第64話
再開の魔法学院とやってきた転校生
魔神怪獣 コダイゴンジアザー 登場!
時は常に未来に進み続ける。
ガリアとの戦争も時が進み続けるにつれて世の中も落ち着き、戦争前と変わらない生活が戻ってきていた。
そして、ここトリステイン魔法学院でも、ようやく休校が開けて授業が始まろうとしている。
ルイズに才人、ギーシュたち水精霊騎士隊も続々始業式の日に帰ってくる。キュルケやタバサがいないのは寂しかったが、学院を離れていた生徒たちが続々帰ってくる様子は、校門をくぐったルイズもにこやかに見渡していた。
「やっと帰ってきたわね。なんかずいぶん長い間ここを留守にしてた気がするわ」
才人も荷物を抱えながら寮まで歩いていくと、シエスタがやってきて出迎えてくれた。みんなが留守の間も寮の部屋を掃除してくれていたそうで、感謝で胸が熱くなる。
「誰の胸が厚いんですって? わたしの胸は薄いって言いたいの?」
「そんなこと言ってないだろ! てか心を読むなギャーッ!」
ルイズに才人がしばかれるという魔法学院の日常がまたひとつ戻ってきた。
学校は生徒がいてこそ学校になれる。生徒のいない学校はただの建物でしかない。馬や馬車から降りてやってくる生徒たちの列を出迎える教師たちも、それを実に感慨深く見守っている。
「おかえりなさい。みんな元気そうで、とても喜ばしいですわ」
恰幅のよい中年女性教師のシュヴルーズ女史が戻ってきた生徒たちの手を取って嬉しそうに微笑んでいる。
様々な事件があり、生徒の中には学院をやめてしまったり転校してしまった者も少なくない。それでも次々に馬や馬車から生徒たちが降りてくる光景は、ようやく戻ってきた「平和」を実感できる素晴らしい光景だった。
「テファ、久しぶりね。元気にしてた?」
「モンモランシーさん、はい、お久しぶりです。ギーシュさんがお怪我をされたと聞いていましたが、もうよろしいんですか?」
「昨日やっと包帯をとれたわ。こら、あなたという人はわたしがやっと使えるようにしてあげた手を何に使ってるの!」
さっそく薔薇の花を出してテファを口説こうとするギーシュをモンランシーが耳を引っ張りながら連れて行った。それをみんなが笑いながら見送るのもまた、魔法学院のいつもの光景だ。
才人は部屋に荷物を置いてくると、中庭に集合している水精霊騎士隊のもとに駆け付けた。
「おお、来たねサイト。はは、さっきはルイズにだいぶやられたみたいだったね」
「うるっせえ。ギーシュ、お前こそモンモンにしぼられてただろうが。ったく、半分ミイラ男みたいなのがやっと治ったってのに、お前はほんと変わらねえな」
「……あの傷は、ぼくとミス・ルビアナとの絆だったからね。ぼくはぼくでいるさ。変わったりなんかしたらそれこそ彼女に申し訳が無い」
「ただ開き直ってるだけだろ。けどまあ、この顔ぶれが揃うのも久しぶりだな。お前にギムリに……あれ? レイナールはいないのか。真面目なあいつが珍しい」
才人は集まった顔ぶれの中に、よく目立つ眼鏡がいないのに不思議がって尋ねた。すると水精霊騎士隊のひとりが答えた。
「ああ、レイナールならなんか学院長室のほうに何人かといっしょに呼ばれてたぜ。そのうち来るんじゃないか」
「ふーん」
才人はなんとなく、あの学院長の事だからなんだろなと思ったが、それ以上の興味は持たなかった。
しかし、ほんの三十分ほど先に、その答えが特大の驚きとともに返ってくることになるのだった。
食堂で全校生徒の集まった始業式がオスマン学院長のあいさつで行われた後、生徒たちは教室に移動した。
懐かしの教室。懐かしの机に座り、授業の始まりを待つルイズたち。ところが教室にやってきたのはオスマン学院長で、生徒たちはざわついた。
「諸君、静粛に。おほん、本来、この時間はミスタ・コルベールの講義の時間じゃが、彼は別の外せない仕事でまだこちらに戻ってこれないでおる。そこでしばらく、ワシが代わって諸君らに教えることになった」
「オールド・オスマンが教鞭をとるというのですか?」
ルイズが驚いて立ち上がって尋ねると、オスマン学院長はホッホと長い白ひげをなでて笑いながらうなずいた。
「ワシも諸君らの元気にあてられてやる気が出てきてのう。これでも教師の端くれ、まだまだ若いものに負けはせんわい。それともワシでは不足かね?」
「い、いいえ! オールド・オスマンほどのメイジに直接教えをいただけるなんて、これに勝る光栄はありませんです」
ルイズが言うと、生徒たちも揃ってうなづいた。いつもとぼけた様子で昼行燈な好々爺で通しているが、ただの老いぼれに魔法学院の長は務まらない。齢百とも三百とも伝えられる国内最高峰のメイジがこの方なのだ。
「まあ気張らんでいい。あくまで代理教師としてをワシなりのやり方でやるだけじゃ。しかしその前に、諸君らにお知らせがある。実はの、今日からこのクラスに君たちの学友が一人増えるのじゃ」
「えっ!?」
「それって、転校生ですか?」
教室がざわめく。退屈そうにしていた才人も転校生というワードに反応して顔を上げ、ギーシュは「もちろん女の子ですよね!」と叫んでモンモランシーに頭に氷弾をぶつけられている。
ほんとに懲りない奴だな、と才人も呆れていると、教室にひとりの少女が入ってきた。
「……変わった服装の子だな」
才人は机に面杖をつきながら眺めて呟いた。ハルケギニアにだいぶ慣れた才人から見ても、その子の服装は変わっていた。金髪の芯の強そうな美少女で、水精霊騎士隊の連中はさっそくザワザワ騒いでいるが、肝心の服装は……なんとなく和風っぽい? 才人の脳裏に、以前にパソコンゲームで見た巫女さんヒロインのなんちゃって巫女服のような……いや、新選組の服をマゼンタ色にしたような……よく見たら刀を差している? え?
