第99話
第一部最終回
ありがとう才人、異世界の思い人
ウルトラマンメビウス
ウルトラマンヒカリ
彗星怪獣 ドラコ 登場!
「金色の、ウルトラマン……」
さんさんとした太陽に照らされる真夏の草原に、もう一つの太陽が出現したかのような光芒がきらめき、漆黒の魔獣を塗りつぶすかと思えるほどに圧する。
その中心にいるのは、カラータイマーを満ち満ちたパワーを示す青に染め、幻ではないことを誇示するように力強く大地を踏みしめる、雄雄しく気高い光の戦士。
「テェーイ!」
右腕を高く天に掲げ、あふれんばかりの力をまとって立ち上がった彼の名を、知らぬものはなし、呼ばぬものはなし。
「ウルトラマンA!」
GUYSが。
「エース兄さん!」
「ウルトラマンA……」
メビウスが、ヒカリが。
「ウルトラマンA……生き返ったんだ!」
「奇跡……!?」
キュルケが、タバサが、希望の到来に表情を輝かせる。
『ウルトラマンA・グリッターバージョン』
その姿は、かつて一つの異世界を滅ぼそうと企んだ謎の暗黒卿・黒い影法師との戦いの終幕に、ウルトラマン、セブン、ジャック、メビウスと、ティガ、ダイナ、ガイアを合わせた超ウルトラ八兄弟が人々の未来を信じる思いを受け取って、超パワーアップをとげた奇跡の形態と同じ。
そして、その圧倒的なまでに強大な光の力の誕生に、闇の化身であるヤプールは驚きとまどい、ありえない現象に抗議するように叫ぶ。
「ウルトラマンA、なぜだ、なぜ蘇った! 貴様のエネルギーは完全に尽きていたはず!」
「ヤプールよ、お前が我々への怨念を糧に強大になっていくとしたら、我らもまたその闇に負けないように強くなる。貴様にはわかるまい、真に人と人とが互いを思いあい、愛し合ったときに生まれる力はな!」
うろたえるヤプールに毅然と言い放ったエースに、もはや先程までの弱弱しさは微塵も残ってはいなかった。まっすぐに前を見据え、立ちはだかる闇におびえずに、猛き姿はまさしく勇者。いや、勇者たちと呼ぶべきだろう。エースのオーラのその中にいる、まぎれもない彼らの勇姿を彼らの友は見た。
「あれは……ルイズ!」
「それに……サイト」
幻影か、実際そうなのであろうがキュルケとタバサには確かに、金色の輝きの中でエースに重なり合うようにして、二人の姿が見えていた。
「生きて、生きていたのね……」
涙が、そのつぶやきとともにキュルケのほおをつたった。タバサも、口元に明らかな喜色を浮かべて、意味不明に大騒ぎしているシルフィードをなだめながらぎゅっと杖を握っている。
二人とも、いつもはルイズや才人とは一定の距離をとっているようにも見えるが、見方を変えればそれは決して馴れ合いの関係ではなく、それぞれの踏み込んでいい領域をわきまえているからこその、本当の信頼関係といえるかもしれない。
「本当に、あなたたちといっしょにいると心臓がいくつあっても足りないわ……ねえタバサ!」
「心配する……こっちの身にもなってほしい」
今度ばかりはタバサも魂を抜かれてしまったように、腰を抜かしてキュルケに寄りかかった。シルフィードはといえば、興奮しすぎで飛び方が不安定で、この二人でなければ振り落とされているところだ。
ともかく、何が起こったについてはこれっぽっちもわからない。だが、ただ一つわかることは、あの二人が過去最高のとんでもない奇跡を引き起こしたことだ。
いや、もう一つだけ、キュルケには直感できていることがあった。それは、この奇跡を呼び起こしたであろう原動力がなんだったのか、彼女からしてみれば、長い間やきもきさせられていた、最初からわかりきっていたあの答えを……
あのとき、ドラコの足下にその命を踏みにじられたはずのルイズと才人は、その命が尽き、闇に消えていく意識の中から暖かな光に掬い上げられて、肉体のくびきを離れ、時間すら超越した不思議な空間で再会を果たし、裸になった心で向かい合っていた。
「ルイズ」
「サイト」
互いに相手の名だけを呼び合い、二人はどちらからともなく歩み寄って抱き合った。
ここにやってくるのは、ベロクロンによって命を奪われて、はじめてエースと出会ったとき以来。ただし、あのときは恐らく仮死状態でガンダールヴのルーンも残っていたのに、今度は二人とも完全に命を失ってしまった。
「わりい、おれのせいで」
「もう、そんなこと言わないで……もう一度、あなたと会えただけで充分よ」
それぞれの犯した過ちも、葛藤も、魂で触れ合った二人はすべて許容して、誇りも名誉も命さえ失ったことすら気にも止めずに再会を喜び合った。そして相手のすべてを受け入れることのできた二人には、もう余計な前置きの言葉は必要ではなかった。
「好きだ」
「好きよ」
同時に、なんの迷いも戸惑いもなくつむがれた思いが、直接相手の心に染み渡っていく。
”おれはルイズが好きだ”
”わたしは、サイトが好き”
ずっと言いたかった言葉と、聞きたかった言葉が今ここにあった。
思えば、あの召喚の日の一言から始まって、今日までの日々は二人にとってとても長かった。
「あんた誰?」
「誰って……俺は平賀才人」
本来、絶対ありえるはずもない時空を超えた出会い。しかしそれから始まった戦いと冒険の日々の中で、時にぶつかり、憎みあい、笑いあい、助け合い、喜び合い……そうして常にいっしょにいるうちに、かけがえのないものが二人の心の中に作り上げられていった。
「おれ、バカだったよ。ずっと前から、お前への気持ちには気づいてたはずなのに、お前がおれなんかを好きなはずがないって、思い込んでた……いいや、振られるのが怖くて、そう思い込もうとしてたんだ」
「サイト、それはわたしもよ。本当は、あなたのことが誰よりも一番好き。だから、誰にもあなたを渡したくない。それなのに、くだらないものに囚われて、本当の気持ちを言い出せなかった。とことんバカよね、あなたを失ってみて、ようやく素直になれたわ」
二人とも、言いたいことは山ほどあった。この半年で築き上げてきたものは、大小美醜問わずに、いっぱい過ぎるほどある。けれど、二人とも心の壁を取り払って裸で向かい合った今なら、もうこれ以上はいらない。
「サイト、一つだけ約束して」
「なんだ?」
「ずっといっしょにいて、ほかの女の子に目移りしても、どんなやっかいごとを持ち込んできてもいい。元の世界に帰らなきゃいけないなら、いつかわたしも連れて行って……もう二度とわたしを一人ぼっちにしないで」
「約束する」
間髪も入れずに返ってきた返事に、ルイズは心から満たされた気がした。いつもなら本気を疑うところだが、ここでなら才人の本当の気持ちが偽りなく感じることができる。
二人はなんだかとても切ない気持ちになって、もう一度強く抱き合った。
「ルイズ……」
「サイト、わたし……今、幸せよ」
「おれもだ……」
体温ではなく、互いを思いあう温かい心が触れ合って、才人とルイズは生まれてはじめて感じる、この上ない幸福感に包まれた。
だが、そんな彼らを突然夜闇の吹雪のような猛烈な冷気と悪寒が襲った。
「……っ!」
「この、気配は!」
白い紙を黒いインクにつけたような、一点の光さえ射さないどす黒い暗黒の意思。欲望、嫉妬、恐怖、破壊、怨念、憎悪、ありとあらゆる負の感情を混ぜ合わせたとてつもないマイナスエネルギーの波動。それが自分たちを狙って、ありえないほどの悪意と殺気を撒き散らしながらやってくる。
