前略 トレセン学園のトレーナーですがブラック労働過ぎて今日もまたロイヤルビタージュース 作:雅媛
トレーナーの現在の仕事は三つある。
一つ目はゴールドシップのトレーニングの監督だ。
念願のトレーナー契約の相手であり、手を抜くことはトレーナーとして全くできない。
ひとまず坂路トレーニングのプログラムを組んだのだが……
「つまんねー、やるきでねー」
と却下されてしまった。
「うぐぐぐぐ、つまらないですか」
「つまんねー。ゴルシちゃんポイント564点満点で30点ぐらいだな」
「うぐぐぐぐ」
確かに定番のトレーニングであるが、そこまで言われてしまうか。
だが、ゴールドシップのことをあまり知らずに定番トレーニングを入れたことは非難に値するのではないか。
トレーナーはまじめにゴールドシップの発言を受けて、考える。
自分しかできないトレーニング、そういうものを考える必要があると。
そうしてトレーナーは思いついた。
「ゴールドシップさんの実力、よく考えたらわからないので、一度見せてもらえませんか?」
「お、模擬レースか? 相手はどうする?」
「それはもちろん私がしますよ」
「トレーナーが走ってくれんのか!」
ヒトのトレーナーと違い、ウマ娘であるのだから一緒に走ることができるのだ。
これは大きなアドバンテージではないだろうか。そう思いトレーナーは提案したのだが、ゴールドシップの反応も予想以上に良い。
一緒に走るというのはウマ娘にとって仲良くなる典型的な方法の一つだ。今必要なのはゴールドシップとの絆を強めることだろう。
「では着替えてきますね」
「早くしてくれよ! あんまり遅いとゴルシちゃん、待ちきれなくて爆発しちゃうかもしれねーからな!!」
現在トレーナーが着ているのは、ゴールドシップが用意したフリフリのゴスロリだ。
トレーナーが持っている服は、桐生院トレーナーの服と似た、女性向けのスーツ系統の服であったが、ゴールドシップに似合っていないとすべて却下されてしまったのだ。
今着ている服は、出会って最初に着せられたゴールドシップのおさがりとは違い、ちゃんとトレーナーのサイズで作られたものだ。
ちなみにサイズは、ゴールドシップに触診で測られた。もうお嫁にいけないと言ったらゴルシちゃんが娶るとか言い出しそうだったから言わなかったが。
この服のせいで、トレーナーだけ毎日が勝負服みたいな状態になっていた。
だが、勝負服と違い、ウマ娘用とはいえ普通の服である以上、レースを走るのに耐えられるような丈夫さはない。
トレーナーは現役時代の体操服を引っ張り出してそれに着替えることにした。
「お待たせしました、ゴールドシップさん」
「おせーぞトレーナー。って、その服、大丈夫か?」
「何か変ですか?」
現役時代の体操服は、トレーナーには着れないほどではないがちょっと小さかった。
もちろん身長は全く変わっていない。だが、成人を超え大人になり、いろいろな部分が大きくなっていた。
そのせいでブルマが尻に食い込んでいるし、胸ははち切れそうなぐらいパンパンである。
変な露出があるわけでもないのに、その豊かな体型と、無理やり着た感のある限界まで伸びきった体操服のせいで、ブルセラ系のいけないビデオのような雰囲気を醸し出していた。
これ、他人に見られていいものなのだろうか、とゴールドシップが周りを見回すと、なぜかライトハローがスマホで写真を撮っていた。
トレーナーはストーカー紛いと言っていたが、何一つ否定できない本物のストーカーがそこにいた。
「まあいいや、ひとまず走るぞ」
「がんばるぞー」
そんな他人の目を全く気にすることなくトレーナーは闘志を燃やしていた。
レース結果はトレーナーの惨敗である。
所詮未勝利ウマ娘で、しかも不摂生がたたっているトレーナーでは、まだデビュー前とはいえ超GⅠ級のゴールドシップにはまるで歯が立たなかった。
「ゴールドシップさん、速いですね……」
「ゴルシちゃん、天才だからな」
「でもゴールドシップさん、どうして追い込みなんですか?」
「どういうことだ?」
「ゴールドシップさんは身長も体重もありますから、体格的に加速が良くないと思います。そうすると、ベストのポジションは先行、しかもかなり前目に付けるレースが一番だと思います」
一口に先行といってもいろいろある。
一番王道は、中団からやや前目を走り、臨機応変にレースをする走り方だ。応用が利き、どんな場面でも実力を発揮できる方法である。
シンボリルドルフやトウカイテイオー、スペシャルウィークなど強者と言われる者にこの走りをする者が多い。
他にはさらに前め、2,3番手の位置をキープし、場合によっては先頭にも立つ走り方をする先行もある。大体は体格が良く、トップスピードよりも平均スピードの高さで勝負するタイプのウマ娘が使う戦法だ。逃げと違い、周りに合わせて自分のポジションを変えられるためレースの主導権を握りやすく、これもまた王道な走り方である。
メジロマックイーンは典型的なこの走り方であるし、ダイワスカーレットやサクラバクシンオーなどもこの走り方だ。バクシンバクシン、と陽気に走っているように見せかけて、あの委員長はそのくらい計算高い緻密な走りをしているのだ。
