ようこそ恋愛に目覚めた綾小路がいる教室へ   作:炉鈴

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物語とは時に真実と、ほんの少しの嘘で出来ている。

 

 

 

 

 

 

 

勉学で生徒の実力を図る。こと高度育成高等学校においてもそれは変わらないようで、段々とクラス分けの理由をオレたちが把握している頃には雰囲気が若干と変化していた。

 

不穏とまではいかない空気。特にCクラス付近の生徒は素行の荒いだとか、Bクラスは仲良しこよしで微温湯(ぬるまゆ)に浸かっているクラスだとか。先日坂柳と交わしていたチャットの内容を今になって思い出す。

 

恐らく、そう遠くもないうちにポイントの奪い合いが始まるのは誰しもが知るところ。Aクラスは現状トップに立っているものの、足下を掬われないとは限らない。

最も近いものでいえば中間テストか。そこへと注力するのは当然として、オレもまた勉強に励むつもりでいた。所謂学生がやりそうな勉強会ってやつだ。

 

 

「ここは⋯問題なさそうか」

 

 

シャーペンが紙を突く。その光景を眼前に捉え、時刻は十時を回ろうとしていた。

 

五月後半に控える中間テスト。内容としては入学から今に至るまでの授業を真面目に取り組んでいれば問題ない範囲が含まれており、然程難しくもない内容だと個人的に思っている。

 

だが、念には念を。オレ以外の人間でもそう考えているやつは多く、テスト範囲が発表されてからは教室内でも一層勉学に取り組む生徒が増えた印象だ。少なくともAクラスは、だが。

 

 

「⋯綾小路、この部分をもう少し教えてくれない?」

 

 

場所はオレの部屋、しかも目の前には神室。当然この部屋には二人だけがいる訳で、自ずと微かな緊張感が背を撫でていた。

神室の態度からして中間には力を入れることだろう。それはノートに向ける顔付きで分かっているし、オレも教える側としては手を抜かない。

 

とはいえ、だ。今の状況で言えば美少女と二人だけ、これは紛れもなくオレの高揚感を煽るシチュエーション。普段はツンとして人を寄せ付けない雰囲気な神室と中々に近い距離で接しているのだから、心を鎮めるにも苦労するというものだろう。

 

 

「基礎は完璧だ。だが、数式を型に当て嵌めすぎている。シンプルに数値を入れてみてくれ」

 

「⋯こう?」

 

「ああ、そんな感じだ」

 

 

テーブル越しに対面した構図であっても身体的な距離が近いことには変わりない。ノートを覗き込むにしても多少は身を乗り出すことはあって、その度にオレの好奇心は擽られる。

 

 

「神室は飲み込みが早いな。授業にも真摯に向き合っているし、これじゃ教師役のオレがお役御免になりそうだ」

 

「そんな事ないわよ。⋯あんたがいるから真面目にしてるだけ」

 

「⋯そうか」

 

「⋯⋯そうよ」

 

 

筆先を止めて伝わるのは何とも言い難い心地好さと、それでいて照れを孕んだ声色だ。オレがいるからとさも当たり前に言うものだから、ついギャルゲーの主人公らしくドキリとしてしまいかねない。

 

 

「ありがとう⋯って言えばいいのか?何にせよ、こうして人に教えるのは自分の復習にもなる。素直に助かるな」

 

 

中間テストは五月の後ろに控えていて、凡そ二週間程度の猶予がある。一般的な授業の内容を振り返ることは個人でも容易いが、オレとしては意欲のある相手に教えることが楽しい。プロテジェ効果を存分に発揮している状態とも言えるか。

 

 

「あと少し進めたら終わりにするか。時間も時間だしな」

 

「⋯もうこんな時間?早いものね」

 

「そうだな。始めたのが六時辺りと考えれば⋯互いに集中していたらしい」

 

「そっか。⋯終わっちゃうんだ」

 

 

一息つこうにも時間は十時を回っている実情。オレは端末の時刻を眺めながら神室へと意識を割き、惜しむ感情を押し殺して提案を口にする。

願わくばもう少し神室と時間を共有したかった。とはいえ、中間までは勉強会を開催する暇もあるだろう。まだ望ましい展開が控えている反面、引き留めるのは野暮にも思う。

 

