ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第57話  銀世界の超熱戦

 第57話

 銀世界の超熱戦

 

 食いしん坊怪獣 モットクレロン

 ミニ宇宙人 ポール星人

 凍結怪獣 ガンダー

 猫舌星人 グロスト

 ウルトラマングレート

 ウルトラマンパワード 登場!

 

 

「きゃーっ、可愛い。こっちにも来てーっ!」

 青空晴れ渡るトリステイン魔法学院。先の戦いでまた大きな被害を受けてしまったここでは、そんな場所に似つかわしくない黄色い歓声に溢れていた。

 歓声の元になっているのは魔法学院の女子生徒たち。彼女たちの視線の先にはぬいぐるみのように飛び回る無数のチャイルドバルタンたちがいた。

「すみません、この学院を元通りにしてお返ししたかったのですが、難しそうです」

「いいのよいいのよ。ここが壊れるなんていつものことだから。なんならずっといてくれててもいいんだから」

 フワフワ浮かびながら詫びるチャイルドバルタンの一人に、女生徒が赤面しながら答えた。

 悪に落ちたバルタン星人によって人質として連れてこられたチャイルドバルタンたちは、ウルトラマンたちの勝利で解放された。その後、彼らは宇宙船『廃月』の応急修理が終わるまで、壊れた学院や荒らされた郊外の修復に当たってくれていた。

 学院の生徒たちは、最初チャイルドバルタンたちの好意に謝意を示しつつも戸惑っていた。けれど、献身的に壊れた建物にレンガを詰んだり、穴だらけになった道を修繕してくれている彼らを見ているうちに、その眼差しが妖怪を見るものから妖精を見るものへと変化していったのだ。

 ある女生徒が勇気を出して話しかけた。

「ねえ、ここ手伝いましょうか?」

「ありがとう。あなたは優しいのね」

 そのチャイルドバルタンが意外にも可愛い女の子の声で返してくれたので、生徒たちは驚いたと同時に、チャイルドバルタンたちが自分たちとあまり変わらない年ごろで男女もあると知った。

 そして、いったん緊張が解けると打ち解けるのに時間はかからなかった。特に女子は恐怖心がなくなると、フワフワ飛ぶ小さなチャイルドバルタンたちに愛らしさを感じて積極的に仲良くなりに行った。

 そうして語り合い、ともに働いて、夜にはゲームなどをして楽しむうちに生徒たちとチャイルドバルタンたちの間には友情が芽生え始めていた。

 しかし楽しい時間はあっという間に過ぎる。廃月の応急修理が終わると、別れの時はやってきた。

「もう行っちゃうの? もっといてくれてもよかったのに」

「ごめんなさい。わたしたち、無理やり連れてこられたからきっとパパやママが心配してるわ」

「それじゃ仕方ないわね……お元気で、あなたたちのこと忘れないわ」

 名残惜しげに生徒たちが手を振るのに見送られ、チャイルドバルタンたちは空に浮かぶ廃月に飛んでいった。

 廃月を操縦するのは、バルタン星人の過激派三人の中で唯一生き残った一人である。彼はアスカ・シンを狙うもオルゴールのメロディーで眠らされてしまい、目が覚めた時には全てが終わってしまっていた。行くところが無くなってしまった彼は、バルタン星に戻って罪を償うことを条件に許されたのだった。

 巨大宇宙船廃月はゆっくりと動き出した。生き残ったバルタン星人は不安げに操縦装置を動かしているが、チャイルドバルタンたちは彼を見張りながら、穏やかに語りかけた。

「大丈夫ですよ。あなたはまだたいしたことはしていません。きちんと謝れば、重い罪にはなりません」

「俺たちは君たちにあんなにひどいことをしたというのに……これからは真面目に生きます」

 優しさに感動して震えながら下っ端バルタンは子供たちに詫びていた。威勢のいいことを叫ぶ我の強い上司が部下を洗脳状態に置くことがあるが、これが彼の素なのだろう。

 生徒たちに見守られながら廃月は上空へ上がっていく。しかし応急修理では十分に航行能力が戻らず、このままではバルタン星にたどり着くことはできない。そこへ、地上から輝きと共に赤いウルトラ戦士が飛び立った。

