売れないミュージシャンの男がONE PIECE世界で歌を歌う話。
それによって、本来亡くなる人の運命が変わるかもしれない。
映画を観て衝動的に書いた自己満足作品ですが、もし良かったらご覧ください。
多分これが1番早いと思います。
俺は20代の売れないミュージシャンだ。
歌手として大成したいのだが、俺が歌うと、「まるでジャイ●ンみたいだな(直喩)」とよく言われる。
いや、そこまでじゃないだろがい!
幸い、中坊の時から鍛えに鍛えているギターの腕のおかげで、バンドのヘルプやレコーディングでなんとか食っている。
中二の時に27クラブに憧れて、『楽しんだもの勝ち』を座右の銘にしてここまで音楽一筋で突っ走ってきたが、正直、未来の希望は真っ暗だ。
この道に後悔はないが、ふと生まれた意義を考え不安になる事がある。
俺も何か伝説を残すようなビックな存在になりたい。
とはいえ現実の俺は貧乏生活で節制と自炊ばかり上達する一方だ。
今日も最寄りではないが歩いていける距離のスーパーへ赴き、特売品の野菜をGETしてきた所だ。
それで飯を食って、寝る前に日課のギターの手入れを行っていたのだが……、気がつけば辺り一面が真っ白の空間にぽつんと立っていた。
……なんだここ?夢…?だとしたらこれが明晰夢ってやつか。はじめて見たな。
そんな風に思っていると、いつの間にか目の前に、光るシルエットのような人物が現れていた。
俺が驚いていると、そのモザイクがかったその人物は「力が欲しいか」と尋ねてきた。
俺はせっかくの明晰夢ならば乗ってみるのも一興だな、と思い「歌の力が欲しい!」と答えた。
そうすると、そのシルエットは「よかろう。それではこれを食すがよい。」と言って、俺の口の中に無理やりクソマズイ果実をねじ込んできた。
「!!……ペッ!ゲホッゲホッ……。マッズ!何だよこれ!
……お前、俺の夢の中の存在のクセに何しやがる!」
俺が怒鳴ると、そのモザイク野郎は「願いは叶えた。それではその力が発揮できる世界へ届けてやろう。」と言った。
その瞬間、世界が眩しく輝き、つい目を閉じてしまった。
そして再び目を開けた時には、そこはもう白い空間でも、俺の部屋でもなかった。
見たことのない建物、洋服、人種。
言葉は日本語に聞こえるが、看板等の文字は日本語ではない。
そうして周りをボケッと見回していると、唐突に激しい頭痛を感じた。
これが夢だったならば、すぐ目が覚めるであろう激痛だ。
俺は必死に歯を食いしばって耐えた。
どれだけ時間が経ったのか、あるいは5分もかかっていなかったのかもしれない。
痛みが引いた頃には、俺の中に知らない知識がインストールされていた。
ここは西の海の○○という名前の島だ。
地球の日本ではない。
どうやら俺は異世界にギターだけを持って転移させられたらしい。
(°д°)…マジデ?
(°д°)スッ...[ギター]
[ギター](°д°)ジャラーン♪
1週間が経過した。
俺は路上でギターを弾き、食糧を恵んで貰う事でなんとか生活していた。
幸い、この島は治安も気候もよく、危険な生物もいないようで、野宿してもなんとかなった。
とはいえ、最初は俺の服装(寝る前だったのでジャージを着ていた)もあって物珍しさから演奏を聞きに来てくれていた住民達も、次第に飽きてきたのか客足が遠退くようになってしまった。
……ギターの演奏が受けたことで調子に乗って、歌を披露したことは関係ないはずだ。
それまでギターテクに聞き入っていた観客が歌を聞いた瞬間に耳を抑えて叫びながら気絶していったが……、決して関係ないったら関係ないのだ!!
……異世界でも俺の歌ってジ●イアンなの?
そうして頭を抱えていると、金髪に釣り目、右目の下とアゴには「F」のような入れ墨が入っている男が話しかけてきた。
「お前、音楽家か?おれに何か演奏を聴かせてくれよ!」
その男は初めて見る顔だったが(そもそも知った顔の方が少ない)、なんとなく島の住人とは違う雰囲気を感じた。
「あはは、いいぜ。代わりに俺の演奏をいいなと思ったら何か食い物でもくれよ。」
そして俺はギターを弾いた。
今日はまだ何も食っていなくて、何か恵んで貰えないと死活問題なので、歌も封印して必死で演奏した。
我ながらいい出来だったと思う。
連日の疲労もあったが、逆にそれで研ぎ澄まされてハイになっていたのか、魂のこもった演奏が出来た。
案外俺も捨てたもんじゃないな。
そう思っていると、その男は目を輝かせてこう言った。
「スゴいなァ!!……決めた!お前、おれの船に乗れよ!仲間になってくれ!!
