ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第82話  アルビオン決戦 烈風vs閃光 (後編)

 第82話

 アルビオン決戦 烈風vs閃光 (後編)

 

 古代怪鳥 ラルゲユウス

 円盤生物 サタンモア 登場!

 

 

 地上へ向かって艦砲射撃を加える戦艦レキシントンをはじめとするレコン・キスタ残存艦隊と、それを全力で迎え撃つアルビオン王党派とトリステイン連合軍。

 レキシントンに百門近く搭載された新式カノン砲が火を噴くと、地上で身を隠す兵隊が何人か、伏せていた穴ごと掘り起こされて粉砕される。だが即座に王党派軍も新型高射砲や制空権を確保した竜騎士隊で応戦し、この大型戦艦や護衛艦艇にダメージを与えていく。

 

 だが、彼等のはるか上空では、それらとはまったく次元の違う戦いが繰り広げられていた。

「はっはっはっは! 遅い遅い! 『烈風』の異名はその程度ですかな?」

「ほざけ、速さだけが空中戦ではないぞ」

 大気を裂き、雲を散らして二羽の巨大怪鳥と二人の騎士が火花を散らす。

 一方は、古代怪鳥ラルゲユウスに乗る『烈風』カリンことカリーヌ・デジレ。

 対して円盤生物サタンモアを操る『閃光』のワルド。

 『風』のスクウェアメイジである二人の戦いは、両者とも自らの周りに空気の防護壁を張ることで、マッハを超える巨大怪鳥の速度によって生まれる強烈な衝撃波や、高高度での気圧の減少から身を守って戦っていたが、いわばジャンボジェット機以上の大きさの戦闘機が超音速で空中戦をやるわけであるから、そのソニックブームが生み出す爆音はレキシントンの艦砲射撃以上のすさまじさを持って、あまねく地上を揺さぶった。

「ふん、このノワールより速いとはやるな。だがその程度の機動性ではこいつは捕らえられん」

 両者の空中戦は、速度に勝るサタンモアが優勢に見えたが、ラルゲユウスも小回りの効きのよさでは勝り、後ろに回り込もうとするサタンモアを機敏にかわして、逆に回りこむチャンスを狙っていた。

 これは、同じ鳥型怪獣でも、サタンモアのまるで水中へ飛び込む前のカワセミのように流線的なシルエットは、明らかに速度を出すのには有利であったものの、必然的に浮力を得にくいし安定性は悪くなる。そのためホバリングはできるものの、大気圏内での旋回能力は低く、反面ラルゲユウスはそのまま巨大な鳥であるために宇宙は飛べず、速度もマッハ1.5が限界だが、巨大な羽は空気を掴みやすいために小回りが効く。

「どうした? いつまでもぐるぐる回っているだけではつまらんぞ」

 いくらワルドが後ろに回り込もうとしても、カリーヌはそのたびにノワールに的確な指示を与えて、何度やっても無駄であることを知らしめる。ワルドも、互いに相手の尻に食いつこうとする一般的な空中戦では勝負がつかないと、ドッグファイトをやめさせた。

「ふん、ちょろちょろと小雀はすばしっこくて困る。ならば杖で決着をつけてくれようぞ、『エア・カッター!』」

「望むところだ、『エア・カッター!』」

 空中で二つの空気の刃が激突し、一瞬つばぜり合いのように押し合った後で、互いにエネルギーを使い果たして元の空気に戻る。

 だが、両者の魔法の応酬はそんなものではすまなかった。

『ウィンドブレイク』対『エア・ハンマー』

『エア・カッター』対『ウィンドブレイク』

 空気の弾丸や、真空波の大太刀が作り出されては相殺、回避を繰り返し、そのたびに津波のような衝撃波が発生しては、さらなる衝撃波に飲み込まれていく。さらにはタバサでさえまだ使えないような強力な呪文や、魔法の高速連射などの超高等戦法が瞬きをしているあいだに繰り出され、戦いは激化の一途を辿る。

 その様子を、アンリエッタやウェールズは後方陣地から『遠見』の魔法を使って見ていたが、とても若輩な自分たちが評論できるような戦いではなく、なにが起こっているのかすら、把握するだけで精一杯だった。

「信じられない。あれが、人間の戦いなのか……」

 ウェールズのその感想は、この戦いを見ていた人間全員を代表したものであった。

「わたくしも、伝説は時が経つに連れて誇張されていったものだと思っていましたが、人間の想像力というものが、いかに現実に対してちっぽけであるかを思い知りました」

 二人とも、メイジとしてはスクウェアに限りなく近いトライアングルクラスの使い手である。その二人をもってしても百人がかりでも一蹴されると思えるほどに、次元が違う世界の戦いだった。

