第66話
夢が紡ぐ赤と青のタンゴ
超合体怪獣 ファイブキング
稲光宇宙人 キラット星人
落雷怪獣 ハリリンター 登場!
身分違いの恋、というものがある。
王子と使用人が隠れて逢瀬を重ねるように、本来相容れることのない男女が結ばれようとする光景は古今を問わずに人々の胸を熱くしてきた。
しかし、それ以上に複雑な恋路があるとしたら? 今回は、人知れないところで起きた奇妙な二人のある一日について語ろう。
平和が戻って月日が経ち、世界は元の姿を日々取り戻しつつある。
動乱の中心で、壊滅状態になっていたガリアの都リュティスも復興が進みつつある。
ジョゼフ王が倒れ、ガリアは分裂か内乱になってもおかしくない危うい状態であったが、前代未聞の二大女王となったタバサとイザベラが国民の柱になった。
二人の尽力が国民の心のよりどころとなり、ガリアは一丸となって復興に突き進んでいる。
むろん、まだまだ問題は多い。その問題を置いても復興のペースは速く、人間のたくましさはトリステインやアルビオンとも変わらないことを見せてくれる。
トンテンカンテンと家を作り直す音。いらっしゃいませと商売に精を出す声。
中には『錬金』で作られた質の悪い道具でぼったくろうとする性質の悪い露天商も混ざっているが、清濁悲喜こもごもな光景が人間の街の普通なありさまかもしれない。
さて、リュティスの中央にそびえるヴェルサルテイル宮殿。
ここはハイパーゼットンのせいで完全に崩壊し、かつての壮麗な宮殿の建物や見渡す限りの広大な花壇はもう跡形もない。
なかば更地と化したここには空軍の戦艦が数隻停泊し、臨時王庁舎となってイザベラやタバサが命令を飛ばしている。
「女王イザベラ陛下、新しい王庁舎の設計図ができました。イザベラ様が女王として君臨するのにふさわしいよう、王国の芸術家たちが腕を競いました一品です」
「どれどれ? 却下ぁーっ! なんだこの悪の要塞みたいな邪悪なデザインは!」
「シャルロット女王陛下。こちらの地方からリュティスに食料を移送する帳簿が届きました」
「ダメ、あそこの地方の生産力からは多すぎる。これを承認した責任者を解任する。媚を売るつもりで物資を差し出すやり方は今後通用しないと思ってもらう」
やり方は違うが、イザベラとタバサはそれぞれのやり方で山積した課題を小から大まで消化していっていた。
なにせ一国の案件なんて平和な時でもいくらでも湧いてくる。ジョゼフとイザベラがサボりながらでも回っていたかつてのガリアがいかにすごかったかの証明でもあるが、今はそう言ってる場合ではない。女王が二人いても全然手も頭も足りないのだ。そんな二人をキュルケも秘書のように手伝っていた。
「二人とも頑張りなさい。今を乗り切れば新王政府も形になるから、だいぶ仕事も減るはずよ」
キュルケは自分でもよくこんなに勤勉になれるわねと感心するくらいの勢いで働いていた。でも、放っておけばタバサが過労で倒れてしまうかもしれないくらいの激務だったので、キュルケも少しでもタバサを楽させてあげたくて頑張れていた。
「あたしは生まれ変わっても女王だけはなりたくないわね。ふう、早く終わらせてバカンスにでも行きたいわ」
ため息をついてぼやきながらも、キュルケはてきぱきと仕事を片付けていっている。その時、キュルケはふとあることを思い出した。
「そういえばあの子たち。今頃どうしてるかしら……? ウフフ、詮索するだけ野暮ね」
その頃、リュティスの町では復旧された商店街の道を、手をつないで歩いて行く男女の姿があった。
「きゅいっ、あっ、あそこのお店、甘くていい匂いがするのね。あっちのお店ではお肉を焼く匂いがするのね! 行ってみようなのね」
はしゃいで跳びまわっているのは、タバサの使い魔のシルフィードの人間に変身した姿。タバサを大人びさせたような姿ながら、子供のように大声ではしゃぎまわっている姿の違和感に、通行人たちも振り返る。
そしてそんなシルフィードをたしなめるように男性の声が響く。
「おいおい青いの。いやシルフィードよぉ、そんなに慌てんじゃないぜ。人間たちが変な目で見てるだろ? お前も誇り高い竜族なら、もっと落ち着いてだなぁ」
大人びた言いぐさのその声にシルフィードが振り返る。しかし、シルフィードは振り返るとくすくすと笑い、周りの通行人も注意した側を見て笑っている。
「な、なんだよお前ら! 人のこと見て笑うなんて失礼だぞ」
「だって、だってお前、そのかっこうじゃあ。きゅふふふ」
シルフィードはその声の主を見下ろしてクスクス笑った。相手はカッカと怒るが、シルフィードは意地悪そうにその頭をなでるばかりだ。
「可愛いのね、お顔があっかいのね、これからお姉さんがいっぱい優しくしてあげるのね、きゅいきゅい」
「こ、こら、なでるな抱きつくな。く、くそぉ、こんなはずじゃなかったのに」
愉快な二人組のじゃれ合いに、街の人々の口元もほころぶ。だが街の人々は、この二人が少し前にリュティスを壊滅から救った英雄たちの仲間であることを知らない。
