第56話
陰に戦う勇者たち
鎧甲殻獣 シャゴン 登場!
ガリアの騒乱が終わり、ハルケギニアにようやくの平和が蘇った。
人々はようやく怯えることから解放された朝を迎え、避難先から故郷へと戻り始めている。
むろん、まだ戦禍の後始末には膨大な時間と手間が必要とされる。
しかし戦乱の元凶であったガリア王国は崩壊し、新生ガリア王国には平和を旨とする二人の女王が即位したというニュースは人々に明るい未来を予感させた。
失ったものは大きい。だがそれ以上に大きなものを未来に掴むために、人々はたくましく復興への道のりを歩み始めていた。
トリスタニアの町。もう何回目かの破壊に見舞われたこの町も、脅威が過ぎ去れば建て直しが始まる。
軽快な音を立てて、大工が家を建てる音が町のあちこちから聞こえるようになった。なぜ何度壊されてもここに住み続けようとするのかと問われたら、住民たちはこう答えた。
「なんでって、そりゃ生まれ育った町だからな」
残念ながら去って行ってしまった人もいるが、しぶとく居残っている者たちの目には迷いは無かった。新天地を求めるのは悪いことではないが、思い出のたくさん残る故郷を守り続けるのも人間の強さなのだ。トリスタニアはたくましく、初日から大きく復興の一歩目を歩み始めていた。
さて、今のトリスタニアで目立つところといえば、やはり不時着したままのペダン星人の大型円盤だろう。その機能の大半は失われているものの、この星で生きていくことを決めたペダン星人たちは少しでも役立てるものを増やそうと修理を続けている。もっとも、彼らの目の前に今ある課題はとても簡単には片付かなさそうなことであった。
「あーあ、これはまた派手にぶっ壊してくれたもんだ」
ペダン星人の技術者がやりきれない思いでぼやいている。
円盤に寄りかかるようにして置かれているのは、先のゼットンとの戦いで大破したキングジョーであった。さすがキングジョーだけあって原型は保っているが、損傷率は実に95パーセントに達しており、これを修理するとなると気が遠くなる思いがする。
そこへ、王立魔法アカデミーの研究員がやってきた。
「先日は、貴方方のおかげでトリスタニアは救われました。この巨大ゴーレム……ろぼっとでしたか。修復できればこちらとしても心強いので、お手伝いできることがあれば協力したいのですが、やはり難しいですか?」
「ですな。不足しているペダニウム合金はほかの素材で代用するにしても、部品を作っていた円盤もこれですし。足りないものを言い出したらきりがありません」
「ええ。アカデミーが保管しているメカギラスなどの異世界の素材はなんでも提供させていただきますが、これらの部品はあまりに精巧すぎてこちらの冶金技術では作れませんからな。ですが、できることは何でも協力しますぞ。貴方方はトリステインの恩人ですからな」
「感謝にたえません。我々としても、こいつはなんとか直してやりたいのです。実はまだ確定ではありませんが、部品調達のあてができました。それにこいつはルビアナ様の形見……うちの若いのを守り通してくれた相棒でもありますからな」
「すさまじい戦いでしたな。そういえば、乗り手の方はどこに?」
「ああ、彼女なら……」
できればパイロットとも会いたいと言うアカデミーの人間に、ペダン星人の技術者は頭を振った。ここにはいない、知ればびっくりするだろうが、今ごろは……。
ちょうどその頃、戦禍を免れたブルドンネ街の一角を行く一組の男女の姿があった。
「あはは! ねえ先輩、今度はあっちの店に入りましょうっス、あっちのあっちの!」
「わかった。わかったから暴れるなラピス! 落ちたらどうする気だ」
車椅子に乗った包帯グルグル巻の八重歯の少女と、その車椅子を押す青年。キングジョーのパイロットとして戦い、重傷を負いながらも生還したペダン星人の少女ラピスと、いまやその看護係というかお世話係にされてしまった青年ジオルデのコンビである。
あの戦いで、ラピスは不完全なキングジョーでゼットンと果敢に戦った。ついに勝つことはできなかったものの、キングジョーがゼットンを引きつけてくれたおかげで多くの人命が救われ、その勇敢な戦いはトリステインの人々にも感銘を与えたが、ラピスは瀕死の重傷を負ってしまった。