「あれほどの騎士がわが国にもいたら……しかし、あの『烈風』と渡り合っている敵の騎士、あれほどの者がレコン・キスタにもいたのか」

「……」

 アンリエッタは忠臣と信じていた者の裏切りをすでに知り、いずれは自分の前に立ちふさがってくることを覚悟はしていた。しかし、こうして目の当たりにしてみるとふつふつと怒りが湧いてくるのを、はっきり感じていた。

 切り札である『烈風』が戦線を離脱し、戦局は再び荒れ模様となっていく。だが、上空でいかな強靭な竜でも追いつけないような超音速の激闘を繰り広げる二者の戦いには、援護などという言葉は浮かんでこず、ひたすら『烈風』の勝利を祈り続けるしかなかった。

 

 

 だがそのころ、北の空にはもう二つの小さな影が現れていた。

「見えた! ちっ、もう戦いがはじまってんじゃねえか!」

「けどギリギリ間に合ったみたいよ! 急いで」

 ともすれば停止しそうになるエンジンをあやしながら、才人とルイズを乗せたゼロ戦と、タバサたちを乗せたシルフィードは目的を果たすことができないままで、やっとここまで戻ってきたのだった。

 遠くには、レコン・キスタ軍の大型戦艦が地上へ向かって大砲を撃っている姿と、迎え撃っている対空砲火の煙が見える。あんな大きな船が相手では、王党派はさぞかし苦戦しているだろうとルイズは思ったが、戦いが続いているということはウェールズはまだ無事なのだろうと、希望を持った。

 けれど近づくにつれて、一度この艦隊を見ているキュルケたちは、艦隊の数がさきほど見たときより大幅に減っていることに違和感を覚えて、さらに近づくと森や草原のあちこちで沈んだ船が煙をあげているのを見つけて驚いた。

「うっそ、あれだけの艦隊を地上兵力だけで半減させちゃったの?」

「ううむ、信じられん」

 軍事に専門的な知識を持つキュルケやミシェルは、常識的に考えてありえない展開に唖然とした。もちろん、彼女たちが両軍の内情や戦いの経緯などを知るはずもないが、やがて陣地のかなたにアルビオンの旗と並んでトリステインの旗と王家の紋章を見つけると、ここで何が起こったのかの一部を知ることができた。軍旗はともかく、トリステインの王家の紋章をかかげることのできる人間は一人しか存在しない。

「トリステイン軍が、姫様が援軍に来たのよ!」

 それはまったくルイズにとって最高の意味で予測を裏切る出来事であって、むろん才人たちにとっても、想像の範疇を超えたことだった。

「あの姫様、そこまでやるか」

 二人が最近のアンリエッタに直接会ったのは、終業式の日の夜に呼ばれていったときの一回だけで、確かに非凡な才覚の持ち主のようであったが、まさかあの華奢な体で自ら戦場に乗り込んでくるとは。

「人を見た目で判断するものじゃないってのは、本当なのねえ」

「……」

「姫様……」

 キュルケたちも、空中艦隊に一歩もひかずに応戦する二カ国連合軍の士気の高さを遠くからでも感じた。

「このままなら、何もしなくても勝っちゃうんじゃないの?」

 ルイズなどは本気でそう思ったくらいだが、軍事の専門家であるミシェルなどから見れば、補助艦艇はともかくレキシントン級の戦艦を撃沈するには決定力が欠けているように見えた。事実、圧倒的な威力を発揮した新型高射砲もそれゆえにレコン・キスタ艦隊の集中砲火にあって四門のうち三門が破壊されて、たった一門では照準修正もしがたく、苦戦を余儀なくされていた。

「レキシントン一隻のために、犠牲は増える一方だ。それに、あの艦には奴がいる」

 脇腹の傷を押さえながら、ミシェルは目元にかかった青い髪をたなびかせてつぶやいた。

 そう、敵がレコン・キスタと艦隊だけであれば自分たちの出る幕はなく、戦争は軍隊にまかせておけばすむ。しかし裏でヤプールが糸を引いているのならば、人間たちが役に立たなくなったら、すぐさまクロムウェルに擬態させてある尖兵を使って無差別破壊に出てくるだろう。勝ったと思ったら、戦場のど真ん中に超獣が出現しましたとなっては目も当てられない。

「隊長はわかっているはずだが、この乱戦でそれどころではないのか……」

 戦闘空域のギリギリ外を飛びながら、戦局を見渡そうとしても戦塵や煤煙で見通しが悪く、才人などは、

「いっそ敵旗艦に強行突入して白兵戦でクロムウェルを倒すか?」

 などと冗談半分に言ったが、ハリネズミのような対空武装をしている敵艦にはいくらゼロ戦でもたどりつけそうもない。それ以前にこのまま直進したら戦闘に巻き込まれかねないので、うかつに近づくわけにもいかなかった。

