前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース 作:雅媛
ということで、トレーナーはゴールドシップに運ばれて、生徒会室を訪れていた。
移動の際にゴールドシップから提示された運び方は3つである。
「一つは首輪の鎖を持って連れていく、犬のお散歩方式だな」
「なんでそんな公開変態プレイをしないといけないんですか」
学園内でわんわんプレイとか、トレーナーの社会的な色々が死ぬ。
無残なまでに粉々になって死ぬ。ついでにゴールドシップの社会的信用もやばそうだが、こいつはたぶん地球が爆発しても死なないタイプだから、多分ノーダメージだ。
世の不条理をトレーナーは呪った。
ちなみに首輪だが、丈夫過ぎて外すことができない。絶好調の状態のウマ娘のフルパワー、120%の力を出せれば壊せるらしいが、残念ながらロイヤルビタージュースジャンキーのトレーナーの調子は常に絶不調である。いまだびくともしていなかった。
「一つ目はありえません」
「じゃあ二つ目は、捕獲された宇宙人グレイの運び方だ」
「どんな運び方ですかそれ」
「万歳しろトレーナー」
「? ばんざーい」
万歳したトレーナーの両手首を、ゴールドシップはつかみ、そのまま持ち上げる。
身長差もかなりあるので足が地面につかず、ぷらーんとぶら下がる形になる。
傍から見ているとかなり滑稽である。
「何これ」
「だから捕獲された宇宙人グレイの運び方だって。その辺で拾った宇宙人とその辺で拾ったトレーナーって類似点が多いからな」
「どこに類似点があるんだよ!?」
ジタバタと動きで抗議の意思を示すが、空中でくねくね動いている謎生物以上にはなれなかった。
「そして三つ目だ」
「それがまともなのを祈るよ」
「お姫様抱っこだ」
「ふむ」
そこまですさまじい選択肢は出てこなかった。
お姫様抱っこはそれはそれで恥ずかしくはあるが、前2つよりはまだ常識の範疇に入っているだろう。
それにしようとトレーナーが口を開こうとした瞬間、ゴールドシップは言葉をつづけた。
「結婚式仕様だけどな」
「は? 誰と誰の結婚式です?」
「そりゃゴルシちゃんとトレーナーに決まってるだろ」
「決まってないし! 意味わからないし!!」
やっぱり三つめも地雷であった。
「せっかく結婚式開催三銃士も集めているのに」
「なに? その三銃士って」
「ならば紹介しよう」
「いや、紹介しなくていいんだけど」
「まずはライスシャワー担当のライスシャワー!!」
「ライス、頑張るから!!」
「ナイフ振り回しながら言うセリフじゃないですよねそれ!!」
勝負服を着て、『ライスシャワー担当』というタスキをかけたライスシャワーが、興奮してナイフを振り回しながら現れる。
それで降るのは祝福の米の雨ではなく恐怖の血の雨である。
「ライスね、レコードをいっぱいブレイクするの。それがライスの祝福、ふふふ」
「この子ヤバいこと言ってるけど大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫、続いてバージンロード担当メジロマックイーン」
「赤絨毯の扱いなら慣れていますわ。任せてくださいまし」
「いやマックイーンさん上を歩いてただけじゃないですか!? 敷く方ならじいやさんにお願いするべきでしょ!?」
「大丈夫です、赤絨毯が綺麗に敷かれるのを何度も見てますから」
「見てるだけでできるなら苦労はないんだよ!!」
無駄に自信満々でどや顔をするメジロマックイーン。
ポンコツオーラがあふれており、絶対だめそうである。
なお、ライスシャワーが金棒をどこからともなく持ち出して「これでマックイーンさんを殴れば天皇賞春三連覇のレコードをブレイクできるかな?」と言っているが、トレーナーは見なかったことにした。
「三人目は巫女さん担当、マチカネフクキタルだ!!」
「皆さんふんぎゃろ~♪」
「いやなんで巫女さん?」
「結婚するときに『貴方は永遠の愛を誓いますか?』みたいなこと言うポジションが必要だろ?」
「そもそもそれなら必要なの神父さんだから宗教が違うし、神道だったら神主さんだから巫女さんじゃ違うし、というかフクキタルさんも最初から断りなさいよ!!」
「一度やってみたかったんですよ『貴方は永遠の愛を誓いますか?』ポジションの人」
「キリスト教風なことばっかりしてるとご実家泣いちゃうぞ!?」
最後に現れたのは巫女服を着たマチカネフクキタル。
単純にとてもかわいらしいが、言ってることはどうしようもない感じだ。
「ちなみにみんな菊花賞勝利経験者だ」
「それ、結婚と何も関係ない情報じゃん」
名ステイヤーが集まって何をしているんだ。トレーナーはツッコんだ。
