷり聞かせてやる。耳かっぽじって聞けよ」
「フフン、私の特殊スペクトル光で確かめてやるわさ。教えてやるけど、私はアイドルをしたこともあるほどナウいレディなのだわさ」
ナウいって……黙るだわさ、テンペラー星人は昭和生まれだから古くはないのだわさ。
メフィラスとエレキングは、以前に怪獣墓場学園の遠足を抜け出して地球でアイドル活動をした思い出を思い返した。結局デビュー戦で失敗してしまったが、まあアイドルをしていたことは嘘ではない。しかしアイドルという存在のないハルケギニアのイザベラは首をかしげて。
「アイドルって、何だ?」
「歌って踊って人間たちを虜にする人気者のことなのだわさ。いわば精神的な侵略なのだわさ」
ふふんと胸を張るテンペラーに、イザベラとタバサは「アイドルとはすごいオペラ歌手みたいなものか」と勝手に納得した。しかし、ちんちくりんのテンペラーにそんなことができるか? イザベラはそう考えてニヤッと笑みがこぼれ、それを見たテンペラーは怒りだした。
「なに笑ってるんだわさ!」
「だって、お前の体形で歌って踊る? 冗談も休み休み言えよ」
確かにオリジナルのテンペラー星人はでっぷりした寸胴体形だが、あれでも東光太郎を捕まえた嬉しさで軽やかにステップしたことがあるくらい身軽だ。もっともやっぱりコミカルにしか見えないが、擬人化して女の子の姿になった今ならそんなことはない。
怒ったテンペラーはメフィラスとエレキングを引っ掴んで、だったら証拠を見せてやるのだわさと言い出した。メフィラスはだいぶ頭に血が上っているようなテンペラーをいさめにかかったが。
「おいやめとけって。アイドルやってたって、あれは別に自慢するようなことじゃなかったろうが」
「うるさいだわ! 確かに成功はしなかったけど、あの苦難の日々を馬鹿にされるのは許せないのだわ。二人足りないけど、ダークネスブラック再結成なのだわさ」
そう言ってテンペラーはメフィラスとエレキングといっしょに踊り始めた。踊りのうまさは、メフィラスがそこそこ、エレキングがキュートでかわいいものだったが……。
「だわよーっ!」
「わはははははは!」
やっぱりハサミを振り回すコミカルなダンスになったテンペラーにイザベラは大笑いしてしまった。当然テンペラーは激怒して、ハサミを向けてウルトラ兄弟必殺光線を発射しそうな剣幕でイザベラに迫ったが、イザベラは涼しい顔をして言った。
「そんなダンスでよければわたしだってできるよ」
「言っただわね。だったらやって見せてもらおうじゃないの。もしできなかったら土下座して謝ってもらうのだわ」
「ああ、いいよ」
イザベラは焦った様子もなく椅子から立ち上がった。そしてスッと目を閉じて腕を広げると、そのまま見事に優雅なダンスを踊って見せたのだった。
「わぉ」
「イザベラちゃん、すごいすごい」
メフィラスやエレキングも、青い髪をくゆらせながら水鳥のように舞って見せたイザベラに思わず拍手していた。そしてタバサもイザベラの意外な特技に驚いていたが、イザベラは「できなきゃできないで馬鹿にされるからな」と、あくまで教養の一環として身につけさせられたことを強調していた。
だが、プライドを木っ端みじんにされたテンペラーは半泣きになりながら。
「ずるいだわさ、そんなの……ずるいだわさーっ」
そう叫ぶと、ダッシュで食堂の外へと逃げていってしまった。ちなみにその時、食堂には南国スタイルの褐色美少女と、モフモフの毛皮をまとった額に一本角を持つ美女が入ってこようとしていたが、テンペラーを追って駆けだしていった。
「テンペラーどの、お待ちを! 命令を、あたしに命令をください」
「いいえテンペラー様、私めにこそご指示を、ご指示をくださいませ」
この二人、それぞれ再生怪獣サラマンドラと雪女怪獣スノーゴンの擬人化少女たちである。どちらも宇宙人に操られる怪獣だったので、極度の指示待ち人間と化しているのだ……というか、もはや指示依存症で、指示を与えてくれるテンペラーの取り巻きみたいになっているのであった。
嵐のように去っていったテンペラーたちをぽかんと見送ったタバサたち。とりあえずお茶とモチをいただくことにした。
「このモチという食べ物、なかなかおいしい」
ハルケギニアにモチ米はなく、ガイアの地球にいた頃も餅を食べる機会のなかったタバサは新鮮な味わいに少なからず目を輝かせた。