しかしシルフィードはともかく、シルフィードと行動を共にしているもう一人は誰だろう? これまで見られたことのない顔だが。
でも実は、彼は我々もよく知っている者である。さてそれは誰であるか……もったいぶらずに明かそう。
時間は数日巻き戻る。
誰もが忙しくしているリュティスから少し離れた森の中。そこで、人ではない言語で会話する二匹がいた。
「きゅいっ、違うのね! もっとこう。ブワッて感じで精霊に頼むのね。変わるのを疑っちゃダメなのね」
「うおぉっ! 炎の精霊よ。オレの頼みを聞いてくれ!」
大声を張り上げてなにやら練習している風韻竜とサラマンダーが一匹ずつ。シルフィードと、キュルケの使い魔であるフレイムだ。この二匹は主人が忙しくて相手をしてもらえない間、人目を避けてある特訓に打ち込んでいた。
それは、ある先住魔法をシルフィードがフレイムに教えること。先のメツオロチとの戦いの後で約束したことを二匹は果たそうとしていた。しかし、伝説の風韻竜たるシルフィードにとって先住魔法は簡単だが、サラマンダーは元々魔法を使える種族ではないのでフレイムの魔法の習得は難航していた。しかし、フレイムにはどうしてもこの魔法を習得したい理由があった。
「うおおっ! あと少しでできる気がする。オレは必ず、この『人化』の魔法を会得してみせるぜ」
「そうなのね! 普通のサラマンダーには無理でも、お前はタバサおねえさまのライバルの使い魔なのね。おねえさまが言ってたのね。使い魔になった生き物は普通より強くなるって。シルフィも応援するから、きゅいーって気合を入れるのね。きゅいーっ!」
シルフィードに応援されて、フレイムは精神力を振り絞った。すると、フレイムの火トカゲの姿が炎に包まれて変わってゆく。
「炎よ……俺の姿を変えてくれ!」
「やったあーっ! これでいっしょにお出かけできるのね。きゅいきゅい」
喜ぶシルフィードの前で、人間に変身したフレイムが炎の中から姿を現す。二匹の目的は、フレイムも人間の姿になることで二人で人間の町に外出することだったのだ。
フレイムのその容姿は、シルフィードがタバサを大人びた姿にしたように、キュルケをモデルにした赤髪と赤い目を持つ男の姿をしていた。ただ……その背丈を見たシルフィードはぽかんとして目を見張った。
「お前……その格好……」
「はん? え?」
フレイムは、思ったより視線が高くなってないなと感じた。地面を這い回るサラマンダー視線に比べたら高くなってはいるけど、なんというか、あまり高くなった気がしない。
続いて手を見てみる。想像していたのは岩のようにゴツゴツとしたたくましい手……しかし見えたのはいかにも柔らかそうな白い手。
「まさか!?」
おぼつかない足取りで、シルフィードの寝ぐらの水がめを覗き込むフレイム。その水面に映し出されていたのは、人間は人間だが、なんとせいぜい十歳くらいの幼い少年の姿だったのである。
「な、なんじゃこりゃぁ~!」
というわけで、その後も練習は続けたもののフレイムはどうしても外見年齢を伸ばすことはできず、予定の日に仕方なしにそのままシルフィードと出かけることになったのだった。
「きゅふふふ、これが高等な韻竜と下等なサラマンダーの差なのね。まあ人化できただけフレイムは天才なのね。喜ぶのね」
「嬉しかねえよ。ちくしょう……なんでよりによって子供の姿なんだよ」
フレイムはキュルケに似た少年顔を膨れさせてぼやいた。これまで種族や魔法力ではシルフィードにはかなわないと思っていたけど、精神年齢では上だと思っていたから、まさかシルフィードより幼い姿になってしまったのはショックであった。
「ほうら、高い高いなのね」
フレイムの小さな体を軽々と持ち上げるシルフィード。フレイムは暴れながら「やめろ馬鹿! 子供扱いすんな」と抗議しているが、実際子供そのものなので通行人たちも仲の良い姉弟だと見て笑ってすれ違ってゆく。
しかし、フレイムはからかわれて悔しい思いをしながらも、持ち上げられてシルフィードの顔を間近で見て胸をドキドキもさせていた。
「おや、フレイム? なにわたしの顔をじろじろ見てるのね? ははん、わたしのびぼーに見とれちゃったんでしょ」
「ば、馬鹿、そんなわけねえだろ」
「嘘つかなくてもいいのね。わたしみたいに高貴な血筋の存在を前にして、見とれないほうがおかしいのね」
ふふんと胸を張るシルフィード。そんな態度に、フレイムは怒ったが、それ以上に胸の内にくすぶる気持ちがあるのを感じていた。ちくしょう、いつからだったか……この青いのを見てこんな気分になるようになったのは。
シルフィードは小さな体のフレイムを抱きしめてほおずりまでしてくる。本当に子ども扱いもいいところだ。
風韻竜とサラマンダー。普通であれば一生出会うこともないくらい生態のかけ離れた種族。そんなおれたちは使い魔として魔法学院で出会い、隣人として生きてきた。それが変わり始めたのはいつからだったか……?