「けど、このままここでこうしていても変わらないわ。遠巻きに観ていて、なにかあってから飛び込んでも手遅れになるわよ」

「気持ちはわかるが、おれたちだけで飛び込んで何ができる? かえってアルビオン軍の邪魔になるだけだぞ。それに……」

 そこから先は言わなかったが、才人はゼロ戦の機銃をレコン・キスタでも人間には使いたくなかった。元より戦わされている兵士のほとんどは理由も無く、強制されたりだまされたりした被害者であるし、なにより一般的な高校生だった才人は殺人に大きな抵抗感を持っていた。

 それでも、下手に飛び込んだら所属不明な彼らは両軍から敵とみなされて袋叩きにされることはルイズにもわかる。考えに詰まった彼女を見た才人は、シルフィードで並行しているキュルケたちに助言を求めた。戦場での実戦経験や判断力といえば、対怪獣専門の才人より軍門の名家の出身であるキュルケや、彼はまだ知らないが花壇騎士のタバサ、それから本職の軍人であるミシェルのほうが当然優れていて、彼女たちはいくらか話し合ったあとで、才人に向かって叫んできた。

「おーい、とりあえず姫様が来てるのなら、指揮系統に問題はないわ! わたしたちはとにかく少し様子を見ましょう。今動いてもやぶへびになるだけだわ」

 戦争という巨大な歯車が一度動き出したら、もはや個人の力で止めることは不可能であった。せめて、あの時空間での戦いが無く、艦隊の出航前に叩けていたらと思うと残念でならない。この世界を混沌に導こうとする何者かの意思が複雑に絡まりあったことが一因であるとはいえ、人と人とがそれぞれの生存をかけての戦いにはウルトラマンの入り込む余地はなかった。

「わたしたちって、無力なのね」

 力が欲しいとルイズは思った。あの巨大な戦艦を沈めるほどの力が自分にあれば、こんな無意味な戦いはすぐに終わらせられるのに、なぜお母さまはあんなにすごいメイジなのに、自分にはその片鱗もないのだろう? 

 だが才人は、そんなルイズの苦悩をなんでもないことのように、のんきに声をかけた。

「世の中、なるようになることとならないことがあるさ。そう気を落とすなよ、お前は責任感は強いけど、くそ真面目すぎるのが欠点だからな」

「なによそれ、あんたわたしをバカにしてるの?」

「だーから、お前はおれより頭いいから考えすぎるんだよ。いいか? ただの女学生とその他少々が集まったくらいで戦争止められたら誰も苦労しねえよ。だろ?」

 そう言われるとぐぅの根も出なかった。才人とて、このゼロ戦で助太刀に入りたいのはやまやまだが、あの戦艦などを見てしまったら、とても二十ミリ機関砲程度では歯が立たないとわかるし、やはり人は撃ちたくない。

「それにしても、あんたってどうしてそうのんきにかまえてられるの」

「誰かさんの扱いを受けてるうちに慣れたんだよ。さて、ここじゃまだ遠いからもう少し近づいておこうか、ようし、行くぞ」

 二人を乗せたゼロ戦とシルフィードは、戦火の激しい区画を避けて連合軍の本陣のほうへと慎重に近づいていった。

 だが、思えばこのとき、ルイズはある可能性について冷静に考えれば気づいてしかるべきだったのだが、気づいたときには手遅れになっていた。戦場へと近づくにつれて、一行の耳に響いてきた大砲の音とは違う爆音。ルイズはそれを最初はなにかしらと思っても、別に気にも止めずに聞き流していたが、数秒後に自分の注意力の無さを盛大に後悔することになる。

 戦場に近づくゼロ戦とシルフィードを突然襲った真上からの突風。それに驚いて、思わず上を見上げたルイズの目に映ってしまった信じられないものが、その答えだった。

「あ、あ……」

 このとき才人がルイズの顔を見ていたら『血の気が引く音がする』珍しい光景をじっくりと観察できただろう。彼女の両のとび色の眼に飛び込んできたのは、彼女にとって小さいころからようく見慣れた……

「……て」

「え? なんだって」

 ひざの上で突然小さくなったルイズの発した声を、才人は最初聞き取ることができなかった。

 しかし、ルイズは突然振り返ると、才人の襟元をむんずと掴んで、血走らせた目をいっぱいに見開いて怒鳴った。

「引き返して! 今すぐに! 早く!」

「なっ! なに!?」

 何かに取り付かれたかのように、ルイズはつばを吐き散らすほどに取り乱して才人に詰め寄り、困惑した才人が相手にならないとわかると、自ら操縦桿を飛びついて倒そうとした。

