ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第41話  タバサの冒険  タバサと神の鳥 (そのⅣ)

 第41話

 タバサの冒険

 タバサと神の鳥 (そのⅣ)

 

 極悪ハンター宇宙人 ムザン星人

 バリヤー怪獣 ガギ

 宇宙寄生獣 サイクロメトラ

 古代暴獣 ゴルメデ

 友好巨鳥 リドリアス 登場!

 

 

 ゴルメデがガギを怪力で投げ飛ばし、ムザン星人が放った光線をリドリアスが回避して、口から吐き出すエネルギー光球で反撃する。

 四大怪獣と星人の激闘は、翼人、人間を問わずにそれを見る者の目を釘付けにせざるを得ない。

 起き上がったガギが頭の上に大きく突き出た角を光らせ、そこから赤い稲妻のような光線を放ってゴルメデを打ち据える。一方ではリドリアスがガギの後頭部に体当たりをかまし、ダメージを受けたゴルメデに向かってムザン星人が組みかかっていった。

 

「すごい……」

 戦いの様子を見守りながら、人間達はその壮絶な光景を生涯の記憶に焼き付けていった。

 シルフィードも、あの巨鳥から見れば大鷲と小雀の差でしかない。タバサとキュルケも割り込んでいくわけにもいかずに、その背で戦いの流れを見守っていると、アイーシャが横に並んできた。

「タバサさん、キュルケさん」

「アイーシャ……あれが、あなた達の守り神……?」

「はい、大いなる翼《リドリアス》、地に眠る竜《ゴルメデ》、この地に邪悪な者が現れるとき、必ず目覚めると伝えられてきた、この大地の守護者達です」

 頼もしそうに語るアイーシャと、祈るように戦いを見つめている翼人達を交互に見ながら、二人は四大怪獣の死闘がこれほどまでとはと、正直まったく動けずにいた。以前見たパンドラやオルフィとの乱闘など比較にもならない。

 エギンハイム村の村人達も、逃げることなど当に失念して、とりあえず踏み潰されないように距離だけはとりながら死闘を見ている。そんな彼らの元にサムとヨシアが翼人に抱えられて下りていって騒ぎになりかけたようだが、二人が村長と話し合っているところを見ると、翼人の里で見聞きしたことを話しているのだろう。

 声は聞こえないが、もめているのは手に取るように分かる。それはそうだ、今日まで憎むべき敵、いや駆除するべき害獣とさえ思っていた相手と和解し、手を引くべしというのだから簡単には価値観を変えられまい。

 けれども、二人とも村長や村人達に罵声を浴びせられながら一歩も引く様子はない。これで、村人達が翼人達への偏見を解いてくれるかは彼らしだい、他人がとやかく言う問題ではない。

  

 そうしているうちにも、戦いは激化の一途を辿り、リドリアスの空中からの攻撃と、怪力で上回るゴルメデの攻撃が徐々に押し始めていた。

 むろん、巨大化したムザン星人の実力は高く、パワー、特殊能力からも特に弱点は無く、空中のリドリアスに光線で応戦し、ゴルメデのパワーとも渡り合えている。

 だが、ガギの様子が不利で、このまま二対一に追い込まれたら、さしもの自分でも危ないと思ったムザン星人は、チャリジャからもう一つ譲り受けていた切り札を使うべきかと考えていた。

 それは、あらかじめガギの体内に埋め込んである、緑色に不気味に輝く直径十二メイルほどの岩石のような物体のことだった。怪獣バイヤーである奴は、例えばペットショップが顧客に商品としての動物を引き渡すときに、去勢したり、毒や牙を抜いておいたりするように、捕獲してコントロールできるようにした怪獣にオプションとして様々な改造などを施したりしている。流石にヤプールの超獣ほど徹底的にとはいかないが、保険としてはそれなりに有効なものもある。

 ヤムヲ得ヌカ……

 星人は、そう判断すると額の触角からの光線を、ガギの喉もとあたりへ向けて発射した。巨大化し、等身大の時よりはるかに威力の上がっている破壊光線はガギの喉の皮膚を破り、食道、気管をも焼いた。

「やったぜバカめ、あいつ味方を撃ちやがったぞ!!」

 村人達は星人からの光線を受けて、喉を押さえて苦しむガギの姿を見てあざ笑った。

 しかし、同じように見ていたタバサは、今の攻撃が外れたわけでも間違えたわけでもなく、明らかに星人が意図的に発射したものであることを確信していた。あの悪賢い星人が、この程度不利になったところで自暴自棄になって味方を撃つわけがない。そこには必ず何か恐るべき意図が含まれているものと、タバサは注意深く観察した。

 そして、それは唐突に発生した。

 ガギの傷ついた喉がまるでビデオの逆再生を見るかのように塞がっていくではないか!!

