ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第65話  黒い星の申し子

 第65話

 黒い星の申し子

 

 円盤生物 ブラックエンド

 円盤生物 ノーバ 登場!

 

 

 それは、今を去ること三十数年前……西暦一九七五年三月二八日にまでさかのぼる。

「ブラックエンド! ゆけぇー!」

 水晶玉を天に掲げ、憎憎しげな声で命じる黒尽くめの男。

 この年、地球防衛の任についていた宇宙パトロール隊MACの本部ステーションを襲って組織ごと完全に破壊し、幾度となく地球を攻撃してきた謎の円盤状の宇宙怪獣の一群を、GUYSのアーカイブ・ドキュメントは、その脅威に対する畏怖を込めて『円盤生物』と記録している。

 それは、地球を離れること一千万キロのかなた、悪魔の惑星ブラックスターからやってきた謎の宇宙人、ブラック指令によって操られる、宇宙生物を侵略用に改造した怪獣兵器の一種である。ヤプールの超獣と似ているが、隠密行動力、特殊能力に重点をおいて改造を施され、MACが全滅に追い込まれたことをはじめ、当時の地球人類は姿もなく襲い掛かってくるこの悪魔の群れになすすべもなかった。

 しかし、そのとき地球にはまだ、我らの勇者、ウルトラマンレオがいたのである。

 MACの全滅後、レオはたった一人残った地球の守りとして、次々と襲ってくる円盤生物と戦い、勝利していったのだ。だが、度重なる敗北に業を煮やしたブラック指令は、ついにブラックスターでもっとも強く、もっとも巨大な円盤生物を呼び寄せた。それが円盤生物ブラックエンドである。

 ブラックエンドは、まさしくレオを抹殺するためにのみ送り込まれてきた最強の円盤生物であった。全長五五メートル、体重二万九千トン、黒色の球体型の体の前後に巨大な角と、太く長大な尾を持ったその姿は、隠密行動を主とする他の円盤生物とは一線を画し、戦闘一点張りの凶悪なフォルムと絶大なパワーを持って、ウルトラマンレオに襲い掛かった。

 ところが、ブラック指令の目論見は大きくはずれた。

 突進攻撃は難なく避けられ、大きく裂けた口から吐き出す火炎もバック転で軽く避けられる。

 自慢の巨大な角はレオのパワーで引き抜かれ、逆にブラックエンドめがけて投げつけられる。

 地球にやってきた当時は弱かったレオも、ウルトラセブンの特訓を受け、数々の怪獣、宇宙人との戦いを潜り抜けて、もはやほかのウルトラ兄弟にも並ぶほど強くなっていた。正面対決を挑むには時すでに遅し、さしもの最強の円盤生物といえども、もはや我らのウルトラマンレオの敵ではなかったのだ!

 対して、ブラック指令は子供を人質にとる卑劣な作戦でレオを追い詰めた。だが、地球人の力をあなどっていたブラック指令は、勇気を振り絞って立ち向かってきた子供たちの逆襲にあって円盤生物を操るための水晶玉を奪われ、レオは水晶玉をブラックエンドめがけて投げつけ、ついにこれを打ち破った。

 かくして最後の円盤生物も倒され、ブラック指令も滅びた。最後のあがきと地球に急接近してきたブラックスターも、レオ渾身のシューティングビームで木っ端微塵に吹き飛ばされ、悪魔の星の地球侵略作戦は、ここに完全に潰え去ったのだ。

 

 だが、完全に砕け散ったと思われたブラックスターの破片を、人知れず採取していた者がいたのである。

「これがブラックスターの破片、皇帝も酔狂なものをご所望なさる。まあ、ゲームの駒は多いに越したことはないということですかな? フフフフ」

 ひっそりと、地球人の目には誰一人触れないまま、悪魔の星の欠片を手に入れたその黒色の宇宙人は、眼下に広がる青い星を一瞥すると、そのまま姿を消した。

 

 ブラックエンドとブラックスターの崩壊後、地球には再び平穏な日々が訪れた。それから五年後、怪獣クレッセントの出現と、ウルトラマン80の地球滞在を経て、怪獣頻出期の最後が訪れるが、やがてそれも冷凍怪獣マーゴドンを最後に二十五年間続く平和のうちに、長かった怪獣頻出期の記憶とともに、円盤生物の名前も人々の記憶から消え去っていった。

 しかし、完全に滅びたと思われていた円盤生物は、西暦2006年に再びその姿を現した。

 CREW GUYS基地フェニックスネスト近辺で目撃されていた不審な赤い幽霊。それは最初単なる噂かと思われていたが、やがてその実体を現したとき人々を驚愕させた。

「そうか、赤い幽霊は、円盤生物ノーバだったんだ!」

「円盤生物!?」

「アウト・オブ・ドキュメント……防衛チームMAC壊滅後に確認された宇宙怪獣です!」

 そう、完全に滅び去ったと思われていたブラックスターの円盤生物が蘇った。

 メビウスとGUYSは、苦戦しながらも復活した円盤生物を打ち破った。

 だが、事態はそれで収まらなかった。ノーバの出現からしばらくして、地球に襲来した無数の宇宙円盤群。その中の一機は地球に舞い降りて破壊活動を開始したが、それからは強大な生命反応が観測された。つまり、それは生きている円盤、新たな円盤生物の襲来であった。