こんな、邪悪な気配をもつものはほかに考えられない。
「ヤプール!」
「そうか……そうね、まだ……終わってなかったのよね」
二人は、まだこの世にやらねばならないことが残っていることを思い出した。
あの日に誓った、この世界に破滅をもたらし、ありとあらゆるものから未来と幸せを奪おうとする邪悪なものたちから、この世界を守るという使命。
それはなにも、我が身を捨てて人々のために尽くすという崇高な自己犠牲の精神からではない。単純に、好きだからだ。空が、海が、山が、街並みが、そこに暮らす人々や、共に歩む友たちが、愛する人がいるこの世界が好きだから。
本当に守りたいものを見つけた今なら、何もかもが愛しく思える。人は一人だけでは生きられないように、二人だけでも幸せをつかむことはできない。人は人の間にいるからこそ人間となる。人は人から救われるだけでなく、人を救うことでも救われる。それが生きるためだけに生きる動物と、人間の違うところだ。
守りたい、戦いたいと二人は思った。
家族……ルイズの心に、母カリーヌや姉たちの顔が浮かぶ。
友……ギーシュやシエスタたち学院の仲間たち、ルイズが信じるアンリエッタ王女、才人を認めてくれたアニエスや心を通わせられたミシェル。
オスマンやコルベールら恩師、スカロンとジェシカの親子、ロングビルとティファニア、子供たちに、いつでもなんだかんだで力を貸してくれたキュルケにタバサ。
彼らを守りたい、彼らのいる世界でこそ生きていたい。
そのとき、二人を包んでいた光の空間が収縮し、やがて光の中から一人の初老に見える、茶色いジャケットを着た男性が二人の前に現れた。
「出したようだね、君たちなりの答えを」
「あなたは……?」
「僕の名は北斗星司、かつて君たちのようにウルトラマンAの力をさずかって、今はエースと一心となって戦っている者だ」
「と、いうことは……あなたは、ウルトラマンAそのものってこと?」
「そういうことだな」
二人は肉体はないはずなのに、その瞬間飛び上がるようにして驚いた。これまでウルトラマンAとは何度も会話をしたり、精神世界で会っていたりしたが、エースの人間体と、仮の姿とはいえ会うのはこれが初めてだったからだ。
今、エース、北斗星司はかつてのテンペラー星人との戦いのときに兄弟たちといっしょに地球に再訪したときと同じ、背中にウルトラ文字でエースと書かれた茶色いジャケットに身を包んで、そんな二人を温かく見守っていた。だが、やがて二人の決断を賞賛するように、ゆっくりと語り始めた。
「僕も、かつて君たちのように大切な仲間との別れを経験した。一度目は共に戦ってきたパートナーと、もう一度は地球人北斗星司としての自分に」
才人とルイズの心に、直接イメージとして、月星人であった南夕子と、ウルトラマンAとしての正体を明かしてTACの仲間たちと別れ、地球人としての自分を捨てたときの北斗の記憶が流れ込んできた。
「北斗さん……」
「君たちは、昔の僕らによく似ていた。だからあえて、君たちの判断を鈍らせないようにと、助言は控えていたんだけれど、やはり君たちは僕が見込んだとおりの人間だったよ」
「でも、あなたは使命のために自分を捨ててまで戦ったのに、わたしたちは結局自分たちを優先して……」
「ルイズくん、それは違うよ。確かに、僕と君たちの境遇は似ていたかもしれないし、僕もかつての決断を後悔したことはない。でもね、正しい答えというのは一つじゃないんだ。僕らウルトラマンは大きな力を持つが、決して神じゃない。どんなに望んでも、救えない命もあるし、届かない願いもある。そのなかで一生懸命あがいて、生きていくことこそが大切で、その結果が選ばなかった選択肢と比べて、正しかったか間違っていたかなんて、誰にもわかりはしないんだ」
あのとき、ああしていれば、こうしていれば今はもっとよかったはずに違いないと考えるのは、逃れがたい人間の性だろう。けれども、絶対の正解が用意された数式などと違って、無数に絡まりあう人間の選択に絶対の正解などはない。たとえば、車にひかれそうな子供を身を張って助けるか否かで、助けたら自分がひかれて自分の家族が悲しむ、かといって助けなかったら自分の家族は悲しまないが、子供の家族が悲しむ。この世は、そんなどうしようもない矛盾でできているのだ。
「だから君たちは、自分の選択に負い目を感じることなんかはない。僕が君たちの前にやってきたのは、ウルトラマンとしてではなくて、人間として一言だけ君たちに言っておきたいことがあったからさ」
「人間として……?」
微笑してうなずいた北斗は、二人に歩み寄ると、才人とルイズ、二人の肩をがっしりと父親のようにつかんで言った。
「今の気持ちを忘れるな。これからも、がんばれよ」
その一言で、二人は心から救われた気がした。自分たちの出した答えを、誰かに認めてもらえたということが、二人だけの孤独から人間になれたように思えた。
「はい……忘れません、絶対に!」
「わたしも、忘れるものですか」
二人の答えに、北斗は今度は満面の笑みを浮かべて笑ってくれた。
だが、同時に二人は北斗が「がんばれよ」と言った意味も噛み締めていた。
がんばれよということは、これから二人でなすべきことを指している。
そうだ、幸福な未来とは、天国に用意されているのではない、二人でがんばって、この世でこそ作り出して、そうして味わうべきものなのだ。
だからこそ、二人は願うのだ。
”力がほしい、未来を守って、いつかそれを見つけるために、戦う力が!”
だからこそ、二人は叫んで呼ぶのだ。
「もう一度、力を貸して! みんなを守る力を……エース!」
迷いのないその言葉に、北斗は満足したようにうなずくと、また光となって消えた。
そして、現実世界へ開かれた先の光景を二人は見た。
勝ち誇り、さらにその魔手をメビウスとヒカリに向けようとしているドラコの姿。そのドラコを陰から操り、二人が愛するすべてのものを踏みにじろうとしているヤプールの邪悪な意思を。
ふつふつと、二人の心に闘志が湧いてくる。
負けない、こんな奴に負けて終わるわけにはいかない!
そう思ったとき、二人の右手に輝きが灯り、中指に銀色のウルトラリングが現れた。
「ルイズ」
「サイト」
いつものように、これまでのように、二人は互いの名前を呼び合うと、一度右手を大きく後ろにそらして構えて、目と目を合わせるのと同時に、鏡に映したように完璧な呼吸で手をつないだ!
「ウルトラ・ターッチ!」
正義の光が二人を中心に輝き満ちる。この瞬間、才人とルイズは再びウルトラマンAと一心同体となって生命を復活させ、二人の心から生まれた限りないパワーを受けたエースは、邪悪を弾き飛ばし、現実世界に新たな勇姿を現す。
「サイト」
「ん?」
「生き延びましょう。そして、勝ちましょう。あんたには、まだまだ言いたいことは百や千じゃ足りないほどあるんですから!」
「合点! 万でも億でも聞いてやる。なんたって、おれとお前は?」
二人は手をつなぎ、心をつなぎ、未来をつなぐために、笑いあっていっしょに夢見たその言葉をつむぐ。
「恋人だから!」
すべてのくびきを解き放ち、自由の空の下で二人は立つ。
もうどんな鎖も二人を縛ることはできない。
何者も、笑わば笑え! 怒らば怒れ! 邪魔するならばぶっ潰す!