一時は本当に命も危ぶまれ、水のメイジの治癒魔法と水の秘薬を大量に用いた治療は数時間に及び、当面は絶対安静を言い渡されたはずだったのだが……。
「こんなベッドの上なんてやーだやーだ! 遊びに連れてってくださいっスよ先輩」
翌日に目が覚めてから異様に元気なラピスの勢いに根負けして、ジオルデはしょうがなく彼女を車椅子に乗せて街へ繰り出していた。
工作機械の大半はダメになったとはいえ、そこはさすがのペダン星人製の車椅子。石畳のトリスタニアの道でもあまり揺れることなく走り回ることができ、二人はかろうじて開いている店に入っては出てと買い物や買食いを繰り返していた。
「お前という奴は、本当なら全治3ヶ月の重傷なのにどこからその元気が湧いてくるんだ? 寄った店の人たちみんなが目を丸くしていたぞ」
「えーっ、じっとしてるほうが気が滅入りますって。お嬢様も「ラピスはいつも元気で素敵ね」って言ってくれてましたし。ささ、次々」
そうして全身包帯のミイラ女のラピスと、ラピスに振り回されるジオルデが入ったのは小洒落たカフェであった。
「いらっしゃいませ」
店内は急いで片づけた跡があるものの、平民にも解放されている店としては品が良くて清潔感がある明るい雰囲気の店だった。紅茶の香りが心地よく鼻腔をくすぐってくる。
二人は例によって店員に驚かれながらも席に通された。しかし昨日の今日なだけにほかの客の姿はまばらだったが、店員は力強く答えた。
「なあに、このくらいでへこたれたらトリスタニアでやってはいけませんよ。我々が引き下がればチクトンネ街の魅惑の妖精亭が喜ぶだけです。あんな下品な店には負けられません。我ら一同には、東方からはるばる取り寄せたお茶をトリステインに普及させる夢があるのです」
彼らも並々ならぬ苦労をしているが、夢が彼らを支えているのだろう。人間に活気のある……ジオルデはこの星が長い旅の終着駅になってよかったと思った。
やがて二人の前に運ばれてきたのは、貴重な砂糖をふんだんに溶かした紅茶と、ハチミツのかかったパンケーキであった。
あの戦災の中でこれだけの食材を確保していたとは、ここの主人はかなりのやり手のようだ。感心しつつも、甘い香りが食欲をそそってきて、ラピスはじたばたと車椅子の上でもがきながらねだった。
「先輩先輩、早く食べさせてくださいっスよ。はい、あーん」
「わかったわかった。恥ずかしいからあまり騒ぐな」
全身包帯まみれのラピスは手も使えないので、ジオルデがパンケーキをナイフで切ってフォークで口まで運んでやった。
「うーん、美味しいっス!」
「それはよかったな。ほら、はみ出てるぞ」
ラピスに振り回されながらも、しっかり口元をナプキンで拭いてやり、紅茶を飲ませてやるジオルデだった。
その様子はまるで仲の良い兄妹のようで、最初は包帯グルグル巻きの女の子が店に入ってきて面食らっていた他の客たちもいつしかほほえましく見守っていた。
カフェの窓の外では、復興用の資材や救援物資を積んだ馬車や荷車がひっきりなしに行きかってゆく。それはつい数日前まで戦争をしていた国の光景とは思えないほどで、小国と呼ばれるトリステインという国の底力を表すようであった。
「ねえ先輩、あたし……この国を守れて本当によかったと思うっス」
「そうだな。お前はよくやったよ。ルビアナお嬢様もきっと褒めてくださるだろう」
「先輩……あたし、先輩に折り入ってお願いがあるんスけど、聞いてくれるっスか?」
「なんだ?」
今度はまたどこに連れていけとねだられるのかと、ジオルデは自分のぶんの紅茶をすすりながら尋ねた。
「先輩、好きです。結婚してください」
「ぶはっ!?」
まさかの告白に、ジオルデは思わず紅茶を吹き出してしまった。
せき込むジオルデ。店内の店員や客たちも、白昼堂々の告白に驚いて二人の席を見つめていた。
「な、急になにを言い出すんだお前は?」