 円盤生物ロベルガー。かつての円盤生物の特徴を持ちながら、まったく新しい戦闘に特化した、ウルトラマンを上回る人型の巨躯を持つそいつは、圧倒的な破壊力を持ってウルトラマンメビウスと激闘を繰り広げた。

 

 しかし、いったい何者が滅んだはずのブラックスターの円盤生物を蘇らせ、あまつさえ新種の円盤生物を出現させたのだろうか……謎は残った。

 けれどそれは、そのすぐ後に地球を襲った大いなる脅威の前触れだったことが、後に明らかとなった。

 暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人。ウルトラマンを光の化身とするなら、まったく対極に位置する闇の最高支配者。かつてウルトラ大戦争でウルトラの父と渡り合い、さらにあのヤプール、メフィラス星人、冷凍星人グローザム、策謀宇宙人デスレムからなる暗黒四天王をはじめ、ババルウ星人などすら配下にする最強の宇宙人である彼にとっては、円盤生物を復活させることなど造作もないことだったのである。

 それでも、そのエンペラ星人もメビウスとGUYSに滅ぼされ、円盤生物も、後にアーマード・ダークネスの事件の際に確認された、ロベルガーの別個体を最後にまた消滅したかと思われた。だが、エンペラ星人の死後、残されていたブラックスターの破片がどうなったのは誰も知らない……

 

 

 物語は、ウルトラマンAがブラック星人とスノーゴンと戦った、その日から再開される。

 

 ウェストウッド村から数十リーグ離れた平原に、アルビオン王軍は八万の兵を布陣させていた。ざっと見渡すだけでも、竜騎士数二百騎、砲兵八百、騎馬兵、歩兵ほかにいたっては雲霞のごとし。かつて、反乱軍レコン・キスタの攻撃によって廃滅寸前にまで追い込まれていた王党派軍は、終焉寸前の状態から皇太子ウェールズの指揮の元で反撃に転じ、今や反乱軍総数七万を超える大戦力となって、決戦のときを待ちわびていた。

 その、前線からおよそ五リーグほど離れた古びた小城に、一週間前に才人たち一行と別れたワルドとミシェルが窓から姿をのぞかせていた。

「総数八万人、ほんの数ヶ月前までたった千以下にまで減少していた王党派が、よくぞここまで再建できたものだな」

「すべて、レコン・キスタがニューカッスル城包囲戦に失敗して、追撃戦で二千もの損害を受けたゆえさ。その勝利の報を受けて各地に分散していた王党派の残党が集結、勢いのままに拠点の一つを奪取して、行動の自由を得た後は、ニューカッスルほかに蓄積していた財宝をはたいて傭兵団を組織して戦力を増強。指揮官たるウェールズ王子の軍事的手腕は非凡なものだったようだな」

 眼下には、地を埋め尽くすような大軍勢が詰めている。しかも、いまや王党派軍の全容はこれだけではなく、サウスゴータからスカボロー港までを占領しており、補給線確保のために各地の要塞や小城を防備している部隊が一万以上いる。

 そして、その全軍を統率しているのが、現在のアルビオン王国皇太子にして軍最高司令官であるウェールズ王子である。いや、王子という呼称も、この戦いが終われば過去のものとなるはずであった。

「ウェールズ王子か。ニューカッスル攻防戦のおりに、前線に無理に出て士気を鼓舞していたジェームズ一世が敵弾を受けて戦死した際に、巧みな扇動で王党派の自壊を防ぎ、無念をレコン・キスタへの憎しみに転化させて逆襲戦を成功させた男。若くして政戦両略に秀で、人望も豊かな美男子と聞く」

「そう。崩壊寸前のアルビオン王国をその手腕一つで再生させ、戦後は次期アルビオン王への即位は確実とされ、いまやアルビオンは彼一人が支えているとさえ言われる若き英雄に、私たちは会わなければならない」

 トリステイン王国からアルビオン王党派への使者として派遣された二人は、憮然として、自分たちの任務を確認するかのようにつぶやいた。

 とにかく、見るものが見ていれば、その取り合わせには奇異の念を覚えたであろう二人である。

 なにしろ、生まれは同じ貴族であるが、片方は名門の出として誰からもうらやましがられる恵まれた身分の元で立身出世を思うままにし、片や実家の没落によって極貧から身一つ剣一本で、誰にも頼らずに成り上がってきた一匹狼である。もし同一の任務がなければ、一秒だって同じ場所にいないだろう。