おれの名前はヨーキ。泣く子も笑うルンバー海賊団の船長だぜ!!!」
俺は突然の勧誘に少々面食らったが、地球でも俺の演奏を聞いた奴によくあるリアクションだったので、その場で即OKした。
どうせ行く当ても帰る場所もない。
なるようになるさ。
ヨーキ船長に紹介されたルンバー海賊団のメンバーはどれも皆気のいい奴らだった。
相当小汚なかったであろう俺の身寄りを気にすることもなく、ただ船長が連れてきたなら問題ないと歓迎してくれた。
この海賊団はヨーキ船長が音楽好きだけを集めて旗揚げした海賊団で、「泣く子も笑うルンバー海賊団」を標榜しており、民間人にも被害を与えない穏健なタイプだったのは正直助かった。
とはいえ海賊をやっていれば人死に関わることはあるし、辛いことも多い。
俺はこの世界の人間とは違って、ひ弱で体力もなく、航海に出る所か帆船に乗るのも初めてだったので、最初は皆に迷惑をかけっぱなしだった。
簡単な雑用でも失敗し、海では溺れ、戦闘では船の奥でガタガタ震えるだけだった。
それでもギターを演奏すれば、流石船長が見込んだ音楽家だと喜んで貰えたし、積極的に色々手助けしてくれるようになった。
……歌はすこぶる不評だったが。
俺はなんとか必死に雑用をこなし、船での仕事を覚えていった。
幸い、自炊で包丁扱いに慣れていたので、調理で役に立つことが出来た。
当初はコックの数が足りず、料理は当番制でやっていたのだが、海賊をやろうとする奴らに料理の心得がある者は少ない。
野菜の皮剥きすらできない奴が大多数だった。
その内、厨房はおれの仕事場になった。
船長が行く先々で音楽好きの人を勧誘してくるので、その内コックも増えてなんとかなるようになった。
まあ、その分人数が増えて調理の手間も増えるのだが。
気づけば俺達は結構な人数になっていた。
そんなある日の事だ。
いつものようにブルックさんが朝の一曲で船員を叩き起こしていた。
名曲『幸せの黒いハンカチ』だ。
これがまたコミカルな曲で面白い。
最近では異世界の曲や音楽を楽しめるくらい精神的に余裕が出てきた。
いきなり着の身着のままで異世界に飛ばされ、無理やりこの世界の常識的な知識を埋め込まれ、さりとて一文無し。
そんな頼れるものがギターくらいしか無い状況で1週間を過ごした俺は、大分切羽詰まっていたみたいだ。
何せ海賊を名乗る人物にほいほい付いて行くくらいだからな。
それでも今ではこんなに楽しい冒険をしている。
人生楽しんだもの勝ちだ。
当時の俺、グッジョブ!
そうして、皆が朝っぱらの大音量の演奏に目を覚まして、ブルックさんが船長のリクエスト曲を演奏していたら、海の方から「プォーーー♪プォプォープォ♪」とかわいい音が聞こえてきた。
そこを見てみると、かわいい子供のクジラがいた。
そういえば昨日見かけたクジラだな。
群れから離れて付いてきてしまったのか。
まあ、その内親元へ帰るだろうし、今は存分に可愛がってやろう。
しかしその予想に反し、その後もそのクジラはかわいい鳴き声を響かせながら、俺達の船に付いてきた。
誰が言い出したのか、いつの間にか『ラブーン』と名付けて呼ぶようになっていた。
ラブーンは敵船との戦闘で海に落ちたケガ人を救出したりと、俺よりよっぽど活躍していた。
ラブーンは俺達の音楽が好きなようだ。
演奏していると、かわいく「プォー♪」と喜んでくれるのでやる気が出るってもんだ。
俺はどんなに疲れていてもラブーンに毎日ギターを聴かせてやった。
歌も歌った。
[ギター](´൧`)「ボエ〜〜〜♪」
ラブーンは俺のヘタクソな歌でも喜んでくれる。
……天使か?