「ジュリねえさん……」

 生徒たちに混ざって空を見上げていたティファニアがつぶやいた。ウルトラマンジャスティスはこれから廃月を新バルタン星まで運んでいく。本来ならコスモスが行くべきであったが、ティファニアがハルケギニアをしばらく留守にすることの不具合を察してジャスティスが代わってくれたのだった。

 やがて廃月は空のかなたに見えなくなった。恐らく無事に大気圏を離脱できたのだろう。

 チャイルドバルタンたちの旅の安全を生徒たちは祈った。だがもうひとつ、学院には大荷物が残っている。満腹になってぐっすり眠っているマザルガスの処遇だ。凶暴な怪獣ではないものの、そこにいるだけで脅威なのが怪獣だ。そこで、眠っているうちにマザルガスを宇宙に帰すために、アスカ・シンは戦いの疲れを癒して再びここにやってきていた。

「さあて、ぐっすり寝たし魅惑の妖精亭でたっぷり食わせてもらったし、俺も一仕事するか。ダイナーッ!」

 ウルトラマンダイナが学院そばの大地に降り立った。強いて言えば就寝中のアスカを闇討ちしようとしたミジー星人の三人組がスカロンとジェシカにしばかれている騒ぎで安眠妨害されたものの、それでも十分に休養させてもらった。

 ダイナは見上げて歓声をあげてくる生徒たちに得意のサムズアップを見せて応えると、眠っているマザルガスを持ち上げて頭上に担ぎ上げた。そして廃月が去っていったのとは違う空を見上げて飛び立った。

「ショワッチ!」

 あっという間にダイナとマザルガスの姿は雲の果てに見えなくなっていく。生徒たちは学院を救ってくれた英雄たちに、貴族の礼を尽くした敬礼で見送った。

 そしてここ、学院の最上階にある学院長でも、オスマン学院長が廃月やマザルガスが去っていくのを見送って安堵の笑みをこぼしていた。

「ようやく静かになったのお。まったく、こっちはもういい歳じゃというのに、心臓によくないことばかり起こりおるわい」

 学院がたびたび怪獣に襲われることで、教師たちは心労がたまっていた。どれだけ普段は威張ったりしている教師でも、こんなときに働かない者を残らせてくれるような優しい職場は存在しない。中でもオスマン学院長は教師たちの半分が戦争で休職するわ秘書はいないわで、ひときわ老け込んだように見えた。

「ミス・ロングビルは長期休暇をとっておるしのう。そろそろ代理の秘書を見つけないと身が持たんわい。おお、モートソグニル、お前だけじゃわい、この老いぼれをいたわってくれるのは」

「オールド・オスマン、そろそろぼくらを呼んだ要件をお話いただけませんか?」

 使い魔のハツカネズミを手のひらに載せて可愛がる学院長に、呆れたような声がかけられた。

 学院長室には数名の少年たちが呼び出されていた。先頭で代表をしているのは、薄い金髪に丸メガネをかけたレイナールである。オスマンはモートソグニルを遊びに行かせると、咳ばらいをしてレイナールたちに向き合った。

「いきなり呼び出して悪かったの。さて、おぬしらも先の戦いでは英雄の仲間じゃ。学院の長として、感謝の意を伝えたい」

「いえ、ただの偶然ですよ、ははは……」

 レイナールたちは乾いた笑いで応えた。まさか遭難した末に怪獣に掴まってきただけとは言えない。

「まあそう謙遜するでない。わしが女王陛下なら勲章を授与するところじゃ。さすがはオンディーヌの名を隊に冠するだけのことはあるのう、わしも鼻が高いわい。先ほど話が届いたが、ガリアに潜入していたサイトくんたちの隊も見事に功績を立てて無事戻ったそうじゃ。誰も欠けてはおらん。まずはそれを伝えたくての」

「サイトたちが! それは何よりの朗報です」

「うむ、数日もすれば学院に戻るじゃろう。だがの、再会の邪魔をしてすまんが、君たちへの褒美を兼ねた頼みごとがあってのう。しばらく出かけてもらいたいのじゃが、受けてもらえんじゃろうか」