 この、前線基地にされるまでは荒れ果てていた名もない城に二人が到着して四日。すぐにウェールズ王子と謁見するものと思っていた二人は、王子はちょうど各補給基地の視察に出ていてしばらく戻られないと聞かされ、仕方なくこの城でずっと足止めを食わされていた。

「まったく、決戦が迫っているこの時期に悠長なものだ」

 いらだちを隠せないように、ワルドがブーツのかかとで石畳を叩きながら吐き捨てると、腕組みをしてじっと立ち尽くしていたミシェルがぽつりとつぶやいた。

「こちらの都合に合わせて、誰もが動いてくれれば苦労はないさ。アルビオン航路を、あの二羽の怪鳥が妨害して、事前の連絡がこちらに届いていなかったからな。それに、補給線を確実に確保するのは当然だ。後方の部隊に安心感を与えることもできるしな」

 だからといって、いつ戦端が開かれるかわからない状況で、最高司令官が最前線を離れるのはどうかと思うのだが、こちらの指揮官代理から聞いた話では、敵も戦力集結に時間をかけているらしく、あと数日は問題ないらしい。

「敵の準備が整う前に、奇襲をかけようとかかけられるとか思わないのかね」

「少なくとも、こちらは正面から勝てる兵力差があるのに小細工をろうそうとは思わないのだろう。むしろ充分用意を整えて、決戦にかけるほうが道理に合っている」

 地球の長い戦史の中でも、圧倒的な兵力差をつけているのに、欲をかいて奇襲を狙ったばかりに大敗を喫した愚かな司令官は枚挙にいとまがない。対して、かの織田信長は、桶狭間の戦いでは奇襲で勝利を掴んだが、それ以後は正攻法で勝ち抜いている。奇襲とは本来邪道の戦法なのだ。

「逆に、レコン・キスタ側は敗北続きで士気も下がっているし、司令官のクロムウェルに対する信頼感も薄れてきている。傭兵団も王党派に寝返るのをなんとか食い止めているような、全軍の統率もろくにとれない状態では、とても今すぐに攻撃をかけるなどできはしないさ」

 投げやりに言うミシェルの言葉には、短いあいだによくここまで戦力差を逆転させられたものだという、王党派への感心以上にレコン・キスタへの呆れが込められていた。ただ、ミシェルはその内心に、ほんの数ヶ月前まで政戦に見事な采配を見せていたクロムウェルが、どうしてここまで容易に逆転を許したのかと、ぬぐいきれない疑問が渦を巻いていた。

 しかし、ワルドはそうしたミシェルの心の機微には気づかずに、周りにほかに誰もいないことをいいことに、さらにいらだちをつのらせ、意味もなく立ち上がったり、そわそわと足を踏み鳴らしたりしていた。そのうち胸に下げていたロケットつきのペンダントを手にとって、中に入っているものを空けて見たり、閉じてしばらくしたらまた空けて見たりを繰り返すようになり、わずらわしさとわずかな興味からミシェルは彼のそれに視線をやって訊ねた。

「なんだそれは?」

「お前には、関係のないものだ」

 思ったとおり、返ってきた返事はそっけないものであったが、ロケットといえば誰かの肖像画を入れるものと相場が決まっている。

「恋人か?」

 返答は沈黙であったが、もしそうだとすればこの男に惚れられる女とはどんなものかと、多少おかしさが湧いてきて、その微妙な表情の変化を見て取られたのかワルドはぽつりと一言だけ答えた。

「形見だ」

「ほう……お前にそんな感傷的な面があったとは驚きだな」

 形見というなら親兄弟か……いずれにしても驚きだが、そうして手の中でもてあそんでいるということは、彼もまた過去を引きずっているということか。多少興味を増したミシェルは、なにげなくそれに手を伸ばしてみたが。

「触るな!!」

 あと一サント手を伸ばしていたら切り付けられたかもしれないほどの殺気をともなって怒鳴りつけられ、ミシェルはすぐに手を引き戻して彼に謝罪した。

「悪かったな。私が軽率であった」

 誰にでも、他者に踏み入られたくない領域はある。それを犯す権利は誰にもないということは、彼女も重々承知していた。ワルドは、意外にもたやすくやってきた謝罪の言葉に毒を抜かれたと見えて、ふんっ、と鼻で息をつくと、ごまかすように話を戻した。