船員からはブーイングだらけだが、俺だって歌いたい時はある。
地球の曲を色々教えてるんだから少しくらい許してほしい。
まあ、それは俺もこの世界の曲を教わっているのでお互い様なのだが。
ラブーンは雪の時も、海獣が出た時も、一緒に付いてきた俺達の仲間だ。
しかし、別れの時がやってきた。
ラブーンは賢いがまだ子供の身体だ。
これから俺達はグランドラインというこの異世界でも一等危険な海域に入る。
噂によると、そこは天候がめちゃくちゃで、この前あった海獣の比ではない程の化物がうようよしているそうだ。
俺達ではラブーンを守りきる余裕はないだろう。
悲しいけど別れなければならない。
今一番懐かれていたブルックさんがラブーンを説得している所だが……どうやら失敗したみたいだな。
俺達はラブーンのために、心を鬼にして、振り切ることにした。
唄も楽器も、一切の音楽を絶った。
ラブーンと目を合わせることもなくした。
涙ぐんで「プォー!」と鳴くラブーンはかわいそうだったが、仕方ない。
俺にもっと力があれば……。
そして俺達は嵐も乗越え、グランドラインの入口を示す導きの灯に到達した。
ラブーンの姿はもう1週間も見ていない。
「野郎共心の準備はあるか!!?
行くぞ。世界で1番偉大な海へ!!!」
ヨーキ船長の号令で俺達はリヴァース・マウンテンを乗り越えた。
ジェットコースターみたいで楽しかったな。
無事にグランドラインに入った俺達を待っていたのは、双子岬の灯台守のクロッカスという男だった。
「ようこそ海賊の墓場へ」
中々ユーモアのある男のようだ。
俺達は壊れた船の修理のためしばらく停めさせて貰う代わりに、クロッカスさんに食事を提供することになった。
「ぬははは。まいった!!海賊からたかるのかおめェ!!
一緒に祝ってくれ!!今日は祝賀の宴だ、おれ達ァ!!!」
船長がそう言うと、クロッカスさんは尋ねてきた。
「ところで一緒に連れてたクジラはペットか?」
俺達はビックリした。
なんとラブーンが付いてきてしまったのだ!
ここまで来てしまったのならば、もう仕方がない。
俺達は久しぶりに楽器をかき鳴らし、歌を歌い、宴を楽しんだ。
それから3ヶ月が経過した。
船はなんとか修理ができた。
皆クロッカスさんとは大分仲良くなった。
ブルックさんのおかげで、ラブーンへの説得も上手くいった。
「ラブーン!!おれ達は必ず!!!世界を一周してここへ戻る!!!待ってろよ〜〜〜〜〜!!」
「プォォォ〜〜!!」
そうして名残惜しいが俺達は約束をして別れた。
グランドラインの冒険は俺達の常識と想像をはるかに越えていた。
たった今まで晴れていたのに竜巻が起こったり、まさに予測不能な海だった。
それでも俺達は何とか一日一日を終えると音楽を鳴り響かせ愉快に進んで行った。
時にはクルー同士でケンカをすることもあったが、そんな時は頼りになるヨーキ船長が上手く仲裁した。
皆船長を尊敬していたし、懸賞金が上がった時なんかは盛大にお祝いした。
ラブーンのいる双子岬まで悪名が轟け!と、『ビンクスの酒』を歌いながら宴をしたのだ。
時にはブルックさんと一緒にラブーンを偲んでバラードをデュエットしたりもした。
そんな冒険の日々の中で俺には行きたい場所ができた。
それは音楽の島、エレジアだ。
この世界のあらゆる音楽が集まる場所と聞く。
面白そうだ。
地球の音楽がどれくらい通用するか、試してみたいぜ。
場所は東の海、南の海、グランドライン前半、あるいはカームベルトのどこかにあるとされている。
旅を続けていたら、その内見つかるだろう。
いつか一緒に行って演奏したいなとブルックさん達と語り合った。
しかし、こうした楽しい航海は永遠には続かなかった。
ルンバー海賊団を疫病が襲ったのだ。
原因は前に上陸した密林で貰ってきた未知のウイルスで、船医でも手の打ちようが無かった。
感染したのは10数名のクルーとヨーキ船長、そして俺だった。
「船長〜〜〜!!」
「ぬははは……切なげな声を出すんじゃねェ!!お前ら!!泣く子も笑うルンバー海賊団の名が泣くぜ!!!
どこもかしこもガタがきてるこの船は病原体と一緒に…おれが貰ってく。
お前ら…新しい船で前へ進め!!
おれは…一足先にグランドラインを後にする…!!」
「船長……」
「……まさかこんな脱落の道を辿るとは………。
おれ達は一か八か…カームベルトからの脱出を試みる。
…まァ何とかなるさ!!
