「はぁ…はぁ…やめろ、助けてくれ…」
「カブラン君?大丈夫、カブラン君?」
「やめろ、やめてくれ!そいつを俺に近付けないでくれ!!」
「カブラン君!!」
ジェーンの声で夢から覚めた。俺は辺りを確認する。そうだ、そう言えば俺はカーグを探しに地球に来てて墜落し、そして修理パーツを貰いに地球で行動していた。漁火からもらったパンツもあり呼吸器に余裕ができたから仮眠を取っていたんだった。
久しぶりに見た悪夢は、どうやらジェーンのパンツが呼吸器として使える時間の限界が来ていて息苦しくなっていたからかもしれない。俺は漁火のパンツを被る。
墜落して2日目になる。地球での捜索や調査はどうしても長時間になり、下手に通信を傍受される様な事が無い様に不用意に連絡しない様に言われているので本部との連絡を取らずに行う事も多い。俺の異常を察して探しに来るのは期待できない。今はやることをやるだけか…。
「すまないジェーン。大丈夫だ。仮眠を取っていたら悪夢にうなされただけだ」
「無事で良かった。何かあったのかと思ったよ。酷くうなされてたようだけど、大丈夫?」
「君の声を聞いたら元気が出た。問題ない」
それから俺は地図で最終目的地を確認する。場所は聖ブディング大学。距離は16km程。普通に向かえば徒歩でも3時間ちょっとで着きそうなものだが、見つからない様にとなると話は別だ。
俺は具体的なルートをジェーンと相談する。
「聖ブディング大学へ向かうにはまずカラメル町を越えないと。まず生チョコ山を下り、広い道に出るまで真っ直ぐ進む。そこからは道沿いに隣の森から町へ向かう。森は途中で途切れているから、そこから町へ向かうまでどうやって人に発見されずに向かうかが問題だね」
「まずは山を下って森へ向かう」
この辺りに住んでいる住民は生活用品を買いに出かけるのも一苦労だな。そう思いながら点々とある家を見ながら森を下って行く。麓まで来ると辺りは水田ばかりで隠れられそうなものはあまりなかった。人通りは殆どないが、真ん中を歩いて行くには目立ちすぎる。
俺はどこか隠れながら広い道に出るまでの経路を考える。
「カブラン君、その辺りに着用できそうな服を着た案山子はないかな?」
俺は辺りを確認する。確かに水田の周りにはいくつか服を着せられた案山子がある。サイズも大きめだった。
「これをどうするんだ?」
「着るんだ」
「見てくれは多少マシになるかもしれないが…人間を欺けるか?」
「遠くから見る分にはそこまで怪しまれないはずだよ」
服を着て肌を隠すと言うのはまるで自分の体に自身がないと告白して回るような気分になりあまり気分のいい物ではないが、ここではそう言っていられない。俺は仕方なく当たりの案山子を一本引き抜き服を着た。
背中のトゲのせいで着づらい。気に入っているので切りたくはないが、どうせ生えて来るからと割り切って爪で切った。母星に帰ったら笑われるだろうな…。
「服を着た。俺の国にも服を着る奴がいるが、実際に着てみてもどこがいいのか良く分からないな」
「慣れれば意外といいものかもしれないよ?」
出来れば慣れたくない。
俺は挙動不審にならない様に出来るだけ自然な動きを心掛けながら周りに気をつけつつ、足をあまり上げない様にして広い道を目指した。
広い道に到着すると道に沿って森側を歩く。森の中を歩くのなら服を着ていた方が目立つ。俺は服を脱ぐと、もう使う機会はないだろうと判断して辺りに捨てた。
それからしばらく歩いていると少し前に隣を通った大型トラックが止まっているのが見えた。運転手は自販機で何かを買っている。地図で確認すればここから先は町の近くまでは細い道ばかりでこのサイズのトラックが通れそうな曲がり道がない。俺は大型トラックの下に入り込めそうなスペースを確認すると運転手が席に乗り込むまでに下に張り付いた。
俺は状況を報告し、町に向かう問題はひとまず解決したと伝えた。
「後はどうやって人目に付かずに降りるかだな」