制服姿のヒロインと二人きりの部屋。ワンルームほどの広さに互いの指先が触れても可笑しくない間隔で、まさにラノベ的な光景。

 

オレは柄にもなく強欲になっていた。正確には神室に対して、より深く形容しがたい感情を抱いているのは確かだ。でなければこういったシチュエーションに期待を煽られることはないし、引き留めるなんて選択肢も浮かばない。

 

 

「⋯欲張りだな、オレは」

 

 

微かにだけ零れる独り言を吐き捨て、オレは迷いを瞳に宿す。対して神室は何処か寂しげに目線をノートへ向け、静かに呼吸をする。部屋に響くのはそんな無言でも居心地が良い、言葉すらない時が流れていた。

欲張り─────ああ、その通りだ。オレという人間がエゴを獲得して、己が内に秘める感情を発露させてしまう。

 

もしも恋愛という曖昧で未知数な単語を知ろうとしなければ。オレはきっと、この感情を抱くことはなかった。あの男が作り上げた最高傑作たる道具は予想に反して人間味を会得する。

だが、それでこそ人の生だ。敷かれたレールを辿る、そんなものに意味を見出すことはない。

 

何のために学生として過ごすのか?その問いに対する答えなど、とっくに知れている。

 

 

「神室。晩御飯、食べていくか」

 

「⋯食べる」

 

 

オレは神室の顔色を覗き込み、また一歩踏み出す。思考の間にどうやら無意識か彼女の手を掴んでいたらしく、手のひらからは熱が伝った。

 

しかし、この行為が拒まれることはない。神室もまた嬉しそうに口角を緩め、惚れ惚れとしてしまう微笑みを浮かべていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

//////////

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五月も中盤。クラス内の雰囲気は表面上変わらないようにも見えるが、視界を広げてみれば中間への努力を怠らない生徒が多く、放課後は勉強に努めるクラスメイトが多い印象を受けた。

かくいうオレもその中に入っている訳で、昨夜も遅くまで神室との二人だけ勉強会でオレ得っていうものを体感していたんだが。やはり、念には念を詰めておく必要があるな。

 

もしもこの学校が普通ならば心配はなかっただろう。が、ポイントと呼ばれる独自のシステムがあれば話はまた違う。 クラスポイントの変動から始まり、プライベートポイントまで個人の生活に直結する。安易な考えは身を滅ぼすことだ。

 

 

「⋯そうだな」

 

 

担任の真嶋先生は言っていた。全ての用途においてポイントは使える、と。他人へのポイント譲渡が出来ることを鑑みると、自ずと答えは導き出される。

 

今回、オレがどのように立ち回るべきかがはっきりと見えてきた。

 

 

「⋯坂柳。今回では決着をつけられないんじゃないか?」

 

「奇遇ですね。私もそう考えていたところです」

 

 

自然と席の真横に立っていた坂柳に驚くこともなく一言を告げ、上目になる形で目線を注ぐ。オレたちにとって勝負の意味も込めた中間、満点に肉薄する可能性が他の生徒も高まることは嬉しい反面、どちらがより際立って優秀かが分かりにくくなる。

例えばオレが満点で、坂柳が満点より二点だけ減点されていたとしよう。二者間の視点で見れば勝敗を決めるのに十分な判断材料だが、他者から見た視点ではたかが二点の差。クラス内のボーダーラインが高いことも含めればどちらも頭がいい、くらいな結論に終わるはずだ。

 

オレはクラスのリーダーになるつもりはない。誰かに優秀さを知ってほしいとか、そういうものは無用の長物。しかし坂柳からしてみれば、クラスの舵取りをする手前で他の生徒とは一線を画した頭脳を証明する必要性が出てくる。

 

 

「確かに⋯私と綾小路くんの考えている案を実行した場合、クラス内の平均点は跳ね上がるでしょう。当然、九十点台も視野に入ることは想像に難くない。私が如何に優秀かを皆さんに示すには少々物足りなくなってしまいますね」

 

「とはいえ、現状でいえばクラスの派閥⋯だったか。それは坂柳が優勢だ。このまま行っても葛城を圧倒できるんじゃないか?」

 

「綾小路くんに協力していただければ⋯ええ、すぐにでもクラスを手中に収めることは叶いますよ」

 