「えーっ? あたしはこないだの戦いのときに「この戦いが終わったら先輩に言いたいことがある」って言ったじゃないっスか。あれでちょっとは意識してもらったと思ってたのに」
「い、いやなあ。そんなことを突然言われてもな」
「突然じゃないっス! あたし、どんくさくてお嬢様にも迷惑ばかりかけてたのを、先輩はいつもかばってくれるのを嬉しく思ってたっス。それにこないだのときも、最後まであたしのことを思ってくれました。お嬢様はもういませんけど、あたし、先輩のためならこれからもがんばれる気がするんス! 先輩は、あたしじゃイヤっスか?」
口しかまともに動かせない包帯まみれの姿で、八重歯をむき出しにして力説するラピス。ジオルデはしばし考えていたが、やがて軽く息をついて答えた。
「お前みたいな手のかかる女を支えていけるのなんて、俺くらいのものだろうよ」
「じゃ、じゃあ先輩!」
「宇宙広しと言えどもミイラ女に告白されるのも、それを受ける男も俺だけだろうな」
その瞬間、店内に万雷の拍手が鳴り響いた。
照れるジオルデ。ラピスは喜びのあまりにはしゃぎすぎて車椅子を倒しかけて危うくジオルデに支えられた。
「先輩、子供は何人作りましょうか?」
「気が早すぎる。式を挙げるのも当分先だ」
「もぅ……まずは恋人からっスね。末永くお願いしまっス!」
「まずはおとなしく傷を治せ。まったく、これからのことを思うと気が遠くなる」
そう言いながらも、どこか嬉しそうなジオルデだった。ラピスも喜びながら、新しくやる気を胸に燃やし始めた。
「あたしもキングジョーをもっとうまく扱えるようになるッス。そして今度は、あたしがウルトラマンを助ける番っス!」
「ああ、ウルトラマンレオにはいつか借りを返したいな。あの時は、本当にダメかと思ったものな」
「ウルトラマンレオ、いつかお礼を言いたいっス。今頃どこにいるんスかねえ……」
ジオルデとラピスは、あの絶体絶命の危機から救ってくれたレオへの感謝を込めて、カフェの窓からのぞく青空をまぶしげに見上げ続けた。
やっと戻ってきた平和をそれぞれの形で満喫するハルケギニアの人間たち。
この平和が永遠のものでないとしても、多くの人々は今日を生き、明日をまた幸せに生きるために努力する。
そしてそんな人々の幸福を守るために戦士たちはいる。
トリステインの沿岸部。人里から離れて、岸壁に白波が打ち付ける海辺に集まる男たちがいた。
「全員そろったか」
集まった六人を見渡して、壮齢の男性が言った。男たちの多くは黒服に皮ジャケットを羽織り、白いマフラーを巻いている。そして最後にやってきたCREW GUYSの制服を着た青年が報告した。
「遅くなってすみません、ウルトラマン兄さん。GUYSのレーダーでも調べてもらいましたが、どうやらグラシエは完全にハルケギニアから撤退したようです」
「おっとメビウス、いやヒビノ・ミライ。この姿のときは私のことはハヤタと呼んでくれ」
壮齢の男性はそう言って微笑んだ。そうして彼の周りの男たちも嬉しそうな笑みを浮かべる。
「俺もそうだ。モロボシ・ダンだ」
「俺は郷秀樹」
「俺はおおとりゲンと名乗っていた」
「私もこの姿では、矢的猛と呼んでほしいな」
「わかりました。ハヤタ兄さん、ダン兄さん、郷兄さん、ゲン兄さん、矢的兄さん」
素直に呼び替えたミライの言葉に、彼らウルトラ兄弟は満足そうにうなづいた。
この場に集ったのは、ハルケギニアにやってきたウルトラの兄弟たち。その彼らがかつて地球を守っていたときに借りていた人間の姿である。
正確には、ウルトラマンヒカリことセリザワカズヤもここにおり、パトロール中のアストラとすでにハルケギニアの住人と一体になったエース、タロウ、ゾフィーを除いた七人の兄弟がここに揃ったことになる。彼らはハルケギニアに渡り、これからの方針を確認するために集まったのだ。
「さて、ずいぶんと遠回りをしてしまったが、我々はこの世界にやってくることができた。皆から見て、この世界はどう映った?」
ハヤタが音頭を取るように尋ねると、郷がまず答えた。
「話に聞いていたとおり、地球に似たとても美しい星ですね。地球にいるようで、気持ちが落ち着きます。セブン……いや、ダン兄さんもそうだったのでしょう?」