ルイズが好き、サイトが好き、そして愛する人のいるこの世界が好き。
何よりも尊い心の光を満たし、二人の絆が輝き光る。
その強き意志を背に受けて、ウルトラマンAはここに蘇った!
〔いくぞ! 二人とも〕
〔おおっ!〕
〔ええっ!〕
いざ、光と闇の決戦のとき。グリッターエースはヤプールの怨念の結晶と化したドラコへと挑みかかっていく。
「おのれぇ! どこまでも我らの前に立ちはだかるというかウルトラマンAめ! ならば何度でも地獄に落としてくれる。ゆけぇー! 闇の力の強大さを思い知らせるのだぁーっ!」
ヤプールも、エースへの怨念を最大限にたぎらせて勝負を受けてたった。純粋悪であるヤプールにとって、人間の光の力は決して認められないものなのだ。なればこそ、こちらも全力で迎え撃つのみ。高速でドラコの懐に飛び込んだエースの中段からのチョップが、ドラコの腹に突き刺さる。
「デヤァッ!」
巨木に突き刺さる鉄の斧のごとく、恐るべき破壊力を秘めた一撃が叩き込まれ、ドラコの体がくの字の曲がって大きく後退した。さらに間髪いれずに追撃で打ち込まれたストレートキックが、これまで一切の攻撃を寄せ付けなかった奴の外骨格をもゴムのようにへこませて炸裂し、苦悶の叫びが奴の口から漏れる。
「ヘヤッ!」
むろん、それで終わりではなく、頭一つ自分より巨大なドラコの首根っこを掴むと、背負い投げの要領で投げ飛ばし、巨体が紙のように宙を舞う。その驚愕無比の光景には、誰一人として目を離すことができない。
「すっげぇ!」
「なんて、強さなの!」
ドラコは計算上メテオールの攻撃にも耐えると算定されていたはずだ。それにやすやすとダメージを与えだしたエースにジョージとマリナがコクピットの中でガッツポーズをとり、カメラを通して戦いを見守っていた地球のフェニックスネストでも、今トリヤマ補佐官をはじめとして、新人隊員たちによる大歓声があがっている。
「イャァッ!」
起き上がってきたドラコが体勢を立て直す前に、エースは奴の巨大な腕を掴んで、バランスを崩させて下手投げを喰らわせた。激震轟き、学院の壁からレンガがこぼれ、教室の机にほこりが舞い散る。
エースは兄弟の中ではウルトラマンと並んで戦闘では投げ技を多用する。相手が重量級であればあるほど、投げられたときにその衝撃は増すからだ。
「すごい、すごいです。エース兄さん!」
「俺たちがあれほど苦戦した相手を、これが……ウルトラマンAだけが持つ力か」
メビウスが無邪気に、ヒカリが感嘆したようにつぶやく。ウルトラ戦士に数いれど、二人以上で変身をしたものは、特別な数件を除いては後にも先にもエースしかいない。かつて、北斗星司と南夕子に分離していたときは、サボテンダーのとげにエースが刺されたとき北斗の腕に傷が付き、ドラゴリーとメトロン星人Jrとの戦いでエースバリアーを使ってエネルギーを浪費しすぎてしまったときには、南が重体に陥ってしまった例から、肉体は北斗、エネルギーは南と分割されていたが、もしもリスクを分割するのではなく、二人からその力を存分に引き出すことができたら……それは、遠い世界で邪神を滅ぼした希望の光のように、誰にも想像もつかない新たなウルトラ戦士の姿なのかもしれない。
そんな、とてつもない奇跡を生み出して、今もなお戦い続ける才人とルイズに、キュルケは胸をこの上なく熱くしていた。
「いったい、今度はどんな奇跡を起こしたんだか……というか、あの二人ようやく……」
そのときキュルケは、なんとなく出来の悪い娘がやっと嫁に行った母親か姉のような気持ちにとらわれた。よくもまあ、紆余曲折というにもまどろっこしすぎる過程を経たが、どうやら無事に元の鞘に納まったらしい。
ただ、タバサはキュルケの言う意味がわからないらしく「ようやく……なに?」と、怪訝な表情をしている。
「そうね、この件に関してはあの二人があなたの先輩になっちゃったわね。でも、あなたにも必ずいつかわかる日が来るわ。そのときは、この『微熱』のキュルケ様が、手取り足取りレクチャーしてあげるからね」
さらに目を白黒させるタバサに、キュルケはまだ当分自分のやることはなくならないなと、期待を浮かばせた笑みを浮かべると、大きく息を吸い込んだ。そして、明るい未来を呼び寄せるかのように、シルフィードといっしょに声の限りに叫んだ。
「よーし、ぶっ飛ばせぇーっ!」
高く響くその声に応え、グリッターエースの猛攻は才人とルイズの闘志をそのまま現出させているかのように続く。
「ダアッ!」
助走をつけての跳び蹴りが正面から決まり、ドラコは翼を広げてこらえようとするものの、それに耐えられないくらい巨体が激しく後退する。まさしくもって、段違いの攻撃力。さらにグリッターパンチ、グリッターチョップが次々と決まって、外骨格をへこませてドラコの体内にダメージを蓄積させていく。
「いける、勝てますよ、これは!」
テッペイの叫んだとおり、グリッター化したエースの威力はドラコの防御力を完全に凌駕していた。だが、エースが光の鎧をまとうなら、ドラコにも闇の剣がある。これまで一方的にやられるだけだったドラコは、グドンを一撃で抹殺した両腕の鎌を振り上げると、二刀流でエースに反撃をかけてきた。
「ヘアッ!?」
間一髪、後ろに跳んでかわしたエースは構えを取り直して、両腕を広げて威嚇してくるドラコを睨み返した。直接食らったからわかるが、やはりあの鎌だけは危険だ。ヤプールのマイナスエネルギーを物質にまで凝縮させたといっても過言ではない密度を持っており、グリッター化した今でもあれだけは防げないだろう。
ドラコは、接近戦における絶対的なアドバンテージを確保し、攻撃を食らっても致命的なまでのダメージは受けないと余裕を持ったのか、にじりよるように向かってくる。しかし、才人は完全無欠に見えたドラコの外骨格に一点だけ、蟻の一穴が存在することを知っていた。
〔エース! 肩だ、奴の右肩におれの刺したナイフがまだ残ってる!〕
黒色のドラコの皮膚にただ一点、銀色の輝きがとどまってその存在を誇示している。あのとき、ルイズを助けるために才人が決死の覚悟で突き刺した一本のナイフが、無敵の装甲に唯一の汚点を刻み込んでいたのだ。あそこならば、攻撃が効く!
「デュワッ!」
狙うは一点、しかし本当に蟻の一穴に等しい一本のナイフを狙うには、いくらピンポイントで光線技を集中させても無理だ。けれど、金属製のナイフに、一つだけ確実に攻撃を命中させる方法がある。エースは全身に流れるエネルギーを高圧電流に変換すると、カラータイマーから天空へと向かって一気に放出した。
『タイマーボルト!』
上空に立ち上った超電撃は、一瞬にして高度数万メートルにまで達すると、電離圏のプラズマエネルギーをも吸収して、再び邪悪を砕く雷神の槌となって舞い降り、ドラコの肩に刺さったナイフめがけて落雷した!