「そんなことよりも、とにかく我々には時間がない。一刻も早くウェールズと会わねばならん! そうしなければ、我々のこれまでのことはまったく無駄になる」

「落ち着けワルド子爵、王子が戻ってきたらトリステイン特使である我々に会わないなどありえん。今はただ待てばいい」

「貴様はよくそんなに落ち着いていられるな……まさかとは思うが、我らの使命達成に迷いが生じたわけではないだろうな?」

 いぶかしげに問うワルドに対して、ミシェルは視線だけを彼に向けた。

「私も、今のトリステインを憂える思いは変わらず持ち続けている。トリステインのためになるというのなら、迷いなどありはせん」

「ならいいが、どうも君は最近あの平民たちに入れ込んでいるようだからね。大義をおろそかにしはしないかと、心配で、ね」

 淡々と、腰のレイピア状の杖を手のひらで弄びながらつぶやくワルドの表情を、気の弱い者が見たら鳥肌を立てるかもしれない。だが、ミシェルは眉一つ動かさずにその言葉の冷風をやり過ごしながら、国に残してきた仲間のことなどをぼんやりと考えていた。

「今頃トリステインでは、隊長たちが国内のレコン・キスタ勢の間諜をいぶりだしているころか……とはいっても、今のレコン・キスタにそこまで強力な情報網を維持する余力はないだろうが」

 彼女の見るところでは、これまでレコン・キスタと内通していた国内の造反者たちも、レコン・キスタの先を見限って、ガリアやゲルマニアなどの情報組織に鞍替えし始めているようである。よって、すでに影を潜めていて、完全に撲滅するのは難しいであろうと考えていた。

 もはや、早い遅いはともかく避けようもない両軍の激突。様々な要素を加味して戦力差を考えれば王党派が優勢とされているが、レコン・キスタ側にもまだ逆転の要素はあり、状況は予断を許さない。

「もし、この戦いにレコン・キスタが勝てば、彼らは王党派勢が擁していた傭兵らの戦力を吸収することができる。そうなれば、戦力を大幅に拡充した彼らは、強大な空軍力を背景にトリステインを落とし、ゲルマニア、ガリアと戦火は広がっていく」

 目を閉じたミシェルのまぶたの裏に、アニエスや苦楽を共にしてきた銃士隊の仲間たちの顔が浮かぶ。もし戦火がトリステインにまで及べば、当然彼女たちも戦いに巻き込まれて、少なからぬ者たちが帰らぬ人となるだろう。

 しかしワルドは、そんなミシェルの心を知ろうとすらせずに、彼女が言わなかった先を続けた。

「やがてロマリアも落ち、ハルケギニアはレコン・キスタによって統一されて王権は消滅し、共和制がこの世界をたばねることになる。やがて、エルフどもに占領されている聖地のある東方への侵攻が開始され、聖戦はクライマックスを迎える」

 この世界全てを巻き込む戦いの連鎖。その野望の全容をワルドは言い切ると、遠い東の空を仰ぎ見た。そのはるかな先には、この数百年人間の見たことのない、かつて始祖ブリミルの降臨したといわれる聖地がある。レコン・キスタの最終目的は、その聖地をエルフどもの手から奪還することとされているから、彼らの思惑どおりにいけば、いずれ東方を舞台に空前の大戦争が始まることになるだろう。もちろん、その前にもハルケギニア統一のために流される流血は、少なく見積もっても十万を下ることは絶対にない。

 仮にそうなったとき、自分は最後にどんな顔をしているだろうかと、ミシェルは思いを抱かざるを得ない。十万の人命というが、その一つ一つには人生があり、喜びも悲しみも、なによりも可能性がある。十万の死という言葉は、その奥に隠された無限に等しい悲嘆と憎悪を表現することはできない。人間の発明した言語というものの、なんと無力かつ不完全なことか。

 また、仮に百歩、否一千億歩譲って、赤の他人の十万人ならその死も許容できようが、その中に親しい仲間が混ざっていた場合はどうだろうか。自分が死ぬことに関してはとうに覚悟はできているが、そんな、生きたまま手足をもがれていくようなことに、自分は最後まで耐えられるのだろうか。そしていつの間に自分はこんなに軍人らしくない思考をするようになったのかと、彼女は思うようにいかない自分の心にいらだっていた。

 だが、そうして無為に流れていくと思われた時間も、全体からすればきちんと計算されているらしい。唐突に部屋のドアがノックされたかと思うと、鎖かたびらを着込んだ壮年の兵士によって、ウェールズ皇太子がご帰還あそばされ、数時間中にお二人とお会いしたいとおっしゃられているので準備されたいと伝えられた。

「いよいよ、か」

「ああ、いよいよだ」

 感想をその一語に集約させると、二人は本来なすべき役目を実行するために腰を上げた。

 

 

 この古城で、謁見の間とされている小さな広間に通されたとき、二人は値踏みするように中を見渡した。

「質素ながら、高潔さを保っているな」

 調度品は、元々この城にあったであろう古いランプやよろい飾りなどしかなく、それも決して高級品というわけではない。しかし、よく磨かれており、ほこりの堆積していた形跡さえ見えない。間接的ながらも、皇太子の華美を嫌う質実剛健さと、部下の皇太子への忠義心をかいま見れる光景であった。