「ああ、同感だ。この世界に住む人間たちも、地球人と同じように毎日を懸命に生きている。だがだからこそ、地球と同じように狙われるということでもある。グラシエは去ったようだが、ゲン、アストラからの報告はどうなっている?」
「この星系を調べてみたところ、バット星人やゼットンの痕跡はまったく無くなっていたとのことです。奴がこの星から完全に手を引いたのはまず間違いないと思われます」
ゲンがMACの隊員時代の癖が抜けない口調で答えると、セリザワがさらにそれを補強した。
「奴はハイパーゼットンのデータ収集が目的だった。それを済ませた今となってはハルケギニアは用済みということだろう。だがバット星でハイパーゼットンが完成するまで、あと少なくとも数百年。それまで手を出してくることはあるまい」
「勝ち逃げされたことになるが、ハイパーゼットンのことは未来の課題ということで、今は当面の危機は去ったという認識でよかろう。今はこれからのことを考えよう」
ハヤタが締めると、皆も頷いた。グラシエとの決着は先でもいい。
問題はこれから。矢的がまとめ役のハヤタに課題を尋ねた。
「ゾフィー兄さんはなんと?」
「当初の予定通り、それぞれ社会に溶け込みつつ、この星の防衛に当たってくれということだ。ヤプールの再来襲に備えて、準備を整えるためにな」
「エース兄さんに続いて、ゾフィー兄さんとタロウ兄さんも早速この星の人間と融合しましたものね。ですが僕は、別の方面からこの星の人間を見てみたいと思います」
「やり方は各々に任す。この星の誰かに力を託すもしないも、皆の自由だ。幸い、前回のデータから科学局の尽力で、この星の太陽でも効率は落ちるが我々のエネルギー回復はできるようになったからな」
兄弟それぞれの腕には、新型の改造版ウルトラコンバーターがはめられていた。
これで、人間と融合しなくてもウルトラマンへ変身することはできる。ただし、エネルギー回復にかかる時間は人間と融合した場合の数倍は必要なので、みだりに使うわけにはいかないが。
「ヤプールの再来襲の前に、こちらから仕掛けることはできませんか?」
郷が質問すると、セリザワが首を振った。
「無理だな。ヤプールが現在根拠にしている『聖地』は時空嵐が吹き荒れて、ウルトラ戦士でもそのままでは近づくこともできない。突入の手段を用意するにしても、すぐには無理だ」
「ではヤプールの攻撃に備えつつ、こちらから打って出る方法を模索しなければならないわけですか。まったく、安全圏に収まって自分だけ攻撃を仕掛けてくる、卑怯な奴だ」
郷が悔しそうに言った。郷もヤプールには恨みがあるからだが、そこをダンがなだめた。
「郷、まあ怒るな。仕掛けるにせよ守るにせよ、やるべきことは多いんだ。グラシエとの戦いは終わったが、奴の後始末が残っているからな。メビウス、いやミライ。グラシエがらみの宇宙人たちはどうしている?」
「ゴルゴン星人と、ほかいくらかの宇宙人が僕たちの宇宙への帰還を希望しています。というより、連れ帰ってほしいとお願いしてきているんですが、どうしましょう?」
「もう悪意が無いなら母星に帰してやってもよかろう。ヒカリ、君は大隊長に報告のためにいったん帰還するんだったな。その時に連れ帰ってやってくれ」
「わかりました。科学局にも顔を出しておきたいので、しばらくここを開けますが、よろしくお願いします」
ヒカリについてはこれで決まった。続いてミライに皆が注目した。
「僕はGUYSのみんなと、この世界と地球を結ぶゲートの安定と防衛に当たります。それと、この世界で再会できた我夢さんを通じて、別次元の地球の防衛隊と協力ができないか試してみます。ふたつの地球の力を合わせれば、聖地を覆う時空嵐を突破できる方法が見つかるかもしれませんから」
「ああ、そちらは任せる。事がもはや全宇宙規模の問題になってしまった以上、地球人の協力は今後不可欠となるだろう。人間たち以外にも、友好的な宇宙人たちとはできるだけ協力しあっていけたらいいものだが」