悪いな…お前ら!!
ラブーンによろしくな
ぬははは!!
シケた面してんじゃねェや!!シャキっとしろォ!!! 」
ヨーキ船長は無念だろうに、最後までクルーの前では立派な船長だった。
おれは感染者の中では初期症状だけで、まだ動ける方だ。
どうせヨーキ船長に拾って貰わなければ、早々にのたれ死んでいたであろう命だ。
いずれおれも船長のようにベッドから動けなくなるんだろうが、それまでは全力で世話するぜ。
……いざとなれば、最近ようやく理解してきたおれの能力が役に立つかもしれないしな。
「なぁ、ブルック。おれの好きな唄で…見送ってくれよ……」
こうしておれ達は残った仲間達に『ビンクスの酒』で見送られながらカームベルトへ入っていった。
カームベルト。
ここは一切の風がない無風海域だ。
そのため帆船が動かないので、人力で漕がないといけない。
そして俺達の船は優に50人を超えても航海ができる大型のガレオン船だ。
つまり何が言いたいのかと言うと、全く前に進まん。
しかも人手は病人だけ。
俺と同じでまだ症状が軽い者はいるが、船長達の看病もしなければならないし、俺はお粥などを作る必要がある。
うん、終わったな。
しかし船長のためにも俺1人が早々に諦める訳にはいかない。
何か俺に出来ることは……。
そう考え込みながら看病をしていると、船長が息も絶え絶えに話しかけてきた。
「悪ィな、迷惑かけちまって……。まだ初期症状しかないお前ならグランドラインで医者を探す猶予が残されていただろうに……。」
「おいおい。ヨーキ船長。そんな水臭いこと言わんでくださいよ。
……アンタはこの異世界で異物な俺に居場所をくれたんだ。あの日海に誘ってくれたこと、本当に感謝してる。おかげでこの世界を好きになれた!
それに、拾ってもらえなかったら、きっと俺はもっと早くに飢え死にしていたぜ…。
………...ここまで楽しい夢を見させて貰ったんだ。今度は俺が良い夢を見せる番だよな……!!」
「お前……...何を…?」
俺はギターを持って甲板に出ると、大きくかき鳴らした。
カームベルトには無風以外にも大きな特徴がある。
それはこの海域が、俺達のガレオン船なんて物ともしない程巨大な海王類達の生息地ということだ。
そんな所で大きな音を立てれば、当然直ぐに奴らがやってくるだろう。
案の定、この船をひと丸呑みに出来そうな巨体をもつ海王類達が海上に姿を現した。
「おーおー。こりゃあ嬉しいね。この俺一世一代の海上ライブに、ここまでビックなお客さん方が来てくれるとは。
それでは聴いていってくれ。俺のオリジナルソング『俺の世界』」
[ギター]( `൧ ´)「ボエ〜〜〜♪♫」
∈( ⊙_________ ⊙)∋「!!!」
俺はウタウタの実の能力を使った。
俺の『歌』を聞いた海王類達は皆気絶するように眠った。
ーーー俺はあの日、キラキラモザイク野郎にクソまずい果実を食わされた。
その後の頭痛で得た知識によると、あれは『ウタウタの実』という悪魔の実だ。
その能力は、歌を聞いた者をウタワールドという夢の中の世界に引き込むというものだ。
ウタワールドではウタウタの実の能力者はイメージしたことをなんでも出来るようになる。
そして重要なのは、ウタワールドに取り込まれた者を現実世界で操ることができるという事だ。
俺はこの能力を使って海王類達を操り、船を引かせようとするつもりなのだ!