他にも好ポジションを取って、ライバルをマークしつつ自分は走りやすい場所を確保するというライスシャワーのような先行もあるが…… 何にしろ先行といっても奥が深い。
一方追込は弱者の戦法である。
末脚で勝負するにしても、一番後ろにいる必要はないのだ。中団後方に待機し、上手く抜け出した方がよほど楽である。それでも追込がいるのは、追込でないと走れないウマ娘が一定程度いるためだ。この辺り、逃げしかできないウマ娘とよく似ている。
後ろから追われるのを嫌い、一番後ろにつけてしまうウマ娘。
一度エンジンがかかると全力で走り続けてブレーキができないウマ娘。
追い込みはそういった、『出来ない』ウマ娘が取る戦法だ。
ゴールドシップは癖はあるが賢いウマ娘だ。勝つことにも積極的であり、そうすると前に行くのが正解だとわかっているはずなのだ。
トレーナーの質問には答えず、ゴールドシップは語り始めた。
「トレーナー、ゲートってあるじゃん」
「ありますね」
「あれ、入るとすげーイライラしね?」
「しませんね」
「え、嘘、お前宇宙人かよ」
ゴールドシップのようにゲートが嫌いというウマ娘は少なくないどころか多数派だ。ただ、ゲート導入前でも普通にスタートは嫌いというウマ娘はいたらしいので、スタートの象徴としてのゲートが皆苦手らしい。
一説には、走りたいという気持ちを止められているスタート前というのは、ウマ娘に多大なストレスを与えているという話である。なら、競艇みたいにスタート前に好き勝手走らせて、スタートのタイミングとラインだけ合わせればいいのではないかと思うが、そういう話でもない様だ。
なんにしろ、ゴールドシップはスタートが苦手ということだ。
「じゃあゴールドシップさん、トレーニングメニューが決まりました」
「お、どんなのだ?」
「ゲートのスタート練習300本です」
「おいおい、トレーナー。ゴルシちゃん保護法で、ゴルシちゃんにスタート練習させるのは禁止されてるの知らないのかよ」
「大丈夫です、100本目ぐらいからだんだん気持ちよくなってきます」
「なんかやべーのキメてるみたいになってんじゃん!?」
「イラついたらゲートを蹴とばして壊せばいいんです。結構スッとしますよ」
「トレーナー、お前もゲート嫌いだろ」
「ゲートなんて滅びればいいのに」
トレーナーも強がっただけで、ゲートは大嫌いである。それでもトレーナーのスタートは逃げウマ娘もびっくりなぐらい上手かった。トレーナーは全体的に遅いが、レーステクニックは基本どれも完璧である。
現役時代愚直に練習していたのもあるし、トレーナー試験で知識的な部分も補完したため、技術だけは高いのだ。スタートも、もちろん完璧である。代わりに現役時代にエンドレスでスタート練習をさせられたトラウマもよみがえっている。
「ほら、壊してもいいように古いゲートを持ってきますから」
「いやー!! ゲートはやだー!! HA☆NA☆SE!!」
「ハローさん、見てるならゲート持ってきて手伝ってください。ついでにハローさんもスタート苦手でしたよね。一緒に練習しましょう」
「いや私、別にもう走らないですし……」
急に流れ弾が飛んできて混乱するライトハロー。
「練習するか、ゲートのように蹴破られるか、どっちがいいですか?」
「イエスマム! スタート練習します!!」
ライトハローは思い出した。
ゲートが嫌いすぎて、スタートゲートの開閉が電磁石式になったときに「これでゲートを蹴破ってスタートできますね」と嬉々として蹴破って失格になった上に、今でも中央では機械式のゲートになる原因を作った先輩のことを。
それを知っているライトハローに、ゲートのように蹴破られる危険性を無視してでも拒否できるほどの度胸はなかった。
こうしてゴールドシップと、ブルセラ成人ウマ娘二人の地獄のスタート練習は始まったのだった。
そういえばトレーナーさんの毛色ってなんだろう(未設定) 皆さんの印象は?
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鹿毛 一番多い
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栗毛 こっちも多い
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黒鹿毛 いうほど黒くない
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芦毛 白くて結構目立つ
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青鹿毛 青なのにこっちの方が黒い
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青毛 ウマ娘にいないレアな真っ黒
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栃栗毛 こっちもレアだけどウマ娘にはいる
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白毛 超レア
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お前にレインボー