「ほらほら早く行かないと日が暮れるのね。お金は赤いののご主人様がたっぷりくれたから、お前に人間の買い物の仕方を教えてやるのね」
フレイムの手を引いてずんずんと歩いていくシルフィード。まったく、能天気なものだと思う。俺たち使い魔は厳しい自然の世界から解放されたのだから、主人の言う事だけ聞いて食って寝てればいいものを、進んで厄介ごとに首を突っ込んでいくのはどうかしている。
ある時なんか人間の子供を助けたいなんて無茶を言い出したこともあった。
おれたち使い魔は主人にだけ従ってればいい思いができる。それなのに、とことんおせっかいでお人よしすぎる……なのに、おれたち使い魔の誰よりも楽しそうなのはなんなんだ。
「わかったわかったよ。そんな引っ張るなって!」
シルフィードに引っ張られて行った店で、二匹は甘いお菓子を食べた。いきなりもらったお金をごっそり使うシルフィードにフレイムは呆れたが、満面の笑みで菓子にかぶりつくシルフィードの顔を見ているとどうでもよくなってくる。
「うーん、シルフィはお肉が一番だけど、人間の食べ物も甘くて美味しいのね。フレイムも食べるのね」
「ああ、うむ……人化すると味覚も変わるんだな。これが甘いってもんか。初めて知ったよ」
「そうなのねそうなのね。タバサおねえさまはケチだからなかなか食べさせてくれないけれど、人間の食べ物もけっこういけるのね」
フレイムはシルフィードが顔をクリームまみれにしながらほうばるのを見て、胸を押さえた。ほんとこいつは、嬉しいときも悲しい時も体いっぱいに表現しやがる。野生の世界じゃ絶対に見られなかった顔だ。
その時、シルフィードはフレイムのほっぺについたクリームに目をつけた。
「あっ、こんなところにおやつがついてるのね。いただきまーす」
べろりと舌を伸ばしてシルフィードはフレイムのほっぺたのクリームを舐め取った。もちろん人間の顔のままでされて、フレイムは元の顔よりも真っ赤にした。
「おお、お前! 意地汚いのもいいかげんにしろ」
「ええーっ、固いこと言いっこなしなのね。めったに街で食べるなんてできないから、残したらもったいないの!」
そう言って、口の周りや指をぺろぺろと舐めるシルフィード。みっともないことこの上ない光景で、タバサがいたら頭を杖でこづかれているだろう。
しかしフレイムはシルフィードの楽しそうな顔を見て、湧き上がる熱い感情を抑えきれなくなりかけていた。
「ちくしょう、こんなの想定外だ。人間の顔だったら気にせずにいっしょにいれると思ったのに、なんでこんなにドキドキするんだよ……」
人間の顔なんか、元がサラマンダーである自分からはカカシみたいなものだ。それなのに、人間のシルフィードの顔を見ただけで心臓が高鳴るなんてあるわけがない。そう、馬と牛がつがいになることはないように、幻獣たちも他種族に特別な感情を持つことは普通ない。しかし......使い魔は別だ。
魔法の契約で大幅に知性を引き上げられた使い魔は、ある意味で人間化したとも言える。その感性も含めて……今、フレイムがシルフィードに感じているのは、まさに可愛いという感覚だった。もっとも、フレイムが胸の高鳴りを覚えた理由はもっと違うところにあったようだが。
「そらそら、時間は待っちゃくれないのね。行くのね行くのね」
シルフィードはフレイムの手を取って連れまわし、食べ物を買いあさったり、大道芸人に熱心に見入ったりしている。
ジャグリングをする大道芸人の芸に、目をキラキラさせて見入るシルフィード。シルフィードは小さなフレイムを背中から抱きかかえ、熱心に楽しんでいる。
「すごいのね、魔法を使ってないのに球がクルクル動いてるのね。あっ、球が消えた! なんで背中のほうから出てくるのね? むむ、人間もなかなかやるのね」
ただの手品にきゃっきゃっとはしゃぐシルフィード。フレイムは振り回されながらも、本当に楽しそうなシルフィードの顔を見て思った。
そうだよな。お前はいつだって体いっぱいになんでも楽しもうとする。それは、おれたち使い魔が野性と平穏のはざまで失ってしまった”自由”そのもの……そうだ。おれはお前のその自由さに魅かれて、好きになったんだ。
「だよな、楽しまないと損だよな」
「ん? 何か言ったのね?」
「いいや、こうなったらおれも思い切り楽しんでやるぜ。よっと」