「やった!」
雷鳴轟音天地を揺るがし、天の怒りの直撃を受けたドラコは体内へと直接送り込まれた、大都市数個分にも匹敵する莫大すぎる電撃を受けて揺らぎ、口から、鎌のすきまから、さらに全身に卵の殻がひび割れるように生じた無数の亀裂から白煙を上げて動きが止まった。
「効いた! 効いてるわよ!」
ライトニングクラウドに換算したら、数千人分に匹敵するのではと思われた今の雷撃に、キュルケは興奮して叫び、また、タバサはこの戦法にデジャヴを感じていた。
「今の攻撃……もしかして」
疑う余地もない。強固な敵の外皮を避けて体内を直接攻撃するこの戦法は、ついさっきキュルケとのコンビで自分がエレドータスを倒したあの戦法に相違なかった。
ドラコは大ダメージを受けて、目の赤い輝きを鈍らせ、翼は力なく垂れ下がっている。そう、キュルケとタバサの奮闘も、ルイズを救うためにたった一本のナイフで立ち向かっていった才人の勇気も、何一つとして無駄なものはなかった。どれも、誰が欠けていても今のこの状況はない。たとえ相手が凶悪強大な大怪獣とても、大鬼を退治した一寸法師のように知恵と勇気をもってして立ち向かえば、必ず光明は射す。
さあ、これが最後の一撃だ。
その身に込められた光の力を一つに集めて、ウルトラマンAの体が最大の輝きを放つ。
〔いくぞ二人とも、この一撃に、君たちのこれまでにつちかってきた全ての思いを込めるんだ〕
〔はい! さあて、じゃあやろうかルイズ〕
〔そうね、わたしたちの力、見せてやりましょう〕
とびっきりの笑顔をあわせ、才人とルイズはお互いへの信頼と、未来への希望、この世界の愛すべき人々への思いを全て光のエネルギーに変えてエースに渡していった。
「ヌウゥッン!」
ストリウム光線を発射する際のタロウのようにエースの体がさらに輝きを増していき、凝縮されたパワーが腕に集まっていく。
だが、パワーを集めるこの一瞬が無防備になることを悟ったドラコは両腕の鎌をひらめかせると、投てき可能なそれを二本同時にエースに向かって投げつけてきた。
「危ないっ!」
今、あれをまともに食らえばグリッター化した体を持つエースといえどもやられてしまい、エースが倒されれば、もうこちら側にドラコを倒す術はなくなってしまう。だが、ドラコの執念を込めて宙を飛んだ二本の鎌は、エースに届く前に放たれた二筋の光束によって妨げられた。
『メビュームシュート!』
『ナイトシュート!』
空中で爆発が二つ起こり、闇の鎌は粉々に砕け散って風に舞い散る。兄が限界を超えて戦っているのに傍観しているわけにはいかないと、自らもカラータイマーの示す限界を振り切って放ったメビウスとヒカリの必殺光線が、その危機を救ったのだ。
ドラコは、いやヤプールは横合いからの思わぬ邪魔に焦り、さらなる一撃を加えようと、ドラコに新しい鎌を用意させる。大丈夫だ、ウルトラマンAがエネルギーを収束しきるには、あと数秒必要だろう。メビウスとヒカリは今の攻撃でエネルギーを使いきり、もう邪魔はない。この勝負は我らの勝ちだとヤプールは確信した。
しかし、ヤプールにはなくてウルトラマンにはあるもの、それはピンチのときに助けに来てくれる仲間の存在である。
「メテオール解禁!」
ガンフェニックストライカー形態に合体し、カナードウィングを展開して金色の光に包まれたGUYSの翼が、今度はおれたちの番だと天を駆ける。
「いくぞみんな、俺たちGUYSの誇りを、やつらに見せてやれ!」
「G・I・G!」
リュウ隊長の叫びに呼応するかのように、ジョージ、マリナ、テッペイがガンフェニックストライカーと同じように心を一つにして吼える。自分たちよりずっと若い子供たちが勇気を振り絞って起こしたこの奇跡、大人がぼさっと見ていてどうするか!
フェニックスネストでもサコミズ総監が、ミサキ女史が、トリヤマ補佐官とマル秘書や新人隊員たちも、誰一人目を離す者はおらず、誰もがGUYSとウルトラマンの勝利を信じ、応援の言葉が尽きることはない。
「いっちゃえー! リュウさん」
「がんばって、リュウ隊長!」
リムを肩に乗せたコノミが、手に汗握らせたカナタが叫ぶ。
彼らの期待に応えない理由はリュウにはない。ガンフェニックストライカーは燃え上がり、GUYSの誇りを込めた一撃を、最強の不死鳥に変えて解き放った。
「エースの道を切り開け! インビンシブルフェニックス・パワーマキシマム!」
インペライザーをすら一撃で蒸発させた、GUYS最強の一撃がドラコを撃ち、赤き不死鳥の炎の翼が邪悪の魔獣を包み込んでいく。
「いまだ、いけえぇぇーっ!」
炎に包まれて動きの止まったドラコの姿にリュウが叫ぶ。
その瞬間、才人とルイズのすべての思いをエネルギーに変えたエースは、ゆっくりと上半身を左にひねると、腰のばねを使って瞬間的に引き戻し、赤熱化した両腕をL字に組んだ。
見よ、そしてその目に刻み込め。
光は解放され、エースは彼の代名詞とも呼べる必殺光線を極大化した最大・最強の一撃を撃ち放った!
『グリッター・メタリウム光線!』
金色をまとった虹色の光芒が天界の浄火の中でもだえ苦しむ悪魔に突き刺さり、怒涛の奔流となって吸い込まれていく。
「デャァァーッ!」
すべてを込めた正義の光に貫かれ、ドラコの全身にはいったひび割れが拡大し、そこから光が漏れ出していく。それなのに、なんと奴は崩れ始めた体でなおも鎌を繰り出そうともがいている。
恐るべき奴だ、これだけの攻撃を受けてなお動けるというのか!? 執念、その一言が持つ底知れぬ力が、人間たちを戦慄させた。
だが、ウルトラマンAは負けずにグリッター・メタリウム光線を撃ち続ける。
タバサの知恵、キュルケとシルフィードの勇気。
メビウスとヒカリの闘志、GUYSの誇り。
才人とルイズの愛。
そして、ここまで自分たちを連れてきてくれた大勢の人たちに支えられ、決壊したダムからほとばしる大洪水のように、ドラコに巣食う闇の力をすべて焼き尽くそうと、光は輝き、轟き穿つ!
「消えろヤプール! 人間は、決してお前などに負けはしない!」
「おぉのれぇ覚えていろぉーウルトラマンAめ! 我らの復讐はまだ始まったばかりだということを! いずれ必ずこの世界の人間どもごと滅ぼしてくれるからなぁーっ!」
その瞬間、ヤプールの怨念に満ちた叫びとドラコの断末魔がこだまし、闇の力が生み出した最強の魔獣は、光の中へと溶け込んでいくように崩壊して、ついで混在した光と闇の力の融合によって生まれた強大なエネルギーが解放された。天地を揺るがす大爆発。ドラコは塵一つも残さずに消し飛び、超衝撃波が全方位に向けて解き放たれた!