「褒美を兼ねた頼み事?」

 意味がわからずにレイナールたちは首を傾げた。とはいえ何か嫌な予感がしてきたので、場合によっては全力で逃げ出そうと覚悟を決めた時、学院長は困った顔をして話し出した。

「実はのう、この学院はたびたび怪獣が現れては事件が起きるじゃろう? そういうことなので、貴族たちの間でも学院に子弟を送りたくないと、来年度からの入学希望者が激減しておっての。このままでは魔法学院の存亡に関わる一大事なのじゃ」

「それとぼくらにどんな関係があるのかイマイチよくわからないのですが? 自慢ではないですが、客引きに向いた柄ではありませんよ」

「いやいや、諸君らにそんなことをさせようなんて思っとらんわい。そんなことで入学希望者が増えるくらいなら去年からやっとるしの。それにそれでは褒美にならんじゃろ」

「ならばどういうことでしょうか? 謎かけをされているのかもしれませんが、認識の外にあるものに気づけと言われても困ります」

「もっともじゃな。すまんの、ジジイになると若者にいたずらしたくなる悪い癖が出てくるんじゃ。じゃが君は無理に頭を悩ませようとしなかったのは、正直に利発じゃと思うぞ」

 オスマンが小さく拍手するのに、レイナールは苦笑しながら内心で「そりゃ、ギーシュ隊長たちと話を合わせるのにいちいち考えてたんじゃ身が持たないし」と、悟ったように思っていた。

 とはいえ、考えられる題を目の前に出されたら多かれ少なかれ思考を巡らせたがるのは人の常だ。

「つまりは学院長は、来年度の入学希望者を増やすために、ぼくらに何か仕事をさせたい。それは学院を留守にする必要があるものというわけですね?」

「そのとおりじゃ。君たちにはある小国に向かってもらいたい。そして、そこのある人物を学園に入学……いや、留学といったほうがいいかの。できるように勧誘してほしいのじゃよ」

「勧誘? 話から察するにかなり身分の高い方と思いますが、それならば学院長がご招待されればよろしいのでは?」

「こんなジジイが若い者を呼んでも逆効果じゃろう。一昔前はともかく、今はもう名門校だからとて黙っていれば生徒が来てくれる時代ではないのじゃ。例えばアルビオンは友好国じゃが、国家の再建に優秀な人材が必要なので、国を挙げて留学生を破格の待遇で他国から招いておる。その意味じゃ、我が国とはライバルじゃ。同じことはこれからガリアもするじゃろう。つまり、ぼんやりしておればトリステインは若い人材を他国に吸い取られて戦わずして滅んでしまう。笑い事ではないのじゃぞ」

「それで本校も留学生を受け入れようというわけですか」

 留学生といえば、タバサやキュルケがまず思い浮かべられる。今思えばすごい雲の上の相手と何気なく机を並べていたものだが、その二人は今は学院にいない。

「わしとしては、生徒を看板に利用するようなやり方は思うところもあるが、今のところ他に手立ても無くての。教員の向上や生徒の待遇の改善など、やる予定ではあるがすぐには間に合わん。苦肉の策、理解してもらえるじゃろうか?」

「学院を預かる重責、お察しいたします。それではそろそろ、その方がどういう人なのかと、ぼくたちにどんなメリットがあるのかを説明願います」

「ああうむ、歳を取ると話が回りくどくなっていかん。君たちに勧誘してきてもらいたいのは、この方じゃ」

 そう言って、オスマンは机の引き出しから紙束を取り出してレイナールたちに見せた。そこには簡単な資料と似顔絵が添えられており、レイナールたちが目を通す傍らでオスマンは説明を続けた。

「その方はアンリエッタ女王陛下とも懇意の間柄での。少し変わりものじゃが文武両道の才女として社交界でも有名で、本校に呼べれば多大な宣伝効果が見込める。諸君らにも、将来を見据えてコネができるのは有利じゃろ。それになにより、彼女の領地は武芸を重んじて美人が多くての。ほっほっほっ、諸君らもきっと気に入るじゃろ……おん?」