「再生した!?」

 あっという間に傷を完全に治したガギは、雄たけびを上げてゴルメデに向かっていき、角をゴルメデの腹に引っ掛けてひっくり返すと、その上に馬乗りになって乱打し始めた。

「ちょっ、あの怪獣いきなり元気いっぱいになっちゃったじゃない。いったいどうなってるのよ?」

 驚いたキュルケがタバサに向かって叫ぶが、タバサにだってすぐには考えがまとまらない。

 しかし、タバサはあの怪獣の傷口が再生する瞬間、その傷口の奥に不気味な線虫のような影がうごめいていたのを見ていた。

 実はこれこそがガギの体内に仕込まれていた仕掛けの正体、【宇宙寄生獣 サイクロメトラ】だった。チャリジャ達の世界に生息するミミズ状の小型宇宙怪獣の一種で、大きさはわずか全長九メートル程度しかなく単体ではほとんど何の力も持たないが、他の大型生物、すなわち怪獣の体内に寄生することで、その怪獣に再生能力を与える。ガギの体内に埋め込まれていたのはこいつの卵で、ムザン星人の攻撃は卵を割るためのものだったというわけだ。

 とはいえ、むろんただでパワーアップさせるわけもなく、サイクロメトラにはやっかいな習性も備わっている。それは取り付いた怪獣から養分を吸い取り、新しい卵を生み出すと、体内に備わっている特殊な反物質袋を破裂させ、最終的には取り付いた怪獣ごと自爆して卵を遠くへ飛ばすという、なんとも危険な繁殖方法であった。

 とはいえ、当然サイクロメトラが爆発すればムザン星人ももろともに吹き飛んでしまうために、このサイクロメトラにはあらかじめ反物質袋だけを取り除いた改造手術がおこなわれている。ただし、宿り木に取り付かれた木が枯れてしまうように、一度サイクロメトラに取り付かれてしまった怪獣は、養分を吸われていずれ衰弱して死んでしまう。今でこそ再生能力を得たものの、今後使うことができないからこそ、ムザン星人はサイクロメトラを孵化させるのをためらっていたのだ。

 だがそれと引き換えに、今ガギはこの戦闘に限っては無限の体力を得て、追い詰められていたゴルメデに逆襲していた。

 ガギの二本の触手の鞭が、グドンのそれのようにゴルメデの体を打ち据える。

 さらに、後顧の憂いがなくなったムザン星人は空から向かってくるリドリアスに光線を撃ち返し、その一発を翼に当てて墜落させた。

「リドリアス!!」

 アイーシャ達翼人が、守護神の被弾に悲鳴をあげた。

 リドリアスは左の翼にダメージを負い、すぐには飛び立てないものの、地面にしっかと足をついて立ち上がった。

 これはリドリアスが完全な鳥型怪獣ではなく、鳥人とでも言うべき人間に似た胴体の背中に翼の生えた姿をしているためだ。このため、地上でも戦うことができるのだが、鳥が地上に立つのは馬に乗った騎士を海で戦わせるようなものであることはいうまでもない。

「大いなる翼……私達をお守りください」

 必死の願いを込めてアイーシャは祈った。身勝手、と言われるかもしれないが、リドリアスはなおも人々を守ろうとムザン星人に立ち向かい、くちばしで頭をつつき、殴り合いに持ち込もうとする。

 そんな勇敢なリドリアスの戦いに、キュルケも興奮してエールを送る。

「いいわよ、頭よ、頭を狙うのよ!!」

 どんな生き物でも頭は共通した弱点だ、少々荒っぽいが的確なアドバイスを飛ばしてリドリアスを応援する。

 しかし、その作戦も次の瞬間には雲散霧消した。キュルケやシルフィード、アイーシャら翼人達、地上の村人達、さらにタバサでさえ悪夢を見ているかのように顔から血の気を引かせ、月明かりの下の惨劇を疑わずにはいられなかった。

 

「頭が……尻尾の先に移った!? な、なんなのよあの化け物は」

 

 なんとリドリアスに頭部を集中攻撃されたムザン星人は、頭部を体から分離させ……正確には、人間で言うなら腰の辺りまでの背骨の部分を首ごと体から分離させて、まるでサソリの尻尾の先に頭があるかのような異形の形態へと変化し、四足歩行になった胴体部分でリドリアスを押し潰してしまったのだ。

 星人の全体重をかけられて、リドリアスはなんとか逃れようとしてもがくものの、元々空を飛ぶためにそんなに力のある怪獣ではないリドリアスでは振り払うことができない。

 また、ゴルメデも攻撃してもすぐに回復してしまうガギの前に、次第に疲労が溜まっていっていた。そして遂にガギの巨大な爪のついた腕の攻撃をしのぎきれずに大きく跳ね飛ばされ、致命傷にこそまだならなかったけれども、起き上がった体には力がこもらず、口元は荒い息を吐いて見るからに苦しそうだ。

 

 このままでは……

 

 最悪の未来への予感が惨劇の執行人である星人以外の全員の脳裏を、服の中にもぐりこんだ蛇のように冷たく掠めていった。

 特に、これまで力に対しては常に泣き寝入りを強いられ、ヒステリックな反動意識のみを伸ばし続けてきたエギンハイム村の住人達には、絶望は砂に吸い込まれる水同然に侵食していった。

「ああ、もうだめだぁ」

「救世主なんていない、俺達はみんなここで死ぬんだ」

「なんでこんなことになんだよ。そうだ、あの翼人達だ、あいつらさえこの森にいなければ、あんな化け物どもも来なかったものを」

「そうだそうだ! 俺たちはただ平穏に暮らしたかっただけなのに、みんな奴らのせいだ」

 絶望という絵の具は、村人達の現実逃避、狂騒、責任転嫁という絵筆によって、愚行という醜悪な絵画をものの見事に描き出していた。副題をつけるなら、これに『滑稽』とも書き加えられるだろう。

