前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース 作:雅媛
第零話 面白いトレーナーとは何かという哲学的な悩みを抱きつつ、ゴールドシップはダンゴムシをスペシャルウィークに投げる
ゴールドシップは、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角にウマ娘の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ行きたくなる。
無人島へ行き、ゴルゴル星へ行き、どこへ行っても住みにくいと悟った時、レースが生まれて、ライブが出来る。
住みにくい所をどれほどか、寛容して、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここにトレーナーという天職が出来て、ここにゴルシちゃんの世話をせよという使命が降だる。
あらゆるウマ娘の生き様にトレーナーは重要だ。
故にゴールドシップはトレーナーを吟味する。
ゴールドシップは体格、体力、知力、すべてがそろったウマ娘だ。
何もしなくとも、砂糖に蟻が群がるかの如くトレーナーは集まってきた。
ある時は、三冠ウマ娘を育てたトレーナーが訪ねてきた。
曰く「君となら三冠ウマ娘も目指せる」「ともに夢を目指そう」と。ゴールドシップは「面白くない」と断った。それがすべてであった。
三冠ウマ娘など過去何人いるのか。なるほど、千に一人、万に一人、というのは確かに偉大であろう。だが、万に一人は何人もいるのだ。世にウマ娘が何人いると考えているのか。そのような「面白くない」トレーナーと組むつもりは毛頭なかった。
ある時は、新進気鋭とうたわれるトレーナーが訪ねてきた。
曰く、「夢をかなえよう」「キミとならどこまでも行ける」と。ゴールドシップは「面白くない」と断った。それがすべてであった。
確かにウマ娘のほとんどは夢をかなえるために走っている。
『日本一のウマ娘』『無敗の三冠ウマ娘』それは素晴らしい夢だ。
それをかなえるトレーナーというのは確かに素晴らしいトレーナーだろう。
非常に素晴らしく、非常に優秀で、夢をかなえようとするのは普通だ。非常に普通でつまらない。
そのような「面白くない」トレーナーと組むつもりは毛頭なかった。
一人、また一人と「面白くない」トレーナーを断っていたら、ゴールドシップの周りには誰もいなくなってしまった。
「本当につまらないな」ゴールドシップのつぶやきは空に消えた。彼女の希望を、結局誰もかなえてくれなかった。
「面白くない」トレーナーしかいないならば、「面白い」トレーナーを自分で探すしかない。トレーナーはまだまだ学園内に生息しているはずだ。
試しにその辺に落ちている石をひっくり返してみた。トレーナーはいなかったがダンゴムシが居たので、丸まったダンゴムシをスペシャルウィークに投げておいた。
「面白い」トレーナーはどこにいるか。
カバンの中も、机の中も、噴水の中も、メジロマックイーンのスカートの中も探したけど見つからない。
ぴかぴか光る三女神像と、真っ赤になって怒るメジロマックイーンを背に、ゴールドシップは考えた。
男のトレーナーは駄目だ。
トレセン学園にいるウマ娘は、ほとんどがいいところの出のお嬢様ばかりで、家族以外男というものを見たことがない奴もいる。そんな純真無垢な純粋培養ウマ娘に合うようにトレーナーというのは教育されている。
だからみな、ウマ娘に対して紳士的である。司法試験や医師国家試験に並ぶ最難関試験であるトレーナー試験を合格して来た者たちだから頭もよい。
つまり、とてもイイ男だということだ。
そんな普通のイイ男なんてまったく「面白くない」。
だが女のトレーナーもダメだ。
純粋なお嬢様方には一定数、男性がダメだというウマ娘がいる。メジロドーベルなんか典型的だし、副会長のエアグルーヴも昔は男性が苦手だったという話がある。
そういうお嬢様方のために、女性トレーナーがいるのだ。
基本的に女性トレーナーというのはユニセックスな外見をしており、ウマ娘に威圧感を与えないながらも、男性に慣れさせる、ということを目的にしている。
当然男のトレーナーよりも紳士的である。
つまり、イケメンばかりということである。
そんなトレーナーたちもまた、「面白くない」。
つまり男でも女でもないトレーナーが求められた。
そこまで考えてゴールドシップは首を傾げた。
なんだそれは、と。
自分で自分がわからなくなった。男でも女でもない生物ってなんだ。カタツムリか。
カタツムリのトレーナーなら許されるのか。
でもこの春のうららの日に、カタツムリなんてどこにいるんだ。
ひとまずその辺に落ちている石をひっくり返してみた。トレーナーはいなかったがダンゴムシが居たので、丸まったダンゴムシをスペシャルウィークに投げておいた。
ゴールドシップは彷徨う。
自分が何を求めているかわからぬまま。
草の中を、森の中を、雲の中を、メジロマックイーンのスカートを、探し続ける。
そうして彼女は、ついに、運命を見つける。
それは、学園の道端のベンチに落ちていた、ゴミのような何かであった。