元々小柄な体に似合わずかなりの健啖家のタバサはあっという間に餅を平らげ、まだ物欲しそうにしている。そんなイザベラを見て、エレキングはメフィラスにくすりと笑いかけた。
「メフィラスちゃん、次に案内するところは決まったね」
そうして、席を立った四人は食堂を後にした。
どこに案内されようとしているのだろう? お腹が膨れて少し落ち着いた二人は、ちょっと期待を抱きながら着いていった。
そして徒歩十分で到着したのは。
「ようこそー、怪獣墓場商店街へ♪」
店店が並ぶ校外の商店街であった。
「って、学校を案内するんじゃねーのかよ!」
「わあイザベラちゃん、ナナナナイスなツッコミだよ。ボケ殺しの才能あるんじゃないかな」
「そんなもん欲しくねーよ! 商店街くらいリュティスにもあるわ」
「だって学園の中ってほんとに学校だけでなにもないんだもん。学校の外にも楽しいところがあるし、ここで買えるものも美味しいからきっと楽しいよ」
エレキングに満面の笑みで言われて、イザベラはあああと大きくため息をついた。タバサは、「授業はやってないの?」と、尋ねたが、メフィラスは「自習ばかりでほとんど授業はやってないんだよ。怠慢もいいとこだろ」と答えて、タバサもため息をついた。
「呆れた学校……休学を繰り返していたわたしが言えたことではないけど」
タバサが珍しく独り言を呟くと、ぽんと肩を叩かれて後ろから声がかかった。
「それはね、怪獣墓場学園は勉強をするところというよりも、擬人化怪獣たちに楽しく青春を送ってもらうために作られたところだからなんだよ」
「あなたは、メトロン?」
赤いとんがり帽子をかぶった少女が人を食った笑みをして立っていた。
「やっぱりメフィラスちゃんたちだけじゃ心配だから来ちゃった。まあここもタダの商店街じゃないから見ていって。お金は気にしなくていいからね」
ぽんと背中を押されて、タバサとイザベラは怪獣墓場商店街に入っていった。
ちなみに二人の手には缶ジュースが渡されている。眼兎龍茶はもう飲んだので、マンダリンジュースというらしい。ただ……。
「不味いな、これ」
「……うん」
なかば悪食家に片足突っ込んでいるタバサもうなづくほど、そのジュースは奇妙な味をしていた。
さて、怪獣墓場商店街であるが、確かに見て飽きるところではなかった。八百屋や魚屋などがあるところはリュティスの市とそう変わらなかったが、怪獣が店主をやっている光景は異様と言うしかない。
「やあ、新入りさんたちかい? 今日はスフランの蔓にジェギラの葉が安いよ。アハハ冗談さ、ここにあるのは新鮮な普通の野菜ばかりだよ。お近づきの印に新鮮なトマトジュースをサービスするわ」
と、普通の八百屋のおばちゃんが言ったら何気ない言葉も、全身ツタの塊のワイアール星人の店員が明るく言ってきたら違和感と迫力が半端ない。たじたじになりながら愛想笑いをして立ち去る二人、そしてもらったトマトジュースが意外と美味しかったので罪悪感が湧いてきて、お礼を言うためにいったん引き返した。
それ以外にも、ガゼラがやっている雑貨屋、ベル星人がやっている楽器店、マグマ星人の床屋、休業中の時計店などを通り過ぎた。クール星人とビラ星人がやっている靴屋を通りかかったときは「お前ら足ねーだろ!」とイザベラがツッコみ、『期間限定、歴史を記録する者と宇宙賢者のコラボ書店』では、ロボットの店員と陽気な老人に声をかけられたタバサが山ほどの本を買い込んでいた。
「あなた方の紡いだ絆は素晴らしい。是非、私のメモリーにも記録させていただきます」
「君たちには、私の試練は必要あるまい。その絆、大切にしていきたまえ。我々かい? そうだな、遠い未来からの特別ゲストと名乗っておこう」
そうして買い込んだ本の包みを『レビテーション』で浮かせながら、二人は立ち去った。
商店街には他にも、アストロモンスの花屋、ガラガラ星人のカラオケボックスなどがあり、肉屋なのに魚の切り身も売っていて「流行りに乗ってみた」という妙な店もあったが、どこも見て面白かった。
やがて商店街の端までたどり着くと、一件のパン屋が開いていた。香ばしい匂いに誘われて店内を覗き込むと、そこにはガイコツの髪飾りをあしらったボーイッシュな少女がいた。
「ん? おーい、メフィラスにエレキングじゃんか。誰だよそいつら、見かけない顔だな」
「レッドキングか。お前こそこんなとこで何やってんだ」