「バカ! なにすんだ」

「うるるう、うるさいうるさい! にに、逃げないと! いゃぁ! お母さま、ごめんなさいぃっ!」

「あっ、フラップが! あっ……わーっ!」

 錯乱したルイズがでたらめに操縦桿を動かしてバランスを崩したゼロ戦は、さらに空気抵抗を調節するための可変翼(フラップ)を突然動かしたために、完全に失速して墜落を始めてしまった。

「うわーっ!?」

「いゃー! ごめんなさいごめんなさいごめんなさーい!」

 きりもみしながら落ちていくゼロ戦は、そのままだったら地上に激突して砕け散っていただろう。だが幸い間一髪のところで、タバサたちがレビテーションで救い上げてくれて助かった。

「まったく、なにをやってるんだミス・ヴァリエールは、サイトを殺す気か!」

 ゼロ戦のコクピットの中でいまだに暴れているルイズを見て、ミシェルは自らもレビテーションをかけながら、かろうじて間に合ったことに胸をなでおろしつつ怒ったが、ルイズの錯乱の原因をなんとなく察したキュルケとタバサは彼女の名誉のために一言付け加えた。

「複雑な、家庭の事情があるんですわよ」

「……お母さんが、来てる」

 天敵というものが人間にも存在するのならば、ルイズにとっての根源的な恐怖の対象はまさにそれであった。だが彼女たちも、ヴァリエール家で粗相をした者が受ける『高度五千メイルのおしおき』の恐ろしさは知らない。

 

 

 しかし、娘のそんな醜態を見たら怒髪天を突いたであろう母親は、今ほかの何人もたどり着くことのできないであろう空の上で、さらに戦いを激化させていた。

『ライトニング・クラウド!』

 雷撃と雷撃がぶつかりあって、山のかなたまでとどろくほどの雷鳴を生み出す。

「くっ! ただの人間が、これほどの力を持っているとは!?」

「雑魚が多少力をつけたところで、多少強い雑魚になるだけだ。どうした、もう息切れか?」

 パワーアップしたワルドは、自らが人間を超えた存在になったと自信を持っていたが、世の中上には上がいる。彼が見てきた『烈風』は、あれでも全然本気を出していなかったことを思い知らされていた。

 なにせ、同じスクウェアクラスでも魔法力のケタがまったく違う。いや、メイジとしては最高位にあるスクウェアクラスだからこそ、ほかのクラスとは違って上限がないために個々人の実力差が極めて大きく出ていた。

「魔法の威力は、そのメイジが待つ精神力を、いかに多く、また強く込めることによって決まるといっていい……が、俺は並のメイジ百人近い容量を持ったというのに、奴の容量はまるでラグドリアンの湖のように、まったく底が見えない」

 ワルドの人間だった部分が、カリーヌがいまだにまったく疲れを見せないことに焦りを感じていた。元よりワルドも『烈風』の伝説を聞かされて育ち、その実力を訓練とはいえ間近で見たことから、これなら勝てると踏んだのに、まったく話が違う。五分に渡り合えたのは最初だけで、互角の魔法戦を演じた結果は、精神力の絶対量に劣るワルドがじり貧に追い込まれていた。

「どうした? いっそその貧相な器を捨てて、さっさと本性を見せたらどうだ? そのほうが私もはりあいがあるというものだ」

「ぐぬぬ……人間の分際で」

 ワルドの肉体を乗っ取り、その人格をも同化吸収しかけているものは、カリーヌの挑発に、ワルドの人格を押しのけて外に出掛かったが、なんとか思いとどまった。奴にとっては、執念、妄念、つまりはマイナスエネルギーに溢れたワルドの体は非常に居心地がよく、簡単に捨てるのは惜しかったし、なにより人間に負けて本性を現すというのは、高度な知的生命体である奴には屈辱であった。

 また、ラルゲユウスに対抗しているサタンモアも、生物兵器としての差から速力や武器では上回っていたが、生まれたばかりで戦闘経験が不足していたのが響いてきていた。どうしても飛行に無駄が出てしまい、何十年にも渡ってカリーヌとともに戦場の空を駆け巡ってきたノワールをまったく捉えることができなかったのだ。

 だが、追い詰められたとはいえ、奴はヤプール譲りの悪辣な知力と、ワルドの持っていた戦術家としての能力を駆使して逆転の方法を考えて、やがて一つの結論にいたると口元を歪めて笑った。

