前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース 作:雅媛
グランドライブとアオハル杯は成功に終わり、ひと段落ついたある日、打ち上げと称して大人たちが集まっていた。
夜11時を回り、学生たちが外出できなくなった時間での飲み会である。
そう、飲み会だったはずなのだ。
お通夜のような静けさに支配されたトレーナーの部屋の中。
参加者の前に置かれているのは、ロイヤルビタージュースであった。
「トレーナーさん。こ、これは……?」
「この前函館沖で潜っていた時に、海底に沈んでいたタイタニック号を見つけまして」
「?????」
「その中に置いてあったロイヤルビタージュースの瓶を引き上げたんです。ラベルに1800年代って書かれてましたから100年物ですよ」
「?????」
たづなさんが意を決してこれは何かを聞いたが、トレーナーの説明を聞いても何一つわからなかった。
多分神話知識とか、そういう技能が足りていないのだろう。
だが、目の前に置かれた緑の悪魔の放つ存在感だけは本能的に理解していた。
誰も動けない。動いたら多分この目の前の名状しがたきRBJに食われる。そんな幻想すら抱く中、動いたのはトレーナーだった。
「この熟成された豊満な香り……」
トレーナーがうっとりと香りをかぐ。
ライトハローも匂いを嗅いでみた。青汁の青臭さを濃縮したかのような雑草のような匂いがする。
「熟成され、まろやかになったこの味」
トレーナーが一口だけ口をつけてうっとりとそんなこと言う。
まさかと思い少しだけ舐めたたづなさんが悶絶した。この味は文字で表現することはとても無理だった。
「そしてこの滑らかなのど越し」
トレーナーが飲み干す。
明らかに見ているだけでも粘度がやばく、なかなか落ちていかない。
のど越しなんて試してみなくても明らかだった。
目がイっているトレーナーはとうとうと語りだす。
「今からロイヤルビタージュース、RBJの始まりのお話をしましょう。
ある日、三女神様たちがたまたま下界を見ていた時、とあるウマ娘を見つけました。
そのウマ娘は非常に疲れていました。それもそのはず、彼女は非常に働き者であり最初は嫌に感じていたお仕事を働けば働くほど楽しくなってきてしまい、最近では働くことが非常に楽しく寝る間を惜しんで働いてしまうような女の子…… 女性…… うん、女の子だったからです。
今にも倒れそうなのにニコニコ笑いながら仕事をしている。三女神さまたちは非常に哀れに思いました。この迷えるウマ娘に救いとふかふかお布団を。
すぐさま下界に降りて安眠の時間をプレゼントしようと思った三女神様でしたが、とあることに気が付きます。このウマ娘、何も食べていないせいでとてもやせ細っていると。
お仕事を恋人にしてしまった彼女は文字通り寝食を捨て去ってお仕事に励んでいたのです、何も食べてなければガリガリになっちゃうのも必然。この状態で寝かせてしまうと間違えてこっち側に来てしまいそうです。
そんな時、一人の女神さまがいいことを思いつきました。
『この子にロイヤルビタージュースを上げましょう』
ロイヤルビタージュース、それは三女神さまの宝物庫の中にいつの間にか紛れ込んでいた劇薬。ひとたび舐めれば三女神さまでも意識を失ってしまうような不味さ。匂いを嗅いだだけで目がチカチカしてしまうほどのヤバいジュースです。しかしながら三女神さまが持つどんな宝物よりも栄養満点で、残業後に一度口に含めばもう一晩お仕事ができるようになるほどエネルギーにあふれています。
栄養満点だがとてもまずい、三女神さまはこれを飲んだ女の子は自身の行いを反省し、大好きなお仕事もほどほどにしてくれるだろうと半ば在庫処理のように彼女に分け与えました。
それが、何かの間違いだったのでしょう。
一口そのジュースを口に含んだ彼女は一瞬その不味さに驚きますが、すぐにそのすべてを飲み干してしまいます。栄養不足だった体に過剰な栄養を流し込んだのが悪かったのでしょうか、きれいな髪はなぜか七色に光りはじめ、まだ光が残っていたはずの目から完全に輝きが消え失せます。そして彼女は、高らかにこう叫んだのです。
「おかわり」と。
これがのちに、聖なるロイビタ教の聖女にして三女神さまの巫女となる一人の少女? であったのです」
聖なるRBJ教聖書 第1節『まずいもういっぱい』より、と締めたトレーナーの表情は明らかにトリップしていた。
このままでは変な宗教に洗脳される。そんな危機感を全員が抱く。
そんな中、まず最初に動いたのは駿川たづなであった。
ヒトがウマ娘に勝つことは難しい。それは引退したウマ娘でも同じことがいえた。
トレーナーさんも多分まだウマ娘である。ロイヤルビタージュースの妖精とかそういう生き物ではないだろう。
ならば、同じウマ娘が抑えないといけない。この中で一番強いのは幻のウマ娘といわれ、現在も学生たちとよく追いかけっこをしているたづなさんだろう。
だから、錯乱しているトレーナーを取り押さえようとしたのだ。今までの経験上、トレーナーはたづなさんに勝てなかったのもあった。