陽気な少女はどくろ怪獣レッドキングの擬人化怪獣だった。おへそや太ももむき出しの健康的なスタイルで、ブーツやアームカバーにレッドキングの意匠がついている。メフィラスからの問いかけに、レッドキングは「ベムスターのために、ここでパン作る時の余りのミルクをもらってるんだ」と答えると、レッドキングはタバサとイザベラを見つめて首を傾げた。
「お前ら新入りだな。ここのことはわかんなかったら何でも聞いて来いよ。てかお前たち、何の怪獣だ?」
「いや、わたしたちは……」
二人が困っていると、メフィラスとメトロンがレッドキングに説明してくれた。それでレッドキングも納得したようで、カラッとした態度で頭をかきながら笑った。
「なんだお客さんか。悪い悪い、オレ気が早くってさ。ゆっくりしていけよ、オレにできることならなんでもするからさ」
「ありがとう。でも、わたしたちは案内してもらってる途中だから」
「ふーん、じゃあちょっと休憩していけよ。ちょうど、まかないのパンをもらってるんだ」
袋いっぱいのパンを見せられて、歩き続けてきたイザベラとタバサはごくりと唾をのんだ。店のランチスペースに場所を移し、メフィラスやエレキングにメトロンも同席して、ちょっとしたランチタイムと相成った。
「で、これまでどんなとこを案内したんだよ?」
「まだこの商店街だけ」
「なーんだ、本当に来たばっかりだったのか。けど退屈はしなかっただろ? オレもここに来たばっかの頃はいろいろ驚かされたからさ」
「あなたも、その……元は怪獣なの?」
「おう、ウルトラマンと戦って、八つ裂き光輪で首と胴をスパッとやられたな。あははは」
自分が死んだ時のことをあっけらかんと語るレッドキングにタバサとイザベラは少しぞっとしたが、それを察したのかレッドキングは声色を穏やかに変えて話した。
「昔のことはいろいろあったけど、今はこれでよかったって思ってるよ。友達と遊べて、誰かの役にも立てて。お前らから見たら変かもしれないけど、今は充実してるんだ」
その言葉に嘘は見えず、レッドキングはタバサとイザベラを見て、ふーんとうなづいた。
「オレには難しいことはわかんないけど、これまで外から来た奴なんていなかったここに校長がお前たちを呼んだってことは、オレたちを通してお前らに伝えたいことがあるんだろうな」
「その、”校長”に会いたいんだけど、どうすればいい?」
「さあどうだろ? 校長室に行けばあっさり会えることもあるし、どこを探してもいないこともある。ま、呼んだんだからそのうち校長から来るんじゃね?」
適当な言い草に、タバサとイザベラは体の力が抜けるのを感じた。
この一件の原因はその”校長”にあるのは間違いないが、すぐに会うのは無理のようだ。ただ少なくとも悪意はなさそうなので、怪獣墓場学園を散策しながら情報を集めていくしかない。イザベラはタバサの洞察力に頼ろうと思ったが、タバサは食欲に負けたのかいつの間にか目の前のパンに一心不乱にかじりついている。
この大食いめ……さっき餅を食べたばかりじゃないかよ。イザベラは前に人形娘と呼んでいたタバサのどこにこんな食い意地が隠れていたのかと呆れる思いだったが、気を取り直してレッドキングに問いかけた。
「じゃあ、この学園のことをもっと教えてくれよ。商店街はもう見たからさ」
「えっ? うーん、オレ人に説明するの苦手なんだよ。あっ、そうだ。お前らの世界のことを聞かせてくれよ。街とかメシとかさ、ここと比べてどんなんなんだ?」
「おいおい、招待されたのはわたしたちなんだぞ。なんでも聞いてくれって言ったのはそっちなのに、なんでこっちが話さなきゃならないんだよ」
本末転倒だろとイザベラは思ったが、レッドキングは子犬のようにワクワクした表情で見つめてくる。イザベラは、これは断ったら悪者は自分だなとあきらめた。
「わかったよ。じゃあ、と・く・べ・つ・に、女王イザベラ様が特別に大国ガリアのすばらしさを紹介してやる。ありがたく思え」
「おおーっ。ドンドンパフパフ」
そうして、イザベラはレッドキングにガリアのことを話し始めた。ガリアの名所に続いて、数々の名産品や美食、リュティスの三ツ星レストランの料理など、プチ・トロワに献上されていたそれらを賞味していたイザベラは昨日のことのようにそれらがいかに美味かったかを話し、いつの間にかレッドキングはイザベラの話を聞きながらよだれを垂らしていた。
「うらやましー。なんていいとこだよ、なあなあオレも連れてってくれよ。今はそっちの世界ともつながってんだろ?」
「ああ、お安い御用だぜ……いや、リュティスは今ダメだった」