「フフフ、確かにあなたは人間にしては強い。だが、あなたもちっぽけな他人のために弱くなるくだらない人間には変わりないでしょう!」

 ワルドが叫んだとき、サタンモアの腹の穴から、全長三十サント程度のサタンモアとよく似た姿かたちをした小型の怪鳥が無数に飛び出した。そいつらは、まるでカラスの群れのように鋭い口ばしを振りかざして、地上の人間たちを目掛けて急降下していく。

「貴様、何を!?」

「ふははは! あれぞ小型怪鳥円盤リトルモア。宙を舞って人間の肉をついばむ悪魔の群れに、お前の仲間たちが餌食になるのを見るがいい」

「なんだと!」

 カリーヌは慄然とした。サタンモアから射出される小型怪鳥円盤は大きさこそカラスくらいしかないが、天を覆うコウモリの群れのようなすさまじい数で王党派軍全体にいっせいに襲い掛かり、素早い動きで剣や槍のすきまをかいくぐって人間に鋭い口ばしを突き立てて血をすすっていく。

 

「うわっ! こいつらっ!」

「ぐぇっ、やめろぉ!」

 

 軽装の鎧くらいは簡単に貫通する鋭さと強度を持つリトルモアのくちばしについばまれて、兵士たちが次々に血を流して倒れていく。もちろん人間たちの側も応戦して、何羽かを叩き落したり、魔法で撃破したりしているのだが、サタンモアからは無限であるかのようにリトルモアが射出され続けて、人間たちの抵抗をあざ笑うかのように攻撃を続けていった。

「ちぃっ! 『カッタートルネード!』」

 リトルモアの群れへとめがけてカリーヌの巨大真空竜巻が突進していき、千羽近くを切り刻むが、その隙を見逃すワルドではなかった。

「隙あり! 『エアカッター!』」

 空気の刃がカリーヌのそばをかすめて、マントの先を切り裂き、鉄仮面に亀裂を入れさせる。カリーヌ自身に傷は無いが、はじめてワルドの魔法がカリーヌに当たった。

「ふっふっふっ、いかな『烈風』といえども、私と戦いながら地上の人間どもまで守ることはできまい。偏在を使えば分身はできるでしょうが、使い魔までは増やせませんし、私相手にそんな余裕がありますかな?」

 勝ち誇ったように杖を向けてくるワルドに、カリーヌは軽く息を吐き出すと目に宿った光を別個の次元のものへと変えた。

「なめてくれたものだな。こんな姑息な策でもう勝ったつもりとは……仕方ない、出来の悪い弟子に、特別補修をくれてやろう」

 言い終わった瞬間には、すでにカリーヌは超高速で詠唱を終えて杖を振り下ろし終わっていた。

「ちっ! エア・カッターか!? いや!」

 ワルドの動体視力は確かにその、空間を歪めて飛んでくる不可視の刃を見破ってはいた。しかしそれは一発や二発ではなく、風に吹かれて飛んでくる木の葉のように瞬間的に数十発まとめて飛んできて、とても相殺することはできないと見たワルドは『エア・シールド』で身を守ったが、そのときにはラルゲユウスが猛烈な勢いで突進してきており、サタンモアと激突してふっとばし、間髪いれずに『ライトニング・クラウド』の直撃が来た。

「うがああっ!!」

 ワルドの口から絶叫が吐き出され、サタンモアから薄い煙があがる。ワルドが憑依によって肉体強化されていなければ、瞬時に感電死していたであろう。だが、死んでいない以上カリーヌの攻撃は緩まずに、さらに強力な雷撃の集中がワルドを痛めつける。

「がああっ、おのれっ!」

 このままでは生きたままローストチキンにされると思ったワルドは、無理矢理に思念波をサタンモアに送って、目から発射される破壊光線で攻撃をやめさせるとともに、ついに奥の手を出すことにした。

「ユビキスタス・デル・ウィンデ……」

 サタンモアの上でワルドが分裂して人数を増していく。先程カリーヌに使用を示唆した分身魔法『偏在』で、その数は総勢三十体。

「見たか! 今の俺はこれほどの数の偏在を可能にした。これほどの数、貴様でも不可能だろう!」

 三十人もの同じ顔が同時にしゃべるのは異様であったが、偏在は単なる分身ではない。個々が意思を持つと同時に全体がつながっており、一つ一つがオリジナルとまったく同じ能力を持つために、その戦力は正しく三十倍になっていた。なのに、カリーヌは慌てた様子などかけらも見せなかった。