「ということで、どれを選ぶトレーナー? おすすめはもちろん三番だ」
「「「わくわく」」」
そうして訪れる運命の選択の時間。
結婚三銃士も興味深くトレーナーを見ている。
その圧力はとんでもなく高い。
なんせライスシャワーは金棒を握りしめているし
メジロマックイーンはでかい赤絨毯のロールを振りかぶっている。
マチカネフクキタルも自分の身長ほどある招き猫を掲げている。
三番以外の選択肢を選んだ瞬間、彼女らが持っているそれらの武器がすべてトレーナーに振り下ろされそうだ。
だが、トレーナーはトレーナーである。どんな危機的状況でも、無茶は無茶として毅然と対応しなければならない。
ならば、トレーナーはすべて断り自分の足で歩いて移動するべきである。
そう答えようとしたのだが……
「ということで、トレーナーが三番以外を選ぶ可能性はないから、早速始めんぞ」
「「「おー」」」
「聞いた意味は!?」
トレーナーはお姫様抱っこされて、そのまま連れ去られるのであった。
「ゴールドシップさん。あなたはトレーナーさんをトレーナーとして、病めるときも健やかなるときも、互いに支えあうことを誓いますか?」
「おう、誓うぜ!」
「トレーナーさん、貴方はゴールドシップさんのトレーナーとして、病めるときも健やかなるときも、互いに支えあうことを誓いますか?」
「……」
「トレーナーさん?」
「誓います……」
生徒会室。
巫女服姿で非常に可愛いマチカネフクキタルの前で、二人は謎の誓いをさせられていた。内容だけ聞けば、単なるトレーナー契約である。
スカウト全敗記録更新中のトレーナーにとって、ゴールドシップのような超一流ウマ娘と契約を結べるなら幸せなことであるが、何故結婚式風なことをしなければならないのかは、トレーナーにはわからなかった。
ちなみにライスシャワーは圧力釜を生徒会室に持ち込んで、その場でふたを『ドンッ!!』という騒音とともに開けてポン菓子をばらまいている。「ライスシャワーだよ!」とドヤ顔をしているが、生徒会室の床一面にポン菓子がばらまかれてとても迷惑である。
メジロマックイーンは赤絨毯を敷こうとして盛大に失敗し、ぐしゃぐしゃになった赤絨毯にくるまって拗ねていた。見ただけではやはりだめであったようだ。
生徒会の三人は、トレーナーとゴールドシップの結婚式もどきトレーナー契約を祝福している。
「やっとゴールドシップを引き取ってくれるトレーナーが現れたな」
「勇往邁進、トレーナー君には頑張ってほしい」
「本当に大丈夫か、あの組み合わせ。全然ゴールドシップはいうこと聞いてなさそうだが」
トレーナーの相手が決まって安心するエアグルーヴとシンボリルドルフ。
祝福ムードの中、ナリタブライアンの常識的な心配は、ライスシャワー渾身の2度目のポン菓子作成の爆音の中に消えていった。
「それで、もぐもぐ、用件は何、もぐもぐ、だいトレーナー、もぐもぐ」
「ポン菓子食べるか、話をするかどちらかにしてください、生徒会長」
「もぐもぐもぐもぐ」
落ちているポン菓子食べることに集中し始めたシンボリルドルフ。
それを無視してゴールドシップは話を進める。
「いや、昨日な、このトレーナーが正門すぐのベンチで襤褸雑巾のようになって落ちてたから拾ったんだ。だから、飼う許可をもらおうと思ってな」
「なるほど、だがゴールドシップ、お前にトレーナーを飼うことが本当にできるのか?」
「おうよ、まかせとけ」
「そのトレーナーは他人には休めと言う癖に自分はロイヤルビタージュースをキめながら三徹するたわけだぞ」
「いやまずトレーナーを飼うという状況にツッコんでくれよ……」
ナリタブライアンのツッコミはスルーされ、シンボリルドルフは一生懸命ポン菓子を食べている。
「飼うならば、そんなたわけの体調管理もゴールドシップ、お前がしないといけない」
「ご飯もちゃんとあげるし、散歩もちゃんとさせるから!!」
「ロイヤルビタージュースは1日1杯までで、飲んだ後はちゃんとスイーツを食べるという用法用量も守らせられるか?」
「ゴルシちゃん、ちゃんと守るよ!」
「よし、ならば許可しよう」
「あの、私自身の意見は?」
「たわけに人権はない」
「あれ、副会長、もしかして怒ってます?」
「なぜ怒らないと思っているのだ? 会長も私も、トレーナーには非常に怒っている」
「有言実行。休めという者が休まないと、周りは心配することは覚えておくべきだよ、トレーナー」
シンボリルドルフが、急にキメ顔しながら話に混ざってくる。
だが、髪にポン菓子をつけているので台無しであった。
何にしろ、エアグルーヴの許可の元、正式にトレーナーはゴルシちゃんに飼われることになるのだった。