自慢したそれらの名所や美食の店は、先の戦争で大きな被害を受けているはずだった。特にリュティスの被害は甚大で、復興にはいったいどれほどかかるだろうか。そして復旧できずに絶えてしまう名物がどれだけ出てしまうかと思うと、イザベラの心にも隙間風が吹いた。
すると、レッドキングはどんと胸を張って言った。
「なんだ、そういうことならオレも手伝うぜ。オレ、こう見えても大工もできるんだ」
「そうだな。レッドキングは人間だった頃に親父さんから大工の才能を受け継いでるんだったな」
「ちょ、メフィラス!」
メフィラスの言葉にメトロンが声を荒げた。しかしメフィラスは意に介さず、メトロンを横目で睨みながら答えた。
「校長もそこまで見せたくてこいつらを呼んだんじゃないのか? それに、レッドキングはもうそれも受け入れてるだろ?」
メフィラスがそう言うと、レッドキングは少し複雑そうな様子でうなづいた。
タバサとイザベラは何のことかと怪訝な顔をしていたが、タバサははっとメフィラスの言葉を反芻して、その矛盾点に気づいた。
「人間だった頃? あなたたちは元は怪獣だったんじゃないの?」
「そうさ。半分はな」
「半分?」
「これは、ここにいる私たちしか知らないことだから他の娘たちには言わないでくれ。実は擬人化怪獣は怪獣だけじゃなくってな……」
メフィラスから語られた擬人化怪獣の隠された真実。それを聞かされたタバサとイザベラは驚きのあまりに自分の耳を疑い、続いてそこに秘められた、冒涜的かもしれないがあまりにも大きな慈愛の心に驚嘆した。
そしてそれからも、タバサとイザベラは怪獣墓場学園の様々なところを案内された。
怪獣墓場学園は大きく4つのゾーンに分かれており、それぞれの元になった擬人化怪獣たちが住みやすいような環境が形作られている。すなわち自然ゾーン、未来ゾーン、不思議ゾーン、昔ゾーンである。
とはいえどこもそこの住民でなくとも居心地の良い保養地のような街並みになっていて、怪獣墓場の足湯で疲れを癒し、のんびりと案内されたあちこちでは擬人化怪獣たちが平和に幸せそうに過ごしていた。
少女の姿の者も影にされている者もいたが、どの子たちも争うことなく穏やかに暮らしていた。中にはタバサやイザベラも知っている凶悪怪獣の姿もあったが、そんな怪獣たちが女の子になって平和に暮らしている姿をいくつも見た二人は、案内してくれるメフィラスやメトロンからさらにいろいろな話を聞くうちに自然に緊張が解けて笑顔が戻り始めていった。
そうして終わりに案内されたのは、怪獣ランドという遊園地であった。レッドキングやエレキングに手を引っ張られてジェットコースターやメリーゴーラウンドに乗り、売店でソフトクリームを買って観覧車に乗って景色を楽しむ。タバサとイザベラはずっと長い間忘れていた、ただの子供になって遊ぶ時間を擬人化怪獣たちといっしょに存分に楽しんで、いつしか二人の表情には幸せの輝きが蘇っていた。
だが、幸せな時間もいつかは終わる。怪獣ランドで遊び終わった彼女たちは、自然ゾーンの一角にある穏やかな野原にいた。二人を送り返す前にピクニックを楽しもうと、擬人化怪獣たちはシートを広げていた。
「ここはわたしたちのお気に入りの場所なんだ。二人とも、帰らなきゃいけないのは寂しいけど、最後までいっしょに思い出を作っていってね」
エレキングのまばゆい笑顔が、政争で荒んだタバサとイザベラの心に心地よかった。メトロンとレッドキングはエレキングを手伝って、シートの上にバスケットを広げている。
その様子をタバサとイザベラはメフィラスと共に、少し離れたところから見ていた。
「結局、校長とやらは姿を現さなかったな」
「ま、あの校長は神出鬼没だからな。それでどうだった? 怪獣墓場学園の感想は」
「とても……とてもよいところだったと思う」
タバサはメフィラスからの問いかけにそう答えた。
怪獣墓場学園は、素直に平和な楽園だった。閉ざされた世界ではあるものの、擬人化怪獣たちが皆穏やかに仲良く暮らしている。天国という表現そのままだとタバサは思った。
地上で暴れるだけしかできなかった怪獣が、せめて死後は穏やかに過ごせるように作られた世界。ここを作った人はとても優しかったのがわかる。
「でも……」
「怪獣なんかが幸せに暮らしてるのが不愉快か?」
「そんなことは……」