「やってみろ、私は一人でいい」

 平然と、しかしあからさまな侮蔑の意思を込められた言葉をぶつけられて、ワルドの怒りは頂点を迎えた。

「言ったな、ならば死ねい! 『ライトニングクラウド!』」

 三十人のワルドがいっせいに唱えた、三十倍に拡大された超巨大雷撃がカリーヌに襲い掛かる。しかしカリーヌはワルドがライトニング・クラウドを発射する前に、魔法で周辺の湿度、気圧、大気組成を変化させていた。つまり、自らの周りはきわめて伝導性が低く、逆にその外は伝導性がよいように仕組んでいたために、雷撃はカリーヌの周りだけをきれいに避けていってしまったのだ。

「な、にぃ!?」

「風のメイジの本分は風を己の体と同じにすることにある。お前にとっては単なる道具にしか見えないであろう大気は、本当は血液のように複雑で絶えず脈動しているのだ。単なる力しか見えない貴様では、私には到底勝てん」

 カリーヌの強さは、単にその常人を超えた魔法力にあるのではない。マンティコア隊の隊長としていくつもの内乱を収めてきたことを初めとして、吸血怪獣ギマイラに苦杯をなめたことから、諸国を渡り歩いた修行の旅で数え切れないほどの強敵との命を懸けた戦いで磨きぬいてきた、究極とも言っていい戦闘感覚が、魔法力を何倍にも引き上げているのだ。

「まさか貴様、それでもまだ本気を出していないというのか?」

「さあな、試してみたらどうだ? お前の命を授業料にして、講義してやってもよいぞ」

「うぬぬ、なめおってえ! 死ねえ!」

 逆上したワルドが嵐のような魔法の連射を放ち、さらに彼らを乗せたサタンモアも甲高い鳴き声を上げて、口からの火炎弾を連射しながら突撃してくる。

「ノワール、好きなように飛べ、どうせ当たらん」

 カリーヌは何十年も共に戦った戦友を信頼しきって、飛行の自由を完全に与えて自らは三十人のワルドを仕留めに回った。

「魔法の連携がまるでとれていなくて隙だらけだ、こんなもので私の相棒を落とせると思うか」

「言わせておけば! だが、いくら貴様でもこの数の偏在とサタンモアを簡単に落とせはするまい。その間に地上の人間どもはどうなるかねえ?」

 人間たちの命を盾に、ワルドは再度の逆転を狙おうと挑発をかけた。しかし、カリーヌは今度はまったく動揺などは見せずに、眼下をちらりと見下ろしただけだった。

「ふん、あまり人間をなめるなよ。私がいなくても、彼らは立派に戦えるさ」

 そう、決して人は一人ではない。佐々木と、アスカに教えられたことは今でもカリーヌの中で脈々と息づき、そして人間たちは反撃に出ようとしていた。

 

「全員、身を低くしろ! 奴らは上から襲ってくる。目をやられないようにして、首筋を狙って切り落とせ!」

 リトルモアについばまれていた兵士たちにアニエスの指示が飛ぶ。一方的にやられるだけだった彼らは、そうすれば攻撃を受ける方向を限定できることに気がついて、リトルモアの弱点である長い首筋に剣を振り下ろして倒していった。

 また、上空では才人たちの乗るゼロ戦やシルフィードも当然ながらリトルモアの攻撃にさらされていた。だがキュルケ、タバサ、ミシェルの三人はそれぞれの魔法で弾幕を張ってシルフィードを守り、才人はさっきめちゃくちゃに動かしたせいか、やっと機嫌を直してくれたゼロ戦のエンジンを吹かして空戦に突入していた。

「ルイズ、しっかりつかまってろ、振り落とされたら死ぬぞ!」

「いぎゃああっ!」

 後ろについて、ゼロ戦の機体に穴を開けようとリトルモアの群れが来る。そうはさせじと才人はブラックアウト寸前のルイズを同伴させたまま、振り切ろうとエンジンを全開にして、急上昇をかけた。

「そうだ、ついてこい」

 数十羽のリトルモアが群れをなしてゼロ戦を追尾してくるのを、才人は涙滴型風防の中で振り返って確認する。そして上昇の途中で急に機体を左旋回させながら、失速寸前の状態で水平に立て直したかと思うと、一気に急下降をかけた。

「あびゃあっあっ!」

 ルイズが涙と鼻水を撒き散らして、才人自身にも急激なGがかかるが、下降して再度立て直したときには、いつの間にかゼロ戦はリトルモアの群れの後ろについていた。

「くたばれ」

 短くつぶやいた才人はゼロ戦の七・七ミリと二十ミリ機関砲を一気に発射した。きらめく曳光弾が混ざった弾丸の雨が群れを覆い、さしもの小型円盤生物も蜂の巣にされて落ちていく。おそらくリトルモアたちには、ゼロ戦が上昇の途中で急に消えたと見えたに違いない。