 やがて、二名の近衛兵に護衛されながら、アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーが入室してくると、二人はうやうやしく頭を下げて最敬礼の姿勢をとった。

「よく来てくれた、トリステインの大使殿。失礼ながら大変長らく待たせてしまって申し訳なかった。あらためて歓迎の意を表させてもらおう。ようこそ、アルビオンへ」

 金髪の凛々しい皇太子は、自分から名乗った後に、感じのよい笑顔で二人を歓迎した。ワルドとミシェルは顔を上げると、自らの名と地位を名乗りながら、はじめて見るウェールズ皇太子を観察し、噂どおりの人物であると認めた。端麗なる容姿と、明瞭かつ覇気にあふれた性格を持ち、一目で王族とわかる雰囲気をかもし出す若者が目の前にいる。

 影武者などではないことに納得して、まずはアンリエッタから皇太子に向けて宛てられた書状を差し出した。

「ほう、私の美しい従妹は息災のようだね。彼女は、自分の国も苦しいというのにアルビオンを援助してくれようというのか。優しい子だ、彼女は昔から変わらず美しい心を持ち続けているのだな」

 書状を読み終わったウェールズは、昔を懐かしむ顔を一瞬浮かべた後で、すぐに表情を戻して二人に向き直った。

「君たちも、遠路はるばるご苦労であった。早ければ、明日にでも決戦が起ころうというこのタイミングで、何とか会うことができたのは幸いだった。恥ずかしい話だが、内戦で我が国は相当に疲弊している。今でこそお互いが均衡を保っているが、勝敗がつけば戦いの傷は一気に表面に出てくるだろう。アンリエッタの厚意を無駄にしないためにも、君たちには大いに協力してもらいたい」

「御意に」

「我々は、そのためにこそ来たのです」

 ウェールズの申し出に対して、二人はもう一度うやうやしく頭を下げて了承の意を表した。

 そして、トリステイン王国よりの、アルビオン王党派への特使の役割はこれだけではない。国から持ってきた用件のほかにも、話し合うべきことは山のようにあった。

「感謝する。それでは会議室に案内しよう」

 三者は、物々しい様子の近衛兵に護衛されて、数人の将軍や政治家とともに卓を囲んでの会談に移った。

「諸君、情報を総合した結果、レコン・キスタどもは三日後に勢力を整えて攻勢に転じてくるとの線が濃厚だ。その前にこちらから仕掛ければ勝利は硬いが、ただし壊走した敵軍がロサイス方面にかなりの数逃走してしまうだろう。よって我々はこれに対して、緒戦は防御に徹し、敵の攻勢が限界点に達した時点で反撃に転じ、敵を完膚なきまでに撃滅するものとする」

 自信に溢れた声でウェールズは戦略の基本方針を発表した。これに対して、二人は内心でウェールズ皇太子が単なる戦闘屋でもないことを認めざるを得なかった。ただの戦士であればとにかく勝つことにだけこだわるだろう。言葉には出さなかったが、レコン・キスタの攻撃を正面から撃砕することによって、敵の戦意を砕き、国民や国外にも王党派の復活を強く印象づけようという政治的な狙いが、これには秘められていることは明白であった。それに引き換え、今のレコン・キスタは兵員こそ王党派に相当する数がいるが、士気が低く、その指揮する将軍も元は王党派だったものが、反乱時に上層部がそのままレコン・キスタに移ってしまったために仕方なく従っているというだけの人間たちである。無能ではないだろうが、愚直で思考の柔軟性に欠け、目先の戦闘のことしかわからない視野の狭い者しかいない。というかそういう者以外はさっさと王党派に寝返ってしまったために、実戦指揮官の質でも大きく水をあけられていた。

 しかし、二人には一つだけ解せないことがあった。これほどに政戦に才能を持つ人間に率いられた軍が、なぜ一時はほんの千足らずの軍勢で辺境の小城にまで追い詰められたのだろうか? 老骨のジェームズ一世が指揮をしていたときにも、彼は戦闘の実戦指揮をしていて、今と職責はあまり変わらないはずなのに、まるで人が変わってしまったかのようにさえ思える。むろん、そんなことがあるはずはないのだが……

 

 それから、今後のことを戦後処理に渡っても話し合い、従兵に告げられたときにはすでに夜になっていた。

「おお、もうこんな時間か。それでは会議の続きは夕食後とすることにしよう。みな解散してよろしい」

 ウェールズが手を上げてそう告げると、彼の幕僚たちは一礼して会議室を退室していき、残ったのはウェールズと彼の近衛兵と、ワルドとミシェルだけとなった。

「お疲れだったね、君たちのおかげで大変有意義な会議ができている。アンリエッタの人を見る目は確かだったようだね」

「恐縮です」

 流麗に、一部の隙も無く礼を返すワルドの態度は、貴族の礼儀作法の教科書と呼んでもよいようなもので、その美しさにウェールズは満足したように彼に微笑を向けた。

「まったく、君のような騎士のいるトリステインはうらやましいね。そうだ、夕食の準備ができるまで、少し休憩がてらトリステインの話でも聞かせてもらおうか。よろしいかな、子爵」