彼女はオスマン学院長の隣に立ち、学院長は再び咳払いをして話し始めた。
「諸君、紹介しよう。彼女はクリスティナ・ヴァーサ・リクセル・オクセンシェルナ。遠方のさる王国の王女であらせられる。今回、特別にアンリエッタ女王陛下のご好意もあり、我が学院に留学されることになった。ミス・オクセンシェルナ、挨拶を」
「ただいま紹介に預かった、クリスティナ・ヴァーサ・リクセル・オクセンシェルナだ。クリスと呼んでほしい。こちらは使い魔のガレット、共々よろしくお願いしたい」
彼女の傍らには、大きな茶色のネズミ? いやカピパラが二足で立っている。すっかり才人も眠気が覚めてクリスを見つめていると、クリスは話を続けた。
「この動乱の時代、国を離れて留学することに諸君も思うところがあるだろうが、こんな時代だからこそ平常を忘れずに過ごすことが大事だと思う。慣れぬ土地ゆえ至らぬことで迷惑をかけることもあるかもしれない。けれど、伝統あるトリステイン魔法学院の末席に加えていただける栄誉を胸に頑張りたいと思う」
「うむ、彼女は君たちと同い年じゃが、すでに文武で高い成績を上げている優秀なメイジでもある。彼女から君たちが学べることもいろいろとあろう。王族と敬遠せず、同じ立場と思って親交を深めてくれたまえ」
「学院長のおっしゃる通り、わたしも皆と同じ一般の生徒として扱ってほしい。わたしも諸君から多くを学びたいと願っている」
その堂々とした態度を見て、ルイズは「王族というのは伊達じゃないみたいね」と呟き、才人もうなづいた。しかしアンリエッタ女王陛下とはどういう関係だろうかということには「知らないわよ。女王陛下の交友関係なんて何百人もいるんだから」と、ルイズもわからない様子だった。
それでも才人は風変わりな転校生のクリスに興味深げな視線を見せていた。が、本当に驚くのはこれからだった。
「よろしい。では後は若い者同士、交流を深めてもらいたい。さて、ミス・オクセンシェルナの席じゃが……」
「はい……おっ、レイナール、お前の隣が空いているじゃないか。わたしはそこがいい」
その瞬間、「えっ!?」と教室が騒然となった。
レイナールの近くに座っている水精霊騎士隊の一人が「お、お前いつの間にあんな可愛い子と知り合ったんだ!」と騒いでいるが、レイナールはどきまぎして答えられないでいる。レイナールとともにクリスの国に行った少年たちはニヤニヤしながら黙って見ているだけだ。
「待たせたな。レイナール、これから学問でも共に学んでいけて嬉しいぞ」
「あ、う、うん」
レイナールの隣に座り、クリスはにっこりと微笑んだ。一体どういうことかと困惑しているギーシュたちに、クリスはレイナールが止める間もなく話す。
「レイナールはわたしの友人だ。国で燻っていたわたしの元にレイナールが迎えに来てくれたおかげで、わたしは外に出てゆく勇気を持つことができたのだ」
いつの間に......と、レイナールたちの旅のことをまだ聞かされていなかった才人やギーシュたちは驚いた。
けれどそこで、クリスが一瞬目を伏せて頬を染めたのを皆が目ざとく見逃さなかったのでレイナールは怒りを買った。
「レイナールお前抜け駆けしやがって!」
「この裏切り者裏切り者!」
もともと目立ってモテたいという不純な動機で集まってきた者の多い水精霊騎士隊なので、罵声と物がレイナールにこれでもかと投げつけられた。男の嫉妬は見苦しいと言うが、ものすごい美少女と良い仲になった者への嫉妬はすさまじく、才人は嵐の中のレイナールを同情の目で見上げていた。
もっともクリスはといえば「はっはっはっ、レイナールの友人は仲がいいんだな」と笑いながら見ており、ルイズに「変わった子ね……」と見られている。
そんな騒ぎをオールド・オスマンが咳払いをしてやっと止めた頃には、レイナールの顔は投げつけられたペンとインク瓶でまだら模様にされてしまっていた。
「もうそろそろいいかね? 元気が余っているのはいいことじゃが、その元気を学業にも向けてもらわんとのう。授業を始めるぞい」
そうたしなめながらもオスマン学院長もにやにやしている。モテる奴への反応は年齢とは無関係らしい。
ちなみに、やっと解放されたレイナールはクリスがまだ教科書を持っていないということで席を寄せていっしょに教科書を見ており、今度は才人に「学校生活七大男のロマン、女の子と相席教科書がこの世に実在したとは! なんてうらやまけしからん」と恨みを買っていた。
しかし馬鹿騒ぎはさすがに切り上げて、真面目な表情でオスマン学院長が教壇に立つ。