「濁さなくても、そういうことを私たちはやってきたのは自覚してるよ。まだ侵略を諦めてないテンペラーみたいなのもいるしな。けど、私みたいなのはともかく、多くの怪獣たちは生まれたくて怪獣に生まれたわけじゃないさ」
「わかってる……」
人は生まれ方を選べない。なんなら生き方も死に方も選べない者が多くいることは、自分たちやシャルルやジョゼフの人生が嫌というほど証明していた。
そんな怪獣たちに、せめて死後は幸せにと作られた怪獣墓場学園。けど、勝手に女の子にされてあなたたちは納得してるの? と、タバサが質問したときだった。メフィラスが答えるより先に、横合いから何の気配もなく声がした。
「私は満足している」
「わっ! なんだ!?」
振り向くと、そこにはメトロン部屋でも会った黒い衣装の少女がいつの間にか立っていて、メフィラスは呆れたように言った。
「ゼットン、テレポートでいきなり現れるのは慣れてないやつはびっくりするからやめろよ」
「……私は、この姿になれてよかったと思っている」
「おい、無視かこのヤロー」
メフィラスのぼやきをスルーしたのか天然なのか、ゼットンと呼ばれた少女はとつとつと二人に言った。
「擬人化……されて、私はそれまでは知らなかった多くのものを見たり聞いたりすることができるようになれた。怪獣の力を、誰かの役に立つために使えるようになった。私は、それが、嬉しい」
「ゼットンというと、もしかしてあなたの元になった怪獣はあの?」
ゼットンは頷いた。確かに角や体の配色は、グラシエが操っていたゼットン軍団の多くの特徴と一致している。しかしあの無機質な怪獣からこんな凛々しくて可愛らしい長髪の少女が生まれるとは信じられないものがある。
ハイパーゼットンをはじめ、ゼットン軍団にはウルトラマンたちも散々に苦戦させられた。生物兵器として、あれほど恐ろしいものはないと思う。しかしゼットンは穏やかな笑みを浮かべる。
「校長は、この力をほかの誰かのために役立てることを教えてくれた。私は感謝している。怪獣の力で、ほかの怪獣たちを救える」
そう言って、ゼットンのかざした手のひらの上に二つの小さな光る玉が浮かんだ。
「それは……?」
「久しぶりよな、ゼットン」
タバサが尋ねたとき、またも聞き慣れない声がして振り返ると、そこには両手がハサミになっている青いレオタードを着た長身の少女が竹串を咥えて立っていた。
「バルタン星人」
ゼットンは鋭い視線でバルタン星人の擬人化怪獣を睨みつけた。見ると、やはりいつの間にかバルタン星人の頭上には中央に円錐の生えた巨大円盤が浮遊している。
その円盤を見て、メフィラスはなぜか不愉快そうな顔をしたが、バルタン星人は臨戦態勢をとるゼットンに対して腕組みをしながら時代がかった口調で満足そうに答えた。
「いつの日かの怪獣デュエル以来でござるな。腕は落ちていない様子で結構。警戒するのは当然だが、リベンジマッチを望む同胞も、今はまだ時期ではないと鍛錬に励んでいる模様なので安心せられよ。こたびはあくまで、そちらから要請のあった新たな同胞を迎えに参ったのみ」
バルタンがそう言うと、ゼットンは警戒を解いてバルタンに向かって二つの光球を解き放った。
あれは何と改めてタバサが尋ねると、メフィラスはうなづいて答えた。
「ゼットンがお前たちの世界で見つけてきた、先のお前たちの世界の戦いで死んだバルタン星人二人ぶんの魂だ」
「魂を……? でも、ひとつの体に複数の魂なんて」
「バルタン星人は特殊な種族でな。アリみたいに多くの意識がひとつの集合意識を共有してるらしい。もちろん他の擬人化怪獣には無理な、バルタンならではの共存法だよ」
そこまで説明すると、バルタンは受け取った魂を体内に収容して吟味しているようだった。
「ふむ、同族とはいえ別宇宙の存在ゆえにそのまま受け入れはできぬか。戦いに敗れた恨みも深いが、やがて時が経てばそれも薄れよう」
「大丈夫か?」
「なに、こちらは40億6千万の同胞を持つ身。異端がひとりふたり増えたところでどうということはない……当分、身体が無いことには我慢してもらうがそれは仕方がないこと。それより、風の噂では怪獣墓場学園で受け入れる者も増えたとのこと。そちらこそ大丈夫なのであるか?」
「心配はいらない。一度に大量には無理だけど、校長先生も動いてくれている」
「そうであるか。住む場所が増えるのであれば、我らの安住の地として期待したかったところであるが、敗者が言っても詮無い事……だが校長に伝えておけ、我らバルタン星人は決してあきらめるということをしない種族だとな。さらば」
