前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース   作:雅媛

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第十話 大人の女性が集まる飲み会というとどことなく特別な雰囲気があるが実際はこのありさまである

 夜11時を回れば、寮からウマ娘は外出することができず、トレーナーも寮内には入れないので、大人の時間である。

 そんな大人の時間に、関係者が増えたのもあり、顔合わせと交流もかねて飲み会をすることになった。

 何故かトレーナーの部屋でである。

 

 せっかく理事長が人を増やしてくれたのだし、最初の関係者であるトレーナーとライトハローも、責任をもってメンバーを一人ずつ連れてこようということに何故かなってしまい、トレーナーは同期の桐生院トレーナーを、ライトハローはどういう伝手だか月間トゥインクルの名物記者である乙名史記者を連れてきた。なかなか大物である。

 広報人員はいて損はないので、大歓迎であった。

 

 飲み会の料理はトレーナーが準備し、お酒は各自が持ち寄ることになった。

 三食ロイヤルビタージュースの味覚が壊れたトレーナーだが、料理はそれなりに得意である。というか、トレーナーにとって栄養学と調理学が必修で、料理ができないとトレーナーになれないのだ。

 担当の栄養管理も場合によっては求められるため、当然であった。

 

「ロイヤルビタージュース中毒の人間が作った料理とは思えないです……」

 

 駿川たづなは戦慄した。なお、有能秘書であってもトレーナーではない彼女は料理は一切できない。

 ライトハローと乙名史記者はおいしそうに食べ、トレーナーの2人は栄養と味についてあれやこれやと議論を重ねていた。

 

「料理と言えばお酒ですよね!!」

 

 そういいながら、ライトハローはさっそく自分の持ってきた酒を取り出した。

 焼酎の一升瓶が3本出てくる。

 

「芋と麦と米と、おすすめを持ってきました!!」

 

 この場には6人しかいないのに、しかもほかにも皆酒を持ち寄る話になっていたのに、明らかに多すぎる量だ。

 どうしようかと困った顔をするトレーナー以外の四人を見て、ライトハローは「一人一本が良かったですか?」と見当違いなことを言い出す。違う、そうじゃない。

 最大限大人のスルー力を発揮して乙名史記者が自分が持ってきたのを取り出した。

 

「私はクラフトビールです。阪神競馬場で作ってるんですよ」

 

 ウマ娘レースの観戦も娯楽の一つであり、競馬場ではお酒を販売している。阪神競馬場では、オリジナルのビールの製造販売までしており、乙名史記者はそれを持ってきたようだ。さすがウマ娘記者というチョイスである。

 敏腕イベントプロデューサー()と、敏腕記者の配慮の差を見てしまった気分になる。普通逆じゃないだろうかと参加者は思った。

 

「私は父が家で保管していたものを持ってきたのですが……」

 

 桐生院トレーナーはワインの瓶を取り出した。本人はよくわかっていなさそうだが、絶対高い奴だと一目でわかるワインである。

 さすが名家、家で飲むワインから格が違う。

 家には料理用のワインしかなく、しかもこの前ライトハローに全部飲まれたトレーナーは同期との格差を感じた。

 

「皆さんがどの程度のまれるかわかりませんから、私は貴腐ワインを持ってきました。アイスクリームにかけてもおいしいんです」

 

 そういいながら、ワインの瓶を取り出した樫本トレーナー。

 こちらもこちらでべらぼうに高い奴である。

 アイスにワインをかけるなんて言う食べ方知らないんだが、とトレーナーはさらに格差を感じる。そもそもどんなアイスならあんな高級なワインに許されるのだろうか。ハーゲン〇ッツだろうか。レディー〇ーデンは許されないのだろうか。スー〇ーカップじゃだめだよなぁ……

 そんな混乱した思考がトレーナーの頭の中をよぎる。

 ちなみにたづなさんが持ってきたのはソフトドリンクと、缶のカクテルであった。先を読んだ気づかいのできるチョイスである。

 そうして、女性ばかりの飲み会がスタートした。

 

 

 

 大人の女性だけの飲み会と聞いて、読者の皆さまは何を想像されるだろうか。

 華やかな雰囲気だろうか。

 上品なやり取りだろうか。

 もしくは、百合の花が咲き乱れる展開だろうか。

 そんな想像をされた読者の皆様には申し訳ないことをした。

 そこに待ち受けていたのはただの地獄であった。

 

 もちろん最初はそんなことはなかった。

 謎の格差をトレーナーに思い知らせてスタートした飲み会であったが、二人のトレーナーが準備したワインはどちらもおいしく、料理も進んだ。

 少しずつお酒も飲んでいき、徐々に場が温まってきたそれをおかしくした始めたのは自称イベントプロデューサーの後輩であった。

 最初は「雪見大〇にも貴腐ワインが合うんですよー」みたいな特殊知識を披露し、場を温めていた彼女であったが、彼女がカクテル用のシェイカーを持ち出し始めたころから徐々におかしくなり始めた。

 なぜか台所から出てきた大量のリキュール類などを利用し、たづなさんが持ってきたソフトドリンクも使ってカクテルを作り始めたのだ。

 バーテンダー顔負けのアピールを伴うカクテルに、場はどんどん盛り上がっていく。

 だが、ライトハローの作るカクテルは、アルコール濃度高めにもかかわらず飲みやすいものが多かった。

 結局皆どんどんアルコールが回っていき……

 

「御覧のありさまだよ」

 

 トレーナーの部屋は酔っ払いで埋め尽くされた。

 

 

 

 

「トレーナーさんはですね、なんでこんな無茶ばかりするんですか!!」

「はい、ごめんなさい」

 