 また、上空で戦いを見守っていた翼人達も、守護神と仰いできた二頭の怪獣が倒されるのを、海が干上がっているのを目の当たりにしたのかのように、信じられない様子で、愕然と見つめていた。

 

 だが、この場の中にあって、唯一イレギュラーといえる存在だった彼女達がとった行動が、破滅への一本階段の敷石の一つを切り崩した。

『エア・スピアー!!』

『フレイム・ボール!!』

 風の槍が炎の玉を飲み込んで火の矢となり、ムザン星人の左目を貫く。その予想外のダメージにさしもの星人もうろたえてバランスを崩し、その隙にリドリアスは脱出に成功した。

「やった! どうよ」

 シルフィードの背でタバサの体を抱きかかえつつ、キュルケの叫びが夜空に響いた。

 その勇壮な姿に、今まで醜態を晒していた村人達も手のひらを返して歓声をあげる。

「おおーっ、さすが貴族様」

「そのままやっちゃってくだせえ、応援してますぜ、ひゃははあ」

 現金なものである。たった今までの周到狼狽ぶりはどこへやら、これには村人達に翼人と争ってはいけないと命がけで説得しようとしていたヨシアだけでなく、サムも眉をひそめた。

 自分では何もしないくせに、ちょっとでも流れがよくなると諸手を上げて歓迎し、悪くなれば他人のせいにして卑屈になる。これでは営利に取り付く小役人、いや奴隷根性といっていいだろう。ついこの間まで自分でやっていたことの醜さを、サムは他人の姿を通して眺めることで初めて知ったのだった。

 しかし、片目をつぶされて怒った星人は首長竜のように頭を振りかざし、離脱しようとするシルフィードに光線を放ってきた。

「くっ……」

 かろうじて巨木のような光の矢をかわしたが、巨大化して威力を格段に上げた光線はシルフィードでも当たれば粉々にされてしまうだろう。背中に乗った二人が振り落とされかねないギリギリでジグザグ飛行をするけれども、その一発が翼の先端をかすめて、痛みで翼の感覚を麻痺させてしまったシルフィードはきりもみしながら墜落していった。

「きゃああーっ!!」

 高速度でバランスを崩した物体がどうなるかは、スピンしたF1カーを連想してみるとよい。また、飛行機がこの状態になると体勢を立て直すことはまず不可能になる。タバサとキュルケだけなら振り落とされても、フライで飛行することはできるが、そうなればシルフィードは地面に激突して、いくらドラゴンでも助からない。

 レビテーションを……タバサはなんとかシルフィードを助けようと、必死でしがみついたまま呪文を唱えようとした。だが、風圧と遠心力が強すぎて舌がうまく回らない。

 間に合わない! そうタバサがあきらめかけたときだった。地面と自分達との間に何かが割り込んで、その柔らかい背中で彼女達を受け止めてくれたのだ。

「リドリアス……」

 まさに間一髪だった。彼が救ってくれなかったら、今頃三人まとめて墜死していたのは間違いない。

 けれどそれよりも、彼女達はリドリアスの全身についたおびただしい傷を見て戦慄した。

「ひどい傷……こんなになってまで」

「きゅい……なぜ、あなたはここまでして戦おうとするの、ね?」

 星人の容赦ない攻撃によってつけられた傷は、これまで多くの闘いを見てきたタバサとキュルケなどから見てもひどいものだった。

 しかし、それでもリドリアスはシルフィードが再び飛び上がったのを確認すると、またムザン星人へと立ち向かっていく。

 なぜ……どうしてそこまでして……傷ついた体を押してリドリアスは星人に体当たりを食らわせ、ゴルメデも爪と鞭で傷つけられながらもまだガギに向かっていく。

 

 そんななかで、ガギの放った光線が流れ弾となって翼人の群れに向かってしまった。

「ひっ!」

 翼人の飛翔力を持ってしても、これは避けられない。アイーシャ達は覚悟して目をつぶろうとした瞬間、まさにそのときだった。

「ああっ!!」

 光線は彼女達に届きはしなかった。とっさに盾となって立ちふさがったリドリアスの体に受け止められたからだ。

 だが当然、その代償は大きかった。傷ついた身でガギの破壊光線の直撃を浴びたリドリアスの体は今度こそ耐えられずに地上に落下し、今度はもう起き上がることもできないほどのダメージを受けてしまっていたのだ。

 墜落したリドリアスにムザン星人は歩み寄り、とどめを刺そうと虫けらにするように踏みつける。

 けれどそのとき、アイーシャ達の心の中で、心を縛っていた何かがはじけた。

 

「草木は契約にもとづいて鞭となり、我らにあだなす者の自由を奪う!!」

 

 先住の……精霊の力が自然を動かし、森の木々が触手のように伸びてムザン星人の体に絡み付いていく。

 しかも、半端な数ではない、星人がいくら力任せに引きちぎっても、次々伸びてきてその体の自由を奪おうとしていく。

「ようやくわかりました……大いなる翼の意志、それは守るために戦うということ、戦いの中でも守るべきものが何かであることを忘れずに、それを守り抜く強い心を持つということ!」

