前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース   作:雅媛

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第七話 大人げない会長とカワイイハルウララともっとかわいいウマ娘のレース。なお女帝の色気は視界が狭まるほどすごい。

 さて、グランドライブが終わればアオハル杯のレースである。

 幸い参加者はそれなりに集まり、そこそこ盛り上がるイベントとなった。

 

 特にメイクデビュー前後のウマ娘らが多く参加し、トレーナーや、一般の一口スポンサーへのアピールに利用している。

 選抜レースと違い、チームプレーができることから、協調性なども見られると評判が立っているようだ。

 そのため、東京競馬場で行われたアオハル杯では、いくつものレースが行われることになったわけだが…… メインレースは、トレーナーが声をかけて準備していたメンバーで行われることになった。

 なんせ、生徒会長のシンボリルドルフが出るレースだ。ほかにも一流どころが何人も集めてしまったため、メイクデビュー前後のウマ娘たちとはレベルに差があり過ぎた。もちろん人気も一番集中するため、メインレースとしては最適であった。

 

 そんな、全6チーム、1チーム3人ずつの総勢18名で行われるメインレースのパドック入りが始まり、会場の盛り上がりはどんどん高まっていく。

 

 まず最初のチームはチーム生徒会である。

 シンボリルドルフとエアグルーヴの生徒会ペアに、ハルウララというなかなかすごい組み合わせである。尤も、生徒会長の尽力により、因子を継承したハルウララは芝中距離の適性がDになっており、最低限は走れるようになっている。デバフスキル極盛で来ているシンボリルドルフとエアグルーヴの援護も期待できる布陣であった。

 対するのはタイキシャトル率いるチームアオハルである。

 タイキシャトルとマチカネフクキタル、ライスシャワーという3名で構成されたチームであるが、中距離は厳しいタイキシャトルに、京都じゃないと力が出ないライスシャワーと、あまり今回のレースに向いていないメンバーがそろってしまっている。フクキタルの頑張りを期待するしかないだろう。

 次のチームは、スマートファルコン率いるチーム逃げシスだ。

 ミホノブルボンにサイレンススズカと逃げばかりがそろったチームだが実力は十分であり、チームプレイを活かして勝利を目指しているらしい。

 4つ目のチームはチームカノープス。

 デバフと言ったらというぐらいデバフに向いたナイスネイチャに、今日は鼻血も出していないマチカネタンホイザと、他の2人は実装されていないため、イクノディクタスに頼まれたメジロマックイーンが加わったチームである。

 5つ目のチームはチームマッド。

 アグネスタキオンと不審者の安心沢刺々美、さらになぜかそんな中に混ぜられてしまった樫本理子トレーナーというすさまじく異色のチームだった。笹針と怪しいお薬で強化された樫本トレーナーにすべてをかけたチームである。

 最後は我らがゴールドシップが率いるチームである。

 メンバーは、トーセンジョーダンと、ナカヤマフェスタという結局友達で固めた編成である。面白いことが思いつかなかったらしい。

 

 ちなみにチームファーストも参加を予定していたが、リコピンが攫われたため探索を理由に棄権していた。こんなところにいるとはだれも思わないだろう。

 

 

 

 こんなカオスな総勢6チーム、18人がそろった東京競馬場、芝2000mのレースが、今、ゲートを開いた。

 先頭を切ったのは、チーム逃げシスではなく、何と樫本トレーナーである。

 強化され切ったパワーを使ってすさまじい勢いで先頭を取り……

 

 そのまま転んで動かなくなった。

 いくら肉体的に強化をして、ウマ娘を超えるパワーを身につけたとしても、走る技術がまるでない樫本トレーナーでは使いこなせるわけがなかったのだ。

 

「うーん、失敗だね」

「この失敗を生かして次につなげないとね♪」

 

 そんなことを言う二人の後ろに、迫る影があることは本人たちは気づいていない。

 彼女らに次はないこと、明日の朝日も拝めないことを、当人たちは知る由もなかった。

 

 チームファーストの2人に不審者は連れられ、樫本トレーナーも回収されたため、チームマッドは参加者がいなくなり失格となるのであった。

 

 

 

 レースは順調に逃げシスが先頭を取った。

 

「スズカちゃん、ブルボンちゃん、ジェットストリームアタックを仕掛けるよ!!」

「了解です、ファル子さん」

「……」

 

 三人は縦に並んで、ターフを走っていく。先頭が風よけになることで体力を温存するトレインと呼ばれる戦法である。

 この中で芝適性が低いスマートファルコンが先頭を取り、三分の一を全力で走って風よけをする。

 その後ろがミホノブルボンで、ファル子が垂れたら風よけを変わる。

 そして、最後に残ったスズカが全力で走り切る。

 まさに完璧な戦法である。一流どころの逃げウマ娘でこんなことをやられたら、勝てるウマ娘なんているわけがない。そう、完璧な戦法であった。

 