「では、ミスタ・コルベールの代役ということで火の系統の講義を始める。じゃが長い休校明けなので、まずは基礎のおさらいから入ろうかの。それでは、ミス・モンモランシ、君は水の系統だそうじゃが、あえて君に聞こう。火の魔法とはいかなるものかね?」
「はっ、はい。その、火の魔法は……燃焼......加熱をつかさどるもの、ですよね」
さすがに生徒たちも気持ちを切り替えて、学院長の講義に耳を向けている。
ルイズは内心で「キュルケがいたら情熱と破壊ですわ、なんて答えたところね」と、今はいないライバルのことを一瞬思い浮かべたが、学院長のうなづく声が感傷から引き戻した。
「うむ、さすが『香水』の異名を持つミス・モンモランシらしい考察じゃ。薬品の調合に火が不可欠であることを知っている良い回答であったぞ。火の系統とは燃やすこと。じゃが、今の回答のようにそれだけではないことを君たちに教えていきたいと思う」
そう言うと、学院長は杖の先に小さな火を灯した。
「言うまでもなく、これが火じゃ。火の系統を学ぶということは、つまりは火の扱いを極めていくということでもある。さて次はミスタ・グラモン、メイジにとって火の魔法はどんなときに必要になるかね?」
「は、はい。それはもちろん、戦であります。メイジが始祖ブリミルから魔法を授かったのは、王国と王家をお守りするためであります」
ギーシュも緊張しながらきちんと答えた。いつもはふざけていても、貴族としての矜持に関しては一片の揺らぎも含まれてはいない。学院長は満足そうにうなづく。
「よろしい。諸君らもいずれ騎士となり、領主となった時に戦の力が必要となる時が来るじゃろう。しかし年がら年中戦があるわけでもないし、何かを焼き続けているわけにもいくまい。そこで、君たちが将来仕官するにあたって役立つ小技をひとつ伝授しよう」
教室がざわつく。将来に王宮騎士を目指しているギムリなども思わずつばを飲み込んだ。
「オールド・オスマン、それはどのようなものでありましょうか!」
「慌てるでない。火の系統でない者も、ラインメイジ以上に昇格したら火の系統を使うこともあるやもしれんので、しっかり見ておくのじゃぞ。よいかな? まず火の魔法を極めるとは、すなわち火を自在に操るということになる。まあこんな風にの」
学院長の杖の上で、火がちょいちょいと形を変えていく。簡単な動物の形から、トリステインの紋章に変わったり、さらには裸の女性の形になったりして皆の笑いを誘った。
なんともスケベな学院長らしい。才人も皆に合わせて笑っており、学院長もほっほと笑っている。しかし、ギムリが放った一言が学院長の目の色を変えた。
「オールド・オスマン、そんな手品はいいですから、早く秘策とやらを見せてください」
「ほぅ、手品とな? ふぉふぉふぉ、それならこんな手品はどうかの?」
学院長が杖を振ると、小さかった火がみるみる大きくなってゆく。さらに炎が歪んで変形してゆき、三つ首の巨大な竜の姿になって吠えると教室には悲鳴が響き渡った。
「うっ、うわぁぁぁ!?」
「きゃああっ、りゅぅぅーっ!?」
炎でできた三つ首の竜は教室の中を荒れ狂い、生徒たちは竜の眼光や咆哮に慌てふためき、才人やルイズも圧倒されて言葉を失った。
しかし学院長が杖を下ろすと炎の竜はフッと幻のように消え去り、後には学院長の笑い声だけが残った。
「フォッフォッフォッ、どうじゃったかね? 今度の手品は」
学院長の笑い声に、生きた心地がしなかった生徒たちは椅子に崩れ落ちてほっと息をついた。それはこれまで幾度も怪獣を相手に死線をくぐってきた才人やルイズも同じで、本当に生きているような炎の竜だった。なんという恐ろしい迫力……才人は炎をまとった竜の姿に1964年に地球を襲ってきた強力な宇宙怪獣が現れた際の記録映像を思い出したくらいだ。
度肝を抜かれた生徒たちをそのまま見守る学院長。やがて生徒たちも気が落ち着くと、口々に「脅かさないでください」「こ、こけおどしじゃないですか」と叫ぶ。すると学院長は微笑しながら。
「そうじゃ、あれはこけおどしの手品じゃ。なんの力も持っておらん幻じゃよ。じゃが、その気になればわしは君たちを焼き尽くすこともできた。この意味がわかるかの?」
「……」
「触れるもの全てを傷つけるような力は高貴ではない。それは下賤な力じゃ。本当に高貴な者は、大きな力を持っていてもあえてそれを秘めて、道化を演じて己を安売りしないものじゃ。事実、今の”手品”でわしを軽んじた者はおらんじゃろう? ただの手品でも披露の仕方ひとつで己の経歴をつらつら語る百倍の価値を出すこともできる。これが”奥ゆかしさ”というものじゃ。覚えておくがよい」
その言葉に、ギムリも押し黙っていた。目立ちたがりで見栄っ張りなトリステイン貴族には理解が難しいことではあったが、今の"手品"を見て学院長を侮る人間はいないだろうことは納得せざるを得ない。