 そうだ、平和は確かに重要だが、それは何もせずにやってくるものではない。この世には、完全な善人はいないが、完全な悪人ならば存在する。そんな奴らに何もせずに無抵抗を貫くのは、ハゲワシの前に生肉を置いて自制を期待するに等しい。

 力を暴力のために振るうのは悪だ。暴力を振るわずに耐えるのは善かもしれない。しかし、小さな善は大きな悪にとって絶好の餌食だ。いじめられている子供が、相手が痛がるからと手を上げずに無抵抗を貫いても、相手は増長し、さらにいじめがエスカレートするだけだ。必要悪、よい言葉ではないが、大きな悪から身を守るためには力が必要なとき、戦わねばならないときも確かにある。

 ただし、仕方が無いからと戦いを正当化し、守るべきものを見失っては本末転倒だ。誰かを守るために戦うのは正義、しかし戦いそのものの本質は悪、それを常に心に留めておかねば正義はたやすく悪に変わる。

 

「タバサ、もう一回やりましょう」

「お姉さま、シルフィももう怒ったのね、お姉さまは悔しくないのかね」

「……腹が立つ」

 タバサとキュルケも、リドリアスの我が身を挺した懸命な姿に打たれて、残った精神力を振り絞って呪文を唱え始めた。任務、誇り、理由付けはいくらでもできるが、少なくともあの倒れざまを見て黙っているような奴は人間じゃない。

『フレイム・ボール!!』

『ライトニング・クラウド!!』

 火炎弾がムザン星人の残った右目を狙い、雷撃がゴルメデを組み敷いていたガギにわずかなりともショックを与えて後退させた。

「貴族を……いいえ、人間を……なめんじゃないわよ!!」

 また目を狙われて怒り狂うムザン星人の光線をかわしながら、キュルケは心から叫んでやった。いくら強大な力を持っているとはいえ、それで弱者をいたぶっていいはずはない。力を行使し、また力に抗うのは、本来誰もが当然持っている生きるための権利のはずだ。自分からそれを捨てさえしなければ。

「ふん、ちょっとは効いてるかな。けど、そろそろあなたも精神力が限界なんじゃない、どうする?」

 魔法は無限に使えるわけではない。その人間のレベルに応じた精神量があり、その範囲内でしか使用することはできず、トライアングルクラスである二人でも、長引く戦いでそろそろ残量が乏しくなってきている。また、翼人達の捕縛網も短時間ならともかく、星人のパワーには拘束も長持ちしない。第一彼らもそろそろ疲労してきている。

 ここで何か手を打たねば、気概はともかく全滅は免れないだろう、キュルケはタバサの冷静な状況分析力と作戦立案能力に賭けた。

「……あっちの鞭を持った怪獣は、多分あの怪物が操ってる」

「そうか、猛獣使いを倒せばいいというわけね。けど、とどめを刺すにもどうすれば」

「ひとつだけ、手がある」

 タバサはキュルケに、星人打倒の作戦を手短に説明した。それは、自分達だけではなく、翼人、村人全ての力を必要とする極めて困難なものだった。成功率もあまり高いとは言えない。しかしリドリアスは傷つき、ゴルメデもガギを抑えておけるのも限界にきている。もう迷っている時間はなかった。

「難しいわね、けど、それしかもう手はないか……わかった、そっちは任せたわよ」

「……うん、シルフィード、しばらくお願いね」

「任せといてなのね。めちゃくちゃに引っ張りまわしてやるなのね!!」

 短く話を済ますと、キュルケとタバサはシルフィードから飛び降り、それぞれフライで飛行しながらタバサは翼人のほうへ、キュルケは村人達のほうへと向かい、そしてシルフィードは残ってムザン星人への牽制を続行した。星人は、光線をなおもシルフィードに向かって放ってくるものの、傷つけられた怒りと、視力が半減したことによって二人が離脱したことには気づかず、むしろ軽くなって速くなったシルフィードに引っ掻き回されているありさまだった。

 そして、村人達の前に降り立ったキュルケが開口一番で村人達に言った。

「あんたたち、ちょっと手を貸しなさい!!」

「手を貸せって、いったいどうしろってんですかい?」

 突然戦いに参加しろと言われてうろたえる村人達に、遠慮なくキュルケは策を披露していく。

「簡単よ、わたし達はあいつにとどめを刺すためにこれから残りの全部の精神力を使い切る。その隙をあんたたちの手で作ってくれってことよ」

「なっ、貴族やあの翼人どももかなわない相手に、私たちでいったいどうしろってんですか!?」

 明らかに狼狽し、全力で否定する村長や村人達を冷ややかに眺めて、キュルケは最後にサムとヨシアに視線を向けて、いつもルイズを馬鹿にするときのように、わざと突き放すように言い放った。

「時間が無いから手短に言うわよ、翼人達がこれから全力であいつを地面に引きずり倒す。そこを狙って奴の右目にありったけの武器を打ち込みなさい。あとはわたし達がやるわ」