「必要とあらば手を貸す。坂柳は大事な幼馴染だからな」

 

「まあ、それはそれは⋯真澄さんに聞かれればさぞ嫉妬されてしまうお言葉で」

 

 

くすくすと乙女らしく笑いを溢す坂柳は、オレからみても上機嫌な雰囲気を漂わせていた。今は放課後に突入しクラス内に残る生徒も疎ら。普段は神室と行動しているオレではあるが、昨日の間に放課後は部活だからと断りが入っていたのを振り返る。

まあ、ちょうど坂柳と話がしたいと思っていたからな。こうして二人で雑談でも交わせるのは好都合だ。実際、坂柳は機嫌が良い。

 

だが、幼馴染系ヒロインをここで侮るのは間抜けのすること。もしもここで神室の名前をオレから出したら最後、教室であっても坂柳はボディランゲージで身を寄せる未来が待っている。

 

オレは学習した。異性の前で別の人間の名を口にしてはならない、と。

 

 

「勝負自体は持ち越しか。期末あたりでも問題はない気がするが」

 

「そうですね⋯では、そのように。決して焦るほどの事ではありませんから。勿論、真澄さんへのアプローチは控えます」

 

「助かる。⋯まあ、ひとまずは地盤を固めたらどうだ?」

 

「ええ。現状で言えばクラス内でも三分の一は私の駒⋯ではなく、友人です。機会を見て仲を深めるとしましょう」

 

 

Aクラスでは坂柳と葛城がリーダーとなりつつある。坂柳は合理性、葛城は人情。オレとしてはどちらも必要な存在だとは思うが、いざクラスの意志を統一する場面があれば真っ二つに意見が割れる可能性も危惧されるはずだ。

今のうちに障害を取り除く。手遅れになる前に、と先手を打つのは坂柳らしい。それに、学年でも見ても特に美少女なヒロインかつ知略と頭脳が秀でた生徒に身を委ねるのは判断として正しいことだな。内に流れる思考は問わず、だが。

 

 

「では、参りましょう。まずは手始めに⋯ええ、クラスメイトの皆さんから寄せられる信頼をより強固にせねば」

 

 

仰々しい態度で片手を差し出した坂柳は、人目があろうと己が行動を律しない。既にオレは彼女とそれなりの仲だとは自負しているが、手を取るなんて行動に出てしまえば坂柳の派閥に加わったと思われることは必至か。

ただ、まあ。葛城のように人情が熱い男も嫌いではないが、オレの性格上どちらに協力する旨みがあるかと言えば坂柳だ。

 

思考回路、容赦なく他を蹴落とす覚悟があるか。今後の学校生活では判断を鈍らせれば最後、築いてきた地位は呆気なく堕ちる。

 

オレは暫く思案した後、ゆっくりと坂柳の手を取って立ち上がった。そんな行動に好印象を受けたのか彼女は明らかに喜び一色の顔色で、片手を柔く掴んで離さずにいる。

 

 

「⋯もう離してもいいんじゃないか?」

 

 

立ち上がって数十秒経つというのに、一向にオレの手は解放される様子を見せない。

 

 

「駄目です。真澄さんが居ない今、私が綾小路くんの隣を独占する。⋯不公平を正すだけですよ」

 

「それにしては方法がストレート過ぎるがな」

 

「良いではありませんか。こうして親密な立ち位置に居ることをアピールする、となれば⋯後の()()が円滑に進められます」

 

「⋯そういうことにしておく。が、せめて腕を掴む程度にしてくれ。その方が支えられるだろ」

 

 

このままでは平行線だ。オレが何と言おうが坂柳は離れないだろうし、妥協案として腕を貸すことにした。先天性なもので歩行を補助する、役割としてそう他者に見えていれば問題ない。

 

ただ、坂柳は分かっているんだろうか。銀髪の美少女に腕を貸す、そんな男の心情が。

 

 

「⋯⋯なあ、坂柳」

 

「なんですか、綾小路くん」

 

「⋯いや、なんでもない」

 

 