「遅いですよ」
「なっ!?」
トレーナーはたづなさんの目の前から消えた。残像である。
そして後ろに回り込むと、左手に持っていたロイヤルビタージュースを、たづなさんの口に流し込んだ。
青臭さとまずさに口が支配されたたづなさんは、力尽き倒れるのであったのであった。
ロイヤルビタージュースによりパワーアップしたトレーナーに勝てる者はこの場にはいなかった。
後はだれから犠牲になるか、それだけしか彼女らには選択肢はなかった。
「そう言えば樫本トレーナー」
「ひっ!!」
「アオハル杯に強制的に出させられて大変でしたね」
「い、いえそれほどでも」
実際は全く大丈夫ではないリコピンにターゲットが合った。
アオハル杯の後遺症でまだ筋肉痛が消えていないリコピンは、動きが鈍い。
「これで元気になれますよ!」
「ごはっ、ごほっ!!」
強制的にロイヤルビタージュースを流し込まれたリコピンは倒れ伏した。なんとなくゲーミングに輝き床に倒れている彼女のダイイングメッセージはトレーナー、である。
「次に安心沢さん」
「ひっ!」
「お祭りだから騒ぎたくなる気持ちはわかりますが、ダメですよ、おイタが過ぎます」
「たすけ、たすけて……」
「大丈夫、すぐに慣れます」
不審者の口にロイヤルビタージュースの瓶が突っ込まれる。
不審者はすぐに撃沈した。ロイヤルビタージュースに耐えられるヒトはいないのだ。
その惨状を見て、意を決したのは乙名史記者だった。
座して死を待つより、自分で飲むことを決意したのだ。
やばいオーラを放つロイヤルビタージュースを一気に飲み干す。
ちょっとずつ飲むなんてできるわけがないオーラを放っている以上、一気のみしかないのだ。
「こ、これは……」
「これは?」
「純粋に、不味い……」
それだけ残して、乙名史記者は倒れた。
いつもポジティブすぎる解釈をする彼女にも、ロイヤルビタージュースの不味さは許容できなかったようだ。
「私が行きます」
「桐生院さん!?」
「我が家の奥義、鋼の意志をもってすれば、ロイヤルビタージュースにも耐えられるはずです!!」
ライトハローが悲鳴を上げる中、次は桐生院がソレを手に取った。
桐生院家には、あらゆる状況に動じないスキル、鋼の意志が伝わっている。
これがなければ、魅力的なウマ娘に囲まれるトレーナー業などやってられないのだ。一部のトレーナーは何を誤ったのか、担当ウマ娘に教えていてクソスキル呼ばわりしていたが、それは単にトレーナーの能力不足でしかない。
当然そんな鋼の意志を、桐生院葵も有していた。
一気にロイヤルビタージュースを飲み干す桐生院トレーナー
心配そうに見守るライトハロー
飲み干した桐生院トレーナーは、ライトハローに笑顔を見せて……
そのまま倒れた。
「鋼ごときに、ロイヤルビタージュースが負けるわけがないじゃないですか」
トレーナーが勝ち誇ったように言う。
それ既に、人が飲んでいい飲み物じゃないですよね。
そんな感想がライトハローの脳裏に浮かんだが、現実は何も変わらなかった。
ロイヤルビタージュースの前には人は無力。
結局ロイヤルビタージュースを飲まされたライトハローも倒れ、誰もが倒れ伏した。
そんな場所を後にしたトレーナーが、次に向かったのは理事長のおうちだった。
なんせ理事長も今回のイベントでとても忙しくしていた。
慰労にロイヤルビタージュースをご馳走してあげよう。
善意100%の地獄を引き連れて、トレーナーは理事長宅を強襲した。
当然のように、トレーナーの前に立ちふさがったのは、いつも理事長の頭の上にいる猫であった。
ロイヤルビタージュースに勝てる訳ないだろといわんばかりに猫に襲い掛かったトレーナーだったが、猫パンチにより一瞬にして床に叩きつけられ敗北した。
理事長の睡眠は守られたのであった。
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理事長の頭の上にいつもいる ネコ
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フィジカル最弱リコピン 樫本理子
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トレーナー同期 桐生院葵
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なんでもほめてくれる 乙名史悦子
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スペちゃんが苦手 ダンゴムシ
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会長 シンボリルドルフ
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副会長 エアグルーヴ
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