しかし、何事も旨い話だけではない。
このウタウタの能力は体力を大きく消耗する。
初期症状とはいえ、ウイルスに侵された俺がどこまで持つのか……。
また、そもそも歌が上手くなければウタワールドを構築できないし、相手が聞き入ってくれないとウタワールドに引き込むこともできない。
つまり、平均よりほんのちょっぴりだけ音痴な俺にとっては、無用な能力なのだ。
むしろ泳げなくなったり、歌を歌う度に体力を無駄に消耗するのでデメリットだらけだ。
実際、仲間や島の住人が俺の歌を聞いても少しの時間気絶するだけで、ウタワールドなんて創れた試しがない。
しかし、そこに例外があった。
ラブーンだ。
ラブーンは俺の歌でも喜んで聞いてくれた。
勿論ラブーンが音楽好きということはあるだろう。
しかし、それだけではないのではないだろうか。
ラブーンは俺達の楽しく陽気な音楽を特に好んだ。
反面、俺がこの世界で孤独を感じて夜に1人で歌っていた時なんかは、静かに寄り添うように聞いてくれた。
音楽に乗った感情を理解していたのだ。
また、そもそも人間とは音の聞こえ方が異なるハズなので、俺の歌を音痴と感じなかったのかもしれない。
何にせよ、ラブーン相手ならば俺はウタワールドを生成できたのだ。
まだ能力者として未熟だったので、長いこと維持することはできなかったが……。
とにかく、俺はここに希望を見出した。
海王類もラブーンと同じ海の生物だ。
それならば俺の能力が効くかもしれない。
とんだ暴論だが、俺の一世一代の大博打はどうやら上手くいったようだ。
………だが、これキッツイな。
ぶっつけ本番だが、感覚的にわかる。
俺はずっと歌い続けなければ、ウタワールドを維持できない。
そして、歌い始めてからまだ間もないが、既に身体の調子が悪くなってきている。
体力がゴリゴリ削られて、病魔の進行が早まっているのだろう。
これは時間との勝負だな……...急がなければ。
こうして俺は海王類達に船を引かせることに成功した。
俺は能力の反動で、まず立てなくなり、次にギターを鳴らす手が震えて止まり、終いには喉から血が込み上げてきたが、決して歌うことだけは止めなかった。
そうしてどのくらい時間が経ったのか、俺達はカームベルトを突破した。
グランドラインからカームベルトを突破したから、ここは南の海のハズだ。
だとしたらレッドラインがあるから皆の故郷の西の海までは行けそうにないな。
最期くらいせめて皆は故郷の海に帰したかったが、仕方ない。
なんとかカームベルトを通過したとはいえ、俺達はもう限界だ。
船員はベットの上で苦しむ者ばかりだ。
俺はもう歌を続ける体力も無かった。
しかし、長時間ウタワールドに取り込んでいたおかげなのか、それとも俺が成長したのか、直接歌わなくても海王類達を操れるようになっていた。
とはいえ、ウタワールドを展開しているだけで体力はゴリゴリと削られている。
長くは持つまい。
俺は最後の力を振り絞って、海王類達を操り、最寄りの孤島まで船を運ばせた。
…………どうやらこの孤島では、大きな怪鳥と人間が争っているようだ。
パッと見ただけでも人間側が劣勢だ。
とんだハズレを引いちまったかもな。
とはいえ、俺にはもう他の島を探す余裕はない。
俺は海王類達に派手な水飛沫を上げさせながら船を上陸させた。
怪鳥達も島の何かしらの部族のような人間達もこちらに気づいて、目が飛び出すくらい驚いていた。
そのまま怪鳥らは飛んで逃げていった。
海王類にビビったのだろう。
「!!っゲホッ……血か…。」
……俺も大分病気が進行してしまったな。
それに感覚的にわかる。
このコンディションであと1度歌を歌い能力を使えば俺は体力を使い果たして死ぬ。
そう思っていると、先程怪鳥と争っていた、この島の住人らしき頭の弱そうな奴らが現れた。
どうやら劣勢だった所、突然現れた海王類達にビビって怪鳥が逃げたおかげで助かったのでお礼を言いに来たらしい。
海王類がいるのに近づいてくるとは度胸があるな。
……それにまさか感染症を患った病人しかいないヤバい船だとは思わなかったのだろう。
俺はガラガラの声で半ば脅すように医者がいないか聞いた。
そうすると、この部族は見た目に反して薬学が発達しているようで、この症状の病ならば効く薬があるかもしれないことが判明した。
俺は今度はボロボロの身体を無理やり動かし、土下座をして薬を譲って貰えるよう頼み込んだ。
するとその場の中で偉い人が前に出てきて、「どの道感染者と接触してしまったおら達も薬を打たなければならなくなったど。本当に薬が効くのか実験の意味も兼ねてお前らにも処方してやるど」、と言ってくれた。
俺は泣いた。
希望は繋がったのだ!
すぐさま船長達にも伝えて喜びあった。
しかし、何事も何もかも上手く行くという事は無い。
俺はそれを知っていたハズであった。
ただ、その時はそれに頭を回す余裕が無かったというだけの話だ。
張り詰めていた気が緩んだせいで、ウタウタの能力が解除され、海王類達が意識を取り戻した。
元々海王類なんて地球人の俺どころか、この世界の強者である船長でも倒すのが困難な畏れ多い生物だ。
そもそも海の王なのだから、俺程度が都合良く利用しようなんて、おこがましかったのだろう。
今はまだ海王類達は微睡んでいるが……...改めて相対すると、なんて存在感と威圧感だ。
勝てっこない。
直に意識をハッキリさせて、俺達を襲うだろう。
万事休すか……...?