フレイムは体を乗り出すと、シルフィードの胸の間を背もたれにするように寄り掛かった。
「きゃはっ、くすぐったいのね」
シルフィードは抗議するが特に気にしてはいない。開き直ったフレイムは自分の体が小さいことを活かしてシルフィードのメロンの間を楽しんでいる。
「おお、なんかすっげえ柔らかくて気持ちいい。桃色の髪の魔法使いの家来がいっつも見とれてるのはこのせいか」
「きゃはは、フレイムそこは触っちゃダメなのね。このっ、おっぱいで潰してやるのねっ」
二匹がじゃれ合う姿を、周りの観客は「あのガキんちょ、うらやましい」という目で眺めていた。
そして二匹はあちこちで食べ歩いたり見世物を見たりして、人間の姿を存分に楽しんで一日を過ごした。
そうしてやがて日も傾き、手持ちの金も少なくなってきた頃だった。
「そろそろ夜だな。ご主人が心配するし、帰ろうぜシルフィード」
「えーっ、もう終わりなの? じゃあせめて一個、もう一個どこか行って終わりにしようなのね」
「しょうがねえな。といってもまだ行ってないところはというと……うわっ! なんだこりゃ」
フレイムは風に乗って飛んできた紙が顔に貼り付いてうろたえた。シルフィードに笑われながら紙をはがすと、それは宣伝のビラのようだった。
「えーっと、なになに」
「へえ、お前は人間の文字が読めるのね」
「ま、まぁこれくらいはな」
今日の日のために必死に勉強してきたとは言わないフレイムである。
「えーっと、新装開店、占いの店『夢の泉』。あなたと気になるあの人との相性も占います。だってよ」
「なーんだ、食べ物のお店じゃないのね」
「まあそう言うなよ。大いなる意思の導きも知らない人間たちが頼る占いとやらを一度見ておいてもいいだろ? 適当なこと言ってたら、あとで笑ってやろうぜ」
いじわるそうなことを言うフレイムであるが、あなたと気になるあの人との相性を占います、のフレーズに魅かれたのは黙っておいた。
占いの店はそこから歩いて数分、建物のすきまに一人分のスペースだけを利用した小さな露店の形でやっていた。
見ると、先に占ってもらっていた若いカップルがホクホク顔で帰っていくところだった。フレイムとシルフィードは運よく並ぶ必要なく占い師の前のカウンターに立ち、長い紫色の髪を伸ばした妙齢の女占い師が二人を迎えた。
「いらっしゃい。占いの店『夢の泉』にようこそ。あらあら、ずいぶんユニークなお客さんたちね」
占い師は、長身の美女と小柄な子供という組み合わせの来店に愉快そうに笑った。
フレイムはカウンターまで背が届かないのでシルフィードに抱きかかえられて占い師と視線をかわす。
「あら、可愛い坊や。なにを占ってほしいのかしら? 明日のおやつ?」
「おいバカにするな。おれは子供じゃねえ」
「あらあらごめんなさい。ほっぺたに甘そうなクリームがついてたから、つい、ね」
占い師のお姉さんに言われて、フレイムは「またやっちまった」と、慌てて顔を拭いた。
シルフィードは声をあげて笑っている。しかし占い師から、そちらのお嬢さんはなにか占ってほしいことはあるの? と聞かれると、うーんと考えてからさっきのビラを取り出した。
「じゃあシルフィとこいつの相性を占ってほしいのね?」
「いっ! お、おま」
あまりにも気軽に言ったシルフィードに、フレイムは彼女の腕の中で仰天した。しかもシルフィードは占い師に「へえ、お嬢さんは、赤毛のボクのことが好きなのかしら」と尋ねられると誇らしげに答えた。
「好きなのね。フレイムは頭がいいし勇敢だし、かっこいいのね。そりゃ、高貴なシルフィと釣り合うかなとは思ったけど、そんなことよりこいつといると楽しいの」
あっけらかんと言うシルフィードに、フレイムは「ああ、こいつはほんとにどこまでもまっすぐなんだな」と、嫉妬にも似た胸熱さを感じた。
占い師はうなづくと。
「いいわね。あなたたちおもしろいわ。じゃ、ふたりの運命を占ってみるわね」
占い師は水晶玉に手をかざすと、なにやら呪文を唱え始めた。その呪文は人間には意味不明な単語の羅列に聞こえるものだったが……。
「結果が出たわ。ふうん、相容れない関係の二人、不毛で花咲くはずはない。けれども、あきらめなければ奇跡もあるかも。ですって、よかったわね」