このハルケギニアには、すでに多くの宇宙人が入り込んでいることはわかっている。平和を守って共存していく意思があるならば、彼らも仲間だ。そのことについて、ミライは付け加えるように言った。
「GUYSのみんながこっちとを行き来できるようになったら、ウルトラ兄弟の支援を全力でしたいとリュウさんも言っていました。地球防衛もあるので、フェニックスネストでやってくるわけにはいきませんが、こちらの世界の協力者の人たちといっしょに、いくつかのプランをもうすぐ実行に移すはずです」
「うむ、急がば回れという奴だな」
本当なら速攻でヤプールをこの星から叩き出したいのは全員の意見である。しかし、焦りは禁物だ。見方を変えれば、ウルトラ兄弟全員がハルケギニアに渡ってきたことで追い詰められているのはヤプールのほうだ。ここで焦ってヤプールにつけ入る隙を与えてはならない。
と、そこで、そういえば……と、矢的がハヤタに尋ねた。
「兄さん、この世界にすでにやってきている、別宇宙からのウルトラマンたちとはコンタクトをとりますか? 彼らと協力できれば、かなり心強いと思います」
すでにガイアとアグルとはメビウスが共闘を果たしている。コスモスたちも、ウルトラマンとジャックが危機を救っているので印象はいいはずだ。しかしハヤタはダンと目配せして、首を横に振った。
「それができれば最良に違いない。しかし彼らにも彼らの目的ややり方があるだろうから無理強いはできん。我々は我々で行動し、必要とあれば共闘できればいい。なにせ我々はまだこの世界に慣れていない。我々のほうが足を引っ張る危険もある」
「先達に敬意を払い、後輩の我々は教えを請うべき、ですね。わかりました」
「うむ。みんな、他に確認しておきたいことはあるか?」
それから彼らはいくつかの課題について話し合ってから解散した。
「皆、もう一度確認するぞ。我々のしばらくの拠点は、この国のタルブ村だ。こちらで何かあったら連絡を欠かさないよう。それから、皆には今さら言う必要は無いことだが、ウルトラマンとして人間たちに過干渉はしないようにな」
ハヤタが最後にそう言うと、兄弟たちは苦笑した。一番過保護しそうな兄弟がここにいないからだ。
ヤプールや他の宇宙人の攻撃にさらされている以上、過去にダンがクール星人の透明宇宙船の見破り方をウルトラ警備隊に伝授したような手助けはやむを得ないが、過干渉はその星の文明の進歩を歪ませる。人間みながGUYSのように良心のあるものばかりではないのだ。
ウルトラマンはあくまで平和を守る手助けをするだけで、神でも天使でもない。それを忘れてはならない。
そうしてウルトラ兄弟たちは、それぞれの思惑を胸にハルケギニアに散った。
ハルケギニアはようやくの平和を満喫し、復興を目指したエネルギーに満ちた一日を終えた。
夜のとばりが世界を覆い、人々は明日に向けて今日の疲れを癒すべく眠りにつく。
静かで優しい闇が星空と共に町や村々を包み、月のみがそれを見守っている。
トリステイン魔法学院近郊の小さな村。少し昔にガギの事件があり、シルフィードと使い魔たちに助けられた少女ニナの住む村も、そうして眠りについている。
「むにゃむにゃ……シルフィちゃーん……」
よりよい明日を信じて夢の中で遊ぶ少女。
だが、ハイパーゼットンの活動で乱された地磁気や電磁波の影響はハイパーゼットンが消滅した後も残り、眠っていた怪獣たちを呼び覚ましていた。
村から少し離れた山中の地底から、土煙の柱を上げて出現する怪獣。赤い甲羅を背中に持つ、立ち上がった亀のような姿を持つずんぐりしたシルエット。鎧甲殻獣シャゴンだ。
シャゴンは地中から現れると、村へ向かって進み始めた。シャゴンは地底に潜み、ときたま地上に現れては人間や家畜を襲う凶暴な肉食怪獣だ。
このままシャゴンが大勢の人間が深く眠る村を襲えば多くの犠牲が出てしまうだろう。しかし、シャゴンの暴虐を阻止すべく、その前に立ちふさがった男がいた。
「レオーッ!」
獅子の瞳が輝いて、光の中から赤き勇者が立ち上がる。L77星からやってきた不屈の闘士、ウルトラマンレオの再臨だ。
「イヤアッ!」
