パンチュ•パカブラ   作:ヤングコーン

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全ての黒幕は大佐だった。だから俺は彼に真意を確かめる。


13話 大佐の戦争

「会えて嬉しいぞ、カブラン」

 

「できる事ならこんな所で会いたくなかった。思い違いだと信じたかった。でもあんたなんだな、大佐」

 

俺はマチェットナイフを構える。大佐は構えない。

 

「カブラン、別に私は君と戦いたい訳じゃない。話がしたいんだ。元々、君はもっとスムーズにここに来る手はずだった」

 

「人をミサイルで撃ち落としておいてよくそんな事が言えたな」

 

「思うとも。そうじゃなければ君は今頃死んでる。ミサイルで爆撃された時に1回。下水道で2回。でも君は死んでない」

 

分かっていたがやはり下水道で俺を落としたのは大佐だったか。

 

「最初の計画が失敗したのは私達が君を殺す気だと勘違いしたロレッタが、ミサイルの誘導を妨害したためだ。あれで狙いが外れた。君が生きていたのはむしろ幸運だった。君達がここを目指している事が分かれば、後は泳がせておくだけだった」

 

墜落予定地から離れた場所で墜落した俺を大佐は追って来た。しかし、ジェーンと交信してその場を離れていたため俺とは会えなかった。ミサイルを妨害し、紙袋を置きに近くまで来ていたジェーンが自動操縦の車で大学に帰る所を大佐は見ていた。

 

その後、ジェーンの動向を観察していた大佐は俺とジェーンが通じて大学まで宇宙船の修理のためのパーツを取りに来ていることを知った。そこでミランダと大佐は俺達の作戦に乗っかる事にしたのだ。

 

大学内で警備が薄かったのは大佐が大学でボヤ騒ぎを起こして陽動していたからだった様だ。

 

「どうしてそんな回りくどい事を…」

 

「地球人との接触は越権行為にあたる。この星で誰にも邪魔されず君と接触するためには仕方がなかった」

 

「カーグの事も仕方がなかったで済ませるつもりか?」

 

「彼の事は残念だった」

 

「地球人との接触、科学技術の供与、カーグや俺への敵対行為。何が目的なんだ、どうしてこんな事を!」

 

「パンチュパカブラは地球を友好星だと思っていない。敵対星だとも思っていない。暫定、調査対象星として下に見ているだけだ。私はね、カブラン。この星が我々にとって脅威となる星だと国民に知らしめようと思っているのだ」

 

地球が俺達に対して敵対行為を行った事実はない。少なくとも俺の権限で知る範囲では存在しない。非常に稀な陰謀論やフィクションでそういいう作品があるぐらいだ。彼が何を言っているのか分からなかった。

 

大佐は俺に背を向けて宇宙船のフレームに触れる。

 

「君の考えてることは正しいよカブラン。確かに地球人が我々に対して敵対行為を行った事実は今の所ない。彼らにとって我々は未だに都市伝説の類だ」

 

「じゃあどうして!」

 

「我が国の国防費の削減、軍縮政策に警鐘を鳴らすためだよ」

 

「戦争が終わって40年が経つ。戦争もしないのに国の予算を大きく削ってまで国防費を保つ必要はないだろう。戦争は終わったんだ大佐」

 

「骨を抜かれ平和に酔った国民達が、厭戦感情からそう思いたいだけだ。大きな面をしてふんぞり返る先進国を好ましく思わない過激な選民思想を持つ発展途上国が力を蓄えている事実を知らない」

 

大佐の言っている発展途上国は必ずしも大きな国を言っている訳じゃない。国土は小さくとも非常に強大な軍事力を持った国がいくつかある。国際問題を積極的に起こす国もあるし、それを懸念しての事だろう。

 

貧困が争いの種になる。だから、争いの元を断つために星全体の生活水準を高めるために様々な活動がされている。銃口を向け合う他に戦いを止める方法はあるはずだ。

 

「平和はパワーバランスの均衡でのみ保たれる。三竦みの状態をいかにして保つかだ。政治屋の蔓延る国会は酷いものだ。国庫と国民を食い潰し私腹を肥やすことにしか興味がない。賄賂にハニートラップで弱みを握られた売国共が偉そうに軍縮を謳う。あんなに多くの私兵を抱えてよく言えたものだ」

 

「軍縮は賛成だがあのダブスタは酷い」

 

軍部の内から出たクーデターで大勢の政治家が死んでいる。彼らにとって軍と言うのは首元に突き付けられたナイフのようなものなんだろう。弱みを握られて…と言うのもあるんだろうが、単純に自分達にとって脅威になりえる勢力に力を与えたく無い考えもあるんだろう。

 

「狡兎死して走狗烹らる。国民を裏切った政治屋は、国を乗っ取られた後に始末される末路を辿る。それは自業自得だ。しかしそんな政治屋と心中させられる国民はどうだ。私達はどうだ。武力に物を言わせて先進国を屠った民族主義の国々が、戦前の様な国を作る。そうならないために、私は国民に意識改革を行わなければならん」