「わあい! きゅいっ、良かったみたいで嬉しいのね」
難しい言い回しが理解できずに無邪気に喜ぶシルフィード。だがフレイムは占いの内容もさることながら、占いの方法に疑問符を持って尋ね返した。
「確かによく当たりそうな占いだな。精霊にうかがいを立てれば、そりゃ簡単なことはわかるだろうぜ。あんた、なにもんだよ?」
「あら? へぇ……精霊の言葉がわかるんだ。なんとなくそんな匂いがしてたけど、やっぱりあなたたちも人間じゃないのかしら?」
フレイムの指摘にも、占い師は取り乱すことなく答えた。シルフィードは気づいてなかった様子で、「あっ」と、今ごろになって占い師の呪文が精霊への呼び掛けであったことに気づいたようだ。フレイムは占い師からの問い返しに、「人にものを尋ねるときはまず自分から名乗るもんだぜ」と言い返し、占い師はそれもそうねとうなづく。
「あなたたち、悪い人じゃないみたいだから教えてあげる。ほら、水晶玉を覗いてみて」
フレイムとシルフィードが言われたとおりに水晶玉を覗いてみると、水晶玉を通して占い師の姿が見えた。ただし占い師の頭には曲がった角が生え、背中にはコウモリのような黒い翼がある亜人の正体が映し出されていたのだ。
「きゅいっ! 吸血鬼!?」
「いや、吸血鬼なら太陽が出てる時間に外にいられるわけがねえ。あんた、いったい?」
シルフィードとフレイムが驚く前で、占い師は淋しげな笑みを浮かべると答えた。
「そうね。今の時代に私たちを知る者はほとんど絶えてしまったものね。私はサキュバス、夢魔とも呼ばれていた種族よ」
「サキュバス? おいマジかよ」
「フレイム、知ってるのね?」
「他の生き物の精神エネルギーを吸って生きてたって種族だよ。物知りのバグベアのじいさんに聞いたことがある。でも、大昔に絶滅したって聞いたぜ」
「その通りよ、人間との戦争に負けてね。人間から見たら、私たちの能力は迷惑なものだから当然よね。でも、当時の人間たちも思うところがあったのか、捕らえた私たちを殺すことなく、永久封印にかけたのよ。棺に封じ込めてね」
「でも、あんたは今こうして外にいるよな?」
「私たちの同胞の一人がね、私の封印を解いてくれたのよ。不思議な子でね。人間とサキュバスが共存できる世界を目指してるんですって」
「人間とサキュバスが共存する?」
フレイムはいぶかしんだ。それができないから、かつてサキュバスは人間に絶滅するまで狩り尽くされたのだろう。
すると、占い師は左手にはめた銀色のブレスレットを見せて語った。
「サキュバスが人間と共存できない一番の理由はね。私たちが夢を食うのに加減が難しいことなの。あなたたちも美味しいものを食べたら、つい食べすぎちゃうでしょ? だから悪気はなくても人の心を貪りすぎて命まで奪ってしまう……このブレスレットはその子が作った、吸い取る精神力に自動でストップをかけてくれるリミッターなの」
「そんなものを……なにもんだよそいつは」
フレイムはあまりに都合が良すぎるだろうと思った。そんな便利なものを作れるなら、なにもかもうまくいくだろう夢の道具だ、だからこそ誰も作れなかったんだろうに。
「さあ、詳しいことは私には理解できなかったけど、どこか遠い国で勉強してきたんですって。ともかく、効果は本当よ。これのおかげで、私はお客さんたちから少しづつ夢を拝借するだけで誰にも害を与えることなく暮らしてるわ」
占い師はブレスレットを大切そうになでた。ブレスレットはハルケギニアのどの国のデザインとも違うメカニカルな形をしており、表面にはどこかの言語で「GRF」と刻印されていた。
「さ、私のことはもういいでしょう? 今度はあなたたちが何者なのかを教えてちょうだい」
「自慢の占いで調べてみたらどうだい?」
「それじゃあズルじゃないの。お姉さんの秘密を聞いたなら、坊やも秘密をしゃべらなきゃ男らしくないわよ」
その物言いにフレイムはムッとしたが、それはそうとして二人は占い師に自分たちの正体を話した。
「サラマンダーに、伝説の風韻竜ね。韻竜なんて、私も初めて見たわ。あなたたちこそ絶滅してなかったのね」
「ふふん、高貴な風韻竜が絶滅なんてするわけないのね。まだ立派に生き残ってるのね」
シルフィードは風韻竜の一族が人目を避けて隠れ住んでいることは黙っていた。