 

 実行できれば、であるが。

 

「ちょ、ちょっとスズカちゃん!?」

「先頭…… 先頭……」

「スズカさん、暴走です」

 

 視界に誰かがいるというストレスと、後ろからのルドルフやエアグルーヴのデバフ圧力ですさまじく掛かってしまったスズカが暴走してしまったのだ。

 

「ブルボンちゃん!! ファイナルフュージョン!!」

「ファイナルフュージョン、承認できません」

 

 慌てて位置替えを試み、ブルボンをエースとする隊列を組みなおそうとしたが、スズカが速すぎてついていくのがやっとであった。

 こうして競い合いになってしまった逃げシスは、仲良く中盤で皆潰れてしまうのであった。

 

 

 

 最後尾につけたシンボリルドルフとその前を走るハルウララ。

 シンボリルドルフはすごい勢いでデバフをまき散らしている。

 まずは「中央を無礼ルナよ」な表情をしながら『八方睨み』をしているのは序の口であり、「ウララちゃんの邪魔をするならシンボリの力で全部潰してやる」という脅迫まがいどころか純粋に大人げない脅迫の『魅惑のささやき』をつぶやき続けている。

 さらに『独占力』でウララを独占しながら参加者全員が対象となる『逃げけん制』『先行けん制』『差しけん制』『追込けん制』までしているのだから、コース上はただの地獄になっていた。

 前を見ると、先行しているエアグルーヴが、これまた『幻惑のかく乱』に、フジキセキから教わったらしい『見惚れるトリック』でほかのレース参加者の視野を狭めている。具体的な方法についてはウマぴょい警察に捕まってしまうので書けないが、女帝のその胸部は豊満であり非常に弾んでいること、今日の衣装の襟元は非常に開いていることだけはここに記しておこう。

 その女帝のお色気にやられた某アイルランド王家の姉が、ウマだっちしながらコース上に乗り込もうとし、妹殿下に締め落とされていたが、まあ細事だろう。

 

 前方からのお色気攻撃と後方からの冗談じゃない圧力に、間に挟まれたウマ娘たちは次々撃沈していく。

 ライスシャワーは「私、パンになる……」と言いながら垂れていくし、タイキシャトルは単純に距離適性の問題からスタミナが切れて垂れていった。

 一人頑張って居たマチカネフクキタルは、女帝の色っぽい声に気を取られた隙に垂れてきたスズカと激突し、「ふんぎゃろ」という断末魔を上げていた。

 

 ライバルをすべて蹴落として、満を持して直線に入ったハルウララはどんどんと伸びていく。のちに有馬記念を勝つことになる彼女の伝説は、ここから始まる予定であった。

 のこり400m

 のこり300m

 のこり200mで100mの高低差はない坂を上ろうとしたところで、外から襲い掛かる影が急に現れる。

 それは、永遠の三番手、ナイスネイチャであった。

 

 女帝のお色気攻撃は、確かに有効であり、純情なウマ娘たちは次々撃沈しアイルランドとの国際問題を起こしかねないほどの威力を持っていたが、実家がスナック経営で下町出身のナイスネイチャにとっては大したことはない、といった感想しか抱かなかった。

 自分との差に少し卑屈になりながらも、あまりイレ込むこともなくレースを続けることができた。

 後ろからの皇帝のメンチには、同じく名家出身のメジロマックイーンがメンチを切り返していた。

 メジロにキましたわ、と言わんばかりのにらみあいにより、ナイスネイチャは守られていたのだ。

 

 そうしてデバフの影響をあまり受けずにレースを進められたナイスネイチャと、守られてきたハルウララの一騎打ちになったのだが……

 さすがにバ場適性、距離適性に差があり過ぎた。

 最終的にナイスネイチャが抜き去り、1着になるのであった。

 

 

 

 ヒーローインタビューではナイスネイチャの投げキッスと「お金持ちのイケメン彼氏を常時募集中」と言ったために死ぬほどスポンサーが集まり、これがのちに恵まれないウマ娘たちの基金となるナイスネイチャドネーションにつながるのは、皆が知る通りである。

 このように、最初のアオハル杯は大成功に終わるのであった。

 

 なお、話に一切出てこなかったマチカネタンホイザは走行中に口に蜘蛛が飛び込んできて撃沈しており、ゴールドシップは出走前にトーセンジョーダンを蹴とばしたせいで喧嘩になり、スタート前に失格になっていたのであった。




トレーナーさんは、たづなさんに怒られて真面目に仕事をしています。

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