「もし、失敗したら?」

「そのときは、あんたらもわたし達も死ぬだけよ。そんなこともわからないの」

「そんな、あんまりじゃないですか! 私どもは細々と暮らしながら必死で税を納めてやってきただけなのに、騎士様達は私達を守ってもくれない上に、また私らを道具にしようって言うんですかい? そんなのごめんですよ」

 ついに本音を漏らした村長に、キュルケは今度はルイズにさえ向けたことのない、つばを吐きかけるかのように完全に見下した目を向けて、最後に言い放った。

「そうね、確かにあなたたちは細々と平和に暮らしたいだけかもしれないけど、あなた達のそれは生きているとは言えないわ、ただ死んでいないだけ。生きている人間にはかばう価値はあるけれど、死体を守って傷つくなんて、まっぴらごめんこうむりますわ。あなた達がこれまで、なにをしてきたかよく考えてみることですわね……じゃ、頼んだわよ」

 それだけ言うと、キュルケは再びシルフィードと合流するために飛び去っていった。

 村長達は、しばしいつもどおりの貴族の傲慢な説教だと、憮然としていたが、サムが斧を、ヨシアが弓を持って全員に向かって叫んだ。

「みんな、武器を持て! ぼく達の村はぼく達の手で守るんだ!!」

 その、いつも気弱で隅で小さくなっているだけのヨシアの言葉に、村人達は一瞬度肝を抜かれた。しかし、すぐに口々にそんなことできるわけねえだろと彼をののしりだす。

 だが、今のヨシアはそんなことで萎縮する、昨日までの彼ではなかった。

「みんな、これまでぼくらが何をしてきたよ。翼人の森に押し入り、力づくで追い出せないと知るやメイジをやとったり、理屈をつけて騎士を呼んだり、何一つ堂々と語れることなんてしてきてないじゃないか。その上自分達の村が焼かれても不平を言うだけで何もしないなんて、ぼく達は何のために生きているんだい!!」

 その言葉にサムも続く。

「お前ら、武器をとるのは誰のためでもなく俺達のためだ。俺達は貴族から馬鹿にされ、翼人達からも見下げられてきた。なんでだ? 魔法が使えない、それだけじゃねえだろ、俺達はこれまでかなわない相手にはひたすら頭を下げてばかりで、何もできない、脅せばすぐに逃げ出す奴らだとなめられてたんだ。そうだろ!!」

 そのサムの言葉に図星を指された幾人かが悔しそうにうつむいた。まだ少なくとも"悔しい"と思うだけの誇りは残っていたようだ。それを見たサムは駄目押しの一言を放った。

「だが、さっきの貴族の嬢ちゃんのセリフを思い出せ。俺達に向かって頼むと言ってきた、分かるか? 貴族が俺達平民を頼りにしてきたんだ。こんな機会は二度とねえ、さあ、先陣は俺が切る、貴族や翼人達を見返してやろうと思う奴はいねえか!!」

 どっかと大斧をかざしてサムの号令が響き渡った。

「……よし、俺はやる。そこまで言われて黙ってられるか」

「俺も、こうなりゃ死んだ気で戦ってやる!!」

「俺もだ、ヨシアでさえやる気になってるのに、引っ込んでられるか!!」

 意を決した若者達が、一人、また一人と弓や槍、鎌を持って立ち上がっていく。そしてそれは老人や子供にも波及していき、やがて躊躇していた村長らもついに意を決し、自分の顔を平手で思いっきり叩くと、やるぞ! と武器をとった。

「サム、ヨシア、どうせ村が無くなったんで、わし等がこの森で生きていく術はない。どうせもうない命なら、せめて派手に散らせてやる。ふふ、若いころエルフとの聖戦に参加して、命からがら帰ってきたときも、こんな感じだったのう」

「ありがとう父さん、いや村長。けれど村長たちは子供達を守って、離れていてください。村のことなら心配はいりません。アイーシャが、翼人達が再建に手を貸してくれるでしょう。それに、翼人達と協力できれば、前よりもっといい暮らしができるようになるはずです」

 ヨシアの言葉に、村長は一瞬目を見開いたが、やがてふうと息をつくと、何も言わずにうなづいてくれた。

 二人の兄弟の勇気が、奴隷同然に貶められていた村人達の心に、わずかに残っていた人間の尊厳の精神を思い出させたのだ。

「ようし、全員構えろ、すぐ来るぞ!!」

 

 そしてそのとき、まるで森全体が生き物になったのではないかと思うくらいに、あたり一面の木々が星人へと向かって伸びていった。

「みんな、力をいっぱいに込めて、怪物を地面に引き倒すんです!!」

 アイーシャの叫びで翼人達の最大の祈りを込めた力が森を動かす。魔法の力はその者の心の強さに左右されるが、それは先住魔法でも同じで精霊に願う強さが威力を高める。

 数百の蔓が星人の全身にまとわりつき、これまでより強い力で星人の体と首を押さえつけようとする。

「……あと少し」

 星人は拘束されまいと必死になってもがき、ガギに助けに来るように求める。だが、ガギは残った力を振り絞ったゴルメデに邪魔されて星人に近寄れない。

 命令を遂行しようとするガギの前にゴルメデが立ちふさがり、体当たりを食らわす。対して体勢を立て直したガギが両腕の触手でゴルメデを絡めとると、怪力を発揮したゴルメデが触手を引きちぎる。だが、サイクロメトラの力ですぐさま再生したガギは、今度は巨大な腕で打ち据えようとするが、ゴルメデは必死でそれに食いついて動きを封じようとするために、ガギは身動きができなくなった。