「す、すごい! こんな動き、王軍の竜騎士隊だってできないわよ。い、今のどうやったの?」

「確か、ひねりこみって技さ」

 才人はガンダールヴのルーンがやり方を教えてくれた、ゼロ戦の高度戦闘技の名前を告げた。

 ひねりこみ、別名横山ターン、インメルマン・ターンともいうこれは、空中で機体の向きを入れ替えることによって旋回においての半径を劇的に少なくし、一気に敵の背後に着く空中格闘戦の必殺技だ。むろん、難易度はきわめて高く、旋回性能に優れたゼロ戦のような機体でしか使えないのだが、その威力は見てのとおりだ。

「すっごいじゃない! それも、ガンダールヴの力なの?」

「いや、空飛ぶ豚の受け売りだ」

「はぁ?」

「男の中の男の称号さ。さて、次に行くぞ」

 怪訝な顔をしているルイズをひざの上に抱いたまま、才人はまだ弾丸には余裕があると確認した。そしてシルフィードに群がっていたリトルモアを蹴散らすと、さらに兵士たちを襲おうとしてる群れへと機首を向けた。

 

 そして、王党派のかなめであるウェールズとアンリエッタの元には、特に数百羽が一気に攻撃を仕掛けてきていたが、天空から黒い槍となって襲い掛かってくるリトルモアの群れへと、恐れることなく二人は杖を向けていた。

「風のトライアングルには」

「水のトライアングルを!」

 高々と杖を掲げた王子と王女を中心として、とてつもないエネルギーを持った水と風の魔力が渦を巻いて一つになっていく。

 それは、風と水のトライアングルメイジである二人が、三つの『風』と三つの『水』を合わせて生み出す合体魔法。しかし通常はいかに息の合ったメイジ同士でも、魔法を同時に発射や混ぜ合わせることはできても合体まではさせることはできないが、二人に流れる王家の血筋がその神技、二つのトライアングルが一体となったヘクサゴンスペルを可能とする。

「全員伏せろ! 巻き添えを食うぞ!」

 六芒星の描かれた、カリーヌのカッタートルネードにも匹敵する巨大な水の竜巻が放たれる。かつてトリステン王宮の火災を消し止める際に使われた同じものは不完全であったが今回は違う。はるかに完成度と破壊力に優れたそれは、またたくまに悪魔の群れを包み込んで、圧倒的な水圧と真空波で数百の大群を数万の破片へと粉砕しつくした。

「強くなったね、アンリエッタ」

「あなたとこうして肩を並べて戦える日が来るなんて、夢のようですわ」

 一人の力は凡庸でも、強い絆で結ばれた者同士が力を合わせればその力は何十倍にも大きくなる。ワルドのように数を頼んでいるだけでは決して生まれないその力と、力強く、そして優しい笑みを浮かべているウェールズとアンリエッタの勇姿に、全軍から巨大な歓声があがったのはそのすぐ後のことであった。

 

 いまや、ワルドが起死回生を狙って放ったリトルモアも次々と落とされ、ワルド自身もカリーヌの前に、全ての偏在を破壊されて地獄の門の入り口を見始めていた。

「おのれ……こんなはずでは」

「人間を甘く見すぎたな。確かに貴様らのような力の持ち主には、人間の力などとるに足りないものに見えるだろうが、それは決して”無”ではないのだ」

「うぬぅ……」

「さて、貴様もそろそろ覚悟を決めてもらおうか、さっさとその馬鹿の体を捨てて本性を現せ。それともいっしょに粉砕してくれようか?」

「人間ごときがぁ」

 屈辱に燃えるワルドから黒いオーラが立ち上り、マイナスエネルギーが凝縮していく。超獣化かと、カリーヌは杖を構えなおし、ワルドに乗り移っていた者もそのつもりであった。だが、ワルドはふと見下ろした先に、レコン・キスタ軍の駆逐艦が浮いているのを見つけて、どす黒い笑みを浮かべて変身をやめた。

「そうだ、こうすればよかったんだ。『ライトニング・クラウド!』」

 ワルドの杖から強力な電撃が放たれる。しかしそれはカリーヌではなく眼下の駆逐艦を直撃したではないか!