占い師はシルフィードの容姿をまじまじと見つめると、感心したように息を吐いて言った。
「これはまた見事な人化の術ね。私じゃ見抜けないわけだわ。伝説の名は伊達じゃないわけね」
「ふふん、もっと言っていいのね。サキュバスも珍しい種族みたいだけど、それでも風韻竜にはかなわないのね」
胸を張るシルフィード。占い師は続いてフレイムに目を向けたが、フレイムはうつむいて目をそらした。
「なんだよ。どうせサラマンダーはレアでもなんでもない火トカゲだよ」
「そんなこと言ってないわよ。精霊の力を借りられるサラマンダーなんて初めて見たわ。よほど練習したのね。そこのお嬢さんの手ほどき? いい彼女じゃないの。あなたも立派だわ」
「うっせ、こんなちんちくりんにしかなれないんだ。どうせおれは……」
そこまで言おうとして、フレイムはシルフィードに睨まれてるのに気づいて言葉を止めた。
「悪かったよ。せっかくお前が教えてくれたんだからな」
「うんうん、サラマンダーが魔法を使えるだけでも、ものすごい努力の結晶なのね。それに、こんなに可愛いならこのほうが大成功なのね!」
「こ、こら! 抱きしめるな顔を擦り付けるなって!」
「んもー、そんなこと言って嬉しいくせに。食べちゃいたいくらいなのね。きゅいっ」
「このっ、そっちがその気ならおれもこうだぞ!」
「きゃはは、くすぐったいのね」
じゃれるシルフィードとフレイムを見て、占い師は「お熱いわね」と茶化す。とはいえフレイムは体格でまったくかなわないシルフィードに弄ばれているのがほとんどで、年上のお姉さんに遊ばれている幼児といった感じだ。なんとかシルフィードの体を触り返して仕返しするが、くすぐったがらせる以上ができず、じれながら言った。
「くっそぉ、やっぱりちっこい身体じゃ力が出ねえ。あんた、占いでおれの背を伸ばす方法とかわからねえのか?」
「あらぁ、そんなのもったいないわよ。ちっちゃな男の子とお姉さんのカップルなんて珍しくてイケてるじゃないの」
「あんた、他人事だからって遊んでるだろ」
「そんなことないわよ。サキュバスはあらゆる恋の味方なの。情熱に満ちた夢ほど美味しいものはないんだから......あなた、その子と添い遂げたいと本気で思ってる?」
「それは……ああ、思ってる」
一時迷ったが、フレイムは答えた。種族の違い、そんなことはわかってる。でも、そんなことで躊躇するくらいならここまで来ていない。
「お嬢さん、あなたはどう? 赤毛の坊やとつがいになりたい?」
「なりたいのね! タバサおねえさまったらシルフィがいくら言ってもちっとも恋しようとしないんだから。ここはシルフィが先に卵を産んでお手本になってやるのね。そうしたら少しはおねえさまも焦るに違いないのね。きゅきゅい!」
どうやらシルフィードはつがいになった後で具体的にどうするかまでは知識不足のようだ。フレイムは顔をそらして赤面しており、占い師は愉快そうに眺めている。
「本当に、あなたたち面白いわね。でもそろそろ暗くなるけど、ご主人様が心配するんじゃないの?」
「あっ! もうそんな時間かよ。まじい、そろそろ人化の魔法の精神力も無くなってくる頃だ」
「きゅいい、おねえさまに怒られるのね。お夕飯のお肉抜きは嫌なのね!」
慌てる二匹。急いで帰らないとと、二匹が踵を返そうとしたとき、占い師が呼び止めた。
「ちょっと待って。お姉さん、あなたたちのこと好きになっちゃった。特別にタダでこれあげるから使ってみて」
占い師は、ピンク色をした小さなキャンドルを二匹に手渡した。
「なにこれ? たべもの?」
「ふふっ、特別製のお香みたいなものよ。それに火をつけて眠ると素敵な夢を見られるわ。どんな夢を見られるかはわからないけど、ね」
占い師はウインクして二匹を見送り、シルフィードとフレイムは最後に占い師に手を振って駆けて行った。
世界の端っこで偶然出会った人ならざる者たち。その邂逅を知る人間はいない。
そして交わされた会話も、絶滅種のものとは思えない緩いものだった。
しかし、それが平和というものではないだろうか。
一風変わった使い魔二匹。使い魔界のロミオとジュリエットになるのだろうか? は、大げさとして。種族を超えた付き合いを始めたシルフィードとフレイムの関係はどうなるのか?