 口元が歪んだ顔で話し続けようとしたオスマンだったが、そこでレイナールが当の相手の似顔絵に釘付けになっているのに気がついた。

「レイナールくん?」

「はっ! は、はい、なんでしょう?」

「なんでしょうは君じゃろう。はて、何がそんなに気になるのかと思えば……ははん、なるほどのう」

 オスマンが机の前を覗き込んでニヤリと笑うと、水精霊騎士隊の少年たちも机の上に置かれた似顔絵を見て「ははん」と笑った。

「なーるほど、レイナールくん、そういうことですかぁ」

「なっ、なにがなるほどなんだよ!?」

「隠すなよ。ほうほう、確か君って強気な乙女が好みのタイプだったよねえ? レイナール副隊長殿?」

 仲間たちに似顔絵を指差されながらニヤニヤ笑われ、レイナールは顔を真っ赤にして抗議したが、それは大声で肯定しているようなものだった。

 オスマンは、断られたときにはどうしようかと心配していたが、これなら問題ないなと安堵しながら続けた。

「どうやらお気に召したようじゃの。さて、出立は君たちの準備が整ってからに任すが、君たちの隊長が戻ってからでも」

「すぐ出かけます!」

 レイナールは自分でも信じられないほどの声で答えた。

 あの女好きの隊長に知られたらどんなことになるかは想像するまでもない。そうと決まれば猶予がない、レイナールは何かに突き動かされるかのように戦友たちに声をかけ、小一時間後には学院長からの紹介状を手に学院を飛び出していった。

 オスマン学院長は、校門から馬に乗って出かけていく彼らの後ろ姿を学院長室から髭を撫でながら見下ろし、嬉しそうにほくそ笑んでいる。

「若いのはいいのう」

 レイナールは水精霊騎士隊では良識派なので、断られることも考えていたが予想をはるかに超えるレベルでうまくいった。若者はああして勢いで行動できるのが強みだ……けれど、うまくいくかどうかは別問題である。学院の経営が危ないことは確かなものの、もし失敗して学院が潰れるならば、責任はこの老骨が墓場まで持っていけばいいとオスマンは考えている。

 学院はあくまで箱だ。学院が無くなっても若者たちは別のところに行けばいい。とはいえ、人生をかけてきたこの学び舎に愛着があるのも事実。普通に考えれば望み薄だが、彼ら水精霊騎士隊はこれまで様々な困難を成し遂げてきた。常識なんぞで測るのはもったいない。学院が衰退していくのか、それとも活気を取り戻すのか、まだまだ自分の人生にはワクワクが残っている。

「おもしろくなりそうじゃわい」

 レイナールたちが向かった先で何が起こるのか? それを想像してオスマンは水キセルを手に持ち、愉快そうに笑いながら葉を詰めるのだった。

 

 またも嵐の卵が世に放たれた。ギーシュや才人がそれぞれ華々しい戦果を上げる中で、水精霊騎士隊の参謀でありながら今まで地味な存在感だったレイナールが果たしてまたとない機会に輝けるか否か、それを知る者はどこにもいない。

 

 レイナールたちがすごい勢いで飛び出していったのは幾人かの生徒が目撃していた。そのうちの一人に、ティファニアもいた。

「いやだわ、また何か悪いことが起きなければいいけど」

 やっと大変なことが終わったというのに、また平和を乱されたくないとティファニアは心を痛めた。

 学院ではまだ授業を再開するには至っていない。学院に残っている生徒たちは学院の復興に当たる以外では暇を持て余しているが、ティファニアは時間を無為に過ごしたくはないと、学院の手伝いを見つけては勤しんでいる。

 そして今は、学院で飼育されている使い魔たちのエサを厩舎まで運ぶ仕事を請け負って、荷車を一生懸命引いていた。

「よいしょ、よいしょ」

 生徒たちの使い魔は、小型のものは主人と行動を共にしているが、馬や幻獣などの比較的大型のものなどは、こうして別施設で飼われている。ティファニアはコック長のマルトーから頼まれて、使い魔たち用のエサを運んでいた。

「すまねえなエルフの嬢ちゃん。シエスタたちは学院の掃除でまだ忙しいらしくてよ。感謝しているぜ」

「いえ、こう見えて力仕事は昔からやっていましたから。お役に立てるならなによりです」

 アルビオンの森の奥深くで生活していた頃を思い出す。あの頃はなんでも自分たちでしなければならなかった。学院では男子生徒が頼まなくても手伝ってくれるが、今はこうしてあのときの忙しい生活が思い出せて、ティファニアは少し懐かしい気持ちを感じた。