そう不敵に言い残して、バルタン星人は宇宙船とともに再び宇宙のかなたへと去っていった。宇宙忍者バルタン星人、擬人化怪獣になっても宇宙を影のごとくさすらって新たな故郷を探す旅人たち。
巨大な円盤が空のかなたへ飛んでいく様を呆然と見送ったタバサとイザベラは、無表情に立っているゼットンをちらりと見てからメフィラスに話しかけた。
「擬人化怪獣って、ああやって作るのか?」
「いいや、いつもはジェロニモンって奴が特別な製法で作ってる。近頃顔を見ないところを見ると、新しい擬人化怪獣を作るのに忙しいんだろうな」
「忙しい……それって、ハルケギニアで多くの怪獣が死んだから?」
「ああ、少し前だったかな。校長がしばらく中断されてた新規の擬人化怪獣の制作を再開するって言いだしたのは。それで手狭になる怪獣墓場学園の拡張もするっていうんだから、本当に宇宙一のお人よしだよあいつは。自分もさんざん忙しいだろうに」
「あなたは、校長を知ってるの?」
「ん? ああ、よーく知ってるよ」
タバサに尋ねられたメフィラスは、空を仰いで少し考えこんでから、額の青いサングラスをいじりながら答えた。
「悪いけど正体は言えないな。ただ、こんな場所をわざわざ作って、自分と無関係な奴まで救おうとしている。自分も宇宙人なくせに、人間のために自分の命を使うことをなんとも思っちゃいない。ずっと昔……そんなあいつに、お前は人間なのか宇宙人なのかって聞いたら、あいつはためらいもなく「両方だ」って答えた。そういう奴なのさ」
「まるで、神のような人ね」
「神? まあ人間にとって見れば神みたいなものかもしれないな。しかし逆に考えれば、お前たち人間はたいしたもんだよ。そんな神みたいな連中から「守るべきもの」だって認められてるんだから」
感慨深げに語るメフィラスの言葉から、タバサはなんとなく校長の正体を考察できた。
なぜ自分とイザベラをここに呼んで、擬人化怪獣たちと交流させたのかも少しわかってきたような気がする。イザベラは驚いたりツッコミを入れるほうに忙しそうだが、元気が出ているならそれでいい。
メフィラスは胸に手を当てながら続ける。
「私も女の子の……人間の姿になって少しはわかったよ。人間のよさってものが。だから、最初から人間のお前たちはすごく恵まれてるよ。それを奪われることの悲しさもだが……」
胸の奥のなにかを大切にするように語るメフィラスに、タバサとイザベラはガリアが奪ってきたものと、これからガリアが守っていかなければならないものの尊さを思った。
そうして物思いにふけっていた時だった。タバサとイザベラの前に、ぬっと黒い影が割り込んできて二人は驚いた。
「わっ!」
「お前たちに、校長先生から、伝言がある」
ゼットンの相変わらずの唐突さと不機嫌そうな表情でのたどたどしい言葉使いに、タバサはともかくイザベラは心臓に悪そうだった。メフィラスは、もう言うだけ無駄だと呆れた視線を向けているが、ゼットンは構わずに告げた。
「怪獣墓場学園、気に入ってくれたなら嬉しい。時間が許す限り、楽しんでいってくれ。ここまで」
それだけ言ってゼットンは踵を返そうとしたが、それをメフィラスが引き留めた。
「待てよゼットン。校長は「すぐ帰ってこい」とは言ってなかったんじゃないか?」
ゼットンは振り返ると、メフィラスを恐ろし気な視線で睨みつけた。しかしメフィラスはおじけづかずに、ゼットンを不敵に見返して言った。
「むしろ、校長がこいつらと一番交流してほしいと思ってるのはお前だと思うんだけどなゼットン。気を使わなくても、こいつらはお前みたいなのを何度も見てきた口だ。そこらの半溶解種よりよほど話が通じるぞ」
その言葉にゼットンは答えずにじっと電子音を鳴らしている。タバサは、見るからにただものではないゼットンのことをメフィラスに尋ねると、メフィラスはこともなげに答えた。
「ただの校長の右腕さ。今はさっきのバルタンみたいにハルケギニアの怪獣の魂を回収する仕事をしてて、ゼットンらしく私の次くらいには強いが、実態はただの空気の読めない不器用な女子高生だよ」
今にもメテオ火球を撃ってきそうな殺気でゼットンが睨んできているが、一触即発の空気をエレキングの明るい声が破った。
「みんなー! 用意できたよ。いっしょにサンドイッチ食べよう」