普段とぼけてはいても、さすが学院長。すると、クリスが立ち上がって熱く答えた。
「素晴らしいです! オールド・オスマン。力をひけらかさずにあえて道化となって己を立てる。奥ゆかしさ……それはわたしの信じる武士道の理念にも通じます」
「ほほお、それは興味深いのう。遠く離れた国にあっても、騎士道に通じるものがあるとはおもしろい」
学院長は愉快そうに白髭をさすっている。才人は「武士道」という日本語を聞いて驚き立ち上がろうとしたが、ルイズに耳を引っ張られて大人しくさせられている。
教室の注目はクリスに集中していた。それは驚きもあれば好奇心もあり、決して良い意味のものではないが、クリスは気に止めることもなく目を輝かせている。そんなクリスに、学院長はうなづくと声をかけた。
「ミス・オクセンシェルナ、君の系統はなんだったかな?」
「風、二つ名は『迅雷』であります」
「うむ。それでは、君の魔法でそのブシドウとやらを表現してみせてはくれるかね?」
「わかりました」
クリスは席を立ち、教室の前へ歩いていく。レイナールが心配そうに声をかけようとするが、クリスは「大丈夫だ」と短く答えた。
学院長に促されて教壇の横に立ったクリス。皆が注目する中、クリスは深呼吸すると、呪文を唱え始めた。
「わたしの力……来たれ! 稲妻」
雷光がクリスの体を包む。その光景に、電撃の魔法の強力さを知っている生徒たちは思わずうめき声を漏らした。
しかしクリスは平気そうな様子で、それどころか体から金色の光を放ちながら悠然と立っている。
「すげ、かっこいいぜ……」
才人は、金色のオーラと稲光をまといながら立っているクリスの姿に、漫画のヒーローを見るような気がした。他の生徒たちも神々しい姿のクリスに見惚れており、クリスは雷光をまとったまま学院長に手を差し出した。
危ない! しかし学院長は何の影響もなくクリスの手を取って笑い返した。
「見事じゃ。それだけの雷をまとって外には何の影響もないとは」
「恐縮です。力をあえて抑えるというのは……なかなか大変ではありますが」
そう言うと、クリスのまとっていたオーラが消えてクリスは汗をかきながら息をついてしまった。
「いやいや、その若さでそれだけ魔法を応用するとは大したものじゃよ。あの姿を極めれば、一滴の血も流さずに巨竜を支配することもできるじゃろう」
「ありがとうございます……うっ」
その時、クリスは胸を押さえてくずおれてしまった。額には脂汗が大きく浮かび、クリスを羨望や嫉妬の眼差しで見ていた生徒たちも顔色を変え、学院長はクリスの顔を覗き込んで。
「精神力を使いすぎてしまったようじゃな。大事ではないが、誰か、ミス・オクセンシェルナに手を貸してやりなさい」
その言葉に、レイナールが席を立ち、ほぼ同時に才人も駆けだしていった。
「ちょっとサイト!」
「見てられっかよ。おい、大丈夫か」
才人がかがみこんで尋ねると、クリスは額の汗を拭きながらゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫、少し目まいがしてしまっただけだ」
「本当か? 保健室に行ったほうがいいんじゃないか?」
心配そうに才人はクリスに言う。するとルイズがやってきて、落ち着いた様子で言った。
「心配ないわ・オールド・オスマンの言われた通り、精神力を一度に使いすぎた反動なだけよ。それくらいなら、少し休めばすぐに治るわ」
「そうなのか。よかった」
才人がほっとすると、ルイズが才人の頭をこずいた。
「よかったじゃないわ。貴族にとって、平民に情けをかけられるというのは大変な屈辱なのよ。ミス・オクセンシェルナ、こいつの主人として出過ぎた真似を謝罪します」
「いや、いいんだ。サイトといったか。今日会ったばかりのわたしを心配してくれてありがとう。それと貴女はミス・ヴァリエールかな?」
「ど、どうしてわたしの名前を知っているのよ?」
「やはりそうか。レイナールから貴女たちの話はいろいろ聞いていた。サイト・ヒラガ、聞いていた通り、お前も武士道を体現する侍のようだな。それにミス・ヴァリエール、貴女はサイトがわたしの怒りを買うかもしれないとサイトをかばったのだな。貴方たちのような優しい者たちに会えて、わたしは嬉しいぞ」
「いっ、サムラ、イ?」
「わ、わたわた、わたしが優しいって! なな、なに言ってるのよ」
思いもよらない形で褒められて動揺する才人とルイズ。そこにレイナールが来てクリスに「今はそのへんで」となだめると、クリスはうなづいて学院長に頭を下げた。