「うぁぁっ!?」
猛烈な粉塵が周囲に広がり、半壊していた学院の城壁は崩れ落ち、窓ガラスは叩き割れ、突風にあおられて何も見えなくなったことで、シルフィードは木の葉のようにもまれて、はるか上空まで飛ばされた。
「やっ……た?」
「の……ね?」
白煙がたなびき、ようやく体勢を立て直したシルフィードは、学院を見下ろせる高度でホバリングしているガンフェニックスと並んで、煙に覆いつくされた地上を見つめていた。
”勝った……のか?”
キュルケたちも、リュウたちも息を呑んで、濃霧のような白煙に包まれて何も見えない地上の、戦いの結末がどうなったのかを見守った。あの瞬間、ドラコが吹き飛んだのは瞬間的に見えたが……あの爆発に巻き込まれて、まさか……
そのとき一陣の風が吹き、煙を吹き払った。
「あれは!」
「あっ!」
「おっしゃあ!」
瞬間、今度こそ誰にもはばかることのない、完全全員参加の大歓声が青空に響き渡った。
「シュワッ!」
大地にしっかりと足を踏みしめて、ウルトラマンAが元通りの銀色の巨体を悠然と煙の中から現したとき、長きにわたるハルケギニアでのヤプールとの戦いは、その第一幕においてウルトラ戦士たちの完全勝利に終わったのだった。
「エース兄さん」
「やったな、さすがは栄光のウルトラ兄弟だ」
メビウスも、ヒカリももちろん無事だ。学院も、校門側の外壁が大破しているものの、校舎や寮など主要施設は問題ない。
これで、溜め込んだマイナスエネルギーを使い切ったヤプールは当分の間大規模な行動を起こすことはできないだろう。むろん、配下の宇宙人を使った破壊工作の可能性はあるが、今回のドラコのような強力な怪獣や超獣は、一ヶ月か二ヶ月か、作り出すことは不可能に違いない。
〔終わったんだな、これで〕
〔ああ、見事だった。君たちの絆が、ヤプールの邪悪な意思を打ち砕いたんだ〕
〔わたしたちが、そう……わたしたちが勝ったんだ!〕
かりそめのものとはいえ、平和を自分たちの手で守り抜いたという実感が、爽快な達成感となって才人とルイズの胸を吹き抜けていった。
だが、勝利は同時に別れのときでもあった。
「リュウさん! ゲート封鎖まであと六分です。急がないと間に合わなくなります!」
「よし、進路反転百八十度! いくぞ!」
タイムリミットの迫る中で、勝利を見届けたGUYSはガンフェニックスを全速で飛ばして、ハルケギニアの空に別れを告げていった。
「エース兄さん……」
「急げメビウス、間に合わなくなるぞ」
エースは、よろめきながら立ち上がったメビウスにエネルギーを与えて回復させると、早くガンフェニックスの後を追うようにうながした。
「兄さん」
「心配するな、この世界のことは私にまかせろ。お前には、お前にしかできない使命があるだろう」
エースには、なぜガンフェニックスが振り返りもせずに飛び去っていったのか、リュウたちの心のうちを知っていた。
「ふっ、本当に心配はいらないぞ。今の私は、これまでよりも強いし、何よりも一人ではない」
そうだ、迷いを断ち切った才人とルイズがいる限り、エースが力を失うことはもう二度とないに違いない。それがわかっているから、リュウも声をかけることを一考だにしなかったのだ。
「兄さん……はい、わかりました!」
「うむ、頼んだぞ。三ヵ月後、必ずまた迎えに来い」
「必ず……必ずまたやってきます! ヒカリも、お元気で」
「ああ、任せておけ。さあ、急げ!」
「G・I・G! ショワッチ!」
この世界の命運をエースとヒカリにゆだね、メビウスは地球へ、光の国へと帰還するために、ガンフェニックスのあとを追って飛び立っていった。
戦いは終わった。
「ヘアッ!」
「デュワッ!」
全てが終わり、役目を果たしたエースとヒカリは、メビウスを見送ると光の輪の中で体を収縮し、変身を解除した。
「ふぅ……終わったな」
やたらとだだっ広い学院の前の草原の、学院正門前で人間の姿に戻った才人は、平穏を取り戻した空を見渡して、大きく深呼吸をすると満足したようにつぶやいた。
考えてみれば、この世界で初めて変身して戦ったのもこの学院前だった。ベロクロンに破壊される寸前だった学院を守るために最初の変身をして、いままた同じ理由で戦って、ここを守りぬけた。
けれど、ルイズにとってはそんなことよりも、今手に入れたささやかな幸せのほうが大切だった。
「サイト……」
「おっ……ただいま、ルイズ」
何気なくルイズの呼びかけに反応した才人は、胸の中に飛び込んできた彼女の体を最初は優しく、やがて強く抱きしめた。
「サイト……わたし、わたし……」
「もう何も言うな、おれは全部ひっくるめて受け入れるつもりで、ここに残ったんだ」
地球への未練は、そりゃ山のようにあるが、それでも守りたいものがあることを、才人はようやくと理解したのだった。
「サイト……」
「ん?」
「ありがとう」
「なんだ、柄でもねえな。そんな腰の低いご主人様がいるかよ……おっと、もう使い魔のルーンはないんだっけか」
蘇生したとはいえ、一度なくしたガンダールヴのルーンは消えたままだった。できた当時はうっとおしくて仕方がなかったが、無ければ無いで妙な喪失感が残っていた。メイジと使い魔、それがこれまでの二人の関係で、あのルーンこそがそれの証明であったのに。
けれどもう一度契約すればいいかと言うと、ルイズは迷わずにかぶりを振った。
「そんなもの、なくていいわよ。あんたは使い魔で、わたしは主人、そう言ってずっと自分をごまかしてきたんだもの」
「でも、あれがないとおれはほんとにただの平民になっちまうぜ。それなりに強かったのも、ガンダールヴのおかげだったんだし……」
「だったら、自分で鍛えるなりなんなり考えなさいよ。ともかく、ガンダールヴ目当てで、あんたとその……するなんて、冗談じゃないわ!」
「あん? なんだって」
「だ、だからあ……もう、き、今日だけだからね!」
「なにを? ぬ、うぐっ!?」
よく聞こえなかったので、才人は腰を落としてルイズの顔を覗き込もうとしたところで、ルイズの両手で頭をつかまれて、そのまま唇にルイズの唇を押し当てられた。
「!? う、ぅ……う?」
「ひ、ひいから、ひょっと、だまってなはい!」
パニックに陥っている才人の頭を力づくで押さえ込んで、ルイズはそのままたっぷり五秒ほど口づけをして、やっと才人を離した。
「なっ、ななな! お前、急に何を!」
「ううう、うるさいうるさいうるさい! この鈍感、大バカ犬! 使い魔の契約をするってことは、それはそのままわたしとキスするってことじゃない! それをなんでもなさそうに、再契約すりゃいいじゃないかって、バカバカバカ!」
「あっ! ご、ごめん」
才人は言われてようやく、使い魔の契約にはメイジと使い魔の口付けが必要であることを思い出した。まったくバカもここに極まれり、これが相手が動物や幻獣とかなら特に問題はないが、ルイズも才人を男性と意識するようになったからにはそれは特別な意味を持つ。才人は地球でなんで自分が一度たりともバレンタインでチョコをもらったことがなかったのかという理由を、やっとこさ理解した。
「でも……これで、あげたからね」
「え? なにを?」
「こ、この……わ、わたしの……ファーストキスに決まってるじゃない!」
「い、ええーっ!」