教室から去る時には既に腕は占拠され、さながらエスコートでもしている気分になる。当然他の生徒たちはオレたちへ視線を注いでいるし何とも言えない気分だが。

確か、女性のエスコートを務めることこそ男の役割⋯だったか。ラノベで読んでいた内容として主人公が学校内でイチャコラするシーンを振り返り、いざ当事者となってみるとむず痒い感覚に陥る。

 

まあ、悪い気はしないな。坂柳は誰が見ても可愛らしい、オレからしても幼馴染系ヒロインに変わりない。

 

そんな上機嫌な坂柳を余所に、オレは廊下を歩いて目的地へと向かっていく。場所は当然─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

//////////

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯お前たちか。待っていたぞ」

 

 

黒髪、眼鏡を掛けた男。その隣には警戒するように注意を向ける紫髪の団子ヘアーな女子がおり、ここが目的の場所であることを再確認する。

本来なら無縁だった場所。学校であれば必ず存在する自治組織、ラノベやアニメで幾度となく題材とされてきた生徒会室だ。

 

堀北学、隣は橘茜。生徒会長と書記の二人を前に緊張は多少あるものの、威圧で臆することはない。勿論、隣で同様に片腕を絡める坂柳も。

 

オレたちの目的とする場所は初めから生徒会室だった。アポを取ったのは今朝のこと、急な頼みなのはオレも承知の上で今日の放課後を指定したが─────

 

 

「⋯その顔、意外だと思っているようだな」

 

 

すかさずオレの心中を察したように堀北は口を開き、オレは平然と目線を合わせる。

 

 

「ええ、まぁ。()()が教師に話を通したのが今朝のことですし、本来なら数日後になるとは考えてましたね」

 

「本来であれば、な。だが、お前たちは直近で中間試験を控えているだろう。聡明な者であれば必ず辿り着く⋯そう確信していた」

 

「オレと有栖が他の上級生を頼るとは考えなかったんですか?」

 

「当然、想定の範囲内だ。しかし、聡明であればある程に口実としての建前を付け、上との接点を持つ。その可能性を持っていただけのこと」

 

 

過分な褒め言葉だな。オレは隣にいる坂柳にも視線を配り、彼女からも瞬きと微笑みで主導権を譲られた為に会話を続ける。ただ、あの書記に見せつけるように頬を腕へと擦り付けるのは辞めてほしい。すごい見てるぞ、書記の先輩が。あわあわ⋯って表現が正しいかもしれない。

 

 

「さすがは生徒会長ですね。オレがもしB以下のクラスであれば、食堂なんかに赴いてポイントが無さそうな上級生に声を掛けたかもしれない。まあ⋯そちらの予想通り、今回は顔を知ってもらうついでに訪問させてもらいました。オレは有栖のついでです」

 

「⋯素直に打ち明けるとはな」

 

「今更隠しても仕方がないでしょう。あんたはこの学校の中でも特に優秀だ」

 

「成程。⋯綾小路清隆、だったか。存外に面白い性格をしているようだ」

 

「それは褒めてるんですか?」

 

「無論だ。とはいえ⋯そろそろ橘を動揺させるスキンシップは控えてもらえると助かる」

 

 

どうやら堀北も気付いていたらしい。オレは坂柳に一瞬視線を注いで過度なスキンシップを控えてもらうべく無言の意図を伝えた。ただ、それを理解してもなおぴたりとオレの腕に抱きついて離れることはなく、愉快そうな声色で坂柳は生徒会長へ瞳を向ける。

 

 

「これはこれは⋯どうやらお巫山戯が過ぎたようです。申し訳ありません、堀北生徒会長?」

 

「いや、構わない。お前たちの交友関係にとやかくと口を出すつもりはないからな」

 

「ふふ、あなたはお噂通りの方なようで安心しました。⋯では、戯れはここまでに。早速私たちからお話しましょう」

 

 

坂柳。もう少し控えめに行けないのかとツッコミをする暇がないまま、オレは目的の一つを話すことにした。

 

 

「聞こう。話すといい」

 

「では、遠慮なく。単刀直入に言いましょう。────堀北生徒会長、あなたの持っている一学期中間の過去問をオレたちに譲ってください」

 

 