シャゴンの行く手を遮り、構えるレオ。シャゴンは突然の妨害者にうろたえて後退したが、そのくらいで獲物をあきらめることなくレオに向かって突進してくる。相撲取りのような巨体が地響きをあげて突撃してくる光景は、常人であれば本能的に身をひるがえしてしまうであろう恐怖を発散するものであったが、レオにそのような白帯めいた狼狽は存在しない。
「イヤッ!」
引いた拳を瞬時に前に突き出す目にもとまらぬ正拳の一撃が、シャゴンの腹を打つと同時に大きく押し返した。
一瞬遅れて衝撃が山の木々を揺るがし、シャゴンは目を見開いてフラフラとよろめく。しかし、シャゴンが怒って反撃に出ようとした瞬間には、レオはすでにシャゴンの眼前に迫っていた。
「ヤアッ!」
強烈なハイキックがシャゴンの亀のような頭にめり込む。間合いを詰めたレオはシャゴンのボディに次々にパンチを打ち込んで押し返し、村から遠ざけようとする。
シャゴンの巨体に対してレオは一回り小柄だ。だがレオの攻撃はシャゴンに確実に効いている。かつて、レオの打撃は宇宙ロボット ガメロットに通じなかったが、あの頃よりレオは格段に強くなっているのだ。
レオはシャゴンをある程度押し返すと、攻撃をやめて構えを取って向かい合った。それは、「帰れ」という威嚇の意思表示である。人里を襲わないというのであれば無暗に退治する必要はない。
しかし、食事を邪魔されて怒るシャゴンは威嚇に応じることなく、両肩の上についている青い発光体から稲妻状の破壊光線を撃って攻撃してきた。
「ムゥッ!」
レオの体に光線が当たって小規模の爆発が起こる。だがレオの鍛え上げたボディは光線のダメージに耐え、隙を生じることなく反撃に打って出た。光線を受けた衝撃をそのまま反動に変えて、今度は手加減なしのパンチをシャゴンのどてっぱらに叩き込んだ。
激震、白目を剥いてよろけるシャゴン。仏の顔は三度までと言うが、獅子の慈悲は一度までだ。
仕留めることに切り替えたレオは猛烈な拳打やキックを繰り出す。シャゴンも腕を振るって反撃しようとするが、力任せの攻撃などはレオに通用するはずがない。レオは目の前のシャゴンの丸っこい体を、かつて戦った光波宇宙人リフレクト星人と重ねて攻撃をさばいていった。リフレクト星人は光線の効かない誘電体多層膜ミラーの体を差し引いてもメビウスを追い詰めるほどの戦闘巧者だったが、シャゴンにはそこまでの戦闘経験値があろうはずがない。
「イヤーッ!」
レオの中段キックが、シャゴンの腹を打って押し返す。さらにレオは腕を突き出して閃光状のショック光波を放った。
『スパーク光線!』
シャゴンの体が漏電したかのように輝いて痙攣し、よろめいて膝をついた。あと一撃を加えれば倒せるだろう。
だが、レオはとどめの瞬間に身を翻した。土中から土煙が噴き出し、中から二体目のシャゴンが現れたのだ。
"仲間を呼んだか"
シャゴンは群れで行動する怪獣だ。仲間意識が強く、単独で行動するものが呼べばすぐに仲間がやってくる。
仲間を助けるように現れた二体目のシャゴンは、レオを認めるとすぐさま襲いかかってきた。突撃を構えて応戦しようとするレオ、しかしシャゴンは突撃をフェイントにして、亀のような頭をスッポンのように伸ばしてきたかと思うと、口から緑色の溶解液シャゴンアシッドをレオに吹きかけてきた。
レオはとっさに腕でシャゴンアシッドを受け止めた。するとアシッドの当たった腕から音を立てて白煙が上がり始めた。それを見たもう一匹のシャゴンも首を伸ばしてシャゴンアシッドを吐き出し、レオの体は緑色に染まってゆく。
二匹のシャゴンはこれで「勝った」と思ったことだろう。だが、溶解液に覆われて腐食音を上げるレオは地を蹴って身をひねると、鋭い回し蹴りを二匹同時に叩き込んだのだ。
独楽に弾かれる小石のように、二匹同時に吹き飛ばされて転がるシャゴン。二匹は何が起こったのかわからなかった。岩をも溶かす自慢のシャゴンアシッドをまともに受けて平気な相手がいるなど考えもしていなかった。
