前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース   作:雅媛

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第四話 ロイヤルビタージュースの学術的研究 すなわちそれはウマ娘の神秘の研究であり、無限増殖を可能とする永久機関である

 ロイヤルビタージュースとはいったい何だろうか。

 アプリにおいて、飲めば体力が100回復するとともに、やる気が1段階下がる代物だ。

 体力が100回復するということはどういうことか。

 通常、1ターン、半月お休みをすると、平均50ほど体力が回復する。

 100というのはその倍、一月お休みするのと同義だ。

 一月のお休みに匹敵するぐらいの回復。

 体力減少や怪我未満の痛みなども全部治る、それだけの効果があるロイヤルビタージュースはいったいどれだけの効果があるのか。その恐ろしさは理解できるだろう。

 どんな最高級の栄養ドリンクでも、ロイヤルビタージュースほどの効果もないはずだ。

 

 そしてやる気が1段階下がるというのは、例えば片頭痛になったとき、例えばレースの出すぎで肌荒れが出る時になる現象である。

 片頭痛とは、一般的にはストレスや疲労で血管が拡張した結果生じる症状であり、レースの出過ぎの肌荒れは、やはり疲労とストレスで生じているものと考えられる。

 どちらも精神的にかなり負荷が勝っている状況だと考えられそんな精神負荷を味だけで再現するロイヤルビタージュースの恐ろしさは理解できるだろう。

 

 このロイヤルビタージュース、なぜかトレセン学園の購買で販売されているが、使用はかなり注意が必要だ。

 なんせ、不味さだけで病気になるぐらいと同じ精神的負荷をかけるのだ。

 下手をしなくても使用すれば、虐待で学園上層部どころか教育委員会と児童相談所と警察が飛んできかねない、そんなヤバいものである。

 だが、商品棚から撤去されることはない。なぜか、撤去しようとしても次の日には元に戻っているし、消費されたらどこからともなく補充されるのだ。

 

 そんな呪物か何かじみたそれを愛飲しているのがトレーナーであった。

 一日三杯。三食の代わりのロイヤルビタージュースを飲み干している。

 栄養価的には問題ない。というか栄養多過である。余った栄養は胸部や臀部についている。そして、そんな劇薬を常飲し続けた結果、トレーナーの真っ白だった白毛は、ゲーミングで虹色に輝いていた。

 本人は夜も仕事するのに明るくて便利だと喜んでいるが、そんな解釈をするのは本人だけであり、周りの人間は皆ドン引きである。

 

 ちなみにトレーナーが担当を探し始める前、トレーナーは学生ウマ娘たちから結構期待されていた。

 なんせ、今までいなかったウマ娘のトレーナーであり、しかも学園出身。

 未勝利でレース実績がないのは気になるが、元生徒会ということで信用はバッチリ。

 気心も知れているだろうということで、期待していたウマ娘は多かった。

 だが、ふたを開けてみれば、なんか髪の毛がゲーミングしているし、目の下のクマは真っ黒で目がドブの様な色をしている。更になんか三日ぐらい洗っていないウマ娘の匂いもするし、何より全身からロイヤルビタージュースのオーラがモワモワと漂っている。

 ウマ娘たちは逃げ出した。

 トレーナーたちも逃げ出した。

 何も考えず、同期の存在を喜んでいた桐生院だけが残った。

 結局トレーナーに担当ウマ娘が見つからなかったのは120%本人の責任である。ゴールドシップに拾われなかったら、きっと保健所に連れていかれてしまっていただろう。

 

 まあ、トレーナーの話はどうでもよい。

 重要なのはロイヤルビタージュースである。

 トレーナーは、ロイヤルビタージュースをもっと万人に飲んでもらうことを考えていた。

 なんせとても体に良い。

 今はまだ効かないが、そのうち癌にも効くようになるだろうぐらいの健康効果である。

 だが、担当ウマ娘に飲ませれば、虐待を疑われるほどの不味さである。

 慣れれば案外それもまた癖になるが、そんなの世界広しと言えどもトレーナーだけである。

 

「ということで、完成しましたロイヤルビターウナギゼリーです」

「何が『というわけ』なのか、小一時間問い詰めたいんだが」

 

 禍々しいオーラを放つ黒い塊をもって、満足そうにするトレーナーから、ゴールドシップは一歩距離を取った。

 

「万人にロイヤルビタージュースを受け入れてもらうため、工夫をしたんですよ」

「どういう工夫だよ。どうしてそれで受け入れてもらえると思ったんだよむしろみんな逃げるだろ」

「ウナギって滋養強壮にいいじゃないですか」

「そうだな」

「ロイヤルビタージュースも滋養強壮にいいじゃないですか」

「まあ、そういってもいいかもな」

「だから二つ合わせれば最強かなって」

「まず味を考えろよ」

「早速試食」

 

 煮凝りなんかよりもよほどどす黒く、ダークマターのように輝くそれを一口、トレーナーは口に運び……

 

「ゲロマズッ!!!」

 

 口からレインボーを噴出した。

 

 

 

「いけると思ったんだけどなぁ」

「どこを見ていけると思ったんだよ。絶対食いたくないよそれ」

「まあ失敗は成功の母ですし」

「それが成功につながることは100%ねえよ」

 

 ゴールドシップのツッコミを無視し、トレーナーは次のものを持ち出した。

 小さなコップに入っているのは、見た目は普通のロイヤルビタージュースだ。

 臭いも普通のロイヤルビタージュースである。

 少しだけ舐めてみると、味も普通のロイヤルビタージュースであった。クソ不味い。

 

「なんだこれ?」

「ホメオパシーとかいうのを参考にして作ってみました」

「トレーナー、似非科学だけは手を出しちゃダメだろ。というか、普通のロイヤルビタージュースと全く変わらないんだが、何倍に薄めたんだ?」

「水で100倍希釈を30回ですね」

「……いやおかしいだろ」

「そうですか?」

「水の分子量は18だから、水18gに含まれる水分子の数が1molだ。大体このコップに50ccの水が入っているなら、約3mol、3×6.02×10の23乗だけの分子が含まれていることになる」

「ゴルシちゃんは賢いですね」

「で、100倍希釈を30回したら、元の物は10の60乗分の1しか残ってねーじゃねーか。計算するとロイヤルビタージュースの分子1個も残ってねーはずだぞ」

「おかしいですね」

「おかしいのはトレーナーの頭とロイヤルビタージュースだよ」

 

 ゴールドシップは意を決していっぱい飲み干す。

 体力が100回復する感覚とともに、不味さでやる気が下がった。

 トレーナーが冷蔵庫から取り出したやる気スイーツパフェを食べてどうにかやる気を回復するゴールドシップ。

 

「はっ、もしかして、薄め続ければ無限にロイヤルビタージュースが増えるのでは?」

 

 世界の法則を乱すような無限増殖を始めそうになったトレーナーだったが、ゴールドシップが優しく後ろから裸締めをして、気絶させた。

 

 残念ながら、トレーナーのロイヤルビタージュース中毒が治ることはないだろう。

 人間辞めますか、ロイヤルビタージュース辞めますか、と聞かれても、トレーナーはすでに人間の方を辞めていそうな側である。

 そんなトレーナーは今日も元気ブラック労働をしながら、ロイヤルビタージュースをキめるのであった。

RBJ、どんな味でしょう

  • とても苦い
  • とても酸っぱい
  • とても辛い
  • とても甘い
  • とてもしょっぱい

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