堂々とした提案。あくまでオレたちが来訪者であると言うのに、一切の緊張なく対等な取引を持ちかける。

今回、オレと坂柳が生徒会室に来た目的の一つはこれだ。高度育成高等学校で行われる試験、今でいえば中間の過去問か。此処ではあらゆるものがポイントで買えると聞いた日から、薄々とこの案は隅にあった。

 

薄々というのは単純で、オレにとっては過去問なんて必要がない代物だからこそだ。だが、これはあくまでオレ個人に限った話。神室やその他生徒からの視点ではまた違ってくる。

 

過去問とは所謂既出の問題。傾向としてどのような問題が出題されるか、その流れを把握するだけでもテストは楽になっていく。学力の基礎を固めるにも十分な役割は果たすことだろう。しかし、凡そこの学校でそんな在り来りな常識は通っていないことは理解している。

 

 

「ほう。⋯それで、お前たちはその過去問にいくら払う?」

 

 

オレはこの返答を聞いて確信した。過去問のやり取りは決して珍しいものでは無い、と。仮にオレの提案がイレギュラーであれば真っ向から支払えるポイントを聞いたりはしない。

坂柳と共に生徒会長をターゲットにしたのはこれが理由だ。最もこの学校を熟知している生徒、円滑に取引を行う相手としてこれほどの適任は居ない。

 

 

「いくらでも、と言いたいところですけどね。生憎とオレたちは入学してひと月しか経ってません」

 

「把握している」

 

「その上での提案です。中間の教科ごとに5000ptを支払います」

 

「足りないな。教科ごとに1万5000で手を打とう」

 

「高すぎますね。6000でどうですか」

 

「低すぎる。他の生徒ならともかく、俺の過去問が目的であればもう少し値段を上げてもらおう」

 

「⋯そうですね」

 

 

中間は五教科、国数英理社からなる教科だ。オレたちは一学年でも各々がプライベートポイントに余裕のあるクラスだが、一教科に一万以上を払うのは割に合わない。

このまま堀北と交渉を続けても良いが────まあ、下準備は整っただろう。

 

 

「どうやらオレだと厳しいようですね。なので、ここはバトンを有栖に渡すことにしますよ」

 

「⋯ほう?」

 

 

オレからの一言を聞いた坂柳は、目配せして主導権を握った。相変わらず腕は掴んだままなのは隅においておくとして。

どうやらこの言葉が含む意味を堀北は理解したらしい。口角が吊り上がっている様子を見るに、予想通りか。

 

 

「このまま過去問を得られないままだと⋯最悪の場合、退学者が出てしまいます。はてさて、一体どうしたものでしょうか」

 

「困ったな。このままだとオレたちはすぐさまBに落ちるかもしれない」

 

「本当に困りました⋯不安です、()()くん」

 

 

オレたちから見ればとんだ茶番にしか見えないが、この演技はただ一人に宛てたもの。普段通りな態度で芝居を打つことがオレの役目だ。

 

 

「悪いな。やっと()()()の有栖と再会できたのに、もう別れの時が近いらしい」

 

 

当然、嘘八百だ。オレたちが中間程度で退学なんて天地がひっくり返ってもありえない。ひとまず、ここは幼馴染であることを強調しておく。

 

 

「そんな⋯まだ、私からお伝えした()()のお返事もいただいていないのに⋯」

 

 

これも嘘だ。そも告白なんてされていないし、オレたちは友人である。────告白、されていないよな。

 

 

「お別れなんて嫌です、清隆くんっ⋯」

 

「ああ、そうだな。オレも有栖と別れるのは避けたいところだ」

 

 

敢えて下の名前で呼び合うことで親密さをアピール。オレたちの密着具合からも中々に良い線を行っているんじゃないか?

堀北は興味深くオレたちを観察しているし、隣の橘に至っては明らかに感動している様子。さすがに涙まで溜まっているとは思わなかったが、結果として良い方向に働くだろう。

 

準備は終わった。あとは、坂柳の一言を待つ。

 

オレは互いの仲を見せつけるように敢えて大胆さを際立たせるべく、微かに身を寄せる。それを合図として坂柳は口端を吊り上げ、当初の目的通り彼女へと意識を割いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「このままでは意中の幼馴染と離れ離れになってしまいます。ですから、どうか私たちを助けると思って過去問を譲ってくださいませんか───────()()さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 








坂柳さんは演技もいけそう。



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