「みんなー、ごはんの時間ですよー」

 ティファニアが呼びかけると、彼女の引いてきた荷車にわっと使い魔たちが集まってきた。

 馬やロバ、スキュラやバグベア、鷹や雀もいる。大型の使い魔たちだけではなく、中型から小型の使い魔たちも、羽を伸ばしたいのかやってくることもあり、ここはちょっとした使い魔たちの社交場となっていた。

「皆さん、今日もお元気ですね」

 食事を楽しむ使い魔たちを見渡して、ティファニアは嬉しそうに微笑んだ。前はキュルケのフレイムやタバサのシルフィードもいたのだが、今はだいぶ少なくなっている。それでも、誰に迷惑をかけることもなくわいわいと平和に過ごしている使い魔たちの和やかな光景は、戦いで疲れたティファニアの心を癒してくれた。

 そんなときだった。自分以外に誰もいないはずのティファニアの耳に、耳慣れない声が聞こえた。

「モットー、モットー」

「はい?」

 声をかけられてティファニアは振り返ったが、誰もいなかった。きょろきょろと探してみるものの、目に入るのはエサを取り合っている大カマキリと巨大ヤゴの姿だけだった。

「ええと、わたしの空耳でしょうか?」

「モットー、モットー。ここだよ、お姉さん」

 言われて足元を見ると、胸の影で見えなかったところに緑色の不思議な生き物がこちらを見上げていた。

「あなたなの? わたしを呼んだのは。あなたはしゃべることができるの?」

「そうだよ。使い魔にしてもらえて、しゃべれるようになったのさ。それよりお腹が空いて大変なんだ。食べ物をくださいな」

「は、はい。どうぞ」

 慌てたティファニアは野菜を手渡したが、その生き物は首をぶんぶんと振って嫌がった。

「それじゃない。魚だ、魚をくれ」

「は、はい……えーっと、えっと、どうぞ」

 荷車に残っていた魚を探して手渡すと、その生き物は嬉しそうにバリバリと食べた。

「いやー、ありがとうなお姉さん。大きな魚は手早い奴らにとられちゃうからよ」

「あなた、お魚が好きなのね」

「いやいや、俺の種族はみんな野菜しか食べないよ。俺はなんつーか、偏食家ってやつらしくて」

「へえ……」

 ティファニアが感心していると、どうやらほかの使い魔たちも思い思いの場所で食事に入ったようで、荷車はいつの間にか空になっている。

 本来ならこのまま戻ってよかったけれど、ティファニアはなんとなくこのしゃべる生き物が気になって話しかけてみた。

「ねえ、あなた。あなたのような生き物、見たことないのだけれど、どこからきたの?」

「なんだいお姉ちゃん。俺のことなんかが気になるのかい?」

「うん。わたし、ずっと森の中で過ごしてきたから、いろんなことを知りたいの」

「そりゃ奇遇だな。俺も森ばかりのところからやってきたのさ。それもお姉ちゃんよりも遠い遠い、星の彼方からさ」

 その生き物ははるか空の果てを見上げながら言った。そしてティファニアも空を見上げ、少し感傷に浸るように目を細めた。

「星よりも遠いところ……もしかしてあなたも、サイトさんと同じように別の世界から召喚されたの? あなたのお名前は?」

「別の世界か……かもしれないな。おっと、名前は聞かないでくれ。俺のご主人様はネーミングセンスが壊滅的でなあ。もっとも、俺の種族の呼び名もひどいけどな。モットーって鳴くから、モットクレロンなんて誰かが名づけやがってな」