「貴様、血迷ったか!?」

「ふははは! いや、私は正気ですよ。考えてみれば、最初から人間どもの争いの勝敗などどうでもよかったのだ。かくなるうえは、あの船どもを落として地上の人間どももろとも皆殺しにしてくれるわ!」

「なんだと!?」

 雷撃で大破炎上した駆逐艦は急速に墜落して、逃げ遅れた王党派の兵士や脱出できなかった船員たちもろとも砕け散る。その阿鼻叫喚のちまたに味を占めたワルドは、さらに残っていた十隻ほどのレコン・キスタ艦隊に杖を向けて魔法を放った。

「ふはは、死ね、死ね人間ども!」

「やめろ!」

 カリーヌが止める間もなく、三隻の船が燃え盛りながら、数千の兵士たちもろとも業火に包まれていく。もちろんカリーヌは止めようと攻撃を放つものの、ワルドはサタンモアからの光線や火炎弾をも含めて、レコン・キスタと王党派を地獄の業火へと突き落としていく。

「あっはっはっ! あの中で何人の人間が焼かれているんでしょうね? 悔しいかな? 私はあなたには残念ながら勝てないようだが、私も簡単には落とされない。そうして人間たちが焼け死ぬ姿を指をくわえて見ているがいい」

 カリーヌの攻撃を回避することにのみ専念し、攻撃はすべてレコン・キスタ艦隊に集中して、一隻を落とすごとに惨劇をワルドは生み出していった。

 あの炎の中で、何人の人間が故郷を、親兄弟を思い、残してきた妻や恋人、子供たちの名を呼んで息絶えていっただろう。そして、夫や父親の死を聞いて、何千何万の涙がこれから流れるのだろうか。

「外道が……」

 血を吐くような怒りの言葉がカリーヌの口から漏れたとき、レコン・キスタ艦隊は味方からの攻撃に慌てふためき、レキシントンを含むたった四隻にまで打ち減らされていた。さらにワルドの哄笑が耳朶を打ったとき、カリーヌはその素顔を覆い隠していた鉄仮面を勢いよく脱ぎ捨てた。

「ワルドぉ!」

 鬼神をも震え上がらせるであろう怒声が響き、ワルドの動きが止まった。そこには、寡黙な仮面騎士ではなく、長く伸びたブロンドの髪を風にたなびかせた壮烈にして華麗な、天空の戦女神が立っていたのだ。

「貴様は、この私を本気で怒らせた。もう後悔しても遅い……」

「ふん、な、なにを言っている」

 けれども、ワルドの声は震えていた。彼と一体化した存在は恐怖などという余計な感情は持ち合わせていなくても、ワルドの本能は人間には決して消すことのできない原始的な感情に支配されていたのだ。

 天に杖を掲げ、呪文を詠唱しはじめたカリーヌの周りの大気が渦を巻く。その渦が彼女を覆うように高速で流動を始めたときに、ワルドは風系統の最高峰の一つとして知られるスクウェアスペルの名を思い出した。

「『カッター・トルネード』か?」

「寝ぼけるな、そんな生易しいものだと思うな」

「なっ!?」

 そう聞いてワルドは戦慄した。生易しいなどとはとんでもない。カッタートルネードは世界でも使える者は数えるほどしかいない超上級魔法で、自分も元々はまだ習得していないのだ。けれども詠唱を続けるカリーヌの杖の先で、上空が見る見るうちに黒雲に覆われ、無数の稲光が舞い降りはじめる。さらに、黒雲は渦巻き、生き物のように黒色の竜巻へと変わっていくではないか。

「まさか、天候が貴様の魔力の影響を受けているというのか?」

 そんな馬鹿なことがあるはずがないと、ワルドの理性は否定する。しかし通常は、たとえスクウェアスペルといえどもカリーヌが詠唱をすることはほとんどなく、瞬時に魔法を完成させてしまうのに、今は延々と呪文が続いていることが、彼の仮説を

何よりも強く立証していた。

 ケタ違いの風と水の力が凝縮し、黒い竜巻は竜のようにうねる。そしてそこに水と風のトライアングルが重なった六芒星を囲むように風のスクウェアが刻まれた紋章を見たときに、ワルドは絶望を知った。

「ま、まさか……魔法融合を、ヘクサゴンスペルを、一人で……」

「ヘクサゴンスペルではない。『ライトニング・クラウド』の雷撃、『ウェンディ・アイシクル』の氷嵐、そして『カッター・トルネード』の真空竜巻……まだ名はないが、光栄に思え、これを人間相手に使うのは初めてだ……消し飛べ」

「まっ、待てっ!」

 命乞いは届かなかった。

 ここに、カリーヌが三十年前の修行の旅と、さらなる研鑽と戦いの末に体得した結晶がこの世に顕現し、その瞬間、初めて見せるカリーヌの全力の魔力を込めた三重融合魔法が、アルビオンの空を猛り狂った。

 

 

 続く

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