「みっともないところを見せてしまい、申し訳ありませんでした。もう大丈夫です、授業を再開してください」
「うむ、わしもすまんかった。はりきりすぎて、まだ君たちには早い大技を使わせてしもうた。諸君、教えたばかりですまんが、今の技は使用禁止とする。諸君が相応の実力をつけたときに改めて教えよう。ミス・オクセンシェルナ、席につけるかね」
「心配いりません……おっと」
歩き出そうとしたクリスは、よろめいたところをレイナールに支えられた。
「クリス、無理しないで」
「すまない。やはり、お前は優しいな。お前から聞いた通り、ここにはお前のように優しい奴が多くて嬉しいぞ」
「ク、クリス、みんな聞いてるから」
クリスに褒められて、レイナールは赤面してクリスの手を取りながら講堂の階段をそそくさと上っていった。
その後ろ姿を才人とルイズはぽかんと見送りながら。
「いい奴っぽいけど、なんか変わった奴だな」
「ああ、また……どうしてわたしの周りには変なのばかり集まってくるのよ」
二人とも、絶対これからの日常がただではすまない予感がひしひしとしていた。
そうしてその後、学院長による普通な火の系統の授業がおこなわれ、昼休みがやってきた。
「お前たちが話に聞いた水精霊騎士隊か。会いたかったぞ」
時間ができると、中庭に集まった皆の話題の中心は当然のようにクリスになった。
ギーシュの口説き文句をサラりと流すと、クリスはレイナールとともに戦った冒険のことを皆に話した。ツルク星人との戦い、ザンギルからの教え、そして家出をしてまで魔法学院に留学してきた経緯を。
それらの事柄は当然皆を驚かせ、ルイズは呆れたようにつぶやいた。
「王女が国を捨ててまでやってくるなんて、あなたには王族としての責任感が無いの?」
「それは違うぞ、ミス・ヴァリエール。わたしは王族として全霊を持って祖国に尽くすつもりでいる。だからこそ、できるうちに外国で見聞を深めておきたいのだ。これは修行の旅だと思って、お前たちからいろいろ学ぶつもりでいる。よろしくな」
そう言って手を差し出したクリスに、ルイズは怪訝な表情をした。
「何のつもり?」
「ミス・ヴァリエールにサイト・ヒラガ、お前たちのことも聞いている。お前たちのおかげで、バラバラだった生徒たちが結束するきっかけになったと。ミス・ヴァリエールは貴族の模範のような才女だそうだな。会えて光栄だ、お前たちのことをわたしは尊敬しているのだ」
「そ、そう。まあ、そういうことなら、これから助けてあげてもいいわ。わたしのことはルイズと呼んでいいわよクリス」
すっかり褒められていい気分になったルイズは、クリスとの握手に応じた。それを見ていた才人はルイズの単純さにほっとすると同時に、いい具合にクリスにルイズを紹介してくれていたレイナールに後ろ手でサムズアップを送った。さすが我らの水精霊騎士隊実務担当殿、気が利く。
そしてクリスは才人にも向かい合って、才人が腰につけている今は刀の形のデルフリンガーにちらりと視線を向けてから言った。
「あらためて、お前がサイトか、会えるのを楽しみにしていたぞ。遠い国に来てサムライの同胞に会えるとは、はるばる来たかいがあった」
「ああ、クリスの師匠は日本から来た人なんだよな。おれは侍って名乗れるほどのもんじゃないけど、クリスが喜んでくれるならそれでもいいぜ」
「謙遜するな、サイト。お前の手を見ればわかる。ずっと刀を振ってきた者でなければそんな手にはならない。お前はまごうことなきサムライなのがわかるぞ」
満面の笑みを浮かべるクリスに、才人は感心した。確かにずっとアニエスやミシェルに習って剣の腕は磨いてきたが、そんなすぐに見抜くとは。
「おれなんてまだまださ。トリステインには、もっと強い人がいっぱいいるんだぜ」
「おお、それはさらに楽しみになってきた。だがその前に……お前たちの腕前、見せてもらいたい」
不敵に笑い、チャキリと刀のつばを上げるクリス。才人は勝負の申し込みに躊躇したが、デルフが鞘から出てきて才人を煽った。
「おもしろそうじゃねえか、受けてやれよ相棒。最近退屈してたからおめえの腕もそろそろ錆びつき始めてるかもしれねえぜ」
「しょうがねえな。でも、女だからって手加減はできねえからな」
「心配は無用。インテリジェンスソードとは面白いものを持っているな。それより、わたしは"お前たち"の腕前を見たいと言ったんだ。サイト一人でかかってこなくていいんだぞ」
その挑発的な言葉に、ギーシュや他の水精霊騎士隊もカチンときて緩んでいた目が引き締まった。
「聞き捨てならないね。確かに実力が秀でているのは授業を見て納得しているが、それでもぼくらを複数相手にして勝てるというのかい?」
