前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース   作:雅媛

1 / 24
第一章 トレーナーがロイヤルビタージュースをキめながら頑張る話
第零話 面白いトレーナーとは何かという哲学的な悩みを抱きつつ、ゴールドシップはダンゴムシをスペシャルウィークに投げる


 ゴールドシップは、こう考えた。

 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角にウマ娘の世は住みにくい。

 住みにくさが高じると、安い所へ行きたくなる。

 無人島へ行き、ゴルゴル星へ行き、どこへ行っても住みにくいと悟った時、レースが生まれて、ライブが出来る。

 住みにくい所をどれほどか、寛容して、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここにトレーナーという天職が出来て、ここにゴルシちゃんの世話をせよという使命が降だる。

 

 

 

 あらゆるウマ娘の生き様にトレーナーは重要だ。

 故にゴールドシップはトレーナーを吟味する。

 ゴールドシップは体格、体力、知力、すべてがそろったウマ娘だ。

 何もしなくとも、砂糖に蟻が群がるかの如くトレーナーは集まってきた。

 

 ある時は、三冠ウマ娘を育てたトレーナーが訪ねてきた。

 曰く「君となら三冠ウマ娘も目指せる」「ともに夢を目指そう」と。ゴールドシップは「面白くない」と断った。それがすべてであった。

 三冠ウマ娘など過去何人いるのか。なるほど、千に一人、万に一人、というのは確かに偉大であろう。だが、万に一人は何人もいるのだ。世にウマ娘が何人いると考えているのか。そのような「面白くない」トレーナーと組むつもりは毛頭なかった。

 

 ある時は、新進気鋭とうたわれるトレーナーが訪ねてきた。

 曰く、「夢をかなえよう」「キミとならどこまでも行ける」と。ゴールドシップは「面白くない」と断った。それがすべてであった。

 確かにウマ娘のほとんどは夢をかなえるために走っている。

『日本一のウマ娘』『無敗の三冠ウマ娘』それは素晴らしい夢だ。

 それをかなえるトレーナーというのは確かに素晴らしいトレーナーだろう。

 非常に素晴らしく、非常に優秀で、夢をかなえようとするのは普通だ。非常に普通でつまらない。

 そのような「面白くない」トレーナーと組むつもりは毛頭なかった。

 

 一人、また一人と「面白くない」トレーナーを断っていたら、ゴールドシップの周りには誰もいなくなってしまった。

「本当につまらないな」ゴールドシップのつぶやきは空に消えた。彼女の希望を、結局誰もかなえてくれなかった。

「面白くない」トレーナーしかいないならば、「面白い」トレーナーを自分で探すしかない。トレーナーはまだまだ学園内に生息しているはずだ。

 試しにその辺に落ちている石をひっくり返してみた。トレーナーはいなかったがダンゴムシが居たので、丸まったダンゴムシをスペシャルウィークに投げておいた。

 

 

 

「面白い」トレーナーはどこにいるか。

 カバンの中も、机の中も、噴水の中も、メジロマックイーンのスカートの中も探したけど見つからない。

 ぴかぴか光る三女神像と、真っ赤になって怒るメジロマックイーンを背に、ゴールドシップは考えた。

 

 男のトレーナーは駄目だ。

 トレセン学園にいるウマ娘は、ほとんどがいいところの出のお嬢様ばかりで、家族以外男というものを見たことがない奴もいる。そんな純真無垢な純粋培養ウマ娘に合うようにトレーナーというのは教育されている。

 だからみな、ウマ娘に対して紳士的である。司法試験や医師国家試験に並ぶ最難関試験であるトレーナー試験を合格して来た者たちだから頭もよい。

 つまり、とてもイイ男だということだ。

 そんな普通のイイ男なんてまったく「面白くない」。

 

 だが女のトレーナーもダメだ。

 純粋なお嬢様方には一定数、男性がダメだというウマ娘がいる。メジロドーベルなんか典型的だし、副会長のエアグルーヴも昔は男性が苦手だったという話がある。

 そういうお嬢様方のために、女性トレーナーがいるのだ。

 基本的に女性トレーナーというのはユニセックスな外見をしており、ウマ娘に威圧感を与えないながらも、男性に慣れさせる、ということを目的にしている。

 当然男のトレーナーよりも紳士的である。

 つまり、イケメンばかりということである。

 そんなトレーナーたちもまた、「面白くない」。

 

 つまり男でも女でもないトレーナーが求められた。

 そこまで考えてゴールドシップは首を傾げた。

 なんだそれは、と。

 自分で自分がわからなくなった。男でも女でもない生物ってなんだ。カタツムリか。

 カタツムリのトレーナーなら許されるのか。

 でもこの春のうららの日に、カタツムリなんてどこにいるんだ。

 ひとまずその辺に落ちている石をひっくり返してみた。トレーナーはいなかったがダンゴムシが居たので、丸まったダンゴムシをスペシャルウィークに投げておいた。

 

 

 

 ゴールドシップは彷徨う。

 自分が何を求めているかわからぬまま。

 草の中を、森の中を、雲の中を、メジロマックイーンのスカートを、探し続ける。

 そうして彼女は、ついに、運命を見つける。

 それは、学園の道端のベンチに落ちていた、ゴミのような何かであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。