「ぷっ、うふふふ」

 そのあまりな名前にティファニアがふき出すと、モットクレロンはプリプリ怒りだした。

「あっ、あんたも笑うのか!」

「ご、ごめんなさい。じゃあ、モットーさん」

「それはやめろ」

「じゃあ、クレロンさん」

「それなら、まあいい」

 モットクレロンが納得してくれると、ティファニアはモットクレロンの隣にしゃがみこんだ。

「ねえクレロンさん。この学院にいて、よかったと思う?」

「なんでそんなことを聞くんだい?」

「今、いろんなことがあって世界は大変なことになっているわ。この間だって……故郷に帰りたいと思ったことはないの?」

「ほほんなるほど、お姉さんはホームシック気味ってことか。そりゃ俺も故郷が懐かしくなることはあるぜ。でも仲間と違って野菜が食えない俺にとっちゃ、ここは無くちゃいけない場所なのさ。おかげでちっとも大きくなれないでいるけど、故郷にいたら果たして生きてられたかどうかわからねえ。お姉さんは俺と違って自分でここに来たんだろうけど、どうして来たんだい?」

 そう尋ねられたティファニアは、少し驚いた顔をした後に考えて答えた。

「わたしは、森の中ではわからないいろいろなことを知るために……そのために、ここにいるわ」

「だろ? なら今の自分に自信を持ちなよ。未知に飛び込むのは大変なことなのはわかるけど、お姉さんはいい人間みたいだからきっとうまくいくさ」

「ありがとう。おかげで少し元気が出てきたわ。わたしはもっといろんなことを知って、姉さんたちみたいな立派な大人にならなきゃ」

「マジメだねえ。ま、気が重くなったらいつでもここに来いよ。ここの連中は食っちゃ寝してれば幸せなのんきものばかりだから、いっしょに昼寝してたら悩みなんか吹き飛ぶぜ」

「そうさせていただくわ。ねえクレロンさん、あなたのことをもっと教えて。星よりも遠い遠いところって、どんなところなの?」

「俺の故郷かい? そうさなあ、一面の森とでっかい湖があって……みんな、元気にしてっかなあ」

 モットクレロンは遠い目をしながら、今でははるか次元のかなたにある故郷の惑星のことを話し始めた。

 ティファニアは目を輝かせながら、モットクレロンの話に聞き入っていた。そうして、種族に捉われずに誰とでも自然体で仲良くなろうとする姿に、彼女の内のコスモスは再びある青年を思い出していた。

 

 ハルケギニアの召喚魔法は時として次元を超えた別宇宙から使い魔を呼び出す。

 次元を超えたM78星雲のある宇宙にあるモットクレロンたちの故郷の星。そこは草食のモットクレロンたちが住むにふさわしく、豊かな緑に恵まれた惑星であったが、今まさに壊滅の危機に瀕していた。

 

「モットー……モットー……」

 一頭のモットクレロンの弱弱しい鳴き声が吹雪に流れていく。

 温暖なはずの惑星は今、黒雲と分厚い雪に覆われた極寒の冬に襲われていた。

 植物は雪の下にうずまり、草食のモットクレロンたちは飢えて生命の危機に直面している。

 しかし、なぜ冬のないはずの惑星に冬が襲ってきたのか? それは氷漬けになった惑星を見下ろす三体の小型の宇宙人たちの仕業であった。

「ハーッハッハ、凍れ、凍り付くがいい。冬を知らぬこの惑星に、我々ポール星人が初めての氷河時代をプレゼントしてくれようぞ」

 トンガリ帽子から直接細い手足が生えたような小さな宇宙人。かつて地球にも氷河期をもたらしたというミニ宇宙人ポール星人である。

 炎の中のような異空間から惑星を見下ろすポール星人は、みるみる凍っていく惑星を見て高笑いをしていた。そして、この極寒の環境を作り出した張本人こそ、冷凍光線を吐き続けている銀色の怪獣である。

「やれ、ガンダーよ。お前の力で、この星に万年晴れない吹雪をもたらしてやるがいい」

 ハトのような鳴き声を吹雪の中に轟かせる、カタツムリのように飛び出た目と裂けた口を持つ異形の怪獣。ポール星人が誇る、凍結怪獣ガンダーである。

 ガンダーは零下140度の冷凍光線を吐き、森も大地もあっという間に白く凍り付かせてゆく。このままガンダーが暴れ続ければ、本当にこの星に氷河期を到来させることも簡単だろう。

 だがモットクレロンたちもかつてはウルトラマンタロウを手こずらせたほど力自慢の怪獣だ。団結すればガンダーに対抗することは不可能ではないだろうが、ここにはさらに強力な冷凍光線を放つもう一体の白い巨影があった。