少なくとも前途多難……シルフィードはどうやって卵を作るつもりなのだろうか? もし何かのはずみで卵ができたら? 興味は尽きない。
だが、それは未来の話だ。今はゆっくり遊んでたっぷり食べてぐっすり眠れ。
夜は更けて、シルフィードの寝ぐらでは元の姿に戻ったシルフィードとフレイムがすやすやと眠っている。
彼女らのそばには、あの占い師からもらったキャンドルのお香が焚かれている。
二匹は眠りながら、時折にやにやと笑みを浮かべていた。
一体どんな夢を見ているのだろうか? ちょっと覗いてみよう。
シルフィードとフレイムは夢の中で、再びあの姿になっていた。
「うおお! おれたち最強だぜぇ!」
「きゅいい! またこの姿になれるなんて。思い切り暴れるのね」
咆哮をあげる巨大な合体怪獣ファイブキング。リュティスでの決戦の時になれた奇跡の姿に再び変わり、ガンQとレイキュバスの腕を振り上げて二匹は雄叫びをあげた。
その目の前に空気が揺らいだように実体化するのは、太い足で巨体を支えた巨大怪獣。ネロンガに似た姿だが、その巨体はファイブキングにも勝り、頭から前向きに生えた鋭い四本の金色の角を電光に輝かせた恐るべき大怪獣だ。
「で、でっかいのね」
「びびってるんじゃねえ。おれがついてる」
巨大怪獣に怖気づくシルフィードに、フレイムは力強く言った。すぐそばから聞こえてくるその言葉に、シルフィードの恐怖が払われて勇気が湧いてくる。
「フレイム、お前かっこいいのね。ようし、いくのね!」
フレイムとシルフィードはあの時と同じく、息を合わせて立ち向かっていった。
相対するネロンガに似た怪獣の名は、落雷怪獣ハリリンター。その名の通り、頭の角から強烈な電撃を放ってファイブキングを攻撃してくる。
「フレイム!」
「おうよ、吸い込んでやる!」
シルフィードの呼びかけに、フレイムは左手のガンQの目を使って電撃を吸い込んで無力化した。その隙を突いてシルフィードが頭部のメルバの目から破壊光線メルバニックレイを放って攻撃する。
ハリリンターは鼻先をメルバニックレイで打たれてのけぞる。息の合った連携に、フレイムとシルフィードは笑い合う。
「やるじゃねえかシルフィード」
「きゅきゅ、やっぱり楽しいのね。フレイム」
一人ではこうはいかない。二人いるからこそ体験することのできる喜びを二匹は再び体験していた。
しかし、ハリリンターは巨体をいからせて突進してくる。ファイブキングは超コッヴとゴルザを合わせたパワーで迎え撃ち、レイキュバスのハサミを広げて受けとめる。
ギリギリと、ハリリンターの刃物のような角とレイキュバスのハサミが押し合う。体格ではハリリンターがファイブキングを見下ろすほど大きいが、フレイムとシルフィードはひるまない。
「でかい奴なんか怖くねぇ。おれたちは、もっとでかい奴と戦ってきたんだ」
「そうなのね。はいぱーぜっとんに比べたら、お前なんか」
あの滅亡の邪神とさえ戦った経験が二匹の大きな自信になっていた。さらに、メツオロチとの激闘を思えばこのくらいなんでもない。
思いきり力を込めてファイブキングはハリリンターを押し返して吹っ飛ばす。ハリリンターは角を輝かせて電撃光線を発射してくるが、ファイブキングも超コッヴの腹からコッヴショットを放って相殺する。
空中で激突して爆発する両者の光線。その隙を、ノッているフレイムは見逃さなかった。目を赤く輝かせ、ゴルザの必殺の超音波光線がハリリンターの胴体に直撃する。
「やったぜ!」
倒したわけではないが、大きなダメージを与えたのは確かなようだ。ハリリンターはうめき声をあげながら片ひざを突く。
ファイブキングのスペックの高さだけではない。シルフィードとフレイムの息の合った連携と、敵を恐れない冷静な判断力がファイブキングの力を十分に引き出しているのだ。
しかし、追撃をかけようとファイブキングが前進しかけた時、突然ファイブキングの背中を逆方向から飛んできた火の玉が襲った。
「なにっ!?」
「フレイム、後ろなのね」
熱を感じて振り返ると、そこにはゴドラ星人を極彩色に着色したような宇宙人が立っていた。
挟み撃ちか! 宇宙人は手を赤熱化させてファイブキングに何発も火炎弾を撃ち込んできている。ファイブキングの強固な表皮はダメージを通していないが、おかえしに放ったガンQからの怪光線をそいつは軽快な動きで避けてしまった。
「素早いのね!」
「二対一か、上等」
「楽しくなってきたのね」
敵が増えたことにも怖気ずかずにシルフィードとフレイムは闘志を燃やした。
今度現れたのは稲光宇宙人キラット星人。唸り声をあげてファイブキングに挑んでくる。
「それがどうしたのね!」
ファイブキングは尻尾を振るってキラット星人を弾き飛ばした。
しかしその隙に、ハリリンターの特大の雷がファイブキングを直撃する。肩口に被弾してよろめくファイブキングに、背中に飛び乗ってきたキラット星人が後頭部を殴打してくる。
「このっ、シルフィード!」
「わかってるのね。シルフィも飛ぶ!」
ファイブキングはメルバの羽根を広げた。そのまま飛び上がってキラット星人を振り払うと、すかさずレイキュバスのハサミで捕まえる。
「これでも食らえ!」