「最初の使い魔の契約のときは、ノーカンよノーカン! ちっとはムードってものを考えなさいよね!」
そう言われると、ルイズのはじめてをもらったという実感が湧いてきて、いまさらながら才人は顔をおおいに赤らめた。本当にどこまでもなさけの無い男である。しかも、ルイズはそんな才人のふがいなさにさらに怒りをつのらせたのか、これまでずっと溜めに溜めてきたうっぷんをここぞとばかりに吐き出していった。
「ほんとに、あんたって、あんたって、どこまでわたしを怒らせれば気がすむのよ! わたしの気も知らないで、ほかの女の子とイチャイチャしたり、人をほっぽってどっかに行っちゃったり、あげくの果てに女の子にとってファーストキスがどれだけ大切なものかも知らないで、バカーッ!」
しだいに涙目になりながらまくしたてるルイズを前にして、けれど才人は今度こそ女心に対する選択を誤らなかった。感情の塊となったルイズに弁明を講じたりはせず、彼女の体を強引に引き寄せて、困惑と抗議の声がその桜色の唇から漏れ出す前に、自らの唇を使って封じたのである。
「ぅ!? うぅーっ!」
暴れるルイズを、今度は才人が押さえる番だった。左手でルイズの華奢な体を、右手で最高級のビロードのように滑らかな彼女の髪を押さえて、互いの唇の感触を味わい続けて、一秒、二秒と長くて熱い時間が過ぎていく中で、しだいにルイズの体から力が抜けていった。
そうして、たっぷり十秒ほど一つになった感触を味わったあとで、静かに力を抜いてルイズを離した才人は、そのとび色の瞳をじっと見つめると、胸を張って言った。
「セカンドキス、一回目は誓いだけど、二回目はその履行だ。これからは、おれがおれの力でお前を守る。お前は……おれだけのものだからな!」
「サイト……ばか」
ルイズは涙をぬぐって、才人の胸に顔をうずめた。やっと、望んでいたものを得られた幸福感、満たされていく温かさが、ルイズの顔を赤ん坊のように、純粋で優しいものに変えていた。
と、二人の世界にひたっていたそこで、空の上から底抜けに軽く明るい声が響いてきた。
「ヒューヒュー、お熱いじゃない、お二人さん!」
はっとして空を見上げると、そこにはシルフィードが急速に降下してきていて、慌てて離れた二人の前に下りたその背から、キュルケとタバサが笑いながら降りてきた。
「キ、キュルケ、こ、これは」
「あ、一部始終見てたから、無駄な抵抗しないでね。ともかく、おめでとうね。結婚式にはちゃんと呼んでね。それから、子作りは二十を超えてからしたほうがいいわよ。あとで苦労するからね」
言葉にならない悲鳴をあごをけいれんさせて、顔を真っ赤にして叫ぶ二人に、キュルケは過去最大の笑みを浮かべて祝福するのだった。
「よ、よりにもって、ツェルプストーなんかに見られてたなんてぇー!」
「なーによ、あたしじゃ仲人に不足だっていうの? もう気持ちを隠さないんじゃなかったの? でも、まあいいわ。ルイズ、サイト……いえ、ウルトラマンA」
「えっ……!?」
絶句して、赤から一転して二人は顔を青ざめさせた。そうだ、一部始終を見ていたということは、ドラコに二人まとめて踏み潰されたときから、変身解除のときまで、つまりこれまで守り抜いてきた二人の秘密がばれたということになる。
けれどそんな二人にキュルケは表情を引き締めると、軽く深呼吸をしてから声をかけた。
「心配しなくても、誰にも言いはしないわよ。わたしたちはこれでも口は堅いんだから、でも、正直驚いたわ」
「ごめん、今まで黙ってて……」
「いいわよ、込み入った事情は聞かないけど、あなたたちはあなたたちで変わらないじゃない。けど、これまでずっと二人だけで戦ってたのね。それに引き換えわたしなんか、あなたたちを守ってあげてるつもりが、いつも守られてたのはこっちだったのよね。まったく、いい道化だわ」
「そんな、二人には何度も助けてもらったし、おれたちほんと感謝してるんだぜ。なあルイズ」
「う……まあ、山のように借りができちゃってるってのは自覚してるわよ。けどね、ツェルプストーの女なんかに神妙面されたら、気分悪いからやめてよね」
才人もルイズも、英雄面なんかする気はなかったし、こうして特別扱いされて、友達が友達でなくなっていくのが怖かった。しかしキュルケはそんな二人の焦った顔を見ると、一転して破顔して、二人の肩を何度も叩いた。
「あっはっはっ、なーんてね。やっぱり、あなたたちはあなたたちだったわね。ねえタバサ」
「下手な芝居……でも、ほっとした」
どうやら二人も、二人の姿が偽ったもので、本当の人格は違うものではないのかと心配していたようだが、それが違っているとわかると、とたんに安心したようだった。
「お、脅かすなよ、もう」
「ごめんごめん。でも、サイトも思い切ったものね。これで、次に帰れるチャンスは早くて三ヵ月後ね。お母様方、大丈夫?」
「……」
確かに、覚悟を決めたとはいえ、才人にとってそれだけは気がかりだった。三ヶ月といえばあっという間に思えるが、息子を失った悲しみにふるえる両親にとって、それははるかに長い時間に違いない。もしも、失望のあまりにはやまった行為に走られたらと思うと、才人の肝は冷えた。
と、そこへウルトラマンヒカリ=セリザワがやってきて、才人に話しかけた。
「優柔不断も、少しは治ったようだな。今度は、握った手を二度と離すんじゃないぞ」
「あ、はい!」
セリザワの無骨な祝福に触れて、才人とルイズはまた顔を赤くした。けれど、両親を忘れるということができるはずがない才人の心のしこりも、同時に察していたセリザワは、リュウから受け取っていた二つのアタッシュケースのうちの、開けないでおいた一つを才人に投げてよこした。
「受け取れ」
「うわっ!? な、なんですか?」
慌てて、そのジュラルミン製のアタッシュケースを、才人はケースの重みによろめきながらも受け取った。そうして、いきなりなんですかとセリザワに尋ねようとしたが、「いいから開けてみろ、鍵はかかっていない」というセリザワの言葉に、恐る恐る止め具を外して、ふたを開けてみた。
「っ! これは」
そこに入っていたものを見て才人は目を見開いた。
ケースのスペースに所狭しと収められていたのは、GUYSメモリーディスプレイに、背中にGUYSの翼のエンブレムが描かれた隊員服、しかもメモリーディスプレイには白い文字で、平賀才人と刻まれているではないか。
「セリザワさん、これは!?」
「見てのとおり、お前のものだ。手にとってみろ」
「は、はい……」
心臓の鼓動を抑えながら、才人は自分の名前が掘り込まれたメモリーディスプレイをケースから取り出した。その重量感と、金属とプラスチックの質感は間違いなく本物で、思わず喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。
すると、いきなり無線受信を示すアラームが鳴り出し、慌ててそれらしいスイッチを押すと、そこにリュウ隊長の顔が映し出された。
「よお、俺たちは今ゲートを通ってるところだ。やっぱり残ったんだな」
「ええ、申し訳ありません……」
「謝る必要なんかねえよ。お前、自分の選択に後悔してねえんだろ? 顔を見ればわかるぜ。なあ、みんな」
「ああ、男らしく精悍な顔つきになった。あのとき、ガンローダーから飛び出ていったときは見事だったぜ、アミーゴ」