 爛々と光る目をぎょろりとさせた、鎧を着た鳥のような頭の宇宙人。手からガンダーよりさらに強烈な凍結光線を放ちながら暴れるそいつは、猫舌星人と呼ばれるグロストだ。

 グロストの放つ冷凍光線も緑の大地をみるみるうちに白一色の死の世界へと変えてゆく。ポール星人とグロスト、ともに温暖な世界を憎む宇宙人同士が手を組んだのだ。

「凍れ凍れ、間もなくこの星は完全に氷河期に覆われる。氷の世界を銀河に広げてゆき、我々凍結宇宙人の威力を宇宙に知らしめるのだ」

 ポール星人たちにとって、他の惑星を凍結させるのは荒れ地に花を植えるくらいの気楽なことなのだ。だが善意で植えられた外来種の花が地産の植物を駆逐してしまうように、現地の生き物にとってはたまったものではない。

 ガンダーとグロストの放つ極低温の冷凍光線は極地並みの極寒を生み出し、モットクレロンたちは立っていることもできなくなりつつある。

「苦しいかね? だがいつも君たちを助けてくれるウルトラ兄弟はこの宇宙にはいないそうなのだ。かわいそうに、見捨てられたことを恨みながら氷の化石となるがいい。ハッハッハッハ」

 あざ笑うポール星人、好き放題に暴れまわるガンダーとグロスト。このままこの惑星は氷漬けになって滅亡してしまうのだろうか? だがその時、暗雲を貫いて大地に二つの光が降り立った。

「シュワッ!」

「ショワッチ!」

 その胸に銀のトライアングルをあしらった白銀の巨人、青い目を持つ力強い銀色の巨人。

 吹雪を二人の巨人のエネルギーが吹き飛ばす。その二人の勇姿を見て、ポール星人は驚愕して叫んだ。

「ウルトラマングレート!? ウルトラマンパワード!」

〔我々、宇宙警備隊はいかなる生命も決して見捨てることはしない〕

〔ウルトラ兄弟がいなくても、この宇宙の平和を守る者が絶えることはない。今すぐこの星から立ち去れ〕

 侵略は断固として阻止するという二人のウルトラマンの意志が傲慢な侵略者を圧し返す。

 だが、それではいわかりましたと逃げ出す侵略者はいない。ポール星人はまさかのグレートとパワードの登場に驚いたものの、すぐに我に返って言い返した。

「それは聞けない相談だね。君たちこそ、寒さに弱い光の国の住人がのこのこやってくるとは実に勇敢だ。君たちが代わって我々の威力を示す実験台になってくれたまえ」

 ガンダーとグロストが雄たけびを上げる。対して、片腕を上げる構えを取るグレート、力士のようにどっしりとした構えを取るパワード。

 極寒の大地を舞台にして、二大ヒーローと二大冷凍怪獣。世界を銀と白に染める決戦が始まった。

「シュワッ!」

 先頭を切ったのはグレートだった。ガンダーと相対し、ガンダーの振り下ろしてくる爪を腕で受け止めて蹴り返していく。

 さらにパワードもグロストと激突する。グロストの手から放たれる冷凍光線を大きくジャンプで回避し、グロストの背後に回転しながら着地して強烈な掌底を叩きつけた。

「トゥアァッ!」

 大きく押し出されてよろめくグロスト。すぐさま振り返って冷凍光線を浴びせようとするが、振り返る隙に懐に飛び込んだパワードに腕を押さえられて冷凍光線を封じられ、そのままヘッドバットをお見舞いされた。

 氷の彫像のような頭から破片を散らばらさせるグロスト。グロストの冷凍光線はガンダーのマイナス140度をさらに下回るマイナス210度のすごい冷たさだが、当たらなければ意味がない。そしてグロストは冷凍光線は強いが格闘戦が得意なタイプではなく、かつても格闘戦ではウルトラマンタロウに圧倒されている。パワードはその弱点を突いたのだ。

 一方のガンダーはかつてミクラスを倒したこともあるほど格闘戦でも強い怪獣だ。爪を振りかざして向かってくるガンダーに、グレートはアームガードで的確に攻撃をさばき、そのボディにジャブのラッシュを食らわせる。