「喜んで、それでは我らで話し相手をつとめさせていただきましょう」

「では、私も……」

「いや、すまないがミス・ミシェルは遠慮してもらえないだろうか」

「えっ?」

 すまなそうに言うウェールズに、ミシェルは意味がわからずにとまどったが、ワルドは彼女の耳元で軽くささやいて、その答えを教えた。

「わからんかね? 皇太子はトリステインにいるアンリエッタ王女のことを聞きたがっているのさ。そして、そういう話を女性に聞かれるのは、男には気恥ずかしいものなのさ」

「そういうものなのか?」

 幼い頃から生きるか死ぬかで、最近になっても任務に己をささげて生きてきた彼女には、男女のそういう感情がどう働くのかわからなかった。しかし、そういうものだと言われれば納得するしかない。

「わかりました。それでは私は別室で休息をとっていることにしましょう」

 ほかに選択肢もなく、ミシェルは黙って頭を下げた。しかし、その別れ際にワルドが耳打ちした言葉が、彼女の心音を激しく高鳴らせた。

「皇太子はお疲れのご様子だ。ひょっとしたら、夕食に遅れるかもしれん。その間我々は時間つぶしに庭を散歩してみようかなと思う。すまぬが、従兵の方にそう伝えておいてくれぬかな」

 そう言い終わると、ワルドは振り向くことも無く、ウェールズに続いて入り口を近衛兵が固めている彼の私室のドアをくぐっていった。そして、後に残されたミシェルは、皇太子の部屋のドアが閉まるのを見届けると、憮然とした様子でその場を立ち去った。

「……星が流れる……それを、人の手で押しとどめることはできない……」

 暗い廊下を、硬い足音を立てて歩きながら、彼女はふと天窓から見上げた夜空の星々を仰いで、魂が抜けたようにつぶやいていた。

 

 ウェールズの私室は、元はこの小城の領主の部屋だったと見えて、古めかしい調度品が置かれている歴史を感じさせる部屋だった。それだけでも大方に不自由はしないであろうけれど、彼の人柄ゆえか新しく継ぎ足されたものは特に見えず、四、五人程度が入れる程度のそれなりに広い部屋に、彼の仕事机と衣装ケースぐらいが使われた形跡をとどめていた。

「手間をとらせて申し訳ないね子爵、まあ座ってくれたまえ。茶でもいれよう」

「いえいえ、どうぞおかまいなきように」

 部屋の中央に置かれた小さなテーブルに、ワルドはウェールズと向かい合って腰を下ろした。皇太子自らがいれてくれた上質な紅茶の香りが、彼の鼻孔をここちよくくすぐる。

「さて、トリステインは私自らも何度も訪れたが、反乱が勃発してからはとてもそんな余裕はなくてね。私の従妹は変わらず頑張っているかね」

「それはもう。国難に際してトリステインの先頭に立って、国の民を導いていくその凛々しき姿はまるで聖女のごとくであります。私、まだまだ若輩の身でありながら、あれほどの君主は歴史上、そうはおるまいと考えている次第です」

 そうワルドが評した言葉は、トリステイン国民のそれを代弁したものでもあっただろう。ウェールズは、従妹の成長を喜ぶかのように満足げにうなづいた。

「そうか、君はよい主君を持ったようだな。このアルビオンも、彼女のようなものが治めていれば内乱によって荒れることもなかったろうに」

「ご謙遜を、王子の才幹を疑うものがこの世界にいるとは思えません。レコン・キスタの者どもも、貴方を敵にしたことを後悔していることでしょう」

 それは世辞ではあったが、完全に事実を外れているというわけでもなく、ウェールズは軽くほおを緩めてみせた。

「よければ、ほかにもいろいろ話してほしい。私がこの大陸で動けない間、トリステインで何があったのか、興味は尽きないね」

「はい、ですがその前に私からも少しよろしいでしょうか?」

「ほお、なんだね?」

 自分の話をさえぎってきたワルドに、ウェールズは怪訝なそぶりを見せたが、すぐに平静どおりの様子に戻って、彼の話を聞く態度を示した。

「決戦が迫るこんなときに恐縮なのですが、私は国を出る前に別件の仕事を預かっていましてね。いえいえ、本業に比べれば取るに足りないことなのですが」

「その、別件と私が関係があるのかね?」

「ええまあ。王子はそのお若さで今やアルビオンの王党派を先導なさる名君。その貴方に折り入って、いただいてきてほしいものがあると、困ったことに頼まれてしまいまして」

「ふうむ、子爵も人のよいことだな。それで、私に用意できるものだったらできる限り協力しよう」

 さりげなく持ち上げながら話すワルドに、ウェールズも興味深げに彼の話に耳を傾けた。

「感謝いたします。ですが、私はこれでも欲深いほうでしてね。実は、私は昔からあるものをずっと欲してきたのですが、それを私の上司のさる方に相談しましたら、それをくれてやる代わりにと言われてしまい……いやあ、本当に恐れ多いことで」