捕まえたキラット星人を、ファイブキングはハリリンターに向けて放り投げた。さらにそこへメルバニックレイと超音波光線を同時に放つ。
「やったか?」
今のは絶対に当たったはずだ。巻き上がる爆炎を見てファイブキングは確信する。
だが、黒煙を裂いて飛んできた電光がファイブキングを包んで地上に引きずり落とした。
「なんだとぉ?」
フレイムはゴルザの目を通して健在なハリリンターの巨体を見た。体が焦げてダメージは負っているものの、なおも動いて角を光らせている。恐ろしくタフな奴だ。
さらにフレイムとシルフィードは見た。ハリリンターの影から現れたキラット星人が、黒煙を頭部の煙突状の突起から吸い込んでゆくのを。キラット星人は黒煙を栄養源にするように、空洞になっている胸部の中に真っ赤に燃える熱エネルギーをたぎらせて、溜め込んだエネルギーを真っ赤な熱光線に変えて放ってきたのだ。
「うおおっ!」
「きゅううっ!」
ガンQの吸収死角からの光線は避けきれず、ファイブキングのボディを持ってしても今のはかなりのダメージをもらった。油断した……こいつら、かなり強い。
重量級のハリリンターと素早く蜂の一刺し持ちのキラット星人。別にタッグを組んでいるわけではないようだが、敵に回せば手強い組み合わせだ。けれど対峙する三大怪獣の視線が火花を上げる中で、シルフィードとフレイムは驚くほど明るく言葉を交わし合った。
「ふふっ、きゅきゅ、ねえフレイム。シルフィたち勝てるよね?」
「くくっ、笑いながら聞くことじゃねえだろ。当たり前だろ、おれたちは今最強の怪獣になってるんだぜ」
「だよね。なら、あと必要なのはシルフィとお前の」
「ああ、チームワークだ!」
誰にも負けない最強の体でも、それを操る頭脳がヘボでは最強になれないことを二匹はよく知っていた。
タバサもキュルケも、多くの強い人間たちも、共通していたのは強い心を持っていたということだ。自分たちも強くなるなら心を強くしなくてはいけない。せっかくの最強怪獣の力を腐らせてしまうような真似はしたくない。
でも......。
「ねえフレイム、これって夢なのよね?」
「ああ、夢だな」
夢であることに夢の中で気づく。たまにあることだが、二匹は残念には感じなかった。
「もう一度、お前とこの姿になれて嬉しかったのね」
「おれもだ。ようし、最後までとことんやってやろうぜ!」
心をひとつにして、シルフィードとフレイムは駆けた。
ファイブキングが激震して走り、ハリリンターの電撃をガンQの腕で吸収しながら接近して頭突きを食らわす。
ハリリンターの角がゴルザの石頭の固さに負けて一本へし折れる。しかしその隙にキラット星人が背後を取ろうとしてくるが、シルフィードから合図を受けたフレイムはレイキュバスの冷凍ガスを後方へ噴射して地面を凍らせた。
凍結した地面で滑って転倒するキラット星人。シルフィードはメルバの翼を羽ばたかせて後方へ飛ぶと、滑って悶えているキラット星人の真上からヒップアタックをお見舞いした。
ファイブキングの巨体に潰されて失神するキラット星人。
「どうだ!」
「まいったかなのね」
そこへハリリンターが突進してきて、キラット星人ごと押しつぶそうとしてくる。ガチンコのタイマンに小細工は無用、ファイブキングも真っ向からがっぷりと組み合う。
「うおおっ、息を合わせろよシルフィード」
「わかってるのね。せーのっ!」
フレイムが超コッヴのボディと尻尾で踏ん張り、シルフィードがメルバの翼でバランスをとって反動をつける。両者の力が合わさった結果、ファイブキングは体格に勝るハリリンターを持ち上げて投げ飛ばすことに成功した。
どおりゃあ! と、ハリリンターの巨体が背中から地面に叩きつけられる。シルフィードとフレイムが協力することによって、ファイブキングは五体の怪獣の力を百パーセント発揮して戦っていた。
「シルフィード、お前といるとおれはもっと強くなれそうな気がする」
「シルフィもそうなのね。フレイム、これからもよろしく頼むのねっ」
心と心の掛け算は数式を超えて二倍にも三倍にもなる。これからは、きっと更に大きく。
おれたちの戦いはこれからだ! シルフィードとフレイムは残った夢の時間を楽しもうと、心を合わせて夢の泉の奥へと飛び込んでいった。
現実の世界は月さえも沈みゆく静寂の夜のとばりがすべてを覆っている。
そんな中で、森の中のシルフィードのねぐらを空から微笑を浮かべて見下ろす影があった。
「うふふ、ごちそうさま。あなたたちの夢を少しだけお裾分けしてもらったわ。おふたりさん、それじゃ良い夢を、ね」
あの占い師がサキュバスの真の姿を現して、夜の空へと翼を広げて飛び去ってゆく。
心地よい夢を提供して、その夢を少しだけ食べさせてもらう。それが彼女が今のハルケギニアで生きていくために決めた道だった。
サキュバスがこの世界で生きてゆけるかはまだわからない。シルフィードとフレイムには語られなかったが、サキュバスにはまだ恐ろしい能力もある。
それでも、未来は行動しなければ切り開けない。本当に人間と共生できるかは遠い未来の話かもしれないが、その一歩目は人知れず刻まれた。
夜空を幾億の星に見守られて自由に飛ぶサキュバス。その影にやがて一つ二つと仲間のサキュバスが並んでゆき、遠い空へと飛び去っていった。
続く