 ゴルメデの種族は鈍重な見た目に反して知能も高く、根性もある。かつて別の星でも同族が星の危機に仲間の怪獣達とともに立ち上がり、勝利に大きく貢献したことがあるのだ。

 そしてついに、その決死の奮戦が実り、翼人達の精霊の力がムザン星人の腕力を上回った。

 

「今だ、みんなやれ!!」

 地面に首をつけたムザン星人の右目に向けて、村人達はありったけの武器を打ち込んだ。斧、剣、槍、鎌、鍬が投げ込まれ、弓矢の雨が降り注ぐ。星人の巨体からすれば小さなものだが、人間だって目に入った一粒の砂のために痛がるものだ。それに過去には地球にも、たった一本のナイフで怪獣の目をつぶした勇敢な青年もいた。効果は充分、星人の右目は視力を失った。

「見たか化け物、これが魔法も使えない人間の意地だ」

 残った目をもつぶされた星人は暗闇にもだえて、必死に拘束を振りほどこうとした。

 だが、そこへシルフィードに乗ったタバサが残った全力を杖に集中させて、一気に斬りかかった!!

 

『ブレイド!!』

 

 杖を鋭利な刃物と化させ、メイジではなく剣士に変わったタバサは剣聖ザムシャーにも匹敵するかもしれない気迫を持って、ムザン星人の頭部に生えている触角を、一刀を持って斬り捨てた。

 

「今!!」

 

 最大の武器を失い、完全に無防備となった星人はもだえ苦しんでいる。タバサの声が満を持して精神力を集中していたキュルケに飛んだ。

「オッケー、最高の舞台のお膳立て……皆様感謝いたしますわ。さてこの舞台もそろそろ終幕に近づいてまいりました。大団円に向けて悪役にはそろそろ退場していただきましょうか。使うのははじめてですけれど、この微熱のキュルケの一世一代の大魔法、皆様とくとごろうじろ!」

 不敵な笑いを口元に浮かべ、眩く燃えるような赤い髪を掻き揚げて、キュルケは炎の女神のごとき気高さと猛々しさ、そして美々しさを揃えて魔力を解き放った!!

 

『ファイヤー・ウォール!!』

 

 魔力が熱エネルギーに変換され、周囲一帯を炎に包み込む。

 それは瞬間的に膨張し、星人を絡みとっていた木々をも飲み込み燃料として、巨大な火柱となって立ち上がった。

 

「や……やったのか?」

 

 村人達も翼人達も、天にも届かんばかりの火柱に包み込まれた星人の姿に、呆然として目を奪われた。

 だが、いかなる生物の生存も許さないように見えたその炎の中から、星人の首が悪鬼のように現れたではないか。

「まだ、生きてる!?」

 これだけの攻撃をして、まだ倒せないというのか! これでもうだめかと思われたとき、星人の頭に光球が飛んできて命中し、大きく火花を上げた。

「リドリアス!?」

 その一撃は、傷ついたリドリアスが最後の力を振り絞って撃ったものだった。 

 それは、星人の眉間を大きくえぐり、執念で起き上がってきた星人に、本当の引導を渡した。

 星人の首がゆっくりと崩れ落ち、炎に呑まれて消えていく。

「やった、倒した。倒したんだ!!」

 村人達の歓声があがる。

 そして、それを合図としたかのように、ガギにかかっていたムザン星人のコントロールも解けて、自我を取り戻したガギは、棒立ちになったところをゴルメデに投げ飛ばされた。

「残るは、あの怪獣だけね」

「……」

 シルフィードにまたがったキュルケとタバサは、起き上がってくるガギを見据えた。

 けれど、意気は旺盛だが、内心では恐々としていた。星人こそ倒したものの、今ので完全に二人とも精神力を使い果たしてしまった。もうコモンマジックのひとつも撃つ力はない。これであの怪獣に向かってこられたら、太刀打ちする手立てはない。

 しかし、それは杞憂だったようだ。ガギには星人に操られていたころの記憶はないらしく、突然のことにわけも分からずにきょろきょろとしていたが、ゴルメデが威嚇で一声吼えると、かなわぬと思ったのか地面を掻き分けて地底に逃げ去ってしまった。どうやら、自分がパワーアップしているということも忘れているようだ。

「逃げた、のよね」

「……逃げた、みたい」

 しばらくの沈黙の後、ふたりがぽつりと並んでつぶやくと、やがてそれに続いて人々の雄たけびが森にこだました。

「や……やったあーっ」

「かっ、勝った、俺達が勝ったんだあ!!」

 村人達は、まるで夢でも見ているんじゃないかと涙を流して喜び合う。

 その様子を、アイーシャ達翼人達はじっと見つめ、やがてその傍らに下りていった。

「っ……翼人達」

 村人達に緊張が走る。先頭に立ったアイーシャやほかの翼人達には敵意はなく、サムとヨシアの兄弟から、彼らは敵にはならないと聞かされていたが、やはり刷り込まれた恐怖心は簡単には消えない。