 酔っぱらって絡み上戸になったたづなさんに、トレーナーは絡まれていた。

 ビタージュースの飲み過ぎと、仕事のし過ぎという点をエンドレスで叱られ続けている。

 現在4周目に入ったところである。

 

「なんでロイヤルビタージュースなんて劇薬を常飲しているんですか。パカなんですか! 頭ロイヤルビタージュースなんですか」

「ごめんなさい」

「アハハハハハ、トレーナーちゃんかわいいですねぇ!! 真っ白でかわいいです!!」

 

 そんな正座で謝罪をしているトレーナーを撫で繰り回しているのが真っ赤になった桐生院トレーナーである。白毛好きなので、白毛のトレーナーのことも気に入っているのだろう。さっきから抱きしめたり頬ずりしたりを繰り返している。

 別に同性だし減るもんじゃないから構わないが、あまり他所のウマ娘の匂いをつけてると担当に嫌われるぞ、ウマ娘の鼻はいいからな。そんなことをトレーナーは思いながらも、たづなさんが怒る勢いが怖くて全く何も言えなかった。

 なお、撫でくりまわしている桐生院トレーナーについて、たづなさんは全く無視である。

 

「素晴らしい、貴方の毛並み!! きっとウマ娘の生徒を助けるために日々努力しているのでしょう!! 私が手入れしてあげます」

 

 桐生院トレーナーの逆側には、乙名史記者がトレーナーにへばりつきながら、髪やら肌やらの手入れをしている。なんか右半分だけ艶々テカテカの、左右で使用前後みたいになりそうな勢いである。

 いつも以上に褒め上戸になった乙名史記者は、延々とトレーナーを褒めている。

 正面から叱られて、右から褒められて、左から愛でられて、どうしていいかトレーナーはわからなくなっていた。しかも三者とも、お互いは一切目に入っていないのだからもうどうにもならない。

 

「ごめんなさい…… ごめんなさい……」

 

 そんな中、部屋の中にトレーナー以外の謝罪の声が響き続ける。

 樫本トレーナーの泣き声である。

 泣き上戸である彼女は昔、担当していたウマ娘に延々と謝罪しながら泣いている。

 怪我をして引退したことに責任を感じているらしく、そのトラウマが飲み過ぎで爆発したようだ。

 真っ黒な髪を床に散らばらせながら伏せて泣く彼女の姿は結構ホラーだ。

 

「あっはっはー りこぴんの太もも柔らかーい!!!」

 

 そんな樫本トレーナーの膝を強制的に借りて寝ているのはご機嫌に酔っぱらっているライトハローだ。

 なんだリコピンって、樫本トレーナーはトマトじゃねーんだぞ。まあ確かにトマトのように真っ赤に酔っていたが。そんなことを聞いて思ったトレーナーだが、やはり口に出せる余裕はなかった。

 

「そもそもりこぴんは昔のこと引きずり過ぎだよぉ」

「うるさいですね、貴方に何がわかるんですか」

「あの子なら今元気にしてるんだしそれでいいじゃん」

「知ってるんですか!?」

「同期ですからね」

 

 どうやら樫本トレーナーのトラウマになっている担当ウマ娘とライトハローは同期だったようだ。

 

「いま彼女は結婚して、赤ちゃん産まれたらしいですよ」

「……ガフッ」

 

 樫本トレーナー(XX歳独身 職業トレーナー)は、教え子に子供が生まれたという情報を聞いて、完全に撃沈した。

 

「ゴフッ」

 

 ライトハローの同期はトレーナーにとって後輩である。それが結婚し子供が生まれているという事実に気づき、トレーナー(2X歳独身 職業トレーナー)もまた、撃沈した。

 

「ゲフッ」

 

 駿川たづな(XX歳独身 職業理事長秘書)も、その教え子の現役時代のことは知っていた。樫本トレーナーがトレーナー職を休業した理由となった、その頃のことを一部始終見ていた人間だ。

 あのかわいい生徒が結婚して子供が生まれたという現実に彼女は耐えきれなかった。

 

「グフッ」

 

 ライトハロー(2X歳独身 職業イベントプロデューサー)もまた、同期に子供が生まれたという情報を思い出して、メンタルが破壊されて倒れた。

 ただの自爆である。

 

 いきなり倒れた4人に、桐生院トレーナーは困惑し、乙名史記者は今度はビールの瓶を褒め称え始めた。

 ただの地獄の光景がそこにあった。

 

 

 

「私が結婚できないのは理事長が悪いんです!!」

 

 静寂の後、たづなさんが立ち上がった。

 アルコールが回った頭では碌なことが考えられない様だ。

 

「そう、あのかわいくて一生懸命でかわいい理事長が!! 私に仕事を振るから!! 私は結婚できないだけなのです!!」

「「そうだそうだー!!」」

 

 謎の理論で理事長を批判し始めるたづなさんに、同調する樫本トレーナーとライトハロー。

 たづなさんと樫本トレーナーは事実かもしれないが、学園の部外者であるライトハローは絶対理事長関係ないだろ、とトレーナーは思った。

 

「ということで理事長宅を襲撃します」

「「「「おー!!」」」」

「みんな にんじんは持ったな!! 行くぞォ!!」

「「「「おー!!」」」」

 

 いつの間にか、合流した桐生院トレーナーと乙名史記者と一緒に、トレーナーは運ばれていく。

 目的地は理事長宅であった。

 

 

 

 塀を超え、扉を破り、理事長の部屋へと向かう5人+荷物のトレーナーの前に立ちふさがったのは、いつも理事長の頭の上にいる猫であった。

 5人に勝てる訳ないだろといわんばかりに猫に襲い掛かった5人だったが、猫パンチにより一瞬にして床に叩きつけられ敗北した。

 

 理事長の睡眠は守られたのであった。




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