「はは、遠慮などするでない。君がそれほど欲するとは、よほど珍しいものなのかな」

 下手に出るワルドの態度に、ウェールズはさらに気を良くしたように見えた。

「では、お言葉に甘えまして……なに、そんなたいしたものではありません。私は、ただ聖地へ行きたいだけなのですから」

 聖地を欲する。その言葉を聞いたとき、微笑んでいたウェールズの顔が瞬時にこわばって、とっさに杖を抜こうとした。

 しかし、ワルドはウェールズが呪文を詠唱するよりも早く、その二つ名である閃光のように杖を抜いて呪文の詠唱を完成させていた。

「いただきたいもの、それは貴様の命だ、ウェールズ」

 豹変して暗殺者の本性を現したワルドの魔力をまとわせた杖が、反撃の間もなくウェールズの左胸を貫いていた。

「き、貴様レコン・キスタ……」

「そうだ、私はアルビオンの貴族派レコン・キスタの一員さ。我々は、ハルケギニアを統一して聖地を手に入れる。そのためにも、貴様の存在が邪魔なのだ」

 苦しげなウェールズの声と、利き腕に伝わってくる確かな手ごたえに、ワルドは死者への最後の手向けとばかりに、雄弁に勝利の宣告を叩きつけた。

 

 だが……

 

「そうだね。だから、私は君を待っていたのだよ。ワルド子爵」

 なんと、心臓を貫かれたはずのウェールズが、突然晴れやかな笑顔で笑いかけてきたではないか。よく見れば、突き刺したはずの杖からも血は一滴も垂れてはいない。

「な、なに!?」

「ふふふ、残念だが君の要望には答えられないよ、すまないねえ」

 ワルドは、ウェールズの顔を直視して背筋を凍らせた。そこには、凛々しい若者も、勇敢な王子でもなく、黒々とした隈を顔に貼り付けた、狂気の悪鬼の形相があったからである。

「ど、どういうことだ!?」

「ふふふふ」

 動揺するワルドは、とっさに杖を引き抜いて、間合いをとるために後ろに跳んだ。すると、ウェールズの服の破れ目から、白い布のようなものが這い出てきたかと思うと、それは勝手に動いて、丸めた布の下に余った布が垂れ下がっているような、あえて言うなら頭以外をすっぽりとコートで覆い隠した人間、よく見れば頭の部分には単純な楕円と涙滴型でうつろな目と口が書かれている、そんな奇妙な形の人形に変化したのだ。

「そうか、そのマジックアイテムで、私の攻撃を受け止めたのか」

「ふふふ……マジックアイテム? 私の大事な友人に向かって無礼な。どれ、少しあいさつしてさしあげたまえ」

 不気味に笑うウェールズの手から、その不気味な人形が飛び立ってきて、ワルドはとっさに杖で振り払ったが、その人形はびくともせずにまた向かってくる。いや、それどころか、向かってくるたびに叩き落としているうちに、最初は十サント程度だったのがだんだんと大きくなり、ついには四十サントほどに膨らみ、子供くらいの大きさにまでなってしまったのだ。

「なっ、なんなんだこれは? ええい、『ライトニング・クラウド!!』」

 なおも向かってくる人形に、たまらずにワルドは得意としている電撃の呪文を浴びせた。たかが布でできた人形、これで黒焦げの炭になると彼は思ったが、その期待は無残にも打ち砕かれた。電撃は、人形の体に焦げ目一つ残すことも無かった。それどころか、電撃が収まった後には、ワルドの背丈の半分ほどにまで巨大化し、しかも全身を血のように真っ赤に染めながら宙に浮いて、ゆらゆらと自分を見下ろしていたのである。

「ひっ……うわぁぁっ!!」

 本能的に身の危険を感じたワルドは、悲鳴をあげて部屋のドアに駆け出した。冗談ではない、この王子は普通ではない、こんな化け物の相手などしていられるか! 