「すまん、だが舐めているわけではないぞ。わたしは修行として自ら困難な道を歩みたいと思っている。わたしの実力が及ばなければ容赦なく叩きのめしてくれて構わない。その敗北と挫折から学べることもあるだろう」
その堂々とした潔い態度に、ギーシュたちは唖然とした。プライドの高い貴族が自ら「負かしてくれ」と言うのはあり得ないことだ。しかし……と、ギーシュは薔薇の杖を持って優雅……を気取りながら答えた。
「尊敬すべき向上心ですね。けれど、婦女子を大勢で囲んで殴るのは紳士の道に反することです」
「なるほど。お前たちの矜持をわたしの勝手で踏みにじるわけにはいかないな。むぅ……そうだ、ならわたしにも味方がいればいいんだな。よし! レイナール、来い」
「え? ええっ!」
いきなりクリスに腕を掴まれて、レイナールは戸惑った。もちろんギーシュたちも驚いているが、クリスはレイナールの腕をがっちり掴みながら誇らしげに笑う。
「わたしはこいつとコンビを組む。それなら公平だろう」
「は? い、いや、確かにレイナールはオンディーヌの副隊長格の一人だけれど、しかし」
「お前たちはレイナールを侮っているぞ。こいつはわたしが師匠以外で認めたただ一人の男だ」
さらにクリスは戸惑っているレイナールを見つめながら手を取った。
「レイナール、お前にとっては友に杖を向けることになってしまうことになるのですまないと思っている。しかし、わたしには頼れるのはお前しかいないのだ。わたしに力を貸してくれ」
クリスに真っすぐに見つめられ、レイナールは眼鏡の奥の瞳を白黒させた。けれど、迷ったのも一瞬で、すぐにあの夜のレイナールに戻ってクリスの翠の瞳を見返した。
「わかった。ぼくがクリスを支えるよ」
仲間たちに「みんな、ごめん!」と謝ってからレイナールは杖を抜いた。
凛々しく刀を抜いて構えるクリスと、その傍らで杖を構えるレイナール。正面から見ると、レイナールの手にも特訓の傷跡が残り、クリスの言ったこともあながち間違いではないとわかった。
才人やギーシュも、ここまでされて対決を断るほど平和主義者ではない。ギーシュや水精霊騎士隊はまなじりを鋭くして杖を構え、才人は喜ぶデルフを正眼に構えた。
が、それはともかく水精霊騎士隊にはどうしても確かめておかねばならないことがあった。
「レイナール、君……クリスとはどこまでいった?」
「え? いや、彼女とは……その」
顔を赤らめてうつむくレイナールを見て、一同は察した。
「わかった、もういい。では諸君、判決を」
その瞬間、才人とギーシュのようなすでに彼女がいる者は視線を逸らし、まだ彼女なしの少年たちは嫉妬を込めて宣言した。
「有罪(ギルティ)」
その瞬間、無数の魔法がレイナールを襲った。半分はクリスが撃ち落とし、半分はレイナール自身が耐えしのぐが、レイナールは砂ぼこりを浴びた眼鏡の向こうに仲間たちの怒りに燃える眼差しを見た。
「レイナール副隊長、抜け駆けの罪によって粛清いたす」
「ま、待って! ぼくはそんなつもりじゃ」
「問答無用じゃあーっ!」
男の嫉妬は見苦しいの本日第二弾。まだ彼女のいない少年たちは、いつの間にかすごい美少女を射止めていたレイナールに憎悪を向けて、炎や岩の魔法をぶっつけていく。ギーシュや才人はさすがに参加しなかったがレイナールに味方することもできず「すまん」とつぶやいて、及び腰ぶりに形ばかりは参戦していった。
しかし、クリスは水精霊騎士隊のそんな仲間割れのような状況には構わずに楽しそうに笑っていた。
「すごい、すごいな。わたしのような新参者のためにこんなに熱烈に歓迎してくれるとは感激だ。よし、ここはこちらも全力で応えなくてはな!」
クリスは刀を縦横に振り回して、炎や水、岩さえも両断していく。その光景にはレイナールへの怒りに我を忘れていた少年たちも仰天し、頭が冷えた少年たちは刀を構えるクリスに銃士隊の剣客の姿を重ねて魔法を変えた。
『エア・ハンマー!』
風のメイジたちが圧縮された空気弾を放つ。これなら刀では切れまい……しかしクリスは刀に風をまとわせてエアハンマーを一息に切り裂いてしまった。
「ええっ!」
驚く少年たち。そういえば刀を使ってはいるが、クリスはれっきとしたメイジだった。
だが驚く暇もなく少年たちを電気ショックが襲う。
「あばばばば!」
「わたしの二つ名は『迅雷』だと教えたはずだぞ。風に電撃をまとわせて送り返したのさ。さあまだまだ、どんどんかかってこい」
「くそう、もう容赦しないぞ!」
女の子に舐められてたまるかと、少年たちも本気になる。
こうなると才人も他人事ではいられない。デルフにうながされて、魔法の合間をついて刀を峰に返してクリスに挑んでいく。