だがシャゴンアシッドは本当にレオに効かなかったのか? 否、シャゴンアシッドは確かにレオの体を蝕んで腐食させようとしていた。しかしレオは円盤生物ブラックドームやデモスなど、溶解液を使う怪獣と何度も戦ってきた。宇宙星獣ギロとの戦いでは溶解泡に覆われながらもギロの触角を破壊して勝利している。平気だったわけではなく、シャゴンアシッドが体を蝕む痛みに耐えきったのだ。そして回し蹴りの風圧で体についたシャゴンアシッドも吹き飛ばしたレオは、片方のシャゴンを持ち上げてもう一匹へ向けて放り投げた。
『レオリフト!』
大重量の怪獣を軽々持ち上げるレオのパワーで投げられたシャゴンがシャゴンにぶつかる様は、まるでボーリング玉でやるビリヤードだった。ぶつけられたシャゴンたちは丸っこい体のおかげでよく転がり、目を回しながらようやく悟った。二匹がかりでもレオには勝てないと。
それでもシャゴンたちは引く気配を見せず、なおも戦おうとしている。そして引き寄せられるように三匹目のシャゴンが地底から現れる。
"この執念は……"
レオは、シャゴンから何が何でも村人を食おうとする強い意思を感じた。単なる空腹ではあり得ないこの執念は、ハイパーゼットンの影響の残りか、それともヤプールのマイナスエネルギーか……いや、もっと根源的なものだろう。
すなわち、味を占めているのだ。どれくらい前かはわからないが、こいつらは人間の味を覚えてしまっている。ハルケギニアではオークや野生動物に人間が餌食になることは珍しくないが、その類で過去に恐らく……となると話は変わる。ウルトラマン80の時代に渓谷怪獣キャシーが人間を襲おうとするのをUGMやエイティは懸命に止めようとしたが、それは野生動物が人間の味を覚えてしまうと人間を好んで襲う人食いになってしまうからだ。
地球の歴史においても人食いライオンや虎に熊などの逸話は多い。肉食動物は人間が未知の相手ならば警戒するが、一度襲うことに成功してしまうと積極的に人間を狙ってくるようになる。このシャゴンたちがそうなっていることに気づいたレオの目の色が変わった。
三体になったシャゴンは今度こそレオを倒そうと、同時に腹の発光体を光らせて電撃光線シャゴンスパークを放ってきた。稲妻状の破壊光線がレオを囲み、爆発の炎がレオを包み込む。だがレオはひるむことなく、火焔の中から炎より赤い火球を投げつけた。
『エネルギー光球!』
赤く輝くレオ必殺の破壊光弾は一体のシャゴンに見事命中し、そのまま風船を割るようにして粉々に粉砕してしまった。
残った二体のシャゴンは、仲間が一瞬で消し飛ばされたことに愕然と恐怖で凍り付いて立ち尽くしていたが、そこに炎をまといながら飛び込んできたレオの鉄拳が一体の腹に突き刺さる。
「イヤァーーッ!」
巨大な砲弾がぶち当たったかのような衝撃に、シャゴンはぐらりと揺れてひざをついた。
これはこれまでの追い返すことを目的とした手加減されたものではない。平和を守るためには時には心を鬼にしなければならないこともある。人の味を知ってしまった獣に絶対にしなければならない【駆除】の決意を込めた重い一撃だ。
愕然としたもう一体は、慌ててレオを攻撃しようとするものの、そこにはすでにレオの姿は無かった。どこへ? と、シャゴンは左右を探し回ったが見つからず、顔にかかった影でレオが一瞬にして空高く跳び上がっていたことを知った。赤い月を背にするレオに死神の影を見たシャゴンは、とっさに背中の甲羅を空中のレオへと向ける。
急降下してくるレオ。シャゴンはレオへ向かって、背中の甲羅から無数の三日月型の赤い弾丸、甲殻スラッシュを放ってきた。一度に数十のスラッシュが放たれる光景はまさに弾幕、ほとんど隙間がない下から降る雨はレオを確実に捉えた……かに思われたが、レオはなんと急降下の勢いのままに甲殻スラッシュを弾き返し、流星のようにシャゴンの甲羅を踏みつけたのだ。
悲鳴をあげて倒れ込むシャゴン。今のはレオキックではない、そうであれば甲羅ごと風穴を開けられていただろう。だがダメージは大きく、シャゴンは内臓を潰されて苦しんだ。
残酷に見えるか? だが誰かがやらねばシャゴンたちは生きている限り人間を狙い続ける。肉食動物とはそういうものなのだ。追い詰められた二匹のシャゴンは、ようやく自分たちが捕食者ではなく狩られる側だと悟った。