 だが、そんな彼らの躊躇を踏み越えるかのように、ヨシアが堂々と前に出て、そして。

 

「アイーシャ」

「ヨシア」

 

 愛し合う二人は、ただお互いの名を呼び合うと、しっかと抱き合って互いの無事を喜び合った。

 村人達は、しばらく呆然と眺めていたが、サムが前に出て拍手をかけると、すぐに一人、二人と彼に続いて、最後には村人、翼人全員揃っての大合唱となって、高らかに森に響き渡った。

「よかったわね。おふたりさん。ほらタバサ、あんたも何か言ってやんなさいよ」

「……おめでとう」

「よ……むぐぐ、きゅい、きゅい」

 下りてきたキュルケとタバサも、それぞれに二人を祝福し、シルフィードは村人の手前黙らされたが、声の明るさで祝福を表現した。

「ありがとうございます、皆さん」

「こんな日が来るなんて、夢にも思いませんでした」

 新しいカップルは、夢のような日の到来に、大粒の涙を流して、ただその言葉にならない感情を表現していた。

 

 が、そのとき。人々の頭上に、突然リドリアスとゴルメデの強くも、穏やかな遠吠えが響き渡った。

「リドリアス」

「ゴルメデ」

 二匹は、傷ついた体ながらも、新たな絆を得た人々を静かに見下ろし、そしてゆっくりと彼らに背を向けた。

「大いなる翼、そして地に眠る竜……行って、しまわれるのですか」

 アイーシャの言葉は、二匹の意思の代弁だった。戦いは終わった、ならば自分達がここに居続ける必要はない、その背中はそう言っていた。

「ありがとう……また、いつかあなたと私達はいっしょに飛べますか?」

 答えはなかった。

 リドリアスはゆっくり翼を広げ、ゴルメデは大地を掻き分け、大空と地底へと、それぞれ去っていった。

 ガギの残したバリヤーもガギが遠ざかったことで維持する力が無くなったのか、リドリアスの体当たりであっけなく砕けて、森を覆っていた残りも連鎖的に全て砕け散って消えた。

 彼らが、これからどこへ行くのか、それは誰も知らない……

 こうして、地獄のような一夜は終わり、森に再び静けさが戻ってきた。

 

 

 その三日後、エギンハイム村跡の広場では、陽気な声に飾られて、盛大な結婚式が執り行われていた。

 今回の事件で、村人と翼人達は考えを改め、和解して共に森で暮らしていこうということになったのである。

 とにかく、村人達も翼人達も住処を失い、これから森に再建される新しい村は、ハルケギニア初の人間と亜人が共存する村になっていくことだろう。

 もちろん問題は数多い、異なる文化や生活習慣は様々な軋轢を生むだろう。けれど、今二つの種族の間にはほほえましいカップルがいる。

 広場の真ん中で、翼人の礼装に身を包んだヨシアと純白のウェディングドレスに飾られたアイーシャの姿が、夏の日差しに明るく照らされて宝石より美しく見える。

 そんな二人を、こっちの二人と一匹は最前列で見物していた。もっとも、タバサは帰ろうとしたのだが、キュルケが強引に「あんたの将来のためにも見ときなさい」と押し付けたのである。

 

 式はとどこおりなく進み、最後に定番の誓いのキスで大団円を迎えた。その熱さときたら、キュルケでさえ顔を赤くしてしまったほどだ。

「ありがとうございます。タバサさん、キュルケさん」

 式も終わり、シルフィードに乗って飛び立とうとする二人を、アイーシャ達が見送りにやってきた。

 タバサはもう何も言わずにシルフィードの背中で本を読んでいる。代わりにキュルケが身を乗り出して答えた。

「よかったわね。けど、これから大変よ」

「はい、やるべきことはたくさんありますが、ぼくにはアイーシャがいるから、どんなことでも乗り越えていくつもりです」

「私も、ヨシアがいれば。それに、大いなる翼も地に眠る竜も旅立った今、私達も守るべきものをなくしました。いいえ、使命を果たしたというのでしょう。彼らが教えてくれたことを胸に、私達は新しい道を探して頑張っていくつもりです。タバサさん、キュルケさん、本当にありがとうございました。もし、何か困ったことがありましたら、いつでもいらしてください。私達にできることでしたら、何でもやらせていただきますわ」

 新しい夫婦はそう言うと、シルフィードの首に花束で作った首飾りをかけた。

「韻竜様、このたびはご助力、感謝いたします」

「きゅいーっ、やめるのね、背中がかゆくなるのね。普通に話してよね。でもま、よかったじゃないのね。お幸せにね。きゅい」

「はい」

 花束で飾られてうれしそうにしているシルフィードの横を通って、二人に聞こえないようにサムがキュルケにひそひそ声で話しかけてきた。

「貴族様方、今回は本当に感謝にたえません。最初のころはどうも失礼なことばかり言っちまって、すいませんでした」

「いいってことよ。あんたも、いい男だったわよ、弟に先越されちゃったけど、さっさと恋人作って追いつきなさい」

「精進しやす。ところで、ひとつだけお聞きしたいんですが」

「なに?」

「あの怪物ども、倒すのには本当にあれしか手がなかったんですか? あそこまでしなくても、ほかにもっと楽な方法があったような……もしかして」

「さあね、タバサに聞いて」

 キュルケがちょっと目配せしても、タバサは本に夢中で見向きもしない。けれど、無言の肯定はしっかりとサムの心に届いていた。

「やっぱり、翼人と人間を和解させるために、わざとあんな大げさな……」

 それ以上は無用だった。ただ深く頭を下げるサムを、ヨシアとアイーシャが不思議そうに見つめていた。

 

