前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース   作:雅媛

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第五話 北海道でメイクデビューを迎えたゴールドシップと、蟹工船で働くトレーナーとライトハロー カニ鍋とマグロを添えて

 ゴールドシップのメイクデビューは函館で行うことになった。

 府中から函館まで、ゴルシちゃんワープで5分で着くので、過労気味で時間がないトレーナーでも同行は容易であった。

 そして、ゴールドシップはメイクデビューに、先行逃げ切りであっけなく勝利をおさめた。

 ゲート難を克服したゴールドシップに敵はいなかった。

 もっとも、ゲート難を克服するまでが一番大変だったのだが……

 

 なんせ、ゴールドシップはゲートに入るのが嫌いなのだ。嫌いなものは嫌いだからしょうがない。

 もうレースやめよっかな、と思うぐらい嫌いなのだ。

 それなのに鬼畜トレーナーは何度もスタート練習をさせた。

 トレーナーが横で付きっ切りで教えてくれたって我慢の限界があった。

 なのでゴールドシップは練習用ゲートを蹴り壊した。

 というかトレーナーも一緒に切れて蹴り壊していた。トレーナーもゲートは大っ嫌いなのだ。

 しかしゲートを壊しても次のゲートが出てくるだけだった。

 5台壊し、10台壊し、壊しても壊してもゲートが出てくる状況を見て、ゴールドシップは悟った。ゲートを壊して解決するのは不可能だと。ゲートを見るとIQが急激に3ぐらいになるゴールドシップでも魂でようやく理解したのだ。

 

 では、ゲートを壊すのが無理ならば、どうすればいいか。

 レースに出ないというのも一つの選択だろう。だが、レースに出ないという選択肢はゴールドシップには存在しない。そんな敵前逃亡は『面白くない』。ならば、ゲートも壊さず、レースをすることを考えなければならない。

 そうして、ゴールドシップが出した結論は、シンプルだった。

 出来るだけゲートにいない。すなわち、一番最後にゲートに入り、一番最初にゲートから出る。これが、ゴールドシップのぎりぎりの妥協であった。

 

 その発想の転換の結果、ゴールドシップのスタートは誰よりも早くなった。

 0.01秒でも早く出ようとするゴールドシップのスタートにより、先行し、そのまま走り続け、逃げ切るというスタイルが確立してしまったのだ。逃げゴルシの完成である。

 

 なお、トレーナーはゲートを壊しすぎた弁償のため、函館までは同行したがその後レース観戦はせずに蟹工船で働いていた。

 

 

 

「頑張りましょうね」

「そーですねー」

 

『蟹工船 トレセン丸』は、ウマ娘力エンジンを搭載した木造船である。

 船長はトレーナーで、エンジン係は同じくゲートをぶっ壊していたライトハローがしていた。ウマ娘が漕ぐことで、発電から動力まで何もかも行うという、理事長が夏休みの自由工作で作った最新鋭の船であった。

 

「でも、カニってどう採ればいいんでしょう?」

「さあ?」

 

 ひとまず海に出て、このダメ大人二人は困っていた。

 カニの捕まえ方がまるで分らないのだ。どうやってカニの漁をすればいいのだろうか、そこから全くわからない。ならばなぜ蟹工船を選んだかというと、理事長がなんかよくわからないが船を作っていたためである。それを借りてきただけなのだが、それ以上のプランが二人にはなかった。

 

「ひとまず潜って取りましょうか」

「そうですね」

 

 トレセン学園時代のスクール水着に着替えて潜ることにした二人。

 成人ウマ娘に学生用のスクール水着はいろいろな意味でキツすぎるが、幸い海の上で他人が見ていないので苦情が来ることはなかった。

 そのまま二人は海に飛び込んだ。ウマ娘の肺活量とパワーをもってすれば、潜水ぐらいそう難しいものではない。海底にいた蟹を両手で捕まえて、二人は船に戻った。

 

 北海道の海とはいえ、夏であったため、そこまで冷たくはなかった。

 二人はそうやって、カニを捕まえたり、泳いでいるマグロと競泳をした後、素手で捕獲したりといったことを繰り返しているうちに、それなりの漁獲量になっていた。

 

「トレーナー、何楽しそうなことしてんだよ!!」

「あ、ゴールドシップさん、初勝利おめでとうございます。お祝いの蟹ですよ」

「生で渡してくんな!!」

 

 夕方になると、ウイニングライブを終わらせたゴールドシップも泳いで合流し、3人でゴールドシップの初勝利を祝ってカニ鍋を作り始める。

 蟹を贅沢にぶち込んだだけの鍋であるが、とれたてであり非常に味は良かった。

 さらに、マグロを解体してお造りにして食べれば、もう満足である。

 燃料としてなぜか積み込まれていた酒も入り始め、トレーナーとライトハローはべろべろに酔っぱらってしまった。採れた魚介類はほとんど食べつくしてしまったが、明日また頑張って収獲しようなんてことを二人は考えていた。

 

 事故が起きたのは明け方であった。

 そのまま船の上で雑魚寝を始めた三人だったが、焦げ臭いにおいに気づいて目を覚ました。

 

「なー、トレーナー。なんか焦げ臭くね?」

「んー、隣でサンマでも焼いてるんですかね?」

「海の上でサンマ焼くのはさすがに難易度たけーだろ」

 

 そんなことを言いながら目を覚ました3人は気づいた。船が燃えている。

 

「ちょ、トレーナー!! 火事だ火事!!」

「どうしよどうしよ!! 水かければ!!」

「だめです!! 消火できません!!」

 

 バケツすらないこの木造船の火事を消火することは不可能であった。

 幸い太陽は登り始めており、陸は見えている。三人は慌てて海に飛び込み、そのまま逃げだしたのであった。

 なお、船の火事の原因は鍋を作った火の不始末であり、残念ながら船は全焼し、沈没してしまった。せっかく作ったお船が沈んだ理事長はションボリルドルフしてしまい、キレたたづなさんに大人二人はとても怒られるのであった。

 

 何にしろゴールドシップの快進撃はここから始まる。ここからジュニア期だけで重賞2勝にG1勝利まで治める大活躍をするのだが、それとトレーナーが背負ったゲート代金の借金に蟹工船の費用の借金はまるで関係なく、返済はまるで進まないのであった。

 

RBJ、どんな味でしょう

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