「今、君が向かっているカラメル町は観光地として賑わっている場所以外は閑散としていて人も少ない。一応、君の位置情報を見ながら良さげな場所があれば教えるよ」
後は根気強く張り付きながら町まで待った。時間が空いたので気になる事をジェーンと話す事にした。
「…カーグは生きているのか?」
ジェーンは無言のまま言葉を返さない。
「分かった。今の質問は忘れてくれ」
「ごめん…。ちゃんと答えるから、もう少しだけ待って欲しい」
知らない訳ではないようだ。しかし、声のトーンといいあまり良い状態は期待できそうにない。無駄かもしれないが、彼の無事を祈った。
「もう1つ質問がある。宇宙船のパーツがどうして大学にあるんだ?」
「君の想像通りだよ。カーグの乗ってた宇宙船が今大学にあるんだ。ミランダって言う教授が学会に発表するために保管してる」
それを聞いたらタベル大佐が黙ってないだろうな…。俺は少し頭痛がした。
「カーグの通信機で連絡して来た事といい、君との手引きでそのパーツが得られる事といい、君はミランダ教授の助手か何かなのか?」
「そうだね、そんな所」
「異星の機械の使い方良く分かったな。カーグが教えたのか?」
ジェーンは再び黙る。やはり答えられないらしい。話しを真に受けるのであれば、ジェーンは教授の許可なく宇宙船のパーツを俺に渡すつもりらしい。その動機は宇宙国際問題にならないためだとかなんだとか。
これがもし罠だとしたら、ミランダ教授のためにジェーンは俺を騙そうとしている事になる。政府関係者じゃないのなら、大掛かりな罠で俺を捕らえるような真似はできない。昨日俺を捕らえに来なかった事も納得が行く。
…どの道、生きるためにはもう前に進むしかない。
お互いに黙ったままどのぐらい経っただろうか。町中に入った様でトラックは止まったり進んだりしている。トラックの下からでは見える範囲は非常に狭く判断しづらい。やがて駐車スペースらしい場所に止めると運転手は席を降りてどこかへ行った。
一度地面に降り、地面に這う様な低姿勢のまま辺りを確認する。
「その辺りならいい場所を知ってるよ。私の案内に従って移動して欲しい」
「分かった」
ジェーンはこの辺りに来る事があるらしく、まるで傍にいるように案内してくれた。車は通るし人もいる。だが、隠れながら移動するのはそこまで難しくはなかった。やがてシャッター通りに着いた。
人気は無いが隠れる場所もない。ジェーンは何でこんな場所に俺を連れて来たんだ??
「本当にこんな所を歩いてて大丈夫か?」
「一応物音には気を付けて。それから…」
絵が送られて来た。
「この看板が見えたら中に入って。そこにミーシャって言う私の友達がいるんだけど、金さえ払えば何も聞かずに商品を渡してくれる。ドアをノックしたら質問の文脈に関わらず『レプタイル』と答えるんだ」
「この星の通貨は持ってないが」
「話は通してある。私が後で払うから好きな物を買っていい。でも、さすがにパンツは売ってないし本人に交渉するのはやめて欲しい」
「今の所、それが一番欲しいんだが…」
「分かった。そこまで言うなら止めない。君の命に関わる事だしね」
それを聞けて良かった。俺は安心して目的地を目指す。
更に奥に進むとジェーンの書いた絵に似た看板があった。それを写真を撮って送り確認を取ってから玄関に進む。ドアには閉店しましたの貼り紙がしてある。俺はドアをノックした。少ししてから中から声が聞こえる。
「どちら様でしょうか」
「レプタイル」
「どうぞお入りください」
ピッと言う音がしてドアが開いた。中は人を接待するような机やソファがあったが、上には商品らしいものが沢山置いてあった。先ほどの声の主が見当たらない。中に入ると、入り口から左側の床に、灰色の髪の女性がシートを敷いて寝そべっていた。
「いらっしゃいませ、カブラン様。えっと…ジェーンより話は聞いております。どうぞご自由にお選びください」