 

「行こう」

 ここでの任務は終わった。蒼穹の空に、村人達と翼人達の見送る声を受けて、シルフィードは飛び立つ。

 あっという間に村は見えなくなり、静かな時間がやってきた。

「ふぅーう、疲れたわねえ。けど、今までになかったくらい刺激的な日々だったわ。今度また誘ってよね」

「……もう、駄目」

「そんなこと言わずにさあ。ああ、でもあの二人の結婚式、本当にきれいだったわね。わたしもいつかは運命の人と盛大な式をあげたいわね。もちろんタバサも、いつかは通る道よ! そのときは、手取り足取り指南してあげるからね」

「……」

 タバサは、もういいとばかりに、返事をせずに本に目を落としてしまった。

 けれど、そんなタバサの将来について、彼女の友人と使い魔はなおも無責任な将来図を拡大させていった。

「ねえシルフィード、あなたも将来はタバサに素敵な恋人を作って欲しいと思ってるんでしょ」

「もちろんなのね。お姉さま、そんなに可愛いのにもったいなさすぎなのね、ボーイフレンドの一人もいなくてどうして青春の楽しみがありますか? でも問題はうちの学院にはろくな男がいないことなのね」

「そりゃ同感ね。ギーシュは馬鹿だし、ギムリは単細胞、レイナールは頭はいいけど見栄えが悪いし、その他の連中はそれ以前に特徴がないし、どーも資源が不足してるのよねえ」

「あっ、そういえばサイトさんはどうかなのね。顔はぱっとしないけど、陽気で優しいし、お付き合いを始めるにはぴったりなのかね」

「なるほど、それにヴァリエールの使い魔を口説き落とすのも悪くないかもね。あの子ったら、好きなの見え見えなくせに躊躇してるから狙いどころよ。あっ、でもそうなるとタバサがわたしの恋のライバルになるのか、まったく、さっさとくっついちゃえばこっちも悩まなくて済むのに、だからヴァリエールの女はだめなのよ」

 口々に勝手なことを言い合いながら、空の上の井戸端会議は続いた。

 

 しかし、タバサにはひとつだけ気がかりなことが残っていた。

"わたしがここに送り込まれたのは、やはりあの怪物にわたしを始末させるのが目的だったの?"

 それだけが、彼女の心にしこりとなって残っていたが、結局答えは出ようがなかった。

 しかし、とにかくこれでここでの任務は終わったのだ。タバサは仕方なく考えるのをやめてシルフィードをリュティスに向けて進路をとらせた。

 

 

 だが、そのころ。

 森の中で黒焦げになったムザン星人の死骸に近づき、何かをしている黒いローブで全身を隠した怪しげな人物がいた。

 そいつは、倒れた星人の死骸をじっと見つめていたが、突如ローブに隠された顔の額が輝きだし、炭と化した星人の死骸の中から一体の、人間の半分ほどの大きさの魔法人形が潜り出てきた。

 魔法人形は、怪しげな人物にとことこと近づき、胸に抱えていた物体を差し出した。

「ふふ……」

 それを受け取った人物は、それが目的の物であるかをまじまじと見て確認した。

 大きさは手のひらサイズの小さな石、しかしまるで生きているかのように不気味に輝き、脈動している。その鈍い光に照らされた姿は、以前ジョゼフといっしょにウルトラマンティガとアストロモンスの戦いを見ていたあの女のものであった。

「ジョゼフ様、目的のもの、確かに手に入れてございます」

 彼女は、頭の中でその主人に成果を報告すると、すぐにその返答がきた。

"ご苦労、余のミューズ。すぐに戻って来い、この目で見て確認してみたい"

 それは彼女の主、ガリア王ジョゼフ一世のものであった。

「はっ、今すぐに……しかし狙い通りにいきましたですね。この、ムザン星人が死ぬときに残すという、その力の源となる魔石、シャルロット様に頑張っていただいたかいがあったというものです」

"ふふ、全て余の狙い通り……さすが我が姪だ。よい仕事をしてくれる"

 ムザン星の魔石……それは星人の能力の源であり、これを身につけることによって強大な力を得ることができるという。ジョゼフはこれを手に入れるために、わざと放ったムザン星人をタバサに倒させたのだ。

「はい、シャルロット様の実力も、かなり上がってきたようですわ。けれど、こんな石ころひとつ、あの白塗りの奇人から買い求めればよかったのではないですか?」

"ふ、それでは興がなかろう。さて、次の駒を揃えるためにも、シャルロットにはこれからも頑張ってもらわなくてはな"

 

 

 続く

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