 たまらず後退し、空に飛び上がるガンダー。この飛翔能力もガンダーの強力な武器だ。ガンダーの空中からの体当たりがグレートを弾き飛ばす。

「フゥアッ!」

 雪原に倒れ込むグレート。ガンダーは反転して再度空中から体当たりを狙ってくる。しかしグレートは起き上がると、ガンダーに向けて指先から弾丸のように光線を連射した。

『フィンガービーム!』

 機関銃のように放たれる青色ビームが飛行中のガンダーを捉えて撃ち落とす。背中を撃たれて叩き落されたガンダーは怒り、裂けた口を大きく開いて冷凍光線をグレート目がけて放ってきた。

 冷気を浴びて霜に覆われ始めるグレート。ガンダーはそれを見て、さらに冷気を強めていく。

 だがグレートが冷気を遮るように手をかざすと驚くことが起こった。冷気がグレートの手に吸い込まれてゆき、逆にガンダーに向けて放たれ始めたのだ。

『マグナムシュート!』

 相手の火炎や光線を吸収増幅して撃ち返すグレートの必殺技。増幅された冷凍光線を浴びせられ、逆にガンダーのほうがカチカチの氷の像へと化してゆく。

 そしてもう一つの戦いも、クライマックスになろうとしている。パワードにアームロックをかけられてグロッキーになったグロストを、パワードは頭上へと高く持ち上げた。

 かつて13万トンの地底怪獣テレスドンを持ち上げた剛力。パワードは頭上のグロストを岩石落としで思い切り放り投げた。

「へアッ!」

 真っ逆さまに雪原に叩きつけられるグロスト。その衝撃に、極低温の体は脆くもひび割れてゆく。

 そして遂に決着の時は来た。グレートは下に組んだ腕を回転させて一瞬指でトライアングルを形作ると、突き出した腕から青く輝くエネルギー火球をガンダーに発射した。さらにパワードも十字に組んだ腕全体から光の奔流をグロストに向けて照射する。

『バーニングプラズマー!』

『メガ・スペシウム光線!』

 スパークする光の火球がガンダーの細胞のひとつひとつにまで瞬時に浸透して破壊しつくす。

 一億度の超高熱のエネルギーが熱に弱いグロストを一瞬にして蒸発させる。

 二大ウルトラマンの必殺技が悪の怪獣たちを焼き尽くし、溢れかえるエネルギーが凍り付いた大地を溶かしながら大爆発して吹き去った。

 雪原は雪を吹き飛ばされて埋もれていた森や草原があらわになり、空にはさんさんと輝く太陽が蘇る。惑星に本来あるべき夏が蘇ったのだ。

 ウルトラマングレートとウルトラマンパワードの勝利だ。その光景に、ポール星人は圧倒されながらも自らの敗北を認めて言った。

「……またしても、我々の負けのようだね。ウルトラ兄弟以外の光の戦士たちを侮っていたことを認めて、我々はこの星系から手を引くことにしよう。だが覚えておくがいい、熱さと冷たさという相容れないものが宇宙にある限り、戦いは何度でも繰り返されるということを! ハッハッハ……」

 ポール星人は去り、惑星には平和が帰ってきた。モットクレロンたちは暖かさを取り戻した環境に喜んで「モットー、モットー!」とはしゃいでいる。

 グレートとパワードは、お礼を言うように懐いてきたモットクレロンたちの頭を撫でてやりながら、ポール星人の捨て台詞を思い出していた。

〔何度お前たちが攻めてこようとも、我々の信念が揺らぐことはない〕

〔ウルトラ兄弟のいない間、宇宙の平和は我々が守る〕

 M78星雲光の国の宇宙警備隊。そこにはウルトラ兄弟以外にも多くのウルトラマンが所属して、宇宙の平和を貴賤なく守り続けている。

 また平和を乱す何者かが現れても、そこには必ず新たなウルトラ戦士が立ちふさがることだろう。

 グレートとパワードはモットクレロンたちと惑星の生命たちに見送られながら、青空を目指して飛び立っていった。

「ショワッチ!」

「シュワッ!」

 

 

 続く

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