「ぬははは……。まさに絶体絶命だな。」
船長が部屋から這い出てきた。
ありえない。もう息をするだけでも苦しいハズなのに……。
奇跡だ。
「ぬはは。寝ていても聞こえてきたぜ。スッゲェ音痴だけど心に響く奇跡の歌。
海王類すら感動させちまうなんてやるじゃねェか……。
お前が命懸けでここまで希望を繋いでくれたんだ。船長のおれも一肌脱がないと示しがつかないぜ。」
他の重病なクルー達も出てきた。
「ギャハハ、ゴホッゴホッ……。船で1番弱っちいお前にそこまでさせたんだ。おれ達だけ寝てる訳にはいかねェだろう?」
船長…………、お前らまで……。
……フフ、さっきまでもうダメかと思っていたのに、急にやる気が湧いてきたぜ。
ヨシ…………やるか...…。
「……ヨーキ船長...…お前らも……。
……1つ提案があるんだ。
皆で歌わないか?
どうせ死んで元々なんだ。最後まで楽しんでいこうぜ。」
「ぬはは。いいこと言うじゃねェか。
……おれ達ァ、泣く子も笑うルンバー海賊団!
海王類をあやすなんて屁でもねェ!!
さァ……やるぞ、お前ら……!」
俺達は歌った。
俺の喉はガラガラで皆もろくな声量ではなかったが、10人以上が命を燃やした合唱は確かに海王類へ響いたようだ。
まだ海王類の意識がハッキリしていなかった事が良かったのかもしれない。
能力が宿る俺の歌が、合唱で水増しされたというだけなのかもしれない。
だが、そんな理屈はどうでもいい。
これは俺達ルンバー海賊団が起こした奇跡だ。
俺は海王類に乗り、皆に最後の別れを告げた。
「あはは。最後のステージ、楽しかったぜ……。
……俺はこのまま海王類を引き連れてカームベルトへ行く。皆とはここでお別れだ。達者でな。」
「…………何言ってんだお前ェ!」
「俺の力じゃ、海王類を離れて操ることはできないんだ……。カームベルトまで直接連れて行くしかない。そしてそれは俺にしか出来ない事だ。
船長や皆が生きている限り、音楽を愛している限り、ルンバー海賊団は終わらない。
…約束してくれ。必ず病気を治して生き残ると。そして出来ればまたブルック達やラブーンも含めた皆で歌を歌ってほしい………。
俺のこともたまには思い出してくれよな。」
「…………お前、覚悟を決めたんだな……。
ああ、必ず約束は果たしてやる!お前はルンバー海賊団の最高の歌手だ!絶対に忘れない。
お前の奇跡は歌にして永遠に語り継ぐことをここに誓おう。お前はずっと憧れていた伝説の男になるんだ。」
「俺を歌に?ふはは。そりァ傑作だな。嬉しいねェ。
……ヨーキ船長、今までありがとうございました。
……ほら、シャキッとしてくださいよ。泣く子も笑うルンバー海賊団でしょう?名が廃りますよ。
…………......船長、それに皆……...。
俺って、この世界にいて……本当に良かったですか……?」
「「「当たり前だ!!!」」」
「そうか……。それは良かった………。」
こうして俺は船長達の歌を背に、海王類達を引き連れてカームベルトへと戻った。
……眠くなってきたな。
身体は限界をとうに超えている。
いよいよだな。
海王類も能力の効果が切れつつある。
思えばこいつらには悪いことしたな。
勝手に縄張りに入って無理やり付き合わせて。
でも、もうこれで終わりだ。
お詫びにちょびっと毒入りで舌が痺れるかもしれないが、俺の身体をやるからよ。
許してやってくれ。
……売れないミュージシャン27歳、大海で死す、か。
昔憧れた伝説の27クラブと同じ年齢で死ぬことになるとはな。
それが今では俺が伝説として語り継がれる側になるなんてな。
嬉しいような照れくさいような……。
世の中何が起きるかわからない。
唯一の心残りはあのモザイク野郎をぶん殴れなかったことくらいか。
……いや、なんなら感謝の言葉を伝えたいくらいだ。
俺はこの世界で最高の歌手になれたんだからな。
地球で過ごした年月よりも、短かったがここで得た冒険の日々の方が輝いてた。