そうして一同は丘の上に敷いたシートに輪になってランチを始めた。ゼットンは行儀よく正座をしながらも眼光はメフィラスを向いているが、メフィラスは撃てるものなら撃ってみろと言わんばかりにニヤニヤしている。
真面目なゼットンの性格にもろに漬け込むメフィラスの策謀はまさに悪質宇宙人。そんな殺気だつゼットンを、メトロンがなんとも言えない表情で見ていたが、メトロンから手渡された眼兎龍茶とサンドイッチを口にしたゼットンは頬をほころばせた。
「甘い……」
「おお、好評で嬉しいね。新発売の眼兎龍茶紅茶風味。働き者のゼットンちゃんには糖分が合うと思ってね」
気に入ったらしく、こくこくと紅茶風味眼兎龍茶を飲むゼットンを見て、タバサとイザベラはほっこりと眼を緩ませた。かわいい……。
そうして一行はゼットンを含めて、穏やかなピクニックパーティーを始めた。
怪獣墓場学園の今日の空は快晴で、春の日差しと風が穏やかに青草の丘を通り過ぎていく。
そんな中で、メトロンやエレキングがセブンにやられた時の思い出を語ったり、メフィラスが以前地球に潜入してアイドルをした時のことを話し、タバサとイザベラもそれぞれの冒険譚をお返しに話した。
そして皆が十分に楽しんだ頃……レッドキングを見ていたタバサが意を決して擬人化怪獣たちに問いかけた。
「こう見てると、本当に人間にしか見えない……本当なの? あなたたちが怪獣だけじゃなくて、人間の女の子とも一体化しているのは」
その言葉に、それまでにぎやかに話していた擬人化怪獣たちの声が止まった。
イザベラは、その直接的な問いかけに冷や汗を流していたが、レッドキングは穏やかにうなづいて答えた。
「ああ、そうさ。さっきもちらっと言ったけど、オレの昔の名前はマリコって言って、普通の人間だった。でも、怪獣のレッドキングの起こした雪崩で死んじまって、その後ウルトラマンに倒されたレッドキングと一体になってこうなった……らしい」
レッドキングがそう言うと、メトロンが補足した。
「死んでしまったときの記憶は、トラウマになるといけないから封印されるんだけど、ときたま何かの拍子で思い出してしまうこともあるからね。レッドちゃんにはつらいことだったけど、それを乗り越えちゃったレッドちゃんはすごいよ」
「オレの力じゃねえよ。親父さんや、励ましてくれたメフィラスのおかげさ」
「私はたいしたことはしてないさ。なあ、タバサにイザベラって言ったよな。校長がお前たちを私たちに会わせた理由が私にもわかったよ。私たち宇宙人や怪獣は、その気はなくても巨大な体のせいで人間の街に現れるだけで犠牲者を生むことがある。私も、暴力は嫌いだが、知らないうちに人間の少女をひとり死なせてしまっていた」
メフィラスは胸に手を置いて思い深げにつぶやいた。
擬人化怪獣は人間と怪獣の魂が混ざり合っている。しかし混ざり合えなかった、いわば失敗作のような半溶解種というものがたまに生まれる。通常は作り直される存在で、メフィラスもそれだったのだが、メフィラスは時間をかけてメフィラス星人と人間の女の子の魂がひとつの体に共存することができた。
自分の中にあるもうひとつの魂との共存を確かめながら、メフィラスはタバサとイザベラに言った。
「だが、今はこうしてその子に味わわせてやることのできなかった青春を返してやることができている。死ぬのは恐ろしいことだ。それは間違いない。だが、世の中には死んだ奴まで救おうっていう奇特な奴までいるんだ。そいつが考えた救済の手段が」
「ウルトラ怪獣擬人化計画……」
「ああ、今じゃ死んだ奴も死にっぱなしってわけじゃない。死んだ後もよろしくやってるし、いつかは生きてた頃にはできなかった何かをするやつも出てくるかもしれない。昨日まで戦争してたっていうお前たちが死んだ人間のことを気にするのは当然だけど、死人は死人で楽しくやってるからあまり気にしすぎるな」
「すごい……どうしてそこまでわたしたちのことを?」
「こう見えて、メフィラスちゃんはIQ10,000だからね」
メトロンが茶々を入れると、一同は声をそろえて笑った。
「まあともかくだ。私たちはここでこれからも適当に楽しくやっていく。ハルケギニアからやってくる擬人化怪獣も増えるだろうから、怪獣墓場学園もにぎやかになっていくことだろう。だからお前たちも好きにやればいい。ただ、これだけは覚えておけ」
メフィラスはエレキングのほうをちらりと見て、その眼に知性の光を宿して告げた。