「がんばりましたね。ウルトラマンAが、君たちを選んだわけもわかります」
「サイトくん、きっちり男の責任はとらなくちゃだめよ。女の子を不幸にする男なんて、最低だからね」
リュウに続いて、ジョージ、テッペイ、マリナもディスプレイに現れて、それぞれ才人の選択を認めて、激励してくれた。そして、彼らの後ろからは、損傷を負ったガンフェニックストライカーを後押しするメビウスが、同じように無言でうなずき、才人は彼らの優しさに目じりが熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます。それで、ひとつだけお願いがあるんですが……」
「わかってる、ご両親のことだろう?」
才人は黙ってうなずいた。
「そう言うと思ったよ。けどな、一時をしのいだとしても、また三ヵ月後に同じことをしなければならねえぜ。いつまでも、お袋さんたちをほっとくわけには」
「はい……」
そう、結論を先送りにしても、いつか地球に戻らなければならないことには変わりなく、あくまで一般人である才人は、ヤプールとの戦いが終わったとしたら、必ず地球に永住しなければならないだろう。だけれど、才人のそんな苦悩を見抜いたリュウは不敵に笑ってのけた。
「ふっふっふ、おい、なんのためにお前にそいつをわざわざ用意していったと思ってるんだ? 中身をよーく見てみろ」
「えっ……これは」
才人は言われて、GUYSジャケットの下をまさぐって、そこから出てきたものを見て二度びっくりした。
「『よくわかるGUYSライセンス試験過去問題500』『地球のために、地球防衛軍入隊への道』『新訳、宇宙の中の地球人』……それに、航空機操作シミュレーションソフト!?」
なんと、それらの参考書や資料集、ほかにも才人のパソコンで使える防衛軍戦闘機のシミュレーションソフトや外付けジョイスティック、予備バッテリーやソーラー充電器までもが備え付けられていたのだ。
「ふふふ、一般人じゃあ無理なら、問題なく二つの世界を行き来できる資格と立場を持てばいいだろ? お前も、聞けばもうすぐ十八歳、GUYSライセンスを持つには文句のない年齢だ」
「てことは……おれに、GUYSに入れと?」
「ほかに何があるってんだ? 俺たちだって、お前とたいして変わらない歳のときに試験を受けたんだ。無理難題は言ってねえぞ。それとも、俺たちの仲間になるのは嫌か?」
「そ、そんな! とんでもないです。おれは……」
嫌なはずはなかった。小さいころからウルトラマンに憧れ、親や友達から怪獣バカと言われながらも、怪獣図鑑を読み漁ってきた才人にとって、GUYSは憧れの職業No.1であった。しかし、両親からは危険な職業だし、お前みたいな軟弱な奴がつとまるはずはないと反対されてきて、なかばあきらめていた。あきらめていた、そのときまでは。
「なります! GUYSライセンス試験、受けさせてください!」
今、その眠っていた情熱に火がついた。正式な地球防衛軍の隊員になれば、任務をおびて二つの世界を自由に行き来することもできるだろう。そうなれば、その任務はハルケギニアで長期滞在していた自分こそがふさわしいに違いない。
「よく言った! ただし、試験は三ヵ月後にきっちりおこなうから、間違っても落第すんじゃねえぞ!」
「あっ、はいっ! いえ、G・I・G!」
下手な敬礼をしながら、慌てて答える未来の後輩に、リュウだけでなくジョージたちもそれぞれのコクピットで失笑を禁じえなかった。
「頑張れよ。じゃあ、CREW GUYS JAPAN隊長として、三ヶ月間、平賀才人をGUYS特別隊員として認め、メモリーディスプレイ一式を貸与するものとする。それまでのあいだ、ウルトラマンとともに世界の平和を守ることに勤め、正隊員となる研鑽を怠らないこと、この二点を命令する。わかったか!」
「G・I・G!」
そのころ、フェニックスネストではコノミやカナタたちが後輩ができたことに喜び、サコミズ総監が、時代の流れが移り変わっていくものを感じていた。ウルトラ兄弟からメビウスへ、セリザワからサコミズ、リュウからカナタへ、そして今度は才人が未来の宇宙の平和を背負って立つことになるのかもしれない。
「それじゃあ、またな。ご両親のことは任せておけ、まあなんとか説得しておくぜ」
「よろしく……お願いします」
言ってしまえば、自分の代わりに両親に叱られてくれと言っているようなものだから、心苦しいが才人はせめて頭を下げて頼み込んだ。ただし、リュウが説得にあたるということについてはマリナやジョージの大反対を呼び、結局サコミズ総監やミライも同伴するということにはなった。どうやら、リュウが隊長として全幅の信頼を寄せられるようになるには、まだまだ経験と実績が必要らしい。
「じゃあ今度こそ、元気でな。また会おうぜ」
最後に、通信はリュウ隊長以下、GUYSクルー全員とウルトラマンメビウスのGOサインで、切れて終わった。
「おれが……GUYSに……」
通信が切れたあとで、才人は春の夢を見ていたときのように呆けて空を見上げていた。彼にとって、あこがれはしてきたが手の届かないものとあきらめていた夢が、今手の届く場所にある。小さいころからなりたいと思っていたウルトラマンといっしょに戦える仕事が……
そして、話を横から聞いていたルイズたちも、才人が向こうとこちらを自由に行き来することができるようになるかもしれないということに、快哉を叫んでいた。
「やったじゃない! なんだかわからないけど、ようするに竜騎士隊に入れるようなものでしょう! シュヴァリエなんて目じゃないじゃない」
「ほんと!? そりゃとんでもない出世じゃない、サイトって、やっぱりすごい奴だったのね!」
あながち当たらずとも遠からずなルイズとキュルケの喜びように、照れくさい感じを味わいながらも才人はうれしく思った。
けれど、道は決して平坦ではない。GUYSライセンスは一六歳になれば誰でも取得できる免許だが、数年前の怪獣頻出期から二十五年経って就職に有利な資格としてしか思われていなかったころと違って、怪獣の出現が当然のようになった今では合格基準も跳ね上がっており、しかも受験勉強の期間は三ヶ月しかない。なのに、今の才人は中学高校の期末試験などとは比較にならないほどのやる気に燃えていた。
「ふっ……やってやろうじゃあねえかあ!」
ケースの中のGUYSメモリーディスプレイや隊員服を見れば見るほど、エネルギーが心の中に満ち満ちてくる。そこにはトライガーショットなど武器こそ入っていないが、GUYSの隊員として必要なものがそろっており、合格したら晴れてそれらは自分のものになる上に、なによりルイズとも両親とも別れる必要はなくなるのだ。
そうして、いつかはルイズを連れて家に紹介しに行こう。そのときに、両親は喜んでくれるだろうか? 才人は時計を見下ろして時刻を確認した。もうゲートは人間が通れるほどの大きさではなくなっているだろうが、完全に閉じてしまうまでにはあと十分ほどは猶予があるだろう。
「……やっておくか」