俺は今まで生きてきた意味と最高の死に様を見つけた。
そして大いに楽しんだ。
それはつまり勝ったということだ。
……俺は……幸…せ………者…だ…ぜ…………
目の前に迫り来る海王類の大口を最期に、俺の意識は暗転した。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………
そして40年以上の月日が流れた。
ここは音楽の島、エレジア。
世界中の音楽と音楽家が集まる音楽の都として栄えていた。
しかし、この日エレジアは滅亡した。
ウタウタの実の能力者である、ウタが島に封印された魔王トットムジカを目覚めさせてしまったからである。
トットムジカは幼いウタを取り込み破壊の限りを尽くした。
島は廃墟となった。
ウタの父親である赤髪とその海賊団が奮闘した事と、ウタがまだ子供で体力が尽きて寝た事により、トットムジカは再び眠りについた。
赤髪海賊団は、何も知らないウタを守る為に、エレジア王国滅亡の汚名を被り、ウタを置いていくしかなかった。
目が覚めて、父親に見捨てられ置いていかれたと思い込んだウタは、心に闇を抱える事となった。
そして、現実逃避するように歌い、何でも出来る自分だけの世界に引き籠るようになった。
しかし、そこはもうウタ1人だけの世界ではなくなっていた。
「…………。アンタ何?」
「…………。俺か?お嬢ちゃん。自分でも何が何だかわからないが、40年以上も孤独で過ごす内に、こんなヘンテコな身体になっちまったんだ。」
そこには黒いハットを被ったピエロのような顔立ちで、両腕がピアノの鍵盤になっており、首元には髑髏の霊魂を数珠のように並べている異形の存在がいた。
「可愛くない。せめてもっと小さくなってよ。」
「ええッ!まあ、久しぶりに人に会えたんだ。試しにやってみるか…………。あ、出来た。」
「何よ。やれば出来るんじゃない。
それよりアナタは何者?私が生み出した存在じゃないわよね?」
「俺はウタウタの実の前任者だ。死に際にウタワールドに取り込まれたせいで40年以上も孤独を味わったマヌケさ。
…………寂しかった。誰かに見つけて欲しかった。
最初は一緒に取り込んでしまった海王類が何体か居たんだが、現実世界で何かあったのか、いつの間にか居なくなってしまってな……。
俺だけ現実世界で死んでもずっと消えることはなかった。
暇でしょうがないんで歌うか寝るかばっかりしていたんだが…………。
あの日、俺のウタワールドが何か別の世界と繋がった感覚がしたんだ。その場所まで確かめに行ってみると、誰にやられたのか、今の俺の姿をした化物が倒れていてな。不用意に近づいたら、何か知らんが取り込まれてしまったんだ。
こいつは寂しいという感情の塊だった。恐らく過去のウタウタの能力者が、世界中の音楽を愛する人の負の感情を集めて創った存在なのかもしれない。それに食われてしまった俺には、大量の負の感情がなだれ込んできた。
寂しさの気持ちはよく分かるが、そんな感情如きに負けてやるのも癪だ。俺はこの40年を過ごしてきたように、過去の冒険を心の支えにしてこの感情の嵐に抗った。
そして気づけば俺自身が化物になっていたんだ。」
「話が長いわ。」
「ええ〜〜ッ!!自分で聞いたのに!
……久しぶりの対人でタガが外れてたかも。スマンな。」
「要するにアナタは怪物に食べられちゃったけど、逆に身体を乗っ取ってやった訳ね。やるじゃない。
……そうだ。アナタを私の仲間にしてあげるわ!
これでもう寂しくないでしょ。」
「!!……こんな怪物になった俺を勧誘してくれるのかい?これは嬉しいねェ。
俺はトットムジカ。この身体はそう呼ばれていたようだ。
お嬢さんの名前は?」
「私はウタ。世界の歌姫になる女よ!」
「そうか……。ならば俺はウタの専属ミュージシャンになろう。ギターの腕には自信があるんだ。
……まあ、今の腕はピアノだけどな!ふははは!怪物ジョーク!」
「……そう。
これからよろしくね。トットちゃん。」
「冷たい目!