 だが、飛びついたドアのノブはびくともせず、『アンロック』の呪文もまったく通じない。

「ど、どうなっているんだ?」

 スクウェアクラスの自分の鍵解除の魔法が効かない鍵など、あるはずがない。そういえば、これだけ派手に暴れているというのに、外の近衛兵はまったく部屋に入ってくる様子がないのはなぜだ。

 けれどそのとき、部屋の中にウェールズのものとは違うしわがれた声が響いた。

「無駄だよ。この部屋はすでに三次元空間とは隔離してある。脱出も、進入も不可能だ」

「だっ、誰だ!?」

 思わず振り返って杖をかざすと、いつの間にかウェールズの横に、黒い服と黒い帽子、黒いマントを羽織った不気味な老人が立っていた。

「くっ、『ライトニング・クラウド!!』」

 相手の正体を確認するより先に、ワルドは攻撃を選択した。雷撃が、ウェールズともども老人を襲う。こいつらがどんな小細工をしようと、とにかく術者を倒してしまえば済むと判断したからであるが、なんと老人は雷撃を受けながらも平然と笑っていた。

「くくく、とりあえずは殺しにくるか、なかなかいい根性をしている。しかし、そんなものでは私は殺せないよ」

「ば、馬鹿な!!」

 老人が手を一振りすると雷撃は消え去り、老人にもウェールズにもダメージはまったくない。そのとき彼ははっと思い出した。あのアルビオンへ向かう船の中で、誰もいないはずの艦橋から聞こえてきた不気味な声は、この老人の声と同じなのだ。

 ワルドは今度こそ全身を貫く、死の予感にも似た恐怖に全身を支配され、震える口調で、やっと一言だけ言葉をつむぎだした。

「き、貴様……何者?」

 すると老人は、帽子を上げて口元を大きく歪ませると、地の底から響いてくるようなおどろおどろしい響きを、ワルドの耳と脳に送り込んだ。

 

「異次元人、ヤプール」

 

「なっ、なんだと!?」

 愕然とするワルドの前で、ヤプールはとても愉快そうに笑うと、宙に浮いている赤い人形に向かって命じた。

「やれ、ノーバ」

 その瞬間、赤い人形の口から真っ赤なガスが噴出してワルドを包み込んだ。

「あっ、ぎゃぁぁぁっ!!」

 赤い霧は、ワルドの口や鼻から体内に入り込み、彼の全身に形容しがたい痛みを植えつけていった。そう、常人ならば一瞬で正気を失ったほどの、人間の思考力を破壊する恐るべき毒ガスだ。

 さらに、のたうつワルドの喉に、赤い人形、ノーバの口から赤い鎖が放たれて彼の喉に絡み付いて、さらなる苦痛を与えていく。

「ぎゃぁぁっ、あぎゃぁぁ!!」

「どうだね。ブラックスターの破片から生み出した、新たな円盤生物の威力は? 猛毒ガスの威力、うまく再現できているようだね」

 円盤生物ノーバ。かつてウルトラマンレオを苦しめ、メビウスとも戦ったブラックスターの十番目の使者。その口から放たれる猛毒ガスは人を操り、心を乱し、互いに憎み合わせて死へといざなう。その恐るべき殺し屋を、今度はヤプールが作り出したのだ。

 奴に捕まったが最後、もはやワルドに助かる道はなかった。もう、ウェールズの暗殺も、なぜヤプールがウェールズの背後にいるのかを知ろうとすることもできない。

 彼はいっそ、すぐに正気を失ったほうが幸せだったかもしれない。なまじ鍛え上げた精神力を持っていたばかりに、脳を破壊されかねない苦痛にワルドはいつまでもさいなまされていた。

 そんな彼の耳に、ウェールズの歌うような言葉が響いてくる。

「子爵、私は力を手に入れたのだよ。私の国を奪い、父を殺した者たちに復讐するための力をね。すばらしいだろう、すばらしいだろう、すばらしいだろう」

 

【挿絵表示】

 

 心の闇をむき出しにしたウェールズの声が、遠ざかっていく意識の中で、ワルドの脳に冷たく突き刺さっていく。かつては評判どおり、誠実で穏やかな性格の持ち主だったウェールズも、レコン・キスタによって国を奪われたときには、親しかった友や信じていた部下を殺されたり、裏切られたりし、さらに屈辱的な逃避行の果てに眼前で父を無残に殺されたとき、その心には埋めようの無い怒りと絶望が芽生えていた。

 そんな彼の心の虚ろな空洞につけいったのが、ヤプールの送り込んだ円盤生物ノーバだったのだ。奴はウェールズの心の闇に取り入り、復讐に力を貸すと見せかけて彼を操っている。

 そして、ワルドの意識が途切れる最後の瞬間、ヤプールの背後に地獄の門のような異次元の亀裂が生じた。そこから巨大な怪物の影が現れて、その四つの目が彼を見つけて鈍い光を放ったと思ったとき、破滅への行進曲のように、彼にヤプールの残酷な宣告が送り込まれた。

 

「さあ今だ……乗り移れ……乗り移るのだ!!」

 

 そのとき、ワルドの首からペンダントが零れ落ち、硬い床に当たって乾いた音を立てた。しかし、温かな笑顔を浮かべた女性の、古びた肖像画を収めたそれを、持ち主が再び拾いあげることは、もはやなかったのである。

 

 

 続く

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