少し考えると、持ち帰る予定だった荷物を詰めていたリュックから、才人は自分のノートパソコンを取り出した。リュック自体はドラコに振り落とされたときに才人といっしょに叩きつけられたが、運がいいのか悪いのか、こちらは開かないままだったパラシュートがクッションになって無傷ですんでいた。彼は切れていたバッテリーをアタッシュケースから取り出した新品に交換して電源を入れると、タッチマウスを使って急いでメインメニューからクリックを繰り返して、やがて思い出すようにキーボードを叩いていった。
「サイト、なにやってるの?」
「わり、ちょっとだけ話しかけないでくれ」
覗き込んでくるルイズたちにはかまわずに、才人は画面の右下に表示された時刻を気にしながら、額に汗を浮かべながらキータッチを続けて、やがて画面いっぱいにテキストが埋まったのを確認すると、大きく息を吸い込んでエンターキーを叩いた。
「送信確認……完了」
そう才人がつぶやいた瞬間、画面に「ネットワーク回線が切断されました」と警告メッセージが表示されて、彼はパソコンをシャットダウンすると、折りたたんでリュックの中にしまった。
「サイト?」
「ああ、心配ない。こっちのことだ」
小さいが、自分にできることはすべてやった。あとは、これからの未来を見据えて歩き出していく番だ。と、その前に……
「さーて、と……暴れるだけ暴れたら腹減ったな、昼メシにすっか」
振り返って背伸びをし、緊張を吐き出すようにのんきに言った言葉が、抗議の台詞よりも早く一同の腹の虫を鳴らさせた。
「そういえば、くったびれたわねえ」
「あれだけやれば当然よ。ちょっと早いけど、ランチにしましょうか」
時計を見てみれば、なんとまだ午前十時にすらなっていなかった。GUYSの到着が九時だったことを考えると……驚いたことに、あれから一時間も経ってない。だが、ルイズたちが貴族にあるまじきくらいにでっかい腹のなる音に苦笑して、学院に向かって歩き出そうとしたとき、どこからともなくよく聞きなれた低い男の声が軽快な金属音とともに響いてきた。
「おーい相棒! 俺のことを忘れちゃいねえかぁー!?」
「んっ!? あ、デルフ!」
見ると、ちょっと離れた場所にデルフリンガーが突き刺さっていたので、才人は慌てて駆け寄ると、埋もれかかっていたところから引っこ抜いた。
「ふぃー、危なかったぜ、娘っこときたら、俺っちをほっといて変身すんだからな。おかげで吹き飛ばされるわ、生き埋めにされかかるわ、ほんと死ぬかと思ったぜ」
「あ、ご、ごめん忘れてた」
「やーれやれ……こりゃほんと、娘っこに預けられたまんまだったらどうなってたことか、やっぱり相棒の手元が一番だぜ」
「ああ、またよろしく頼むぜ、相棒」
才人は微笑を浮かべてデルフを背負うと皮ベルトを締めた。この重さがしっくりとくるのも、なにか懐かしいものだ。
もっともあらためて周りを見渡してみたら……
「しっかし、こりゃギーシュたちが戻ってきたら腰を抜かすかもしれないな……」
戦場跡となった学院は、外壁は倒壊し、草原は掘り返されてクレーターだらけで、さらに怪獣の死骸まで転がっているとんでもない状態だった。才人は、これはオスマン学院長が脳溢血でもおこさなければいいがと思った。
「まあ、校舎は無事だし、授業に支障はないからなんとかなるんじゃない」
「お前はずいぶんお気楽だなあ」
「今のわたしは、もう校舎なんかどーでもいいのよ。もっと大切なもの、見つけたからね」
心から幸せそうなルイズの顔を見ると、才人も自然と幸せな気持ちになれた。
「ま、世の中なるようになるか。ところで、夏休みはあと半分も残ってるけど、これからどうする?」
「そうね、わたしの実家に帰りましょう。お母さまやお姉さまも、この時期はいったんは帰省してるはずだから、顔を見せにいかないとね」
「ルイズの実家か、けどあの怖そうな人たちがいるのか」
才人は以前見たカリーヌとエレオノールの威圧感を思い出して憂鬱になったが、ルイズは軽く笑うと胸を張った。
「なによ、あんたわたしのこと好きなんでしょ。だったら、いずれヴァリエールの血に連なる者になるって事よ。遅かれ早かれあんたのことは紹介しなきゃならないんだから覚悟なさい」
「へぇーい」
前途多難、せっかく生き返ったのに、早くもまた命の心配をしなければならないとは。しかしルイズの言うとおりに、いつかはしなければいけないことなら、仕方がない。まあ、いきなり娘さんをくださいと言いに行くわけではないし、とりあえずは顔見せか。
「よし、じゃあ明日さっそく出発するか。ところで、キュルケやタバサはどうするんだ?」
「心配しなくても、せっかくの婚前旅行を邪魔する気はないわよ。わたしも、一度実家に帰ることにするわ。ちょっと疲れちゃった」
「わたしは……ガリアに、会いたい人がいるから」
二人とも、新学期までの一時の別れを告げて、これで山あり谷あり、いろいろあった夏休みの旅行は、本当の意味で終わったのだった。
「いよっーし! それだったら今晩は盛大に宴会やろうぜ、食堂の食い物がなくなるくらいにな。酒の肴の思い出話も売るほどあるし、学院長も呼んで、セリザワさんもいっしょにどうです?」
「まあ、たまにはいいだろう。ご相伴にあずかろう」
「おっ! そりゃいいわね、にぎやかなのは大好きよ。タバサも、今日は付き合いなさいよ」
「……まあ、いいか」
「きゅいーっ、お姉さま、それでいいのね。お祭りを蹴るなんて、竜でも一番やっちゃいけないことなのね」
「はぁ、あなたたち、もっと貴族のつつしみというものを……ま、いっか」
「よっしゃあ、じゃあ善は急げだ。今日は、魔法学院はおれたちだけのものだぜぇ!」
「おおーっ!」
青空に若者たちの元気よい声が響き渡り、暖かな風に背を押されて彼らは学び舎へと駆けていく。
未来のCREW GUYS隊員、平賀才人。その手の中のノートパソコンには、彼のこれからの未来への架け橋と、彼の故郷と家族へ愛情のすべてを込めて当てたメールが、決して消えないように記録されている。
”母さんへ。
驚くと思うけど、才人です。黙って家を出て、ほんとにごめんなさい。
いや、ほんとは黙って出たわけじゃないけど、詳しく言うと長くなりすぎるし、時間がないんでそういうことにしておきます。とにかく、ごめんなさい。
メール、ありがとう。
心配してくれてありがとう。ハンバーグ、食べたかったです。
おれは無事です。
無事ですから、安心してください。
おれは今、地球とは別の次元にある星にいます。
うそだと思うだろうけど、本当のことです。
友達も大勢います。宇宙人、になるのかもしれないけど、みんないい奴ばっかりです。
だけど、ここは異次元人ヤプールに狙われていて、今大変なことになっています。
そして、おれの力が必要なんです。
だから、まだ帰れません。
でも、いつか帰ります。
お土産を持って帰ります。
だから、心配しないでもう少しだけ待っていてください。
父さんやみんなに、よろしく伝えてください。
とりとめなくてごめんなさい、あと数分しかないもんで。
母さんありがとう。
ほんとに、ありがとう。
あ、それからおれ、将来なりたいものが決まりました。おれ、地球に帰ったらGUYSライセンスをとって、将来は地球や宇宙の平和を守る仕事につきたいです。
それと……ガールフレンドができました。ちょっとキツいけど、けっこうかわいいから、今度紹介しますね。
じゃあ、さようなら。
けっこう大変だけど、おれは幸せです。
それでは、また。平賀才人”
ウルトラ5番目の使い魔 It is not the End