「私たちはここで形はどうあれ充実した生活をしているが、それは怪獣だった頃や人間だった頃に、まだ生きたかったという未練があるからだ。思いきり生きてない奴は生き返ってもなんにもできない。だから、お前たちが女王だっていうなら、できるだけ多くの奴が生きてて楽しいって国を作ってやれ。そうしたら、不幸にも死んじまったやつもこっちでなんとかしてやれるかもしれん」
「メフィラスちゃん、まるで校長先生みたいだね」
エレキングが最後にそう言うと、メフィラスは顔を真っ赤にして「だ、誰があんな奴と」と、プリプリ怒って、皆はまた笑った。
タバサとイザベラは、そんな擬人化怪獣たちの温かい気持ちに触れ、これからガリア女王として目指すべきものがおぼろげに見えてきた気がするのだった。
「お父さま」
「父上」
私たち、立派な女王になるよ。
そうして、楽しい時間は瞬く間に過ぎ、タバサとイザベラが帰る時が来た。
メトロン部屋のあの扉を開けると、そこは元の船内で、言われた通り深夜のままでほとんど時間は経っていないようだった。
「ありがとう。校長先生にも、お礼を伝えておいてほしい」
「楽しかったぞ。こんなこと、誰に言っても信じてもらえないだろうけど。お前たちに教わったことを忘れずに、がんばってみるよ」
タバサとイザベラが別れを告げると、メフィラス、エレキング、メトロン、ゼットンも扉越しに手を振ってきた。
「じゃあな。気が向いたらまた遊びに来い」
「私たち、もうお友達だからね。また来てね」
「校長には私から伝えておくよ。私も、そのうちハルケギニアの夕焼けを見に行くかもね。じゃ、またね」
「……(手を振っている)」
そうして、扉が閉じられると夢のような時間は終わりを告げた。
タバサとイザベラは、夢を見たような足取りでそれぞれの寝室へと帰ってゆく。しかし、彼女たちにとって明日からの日々は、この夜の体験をする前とは違ったものになっていくことだろう。
そんな二人の様子を、物陰からそっと見守っている影があった。
「オホホホ……どうやら、もてなしはうまくいったようですわね」
それはただの兵士に見えて、ポンっとちぢれ髪のお嬢様風の女性に変わった。彼女も正体は擬人化怪獣。かつてリュティスのカジノでエレオノールや銃士隊とゲーム対決をしたゴドラ星人だった。いや、正確には違う。ゴドラ星人の隣から、同じ姿のゴドラ星人が現れたのだ。
「情報共有ご苦労様。さすがわたくし」
「わたくしの計画は完璧ですわ。しかも、わたくしが二人もいれば失敗などありえませんもの」
タネ明かしをすれば、片方がリュティスにいたゴドラ星人、もう一人が怪獣墓場学園に住んでいるゴドラ星人である。ゴドラ星人はバルタン星人ほどではないが、集団を非常に重視する宇宙人だ。怪獣墓場学園とハルケギニアがつながったことで、二人のゴドラ星人はまるで一人だったように情報と意思を統一させ、タバサとイザベラを怪獣墓場学園に招待する作戦を立てたのだ。
そしてこの一件の立役者はもう一人。いつの間にかゴドラ星人の頭上には、赤く輝く大きな球が浮かんでいた。
「ゴドラ君、君の提案のおかげでこの世界に平和と安定が戻る日は近そうだ。感謝している」
「勘違いなさらないで。わたくしはさっさと復興してもらわないとカジノを再開できないので困るだけですわ。こんな船で兵士に化けてのアルバイトなんてたくさん。早く潰されたカジノ再建の資金を稼ぐためにも、リッチなお仕事を増やしてもらませんと」
「いや、君が背中を押してくれなければ中断していた擬人化計画の再開には踏み切れなかった。すべてを救うことはできなくとも、怪獣墓場学園が少しでも救える魂を増やせる場所になるのならば、私はもう一度彼女たちの手助けをしよう」
「怪獣墓場学園も変わってゆくことですわね。校長先生、でも大変なのはこれからですことよ」
「そうだね。この星に平和を取り戻すには、どうしても勝たねばならない戦いが間もなくやってくる。メトロン君、メフィラス君……私が戻るまでの間、怪獣墓場学園を頼んだよ」
赤い球は上空へと浮かび上がり、やがてすごいスピードでハルケギニアのどこかへと飛び去って行った。
タバサとイザベラの不思議な一夜の冒険は終わった。
語り切れなかった二人と擬人化怪獣たちとの交流は、また日を改めて語られるであろう。
怪獣墓場学園、人間と怪獣が女子高生になって暮らす不思議なユートピア。
次に怪獣墓場学園への扉が開くのは、あなたの部屋かもしれません。
ウルトラ怪獣擬人化計画は終わらない。
続く