 

「地球を仮想敵星とする事でか?」

 

「小市民はセンセーショナルなニュースが好きだ。未知の多い地球を仮想敵星にする方が国民の関心を寄せやすく、世論を動かしやすい」

 

「ジェーンは、ミランダは、地球人はどうなる」

 

「極力戦争は避けるが、事と次第によっては戦争も止むを得まい。宇宙国際法観点から考え、戦争を仕掛けたのが地球にすればこの星を我々の統治下におくのも難しい話じゃない」

 

パンチュパカブラは地球人の権利なんて上辺以上に対して考えていない。戦争になれば無力化させる事を建前に母星では使えないような兵器も使用するだろう。そうなれば俺達はこれからずっと、長い間憎み合う事になる。

 

ジェーンも、ミランダも、漁火も、虚も、ミーシャも、ソロルも…今みたいな関係は保てなくなる。その戦争の火を、大佐が点けようとしている。

 

「ここで大佐が死ねば、地球との戦争は確実に避けられる」

 

俺は今頭に被っているパンツを脱ぎ、新しいジェーンのパンツに被り直す。激しい運動で脱げ落ちない様に、ソロルのパンツを更に上に被った。

 

「そうか…残念だ」

 

俺は踏み込んで斬りかかる。大佐は半身反らして避けると俺の腕を捻って床に転がす。そこにナイフを振り下ろして来た大佐の胸部を両足で蹴って突き飛ばした。立ち上がり、大佐とナイフで斬り合う。

 

お互いに知っている技で争う。熟練度で言えばやはり大佐が上だ。だが俺には若さがある。技量面はバイタリティで、瞬発力で補う。

 

「お前も知っての通り、ノーティアスは地球を狙っている。ゆくゆくは我々の母星もだ。だが我々も未だにノーティアスの母星を発見できていない。心苦しいが、今はこれが最善なのだ。真に平和を望むのなら、戦に備えねば」

 

「平和を守るための手段が戦争しかないなんて考えがそもそも間違っている!」

 

「今しがた平和を護る手段として私と戦っている貴様に言えた事か?」

 

回避が遅れた大佐の隙を突いて斬りつける。鎖骨から胸部にかけて肌を裂いた。しかし反撃を受け左手首が斬られた。お互いに傷は浅い。

 

激しい攻防がお互いの体力を消耗する。疲れが少しずつお互いに作る傷を増やす。

 

「大佐!俺は…!あなたを本当の親の様に慕っていた、両親と同じように…」

 

「お前はゆくゆくのノーティアスとの戦いのために持ち帰ったモルモットだった。採取させてもらった細胞から、ノーティアスの地で戦うための準備は進んでいる。お前はもう不要だった」

 

大佐の放った鋭い突きが迫る。俺はそれを左腕で受け止めた。彼のナイフが腕に深々と突き刺さる。俺は痛みをこらえてナイフが抜けないように力を込めた。そして半身を引き右手に握ったマチェットナイフに力を籠める。

 

「だがな…愚直で、呆れるほど優しくて、不器用なお前が本当の息子みたいに思えた。こんなに辛い思いをするのなら、情が移る前にお前を殺しておくんだった…」

 

俺はそのまま彼の胸部にマチェットナイフを突き刺した。

 

俺の頭に大佐との思い出が蘇る。軍務に就く前から両親の元に時々訪れていた。その度に面白い話をしてくれて、遠い国のお土産を持って来てくれたりした。おじさん、おじさんと言って慕っていた。

 

俺の国は一定年齢になると軍務に就く義務がある。だから嫌々ながら兵役に服していた。運動能力はパッとしない。頭もそれほど良くない。虐められて馬鹿にされた時期もあった。大佐は俺の事を気にかけてくれて、夜遅くにこっそり格闘術を仕込んだり勉強を教えてくれたりした。おかげで翌日の訓練は非常に辛かったが。

 

時間はかかったが大佐の手ほどきもあって才能が開花していった。暴徒鎮圧や災害での救援活動、要人を護ったり、孤立無援になった隊を救いつつ作戦を完遂したりした。多くは他の仲間の協力あってこそで俺のやった事は大した事ないはずなのだが、俺は評価された。

 

階級が上がったら真っ先に祝ってくれた。家でお祝いをすると聞いたら、任務からの帰りで空から落下傘でやって来た事もある。やはり後日上からお叱りを受けたらしいが、俺にとっては最高に刺激的な人だった。

 

俺は倒れる大佐を抱きかかえる。

 

「タベルおじさん……」

 

「カブラン…戦いは避けられない。戦争は、自然災害と同じように…起こるべくして起こる事なのだ。ちょうど今の私とお前の様に…」

 

彼は咳き込んだ。血が飛び散る。

 

「おお…神よ、叶うのなら、世を太平に導いてくれ…」

 

大佐はそう言って事切れた。

 




パンツの話を書いてた事は何となく覚えてるんですよ、えぇ。
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