だがシャゴンにはまだ切り札があった。二匹のシャゴンは向かい合って合体すると、そのままコマのように急速回転しだしたのだ。
一個の巨大円盤のように回転するシャゴンたちを見て、レオは構えを取り直した。あれをまともに受けるのは自分でも危ない。そう、これがシャゴンの必殺技、その名もシャゴンボールなのだ。
シャゴンボールとなったシャゴンたちは木々をなぎ倒しながらレオに突撃してきた。草刈り機が雑草をなぎ倒すように木々が千切れて飛んでいき、レオは直前でジャンプして飛び越えた。しかし、シャゴンたちはこうなってしまえば無敵だと、なんと宙に飛び上がってピンポン玉のように軽やかに飛び跳ねながら向かってきたのだ。
むろんこのピンポン玉は触れるものすべてを破壊していく恐怖のスクリューボールだ。レオでも受け止めるのは無理だと横合いに跳んでかわすしかない。バック転で回避したレオのいた場所が、スプーンですくったアイスクリームのようにえぐられている。
このままでは……しかしレオは追い詰められたようにシャゴンたちに思わせて、その弱点を冷静に見抜いていた。いかに破壊力があるとは言っても回転で力を得ている以上必ず死角が生まれる。そしてその弱点を突く術を持っているレオは、シャゴンたちを誘い出すために大きく空へとジャンプした。
「ダアッ!」
ひと跳びで一千メートルまで跳び上がったレオを追ってシャゴンボールも宙へ跳び上がってくる。この角度ではレオから見てシャゴンボールは横回転で死角を突くことはできない。だが月を背にしたレオが身をそらすと、強烈な月光が刺すようにシャゴンボールを照らし出し、二体のシャゴンはレオを見失ってしまった。
これはアストラが使ったことのある目くらまし戦法。相手を影にし、そこに増幅した光をぶつけることで視界を奪う。
シャゴンたちはレオを探してシャゴンボールを右往左往させた。だが、勝負はレオを見失ってしまった瞬間にすでについていたと言えよう。シャゴンボールの真上に遷移したレオはシャゴンボールとは逆方向に回転を始め、そのまま一気に急降下した。そう、回転するものにとって絶対に無防備となってしまうのは真上。シャゴンたちが気づいた時にはすでに遅く、レオは回転の勢いを合わせて威力の増した蹴りを、合体したシャゴンの合わせ目へと叩き込んだ。
『きりもみキック!』
一瞬、レオとシャゴンボールのシルエットが重なった次の瞬間、レオは大地に降り立っていた。かつて双子怪獣レッドギラスとブラックギラスのギラススピンを打ち破ったレオの必殺技はレオの成長と共に進化し、シャゴンたちは合わせ目から頭部と腕部を丸ごと消滅するほどえぐり取られていた。
空中に静止して残るシャゴンボール。そしてシャゴンたちは自分に何が起こったのかも理解できないままで、大爆発を起こして夜空を焦がして散っていった。ウルトラマンレオの勝利だ。
そして、さらば……勝利したレオは、シャゴンの魂の冥福を祈り、爆炎の消えた空を見上げた。
恨みはないが、倒す以外に道は無かった。せめて、その霊魂は安らかに。
風がなごりを運び去り、夜空は何事も無かったかのような静けさを取り戻した。
この近辺に潜伏していたシャゴンはあの3体だけだったようで、もう気配はない。レオは、この地で自分がなすべきことが終わったことを確信すると、夜空に明るく輝くハルケギニアの赤い月を目指して飛び立った。
「ダアッ!」
ウルトラマンレオの赤いシルエットが月に吸い込まれるように消えていく。
山々は、森々は静かに夜の鬨を刻み続け、人間たちは眠り続ける。
レオの戦を見ていた者は誰もいない。命を救われたことを知る者は誰もいない。
だがそれでいい。誰もが安心して朝を迎えられる日々を守ることがウルトラ戦士の願いなのだから。
これからもハルケギニアで人知れずウルトラ戦士の戦いは続くであろう。彼らは決して見返りを求めることはない。けれど、もしあなたが夜空を見上げたときに、小さくなっていくなにかを見つけたなら、そっと手を振ってあげてください。
続く