……こちらこそよろしくな。ウタ。」
こうして孤独な2人は握手をし、仲間となった。
トットちゃんはウタの夢を叶えるために全力を尽くすだろう。
その方が楽しそうだからだ。
時には保護者のように、時には友達のように。
ケンカをする事もあるかもしれない。
大人として、仲間として、トットちゃんはウタと対等に接するだろう。
父親に裏切られたと思い込むウタにとっては、自分の寂しさを紛らわせるための関係なのかもしれない。
それでもこのトットちゃんは、底抜けに明るいポジティブバカだ。
もうウタが孤独に枕を濡らすことはないだろう。
これからは、賑やかで最高の歌手がずっとそばに居るのだから。
【映画のネタバレありの補足】
トットちゃん:中学生の頃に27クラブに憧れて音楽を始めた。ワンピース連載以前に転移させられたので原作知識はない。ワンピース世界で冒険に出会い、全力で人生を楽しんだ。享年27歳。そして長年ウタワールドを彷徨い、トットムジカに転生した。 第1楽章の形態をしていたが、今はウタに言われて、より小さくてデフォルメされたカワイイ姿になっている。
ちなみに40年以上もウタワールドで歌っていたくせに大して上達していない。もはや呪いである。
一方長年人と会話する事が無かった為、ウタと出会った時はテンションMAXでやたら喋りたがりになっていた。
[ギター](´൧`)「ボエ〜〜〜♪」
「ちょッ……アナタ歌下手すぎ!
……もう、仕方ないわね!世界の歌姫になる私が特別にお手本を聞かせてあげるわ!」
ウタウタの実:歌を聞いた者の意識をウタワールドに引き込む。本作では歌の上手さや聞き手の心にどれくらい響くか等で能力の効果が変化するという独自設定がある。また、ウタワールドを展開しながら術者が亡くなった場合、能力者は一生そのままだが、聴衆は現実世界で亡くなるとウタワールドから消えてしまうという独自設定もある。これは、映画でウタが海軍に撃たれた民衆に対して、「もう少しで新時代だから!」と必死に死なせないようにしていた事から、『少なくとも能力者が生きている時(あるいはトットムジカが顕現して世界が繋がっている時)に聴衆が現実世界で亡くなると、ウタワールドからも消えてしまう』と推察できる。
本作ではそこから、『仮に能力者が現実世界で死んで聴衆をウタワールドに取り込んでも、聴衆が現実世界で死んだらウタワールドから消失するのではないか』と妄想を広げた。そして、仮にそうだとしたら、最終的にウタワールド世界で1人孤独になる運命の元能力者は、寂しさを募らせる事となる。自らを終わらせる者も出てくるかもしれない。それがトットムジカの存在の核になっているのではないか。
そして本来、その時代の能力者毎にウタワールドは別個の世界になると考えられるので、能力の後継者が接触する事は無いハズである。しかし、トットムジカによって現実世界とウタのウタワールドが繋がった事により、世界の境目が曖昧になり、[主人公のウタワールド→現実世界→ウタのウタワールド]、という風に世界が繋がった。その時間は決して長くは無かったが、主人公は世界の違和感を辿る事で、上手いことウタワールドに迷い込んでしまったのだ。
ご都合主義バンザイ。
トリノ王国:南の海にある孤島。大きな巨木があり、人間はそこでとれる植物から多種多様な薬を作り生活している。原作ではその巨木に怪鳥が住みついてしまったせいで薬が作れなくなり、争っていた所をチョッパーが仲裁した。アニメではチョッパーがくまによって飛ばされてきた時より、1年前に怪鳥がやって来たと言っている。本作でヨーキ船長らがたどり着いたのはそれより50年以上は前だが、この時もたまたま怪鳥が卵を育てるために訪れていたという事にして欲しい。
その後海王類にビビった怪鳥は雛が孵って成長していた事もあり、この島から離れる事にしたようだ。
ご都合主義バンザイ。
「薬を持ってきたど。」
「ありがとう。おれ達ちょっとばかし死ねない事情ができたんだ。恩に着るぜ。」
「おら達もあの男の勇姿をしかと見届けたど。あの性悪鳥も巣から居なくなっていたし、お前らは恩人だ。絶対に助けるど。」
「ぬはは。全く、居なくなっても力になってくれるとはな……。
……おれ達は絶対に約束を叶えるからな……。見ててくれよ...!
...……野郎共、死んでも死ぬんじゃねェぞ!!」
「「「おう!!」」」
ウタ:彼女が今後どういう選択をして、どういう人生を歩むのかは定かではない。しかし、少なくともその道は孤独ではない。仲間がいるよ。
いつかあるかもしれない未来:
???「久しぶりだなァ!ウタ!!」
???「久しぶりにお前の歌を聞きに来た」
???「ヨホホホホ。懐かしい音ですね。」