「いくぜクリス!」
「やるな! こちらも本気でいくぞサイト!」
クリスと才人の刀が火花を散らしながら切り結ぶ。
だがこれはタイマンではなく集団戦だ。クリスに向かって魔法が放たれ、炎や岩が飛ぶ。けれどそれらの魔法は『ブレイド』の魔法をまとわせたレイナールの杖に阻まれてしまった。
「クリスに手出しはさせないよ。ぼくが相手だ」
複数の魔法を一度に撃ち落したことで、レイナールの腕前もかなり上がっていることをギーシュたちも認めた。ギーシュは狂暴な笑みを浮かべて、薔薇の杖を振るってレイナールの前に立つ。
「どうやら抜け駆けしたのは恋だけじゃないようだね。けれど、ぼくもオンディーヌ隊長として負けるわけにはいかない。出ろ、ワルキューレ!」
「伊達にクリスの特訓に耐えたわけじゃない。クリスはぼくが守る。ギーシュ隊長でも負けないよ」
ギーシュの得意魔法である青銅の騎士人形がレイナールを襲うが、レイナールは杖でワルキューレを両断してギーシュに躍りかかる。しかしギーシュも『ブレイド』をまとわせた杖でレイナールの杖を受け止め、二人の少年が闘争心をむき出しにしながら押し合う。
「これまでのレイナールとは思えない気迫だね。今の君の考えていることを当ててあげようか? クリスにかっこ悪いところを見せたくない、だろう」
「そ、その通りさ! クリスといると、ぼくは、ぼくは、おかしくなっちゃうんだよーっ!」
「君も紳士として一皮むけたようだね。ならば、この青銅のギーシュ、全力でお相手しよう」
男の意地を全開にしてぶつかり合うギーシュとレイナール。才人とクリスの打ち合いも続き、さらにそこに他の生徒たちも加わって、乱戦は混迷の度を上げていった。
その様子を、ルイズやモンモランシーたちは「ほんと男の子ってバカなんだから」と、冷ややかに見守り続けていた。
そしてそれからしばらくして……クリスは一人で学院の倉庫をかねた地下室にやってきていた。
「うーん、久しぶりによく動いた。転校一日目からこんな充実した体験ができるとは、家出もやってみるものだ」
水精霊騎士隊相手に大乱戦をやったというのに、クリスは少し疲れた程度で笑っていた。
ちなみに勝負の行方は騒ぎを聞きつけた教師に止められてうやむやになった。しかし水精霊騎士隊の半分はクリスに倒されるか疲れ切ってベッド送りになっている。
けれどクリスはなぜ人目を避けて人気のない地下室などに来ているのか? そして初めて来た学院の地下室をなぜ勝手知っているように歩けるのだろう?
地下室は魔法学院の備品を保管しているだけあって広く、通路が魔法の灯りに照らされて長く続いている。しかし倉庫というより物置にされているようで、乱雑に物が置かれていてほこりが厚く積み重なっていた。
クリスは置かれた物の間をひょいひょいと軽く歩み抜けてゆく。山ごもりの修行の獣道に比べれば大したことはない。だがクリスは奥に歩を進めるごとに表情を鋭くし、やがて隅の一角で止まった。
「ここか……」
クリスが見下ろした先には、一箇所ほこりが薄くなっている部分があった。じっと、その一角を見つめるクリス。その場所は四角く跡がついており、何か大きな箱のようなものが置いてあったと思われるが、運び出されてからまた年月がかなり経ったと思えて、跡の上にもほこりが堆積している。
そんな何もない場所をクリスは複雑な表情で凝視し続けていたが、ふと誰もいないはずの暗がりから声がした。
「懐かしいわね。ここに戻ってくるのは何百年ぶりかしら」
「お前か、やっぱり着いてきていたんだな」
振り返ると、そこにはクリスの国でクリスを人知れず助けていた、あのコウモリのような翼を背に持つ少女が立っていた。
「そりゃ来るわよ。ここはわたしにとって因縁の場所だもの。でも、あなたにはもう必要ないのにわざわざ来るなんて、そんなにわたしのことが気になっちゃう?」
「茶化すなリシュ。わたしはただ、本当に終わっていたか一目確かめに来ただけだ」
微笑を交わすクリスと、リシュと呼ばれた少女。リシュには背中に翼だけではなく、頭には角も生えて明らかに人間ではないが、薄紫色の髪の下の表情は穏やかで、クリスへの信頼感に満ちている。
「そうね、もう終わったこと。わたしがここに封印されていたのも遠い昔の事……本当なら、今頃に封印が弱まってクリスと戦うことになっていたはず。それが……あいつに封印の棺ごと盗み出されて、それからあんな大冒険をすることになるなんて何百年封印されてきた中でも夢にも思わなかったわよ」
やれやれと腕を広げるリシュに、クリスはおかしそうに笑った。
「ああ……だが、そのおかげで今やリシュを封印する理由はどこにもない。運命とは皮肉なものだな」
「他人事だからって楽しそうにしちゃって、もう。それで、念願の学院生活の一日目はどうだった?」
「最高だった。みんなおもしろいやつばかりで、これからの学院生活が楽しみでならない」
子どものような笑みを浮かべるクリスに、リシュも満足そうにうなづく。
「それは良かったわね。ところで、あの眼鏡の彼とはうまく行ってるようだけど、彼のどこが好きなの?」
「全部だ! レイナールは初めてわたしのありのままを受け止めてくれた。今ではあいつといると、楽しくて仕方がない。こんないい気持ちは……初めてだ!」
「クリスらしい、さっぱりした清々しい答えね。正直、クリスに釣り合う男なんているかしらと思ってたから応援するわ。でも彼、乱闘で相手の半分からクリスをかばってベッドの上みたいだけど、そばにいてあげなくていいの?」
「心配いらない。うなされていたが、口づけをしてやったら幸せそうに寝付いたからな。やはり、悩んだら口づけをすれば解決するという師匠の教えは真理だ」
リシュは「天然ってある意味最強よねぇ」と思いつつ、このままのほうが面白そうなので親友の間違いを正すのはやめておいた。
「あーあ、それならわたしもこの学院で彼氏を探そうかしら」
「おいおい、その姿でうっかり出歩かないでくれよ」
「わかってるわよ。人前に出る時はそれなりの姿に変身してから行くから。というか、恋愛経験値ゼロのクリスにいろいろ指南してあげようと思ってたのに、まさか先に恋人を作られて焦ってるんだから」
「こ、恋人? お、おいおいわたしとあいつは、そ、そんな関係じゃ……」
赤面してうつむいてしまったクリスに、リシュはムッとなった。
「ハァ、今さら何? あれだけ人前でベタベタしておいて、まだ”戦友”とか”同志”とか言ってごまかすつもりじゃないでしょうね。頭きたわ、クリスがそういう気持ちなら、眼鏡の彼はわたしが誘惑してもらっちゃおうかしら?」
「なに! いくらお前でもそれは聞き捨てならんぞ。レイナールに手を出すことは絶対に許さん」
「ほうらすぐにムキになるところが恋してるって認めなさいよ。男なんてものはちょっと躊躇した瞬間に逃げてく生き物なんだから、そんな臆病じゃ彼もすぐにどこかの誰かにとられてくわよ!」
「わ、わたしが臆病だと!? もう許さん。そこへ直れ!」
「あー人間は本当のこと言われると怒るのよね。わたしも最近なまってたし、相手してあげるわ!」
小さなことで腹を立てて火花を散らし合うクリスとリシュ。二人の放つ魔法力が狭い地下室の中に反響して渦巻いていく。
だが、二人が激突しかけた時だった。石造りの通路の中に乾いた物音がして二人がそちらに視線を向けると、ほこりをかぶっていた小さな木像がカタカタと動き出している。
「えっ?」
あっけにとられる二人。だが、魔法学院の地下室なのだから魔法で動く自動人形くらい置いてあるだろうと思ったら、その人形の目が赤く光ってムクムクと大きくなり始めたではないか。
「な、なんだこれは!」
「ま、まさか、あの時のあいつの落とし物かも。や、やばい、これってもしかしたら」
「ひょっとしてわたしたちの魔法に反応して目覚めたのか? 止め、だめだ間に合わない」
「逃げましょうクリス!」
木像は天井を突き破ってどんどん巨大化していき、もうどうしようもないと思ったクリスとリシュは慌てて崩れる地下道を走って地上に逃れていった。
木像はそれからもさらに巨大化を続け、地上では突然の地響きで学院中が鳴動する。
何事かと外に飛び出す生徒たち。その見ている前で、ついに木像は地下室の天井を突き破って巨大化を続け、ついには身長五十メートルもの巨大な恵比寿像の姿になって動き出してしまったのだ。
唖然とする生徒たち。食堂でシエスタと談笑していた才人も外に飛び出して、大口を開いて愕然とした。
「ま、魔神怪獣コダイゴンジアザー!? な、なんでこんなところに!」
わけのわからない出来事に目を丸くして見上げる才人の前で、コダイゴンジアザーはエビス様のふくよかな体の足を持ち上げて動き出す。すぐ前には学院の校舎。
とぼけたエビス像の見た目ながら、以前ウルトラマンメビウスとウルトラマンヒカリの二人を相手に散々苦しめた意外な強豪怪獣。しかしなぜそんな奴がこんなところに?
謎をはらみつつ、クリスの転校一日目はさらなる波乱へと突入した。
そして学院の医務室。寝かされていたレイナールは地鳴りと轟音で目覚め、次いでギーシュの仲間を集める声で我に返った。
「大変だ!」
急いで眼鏡をかけて彼は走り出す。
水精霊騎士隊副隊長兼参謀レイナール。彼女いない歴がイコール年齢……そんな彼の恋物語の第二幕が始まる。
続く